リズのアトリエ 麻帆良の錬金術師   作:マックスコーヒー

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3時間目「逆転少女」

side:リーゼロッテ/学園長室

 

 

「え? 学園長先生? 奴良組の組長じゃなくて?」

 

 私は唖然とした。

 

「奴良組? なんのことじゃ?」

 

 ぽりぽりとその長い頭をかいて、組長(仮)改め学園長先生は首をかしげた。

 

「いえ、すいません。気にしないで下さい」

 

 

「さて、自己紹介の続きをするぞい。こっちが高畑先生じゃ」

 

 学園長先生が指差したのはダンディな方。

 

 私に向かって、スーツのポケットから手を出して手を振った。

 

「君のクラスの副担任じゃ」

 

 なるほど。そういった紹介もここでやってしまうのか。

 

「よ、よろしくお願いします」

 

「よろしく」

 

 

 ん? でも、ダンディーさん…もとい高畑先生が副担任だったら、担任は誰だろうか?

 

 まさか学園長先生が自ら教鞭をとるのだろうか?

 

「で、そっちがネギ君じゃ」

 

 指差したのはすでにいろんなショックで存在が私の中から吹っ飛んでいたスーツの男の子だった。

 

「彼が君の担任じゃ」

 

「よろしくお願いします。ネギ・スプリングフィールドといいます」

 

「は?」

 

 担任? 子供が? え?

 

「どうされました?」

 

 

 私が目を白黒させていると、学園長がフォローしてきた。

 

 曰く、ネギ君はイギリスの魔法学校の卒業生。

 

 卒業後に『偉大な魔法使い』になる為の修行があり、その修行内容が『日本の学校で教師をする』こと、らしい。

 

 それにしたって、十歳の子供を教師って、いろいろマズイ気がするだけど……。

 

 

 

「え、が、学園長。言っちゃって良いですか?」

 

 ネギ君はうろたえた。

 

 どうやら彼は私が『一般生徒』だと思っていたらしい。

 

「うむ、問題ない。彼女は『魔法生徒』だからの」

 

「まほーせいと?」

 

「ネギ君達、魔法使いの先生が『魔法先生』。それに対して魔法使いの生徒を『魔法生徒』と呼ぶんじゃ」

 

「はー、なるほどー」

 

「彼女の場合は、ちーと普通の魔法使いとは都合が違うんじゃがの」

 

 

 そう、私は普通の魔法使いと違う。

 

 その違いゆえに、前の学校ではいろいろ苦労した。

 

 なにせ精霊を介して発動させる放出系の魔法が一切使えない。

 

 たとえば『魔法の射手(サギタ・マギカ)』が一本たりとも撃てない。

 

 無論『武装解除(エクサルマティオー)』も無理だ。

 

 

「ま、魔法使いとしては落ちこぼれなんですけどね」

 

 ちょっぴり自嘲気味な私。

 

 魔法実技の時間、隅っこでぽつーんと体育座りしながら、バンバン『魔法の射手(サギタ・マギカ)』を放つ同級生を眺めるのは、色々きつかった。

 

 

 

「えっと、その、あの」

 

 たそがれている私を慰めようとしているのか、ネギ君はあわあわしている。

 

 なんかちょっとカワイイ。

 

「あ! 『魔法使いとして』って事は他にスキルがあるって事ですか?」

 

 お、気づいた。

 

 伊達に十歳で教師はしていないという事だろうか。

 

 

「そう。音無君は『錬金術師』なんだよ」

 

 こんどは高畑先生が解説役としてネギ君に説明している。

 

 どうやらこの流れを見るに、私の顔見せよりも、ネギ君の育成がメインなんだろう。

 

 私がダシに使われているような気がしないでもないけど、そこはオネーサンの余裕を見せておきましょうか。

 

「れんきん……?」

 

「英語で言うとアルケミストかな」

 

「ああ、ジョン・ディーさんですね!」

 

 イギリスの有名所の錬金術師の名前が出てきた。

 

 おおかた、魔法学校の歴史の授業で習ったのだろう。

 

 

 

「認識の確認が出来た所で、最後にひとつ。音無君、君の経済状況についてじゃ」

 

 うわ、やっぱり来るよなー。

 

 というか、学費どうするんだろうか……。

 

 学費どころか今日の晩御飯代すら無いのに。

 

 麻帆良にパンの耳無料配布してくれるパンの店、あるかな~。

 

「君の借金をわし個人で金融会社から買い取った」

 

「え?」

 

 私は耳を疑った。こんなバカでかい学園の学園長といえど、三億円もの金をポンと出せるだろうか?

 

「とりあえず、利子や返済の催促はせんつもりじゃ」

 

 さらに私は、私の脳を疑った。利子キニシナクテモイイノ?

 

 返済の催促をしないって事は、実質借金帳消しじゃないですか。

 

「無論、色々な条件はあるが、大学の卒業まで奨学金をだそう」

 

 エ? エ? アレ?

 

 あ! そうだ、アレだ、裏があるに違いない!

 

 そう、条件ってのはワシの(ピー)になれとか、ネギ先生の(ピー)しろとか。

 

「条件を大まかに言うとじゃな」

 

 い、言うと?!

 

「大学を卒業したら研究資金と設備もあげるから、麻帆良学園の魔法先生になってくれんかの?」

 

「え!? そ、そんな事で良いんですか?!」

 

「ま、詳しい事は追々での」

 

 なんか、他にもややこしいかったり、いやらしかったり、臓器取られたりしないだろうか?

 

 色々警戒すべき事は多いが、当面の脅威は去った事でいいのかな?

 

 心の底では少なからず安堵したのだろう、今まで忘れていた『感覚』が戻ってきた。

 

 ソレはじわじわと私の理性やらプライドやらを削ってゆく。

 

 

「話す事はこれで終わりじゃ。ネギ先生、女子寮の彼女の部屋まで送ってあげるのじゃ」

 

「はい!」

 

 元気良く学園長先生に返事を返して、学園長室から出て行こうとする。

 

 それに付いていけず、私はその場で立ち止まったまま、ネギ君を止めた。

 

「ちょ、ちょっと待って。そ、その前に……」

 

「はい?」

 

 忘れていた『感覚』、それは……

 

「オナカスイタ」

 

 それだけ言うと、私はへにょへにょとその場に倒れてしまった。


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