ベル・クラネルが魔術師なのは間違っているだろうか(凍結中)   作:ヤママ

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話進まねぇ・・・!

どうしよっかなフフフのフーン♪


そして少年は窮地に立たされる

「終わったみたいだね。」

 

立つベートと倒れるベルを見てアイズが言った。lv1とlv5の攻防、この結末は分かりきっていたことだが、そこに至るまでの過程があまりにも予想外の連続だった。

lv5の拳を受け止めたlv1冒険者、駆け出しとは思えない程の不屈の根性、周囲を物理的にも精神的にも震撼させる炎、魔力、爆風。ベルのレベル偽装を疑う程の、いや、そう言わないと説明がつかない戦闘の余波。

 

ベ―トが観戦していたロキファミリア面子のところへ向かう。周囲ではベルが一発入れたことにより賭けに勝った少数の冒険者が負けた者から金を巻き上げているところだ。

 

「お疲れ様ベ―ト。随分白熱してたじゃない?」

 

「うるせぇ。」

 

「あの子、あのままにしていいの?」

 

ベ―トに言ったティオネはベルに視線を向ける。

ただ殴られて伸びているだけならば街角の喧嘩として放置安定なのだが、いかんせん最後の最後に魔法まで使った喧嘩の一言では済まないものとなっており、実際ベ―トのアイアンブーツと討ち合ったベルの右腕は皮は剥がれ、血まみれの状態である。ファミリア間の問題を荒事で片づける戦争遊戯(ウォーゲーム)と誤解されてもおかしくはないだろう。ほおっておくわけにもいかない。のだが・・・

 

「さぁな。知るか。」

 

ベートはベルを決して振り返って見ようとも、まして助けようとも思っていない。確かにベートは自らに向かってくるベルの姿にベルが形だけの冒険者ではなく、困難に立ち向かう真の冒険者であることは認めた。しかし勝負については話は別だ。

勝者が敗者を気遣っては敗者に対して失礼にあたる。まして自分が認めた相手なら尚更。

(ベート・ローガ)がすべきはこいつ(ベル・クラネル)が這い上がって来るのを待ち、再び立ち合うことだ、と。

だからベートは今日はこれ以上ベルに干渉しないと誓っていた。

 

「そういう訳にも行かないよ、ベート。彼重症じゃないか。」

 

フィンの声に目を向けるとフィン、リヴェリア、ガレス、ロキなどの観戦せずに豊穣の女主人で飲んでいたメンバーがいた。

ベートはフィンの発言を訝しげに受け取りつつ、舌打ちをすると「勝手にしろ」と言い、一人ダンジョンの方角へと消えていった。

 

「あてられたみたいやね。ありぁ帰ってくんの朝どころか次の日にもなりかねんなぁ。」

 

「いいではないか。若いうちは血気盛んなのが一番じゃて。」

 

「そうは言ってもこれはやり過ぎだがな。」

 

リヴェリアがガレスをたしなめるように言う。言ってる間にもベルの血だまりはどんどん広がっている。レフィーヤとリヴェリアが止血をし、魔法による治療が施そうとするが、ベルの背中と右腕がエメラルド色に光り、無効化(レジスト)されてしまった。リヴェリア以外のロキファミリア団員達はその光景を見て驚愕する。

何しろ魔法を無効化(レジスト)するためには通常同等以上の魔法でかき消すものである。そのため、無効化(レジスト)は攻撃系魔法にのみ可能なものとされ、まして回復魔法を無効にするなど、その様なデメリットな魔法、もしくはスキルなど聞いたことがない。

 

「やはりな。」

 

「やはりって、気付いていたんですか?リヴェリア様」

 

「いや、気のせいかと思っていたのだが、全員で見たとなれば話は別だな。」

 

「それじゃあこの子は本当に魔法の無効化(レジスト)を・・・ってひゃあぁぁ!?何これ!?」

 

「どうしたレフィーヤ!?」

 

レフィーヤの突然の悲鳴に全員が身構える。

よくみるとベルのジャケットの内ポケットからキラキラと光る液体がスライムのようにウネウネと出てきており、そのままベルの血だらけの右腕を包み込むような形をとると、少しずつではあるが治癒が開始された。

 

「何やこれ?何かのマジックアイテムか?」

 

「生憎僕の記憶にはないな。こんなスライムみたいな代物は。」

 

フィンはガレス、ティオネ、ティオナ、アイズに心当たりがあるか聞くが、そんなものはないと言われた。皆スライムのようなマジックアイテムなど見たことも聞いたこともないらしい。だがレフィーヤとリヴェリアだけは難しい顔をして考えに耽っている。

