次に全員が揃ったのは、実に六日も経ってからの事である。
千時だけは連行された晩の内に聴取が済んでしまい、財団の迎えでホテルへ帰った。事情としては、ジョセフから渡されたパスポートと共に暗記した身の上設定を話してある。曰く、「両親の移住で米国籍になったが英語はできない」「両親が事故で死んで父の知り合いだったジョースター氏を頼ったら、彼の仕事に連れてこられた」。まあ爆破事件を起こしている以上、まさかこれだけで帰してもらえるとは千時も思わなかったのだが、言葉がカタコトだったのが良かったのか、「爆破現場に居た理由はジョースターさんに聞いて」で通ってしまった。実は、アヴドゥル以外にネイティブが居なかったため、通訳の人数が全然足りなかったという理由も重なっていたのだが、これは警察側の事情。
さて、後にアヴドゥルから聞いて全員が仰天したのだが、千時と花京院は、自爆テロ用に買われた人身売買の被害者ではないかと思われていたそうだ。特に花京院は日本で捜索願いが出ており、ワケアリの転校直後だったせいで、事件の線が濃厚とテレビ報道までされてしまっていた。それがエジプトくんだりで爆破事件の現場に居たのでは、そりゃあそうなる。千時も千時で、天涯孤独の設定が疑惑を煽ったらしい。身寄りの無い者が甘言を弄される事例は古今東西どこにでもあり、本人が言語も不自由な若年の女性とあっては、誘拐と思われても仕方がなかった。
そんなわけで、次に戻ってきたのは花京院だった。翌日の夕刻、ホテルへ帰ってきた高校生は、頭を抱えていた。彼の場合、歴とした行方不明者扱いだったので、爆破現場に居た事よりエジプトに入った経緯そのものを問いつめられ、さすがに上手くはごまかせなかった。大体、ジョセフが財団のフォローでどうにかなると踏んでいたせいで、警察に捕まった時の口裏合わせなどしていなかったのである。旅の途中に、まあ何か訊かれたらわしの仕事を兼ねた旅行だとでも言っておけ、程度の周知があっただけ。だもので、彼も千時と同様、単にジョセフについてきただけだと言ったのだが、それがむしろ、脅されているのではないかと怪しがられてしまった。「すっかり誘拐被害者だと思われてる」と、花京院はしばらく打ちひしがれていた。割と放任で育った一人っ子の彼としては、精々、壮大な家出くらいのつもりだったらしい。…その認識もどうかという話だが。
二人が、日本で口裏を合わせるための脚本が必要だね、と言っていた三日目の昼過ぎ、ジョセフと承太郎が戻った。彼らは、身元こそ確かだったが、ジョースター不動産が現場を含めた幾つかの家屋について調査していたのがまずかった。直接の爆破行動でなく、テログループへの協力という最もややこしい立場を疑われたのである。線の繋がる先が無いかと向こうも必死。孫とその友人を連れた旅行だと主張したものの、その友人というのが先述の通り誘拐の被害者かもしれず、ジョセフが無類の不動産王という組み合わせ。余計に怪しい。財団が本部をひっくり返し、支部拡充のため各国の土地を探していた際の書類を山と積んだ。今回の調査もその一部であると主張し、圧力という圧力を全部かけて、どうにかこうにかジョースター氏を留置場から引っ張りだしたのだ。証拠不十分のためにそれで済んだが、嫌疑は保留のままだそうで、「こりゃあさっさと退散せねば後が大変かもしれん」と、ジョセフは寝不足の目頭をギュウギュウに押さえた。
ちなみに承太郎はというと、ジョセフの孫だと確認が取れたのを聞いた時点で、「ジジイに聞きな」と丸投げしたきり、だんまりを決め込んだそうだ。気楽なお坊っちゃんである。
四日目の真夜中、日付変更の直前に徒歩で帰ってきたのがアヴドゥルだった。彼は一行の中で唯一のネイティブだったため、手引きの中心か主犯格か、ともかく最も事情に精通している可能性を疑われた。そのせいで電話も何も許されず、財団が迎えに行けなかったのである。彼はへとへとに疲れ果てていて、もう話をする気力が無く、とりあえずベッドにダイブした。
彼らの知らない舞台裏だが、その翌日から、日米を筆頭とする各国メディアが到着し始め、それを阻止する財団職員との攻防が始まっていた。不動産王の方はともかく、日本人高校生の行方不明事件には手が回っておらず、外務省への制止が間に合わなかったのである。ローカル局までカメラを抱えてくる始末で、ホテルの周囲はある意味、爆破事件より壮大な戦場と化した。この取材戦争が勃発するギリギリ直前のタイミングで、六人中五人が戻っていたのは幸いだった。どちらにせよ、警察からホテルを動くなと言われていた彼らが外へ出る事はなかったが、財団員が胸をなで下ろしたのは言うまでもない。
