気がつけばデジタルワールド!?   作:望夢

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取り敢えず原作介入は次回からとなります。話の切りどころが見つからなくて困るんだぜ。


第10話 陽の出の幻

 

 月明かりのした。川を相変わらす遡っていくと、漸く森の終わりが見えた。

 

「やっと森が終わるのね……。今日はそろそろ野宿?」

 

「いや。まだファイル島が割れていないから先に進みたいけど」

 

 ようやく迷わすの森を抜けられた。このしばらく先を行けば始まりの街に辿り着けるはずだ。

 

 空を飛べるデジモンが仲間に居ないおれたちは、ファイル島が割れてしまう前に目的地に着いていた方が良い。

 

「アニキとセリカ、急に仲良しになったよねぇ」

 

「ソウ…?」

 

「セリカもアルトも、ギルモンのともだち!」

 

「……ねぇ。『コレ』止めない?」

 

 デジモンたちの話を聞きながら、おれは芹香に申し出る。

 

「でも、アニメの話を聞かれるわけにはいかないでしょ? デビモンの目もどこにあるかわからないし」

 

「だからってねぇ……」

 

 普通に会話する分には普通にしてるけど、今のおれたちの距離はかなり近い。吐息が耳に当たるくらい。しかも芹香の頭が肩に乗ってるから重くて仕方がない。

 

 腕組んで歩いてますよ。スッゴく歩き難い。

 

「現役女子高生と腕組んで歩けるなんて、そうそうないぞー」

 

「ここがリアルワールドだったら両手を上げて喜ぶけどね」

 

 芹香の腕から離脱して、そのすぐ後ろ。最後尾を歩く。前はデジモンたちに任せて、中心にギルモンと芹香に居てもらっている。その方がいざという時に守りの展開がし易いからだ。

 

 何時何処から襲われるとも限らないから、出来るだけ腕は自由にしていたかった。

 

「ん? ちょっとタンマ」

 

「どうかしたの? 有音君」

 

 おれが立ち止まると、芹香が振り向き、デジモンたちも足を止めた。

 

「なんか……揺れてない?」

 

「え?」

 

「んー?」

 

「そっかなー?」

 

「……イヤ、ユレテル……ッ」

 

 立ち止まって揺れを感じるか訊いたところに、揺れが激しくなって、立っていられない程の地震が襲ってきた。

 

「まさか!?」

 

「ちっ、リミットか…!」

 

らまるでファイル島全体が揺れている様な地震。さらに川の対岸がどんどん離れていく。

 

「え? え? え? ウソッ!?!?」

 

 おれの座っていた場所が悪かったのか、地面が地割れの中に落ちていく。座っていた場所が切り離される陸地の繋ぎ目なんてどんな確率だよ…。

 

「ひやあああああ!!!!」

 

「有音君!! きゃあああっ!!」

 

「アニキぃーーー!!」

 

「ぎるる…、ゆれがはげしくてうごけないぃぃ」

 

「クッ……」

 

 その辺りは大体わかっている。

 

「こんのォ!!」

 

 パラディンソードを断崖に突き刺して、さらに鞘も突き刺して中ぶらりんながら事なきを得る。

 

「うわぁ……」

 

 下は絶海の海。落ちたら確実に死んでもおかしくない。

 

「くっ、揺れで、つっかえが…!」

 

 だがまだ危機は続く。

 

 激しい揺れで、突き刺した刃と鞘がぐらぐらと抜けそうになっていくのである。

 

「カードスラッシュ!!」

 

 すると上の方で芹香の声が聞こえた。何か手助けのカードを出してくれる様だ。

 

「ZEROーARMS――グラニ!!」

 

 頭上の方で赤い輝きが放たれ、その中から一筋の白い光がおれのもとにやって来た。

 

「グラニ!?」

 

 グラニとは、テイマーズに登場する人工デジモンだ。

 

 『デジモンテイマー期』という古き時代に人間によって創られたデジタル生体兵器郡のひとつである。いくつその存在が創られたかわからないが、その内の1体がグラニである。

 

 おれはグラニに飛び移ると、そのままゆっくりとグラニは上に昇っていった。

 

「ふぇぇっ。サンクス、死ぬかと思った……」

 

「それはこっちの台詞よ。心臓が止まるかと思った」

 

 グラニによって無事生還したおれは地面に尻餅を着いて盛大に溜め息を吐いた。おれの言葉に芹香も胸を撫で下ろした様に力を抜いた。

 

「でっかいなぁ……。きみもデジモンなの?」

 

「グラニ、ギルモンのともだち!」

 

「…キレイ……」

 