 

「どうかしたのかい?リヴェリア、レフィーヤ。」

 

「・・・いや、憶測の域を出ないからまだ何とも言えないが・・・」

 

「えっと私も、詳しくは説明出来ないんですけど・・・」

 

「レフィーヤ、それってさっき言ってたこと?」

 

「はい。恐らくは・・・」

 

リヴェリアとレフィーヤがお互いに自分の考察を論争しあっている。魔法使い、エルフどうしの専門用語などもあり、周りにとっては少々理解しにくい会話であったため誰も会話には入りこめなかった。

 

「・・・まぁええ。とにかく今はこのガキの治療が優先や。はよぉ黄昏の館(ホーム)まで運ぶで。リヴェリア、レフィーヤ、ガキの話は後でゆっくり聞く。それまでに考えまとめとき。」

 

ロキは久しぶりに主神たる威厳を見せると、それに呼応してフィンが的確に指示を出してベルを搬送する準備を整えていく。流石は巨人殺しのファミリア、さっきまで酒を飲んでいた輩共とは思えない程統率のとれた動きである。

 

「ところでロキ、なんで彼を助けようと思った?いつもの悪神たる君ならファミリアに喧嘩を売った相手を助けるとは思えないが?」

 

「理由は3つ。

 ひとつはあのガキはヘスティアのガキや。次会ったときに弄れる。

 二つ目はあのガキの魔法ともスキルともとれん能力の正体。神の力(アルカナム)をつこうてるかもしれへんからな。

 3つ目は、後片付けせぇへんと二度と店に入れへんってミア母さんに釘刺されたからや。」

 

「成る程、最後に関しては死活問題だね。」

 

ロキファミリア程の大人数を受け入れ、しかも早く旨い料理を用意してくれる店はそうそうない。というか豊穣の女主人以外絶対にないと言っても過言ではない。冒険者という危険家業である以上、ある意味遠征帰りの飲み会のために生きていると考えているものも少ないし、それに救われている者もいる。ようやく行き着いた常連の店に入れなくなるのは団員のモチベーション的になるべく避けたいものである。

 

「それにしても、なぜミアが一人の冒険者のためにそんなことを言ったのか?酒場の喧嘩位日常茶飯事じゃろうに。」

 

「・・・ガレス、ミア母さんのとこで喧嘩騒動起こしたら二度と店に入れてもらえへんのは常識や。用心せぇよ、っちゅうことやろ。」

 

「 まったくあの馬鹿力はそういうとこだけは変わらんから困ったものだ。」

 

「ミア母さんにそんな口を利けるのは君くらいだよ、ガレス。」

 

ドワーフ同士として昔馴染みであるガレスとミアであるが、冒険者であった頃のミアと今も酒場の主として調子に乗った冒険者達にお灸を据えているミアの姿を知っているフィンにとっては、ガレスの発言は命知らずもいいところだ。フィンは素直にミアに物怖じしないガレスを感心しながら黄昏の館(ホーム)へと急いだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

・・・夢を見ている

 

とても過酷で、それ以上の悲しみ、苦しみ、それを覆しえるかもしれないし、そうじゃないかもしれない喜び。

 

命を酷使する12の試練

 

橋に自らの死に体をくくりつけ、死ぬまで闘う槍使い

 

恋する相手を救えず、その手にかけた山の翁

 

自らの信念に殺された正義の味方を志した世界の奴隷

 

本来傍観者として見ている話が突如、自分に降りかかる。

いま挙げた4つ以外にも様々な「英雄」と称される者達の体験が自分に降りかかる。

 

それはとても、ただの一人の人間である自分の身にはあまりにも重く、受け入れることなぞ出来はしない。

しかし目をとじることも、耳を紡ぐことも、音をあげることも許されず、許容出来ないものを無理矢理詰め込まれる。

風速100mを越える鋼の風。打ち付けられ、すぐに塵とかすであろう身体。

このままでは自分は存在ごとこの世から消されてしまう不安に、声もあげられないのに絶叫をあげようと体が言うことを聞かなくなるが

 

『あーあ、まただめだったねクラネル君。自分の起源に呑まれてどうするんだい?』

 

風の向こう側から憎たらしい声の主が手を伸ばし、風をものともせずに、いや、風など吹いていないと言わんばかりに何ともない自然な動きで自分は風から救い出された。

 

ーーーーあぁ、また助けられた。また乗り越えられなかった。"自分自身"すら克服できないなんて

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「・・・2日続けて最悪な夢だ。」

 

