リズのアトリエ 麻帆良の錬金術師   作:マックスコーヒー

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7時間目「少女説明中」

side:リーゼロッテ(状態:オコジョ)/?????

 

 

 私が魔法バレの罪で、オコジョになってから早3年。

 

 そろそろ刑期も終わりが近づいてきました。

 

 

 何が悲しゅうて青春の日々をオコジョとして過さねばならぬのか。

 

 深く考えてしまう今日この頃です。

 

 そうそう、最近オコジョの親友ができました。

 

 純白の毛並みが素晴らしい美人さんです。

 

 これだけ長くオコジョをやってると、ばっちりオコジョの固体識別が出来るようになりました。

 

 オコジョになりたての頃はほとんど色でしか区別が付かず、よく人違いならぬオコジョ違いをしてしまい、迷惑をかける事も多かったのですが、今では後ろ姿からでも区別がつくようになりました。

 

 貴重な青春を犠牲にして手にしたのは、そんな人生において要求レベルの怖ろしく低いスキルでした。

 

 ああ、なんだか無性に泣けてきました。

 

 

 あ、話が逸れてしまいましたね。

 

 親友オコジョさんなんですが、名前をダイアナといって――

 

 

 

「おーい、リズさーん! 帰ってきて下さーい!」

 

 え? 天から少年の声がする。

 

 幻聴かな? それともオコジョの期間が長すぎて脳に深刻な異常が起こったのかも。

 

「いーかげんに起きろ!」

 

 今度は女の子の声だ。さっきの少年の声といい、なぜか聞いたことがある気がする。

 

「ばもっ!!」

 

 右側頭部に衝撃が走った。

 

 

 

 

side:リーゼロッテ/女子寮:リーゼロッテ部屋

 

 

「はれ? ダイアナさんは?」

 

 目の前には中学時代の担任ネギ先生と、友人の明日菜さんがいた。

 

「大丈夫? いきなりフリーズしたから、どうしようかと思ったわよ」

 

「はへ?」

 

「こう、右斜め45度の角度でチョップしたら治るかなって」

 

「ア、アスナさん。昔のテレビじゃないんですから」

 

 きょろきょろと辺りを見回す。

 

 麻帆良学園の女子寮の自分の部屋だった。

 

 どうやら私は意識が明後日(三年後)の方に飛んでいたらしい。

 

「あ」

 

 そして唐突に理解する。

 

 魔法バレした事でオコジョ刑に処された三年後の私を脳内シュミレートしていた後、妄想が暴走してアレな感じになってしまっていた事を。

 

「戻ってきた?」

 

 心配そうな明日菜さん。

 

 そんな顔するんだったら、チョップしないでほしい。せめてもう少し穏やかな方法で起こしてほしかった。

 

「ええ。だ、大丈夫」

 

 

 

「で、リズちゃんって魔法使いなの?」

 

「あははは~、そんなワケないじゃないですか~」

 

 とりあえずごまかす。私、記憶消去の魔法使えないから、誤魔化し通すしか道が無いわけで。

 

 ってか、魔法使い仲間のネギ先生は……、

 

「ア、アスナさん!?」

 

 た、頼りにならないっぽい。

 

「あ、もしかして! ネギ、あんたまさか、私が魔法知ってるって話してないじゃないでしょうね?」

 

「あ」

 

 今気づいたって顔のネギ先生。もしかして明日菜さんって魔法生徒?

 

「え」

 

 ワケがわからない私。

 

「リズちゃん、勘違いしちゃってるじゃない!」

 

 明日菜さんは右手を振りかぶってネギ先生をぶん殴る。

 

 それはもう、きれいで無駄のないストレートだった。

 

「ぽめぷろぉ!」

 

 

 

「――と、いうわけなのよ」

 

「なるほど、それで現在協力関係にあると」

 

 今に至るまでのあらましを明日菜さんから聞き、二人の関係を理解した。

 

「というか、1日目にバレるって、ネギ先生……」

 

「宮崎さんを助ける為に慌ててしまっていて。スイマセン」

 

 まあ、魔法をばれないようにする事よりも、生徒の安全を優先する良い先生なのかな?