そうとは知らず、ようやく起きてきたアヴドゥルは、先述の事情やポルナレフが戻ってこない理由を話した。
エジプトは、アフリカ・中東の中でも比較的マシな国である。捜査機構も馬鹿ではない。そして同時に、そこそこややこしい国でもある。この時、単なる偶然だったのだが、まったく別件の捜査からC4の輸送ルートが割れてしまっていたのが、ポルナレフにとっての災難だった。
当時、エジプトでは最新兵器の供与が滞り始めていた。中東の諸事情は省くが、簡単に言うと、それまで軍事の面倒を見ていたソビエト連邦が崩壊へ向かっていたからだ。エジプトは、アメリカへの乗り換えを考えているところだった。財団が渡りを付けた米軍の将官は、そこに話を持っていき、最新の軍事兵器を流す代わり、爆薬を指定の場所へ届けるという約束を交わした。話を持ちかけられたエジプト軍側の将官からは、子飼いの一兵士に繋ぎが行った。その兵士が遠戚の関係で密輸のルートを持っていたからである。米軍将官を通じて回った報酬は、末端へ降りてもかなりの額だった。となれば軍の倉庫から盗むより、彼らにとっては密輸した方が安全であった。実際、下っ端が馬鹿をやらかさなければ、この組織は上がらなかったはずだ。露見のきっかけになった下っ端の馬鹿とは、手書きの帳簿を失くすという、死ぬほどどうしようもないドジを踏んだことだった。どこかで拾われた帳簿は運悪く警察に届き、組織に対して捜査の手が伸びた。といっても、流れを見れば分かるように、これはまったく最近発覚した事件。帳簿から手繰れるルートの確認が始まったところだった。密輸品のほとんどは軍の内部へ流れ込んでいたため、それについては政府との絡みもあり、介入が難しい。まずは内容が事実であるという確定のため、卸し先が軍でない物品を集中的に探し始める。その中に、件のC4が混じっていた。かなりの量があり、ルートの途中で消えているこれは、重点的に探された物の一つだった。
この捜査中に、爆破事件が起きたのだ。現場に残っていた不発分の信管の特徴から、この爆薬が行方不明のものであろうというのが、ほぼ確定された。
ここでやっと、ポルナレフに話が及ぶ。何というかもう、全てにおいてアンラッキーもしくは言いがかりとしか言いようのない災難が、彼に降って沸いた。ファミリーネームがソ連はロシアかウクライナあたりの系統。本国へ問い合わせたら元仏軍人。そしてパスポートには、二年前、北アイルランドに立ち寄った履歴。この履歴が最もまずかった。せめてイギリス本土から入っていれば良かったのだが、C4の出所が、北アイルランドの過激派IRAだったからたまらない。しかもポルナレフは、北アイルランドに立ち寄った理由を明確に説明できなかった。何しろ妹を殺した犯人を殺すための旅である。相手が悪党とはいえ、殺人が目当てでしたなんて言えるわけもない。ちなみに、この時の遠征は両右手の噂が入ったからだが、実際に当たってみたところ、該当者はまったく無関係だった。元から左手の奇形で親指が無かったところへ事故にあって、変形してしまったそれが両右手のように見えただけの一般人だったのである。言葉を濁す内、聴取は尋問になり果て、売り言葉に買い言葉の喧嘩腰と、悪化の一途しか辿らなかった。結局こちらも財団が散々圧力をかけ、とうとう銀行の資金を引き上げるとまで脅しかけてようやく、どうにかこうにか出てこられたのだが嫌疑は保留。その上、出国制限まで言い渡されていた。二日後、ありとあらゆる手を尽くした財団が撤回を勝ち取るその一報が入るまで、全員がスレにkwskできるレベルの修羅場だったと、千時は思っている。
そんなこんなで六日目の夜、ようやく六人と一匹は、揃って夕食にありついた。
「旅より大変だった…」
とは、ポルナレフの言である。
ホテルは出てない筈だよなあ。千時は首を傾げた。
まず三階の部屋を、全部ノックしてまわった。このホテルはフロア奥の階段しか無いので、誰かが上階へ向かったなら見えるはずだ。続けて、ちらほらと財団員の居る二階の部屋を半分ほどノックし終えて、彼女はようやく目的の人物を見つけた。
階段を上がってきた電柱頭は、駆け寄ると、妙に渋い顔をした。気付かない振りで、千時は笑って見せた。
「やーっとめっけた。どこに居たの?」
「一階の部屋で会議だった」
