リズのアトリエ 麻帆良の錬金術師   作:マックスコーヒー

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10時間目「少女と62の瞳」

side:リーゼロッテ/麻帆良学園女子中等部・2-A教室前

 

 

 

 今現在、私がこれから通う教室の前に来ている。

 

 2年A組。

 

 マンモス校だけあって、Aからアルファベット順に24のクラスがあり、ずらーーーっと並ぶ2年ナントカ組の看板を見ていると、ドン臭い私は迷ってしまいそう。

 

 前の九州の学校では6組が最大だったので、4倍強となれば押して図るべし、なのです。

 

 ネギ先生に連れられてここまで来たけれど、もう既に昇降口までの帰り道がわからなくなっている。他の人に付いていけば大丈夫だよね?

 

 

 で、教室の外で呼ばれるのを待っているのだけれど、妙にクラス内が騒がしい。仮にも先生がいるのだから、ホームルームってもっと静かなモノじゃなかったっけ?

 

 少し気になってきた。

 

 ネギ先生は「ボクが入ってきて下さいって言ったら、入ってきてくださいね」と、言っていたけど、どうしよう。

 

 アレだ。今私は鶴の恩返しの猟師的なポジションにいる。

 

 人間って不思議だよね! 見ちゃ駄目って言われると見たくなる。

 

 

 

 戸をゆっくりと10センチくらい開けて、中を覗き込んだ。

 

 これならバレないよね。

 

「そこでは衝撃の光景がっ! なーんて……は?」

 

 などと、テレビのCM前の口上みたいな感じでふざけていたけど、マジで衝撃的な光景が広がっていた。

 

 

 下着姿の明日菜さんが、ネギ先生をボコボコにしているー!

 

 ど、どういうとなの!?

 

 あ、明日菜さんが馬乗りになった!

 

 下着姿でネギ先生に馬乗りになって、激しい運動(殴る)をしている明日菜さん!

 

 なんか字面だけ見るとなんかエッチい!!

 

 

 他の人たちは観戦したり、はやし立てたりしているし、私が止めたほうがいいんだろうか?

 

「おや? 君は転校生の」

 

「ひやっ! あだっ!」

 

 唐突に後ろから声をかけられて、びっくりして額をドアにぶつけてしまった。

 

 ついでに私に声をかけた人は、入り口のドアを開け放った。

 

 その音に気づいたクラスメートたちが一斉にこっちを見る。

 

「た、高畑先生!?」

 

 下着姿の明日菜さんが叫んだ。

 

 あ、そっか。副担任だっけ。

 

 

 

「と、いうわけで、今日から皆さんと一緒に学ぶ事になったリーゼロッテ・音無さんです」

 

 なんとか、高畑先生の助力によって明日菜さんのラッシュから解放されたネギ先生は、よろよろと私を紹介した。

 

 さてと、ここが私の今後の中学生活をエンジョイするための分かれ道。

 

 ウキウキ私の自己紹介を楽しみにしている2年A組のみんなに応えるためにも、無難な「九州から来ました。リーゼロッテ・音無です。よろしくお願いします」などといったありきたりかつ使い古された普通の自己紹介では駄目な気がする。

 

 一発インパクトのデカイやつで、かつ、私の個性をアピールしなくては!

 

 

【シュミレーション1:電波系】

 

『九州出身、リーゼロッテ・音無。ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上』

 

 はい、却下。個性とかそんなレベルじゃない。そういえば超能力者(魔法使い)なら先生がいるなぁ。

 

 

【シュミレーション2:リアル系】

 

『えと、リーゼロッテ・音無といいます! 三億円も借金があって、貧乏ですけど、がんばります!』

 

 無い。重いわ。普通にドン引きだわ。口調は明るいけど、逆に痛々しいわ!

 

 

【シュミレーション3:厨二系】

 

『我が名はリーゼロッテ・音無! 深遠より出でた闇の血族の末裔である!』+キメポーズ

 

 確かに今私は中学2年生だけど、闇の血族はないわー。

 

 

 うん。何事も普通が一番だね。

 

 シンプルイズベストって、昔の人も言ってた。……気がする。

 

 

「えっと、九州の学校から転校してきました。リーゼロッテ・音無です。実家が漢方屋をやっていた関係で、薬剤師を目指しています」

 

 薬剤師というのは錬金術師の一般社会における仮の職業。

 

 師匠によると、現在世界にいる私以外の三人の錬金術師は、例外なく薬剤師と名乗っているらしい。

 

 さすがに普通の人からしたら『錬金術師』ってのは胡散臭いし、漢方は錬金術の親戚みたいな『錬丹術』と関わりが深く、見習いの私ですら、ある程度の薬学知識を持っている。

 

 錬金術研究の最終目的でもある賢者の石。それから精製される不老不死の薬を研究・練成するための知識として薬学は必須ってのもあるんだけど。

 

 

「えっ! 音無って、音無漢方薬局ですの!?」

 

 何か座席一番前の金髪で「ごきげんよう」とか挨拶しそうなお嬢様系の娘がびっくりしている。

 

 それより、なんで関東の人が九州の音無漢方薬局を知ってるんだろうか?

 

「えっと、私の実家です。2年前に潰れちゃいましたけど」

 

 そう、師匠が借金を作って逃げたおかげで、店の備品が軒並み差し押さえられて薬やマジックアイテムが作れなくなって、どうしようもなくなったのだ。

 

「そうでしたか。昔私が風邪を引いて高熱が出た時に、爺やが私に『音無漢方薬局』と書かれた紙袋から薬を……。その薬を飲んだら、たちどころに症状が良くなって、びっくりしましたわ」

 

「そ、そうでしたか」

 

 師匠、やればちゃんと出来るんだ。

 

 いっつも『掛け算遊び』ばっかりして、まともに働かない師匠だったけど、たまには人の役に立つ事もしてたんだなぁ。

 

「あら、失礼しました。わたくし、雪広あやかと申します。このクラスの委員長をやっていますの。色々大変でしょうけど、がんばって下さいね。あ、この麻帆良――」

 

「いいんちょー、長いネ!」

 

「私たちも質問したいのにー!」

「ボクたちも質問したいのにー!」

 

 一気にざわつき始めるクラスメートたち。

 

「少しは自重してくださいまし! せめて一日目だけでもお淑やかに」

 

「それはもう無理ってものアルよ?」

 

 

 あはは、ネギ先生といい、クラスのみんなといい、中学生活は退屈しなくてすみそうだ。




評価コメントで文章が少ない・内容が薄い等のご意見がありました。
貴重なご意見、ありがとうございます。

私が非常に遅筆かつ未熟ですので、どうしても1話あたりの文章量や内容量が少なくなってしまいます。
その分、数をコンスタントに投稿していきたいと思いますので、できれば御容赦ください。

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