side:ネギ/図書館島・地底図書室
「クーフェイさん! 次に右から大振りパンチが来たら、そのまま左にさばいて下さい! その隙に長瀬さんは6時方向から狙撃を!」
うっかり、生徒の皆さんの前で
「おお! 連携攻撃というのは香港映画みたいでかっこいいアルね!」
今現在、僕たちは図書館の蔵書を守るゴーレムと交戦中です。音無さんがクーフェイさんと長瀬さんを指揮して戦っていますが、僕は何も出来ずに立っているだけです。
僕は今、魔法が使えない。正々堂々と普通の教師として、魔法の力に頼らずにこの期末テストを乗り越える為に一時的に魔法を封印したからだけど、これじゃあ援護の
それは、一人前の教師への道、そして立派な魔法使いになる為に必要な事だと思ってした事だけれど、さすがにこんな状況は想定外。
どこの世界に期末テスト対策に頭の良くなる魔法の本を探しに行く中学生がいるのだろうか。というより、中学生がちょっとがんばれば手に入れられるような所に伝説のメルキセデクの書なんて置かないでくださいよ、学園長先生~。
「ほほう、音無殿の指南は的確でゴザルな……ハッ! っと、防がれたでゴザル。申し訳ござらん」
そうだ! あんなに的確な指示を出している音無さんなら、僕に的確なアドバイスをしてくれるに違いない! だって、音無さん自身は魔法は使えないみたいだけど、僕が魔法先生をしている事も知っているし! それに、封印魔法をはずすマジックアイテムを持っているかもしれない。そうすれば、僕は魔法の杖で皆さんを一気に地上まで運ぶ事が出来るし、テストにも十分まに合う!
「いえ、問題ありません。まだチャンスはあります! 次は――」
「あ、あのー、僕は何をすれば」
「あ、バカネギ! 今リズちゃん忙しいの見てわからないの!」
明日菜さんに怒られちゃった。うう、確かにそうだ。状況を見て指示を行うには相手の動きをよく見て、ワンテンポ早く予測してアドバイスを出さないといけない。それなのに、僕は指示を遮って音無さんの邪魔をしてしまった!
「あ! その、ゴメンなさい!」
「大丈夫ですよ、ほら」
「「え?」」
音無さんが指をゴーレムの方を指差すと、崩れ落ちるゴーレムとこちらに歩いてくるクーフェイさんと長瀬さん、そして長瀬さんの小脇に抱えられた佐々木さんがいた。
「あっさり倒しちゃいましたねー。これじゃ、私がいなくてもなんとかなったかもしれませんねー」
「いやー、ゴールドの指示があってこそアル」
「そうでゴザル。どこでこんな事を? やっぱり師匠殿に?」
「ま、そんな感じです。あと、ゴールドは止めて下さい」
す、すごい。音無さんの指示でゴーレムを普通の人が魔法を使わずに倒しちゃった。クーフェイさんと長瀬さんが多少規格外のスペックを持っていたとしても、これは普通じゃない。
「さて、ネギ先生。あんな時、何をすればいいかでしたよね?」
クーフェイさんと長瀬さんの方を向いていた音無さんは、くるりと反転してこちらを向いて、にっこりと笑った。
音無さんは明日菜さんみたいにネカネお姉ちゃんに顔立ちが似ているわけではないけど、彼女がボクに取って置きの魔法を教えてくれた時のような、得意げで、だけど上品な華のある表情をしていました。
「は、はい!」
「答えは単純明快です。自分を信じて下さい」
「「「「「は?」」」」」
予想の斜め上の回答だった。僕は勿論、一緒に聞いていた他のバカレンジャーの皆さんや木乃香さんも驚きのあまり目が点になっていました。
「たとえば、ネギ先生があの石像風ガードロボの立場だったとして、どうされたら嫌だと思う?」
「えっと、あの石像は本の番人でしたよね? やっぱり、本を奪われるのが嫌……ですかね?」
「うん、半分正解!」
「あの石像の優先順位の最上位はおそらくあの特別な本にあると思う。暴走していたという状況下でも、きっと本に危害が加わるような状況を見逃したりしないはずです。手段の善悪と後始末の大小を考えなければ、ライターでもなんでもいいので火をちらつかせて『図書館を燃やすぞ』って言えば動揺をさそえるし、十中八九、止めようとアクションを起こす。そこを狙い撃ちするようにクーフェイさん達に言えば終了です」
「ななな、なにを言ってるです! 麻帆良学園図書館島には、たくさんの貴重な本が!」
「例えばの話ですよ。あははは、それにブラフだけなら特別な知識が無くても、発想と勇気しだいで誰でもできます」
「兵は詭道なりというやつアル?」
「そうです。正々堂々とかはスッゴイ強い正義の味方しか言っちゃいけません。せこくても卑怯でも生き残った方が勝ちです。勝てばよかろうなのだー!なのです」