これまでなら乗ってくれたはずのポルナレフは、ふてくされたような様子のままで、千時は少し戸惑った。
「あの…、ちょっと時間ちょうだい」
「何だ」
「足治そ。T・T、元気出たから」
見上げてもう一度笑いかけても、ポルナレフはますます苦い顔で目を逸らし、返事もしなかった。少し待って、千時は、手を掴んだ。
「治そうよ。ね」
思い切り引っ張って、階段を一緒に上がる。ポルナレフは酷く厭そうだったが、それでも、抵抗まではしなかった。千時は、あてがわれた自分の部屋へポルナレフを通し、ベッドに座らせ、自分は椅子を置いて正面に膝を付き合わせた。
「T・T、出てきて」
七日ぶりに姿を見せたネコミミマネキンは、さっと千時の胸元へ頭を寄せた。忙しない仕草は、まるで、やきもちを妬いて甘えてでもいるようだ。
「はいはい。よーしよし」
ネコミミのくせに犬っぽい。耳を撫でると、満足そうにくるりと定位置、千時の後頭部あたりへ回り込む。ポルナレフは、とうとう自分を見た宙に浮かぶ…スタンドと呼んでいいのかどうかも分からないT・Tという何者かを、途方に暮れた目で見上げた。
「なんで今更」
「別に今更じゃないよ。エネルギーを一気に消費しすぎちゃって、ここんとこ体を維持するだけで手一杯だったんだ。ね?」
上を向けばこっくり頷き、黄色い目をきらきらとさせている。
「お前…」
ポルナレフは両手を握り合わせ、呟くように言った。
「ん?」
「怖かったり、イヤだったりしねえのか。普通のスタンドですらねえんだろ、そいつ」
ああ、ポルナレフはT・Tが、「怖」くて「イヤ」なのか。千時は、分かっていても落胆した。彼がT・Tを恐れている事は、七日前、全てを暴露した時から知っている。意外にも、彼が五人の内で一番深く思い悩んでいた。それが今、具体的な言葉になったのだ。実際はそんな、単純な言葉で言い表せる程度の感情ではないだろう。千時の複雑極まる死は、彼のトラウマを、足の傷などより余程深く抉ったに違いない。
せめて、殊更明るく居なければ。千時はそう決め、んー、と天井を見上げた。
「怖いってのは無いね。T・Tが私のこと、だあぁーい好きだから」
ポルナレフは何か言い募ろうと口を開きかけ、結局、何の音にもしなかった。
千時は少しだけ待って、彼の左腿を指さした。
「T・T。ポルナレフの足が酷いことになっちゃってるの、〝巻き戻し〟て」
ポルナレフは難しい表情のままだった。骨が露出するほどまで抉れた傷だそうだ。医者が入院しろと悲鳴をあげていたが、彼は、頑として首を縦に振らなかった。そのせいでギプスが取れない。激痛だろうに、この我慢強い男はそんな事、おくびにも出さないのだ。幾らスタンド使いとは言え、よく発熱しないものである。
T・Tは、任せなさいとでも言うように千時の肩をポンポンと叩き、両手を少し大きく広げて、ギプスへと埋め込んだ。ポルナレフは、薄ピンク色の手を何ともいえない表情で見ていたが、やがてそれが離れると、シルバーチャリオッツに命じてギプスを破壊した。
「一応、礼は言っとくぜ」
ゴトンと大きな音を立て、真っ二つの石膏が床に落ちる。果たしてT・Tに言ったのか千時に言ったのかは、定かでない。
「よかった。ポルナレフ、短パン似合わないんだもん」
「にゃにおう。何でも着こなす色男に向かって」
頭を拳でコツリ。笑い返せば、普段通りのような気がする。千時は勢い込んで席を立った。
「見せに行こう! 皆、心配したでしょ」
だが、ポルナレフは千時の腕を掴み、首を横に振った。
「待て。俺もお前に用がある」
「うん?」
「俺はな、千時。最後まで反対したんだぜ」
流れるように言われ、彼女はハッと息を飲んだ。
「さっき決まった。しばらく見逃すことになったんだ。赤ん坊二人」
腕を掴む手に促されるまま座り直すと、ポルナレフは千時の両肩を抑え、その場へ押し留めた。
「後でジョースターさんがちゃんと言いに来るだろう。だからお前には話しておく。俺は、両方ともこの世から消し去るべきだと最後まで言い続けたし、今もそう思っている。もしもう一度、邪悪の君主が現れたら、その時そばに居るだろう承太郎やお前の身が危険だと思うからだ」
「私…?」
「そうさ。当たり前だろ。他に選択肢があるか? 奴に対するこっちの切り札は、承太郎と千時、お前ら二人なんだぜ。万が一の時、居るのが俺達じゃあ対処できねえ。本気で育て直すとなったら、おそらくは承太郎ン家になるだろう。ジョースターさんがお前をどうすんのかは知らねえが、何にしたって一旦は日本へ戻るんじゃあねえのか。俺が怖いのは、そういう時の事なんだよ」
