side:朝倉和美/麻帆良学園女子中等部・職員室前
一応、名前を聞いたけど、本当は彼女の名前を私はすでに知ってるのよね。
本日を以って麻帆良学園に転校して来たドイツ人、「リーゼロッテ・音無」さん。
日本風に言うなら音無リーゼロッテさん。
我が報道部が入手したデータによると、物心付く前にドイツ人の両親は他界し、九州にいる日本人の親戚の養子になっているとか。
そんなわけで、見た目はともかく、中身は普通の日本人らしい。
ま、それらは横に置くことにする。
両親がいないとかのヘヴィーな話題は、突っ込んだらどうあがいてもヤブヘビ確定だし。
ウチのクラスには留学生とか一杯いるし、そもそも先生が十歳のイギリス人だったりするし、いまさら一人くらい外国人が増えても今更ってかんじよねー。
今日は報道部の朝倉和美としてではなく、新たなクラスメート朝倉和美として、クラス代表として取材に来た。
「えと、えと。あ、あの~」
音無さんを改めて観察する。
なぜかわからないけど、あわててる。人見知りなのかな?
ぱっちりと大きな青い瞳がうるんで、今にも泣きそうだ。
白磁のような白い肌。薄いピンク色の頬。
フワフワと長くウエーブした桃色の髪が不安そうに揺れている。
制服のスカートから伸びる白い足は、その低い身長の割にスゲー長い。腰の位置がありえない。さすが外国人。
私もそこそこ中学生の中ではスタイル良い方だと思ったけど、こやつ私と同じ人類とは思えないくらいの完璧なスタイルだ。
惜しむらくは胸かな。まぁ、これはこれで需要あるんだろうけど。
報道部特殊スキル「朝倉アイ」発動!
上から、72! 55! 78!
説明しよう! 私、朝倉和美は服の上からでも女の子のスリーサイズを正確に言い当てる事ができるのだ!
冗談はさておき、不思議なことが二つ。
そこそこ暖かくなったこの時期にもかかわらず、白い手袋をしている事と、背中に変な黒いマークの入った真っ赤なコート。
寒がりなのか、それとも何か意味があるのか……。
そこまで、考えた時点で、音無さんをほったらかしてジロジロ見てるだけだと気づき、
「おっと、ゴメンねー。ちょっと報道部の癖でねー」
と、意識を会話に戻した。
「えと、報道部?」
「うん。学園内のハプニングとかスキャンダルとか色々取材して、記事にするのがお仕事。とは言っても、今日は取材に来たわけじゃないんだけどね」
「ほへ?」
「うん。クラスに転校生が来るって聞いてね。ウチのクラス、すっごく姦しいから、あらかじめ言っておかないとびっくりするだろうし、簡単な質問だけでも答えておいてもらえるとホームルームの時の質問攻めが(ほんのすこしだけ)楽になるよ」
「というと、あなたもネギ先生の生徒さんなんですか?」
「おや、ネギ君の事はもう知ってるんだね」
驚いて見せたけど、これも既知の情報だ。
なにせ、人通りの多い駅前で倒れてネギ先生に介抱され、中等部の校舎に『お姫様だっこ』で運び込まれたのを、私をはじめ報道部のエージェントが何人も目撃している。
ただでさえ目立つネギ君に、音無さんの容姿が合わさって、その状況を撮影した写真はその日の夕刊の一面を飾った。見出しは『ネギ先生、お姫様を救う』で、無論私の記事だ。
ちなみにそのニュースを聞いた我がクラスのいいんちょは、新たなライバルの出現に闘志をみなぎらせていた。
「はい。昨日色々お世話になって」
「なるほど、なるほど。具体的にはどんな?」
「えっと、ご飯をご馳走になったり。あ、でも、ご飯食べさせてくれたのは木乃香さんかな」
お、新情報ゲット。音無さんは昨日、近衛さんとこでご飯を食べたのかー。
近衛さんのルームメイトはたしかアスナだっけ? 両方に後で話を聞かせてもらおっと。
「えへへ、木乃香さんの豚のしょうが焼き、すごーく美味しかったんですよ! しっかりと下準備され――」
近衛さんの料理について熱く語る音無さん。どうやら食に対して並々ならぬこだわりがあるようだ。
これならお料理研究会の超とか四葉さんとかと仲良くなれそうね。
ホームルームが終わったら、紹介してみようかな?
「――なのですよー! んふふふ」
「なるほどねー。色々美味しいものを食べるのが趣味なんだね?」
私が聞くと、今まで明るかった表情を一変させて、暗い表情になった。
「いえ、その」
なにやら言いにくそうにしている。
もしかしなくても、地雷踏んだ?
「えっと、言いにくかったいいよ?」
「あ、ああ、いえ。美味しい物を食べるのは、す、好きですよ!」
あー、なんとなく、この娘のキャラが読めてきた。
嘘をついたり、隠し事したりするのは苦手っぽいわねー。
めっちゃ汗かいてるし、目線が定まってないし。
「じゃ、じゃあ、次の質問に行くわよ?」
「あ、ありがっ!!!」
あ、舌噛んだ。
よっぽど、動揺してたのね。
そんな音無さんを見ていると、なんだかちょっと意地悪したくなってきた。
「で、彼氏いる?」
「ぶふぁっ!」
私の唐突な質問にふきだし、真っ白な顔を真っ赤にして恥ずかしがる音無さんかわいい。
「い、いるわけ無いですよ。こんな落ちこぼれの私なんて」
この超一級の容姿で落ちこぼれとな!?
なんか悔しいので、もう少しおちょくる事にした。
「んじゃ、彼女?」
再度の私の質問に固まる、というより、何か考えている様子の音無さん。
十数秒の思考タイムの後、さっきよりもっと真っ赤になって、
「なななななななななな、何言ってるんですか?!」
返答が帰ってきた。
も、もしかしてこの娘、そっちのケがあるんだろうか? じょ、冗談で言ったのに。
「ほ、本当に違うんですからね!」
「そんなに必死に否定されると、逆に怪しいってゆーか、あはは」
その後、私はなんとか音無さんの興奮を落ち着かせ、改めてクラスメートとして自己紹介をする。
「冗談はさておき。 私、『クラスメート』の朝倉和美、よろしくね!」
「は、はい。リーゼロッテ・音無といいます。長いのでリズって呼んでください」
こうして、私、朝倉和美とリズちゃんの交友は始まったのだった。