「えー、リズちゃん、そうそう簡単に引っかかってくれるの?」
明日菜さんが疑惑のまなざしを音無さんに向けながら切り出した。
「意外と人とかシステムとかを騙すのは、割と簡単ですよ?」
涼しい顔で受け答えをする音無さん。ふと思ったのですが、音無さんって昼間の学校での印象とだいぶ違っているような気がする。単に地が見えてきただけのような気がするけど、目の前の凛々しい音無さんが、英単語野球拳でボロ負けして「にゃぁぁぁーーー」とか叫んでたような人にはとても見えない。
「えー、ホントー?」
「では明日菜さんに試して……って、アレ? あそこに誰かいませんか? なんか背が高くてかっこいい感じの男の人が……」
「え? もしかして高畑先生!? ど、どこ、どこよ!」
「はい、引っかかりました」
「「「「あはははははは」」」」
「り、リズちゃんーー!」
「でも、効果的なブラフを考え付いても相手に信じさせる事が出来なければ効果半減です。そこで最初の『自分を信じる』って所に戻って下さい。自分を信じる事は相手を騙す上で重要な見た目の要素を底上げします。おどおどしながら嘘をつくより、堂々と宣言した嘘の方がバレにくいんです。さらに『自分を信じる』事ができると、『自分ならこの状況を打開できるはず』ってプラスの考えができるようになり、『特別な知識』が無くても、ライター1個あれば火を出せるんですから。たとえライターを持っていなくても、持っている風に見せかける事ができます」
たぶん『特別な知識』っていうのは、魔法の事を言っているんだろう。
今でも僕は、立派な魔法使いになる為に、正々堂々勝負しなきゃいけないと思っている。
だけど音無さんの意見はそれとは正反対。嘘を付いても、汚い手を使っても、とにかく勝つ。
「ネギ先生は頭が良さそうだから、わかりますよね? なんにしろ経験は大事です。いざという時、正攻法が通じなかった時、どうしようもなくなった時、それでも『何をしても勝つ』という覚悟とそれを実行する為の胆力やその他諸々は座学や訓練では鍛えられないんです。逆に正攻法は普通に訓練すれば普通にいつでも上がるんですから、実戦で邪道の経験値を稼いだ方が効率が良いじゃないですか?」
「なるほど、そういった考えがあの堂々とした指揮に繋がっているのでゴザルなぁ~」
「ちょっと、いやダイブ穿った考えデスね。でも嫌いじゃないデス」
「んー、なんか納得いかないわねー。なんかやっぱりスカっと勝ちたいじゃない?」
「まー、人それぞれやし、ええんやない? 絶対に負けたらあかん勝負もあるんやし」
「ふむ、一理あるアルネ!」
それぞれの感想を他のみんなが述べた。長瀬さん・綾瀬さん・クーフェイさんは賛成派、近衛さんは消極的賛成派、反対派は明日菜さん1人だけ……。もしかして僕たち魔法使いの常識って世間一般からちょっとずれてるのかな? 明日菜さんは性格的な部分で賛成できていないだけな感じがするし。
そしてその後、音無さんは僕に回答を求めなかった。
あくまで立派な魔法使いとして正々堂々を貫くか、それとも勝つ事を最優先として邪道を由とするか。
効率や勝率を考えたらやっぱり邪道の方もアリなんだろうけど、やっぱり
でも、1つだけ音無さんの言っていた言葉で、いまだに引っかかっている所がある。
『正々堂々とかはスッゴイ強い正義の味方しか言っちゃいけません』
僕は……、正々堂々という言葉を……、使っても良いくらい強いのだろうか…………?
大変お待たせいたしました。
少しばかり仕事が忙しかったのと、この話の主軸(コメディorシリアス)をどう置くかで迷っていました。
結果としてはごらんのように、ネギ君視点のシリアス気味に話が進みました。これによりネギ君の成長フラグが原作よりも多めに1つ立った感じですね。
それにしても、原作キャラの口調の統一って難しいなぁ。ネギ君みたいに2面性があるタイプは特に。モノローグで口調がフラフラしているのは……心が不安定になっているという事にしておいて下さい。
一応、裏側を説明しておきますと、リーゼロッテさんは前話で学園長に追加依頼として、この場の収拾と、ネギ君の「正義の味方一辺倒ではない、清濁併せ持つタイプ」に成長するよう、助言をするように言われました。ですので今回は、リーゼロッテさんは結構多弁です。
ネギ君が言うように、彼女が別人に見えるというのも、彼女が気を張って『自分を信じた状態』であるからで、自信満々で解説する事で説得力を上げようとしているためです。解説と実演を同時に行っているわけですね。
次話は早くお届けできるようにがんばりますので、気長にお待ち下さい。