 デジモンたちはグラニとじゃれていた。それを見ながらおれは口を開く。

 

「にしても、グラニまで出せるとはね」

 

「咄嗟過ぎて、飛べるものって考えたらあの子しか出てこなくて。ダメだった?」

 

 怒られた子どもの様にシュンっと肩を落として、両手の人差し指をツンツンと合わせる芹香。

 

 いや、色々とごっつぁんですばい。

 

「これで少しは移動も楽になる。色んな意味で助かるよ」

 

 取り敢えずは今日はもう少し進んだ森の手前で野宿になった。

 

 余計な手荷物はグラニに乗せてあるので、少しは身が軽くなるのはありがたいことだ。まさか戦闘中に荷物を手放して、そのあと荷物が戦闘でオジャンはイヤだったので、肩から鞄を下げながら戦っていたが、やっぱり少し邪魔だった。

 

 あまり明るい光は目立つ為、小さな焚き火を囲って眠ることになった。クロを抱き枕代わりにして眠ると、ベッドがなくても快眠出来るのはありがたいことだ。クロは嫌がるけどな。おれの安眠の犠牲となってもらおう。ちなみに、アグモンとギルモンはグラニの上で寝そべって寝ている。

 

 芹香は……。

 

「すぅ…。すぅ…。すぅ…」

 

 ……おれに寄り掛かって寝てます。めちゃくちゃ無防備です。

 

 それだけ信用されているのか。いくらおれが見た目が小柄な中学生くらいだって言っても、思春期真っ盛りの男子の隣で寝られるかね普通。いや、おれは一応成人男性ですんで、本能よりも理性が打ち勝ってますわ。

 

「ありがとう……」

 

 デビドラモンとの戦いは、芹香が居てくれたから勝てた様なものだ。おれひとりじゃ危ない橋を渡るしかなかったし。時間も掛かりすぎて迷わずの森でファイル島の分離を迎えていただろう。

 

 でもまさか、パートナーのギルモンじゃなくて、人間のこっちにカードの効果が及ぶのもびっくりした。でも、自分もナイトモンの稽古の時は、デジソウルで木剣を強化していたから、おそらく同じ理屈だろう。

 

 おれたちも、生身でありながらデータの存在だということだろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「んっ……んぅん……」

 

 眠気眼の目を擦りながら、私は身体を起こす。

 

 空は薄明かるくて、もう直ぐ日の出なのを私に教えてくれた。薄く霧が出ていて、あまり周りが良く見えない。

 

 曇っている眼鏡を拭いて辺りを見回した。

 

「あれ? 有音君は……?」

 

 クロちゃんが昨日有音が寝ていた場所でコートを掛け布団代わりにして寝かされていて、私の頭があった辺りにも、チェックのポロシャツが枕代わりに置かれていた。

 

 ギルモンとアグモンはグラニの上で寝ている。有音君の姿だけない。

 

「どこ行っちゃったんだろう……?」

 

 そう遠くには行っていないとは思うけど、この霧じゃ心配にもなる。8m先が見えるかどうかの霧だった。

 

 シュンッ――

 

「え……?」

 

 目覚めてきた身体に、何かを切る様な音が聞こえた。

 

 ヒュンッ――

 

「こっち……?」

 

 音のもとが気になって私は歩き出す。

 

 薄っすらと明るい草原。でも霧の所為で良く見えない。

 

 シュンッ――、ヒュンッ――、ガッ、ザンッ、ビュンッ――

 

 近づいて行けば音も大きくなる。

 

 そう歩かないで、霧の中に動く影を見つけた。

 

 何かを振り回している様な動き。

 

 宙を斬り、飛び上がって後ろに退いて、再度地面を蹴って前に出ながら上段からの降り下ろし。

 

 素人目でも、その動きがなにかと戦っている様に見える。もしかしてデジモンが戦っているのかな。

 

 でもそれにしたらやけに静かすぎる。

 

「あっ、日の出……」

 

 お日さまが地平線から顔を出して、霧に包まれた草原を照らす。水滴に太陽の光が当たって、とても幻想的な光景が映し出された。動いていた影も、私と同じ様に太陽の方を見て動きを止めていた。

 

「え……?」

 

 其処に居たのは、有音君じゃなかった。でも有音君の持っていた剣と、同じ物を持って、太陽に向かって佇んでいた。

 

 金の縁の白い鎧を身に纏い。天使の様な一対の純白の翼を背中から生やしたデジモン――。

 

 直ぐには思い出せなかった。いや、あまりにも美しすぎて、その光景を目に焼き付け様と、思考がストップしていた。

 

