【完結】チートでエムブレム   作:ナナシ

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マルス  「文官下さい。」
ハーディン「…すまぬ。」
マルス  「いないのですか…orz」


4章

1.マルス、愛剣封印へ。

 

 

 

 サムシアン討伐完了から一ヶ月。ここの戦後処理もそろそろ終わりそうです。

 この一ヶ月は色々ありました。サムシアンの残党狩りに、周辺の村々の復興、自警団の設立、設立された自警団の訓練etc…。

 私は各村からあげられる陳情の処理を、他の皆は残党狩りor自警団との訓練を中心に動いていました。

 陳情の処理は私一人でやっていたのでクソ忙しかった。いや、量はさほど多くはないんだけど、一時間置きに2~3件きたりするんですよ。纏めてドカッとじゃなくて細々とポンポンやってくるから、量は多くないくせに仕事自体は忙しいのなんのって。

 文官が欲しいっすよ文官。こういうのは専用の部署を作って、細々とした案件は現場の彼等に、現場では判断出来ない重要な案件は私がとか、そういうシステムを作るべきだと思います!

 というわけで、ここは一つどうッスかねオグマ先生?

 

「王子…我が軍には文官適正のある者が居ないのです」

 

 くそ、この軍には武官(のうきん)しかいないのかッ!

 

 

 

 そうそう。私のマスターソード「デビルソードです、王子」…オグマさん私の心を読んでツッコミをいれないで下さい。まあ、そのデビルソードなんだけど。封印されちゃいました。

 聞けばあれは封印指定されている危険な武器みたいじゃないですか(原作のも危なかったけど)。まあただ危険なだけってんなら「そんなの関係ねー!」と突っぱねるところだけど、なんかあれを使ってるのを宗教関係の奴らに知られると一発で異端認定されるらしい。マジっすか。

 宗教は敵に回したくない、という訳で泣く泣く封印。あれ装備してる間、妙にテンション上がって凄く気持ちよくなれるから気に入ってたのになぁ…。

 ジェイガンにそう言ったらゲンコツ落とされた。痛いっすよジェイガンさん。

 

 それにしても。タリスの港市で売ってたマスターソードが実はデビルソードだったとは。これを売ってた商人に、私は見事騙されたという訳だ。……やってくれるじゃないか。

 与えてやらねばなるまい。この私を騙した商人に、しかるべき鉄槌を!

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 某日、ガルダの港街で、大きな街灯の上に一人の商人が全裸の姿で吊し上げられていたという。

 その男は「許して下さい、許して下さい王子」と涙ながらに呟いていた。『王子』とは誰を指すのか最後まで判明しなかったという。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

2.マルス、オレルアンへ。

 

 

 一ヶ月という長いとも短いとも言える滞在期間を終え、私達はサムスーフを後にした。我が軍がこれから向かう場所はサムスーフの北西にある国、オレルアンだ。

 オレルアンはすでにアリティア・オレルアン同盟軍によってマケドニアの支配から解放されている。今はオレルアン王ブレナスク様の統治のもと、復興に勤しんでいるらしい。

 

 サムスーフからオレルアンへは五日ほどかかる。馬に乗って、かつ少人数なら二日でたどり着ける距離らしいが、こちらは100人以上の大所帯。しかも馬に乗ってるのは10人にも満たないという有様だ。だから移動にはとにかく時間がかかる。それはもう仕方の無いものとして諦める。

 

 オレルアンへの道のりは順調だった。朝から昼までは休憩をはさみながら移動、夕方になるとコテージを組み立てることが出来る適当な場所を見つけ、そこで一晩を過ごす。夜は夜盗、または敵軍の夜襲を警戒するため、5人で一組のチームを作り見張り。翌朝は昨晩見張りをしたチームを馬車に乗せ、その他の者は歩きで移動。

