リズのアトリエ 麻帆良の錬金術師   作:マックスコーヒー

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5時間目「奇術少女」

side:このか/女子寮:明日菜・このか部屋

 

 

 ネギ君が連れてきた女の子は『リーゼロッテ・音無』という名前で、九州の学校から転校して来たらしい。

 

 第一印象は、ふわふわした桃色の髪の毛が綿菓子みたいやなー。とか思った。

 

 炊飯器の中身が空になった現状を鑑みて、あんまし食べてへんのかと思って聞いてみたら、案の定ここ数日まともな物を食べてないみたいや。

 

 なんでも、麻帆良までの電車代を捻出する為に生活費を極限まで削り倒したとか。

 

 

 改めて、じっくりとリズちゃんを眺めてみる。

 

 ド派手な赤いコートを着ているのでわかりづらいけど、この娘めっちゃ手足長いやん。

 

 海外のモデルさんみたいやで。

 

 

 そんな風に観察していると、気づかれたのかリズちゃんがこっちを向いた。

 

「えっと、木乃香さん」

 

「ん~、何?」

 

「感謝の気持ちをこめて、ひとつプレゼントをしたいのですが」

 

「そんなん、ええのに」

 

「いえ、心ばかりの物ですが、ぜひ受け取ってください」

 

「んー、でも、それじゃ うちが謝礼目的でご飯作ったみたいやん」

 

「あー、うー。あ! それでは、友達になった印ということにして下さい」

 

「そこまで言うんやったら」

 

 んー、なんか友達になったって言っても、口調が固い気がするなぁ。

 

「でも、友達いうんやったら、もうちょっと砕けた感じにならへん?」

 

「え、あー、その」

 

「さっきのアスナと同じ感じで」

 

「わ、わかったわよ。これでいい?」

 

「おっけーや!」

 

 

 

 リズちゃんはアホみたいに大きいリュックサックの中からちっちゃい粘土の入った袋を取り出し、さらにそれをひとつかみ分だけちぎって取り出した。

 

「なにそれ?」

 

 興味深々のアスナは身をのりだして覗き込んだ。

 

「わわっ、あんま近くで見るとタネばれちゃうからやめてくだ……、やめてよね」

 

「あー、なるほどリズちゃんって手品出来るんだー」

 

 どうやら手品を見せてくれるみたいや。

 

 しっかしアレやな。ウチのクラス、ただでさえ色物多いのに、今度はマジシャン少女かー。

 

 でも、微妙にサーカス少女のザジちゃんとかぶっとる? いや、そうでもないか。

 

「で、では木乃香さん。何か好きなマークってある?」

 

「んー、どんなんでもええの?」

 

「できればそんなに難しくないのが良いけど」

 

「なら、羽で」

 

 少し考えて、パッと頭に思い浮かんだ形を答えた。

 

「ん、それなら大丈夫」

 

 リズちゃんはそう言うと、器用に粘土を捏ね上げて、ちっちゃな羽のモチーフが付いた指輪をパパッと作った。

 

「はへー、上手やね~」

 

「では、手をだして」

 

「ほい」

 

 私は左手を出した。

 

 するとリズちゃんは形が崩れないように慎重に、その粘土の指輪を私の指にはめた。

 

「よし、これで準備完了」

 

 ふぅ、とため息をついてポケットからハンカチを取り出して、手を拭いた。

 

「こんな手品見たこと無いわね」

 

「ええ、僕もお姉ちゃんに連れて行ってもらったマジックショーでもこんな感じの手品はありませんでした」

 

「そりゃそうよ。私のオリジナルなんだから。ふふん♪」

 

 自慢げにリズちゃんが胸を張った。

 

 なんか、かわええなぁ。

 

「凄いです! オリジナルですか!」

 

「へー、すごいじゃない!」

 

「うん! 食費を稼ぐために必死で考えたのよ! 低コストでウケて、お捻り貰い易いように工夫して!」

 

 うわぁ。この娘、苦労してるんやなぁ。

 

「私が今日ここにいるのも、この手品のおかげと言っても過言ではないのです!」

 

「へ、へぇー」

 

 

 

「さて、取り出したるは何の変哲もないハンカチです」

 

 ひらひらと白いハンカチの表面と裏面を私たちに確認させる。

 

 ついでに腕まくりもしてる。

 

「これを先ほどの指輪を付けた木乃香さんの手にかぶせます」

 

 ふわりと白いハンカチが私の手と粘土の指輪を隠した。

 

「そして魔法の呪文を唱えます。この時、魔法のせいでちょっぴり静電気が発生するかもだから、気をつけてね」

 

 リズちゃんは両手を胸の前でパンと音がなるほどの勢いで手を合わせた後、右手の人差し指でハンカチの指輪のあるあたりに優しく触れた。

 

「エンドル・ポンド・マルーク。曇りなき清らかなる羽、この指に宿れ!」

 

 パチっと何かが弾けた音がして、私の指に静電気が流れたみたいな感じがした。

 

「ん」

 

「あ、ごめん! 大丈夫?!」

 

「大丈夫、大丈夫ー。思ったより大したことあらへんかったし」

 

「じゃ、じゃあ、続き行くよ?」

 

「どうぞ~」

 

「で、では。このハンカチを取るとあら不思議!」

 

 リズちゃんがハンカチを取ると、粘土の指輪が消えていた。

 

 その代わりに、粘土とまったく同じ形の『ガラスの指輪』が指にはまっていた。

 

「わ、きれいやなぁ~」

 

「今日のお礼です。受け取ってください」

 

「くれるん? ありがと~」

 

 

「ネギ、これって……」

 

「ですね」

 

 ネギ君とアスナがなんかヒソヒソ話をしとったけど、なんやろ?

 

 

 

 ガラス指輪を明かりにかざしたり、手でつついたりしていると、ふとあることに気づいた。

 

「しっかし、アレやなぁ~。リズちゃんも大胆やわー」

 

 リズちゃんは鳩が豆鉄砲食らったような顔した。

 

「はへ? だ、大胆? なんで?」

 

「だって、左手の薬指に指輪って、な?」

 

 その指摘に三秒ほどリズちゃんは思考停止した後、意味に気づいたのか顔を真っ赤にしてあわてた。

 

「あわわわわー! ごごごごご、御免なさい! いや、そんなつもりでは、あ、いえ、木乃香さんに、魅力がない訳ではなく、大変魅力的で、その、あ、そんな意味ではなく、えっと、あの、その……」

 

 リズちゃんって、本当に面白い娘やなぁ。


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