「ひゃっ」

 

 ヒョウッと、海から強い風が噴いて霧を吹き飛ばし、幻想的な光景は一瞬にして風の彼方へ消えていった。

 

 冷たい風に驚いて瞑った目を開けると。其処には外側が白、内側が赤いマントを風に靡かせながら、気持ちの良さそうに風を全身で受ける有音君の姿があった。

 

「有音君……?」

 

「おっ。はよー、芹香」

 

「お、おはよう。って、有音君! 今ここに有音君の剣と同じ物を持ったデジモンが居なかった!?」

 

「朝っぱらから声がデカいって。てかコレはナイトモンが造ってくれた一点物だし。もしそうでなくても、コレを持つデジモンはおれなんかよりもバカデカいんだから気づかないわけないし。第一、居たとしたら今頃デビモンはお陀仏ーバイバイーはいそれまでよーで、ファイル島は元に戻ってるよ」

 

 寝惚けてるなよー?と、剣を鞘に納めながら私の肩を叩く。

 

「ほら。戻って朝飯の仕度しなくっちゃ」

 

「う、うん」

 

 確かに見たと思うのに。でも、それが本物だったら、有音君の言うようにデビモンなんて直ぐに倒されているだろうし。

 

 でもファイル島はまだバラバラのまま。だから、あれはやっぱり寝ぼけた私の見間違いだったのかな。

 

 そのあとももんもんとしながら、私は朝食を作る有音君の手伝いをしながら、時折目を閉じて思い出す。

 

 それだけで鮮明に焼き付いたその姿が、私には寝惚けて見た幻とは思えなかった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 グラニに乗っておれたちは始まりの街を目指した。乗ると言っても空から行くとデビモンに見つかるのが面倒だから、地面の上をホバー移動してだが。それでも歩くより段違いの速さだ。

 

「ここがはじまりの街か……」

 

 地面は低反発なクッションみたいなところもあれば、トランポリンの様に跳ねられる地面。柄だけの普通の地面もあった。

 

「お疲れさま。グラニ」

 

「グラニまたあそぼうねー!」

 

 テイマーズコンビに続いておれたちもここまで運んでくれたグラニに礼を言うと、プログラムの粒子となって、芹香のDアークの画面に入って行った。

 

「さて。先ずはエレキモンを探さないとなぁ」

 

 朝早くから動いた所為で、さらにはグラニに運んで貰ったから、タケルとパタモンより早く着いている可能性もある。

 

 子どもの成長の為とは聞こえは良いかもしれないけど、やっぱりあまり無益な争いはしないに越したことはないだろう。

 

「デジタマがいっぱいある!」

 

「ギルモンのデジタマもあるかな?」

 

「探してみる?」

 

 ダメだ。人の話を聞いちゃいない。アグモンとギルモン、芹香はデジタマがたくさんある広場の方に行ってしまった。

 

「まぁ。そんな直ぐ直ぐ敵が来るわけじゃないし。大丈夫かな」

 

「イイノ……?」

 

 ひとりだけ残ったクロに聞かれるが。これから辛い戦いが待っているのを知っている口としては。敵が来ないときくらいのんびりしててもバチは当たらないという心境だった。

 

「なにかあれば合流すれば良いさ。おれはエレキモンを探すけど。お前はどうする?」

 

「ワタシ、アルト……イク」

 

「サンキュ。んじゃ、行きますか」

 

 おれはクロを伴ってエレキモンを探し始める。

 

 はじまりの街は、赤ちゃん受けしそうな見た目をしている。巨大クッションが棟みたいに幾つも積まれている。木にはクリスマスツリーみたいに装飾がされている。ベルや鈴が風で揺れで軽やかな音を立てる。

 

「居ないな……」

 

 早いとこエレキモンを見つけないとあとが面倒なんだけどなぁ。

 

 ピコピコピコピコ♪ ピコピコピコピコ♪

 

「デジヴァイスが…」

 

 突然デジヴァイスから電子音が鳴り響いた。

 

「もう近くに来てる…」

 

 デジヴァイスの画面には、近づいてくる光点が表示されていた。

 

 結局エレキモンを見つける前に、タケルとパタモンと出逢うことになりそうだ。

 

 

 

 

to be continued…




グラニ

大昔のデジタルワールドで、人の手によって作られた人工デジタル生命体である。デジモンの生態や進化プロセスを真似て作られているので、広義的にはデジモンと言えるだろう。その生産総数は不明であり、存在した歴史しか知ることはできない。崖に落ちた有音を助けるために芹香がデジタルモンスターカードをスラッシュしてリアライズさせた。

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