 日が落ち昇りを繰り返し六日後──私達はやっとオレルアンの国境にある砦へとたどり着いた。オレルアンへ入国するためにはここをどうしても通らなければならない。

 その砦の入り口の前に、つい二ヶ月ほど前に会ったばかりの老人──モロドフ爺が居る。どうやら私達が来るのを待っていたらしい。

 

「王子、御無事で!」

「遅れて済まない。色々と手間取ってしまってね」

「王子の御活躍はすでに存じております。サムスーフを解放したとか。このモロドフ、王子の教育係りとして誇りに思いますぞ!」

「そう言ってくれると嬉しいよ」

 

 互いに笑う。隣に控えている我が老騎士ジェイガンも優しい笑みを浮かべていた。

 その後モロドフ爺の案内のもと、私、ジェイガン、シーダの三人は用意された馬車に乗りマルス軍の代表としてオレルアン城へ。残りは案内役のオレルアン兵と共に城の近くにある砦へと向かった。そこを駐屯地として貸してくれるらしい。

 

 

 

「王子、もう間もなくオレルアン城ですぞ」

「ん? そうか、そろそろ着くか」

 

 モロドフ爺の声に顔を上げる。オレルアン城へ近づいたみたいだ。

 私達は軽く身だしなみを整え、馬車から降りる準備をする。

 

 馬車の中から外を見ると大きな建造物が見えた。あれがオレルアン城なのだろう。

 

 あの城に父上達がいるのか……!

 

 馬車はガラゴロと車輪を回しながら進んでいく。父コーネリアスが待っているであろう城へ向かって───

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

3.草原の狼

 

 

 オレルアン城に着いたマルス一行を出迎えたのは狼騎士団団長ハーディンと、その部下である狼騎士団だった。

 狼騎士団は統率された動きで綺麗に左右へ分かれ道を作る。そしてハーディンの号令の元、一斉に鞘から剣を抜き、天に向かって掲げた。

 己が剣を天に掲げる──それは騎士達にとって最上級にあたる『歓迎の儀式』である。

 それを見たジェイガンは「御見事」と感嘆の声をあげる。シーダは初めて目にする騎士の儀式に感動を覚えていた。

 マルスもまた驚いていた。今この場にいる狼騎士団は200人。その200人がハーディンの指揮のもと、一糸乱れぬ動きを見せた。ならばこの素晴らしい騎士達は戦場でも当然……。

 完璧に統率された正規の騎士団が戦場を駆け抜ける様を想像しただけで興奮してくる。そして、そんな彼らの上に立つハーディンに若干の嫉妬をマルスは覚えた。

 

 ハーディンの先導のもと城の中庭へ向かう。中庭に着くとマルス達は馬車から降り、そのまま城内へ。

 マルスは装飾された小箱を持っている。シーダは気になったのか小声で訊いてみたのだが、マルスは「あとのお楽しみ」としか答えず、結局その場では中に何が入ってるのか知ることが出来なかった。

 

 長い廊下を抜け、ハーディンと共に玉座の間へと入るマルス達。

 彼らを迎えたのはオレルアン王を始めとする『アリティア・オレルアン同盟軍』の重鎮達だった。

 

「マルス王子、貴殿の到着をお待ちしておりましたぞ」

「ありがとうございます、オレルアン王」

 

 オレルアン王ブレナスク。白髪の初老で、現在のオレルアンを統治する王である。

 

「マルス、そなたの活躍はモロドフから聞いている。……よくやってくれた。そなたは私の誇りだ」

「アリティアの王子として、貴方の息子として、恥ずべき行いはしてこなかったつもりです」

 

 アリティア王コーネリアス。正史ではすでに亡くなっているはずの男は、息子の働きにより運命を捻じ曲げられ生存し、今は『アリティア・オレルアン同盟軍』の一員としてこの場に立っている。

 

