side:リーゼロッテ/???
目を覚ましたら、やたらフカフカで高級感あふれるソファーの上だった。
所持金……、いや、全財産がアルミの硬貨三枚ぽっちになった後、空腹からくる目眩で倒れたところまで覚えているのだけれど。
部屋を見渡してみると、アホみたいにでかい絵画が飾っていたり、一冊数千円しそうな豪華な装丁で分厚い本がギッシリ詰まった本棚があったり、社長とかが座ってそうなデスクなどが目に入ってきた。
「ああ、金ってある所にはあるんやなー」
つい独り言が口からこぼれ出る。
最近借金取りから逃げ回っているせいで学校にも行けず、誰にも見つからない場所で一人寂しく過ごすことが多く、独り言が多くなってきてしまった。
「というか、ここ、どこだろ?」
カーテンが閉まっている為、外は確認できない。
「あ」
そこで私は気づいてしまった。
もしかしてここはいわゆる「事務所」なのではないかと。
アレですよアレ。
ヤのつくカタギじゃない感じの人たちが集まるトコ。
三億も借金あったら、普通の方法じゃ返しきれないし、あんな事やこんな事させられるんだろうか。
そのとき、無駄に妄想力のある私は、私自身の未来を予測してしまった。
性的な意味で体を売られて、いろいろ駄目になる私。
物理的に体を売られて、墓に入る脳みそだけの私。
「……うわぁ」
そんな死後まで不幸な私にならない為に、一刻も早くここから脱出しなくては!
唯一の出口に向かって、歩き出す。
幸いにも高そうな分厚い絨毯が足音を消してくれる。
「それにしても、おなかすいたなぁ」
足元がふらつくが、なんとかドアの前にたどりついた……が、
「ぺめぽっ!」
何かが顔にぶつかって後ずさってしまう。
「いたた」
ぶつけた所をなでながら、前方を確認するとドアが開いていた。
しまった! ヤのつく自由業の方が帰ってきた!
「おや、気がついたんだね」
扉から現れたのはショートヘアーのスーツが似合うナイスミドル。
知的なメガネとワイルドなあごひげがとってもダンディ! アレだ。若頭的な人だ。
ニコリと私に笑いかけてくる。
きっと『なかなか粋の良さそうな(ピー)だな(ピー)して(ピー)して(ピー)しよう』などと考えているに違いない!
※検閲削除されました
「よかったのぅ」
つづいて入ってきたのは、老人だった。
老……人? ヒトなのかだろうか?
このヒト、やたら後頭部が長い。
そのとき、私の脳内のパズルピースが完成した。
ヤのつく自由業+頭の長い老人=ぬらりひょんの祖父
うわぁぁぁぁぁぁ! あの漫画って実話やったの?!
「どうやら緊張しているみたいですね」
「ふむ、いたし方あるまい。初日じゃからのう。ネギ君に優しくするように言っておかねばのう」
初日!? すすすすす、スル?! いきなり、いきなりなん?!
ああ、どうやら私のハジメテは“ネギ君”らしい。
というか、中学生でって事は当然いろいろアウトな気がするが、さすがはヤのつく自由業。販売ルートがあるらしい。
「あああああああ」
ぺたんと、その場に座り込んでしまった。
あれ? 足に力を入れても動かない。
こんな時に腰が抜けてしまった……。
そんなレッドゾーンぶっちぎりな精神状態の私に追い討ちをかけるように、次なる登場人物が組長室(仮)に訪れた。
「失礼します」
現れたのは十歳くらいの子供だった。
赤毛で端正な顔立ち。カッコいいというよりは、カワイイ系の男の子。
孫の方もきちゃったよ。
「どうしたんですか? そんな所にすわりこんで」
にっこり私に微笑みかけて、手を差し伸べた。
でも、やさしそうなまなざしが逆に怖い。
私は立たされて、部屋の中央へエスコートされ、組長(仮)はでかくて高そうなデスクにつき、若頭(仮)は部屋の窓際へ歩いていき、カーテンを開け始めた。
孫(仮)は私の横でニコニコしている。
組長(仮)は告げた。
「ようこそ、麻帆良学園へ! リーゼロッテ・音無さん」
「は?」