リズのアトリエ 麻帆良の錬金術師   作:マックスコーヒー

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12時間目「少女×商談×金髪幼女?」

side:リーゼロッテ/麻帆良学園女子中等部・2-A教室

 

 

 夜までの栄養は朝ごはんだったパンとイチゴミルクで足りるし、今日はヤキニク定食は中止することにした。

 

 うん、こんな沈んだ気分でヤキニク定食様を食すのはちょっと気がとがめるしね。

 

 晩御飯は冷蔵庫の中身を適当に調理しよう。

 

 今日は昼は食べなかったけど、三食に困らないってステキだなぁ。

 

 

 で、現在、私はというと5時間の理科の授業の時間を利用して、テストの対策の『とあるモノ』の基礎理論を組み立てている。

 

 テスト対策の為に授業を聞かないという、なんとも本末転倒な状況ではあるけれど、理科か数学なら聞かなくても百点取れる自信があるのですよ!

 

 この二つは錬金術師にとっても必須科目ゆえに、師匠から死ぬほど履修させられてるから、中学の問題くらい楽勝っすよ。ふふん♪

 

 あ、う。脳裏に蘇る、師匠による地獄の特訓……。

 

 ああ、ああ! 師匠、スイマセン、ごめんなさい!

 

「…………ん。………無……!」

 

 すぐに直しますから! ああ!

 

「音…………………」

 

 だから、アレだけは、アレだけは! か、カンベンしてください!

 

「音無さん!」

 

「にゃっ!!!」

 

 幻想の師匠にいたぶられる白昼夢から現実に復帰すると、クラス中の視線を私が独占していた。

 

 皆心配そうな顔をしている。どうしたんだろうか?

 

「大丈夫かい? 音無さん?」

 

 理科の先生がまで心配そうにこっちを見ている。

 

 もしかして当てられてた?

 

「えっと、その、大丈夫です」

 

「転校やら引越しやらで疲れているんだったら、早退してもかまわんよ?」

 

 そんな事はありません。近年まれに見るほど安心して眠れました。

 

 とは言えないので、

 

「あはは。本当に大丈夫ですから、授業の続きをお願いします」

 

 と、無難に返答した。

 

「そうかい? じゃあ、次の問題を――」

 

 授業に戻る先生。

 

 ため息をついていると、隣の席のマクダウェルさんが、ニヤニヤ笑顔で話しかけた来た。

 

「お前、リーゼロッテ・音無とかいったな? なかなか面白そうなヤツだな」

 

 あ、なんかこの笑顔見たことある。

 

「なにやらノートに一心不乱に書いていると思えば、急にガタガタ震えだして、目が虚ろになって虚空を眺めたり。ククク」

 

 うん。この笑顔、師匠が私に無理難題を吹っかけて、楽しんでるときの笑いだ。

 

 『笑い』というより『嗤い』と表現した方が的確かもしれない。

 

 って、ちょっと待って、私そんなヘンな顔してたの!?

 

「ああ、それからお前の事は学園長のジジイに『色々』聞いているぞ。なんでも、借金まみれだとか、あるモノを研究しているとか」

 

 む、学園長から『色々』って事は、この娘も魔法生徒なんだろうか?

 

 というか、同じクラスに魔法生徒が他にいるんだったら、先に説明しといてくださいよぉ、学園長~。

 

「えっと、まぁ、そうですね」

 

 違ってたら恥ずかしいじゃすまないし、曖昧に答えておく。

 

 うっかり魔法の事がバレようなら、冗談抜きでオコジョ刑だもんなぁ。

 

「そこでだ。ちょっとばかり、お前に頼みたい物があるんだが」

 

 錬金術師としての依頼かな? でも、釜が無いからなぁ。

 

 そんな思考をマクダウェルさんは読んだのか、

 

「ああ、釜ならジジイが九州から運ぶ手配をしているはずだ。心配するな」

 

 学園長が? ど、どこまでいたせりつくせりなんだあの人は。

 

 でもアレだな~。他の魔法生徒から依頼されるのって大概非合法だったりするからなぁ~。

 

「無論、報酬は相応のモノを支払おう。お前らの言葉で言う“等価交換”ってヤツだな」

 

 魔法生徒で確定。しかも、錬金術師のことも結構詳しく知ってるっぽい。

 

 マクダウェルさんから出た“等価交換”というのは、錬金術における基本的な理論や考え方の事を指す。

 

 師匠が言うには、裏の意味として『依頼品の対価の払いがいいヤツには注意しろ』という意味もあるらしいけど、たぶん出鱈目だと思う。

 

「授業中に話す事でも無いし、依頼の内容は次の10分休みに屋上に来い」

 

 そりゃ確かに授業中に無駄話してたら怒られそうそうだし、魔法の秘匿のこともあるけど、屋上と教室って10分で行って帰ってこられるのかなぁ。

 

 でも、借金返済の足しになるかも知れないし、話だけでも聞いてみようかな?

 

 うん、そうしよう。

 

「えっと、依頼を受けるかどうかは依頼内容を聞いてからでいいですか?」

 

「ああ、問題ない」

 

 即答のマクダウェルさん。

 

 という事は非合法な物の依頼でもないかな。

 

 非合法な物を頼むような後暗い人は、この質問で大体依頼を取りやめるからね。

 

「それでは、屋上ですね?」

 

「うむ」

 

 マクダウェルさんは、それっきり眠そうに授業を聞いているフリをし始めた。

 

 話は終わりって事なのかな?

