side:リーゼロッテ/女子寮:リーゼロッテ部屋
「よっこいしょ、っと」
私は背負っていたリュックサックを部屋の隅に置き、あたりを見回した。
「今日からここが私の部屋か~」
ソファーやベッド、勉強机などの基礎的な家具類をはじめ、調理用具や調味料。
冷蔵庫をのぞいてみたところ、各種食材までそろっている。
「やべぇ、こんなに冷蔵庫にモノが入ってるのって、はじめて見た」
勉強机の上には「リーゼロッテ・音無さんへ」と書かれた、学園長先生をデフォルメ化したイラスト付きのメモ紙があった。
メモ紙を退かすと、なんと携帯電話が置いてあった。
アドレス帳を見ると、学園長先生の電話番号とメールアドレスのみが登録されていた。
早速学園長先生からのメールが届いているので、見てみると、
“仕事を頼みたいときがあればこの携帯番号に連絡するから、肌身離さずもっておくように。それ以外であれば、自由に使ってよいぞ!(^川^ )=三 ←わし”
と、書いてあった。
つーか、自分で自分の顔文字まで作ったの?!
ちゃんと頭長いって事は、自覚はあるのね。
学園長先生の『頭長おじいさん』もとい、『足長おじさん』は徹底しており、結構な額のお金が入った『当面の生活費』と書かれた封筒や、麻帆良学園の中等部の制服などが見つかった。
「これって、考えようによっては、借金がどんどん増えてるって事だよね……」
麻帆良学園は一貫校だから、大学卒業までどんどん増える予感。
「で、でも、このまま麻帆良で先生でも――」
ピーンポーン
「ヒィ!!!!」
ヤバイヤバイ、借金取りだ! えっと、ここは五階だから窓からの逃走は無理だし、どうしよう!!
フラッシュバックする借金取りとの攻防戦。
その中で、ピンポン音やドアのノックといった『来客を伝える音』は私のトラウマとなった。
ドアをブっ壊して入ってきたのは一度や二度ではない。
窓から逃げたら、別の借金取りに出くわして捕まりそうになったこともあった。
捕まってアレな店に売り飛ばされそうになった所をすんでの所で、警察に保護してもらったりしたこともあった。
あの時は保護してもらった刑事さん、かっこよかったなー。
「じゃない! そんな事考えてる場合じゃない! さっさと逃げ――」
「あのー」
ドアの向こうから子供の声が聞こえた。
い、いまどきの借金取りはえらい若い声だなぁ。
まるで子供みたいだよ。こど●店長ならぬ、こど●組長でもいるんだろうか?
「音無さーん、ネギですー」
「へ、ネギくん?」
そ、そうだった。借金は全部学園長先生がもってくれてるんだった。
もう借金返済の催促(物理)におびえる事はないんだった。
ドアを開けると、そこにはゴツくてやたら毒々しいシャツに白スーツを着た自由業のオジサマは……、うん、いなかった。ちゃんとネギ君だった。
「どうしたんですか? 顔が真っ青ですよ?」
心配そうに私を見上げるネギ君。
あ、でも、担任の先生になるんだし、ネギ先生って呼んだほうが良いかな?
「い、いや。なんでも無いよ。ちょっと嫌な事を思い出しちゃっただけだよ……」
軽く深呼吸をして、気持ちを切り替える。
うん。だいじょーぶ。
「ちょっと聞きたい事があってきたんだけど?」
あ、明日菜さんも来てたんだ。
特徴的なベル付きのリボンで結んだツインテール頭がひょこっと現れた。
「えっと、立ち話もなんだし、お茶でもどう?」
「いいの?」
「いいんですか?」
「うん、引っ越したばかりで、あんまり片付いてないけど」
「あ、それだったら、私手伝うわよ!」
元気よく手伝いを申し出る明日菜さん。
「あははは。ありがたいんだけど、もう終わっちゃったんだよ」
言えない……、非力な女子中学生がリュックサックで抱えられる程度の荷物しか引越し荷物(全資産)が無いことなんて……。
「そう? じゃ、お邪魔しまーす」
「失礼します」
二人を部屋に招き、部屋のテーブルに案内する。
備え付けの電動ケトルを使ってお湯を沸かし、リュックから取り出した自作のハーブティーを淹れる。
これは錬金術の素材収集で山に入ったときに見つけたハーブを乾かした物だ。
材料費ゼロ円で出来る、オシャレで優雅な気分になれる貧乏生活の知恵なのですよ。
「わー、良い香りですねー」
どうやらネギ先生は紅茶党のようだ。実に英国人らしい。
「砂糖と牛乳ない?」
明日菜さんは年相応って感じかな?
私はもちろん、ストレートで楽しむ派!
……嘘です。砂糖はともかく、牛乳嫌いなんだよ。
それで私は乳が育たねーのかなーとか、思いつつ冷蔵庫をあさる。
牛乳、牛乳っと。あった! あ、でもこの牛乳なんかでっかいビンに入ってるんだけど。
なんか高そう。1リットルあたり千円くらいしそう。
開けたらすぐ飲まないと痛みそうだけど、私は牛乳飲めないし、どうしよう?
「の、残しても怒られないよね?」
小市民な私。でもそんな自分が好きだったりする。
「はい、どうぞー」
先ほどの牛乳と、冷蔵庫に入っていた角砂糖のビンを手渡した。
ついでに、茶菓子も適当に冷蔵庫から取ってきた。
「ありがとねー」
私も席について、紅茶を味わう。
「いきなり押しかけちゃってゴメンね?」
「大丈夫だよ、ちょうど暇してたし」
普通のガールズトークに花を咲かせる私と明日菜さん。
そんな中、ネギ先生がおずおずと口をはさんだ。
「えっと、すいません」
「あ、そうだった。ネギ先生、すいません」
「いーのよ。こいつの事なんて」
「え?」
「そんな事より、聞きたい事があって来たのよ」
急にマジ顔になる明日菜さん。
「な、なんでしょ」
「リズってさ、魔法使い?」