side:リーゼロッテ/麻帆良学園女子寮・大浴場脱衣所
どこに居るのか分からない師匠、私は憂鬱です。
「はぁ」
ため息の一つも出るというものデスよ。
英単語野球拳で負けて、クラス全員+担任のネギ先生+騒がしい2-Aを叱りに来た新田先生に全裸をさらした。
代わりといってはなんだけど、ちいさな友情が芽生えました。
神楽坂明日菜さんといって、ツインテールの元気な娘です。
師匠も彼女を気に入ると思いますので、絶対に会わせてあげません。
だって師匠、スキンシップとか言って取引先の社長の娘(13)にセクハラしまくって、逮捕されかけたじゃないですか。
黙ってれば美人さんなのに、もったいない。
あ、そういうのを残念美人って言うんでしたっけ?
閑話休題。
その明日菜さんが「ウチの寮の大浴場ってスゴイのよ!」と言うので、早速きてみたわけですよ。
<どーん>
委員長さん、お願いですから、私の隣に立たないでください。
<ばいーん>
長瀬さん、その中学生離れした身長はもちろんのこと、その脚の長さはなんですか。
<どたぷーん>
……那波さん。あの、その、やべぇ。
むしろ御利益ありそうだから、今度こっそり拝んでおこうと思います。
師匠、なんかもう、くじけそうです。
「はぁ」
「ど、どーしたの、リズちゃん?」
ぐったりした私に気づいたのか、服を脱ぎながら明日菜さんが声をかけてきた。
「スゴイ大浴場の前に、いろんなスゴイものを見せられて、瞳のハイライトが消えそうなほどの精神ダメージを食らい続けてるんだけど」
「あはははは、ウチのクラスは色んな意味で別格が色々いるからねー。ほら、アレとか見ると自信回復できるんじゃない?」
と、鳴滝姉妹を指差す。
「「ワレワレハーウチュウジンダー」」
見事にペッタンコな二人は、扇風機を使って遊んでた。
「あー、アレはさらに別枠って感じじゃない?」
「ま、まあ、そうね。でもそんな小さい事気にしても仕方ないじゃない! 今日は色々疲れたし、お風呂につかって、明日に備えましょ!」
バカレッドこと明日菜さんは前向きだなー。
「そうアルよ。まだまだワタシたちは発展途上アル!」
バカイエローことクーフェイさんは胸をはっている。
「ピンク髪同士、一緒にがんばろー」
バカピンクこと佐々木さんもいる。
「日々是精進でござる。拙者が知っている豊胸体操なるものがあるのでござるが」
バカブルーはいいよな気楽で……って!!
「「「「マジで!?」」」」
私、イエロー、ピンク、レッドの声が見事にハモった。
「なるほどー、左・右・左・右・上・下アルね?」
「そうでござる」
「おお! なんか大きくなってきた気がするよー」
私たちは絶賛、長瀬さんから教わった豊胸体操を洗い場で実践中。
上下左右に動かしてるのは両腕なので、あしからず。
中学校の寮とは思えないスパリゾートクラスのお風呂にツッコミを入れたいけれど、それどころではない。
マジで。本気と書いて
そういえば、なんか切羽詰った状況だったような気がするけど、そんなの後回しでいいよね?
そんなこんなしていると、見覚えのある顔が数名こっちに向かってきた。
「アスナー、アスナー、大変やー」
昨日食事を恵んでくれた木乃香さんに、バカブラックの綾瀬さん。
それから、えっと、あと2人、名前なんだっけ?
大人しそうで二つの意味で控えめな娘と、頭頂部からアホ毛が2本延びた眼鏡の娘。
さすがに1日ではクラス31人全員の名前を憶えるのは難しいなぁ。
「お、ちょうどバカレンジャーも揃っとるな~」
「新メンバーのゴールドもいるですね」
「ゆ、ゆえ~。さすがに失礼だよ~」
あ、やっぱりバカレンジャー確定なのね。
「で、何が大変なの?」
明日菜さんが木乃香さんに質問するも、なぜか木乃香さんは私の方を見てぽやーっとしている。
わ、私のひんそーな身体なんてみてもしょーもないのに。
「ん……? あ、そやった! 実はな、噂なんやけど次の期末で最下位を取ったクラスは解散させられるかもしれへんのや!」
「えー!」
「でもそんな無茶なこと……」
「ウチの学校はクラス替えなしのハズだよー」
「何かおじ……学園長が本気でおこっとるらしいんや。ホラ、ウチらずっと最下位やし」
あの温厚そうな学園長が怒るってよっぽどなんじゃ……。
毎回最下位って2-Aの学力ってそんなにヤバイの!?
「その上、特に悪かった人は留年どころか小学校からやり直しとか……!!」
「「「「え!?」」」」
小学校から、やり、直し!?
もういっかいランドセルしょって、みんな仲良くしゅうだんとーこー?
私の脳内では鳴滝姉妹並みに小さな小学生達と一緒に九九を習ったり、紙粘土こねて変な仮面みたいなのを作ったり、ミシンでナップサック作りをする自分を思い浮かべた。
あれ? なんか想像上の自分及びバカレンジャーのみんな、結構楽しそうだぞ?
「今のクラス、けっこう面白いしバラバラになるんはいややわー」
「んー」
「ま、まずいわね。はっきり言ってクラスの足を引っ張ってるのはこの5……6人だし」
さらっと、私の分の人数を増やしましたね、明日菜さん。
「今から死ぬ気で勉強しても月曜にはまにあわないアル」
さすがに無理があるよなぁ。
やっぱり、ネギ先生に頼んであの禁断の魔法を……。
でも、副作用で頭がパーになると、エヴァさんからの依頼達成が実質不可能になっちゃう。
「うー」
横を見ると、どうやら明日菜さんも同様に悩んでいるようで、うなっていた。
そんな明日菜さんや私を見かねたのか、綾瀬さんが口を開いた。
「ここはやはり、アレを探すしかないかもです」
「アレ?」
「ええ、リーゼロッテさんは御存知ないかもしれませんが、この麻帆良学園には図書館島というアホみたいにデカイ図書館があるです」
「へー」
私、図書館って結構好きなんだよねー。だって、いくら本読んだって、借りたってタダだし、借金取りも公共施設の中までは入ってこれないし。
借金取りから逃げてた時、昼間は補導されないように図書館でずっと本を読んで時間をつぶしていたおかげで、植物の図鑑とか材料の調達に必要な知識をたっぷり得ることができたのは、怪我の功名って言っていいのかなぁ?
「私は言った事ないけど、湖に浮いてるでっかい建物アル?」
「そうです。実はその図書館島の深部に読めば頭の良くなる『魔法の本』があるらしいのです」
「「「ま、魔法の本!?」」」
「まあ、大方出来のいい参考書の類だと思うのですが、それでも手に入れば強力な武器になります」
そんなことあるわけないよねー、とか、都市伝説だしー、とか、他のメンバーは言っているけれど、私と明日菜さんは違った。
魔法の存在を知っている明日菜さん。そして『本当に頭の良くなる魔術書』の存在を知っている私。
明日菜さんと目線をあわせてアイコンタクト。そして、頷きあった。
「「行こう! 図書館島へ!」」