リズのアトリエ 麻帆良の錬金術師   作:マックスコーヒー

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※飲食店の利益率の話が一部にありますが、数値はネットで適当に調べたものです。
 実際の利益率は違うと思いますので、真に受けないようお願いいたします。


24時間目「盗賊少女?」

side:リーゼロッテ/エヴァンジェリンハウス

 

 

「まーそんな感じでその後脱出したわけですよー」

 

 私達はあの後、学園長先生から教えてもらった非常口を使って、あっさりと図書館島から脱出。テストも無事に終わって晴れてアトリエが使えるようになったので、依頼の打ち合わせの為にエヴァさんのお家におじゃましている。

 

 ちなみに、テストの結果は逆転大勝利で、ネギ先生率いる我ら2-Aが学年トップになりました。おかげでネギ先生は魔法先生実習続行だそうです。私は……うふふ。

 

「それは分かったんだが、なんでお前は大量の食券を眺めてニヤニヤしているんだ? 気持ち悪いぞ」

 

「報酬ですよー。うふふふふ、これでヤキニク定食様が食べ放題ですよー」

 

 そうなのだ、私の手には大量の食券が! 報酬を貰った日からずっとうれしくて、たまに財布から取り出して眺めたりしている。

 

 あの地下図書館でのネギ先生へのフォロー&教育した事で、学園長から図書館の錬金術書の貸し出し許可や大量の食券を貰ったのだ。

 

 いやー、昨日の『ヤキニク定食様』も良かったけど、今日の『とろふわ親子丼定食殿』もなかなか良かった。ふわっととろけるトロトロの卵と、タレが中までしみこんだ鶏肉を一緒にほお張ると、親子の奏でるしょうゆ味のハーモニー! ほっかほかの白ご飯は旨みのあるタレがたっぷり掛かっていて、食後に無料サービスの大盛りがある事に気づき3時間くらい後悔した。あと、箸休めのキュウリとタコの酢の物も、サッパリしてて美味しかった。シラス干しがアクセントになってて、中々の逸品だったよ!

 

 うん、麻帆良学園は学食のレベルもすごいなぁ。

 

「いや、ジジイの依頼の報酬で貰ったっていうのはわかるんだが、なんで現金で貰わなかった? そっちの方が今後の為になるだろう? 借金返済はもちろん、錬金術のマジックアイテムなんかも揃えないといかんだろ? 詳しくは知らんが、割と値段がする物が多かったような気がするぞ」

 

「いえ、オマケが付いてたんです。割とそっちのオマケも重要だったんですけど」

 

「オマケ?」

 

「報酬を食券にすると、通常報酬に5%上乗せの金額の食券にしてくれて、その上今回の試験免除ですよ! 一応転校生だからって事にしてもらいました! ブイっ!」

 

 ふふん、と中学生にしては平たい胸を張る。これでテストを回避したんだし、前の学校で毎日のようにさせられていた追試&課題がとりあえず1回だけは回避できた。

 

 前の学校では、課題&追試で時間がつぶれる⇒生活費稼ぎの依頼を受けられなくなる⇒それでも生きていく為には稼がねばならず、勉強の時間を削って仕事⇒テストでひどい点を取る⇒課題&追試で時間がつぶれるの無限ループで成績はどんどん悪くなる一方。

 

 理科とかの錬金術師として必要な技能が含まれる科目は何もしなくてもある程度点が取れるのは良いんだけど、徹夜で依頼の品を作っている関係で、授業中や休み時間はほとんど寝てて、一切聞いてないから……、こんなんじゃ良い点どころか平均点ですら取れたら奇跡だよね?