承太郎が海なら、ポルナレフは澄んだ湖だ。両目の湖面は深く、しかし最後まで澄み切って、今日こそは奥底までをありのままに曝け出している。
千時は笑い出しそうになって、それから、酷く悲しくなった。他の四人は、感情で納得できなくとも、彼女に起きた変質自体は事実として飲み込んだ。彼だけがそれをしない。もう手遅れだと明かしてなお、ポルナレフは心の底から、生きているかのように心配している。
「様子を見ると決まった以上、俺にはどうしようも無い。まさか勝手に殺すわけにもいかねえしな。だから、ほんの微かでも、やべえと思ったらすぐ呼べ。間違ってたって怒りゃしねえから、絶対に呼ぶんだぜ」
彼はそっと、これ以上無いほど、そっと、ため息をついた。
「花京院はお前が弱いと言ってた。ジョースターさんも、お前が闘争心を持っていないと。頭の良い二人の言う事だから、きっと正しいんだろう。けどな、俺には違って見えるんだよ。お前が、バカみたいに強く見える。それは駄目なんだ。その強さは、自分自身を捨てた奴だけが持つやつだ。俺が少し前、後はもうシェリーの仇を討つだけでおしまいだと人生を片付けた時に持っていたやつだ。
そんなのは捨てろ。お前が持ってていいもんじゃあねえ。女の子が持ってていいのは、幸せと花束だ。戦うのはお前の仕事じゃあない。だから、ちゃんと呼ぶんだぜ」
「…うん」
ゆっくり肩から離れた手を、今度はこちらから取ってギュッと握りしめる。千時は嬉しかった。そう言ってくれることも、彼が「持っていた」と過去形で話したことも、嬉しかった。
だが、応えようとしても正解が分からない。
「うん。うん分かった。ありがとうポルナレフ。頼りにする。何かあったら絶対呼ぶ。絶対だよ」
続けた「来てね」の語尾が掻き消えたのは、無遠慮にドアが開いたからだ。
「ポルナレフ、てめえ、俺じゃあ頼りねえってか」
「承太郎!」
ポルナレフはニヤッと笑って立ち上がり、入ってきた承太郎を小突きに行った。
「バーカ、お前の強さは知ってるっつーの! 俺が心配してんのは、このチビっ子が鉄砲玉なトコロだよオ」
「鉄砲玉か。違いねえ」
「えっ! 承太郎まで!? 失礼だな!」
「しかし威力はあるぜ。俺たちを驚かすってことにかけちゃあ、マシンガン並みだ」
「オー。殺傷能力高すぎンぜ、千時」
「暴発注意ッッ!!」
「だあッ! 女の子が殴りかかっちゃいけませんッ!!」
「外れか。残念だったな」
「承太郎どっちの味方ア!?」
ポルナレフがぎゃあぎゃあとやって、千時が笑い、承太郎が帽子をちょっと触る。
「で、お前どっから聞いてたの?」
「勝手に殺せねえとか何とか」
「だいぶ前じゃねえか!」
「邪魔しちゃ悪いかと思ってな」
「居たならお前にも言い聞かせたかったんだぜ! 承太郎もちゃんと呼べよ。この勝利の暗示の仲間を!」
「ああ。分かってる」
千時はまた少し笑った。ポルナレフは仲間の意味でブラザーと言ったのだが、彼がそれを口にすると、どうしても「お兄ちゃん」に自動変換がかかっちゃうのだ。場違いでどうにもおかしい。
「そんで? 何か用か」
ポルナレフが訊ねると、承太郎は思い出したように千時を顎でしゃくった。
「赤ん坊の事は」
「言ったぜ」
「このあと夕方、アメリカに移送される」
承太郎は事も無げにさらりと告げ、千時を絶句させた。
「その前に顔くらい見ろと、ジジイがな。来い。どこの部屋だか知らねえだろう」
くるりと踵を返し、ドアを出ていく。
ああ、どうしよう。戸惑っていると、背中を押す手があった。はっとして見上げれば、透き通る青い目が微笑んでいた。
「俺は他の奴らに、この足を見せてくる。特に花京院がよぉ、親切すぎて気持ち悪いんだよ」
「そう」
「不安にさせたか」
「そんなことない」
「承太郎が一緒なら、まあ平気だろ。ジョースターさんもそのつもりだから、承太郎を寄越したんだろうぜ」
「そうだね」
ぐっと押されるまま踏み出して、ようやく覚悟が決まった。
「行ってくる」
「おう」
背を押した手はひらひらと、彼女を見送ってくれた。
部屋を飛び出し、廊下の先で待っていた承太郎に追いつくと、
「遅え」
彼は唸って歩き出した。
「ごめん」
「何十回目だ」
「ん?」
「そのゴメンは」
「ンフフ。はて、何回目だろ」
一階まで階段を降り、フロント脇からスタッフオンリーの扉を進んで、リネン室らしき白布だらけの部屋…の、隣。
「どこ?」
