リズのアトリエ 麻帆良の錬金術師   作:マックスコーヒー

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9時間目「マル報の少女」

side:朝倉和美/麻帆良学園女子中等部・職員室前

 

 

 一応、名前を聞いたけど、本当は彼女の名前を私はすでに知ってるのよね。

 

 本日を以って麻帆良学園に転校して来たドイツ人、「リーゼロッテ・音無」さん。

 

 日本風に言うなら音無リーゼロッテさん。

 

 我が報道部が入手したデータによると、物心付く前にドイツ人の両親は他界し、九州にいる日本人の親戚の養子になっているとか。

 

 そんなわけで、見た目はともかく、中身は普通の日本人らしい。

 

 

 

 ま、それらは横に置くことにする。

 

 両親がいないとかのヘヴィーな話題は、突っ込んだらどうあがいてもヤブヘビ確定だし。

 

 ウチのクラスには留学生とか一杯いるし、そもそも先生が十歳のイギリス人だったりするし、いまさら一人くらい外国人が増えても今更ってかんじよねー。

 

 今日は報道部の朝倉和美としてではなく、新たなクラスメート朝倉和美として、クラス代表として取材に来た。

 

 

「えと、えと。あ、あの~」

 

 音無さんを改めて観察する。

 

 なぜかわからないけど、あわててる。人見知りなのかな?

 

 ぱっちりと大きな青い瞳がうるんで、今にも泣きそうだ。

 

 白磁のような白い肌。薄いピンク色の頬。

 

 フワフワと長くウエーブした桃色の髪が不安そうに揺れている。

 

 制服のスカートから伸びる白い足は、その低い身長の割にスゲー長い。腰の位置がありえない。さすが外国人。

 

 私もそこそこ中学生の中ではスタイル良い方だと思ったけど、こやつ私と同じ人類とは思えないくらいの完璧なスタイルだ。

 

 惜しむらくは胸かな。まぁ、これはこれで需要あるんだろうけど。

 

 

 報道部特殊スキル「朝倉アイ」発動!

 

 上から、72! 55! 78!

 

 説明しよう! 私、朝倉和美は服の上からでも女の子のスリーサイズを正確に言い当てる事ができるのだ!

 

 

 冗談はさておき、不思議なことが二つ。

 

 そこそこ暖かくなったこの時期にもかかわらず、白い手袋をしている事と、背中に変な黒いマークの入った真っ赤なコート。

 

 寒がりなのか、それとも何か意味があるのか……。

 

 

 そこまで、考えた時点で、音無さんをほったらかしてジロジロ見てるだけだと気づき、

 

「おっと、ゴメンねー。ちょっと報道部の癖でねー」

 

 と、意識を会話に戻した。

 

「えと、報道部?」

 

「うん。学園内のハプニングとかスキャンダルとか色々取材して、記事にするのがお仕事。とは言っても、今日は取材に来たわけじゃないんだけどね」

 

「ほへ?」

 

「うん。クラスに転校生が来るって聞いてね。ウチのクラス、すっごく姦しいから、あらかじめ言っておかないとびっくりするだろうし、簡単な質問だけでも答えておいてもらえるとホームルームの時の質問攻めが(ほんのすこしだけ)楽になるよ」

 

「というと、あなたもネギ先生の生徒さんなんですか?」

 

「おや、ネギ君の事はもう知ってるんだね」

 

 驚いて見せたけど、これも既知の情報だ。

 

 なにせ、人通りの多い駅前で倒れてネギ先生に介抱され、中等部の校舎に『お姫様だっこ』で運び込まれたのを、私をはじめ報道部のエージェントが何人も目撃している。

 

 ただでさえ目立つネギ君に、音無さんの容姿が合わさって、その状況を撮影した写真はその日の夕刊の一面を飾った。見出しは『ネギ先生、お姫様を救う』で、無論私の記事だ。

 

 ちなみにそのニュースを聞いた我がクラスのいいんちょは、新たなライバルの出現に闘志をみなぎらせていた。

 

 

 

「はい。昨日色々お世話になって」

 

「なるほど、なるほど。具体的にはどんな?」

 

「えっと、ご飯をご馳走になったり。あ、でも、ご飯食べさせてくれたのは木乃香さんかな」

 

 お、新情報ゲット。音無さんは昨日、近衛さんとこでご飯を食べたのかー。

 

 近衛さんのルームメイトはたしかアスナだっけ? 両方に後で話を聞かせてもらおっと。

 

「えへへ、木乃香さんの豚のしょうが焼き、すごーく美味しかったんですよ! しっかりと下準備され――」

 

 近衛さんの料理について熱く語る音無さん。どうやら食に対して並々ならぬこだわりがあるようだ。

 

 これならお料理研究会の超とか四葉さんとかと仲良くなれそうね。

 

 ホームルームが終わったら、紹介してみようかな?

 

「――なのですよー! んふふふ」

 

「なるほどねー。色々美味しいものを食べるのが趣味なんだね?」

 

 私が聞くと、今まで明るかった表情を一変させて、暗い表情になった。

 

「いえ、その」

 

 なにやら言いにくそうにしている。

 

 もしかしなくても、地雷踏んだ?

 

「えっと、言いにくかったいいよ?」

 

「あ、ああ、いえ。美味しい物を食べるのは、す、好きですよ!」

 

 あー、なんとなく、この娘のキャラが読めてきた。

 

 嘘をついたり、隠し事したりするのは苦手っぽいわねー。

 

 めっちゃ汗かいてるし、目線が定まってないし。

 

「じゃ、じゃあ、次の質問に行くわよ?」

 

「あ、ありがっ!!!」

 

 あ、舌噛んだ。

 

 よっぽど、動揺してたのね。

 

 そんな音無さんを見ていると、なんだかちょっと意地悪したくなってきた。

 

「で、彼氏いる?」

 

「ぶふぁっ!」

 

 私の唐突な質問にふきだし、真っ白な顔を真っ赤にして恥ずかしがる音無さんかわいい。

 

「い、いるわけ無いですよ。こんな落ちこぼれの私なんて」

 

 この超一級の容姿で落ちこぼれとな!?

 

 なんか悔しいので、もう少しおちょくる事にした。

 

「んじゃ、彼女?」

 

 再度の私の質問に固まる、というより、何か考えている様子の音無さん。

 

 十数秒の思考タイムの後、さっきよりもっと真っ赤になって、

 

「なななななななななな、何言ってるんですか?!」

 

 返答が帰ってきた。

 

 も、もしかしてこの娘、そっちのケがあるんだろうか? じょ、冗談で言ったのに。

 

「ほ、本当に違うんですからね!」

 

「そんなに必死に否定されると、逆に怪しいってゆーか、あはは」

 

 

 その後、私はなんとか音無さんの興奮を落ち着かせ、改めてクラスメートとして自己紹介をする。

 

「冗談はさておき。 私、『クラスメート』の朝倉和美、よろしくね!」

 

「は、はい。リーゼロッテ・音無といいます。長いのでリズって呼んでください」

 

 

 こうして、私、朝倉和美とリズちゃんの交友は始まったのだった。


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