「はじめましてマルス王子。私は狼騎士団のロシェであります」

「同じく狼騎士団ビラクであります。王子、私は、私達は貴方にお会いし、直接お礼を申し上げたかった」

「マルスです。狼騎士団の中でハーディン殿に次ぐ高名な御二人にお会いでき光栄だ」

 

 狼騎士団のロシェ、ビラク。彼らは騎士団の小隊長を務め、自身も剣や槍の腕に覚えのあるオレルアンの若き騎士である。

 彼らが先ほど言った『お礼』とは、モロドフを通じて送った軍資金のことを指している。

 

 『同盟軍』はかつてない窮地に陥っていた。兆候はコーネリアスと彼に従うアリティア騎士団がハーディン達に合流する前からあった。

 金だ。活動資金が圧倒的に足りなかったのだ。

 軍組織というものはとにかく金がかかる。武器、防具、装備の維持費、医療品、食料物資、兵士達への給料、etcetc......。

 同盟軍の主力はオレルアンの騎馬兵である。騎馬兵=馬。そう、馬だ。馬のエサ代も彼らに深刻な問題として圧し掛かった。

 金、金、金。何をするにしても金が必要。しかし同盟軍にはその金が決定的なまでに不足していた。

 コーネリアスもアリティアから脱出する際に持ち出した財を全て崩し活動資金(約1万ゴールド)へと加えたが、それも食料物資などですぐに消えてしまった。

 このままではオレルアンを取り戻す前に同盟軍は抵抗力を失い崩壊してしまう。そんなところまで彼らは追い詰められていた。

 

 その同盟軍のもとに現れたのがモロドフである。彼はマルスから10万ゴールドを預かっており、それを全額同盟軍へと手渡した。

 

 充分な資金を得た彼らは電光石火ともいうべき動きをみせた。ハーディンはまずそれまでの戦いでボロボロになっていた装備を全て新調した。

 その後、兵と馬に充分な食事と休憩を与えた。兵には肉と酒を、馬には高い飼葉を与える。これにより軍全体の士気が高まった。

 気力、体力共に満たした同盟軍は城を占拠しているマケドニア軍へと決戦を仕掛けた。ハーディン、コーネリアスの指揮のもと、充実した補給と装備を持つ同盟軍は圧倒的力をもってマケドニア軍を文字通り蹴散らした。それは敵軍を思わず哀れんでしまうほどの光景だったという。

 

 同盟軍にとってマルスが行った援助はこれ以上は無いというほどの支援となった。祖国をマケドニアに支配されていたオレルアン兵達は特に彼に感謝している。

 

 ロシェとビラクはマルスと握手をかわしながら何度も礼を述べた。涙もろいのか、ロシェの目には涙が溜まっている。

 ハーディンは苦笑しながら二人の部下を下がらせた。

 

「そういえばきちんとした挨拶はまだでしたな。もうすでに御存知かと思われるが、私がハーディンです」

「マルスです。ハーディン殿、草原の狼と呼ばれる貴方に出会えたことを私は光栄に思う」

「それはこちらとて同じこと。ガルダ、サムスーフ。彼の地にあった賊どもを討伐し、かつ速やかにその地を復興させるというその手並み。これから供に歩む戦友として心強く思う」

「ありがとうございます。ですがハーディン殿、それは私一人の力で成したものではありません。家臣達が、部下達が、戦友達が私を支えてくれたからこそなのです」

「うむ。その言葉の意味、十二分に理解出来る。何故なら私達も王子と同じだからだ。コーネリアス殿、アリティア騎士団、我らの狼騎士団。彼らの支えがなければ今の同盟軍は無かった。……誰に見せても恥ずかしくない、自慢の戦友達だ」

 

 微笑むハーディン。それまでの苦労を思い出したのだろう、オレルアン王が、コーネリアスが、ロシェ、ビラクが彼のセリフに感極まり涙を流していた。もらい泣きしたのか、ジェイガン達の居る方から鼻をすする音が聞こえる(マルスからは見えない)。