ベルは思わず口に出す。あのクソ師匠(変人)よりも嫌いな夢。いまだ克服出来ていないベル・クラネル(自分自身)

 

「へぇ、どんな夢やったか詳しく聞かせてくれるか?」

 

声に顔を向けると豊穣の女主人で声をかけてきた神がそこにいた。ということは、

 

「ロキ様?」

 

「へぇ。自己紹介もしてへんのにワイの名前知ってるんちゅうわなかなか殊勝なやつやな。」

 

ロキは細い目を更に細めて笑った。ロキの後ろには酒場にいたベート以外の主要メンバーが勢揃いでいる。ベルは自分がベットの上にいることを認識すると少しずつ自分の酒場での発言やベートと起こした喧嘩を思い出し、顔を青くさせる。

 

「うわぁぁぁぁ!?あ、あの!?リヴェリア様やロキファミリアの方々への失礼な発言、酔っていたとはいえ、誠に申し訳ありませんでした!!!」

 

ベルはバッ!と勢いよく飛び起きると、ベットの上で綺麗に正座を決め、部屋にいる全員に土下座をきめる。一連の動きと流れ、感服する程美しい土下座だ。

 

「いや、気にしなくていいよ。うちのファミリアにとってもいい刺激になった。それに君もいい経験になっただろ?酒は人を狂わせる。」

 

そういうフィンにベルは平謝りを続ける。周りは苦笑いしつつもベルの謝罪を受け入れる。折角なのでと一人一人自己紹介をベルに済ませるロキファミリア。特にティオナとアイズは興味津々と言わんばかりにベルの顔を覗きこみ、

ベルは一瞬で顔を真っ赤にさせながらあたふたする。

 

「あの!?ち、近いですヴァレンシュタインさん、ティオナさん!?」

 

「アイズでいい。」

 

「ええっ!?」

 

「アハハッ!コロコロ表情変わって本当にかわいいね、不思議魔法使い君!」

 

「!?」

 

「君がベートさんと闘ったときに使ってたあれは何?」

 

ティオナとアイズの発言にベルは思わず腰を浮かせた。だが周囲には一級冒険者が6人、二級冒険者が1人。逃げられる訳がない。

警戒したベルにガレス、フィン、ロキは含み笑いを浮かべる。ベルはまさに悪神だな、と舌打ちをしたくなる。ティオナ、ティオネ、アイズは興味津々という視線で見つめてくる。しかしリヴェリアとレフィーヤだけは不信感を露にしている。

 

(確かあの二人の二つ名は九魔姫(ナイン・ヘル)千の妖精(サウザンド・エルフ)とか言ったっけ。)

 

明らかに魔法使いに贈られる二つ名だ。ベルに嫌な予感が走る。

 

「クラネル君、君がベートとやりあった後、君の身体はボロボロだったよ。特に右腕は酷かった。指は折れ、皮は剥がれ血まみれだった。そこで私はレフィーヤと治癒魔法を施そうとしたが無効化(レジスト)されてしまった。」

 

「それだけじゃない。あなたの胸ポケットから液体がてできてあなたの右腕を包んで治療を始めた。それがこの液体。」

 

レフィーヤは自分の手にある封のされた試験管をベルに見せる。

魔術回路には保有者が気絶したり命の危機に陥った際、緊急的ではあるが蘇生を行う機能がある。ベルの持っていた水月霊液(アグミス・ローグラム)は魔術礼装の分類としては使用者の魔術を使用して活動させるものでもあり、魔力タンクとしても使えるものである。恐らく魔術回路に反応して近くにあったベルお手製の月霊随液(ヴォールメン・ハイドログラム)の亜種、水月霊液(アグミス・ローグラム)、通称アクアちゃんを使用したのだろうと予想する。問題はその治療を他の冒険者に見られ、あまつさえ水月霊液(アグミス・ローグラム)がその冒険者の手の中にあるということ。

 

「そんな警戒せんでも後でちゃんと返したるわ。その代わり質問に答えてもらうけどな。」

 

「・・・何ですか?」

 

「あんたの摩訶不思議な力についてや。あぁ、探るのはルール違反なんて言うなや?こっちは2回も命助けてるんやからな。ヘスティアファミリアのベル・クラネル?」




リヴェリアとレフィーヤは一度は魔法無効化されましたが続けて魔法とハイポのコンビでキチンと治療してます。

無効化するのは一度目だけ。魔術回路のファイアウォールで防御しますが、それが身体に害を及ぼすものじゃなきゃ2度目は通してあげる仕様だと思ってください。


あとベル君が見た夢はいずれ英雄願望と関係を持つと思います。詳しい設定は書きつつ考えます。

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