「スタッフの仮眠室だと」
承太郎は扉をノックし、返事は待たずに開け放った。
「泣き声が酷いんで、一番奥まった部屋ってことらしいが」
狭い部屋には、椅子に座る白人女性が一人と、二人の赤ん坊がパイプベッドに寝かされて居た。
中年の女性は疲れた顔をパッと輝かせ、承太郎に話しかけた。こんなところでもイケメンマジック、かと思いきや、見ててくれるなら休憩してきてもいいかしら、ということだった。そりゃあそうだ、彼女の本職は研究者である。いきなりこんなところへ呼ばれて、得体の知れないヨソの子二人を押しつけられたのだから、幾ら給与が出ているとはいえ煮詰まるに決まっている。
承太郎は一時間程と短く答え、彼女を送り出してしまった。千時は、一時間もどうするんだろうと思ったが、とにかく、促されて中へ入った。
突っ立って赤ん坊を見つめながら、背後でパタンとドアが閉まる音を聞く。
「同情するような話があるのか。大量殺人犯の吸血鬼に」
承太郎はそう問いかけ、さっさと椅子に座った。椅子は一つしかなく、それはまるで、彼女の退路を断つかのような動作に思えた。
今までさして気にも留めてこなかったが、承太郎は、悪の化身としての〝DIO〟しか知らない。いや、ディオ・ブランドーの過去などクルセイダーズは誰一人、ジョセフさえも、知らないかもしれない。唯一それを間近に知っていたであろうエリナが、果たして、愛する家族の命運を奪った男のほんの僅かな事情など、孫に話せただろうか。
少し迷いながら、千時は言葉を選んだ。
「少年時代の話はほんの少しだったけど…。彼にも、たった一人の誰かが居れば良かったんだろうって思いながら見てたから」
「誰か?」
「彼を納得させられる形の愛を持った、誰か一人」
きっと、死んでしまった母親の代わりに。
ブロンドの赤ん坊は、隣のブルネットへ顔を寄せて眠っている。物語の中で彼らが通じ合うことは、終ぞ無かったように思えた。互いに強く想う事はあっても、結局それは行き違いのまま、平行な直線が理論上どこまで行っても交わらないような、他者からはどうしようもない断絶の位置にあった。
「友愛の意味では、ある程度の近さにジョナサンが居たんだと思う。でも、そうじゃなくて…、違うな、えっと…、ディオにとって意味のある愛じゃなかった事が問題だったのかなって。それはもうその時点で、受け取り側のディオが拒絶していたからで、ジョナサンは全然悪くないんだけど、あぁー…。
手遅れのタイミングだとかいろんなことで、結局、噛み合う愛を貰えなかったのが致命的だったんじゃないか、って、思って、見てた」
だが、あれは必然の展開だった。物語の端緒があの時点に至っていた以上、例え石仮面が存在しなくても、ディオは同じ方角へ向かい暗闇に消えただろう。千時にはそう思える。
「俺にとっちゃあ、厄介な敵だったという以上のことは無いぜ」
承太郎は静かに問い続けた。
「なぜそんな事を思うに至る?」
「たぶん私の父の愛の形がそうだったからだね」
自分で答えておいて、千時は噴き出し、けらけら笑ってしまった。
「愛とか言うとご大層に聞こえるけど。ありがちな話だよ。私が欲しかったのは、莫大な教育費用でも、決められたキャリアのレールでもなかったっていう。結局、一度も伝わらなかったなあ」
今となれば、なぜその愛情が欲しくてたまらなかったのかすら分からないのだ。
彼女の父親は、経済力や地位といった社会的な側面では、尊敬に値する人物だった。だが同時に、彼女にとっては、いつ暴発するか分からない銃のような相手でもあった。機嫌の良い時でも、ほんの少し気に入らないことを彼女が話しかければ、一瞬にして怒鳴り散らした。説明も理由も釈明も、それが彼の体を気遣う忠告であってさえも、聞く耳など持たなかった。
どうして母や妹達が普通にやれるのかが、千時にはずっと分からなかった。同じ言語を使い、同じように話しかけている筈なのに、彼女だけが親子の会話を成り立たせる事ができなかった。父は一方的に話すだけで彼女の話を聞くことは無く、伝えたい事は母を通す以外に無かった。母に頼んでまでも伝えたい事すら、ほとんどが曖昧に押し流された。
なぜそんな相手からの愛が欲しかったのか、自分を押し殺してまで従い、褒めてもらおうと必死だったか。その理由は、彼が父親だからという、ただそれだけの事だ。単純で、根深く、手に負えない。どこにでもある理由だった。