 ハーディンもロシェ達と同じくマルスへ礼を述べた後、『彼女』のもとへ行くよう促す。『彼女』はこの部屋の奥にある一番豪華な椅子──すなわち玉座に座っていた。

 国の最高権力者たる王を差し置いて玉座に座る女性。マルスはその女性が誰なのかすぐに理解する。

 マルスは『彼女』の前に跪く。

 

「お初お目にかかります──殿下」

「はじめまして、マルス王子」

 

 アカネイア聖王国 王族最後の一人、ニーナ王女は優しく微笑んだ。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 マルス王子達がオレルアン城へ来たその日の夜、城内にある大広間でパーティーが開かれた。

 これは彼らを歓迎するパーティーであり、同時にオレルアン奪還(解放)の祝賀会を兼ねている。

 そこかしこで絶え間なく木製のコップがかさなる音がなり、その度に『オレルアン万歳!』『アリティア万歳!』『同盟軍万歳!』という合唱が聞こえた。

 パーティーの参加者達は「我が世の春」とばかりにハメをはずしていた。

 無理もない。これまで彼らはマケドニア……ドルーア帝国に苦汁を強いられていたのだから。

 此度の勝利がオレルアンのみで終わることなくアカネイア大陸全体へ広まることを参加者の一人であるハーディンは強く願っていた。

 

 そんなことを思いながら窓辺で一人酒を嗜んでいると、マルス王子が彼の元へやって来る。

 

「ハーディン殿、パーティーへのお誘いありがとうございます」

「なんの。貴方達の助力が無ければ我々は負けていたのだ。この祝賀会、充分に楽しんでいただきたい。……それはそうと王子、顔が少し赤いようだが?」

「はは、少しお酒をいただきまして。……狼騎士団の方々と知己を得ることも出来ましたし、今夜はパーティーに参加して本当によかった」

「それはよかった」

 

 ハーディンはコップを傾けながら考える。知己を得た、か。ロシェとビラクの二人とは玉座で知己を結んだとして、ならば誰だという話になる。……ウルフ、ザガロあたりが濃厚か。

 

 その後、二人は色々なことを語り合った。王子が過ごしたタリスでの二年間、ガルダ海賊団のタリス城強襲、討伐、サムスーフでの戦い。

 マケドニアの王女と思わしき竜騎士との共闘、コーネリアスとの出会い、ニーナを守りながら戦う日々……。

 ハーディンはマルスとの会話を楽しんだ。この数年間、祖国奪還の為に、ニーナを守る為に戦いの日々を過ごしていた彼にとって、自身と同格であるマルスとの会話は心休まるひと時だった。

 オレルアンの王弟である彼は、上官(兄王、コーネリアス、ニーナ)に弱音を見せるのを良しとせず、部下(狼騎士団他)には騎士の模範たる姿を示さねばならなかった。

 だから彼はマルスと出会うまで大変窮屈な思いをしていたのだ(しかも自分では気付いてはいない)

 

 ハーディンとマルスは酒を酌み交わし談笑していると──

 

「オレルアン王国 国王 ブレナスク様の御入室ッ!」

「アカネイア聖王国 王女 ニーナ様の御入室ッ!」

 

 ニーナ王女がオレルアン王を伴って広場へと現れた。その二人の後ろには盾らしきものを持ったシーダ王女と、装飾が施された小箱を片手に持ったジェイガンが居る。

 

 彼女達が現れたことで大広間は喧騒から一転、静まりかえる。それを待ってオレルアン王が一歩前へ出た。

 

「祝賀会を楽しんでもらっているところを申し訳なく思うが、一時この場をお借りしたい。

 ウォッホン! ……ただいまよりアリティア王コーネリアス陛下、ならびに狼騎士団長ハーディン、両名の授与式をとりおこなう!」

 