 

 それにしても、さっきから気になってたけど、同級生なのにやたら不遜な態度。

 

 だけど、なぜかしっくり来る。なんでだろ?

 

 

 

 で、10分休みに屋上に行くと、そこにはマクダウェルさんと絡繰さんがいた。

 

 マクダウェルさんだけだと思っていただけに、ちょっとびっくりした。

 

「こんにちは、音無さん」

 

「あ、ども」

 

 意外と礼儀正しい人……、ヒトなのかな?

 

 髪が緑だし、間接部がメカメカしいし、耳になんかアンテナみないなのが付いてるし、オマケに後ろ頭にでっかいゼンマイのネジが刺さってる。

 

「挨拶はいい、私はともかくお前は時間ないだろーが?」

 

 私はともかく? なんでマクダウェルさんだけ時間に余裕があるんだろう?

 

 ま、いっか。考えても仕方ないし。

 

「では、依頼内容を聞かせて下さい。いつまでに必要とかありましたらそれもお願いします」

 

 ザ・営業モード! にっこり微笑んで、やさしい口調で話す私。

 

「ああ、薬の類になるんだが、今月末までに頼む」

 

 薬で納期1ヶ月っと。手帳にメモメモっと。

 

 突拍子の無いものでなければ2~3日で出来るし、大丈夫かな?

 

「はい、物によっては材料の入荷や完成までに時間のかかる物もありますが、おそらく大丈夫ですね」

 

「うむ。早く出来ればそれに越した事はない。できれば今すぐにでも欲しいんだがな」

 

「なるほど」

 

 納期は早いほうが良いっと。メモメモ。

 

「では、どういった薬でしょうか?」

 

「……それは」

 

「それは?」

 

「花粉症の特効薬だ」

 

「え?」

 

 耳を疑った。花粉症の特効薬?

 

 そりゃあ、現在の医術では花粉症の特効薬は発明されてないし、普通の魔法で治療するにしても花粉によって起こる過剰な免疫反応、つまり『体本来の機能によって起きる症状』を治療する事はできないし、やっちゃったら超強力なステロイド薬を投薬したみたいになって、他の免疫力が低下どころゼロになって、色々やばいことになる。

 

 魔法も万能ってわけじゃないしね。

 

 よって、ピンポイントで『花粉自体をガードする』か『花粉アレルギーの症状だけピンポイントで止める』とかになる。

 

 前者は魔法で出来ないこともないけど魔力の維持が大変というか無理。

 

 後者はやっぱり免疫力低下につながるから難しい。

 

「それって、普通にノーベル賞モノですよ? 仮にある程度の副作用が出ても」

 

「ああ、そうかもな。だが、できるんだろう、錬金術なら」

 

 もしかしたら出来るかも知れないけど、正直無理!

 

 そんなにホイホイノーベル賞クラスの物が出来たら、師匠だってこんな額の借金作ってないだろうし。

 

「なんというか、私みたいなヒヨッコじゃ、無理っぽいんですけど……」

 

「ほほう、そうかー。まったくもって残念だなぁ?」

 

 マクダウェルさんがちらりと絡繰を見ると、絡繰さんが持っていた小さなトランクの中を私に見せた。

 

 中にはなんと、眩いばかりに光輝く金の延べ棒が!。

 

 私、金の延べ棒なんて始めて見たよ。

 

「相場によりますが、およそ百万円相当になると思います」

 

 ひゃ、ひゃくまんえん?!

 

「契約金と材料費にやろうと思ったんだがなぁ」

 

 契約金と材料費だけで?!

 

「成功報酬はもう2・3本くれてやろうとおもったのになぁ~。私は、非常に、残念だなぁ~」

 

 わざわざ残念なことを強調するために、そんなに区切って喋らなくても。

 

 って、報酬合計3~4百万円?!

 

「他にもこれよりも小口ではあるが、数万円単位の仕事なら山ほどあるのになぁ~」

 

 単発のでかい仕事だけじゃなく、継続的なものまでっ!

 

 ああああああああああ!

 

「犬とお呼び下さい」

 

 はっ!? しまった! なんか、悪魔に魂を金で売り渡した気が!

 

「ククク、よろしく頼むぞ、我が僕」

 

 ニヤリと笑ったマクダウェル『様』の笑みは、蠱惑的でとても同級生の女の子とは思えなかった。

 

 

「ところで、リーゼロッテ・音無」

 

「は、はい。なんでしょうか、マクダウェル様?」

 

 必死になって特効薬の基礎理論と材料について考えていると、マクダウェル様が話しかけてきた。

 

「様はやめい、キモチ悪い。あと、長いし、エヴァと呼べ」

 

「はぁ、エヴァさん何でしょうか」

 

「そろそろ、予鈴が鳴りそうだが、大丈夫なのか?」

 

「でも、って、え?!」

 

 おなじみの授業の開始を告げるメロディがスピーカーから流れた。

 

 やばい、転校初日で授業に遅刻とか、シャレになんないし!

 

「でも、マク……、エヴァさんも」

 

「私はサボるからいーんだよ」

 

「え!?」

 

「ほら、さっさと行け」

 

 ど、どういう事なの。

 

 

 そんなこんなで、私はよりにもよって苦手科目その2の社会の授業に遅刻し、嫌味な先生にさんざん当てられて、大恥をかきましたとさ。


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