子供時代最後の進路である大学が目前に迫った時、うっすらとあった芸術や音楽のような希望は、伝える前から一蹴されていた。父が奨めたIT系の難関に合格し、生まれて初めて手放しで褒め讃えられた瞬間、ようやく彼女は、この十八年間に何が起きていたのかを悟った。
父は、長女に、長男であることを望んでいたのだ。父の背を追う息子であれと。妹二人は下だから娘で構わなかったが、長女が娘で居る事は許せなかったのである。
それを理解した途端、彼女の中の何かはプツリと終わって、それきりになった。崩れた彼女を父は失望して見限ったが、彼女は何かを憎むことすらできなかった。父の期待を増長させたのは、怒鳴られて拒絶されるのを恐れるあまり唯々諾々と応え続けた、彼女自身だったからだ。
ディオは、それでも、悪役に成った。
彼女にそんな力は無く、抜け殻は抜け殻のままだったというだけの事。
「独りぼっちで人のまま生きていくのは、難しいんだよ」
承太郎は低いため息を吐き、千時はまた少し笑った。
二人とも動かないまま、静かに、時計の針だけが進んだ。
やがて黒髪の赤ん坊が、アァ、と小さな声をあげてもぞもぞ動き、その髪が金髪の赤ん坊の鼻をくすぐった。フスンと鼻をならした彼がコロリとそっぽを向く。すると今度は、ブルネットがブロンドに顔を寄せた。
ああそうか、と、千時は唐突に思い出した。ボインゴ少年が見せたトトの予言だ。目を凝らして確かめたベビーカーは、重なるように二つ、描かれていた。あれはこの子達だったのだ。
…私は、この子達を。
「ジョナサン。どうか許してください」
唐突に胸を突かれ、千時はベッドの横へ跪いた。
「あなたは助けてくれたのに、私は裏切ってしまった」
ジョナサン・ジョースター。正義の象徴。千時が図書館でディオと出逢ってしまったあの時、T・Tは恐らく、ジョナサンのスタンドに干渉していた。ハーミットパープルによく似たあのスタンドは、T・Tに促されたとは言え、吸血鬼の意志に逆らい千時を助ける選択をしたのだ。なのに、討伐の望みを千時が破った。この物語における正義を、彼女こそが裏切った。
触れていいものか迷ったが、それでも、千時は手を伸ばした。眠ったままの小さな手に、人差し指で触れる。彼はそれをゆっくりと握って、握手でもするように、少しばかり動かした。
「ごめんね…ごめんなさい」
「バカかお前」
承太郎があまりにもごく普通に呆れ返った調子で言うものだから、千時は驚いて振り返った。
「謝ったって仕方がねえだろ。何言ってんだか知らねえが、相手は赤ん坊だぜ。通じねえよ」
「ご、ごめん…」
呆気にとられて繰り返すと、承太郎は更に呆れたようだった。
「誰も責めてやしねえじゃあねえか。メソメソうっとおしい」
千時の後頭部を叩いて、彼こそ何度目か分からないため息を繰り返す。
「言っただろうが。胸を張れと。少なくとも俺はこれでいい。お袋が助かりゃ充分だ。謝るより、腕に抱いてやれ。夕方にはアメリカへ持っていかれちまうんだぜ」
そういえばそうだが。
「けど起こしちゃうって」
「泣き出したらドアの前で待っといてやる」
「まさかの撤退宣言!」
「当たり前だろ。子守なんざしたことねえ」
「そうかあ」
…まあ、そうだよねえ。けれども千時は、妙に嬉しくなった。ポルナレフですら難しい顔をしていたのに、承太郎ときたら、この上なくフラットに接してくれている。少なくとも、そうしようとしてくれているのだ。特に、赤ん坊に対して。
「そうだね。一度くらい、だっこさせてもらおう」
千時は、できるだけそっとジョナサンを抱き上げ、ゆっくりと床に座った。くったりとして熱い。湯たんぽのような体温が、抱いた腕と胸元にすぐさま広がる。くしゃっと顔が歪んだから泣き出すかと心配したが、彼は、ンンアア、と一言呻いただけだった。
「おー…泣かないの。いい子」
ポルナレフは空条家で預かるのではと言っていたが、それは彼の推測だ。もう今後の事は、誰にも分からない。トトの予言だって、千時がこの世界から消える可能性までを予測できるものだろうか。この旅で出くわした敵の順番が正しかったように、運命と呼ばれる何かがある事を、彼女はもう知っている。その詳細を知っていたからこそ対策し、すべてを狂わせ、こうして赤ん坊を抱くような結末も起きたが、しかし、この結末を誰一人知らなかったように、この先の運命を知る者はもうどこにも居ないだろう。
もしかしたら二人とは、二度と会うことが無いかもしれなかった。
「ごめんね。ありがとう。どうかあなただけでも、無事に大きくなりますように…」