 静まり返った大広間は再び沸きあがる。声は熱狂となり、城全体を揺らした。

 このタイミングで授与式。間違いなく兵の士気を上げるためのものだろう。

 ニーナがシーダから盾を受け取り、まずはコーネリアスを呼び出す。

 

「コーネリアス殿。貴方と貴方の息子アリティア王国王子マルス殿は我ら同盟軍を窮地から救ってくださいました。この国がマケドニアから、ドルーアの支配から解放された一因は貴方達アリティア王家の助力であることは誰もが認めることでしょう。その功績を称え、私、ニーナ・ウォル・アカネイアは貴方にアカネイア一族の家宝の盾『ファイアーエムブレム』を与えます」

 

 コーネリアスが盾を受け取る。そして大広間に響く拍手喝采。ハーディンもマルスとともに拍手を送っている。

 このファイアーエムブレム、史実ではマルスが受け取っていた。それを見てハーディンは「何故私ではないのだ」と少しの嫉妬を抱き、それが後の『英雄戦争』へと繋がる原因の一つになる。

 しかしこの世界でファイアーエムブレムを受け取ったのはマルスではなくコーネリアスだ。ハーディンは「彼ならばこれぐらい当然だろう」と納得していた。

 ハーディンにとってコーネリアスとは盟友であり、尊敬すべき偉大な騎士であった。その彼がファイアーエムブレムを受け取るのならば嫉妬という感情が湧き出ることもない。

 ……コーネリアスの生存が、また一つ歴史の流れを変えた。

 

 ニーナは拍手が鳴り止むのを待ってからハーディンを呼ぶ。

 ジェイガンが小箱の中身を取り出し、それをニーナに手渡した。

 ハーディンはニーナの手の中にある物を見て驚愕する。

 

「ハーディン殿。貴方はコーネリアス殿とともに常に最前線へと立ち、騎士達の、民達の希望としてその剣を振るい続けました。オレルアンの奪還、解放は貴方の尽力があったからこそ成されたのです。その功績を称え、私、ニーナ・ウォル・アカネイアは貴方に『騎士勲章』を与えます───」

 

 

 

 騎士勲章。資格ある騎士がこれを持つと『聖騎士』と呼ばれる騎士の最上位へとクラスチェンジ出来るようになる。

 聖騎士の特徴は、騎士の相棒であり分身でもある愛馬と魔道的繋がりを持ち人馬一体となれることにある。

 馬を半身とする騎士にとって、聖騎士は正しく憧れのクラスであろう。

 

 ハーディンが驚いているのは聖騎士に成れる機会が出来たからではない。

 彼が驚いているのは〝ニーナから騎士勲章を賜る〟という部分だ。

 

 アカネイア王家は、大陸に並ぶ者無しと力量を認めた騎士に『大陸一』の称号と共に勲章を授ける。

 大陸一の勇者、大陸一の弓兵、大陸一の将軍等が例として挙げられる。

 アカネイア王家から勲章を授かることとは騎士達にとって最高の誉れなのだ。

 そして今。ハーディンはアカネイアの王女ニーナから騎士勲章を授けられた。それは即ち、名実共に彼は『大陸一の騎士』と認められたことに他ならない。

 

 ハーディンは涙を堪えるのに必死だった。これほどの名誉を与えられるとは思ってもいなかったのだ───

 

 

 

 授与式が終わった後。ハーディンはマルスを自室へ誘い飲み明かした。酒に飲まれることを嫌う彼にしては珍しく泥酔するほど飲んだ。騎士勲章をニーナから賜ったことがよほど嬉しかったのだろう。

 翌日、二日酔いで少し足元がふらふらしているハーディンが「昨日の夜のことはくれぐれも部下達に話してくださるな…!」と土下座する勢いでマルスに迫ったという。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

4.マルス、オレルアンを発つ。

 

 

