リズのアトリエ 麻帆良の錬金術師   作:マックスコーヒー

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17時間目(ウラ)「少女は求め訴えたり(sideリズ)」

【バカレンジャー+1が魔法書の部屋に到着する3時間前】

side:リーゼロッテ/麻帆良学園・学園長室

 

「失礼しまーす」

 

 1日ぶりに学園長室に訪れた私を迎えたのはあいも変わらず頭の長い学園長先生だった。応接用のソファーに腰掛けていて、昨日の豪華でいかにも社長とかがふんぞりかえってそうな机にはいなかった。

 

「おお、良く来てくれたの。どれ、茶でも淹れるとするかの」

 

 テーブルには海苔巻きせんべいやオカキの入ったお椀がのっていた。他には、作業中だったのかでっかい判子と沢山の書類が散乱している。

 

「あ、すいません。ありがとうございます」

 

 ちょっぴり緊張気味の私。声が上ずる。

 

「転校一日目はどうじゃったかの?」

 

「あ、はい。えっと、クラスの皆が個性的で、なんかもう圧倒されっぱなしで」

 

「フォフォフォ、そうじゃのう。あのクラスは飛び切りじゃからのう」

 

 実に先生と生徒っぽい会話。

 

 昨日はなんやかんやでいっぱいいっぱいだったけど、現在私はこの人に3億円もの借金を肩代わりしてもらっているわけで。故に命の恩人と言っても過言ではないわけで。

 

「ほい、ほうじ茶でよかったかの? このあいだ、京都の婿殿から送ってきた中々の一品じゃ」

 

 京都といえば昔、急に師匠が『そうだ、京都に行こう』とか言い出して、1週間帰ってこなかったと思えば、いきなりボロボロになって帰ってきたりしたなぁ。一体何をしてたんだろう。あの後、妙に羽振りが良かったし、京都でヤヴァい仕事でもしてたのかなぁ。

 

「あ、はい。頂きます」

 

 早速、お言葉に甘えてお茶をいただく。

 

 淹れたてのお茶は熱かったけど、ふーふーして口に含むと、かすかに甘みのある上品なお茶の香りが口の中に広がる。心が豊かになるというか、ほっこりして、なんか落ち着く。

 

 さすがは京都産。いつもウチで飲んでた徳用のやっすい茶葉とは訳がちがうなぁ。

 

「ほはぁ~」

 

 思わずため息がでた。やべぇ、今、顔が外に出てる用の顔じゃない気がする。例えるなら、自室でパジャマで、休みの日で結構寝坊して、暖かな日差しを受けながら朝食兼昼食をゆるりゆるりとテレビ見ながら食べてるような顔してる。

 

「ほほほ、気に入ってもらえたようじゃの」

 

 ニコニコ顔の学園長先生。なんかちょっと、素の部分を見られたみたいで、恥ずかしくなってきた。

 

「あ。なんか、すいません」

 

「中学2年生でお茶の味が分かるのは、中々おらんぞい? 中等部には茶道部もあるから、入ってみるのもよいかもしれん。音無君のクラスにもたしか茶道部はおったはずじゃ。えーと誰じゃったかのう」

 

「へー。そうなんですかー」

 

 茶道部かー。前の学校では部活動必須じゃなかったし、魔法生徒の依頼やらなんやらで忙しかったから縁がなかったからなぁ。着物とか着たりできるのかなー。

 

 クラスの茶道部かー。木乃香さんとか着物が似合いそうだなー。流れるような黒髪で、きっと日本人形みたいな感じなのかなー。

 

「そうそう、エヴァンジェリンじゃ。あと、絡繰君じゃったな」

 

「……へ?」

 

 脳内の茶道部のイメージ映像が、清楚で趣のある着物を着た木乃香さんのイメージから、とにかく派手で攻撃的なデザインの着物を着て、なぜか半分着崩した妖艶なロリボディのエヴァさんに切り替わった。

 

 一瞬お茶を吹き出しそうになったけど、必死に堪えて飲み込んだ。

 

「そうなんですか、なんか意外ですね」

 

「フォフォフォ、エヴァンジェリンは日本文化が好きじゃからのう」

 

 エヴァさんの話をしていて、思い出した。何個か、学園長に聞いておかなければいけない事があったんだった。

 

