気がつけばデジタルワールド!?   作:望夢

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気がついたらこんなん出来てました。


ファイル島篇
第1話 遭遇、デジタルモンスター


 

 鬱蒼と木々や草花の生い茂る森のなかを走る。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、っ、んっとにしつこいなぁ!!」

 

 耳に聞こえる虫の羽音は全く遠くにならない。

 

 後ろからは丈夫そうな木々を切り裂きながら迫ってくる赤いクワガタの化け物……。

 

「おい、アグモン! なんとかならないのか!?」

 

「ひぃ、ひぃ、ひぃ、あ、あにきぃ、オイラ、もう走れない……」

 

「脚止めるな! アイツに鋏まれて死んじまうぞ!!」

 

「ひぃ、ひぃ、もうだめえええっ!」

 

 情けない声を上げる黄色いトカゲだかみたいなやつ――アグモンの手を引きながら走る。

 

 もうダメなのはこっちも同じだ。こちとら普通の人間様だぞ! 走り続けて苦しくなって、今はランナーズハイになったから気にならなくても、明日絶対筋肉痛間違いなしだ。……明日が来ればの話しだがな!!

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 おれは桜木 有音(さくらぎ あると)。

 

 名前がちょいDQNチックな普通のフリーターだ。今年で23だ。周りから中学生扱いされるくらいにちょいと身体と顔が若いだけのフツーの大人だ。

 

 お陰で酒やタバコを買うときに苦労するし、仕事帰りに補導される事もあるが、大事な事だから言っておく。フツーの大人だ。

 

 そんなおれはいつもの通りに生活していた。昼過ぎに起きて深夜のアルバイトに出勤する。仕事を終えた朝方に家に帰って寝る。そんないつも通りの日常に、その日というか、ついさっきだ。

 

 居眠り運転していたトラックに撥ねられた。と思ったら、この森のジャングルに寝っ転がっていた。

 

 ちょい田舎といっても、国道の上で撥ねられたおれが気づいたら森の中に居るはずがない。

 

 古典的な頬をつねってみても痛みを感じたおれは先ず夢とか思うのを止めた。

 

 どうしようかと考えながら、取り敢えず歩いていたら腹が減って行き倒れていたアグモンを見つけた。

 

 最初はやっぱり夢なんじゃないかと疑った。だってアグモンって空想上のキャラクターなんだぞ?

 

 デジモンアドベンチャーというアニメに出てくるデジタルモンスターという存在たち。略してデジモンだ。

 

 アグモンは人気のあるデジモンだし、おれも子供の頃良くデジモンは見てたから、それがアグモンであるのはすぐにわかった。

 

「おい、大丈夫かお前?」

 

「うぐぅ……、腹、へった……」

 

「腹が減ったって言われてもな……」

 

 おれと一緒にこっちに来ていた鞄の中から、コンビニで買ったおにぎりを取り出す。

 

「ほら、これしかないけど食べな」

 

「め、飯だあああーっ!!」

 

 おにぎりを差し出すと一口で口に放り込んでもぐもぐと咀嚼するアグモン。よっぽど腹を空かしていたのだろうか。

 

「なぁなぁ、もっとないのか!?」

 

「そうは言われてもなぁ…」

 

 寝る前の夜食用に買っただけだから、おにぎりは3つだけしか持ってない。

 

 おれも仕事帰りでお腹すいてるんだけど。

 

「ゴクリ…」

 

 めちゃくちゃ期待されている目を向けられるとキツい。これも助けてしまった側としては面倒を見るしかない。

 

「ほら、もうこれしかないから味わって食えよな」

 

「わーい! オイラこんなに優しくされたの生まれて初めてだ」

 

 包装を剥いたおにぎりをアグモンに差し出すと、両手で掴んで仰ぐように上に掲げて喜ぶ。420円とおれの空腹感を対価にここまで喜んで貰えると、すこしは嬉しとは思う。

 

「ところで、あんた誰?」

 

「おれは桜木 有音」

 

「さくらぎあると? なんか呼びにくい」

 

 まぁ、○○モンっていうのがデジタルワールドでの世間一般的な呼び方だから、デジモンのアグモンに人間の名前は馴染みは薄いだろう。

 