 いやぁ、昨日は大変でした。ハーディン殿まじ絡み酒。昨日の騎士勲章授与がよほど嬉しかったんだろうね。

 あの騎士勲章、私が用意したのをニーナ様に謙譲して「これをハーディン殿に」とお願いしたものなんだよね。

 私が直接渡してもよかったんだけど……ほら、こういうのは男の私なんかよりもさ、見目麗しいアカネイア王家の王女様から受け取ったほうが嬉しいじゃない? しかも惚れている女性からだし。

 そんなわけで彼は見事聖騎士──パラディンへとクラスチェンジを果たした。レベルという概念が無いから資格さえ満たせば誰でもクラスチェンジ出来るんだということを昨日初めて知った。

 ……やっぱり私だけか、レベルとかそういうのがあるの。うーむ、少し複雑な気分。

 

 あ、そうそう。母上と姉上、そして幼馴染のマリクと再会しました。

 母上達はマリクとカダインの司祭様の護衛のもと父上の居るオレルアンまで逃れてきたとのこと。

 カダインはドルーアと手を組んだガーネフの支配下に落ちたため安全じゃなくなったからね。いや、ほんと上手くここまで逃げて来てくれて良かったよ。

 

 そして母上達を護衛してくれたカダインの司祭様──ウェンデル殿と、ジュリアンの弟分のリカード、そして捕虜として捕らえられていたマケドニア兵のマチスが我が軍に加わりました。

 

 リカードは街で盗みを働いてたところを巡回していたジュリアンに見つかり御用、そのままなし崩しにマルス軍へと入ってしまった。

 ちなみに彼が盗んだものは高そうな赤い宝石である。……これ、絶対『火竜石』だよな。これを見つけるために半日以上町の中を探し回ってたのに実は空回りしてただなんて……うごごご。

 

 マチスは……うん。レナのお兄ちゃんということでいつの間にか私の軍に入ってた。ちょっと適当すぎる気がしないでもないが本当に〝いつの間にか〟入隊してたのだ。

 彼の入隊を許可したジェイガン曰く「人手が足りないから」。……そんなんでいいのかよヲイ。

 まあジェイガンは人を見る目があるし、私は正史から〝マチスの本質は悪ではない〟と理解してるからいいけどさ。

 

 ま、文官の仕事をこなせる人が4人も(母上、姉上、マリク、ウェンデル)増えたんだ! ひとまず良しとしとこう!

 

 

 

 時間は飛んで二週間後。我々はアカネイア王都パレスを取り戻すべく軍を編制し、南下を始めた。

 軍は三つの部隊に分けられた。第一軍は父上率いるアリティア軍。第二軍はハーディン殿率いる狼騎士団。第三軍は私率いる義勇軍。

 

 この三軍を総称して、以後『解放軍』と呼ぶことになる。

 

 第一軍および第二軍は実戦経験豊富な正規兵で編制されているが、私率いる第三軍は実戦経験があまりない素人の集まり。そのため基本的には補給支援を主とした任務を行う。

 …ここから先は海賊や山賊とは質の違う強さを持った正規軍が相手だ。実戦の経験が少ない我々が前線に出れば味方の足手纏いにしかならないだろう。気をつけなければ。

 

「伝令! 伝令! もう間もなくレフカンディであります!」

 

 レフカンディか。正史ではここにミネルバ王女&ペカサス三姉妹が居たはずだが、さてこの世界ではどうなってるのか───

 

 

◇◆◇

 

 

 マルス軍に新たに六名仲間が加わりました!

 

 マリクが仲間になった!

 マチスが仲間になった!

 リーザ(マルスの母)が仲間になった!

 エリス(マルスの姉)が仲間になった!

 ウェンデルが仲間になった!

 リカードが仲間になった!




母「マルス。まさかわたくしも机仕事(デスクワーク)を?」
マ「働かざるもの食うべからずですよ母上。」
母「……魔道の杖で負傷兵を治療することがわたくしの仕事だと思っておりました」←クラスは司祭
マ「あ、そっちも当然やってもらいます」
母「oh......」

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