リズのアトリエ 麻帆良の錬金術師   作:マックスコーヒー

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18時間目「少女のインガオホー」

【現在】

side:リーゼロッテ/図書館島・????

 

 

「うがーー! 第一問! 「DIFFICULT(ディフィカルト)」の日本語訳は!」

 

 早くもバレちまったですよ。せっかく仮面とか学園長に用意してもらったのに。

 

 それともアレかな? 赤くて3倍の人のヘルメットの方が良かったかなぁ。でも、今の衣装にあってないからなぁ。

 

 とまぁ、そんなこんなで学園長先生に頼まれて、英単語ツイスタークイズの司会進行を勤める事になってしまった。

 

 そういえばこの魔法書って、けっこうレアなやつだよね……。いくらで売れるのかな。

 

 いやいや、学園に雇われている側としては、さすがにソレは色々アウトだよね。あはは。

 

 一応報酬も出るし。図書館島蔵書の錬金術のレシピブックを数冊貸し出してくれるという話だから、けっこうワクワクしてる。すっごく読みたいけど、確実にテストに支障が出るというもっともな理由で、報酬の受け渡しはテスト後になるみたい。

 

 

 

『次の問題の英単語読めるかの?』

 

 こっそり耳にセットしている小型の通信器から学園長の声が聞こえた。いきなり声を掛けられてちょっぴりびっくりした。

 

 もしかして今の衣装がやたらフリフリなのって通信器やらマイクやらを隠すためだったりするのかな?

 

「さすがに「CUT(カット)」くらい読めますよ。お望みなら『クット』とか『キャット』とか読んで、誤回答させましょうか?」

 

『フォフォフォ。音無君の前の学校のテスト珍回答集を、君のクラスの朝倉君の机にうっかり「置き忘れて」もいいんじゃよ?』

 

「ちょーし乗ってすいませんでした!」

 

 くっそー、学園長め。通信機に音声飛ばせるならゴーレムにスピーカー付けて自分で喋ればいいじゃん。

 

『こちらにも事情というものがあるのでのぅ』

 

「そうですか、それじゃ仕方ない……って! 人の思考を勝手に読まないでください!」

 

 しっかし、錬金釜の受け渡しの手続きをしにいったはずが、なんで私がこんなしちめんどくさい事を。どう考えても、錬金術師とか魔法生徒のやることじゃないような気が、ってまた学園長に思考を読まれてしまう。

 

 錬金釜の配送手続きだけだったら、私は今頃、九州在住時代に工房の硬いソファーで寝起きをしていた分を取り戻すべく、暖かくて柔らかいベッドを十二分に堪能し、満喫し、思う存分ふわふわ・もふもふするはずだったのに。

 

 ま、受けちゃった依頼はちゃんとこなさないと信用に関わるから、キッチリやりますけどね。

 

 

「えーと。では、バカレンジャーの皆さん、回答をどーぞ!」

 

「むっきー! リズちゃんだってバカレンジャーじゃない!」

 

「裏切ったアルか! バカゴールド!」

 

 私の回答の催促に明日菜さんが噛み付いた。噛み付きたいのは催促部分じゃなくてバカレンジャー呼ばわりの部分だろうけど。でも明日菜さん、その言い回しだと自分でバカレンジャーだという事を認めているよーな気がするよ?

 

「言い忘れてましたけど、成績優秀な木乃香さんとネギ先生は口出し無用ですよー」

 

「そんなの私が分かるわけ無いじゃない!」

 

「ギャー! わ、わかんないよー!」

 

 追加ルールに阿鼻叫喚のバカレンジャー達。

 

「ア、アスナさん、まき絵さん、落ち着いて! ほら、『EASY(イージー)』の反対ですよ! えと『簡単じゃない』です!」

 

 あわてたネギ先生が助け舟をだした。微妙にルール違反な気がするけど、学園長からの通信がないから問題ないのかな?

 

「『む』は拙者にまかせるでござるよ」

 

「そうそう!」

 

「あった!『ず』だよ!」

 

「『い』ね!」

 

 予想の斜め上を行く回答だったので、小声でマイクに向かって学園長に伺いを立てる。

 

「が、学園長。『ムズい』だそうです。オッケーですか?」

 

『難い……、テスト的には三角じゃが。ま、よしとするかの』

 

「了解です」

 

 どこぞの人気司会者Mのように溜めに溜めて、宣言する。

 

「………………………………………正解!」

 

「「「「おー!」」」」

 

「これで本GETだね!」

 

「ところがどっこい、第二問! 『CUT(カット)』」

 

「ちょ!」

 

「え、って、コラ! ちょっとちょっと!」

 

「別に私、1問で終わりとか言ってないもーん」

 

「バ、バカゴールド、ズルいアルよ!」

 

「わーん!」

 

「そもそも、出題が1問だったらこの人数でツイスターにする意味ないです」

 

「それもそうでござるな」

 

 

 

========================

 

 

 

「い、痛いです」

 

「痛い痛い痛い痛い!」

 

「あたたたた!」

 

 十一問目にして、皆さん色々限界な御様子。

 

 なんかアレだね。ゲームとはいえ、なかなか刺激的な格好だね。パンツ丸出しだし、ポーズも色々きわどいし。

 

 うん、早く終わらせてあげるのがせめてもの情けかな。幸いにも次の問題が最終問題だし。

 

「では、最終問題いきます!」

 

「おお! やったです!」

 

「はやく! はやく、問題プリーズ!」

 

 お、明日菜さん、早くも学園長監修「たのしくまなぼう! ☆英単語ツイスター☆Ver10.5」の効果が現れた様子。英語が超ニガテな明日菜さんの口から『プリーズ』という単語が出てくるとは……。

 

「いえ、私も関心している所ですが、体勢がヤバめですので最後の問題を」

 

 おっと、綾瀬さんから突っ込みが入ってしまった。

 

「了解です! 『DISH(ディッシュ)』の日本語訳は?」

 

「えっ、ディ・ディッシュ?」

 

 バカイエローことクーフェイさん、分からない様子。というより、無理な体勢で極限状態で頭が回らないのかな?