 

 子供だから何にも考えていないだけな気もするけど。

 

 その分、きっと学園長サイドからのフォローもあるだろうし。

 

 

「で、リズちゃんは、その、レンキンジュツっての? それって魔法とどう違うの?」

 

「そういえば、僕も気になります。学校では基礎的な魔法薬の調合は習いましたけど、それとは違うんでしょうか?」

 

 二人の疑問にどういう風に答えるべきか少し考える。

 

 なにしろ、返答の範囲が凄く広いのだ。

 

「あー、なんと説明すればよいものか迷うなぁ」

 

「もしかして、言いづらい?」

 

「あ、いや、そんな事は無いんだけど、説明し辛いのよ。ほら、ネギ君だって魔法を説明しろって言われたら何を説明していいか分からないでしょ」

 

「あー、そうですね」

 

 少し待って、と前置きをして、考えをまとめる。

 

 そして、まず錬金術で何ができるかを説明した。

 

 

 できることその1、変性。

 

 物質を別の物質に作り変えることができる。

 

 先ほど木乃香さんにした手品のタネだ。ちょっぴり特殊な粘土を変性させてガラスに変化させた。

 

 簡単な変性であれば、触れただけでできるけど、釜に材料を入れて煮るのが本式。

 

 ただし、金やプラチナなどの貴金属への変性は、物価の問題で違法。

 

 ま、私みたいな駆け出し錬金術師は貴金属とかの変性は難しくて出来ないけど。

 

 

 できることその2、合成。

 

 物質の特性や性質を合成することができる。

 

 例をだすなら「重たいけど硬い金属」と「軽いけど柔らかい金属」を合成して、「軽いけど硬い金属」を作ることができる。逆に「重くて柔らかい金属」も可能。

 

 これまた、釜に材料を入れて煮ると、なぜか出来る。

 

 

 できることその3、理解。

 

 物質の特性や、変性できる物質を見極めることができる。

 

 『見極める』と言っても、単純な知識のことだ。

 

 物質の性質や他の物質への影響・相性・分量、加工方法・時間・温度など、あらゆる知識を持っていないと思い通りの結果が得られない。

 

 ゆえに錬金術師の修行は大雑把に分類すると「勉強・実践・検証」の三つで構成され、特に重要視されるのは『勉強』だったりする。

 

 すごく地味で、これ単体ではなにもできないけど、この技能が低いと錬金術師としては三流以下と師匠は言っていた。

 

 

 

「と、まあ。こんな感じですが、ここまでで質問はありますか? 無ければ次の『錬金術の応用と実践』の解説に移りますが」

 

 などと、教師っぽく言ってみた。

 

 まぁ、全部師匠が私にしてくれた説明の受け売りなんだけど。

 

「よくわかりました。けど……」

 

 ネギ先生は言いづらそうに明日菜さんをちらりと見た。

 

「ん? 明日菜さんがどうしたの?」

 

 私が明日菜さんに目を向けると、

 

「………ぷしゅー」

 

 頭から煙を出し、口からは魂らしき物が抜け出そうになっていた。

 

「アスナさんには難しかったみたいですね」

 

 

「三行で、わかりやすく、口語訳して」

 

 再起動した明日菜さんは理解できなかったのが悔しかったのか、無茶な要求をしてきた。

 

「えっと、1.物を釜で煮れば別の物へ変化させたり合成したりできるよ。2.化学や薬学の知識があるよ。3.研究者なので戦闘は苦手だよ」

 

 私が説明すると、明日菜さんはにっこり笑って、

 

「わかった!」

 

 と、言い放った。

 

 本当にわかったのだろうか?


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