「そういえば、今日エヴァさんから頼まれ事をしました」

 

「ほう、どんなモノを頼まれたんじゃ?」

 

「いえ、ただの花粉症の薬です。私が錬金術師って事を知ってたんですけど、魔法関係者なんですよね?」

 

「ふむ。花粉症の薬……。なるほどの」

 

 少し考え込んだ学園長。なにか思うところがあるのか、含みのある表情をしている。

 

「うむ。ああ見えて、結構戦闘力があるからの。警備員のような事をやってもらっておる」

 

「そういうことでしたか。それからもう1点、この依頼で少しばかり報酬をいただける事になったんですが、学生が商売みたいな事をして問題なかったでしょうか?」

 

 あと、薬剤師でもない私が薬の調合したり、売ったりするのは薬事法違反というのは重々承知なんだけど、前の学校では特殊な効果を発揮する魔法薬とか、魔法の効果をブーストする魔法触媒なんかの製造を一手に引き受けてた関係上、今更って感じ。

 

 そもそも、錬金術師の薬って基本的に無認可の漢方扱いだからなぁ。そんな物、中学生が売ってたら、色々問題ある気がするし。

 

「麻帆良ではそういった補助に特化した魔法先生も生徒も皆無じゃから非常にありがたい。九州での魔法薬の評判も聞いておるし、その辺は問題無いんじゃが……」

 

 何かを懸念している様子の学園長。もしかして、お金儲けとかに走って、なんかヤバイものでも買ったりしないか心配しているのだろうか。

 

「利益は研究費と借金返済に充てるつもりです」

 

「いやいや、女の子じゃし、洋服買ったりしてもいいんじゃよ? お金はのんびり返してもらえばよいし」

 

 なぜか慌てた様子の学園長。もしかして借金返してほしくないの? ……さすがにそれは考えすぎだよね。どんな億万長者だって3億円はデカいはずだし。

 

 

 

 

「おっと、もうこんな時間になってしもうた。そろそろ本題に入らねば」

 

 私がその声につられて、壁にかかった大きくて高そうな時計を見ると、そろそろいつもの私ならすでに寝ていてもおかしくない時間になっていた。

 

「錬金釜の配送についてじゃ。特に事故が無ければ、明日の夕方までには麻帆良に到着する予定じゃ。運び込む予定の部屋じゃが、アトリエとして文化部・部室棟の一室を『薬膳料理研究部』名義で手配済みじゃ」

 

 おお! そしたら、明日からエヴァさんの依頼に取り掛かれる! 材料からしてさっぱり検討もつかないから、錬金釜の使用はちょっと先になるだろうけど、基礎理論の研究を人目を気にしないでできるのは大きい!

 

「残念じゃが、部活の体裁をとっている以上、テスト期間中は活動は禁止じゃよ?」

 

 デスヨネー。

 

「君のクラスの明石君は知っておるかの」

 

「あ、はい」

 

「彼女の父親が大学部で教授をやってるのじゃが、顧問になってもらった。活動に必要な資材や資金など、彼を通して申請すれば提供されるはずじゃ。テスト明けにでも挨拶に行くとよい」

 

 う、なんか申し訳ないくらいのバックアップ体制。これで成果でませんでした、とか言ったらどこぞに売り飛ばされそう。

 

 そんな思考を読み取ったかのごとく、学園長が柔和な笑顔をして、

 

「そんなに緊張せんでもいいぞい。魔法を中心としたこのコミュニティの根幹は『人』じゃ。優秀な人材はもちろん、言い方は悪いがそうでない人材でも、囲い込みが激しくてのう。最近は信頼できる人材の確保も難しいんじゃ。そして君はそんな貴重な中でもさらに貴重な錬金術というレアスキルを持った金の卵じゃ。それくらい、期待しているという事じゃ」

 

「金の卵……ですか」

 

 褒められて嫌な感じはしないかな。少なくとも3億円分は期待されてるってことだよなぁ。

 

「それから、ちょっぴり頼みたい事があるんじゃが、いいかの?」

 

「は、はい! なんでも言って下さい! 頑張ります!」

 

 うん、少しでも期待に応えていかなきゃね!

 

「ちょっぴり、図書館島に行ってくれんか?」

 

「は?」




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