 

「ホラ! 食器の、食べるやつ!」

 

「メインディッシュとかゆーやろー?」

 

 成績優秀者二人からヒントが飛ぶ。木乃香さんのヒントはナイスですね! でも、なんかネギ先生のヒントはほとんど答えなんじゃ……、でも明日菜さん辺りが「食べるやつ」の部分に反応して、面白回答したり――

 

「わかった! 『おさら』ね!」

 

――しなかった。んー、ちょっと残念。

 

「おさら、おっけー!」

 

「お」

 

「さ!」

 

 最終問題の回答をひらがなを危なげなくタッチしていくバカレンジャー達。さすがに無難に回答して――

 

「「ら!」」

 

「「あ」」

 

――出来なかった。明日菜さんと佐々木さんが、事もあろうか「ら」ではなく「る」をタッチしてしまった。

 

「……おさる?」

 

 静まり返ったこの部屋に、ネギ先生の声が響いた。

 

「ち、違うアルよーー!!」

 

「アスナさんーー!」

 

「まき絵ーーー!」

 

 不正解者に非難の声が上がる。正解が分かっていただけに、非常に残念。

 

 だけど、不正解は不正解なのです。昔、歴史のテストで回答が『大阪城』というのが正解の問題で、ひらがなで「おおさかじょう」と書いたものの、かっこ悪いという理由で一度消し、漢字で「大阪城」と書いたつもりが、消し残しがあって「太阪城」になって不正解になり、そのせいでギリギリ赤点になってしまった事がある私としては、見逃してあげたいところだけど……。無常にも通信機から声が聞こえた。

 

『ハズレじゃな。フォフォフォ。コールを頼むぞい』

 

 心の中で「了解です」と答えた。たぶんこれで学園長に伝わるんじゃないかな? どうせ思考読んでるだろーし。

 

「不正解です!」

 

 不正解のコールと同時にゴーレムが動き出す。予想以上に俊敏に手に持った巨大なハンマーを振り下ろし、ツイスターのボードを叩き割る。

 

 もしかして、バージョンが10.5なのって、不正解になる度に叩き割ってるから?

 

「アスナのおさるーー!」

 

「いやあぁぁぁ!」

 

 足場を叩き割ったことで、バカレンジャーとネギ先生と木乃香さんが落とし穴に落ちていった。覗き込んでみると、めっちゃ深そうなんだけど、大丈夫なんだろうか?

 

『図書館島には腕利きの魔法使いの司書がおるからの。安全対策は万全じゃ』

 

 なるほど。魔法関連の書籍があるのに、司書が一般人じゃ問題あるもんね。うっかり、料理本に偽装した錬金術書が一般書架に並んだら不幸な人が出るだろうなぁ。料理をレシピ通り作ったのに得体の知れないナニカが出来たり、あるはずの錬金術書が見つからないとか。

 

 師匠が言うには錬金術師にとって研究『内容』は、それこそ賢者の石とかの研究『結果』よりも大事だったりするらしい。だから、変な人に自分の研究内容を見られたりしないように、暗号化する。私や師匠は漢方薬の調合書風にしているから、普通の人や他の錬金術師に見られても、ちょっとやそっとじゃ分からないようになっている。

 

 私が麻帆良に持ってきた数少ない荷物の大半は師匠と私の研究書だったりする。でも、師匠の研究書は読んでもさっぱりわかんねーですよ。ハイレベルすぎて。

 

 

 閑話休題。

 

「えっと、これでお仕事終了って事でいいんでしょうか?」

 

 眠くて、あくびが出るのを抑えつつ、学園長に聞いた。

 

『うむ。そうじゃな』

 

「では、私はこのへんで……」

 

『この部屋の本はどれも背表紙だけのフェイクじゃよ?』

 

 なぜバレた。

 

 バカレンジャー達を待っている間、暇だったからこの部屋の本を物色していたのだけど、有名かつハイレベルな魔法書や錬金術書が無造作に本棚に並んでいたので、帰るときに2~3冊拝借していこうと思ったのに。

 

 というか、ニセモノだったのね。どうりで世界に1冊しかないはずの本が数冊ならんでるわけだよ。写本にしても本の感じが新しいし……。

 

『ふむ。今、君の成績表をみておるんじゃが、音無君も彼女達ほどでもないが、もっと勉強したほうが良いんじゃないかの?』

 

「あははは。ソ、ソウデスネー」

 

 あれ? なんか不穏なふいんき(なぜか変換できない)だぞ?

 

『そうじゃの。学園長である前にイチ教育者として、みっちり指導したい所じゃが、学園長以外にも色々仕事があっての』

 

 ゴーレムが私をつまみあげてるぞ?

 

『そこでじゃ! 集中して2日間勉強できる環境と優秀な指導者をプレゼント・フォー・ユー。なのじゃ』

 

 ゴーレムは落とし穴の上に私を持っていく。私の足元にはぽっかりと穴を開けた落とし穴の闇が広がっている。

 

「ちょ、ま! 落ちる、落ちる、落ちる!」

 

『ガンバ☆』

 

 意外とお茶目だな、学園長。じゃ、なくて!

 

 次の瞬間、突然ゴーレムが私を放した。

 

「あっ」

 

 当然、私は落とし穴にまっさかさまに落ちていった。

 

「やっぱりぃーー!」


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