「まぁ、好きに呼んでくれ」

 

「じゃあアニキって、呼んでいい?」

 

「いや待て、なんでそこでアニキになるんよ?」

 

「だってアニキは、こんなオイラにも優しくしてくれたんだもん。だからアニキでもいいだろう?」

 

 まぁ、好きに呼べって言ったのはこっちだからなぁ。

 

「まぁ、仕方がないか。それでも良いよ」

 

「うわーい! アニキだアニキ! よろしくなアニキ! オイラ、アグモンって言うんだ」

 

「こっちこそ、よろしく、アグモン」

 

 なんか餌付けして懐かれたみたいで微妙だけど、デジモンと交流が出来たのはちょいと感動してます。ポケモンも良いけど、デジモン派だったんだよ昔のおれは。

 

 ともかく、デジモンであるアグモンが居るなら、ここはデジモンたちの世界であるデジタルワールドだろう。そうなると、頼りになるのはアグモンだけだ。

 

「なぁ、アグモン。ここはデジタルワールドのどこなんだ?」

 

「え? ここはファイル島だよアニキ」

 

 ファイル島と訊いて真っ先に思い浮かべたのはやっぱりアニメのことだ。

 

 アニメでの最初の舞台であり、7人の子供たちと7匹のパートナーデジモンたちが、ファイル島を支配しようとしたデビモンを倒す物語りである。

 

 とはいえそれはアニメの話しだ。たとえここがデジタルワールドのファイル島だとしても、彼らがやって来るかなんてわからない。一応確認したが、ダークマスターズやらスパイラルマウンテンをアグモンは見たことも聞いたこともないという。少しホッとした。

 

 成長期のアグモンでは、究極体デジモンたちが頭を勤めるダークマスターズには到底敵わないからな。

 

 ダークマスターズが居ないのなら、今度はファイル島がバラバラになったか訊いてみたら、それもないという。

 

 ファイル島でなにも起こっていないなら、まだ選ばれし子供たちは来ていないということなのだろうか。

 

「それよりもアニキはファイル島の外から来たのか?」

 

「まぁな。といっても、デジタルワールドとは別の世界からだけどね」

 

「デジタルワールドと別の世界?」

 

 まぁ、アグモンにリアルワールドのこと、つまりは現実世界の話をしても仕方がない。

 

 先ずはともかく、アンドロモンかケンタルモンを探そうかと思う。アンドロモンは優しいデジモンなのは覚えているし。ケンタルモンも、博識で選ばれし子供たちの到来について知っているデジモンだったはずだ。

 

 子供の時に録画したVHSが擦り切れるまで見直したアニメだけあって、一応の要点くらいはまだ頭の中にあるのが助かった。

 

 取り敢えずアグモンにアンドロモンかケンタルモンの居る場所を訊いてみるか。

 

「えーっと、オイラあんまりこの森から出ないから良くわかんない」

 

 我が子分1号はどうやらヒッキー属性らしい。

 

 取り敢えず他のデジモンにでも訊いてみようと考えてたら、森の奥から赤くてデカい影が飛び出してきた。

 

「うわっ!? な、なんだ!」

 

「ク、クワガーモンだあああっ!?」

 

 上空を旋回してこっちに突っ込んでくる赤いクワガタ――クワガーモン。確か成熟期デジモンで、アグモンの成長期のひとつ上のランクのデジモンだ。

 

「あ、あのクワガーモン、とてつもなく怒ってるよぉ……」

 

「アグモン、アイツに勝てそうか?」

 

 アグモンは成長期のデジモンだが、成長期デジモンでも成熟期デジモンを倒せる事もある。それにアグモンの必殺技はヘビーフレイム。炎属性の攻撃なら、昆虫型デジモンのクワガーモンにも効果はあるはずだ。

 

「む、むりむりむり! クワガーモンはとっても強いんだ」

 

 まぁ、子どもに大人とケンカして勝てそうかと訊くようなもんだから、そう返ってくるとは思っていた。

 

「仕方がない、逃げるぞ!」

 

「あ、待ってよアニキーっ!」

 

 こうしておれはアグモンを連れてクワガーモンとのデスレースを開始した。 

 

 

 

 

to be continued…


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