 

 その上、ずっと寝てるもんだから、クラスメートとの会話は事務的な会話以外はほとんど無かったし。まさに灰色の青春時代。

 

 あー、なんか考えてて悲しくなってきた。

 

「うわ、ジジイせこいな」

 

 そんな風に前の学校の事を振り返って、この麻帆良学園ではまともな学校生活を送ろうと決意を新たにしている所にエヴァさんから意外な言葉が出てきた。

 

「へ?」

 

「よくよく考えてみろ、学食といえど売値=元値なわけじゃい。一般的な飲食店で利益率70%前後と言われているが、学食なら大分低くなるだろうから30%って所か」

 

 なんか意外とエヴァさんって物知りなんだなー。飲食店の利益率みたいな俗っぽい雑学を知ってるなんて、意外だ。なんか、こう、エヴァさんってイメージ的には『パンが無ければケーキを食べればいいじゃない』系の人かと思ってたけど。

 

「今、かなり失礼な事を思わんかったか?」

 

「ソ、ソンナコトナイヨー。あははは、食べ物屋さんって、結構取ってるんデスネ~」

 

「フン、まぁいい。つまりジジイにとって、報酬上乗せ分も含めても実質73%の出費という事だ。それにテストにしたって、テストを課しているのは学園側だ。マッチポンプもいい所だな」

 

「ほへ?! そ、それじゃ……」

 

「あのジジイに化かされたんだよ」

 

「えぇーーーーーーーーーーーー!」

 

「うるさいだまれ」

 

「すいませんでした」

 

 速攻で謝る。クライアントというのもあるけど、どうもこの人に逆らっちゃいけない気がする。見た目はどう見ても中学生にすら見えないほどの洋ロリなのに。

 

 いっつも横柄な態度で、しょっちゅう授業をフケるサボり魔で、付き人っぽい絡繰さんに無茶言ってオロオロさせてみたり、色々滅茶苦茶な人だけど、それでもそんな傍若無人な態度が「当たり前」だと思える凄みがある。

 

 上質な金細工のような光沢のある長く伸びた金色の髪。幼くもどこか陰のあるミステリアスな表情。まっさらで白く、シミ1つ、傷1つ無い滑らかでさわり心地の良さそうな肌。なんというか、こうしてエヴァさんの特徴を挙げていくと、ワガママお姫様って感じだなぁ。

 

 私が逆らっちゃいけないと思うのは、彼女の瞳が普通の人と違うから。率直に言ってしまうと師匠と同じ瞳をしているのだ。虹彩の色とか目の形とかじゃなく、雰囲気的な物が。思い出す修行?の日々。私が師匠の料理を残したという理由で適当レシピで作った年齢詐称薬(消費期限切れ:5年物)の実験体にされたり、私がうっかりアトリエの掃除を忘れていたという理由で即死トラップがウヨウヨある遺跡に文字通り裸一貫で素材収集ツアーを挑まされたり、何度も何度も死ぬかと思った。

 

 以上のように、なにかしら気に食わない事があると、すぐに不機嫌になって顔に出る・態度に出る・行動に出る、そして私に八つ当たりをする。そりゃあ、私が料理残したり掃除忘れたりするのも悪いけど……、小指をタンスの角にぶつけて痛いからという理由で24時間耐久で怖い話CD『魔法使いの世界で本当にあった怖い話』をヘッドホンで聞かされた時はさすがに家出を考えた。普段は気風の良いお姉さんなんだけどなぁ。……だから結婚出来ないんだよ。

 

 あれ? 今考えると、エヴァンジェリンってどこかで聞いた事のある名前だけど、何だっけ? ま、いっか。

 

「ちくしょう。ならばこっちにも考えがあるですよ。ウフフフフ」

 

「なんだ、またそんな気色悪い笑い方をするな」

 

 私は鞄からとある本を取り出してエヴァさんに見せて、言い放つ。

 

「じゃじゃーん! ここに取り出したるは伝説の『メルキセデクの書』! ドサクサにまぎれてちょろまかしておきましたー! これ、買いません?」

 

「おま、錬金術師よりも盗賊の方が合ってるんじゃないか? そんな物私が持ってたら、学校の教師どもに吊るし上げ食らうわ! ただでさえ立場が微妙なのに、そんな厄介物いらんわ!」

 

 少し青くなるエヴァさん。しかし、ここで引き下がっては『とある計画』がお釈迦になってしまうのです。だから攻めて攻めて攻めまくるっ!