生き直せというのも、それこそ奇妙な話だ。けれど、他にかける言葉が無い。千時はベッドへ寄りかかり、しばらくその子を抱いて、顔を眺めた。
もう一人を抱き上げる決心をするのに要した時間は、多分、五分ほどだったろう。
一度、祈るように瞑目し、千時は体を起こした。
ジョナサンを元の場所へ横たえ、その隣に目を移す。
彼女は、丸い額にかかった金髪を撫で、頬に触れ、彼の胸元へと手を置いた。力を込めれば死ぬだろう。アラブで出会ったマニッシュボーイより小さな体だ。踏み抜くまでもない。こんなか弱い体の生き物が不死身の吸血鬼だったなど、信じる者とてきっと無い。
手のひらは、柔らかな呼吸に上下した。
ひどく簡単に、その命は、生きていた。
「…あなたがディオ・ブランドーではなくなりますように」
抱き上げると、彼は、眠たそうに目を開けた。美しいヘーゼルカラーは宝石のように潤み、この上なく柔らかに煌めいていた。そっと手をずらし指を向けると、小さな手で懸命に掴む。それが赤ん坊の反射的な行動だと知っていても、何かに許されたような気がして、千時は小さな指へ口吻けた。
「悲しい思いをしませんように。苦しみませんように、愛されますように。新しい名前をくださいって一緒にお願いするから、どうかもう、幸せになって」
赤ん坊は、応えるようにキャッと笑った。
抱いた腕が震えだしてしまって、彼女はその子をベッドへ下ろした。屈んだそのまま身を起こすことも出来なくなって、こらえきれない涙がぼろぼろとシーツを濡らしていくのを見ていると、視界の端の小さな手が、まるで拭おうとでもするかのように伸ばされた。
せっかく赤ん坊が泣いていないのに、泣き声が止まらなかった。ベッドに顔を押しつけて、必死に声を殺すしかなく、不意に肩を引かれて覚えのある動作で抱き止められると、もっとどうしようもなかった。ジョセフとそっくりなやり方で、承太郎は、彼女の頭を抱き込んだ。胸元へ押しつけ、まるで何かから守ろうとでもするかのように、太い両腕で彼女を覆い隠した。けれどそれはまだジョセフほど上手くなく、千時の泣き声は、部屋に響くしかなかった。
「どうしてお前だったんだろうな」
嗚咽が収まった頃、承太郎は呟いた。
接した体に響く音に釣られ、彼のシャツに手を当てれば、布の向こうは温度を伝えた。呼吸に上下し、鼓動を刻む。それはジョナサンの体温と同じで、ディオの呼吸と同じで、千時自身の鼓動と同じだ。
「世界が違う」
「何?」
「から、かもしれない」
それ自体を疑うことはずっと無かった。違う世界に迷い込んだと知ってさえ、見て、触れて、話して、自分は〝同じ人間〟なのだと思いこんだ。
それは勿論、当然すぎる事だった。
「だって私、普通の…何でもない普通の人間だったんだよ。スタンドみたいな超能力どころか、霊感にすら縁が無かった。特別なわけない」
気付いたのは、この数日に至ってのことだ。まったく異質な生命の思考回路に繋がれて、初めて思い及んだ。
「この旅だって、私にとっては「物語」だった。他人の空想の話で、絶対に現実じゃない。世界そのものの摂理が違う。
そんなに違う世界なのに、そっくり同じ人類なんて居る?」
「何だと?」
「きっと最初から間違ってたんだよ。前提が違った。私だけが受容体質だったり、スタンドウイルスだけが異界の生命だったりなんて、そんな都合の良い話は無い」
〝世界〟に対する〝異質〟な生命が、スタンドウイルスだけではないのならどうだ。
千時は、承太郎の端整な顔を見上げた。
見交わした視線には拒絶を込めた。それは忌避や嫌悪でなく、自らを異分子とする断絶の意味だった。
だが、それを掻き消すように、承太郎はあっさりと言った。
「テメエの世界の奴なら、誰が感染しても〝適合種〟になっちまうかもしれんということか。ああ、そうかもな。そのほうが納得がいく」
意外にも淡々としていて、千時が驚きに目を丸くすれば、大きな手は涙を拭ってくれた。
「だが、俺に…俺たちスタンド使いにとっては、お前なんかそう特別なもんじゃあねえ。ちょっとばかり珍しい能力を持ったスタンド使いだってくらいだ。バレなきゃそんなもんだし、それでいい」
「…ありがとう」
「分からねえ奴だな。よくある馬鹿で無鉄砲でお人好しの、ポルナレフみてえな奴だと言っているんだぜ」
「なにそれ!」
ひどい! 唐突なオチに思わず噴き出すと、承太郎も唇の端で笑った。またこぼれた涙を今度は自分の片手で拭い、もう片手で承太郎の腕を叩く。彼は応えて腕を開き、もう大丈夫なのかと言いたげに、背と肩を撫でた。