 

「あ、いえ、そのまま返還すれば良いんじゃないですか?」

 

「は? じゃあ、なぜ私が意味も無くその本をお前から買わにゃならんのだ?」

 

「過程の違いによる利益発生の問題ですよ。私がこの本を『返却』する場合と、エヴァさんが本を『返還』する場合では、大分違いますよ」

 

 これだけ言うと、頭の良さそうなエヴァさんは察しがついたようだった。

 

「返却、返還……。なるほどな、お前が返却すればただ、借りたものを返すだけ。もしかしたら、勝手に図書館から持ち出した事で何かしらのペナルティが発生する可能性もある。しかし、私が『偶然』発見した図書館の蔵書である貴重な魔法書を『善意』で返還する事で学園側に借り、もしくは何かしらの交渉材料にも使えるというわけか」

 

「大体そんな感じです。私が売るのは魔法書ではなく、学園の借りって感じですね~。私は錬金術師ですから、魔法関連しか載っていないこの本には値打ちくらいしか興味はないんですけど、持っておくだけにしては危ないですし、かといって外部に売り払ってお金にしたらばれた時が怖いのですし、値段が付けられないくらい高価な本だったら本当にどうしようもなくなりますからね」

 

 私が補足すると、なぜかエヴァさんは微妙な表情になった。

 

「なんというかアレだな」

 

「アレ?」

 

「本当にお前、錬金術師か? 考え方がまるっきり盗賊(シーフ)じゃないか。金目の物を掠め取ったり、流通手段考えたり」

 

「えへへへ~! その点はウチの師匠も褒めてくれるんですよ~」

 

 なぜか交渉事に関してはわりと得意なのです。師匠が、冗談で「これなら詐欺師として教育した方が良かったかもな」とか言ってたっけ。

 

「褒めとらんわっ!」

 

 エヴァさんは私にツッコミを入れた後、しばらく本を手にとってパラパラと内容を確認したり、額に指を押し付けて、数秒考え込んだりしている。

 

 そして、急に顔を上げて私のほうを向いて、藪から棒に言った。

 

「で、いくらだ?」

 

「え!? 買ってくれるんですか?」

 

「いや、お前から言い出した事だろうが?」

 

「あはは、そうでしたね。こんなに交渉事が上手くいくなんて思ってもみなかったですし。師匠が相手だったら、あと2時間は値段交渉を有利に進める為の前交渉がありますよ」

 

 忘れもしない数年前、夕食をカレーにするかシチューにするかで師匠と喧嘩になって、12時間にもおよぶ大激論の末に食べた朝食(ビーフシチュー)の味は脳裏に焼きついて離れない。今にして思ってみれば、あれが師匠に唯一勝負事で勝った出来事かもしれない。

 

「なんというか、お前がそんな風に育った理由が分かった気がするぞ」

 

「ほへ?」

 

「いや、いい。あのジジイに借りを作れるなら、いくらでも用意させてもらおう」

 

「おおう、白紙小切手ってやつですか。でもまぁ、今回は代金はお金じゃないんですよ」

 

 お金もノドから手が出るほど欲しいんだけど、『とある計画』の為にどうしてもエヴァさんの協力が必要なのだ。

 

「ほう。どういう事だ?」

 

「えっと、その……、先日テストが終わった後に図書館島に錬金術書を借りに行ったんですけど……」

 

 凄い品揃えだった。錬金術・魔法薬・魔法触媒関連の本が所狭しと並べられたフロアは、なんか見てるだけで鼻血が出そうだった。正直、錬金釜と機材を搬入して、ここに永住したいと思ったくらいだ。

 

「それで?」

 

「これがその錬金術書で……」

 

「ふむ、中級者向けの魔法触媒関連の本だな」

 

 1度の貸し出し数制限や、貸し出し期間に読んだり、書き写したりする事のできる限界数を3時間かけて厳選して借りてきたんだけど、帰ってきて本を開いて、とても重要な事に気づいた。

 

「中身が……、英語なんです」

 

「そうだな……、ん? まさか、お前」

 

「英語……、教えて下さい」

 

 私の考えた『とある計画』。それは、専門用語で埋め尽くされ、難解な暗号で守られたこの錬金術書の解読する為に、エヴァさんから英語を習う事。

 

 魔法関連にも造詣がある英語教師といえば、ネギ先生が1番に上がるわけだけど、図書館島であんな偉そうな事を言ってしまった手前、今更「英語を教えて下さい」なんてかっこ悪い事できねーですよ。あははは。


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