「もう大丈夫。落ち着いた」
「先週ほど落ち着いてるようには見えねえぜ」
「あれはT・Tの影響がきつかったから。言ったでしょ、元に戻るって」
「戻ったのか」
「でなきゃきっとこんなに泣かんね。うー。マジありがとーだけど、ごめん、離して。鼻水出た」
承太郎はブッと噴いて笑い出し、千時は腕を抜け出す。彼がクツクツ笑い転げている間に、彼女はベッドヘッドのティッシュと、その脇のゴミ箱に大仕事をさせた。
「あースッキリした。なんかグチャグチャしちゃってごめんかった。つーかディオ様がグズりはじめていらっしゃいますわよこりゃヤベえ」
フニャフニャと不満を訴え始めた赤ん坊を、もう一度抱き上げる。もう一人は我関せずと寝っぱなし。この対照的なところがまた絶妙だ。
「んー、いい子いい子、泣かないで。ねえさんも子供苦手なんでねー、泣かれても困っちゃうからねー」
「苦手?」
承太郎は意外そうだが、千時は深ァーく頷いた。
「マジ苦手。超無理。ホント意味わかんないんだもん。スタンドよりよっぽど宇宙人」
「女ってのは大概、子供と動物が好きなんだと思ってたぜ」
「いやあ、世の中ホリィさんばっかじゃあねえですよ旦那。うん、よしよし、そうそう。笑って。シッターさんが戻ってくるまでガマンだよー」
ついつい語尾が間延びする。
パタパタ動く手に指をもっていくと、また一生懸命に掴まれた。同じくもう一度、口吻けを贈ると、ヘーゼルの中の鳶色が笑う。赤ん坊はきゃらきゃらと甲高い声を上げ始め、機嫌良く千時の指を振り回した。
「ディオさあ」
腕を揺らし、彼をあやす。
「私とゆっくり話したいなんて言ってたんだ。聞こえてた?」
「ああ」
承太郎はおもしろそうに頷いた。
「唯一そこに関しちゃあ、奴の気持ちが分からんでもない。まさか、時間を止めても止まらねえ奴が居るとは、俺だって思わなかったからな」
「誰も思わんよね。私もびっくりした」
くすくす笑うと、また赤ん坊が釣られて笑う。千時は顔を寄せて首を振り、彼の手に遊ばせてやった。
「いつかこの子が、お喋りするくらい大きくなって、それでゆっくり話ができたらいいなって思う」
「できるさ」
意外な答えに顔を上げれば、承太郎も赤ん坊を見ていた。海色はほんの少し細められ、とても静かに凪いでいた。
「旅の間、お前は確かに俺の希望だった。そしてこの先は、そいつらの希望になる。テメエがどう思おうとな。だから、お前さえ前を向いていれば、話くらいできるようになる」
千時は目を見張り、息を飲んだ。そうだ、そうじゃない、今度こそ間違えちゃいけない。そう心に言い聞かせ、肺の息をゆっくりと吐く。
「承太郎、お願い。もう一度だけ謝らせて。ごめん」
言いながら、彼女は、機嫌を直した赤ん坊をベッドへ戻した。そうして体ごと向き直り、きっちりと正座して、承太郎を…唯一無二の仲間の一人を、見つめた。
「聞いて。私、途轍もない馬鹿だったの。
私は長い間、父の愛と自分の心を秤に掛けて生きてた。本当はそんなの秤に乗るわけがないのに、愛を取ろうとして失敗した。引き替えに得たのは自由だったけど、もうその時には自分が欲しかったものを何一つ持っていなかったから、自由だけあっても意味が無かった。急に生きてる理由を失って、でも死ぬ意味も無くって、生きている事が惰性になって、死はただその終点というだけの生と等しいものに成り下がった。承太郎は私を死にたがりと言ったけど、私は、死にたがりにすらなれなかった。
この世界に来て、あなた達を助けられるかもしれないと知った時、それが私の生きてきた意味になるかもしれないと思ったの。こんな抜け殻が誰かを救えるとしたら、生きてきた意味があるって。自分のために、皆を助けようとした。
それが叶った。
私が居たからT・Tが生まれて、皆無事で、この子達まで生きてる。生まれて初めて、私が〝私〟を必要だったと納得できたのよ。だから本当は最初からずっと、皆は私の希望だったんだ。私が気付けない馬鹿だっただけで、あなた達の存在は、最初から私の希望だった。多分、これからもずっと、私に私を許せるようにしてくれた…〝生きていく〟ための希望」
そのすべてを繋ぐ星こそ、目の前の青年だった。
その血の痣は北極星。揺らぐことのない標。数多の旅人が信じる光。
死の影の無い彼が居たから、彼女はその背を追い、隣に並び、自分の足で歩いた。
「承太郎。あなたは確かに、私の希望だ」
旅の仲間は初めて、そしてようやく、同じ温度の穏やかな微笑みを交わした。