スターダストテイル   作:米俵一俵

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20.誰の何にも

 ホテルまで、ほとんど無言で戻ってきた。

 ポルナレフだけは最初、操られて悪かったけどあれは警官が、とベラベラ喋っていたのだが、二人が上の空でろくな返事もしなかったため、やがて諦め、黙り込んだ。

 ポルナレフが先に奥へ行ってしまってから、フロント前で承太郎は立ち止まった。

「おい」

 呼び止められた千時が振り返ると、彼は渋い顔で顎をしゃくった。

「黙っていたいなら、青通り越して白になってるその顔色を、どうにかしてこい。そうでないなら喋っちまうぜ」

「あー…」

 わかったとも言わない内に、承太郎は奥へ行ってしまった。

 千時はとぼとぼ、また外に出た。何せフロントだけのホテルなので、ソファだとか気の利いた物は置いていない。裏手の川に行こうか、いや確か部屋の窓が面していたはず。道路を見渡すと、少し先の緑地の木陰にベンチが置いてある。千時はふらふらとそこへ行って、座った。

 何分経ったか知らないが、いつの間にかイギーが足もとに来ていた。千時が気付くと、彼は小さなしっぽをおしりごと振った。珍しくガムをねだらず、ぴょんとベンチへ飛び乗って、隣に座る。寝そべるでもない。

 さすが。犬猫は敏感だなあ。千時のほうも何となく、頭の一撫でもしないでそのままにした。

 街はどことなくのんびりしている。小さな男の子が棒付きキャンディを舐めながら通りすがって、そういえば病院に居た兄弟、どうしたかな、なんて思い出す。

 さらに何分経ったのか、雑音がすごいと思ったらイギーがギャンギャン吠えていて、現地人らしき男性に喋りかけられていた。なんぞ。言葉分からんぜ。千時はそれすら伝える気にならず、視線を前方へ戻して無視した。途端に隣のボストンテリアが宙を飛んで、ギャーとかプゥーとか聞こえた気がするけど、まあいい。

 騒音が消えてまたしばらく、一人と一匹、つくねんと座っていると、急に肩を叩かれた。

「危ないじゃないか。どうして一人なんだ」

 振り返ればベンチの後ろに、花京院が紙袋を抱えて立っている。

「一人…ではない」

 行儀良く座るタキシードの紳士を示せば、凛々しい顔でつんと澄まして、得意げに鼻をちょっと上げた。

「犬じゃあなあ」

 ああ、ホントに言葉わかってるのかも。このタイミングで花京院をジロリと横目に見ている。不機嫌そうになった。すごい。

「そっちこそ一人のくせにって言ってるよ」

「そりゃどうも。買い物を頼まれてね」

 すぐそこ。指さす先はホテルの出入り口真正面。小さな商店があって、昨日、宿が決まった時にも、水や何かを買った。彼の抱えた紙袋もボトルが入っているらしく、揺れた拍子、タポンと小さな水音がする。

「何だか様子がおかしいぞ。どうしたんだ」

 怪訝そうな花京院にもう一度振り返ると、彼は、少し目を見開いた。千時が、ものすごく真剣に彼を見上げていたからだった。

「ノリさん」

「うん?」

「私、ゾンビだった」

「…………んん?」

 花京院が眉を跳ね上げ、首を傾げたのが、唐突におかしい。

「アハハハハハハハ!!」

 ヤベーわあぁぁぁー!! 吸血鬼とか厨二病とか言ってたら、宇宙人にゾンビにされてたわああぁー!! おッ前!! どこのラノベ!? 

「ヒャーハハハハだめだ、設定が、フヒヒヒヒハハハハ」

「…だ、大丈夫か…?」

 よっぽど、頭、と言いたかったろう花京院が、ドン引きで数歩、後ろへ下がる。千時はまだしばらく腹が痛くてうずくまっていたが、どうにか涙を拭って、立ち上がった。

「あー! スッキリした! イギーちゃんセンキュ! 愛してる!」

 まだ隣に居てくれた犬を抱き上げギュッとして、さもイヤそうな顔をされてまた笑う。ベンチに下ろすと、彼はフスンと鼻を鳴らしてそこを飛び降り、ホテルの方へとテッテコテッテコ歩きだした。

「ノリさん!」

 勢い良く振り返ると、花京院は薄気味悪そうにもう一歩下がった。

「一体何なんだ」

「あのお店、ノート売ってた?」

「ノート?」

「それっぽい紙なら何でもいいんだけど。レターパッドとか、何ならコピー用紙でもいいや、枚数あるやつ」

「ノート…はあったと思うが」

「良かった! じゃ、ひとっパシリ買ってくるから、先に戻、あ、そうだ待って、あとお願いがあるんだけど」

 続けてまくしたてられたお願いに、花京院は目を剥いた。

 

 うっわ。超絶迷惑行為。思わず口の中で呟く。

 ドアを開けた途端、一斉にこっちを見た人数、実に七人。男ばっかりクッソ狭い。フロント前に大集合しちゃった五人と、困り果てた受付のおじさんに、廊下で見かけた掃除のおじいちゃんである。

「なーにして…」

「お前が変な事を言うからだあッ!!」

 千時に怒髪天で怒鳴ったジョセフは、何故か承太郎の胸倉を掴んでいる。承太郎の後ろには花京院がオロオロと手をさまよわせていて、その奥にめいっぱい顰めっ面のポルナレフが腕組みの仁王立ち。アヴドゥルは殴りかかりそうなジョセフの片腕を押さえていた。

 で、ホテルのおじさんと掃除のおじいちゃんは、せまいフロントが占領されちゃったもんだから、カウンターの向こうで肩寄せあって困っちゃっていらっしゃる。

「えーと…外でやろっか?」

 千時は開けたまま持っていたドアノブをそのまま、バックした。

 ドタドタと五人が出てきて、最後の承太郎がドアを閉める。

 ジョセフがこんなに取り乱すのを、千時は初めて見た。

「うちの孫に何をイヤイヤ違うかッ!? うちの孫がか!? 何をした!?」

「は?」

 いきなり詰め寄られて目を丸くすると、ジョセフは混乱の極地という様子で、早口に怒鳴り散らした。

「あのな! そりゃあ若いもんが色々あるのはしょーがないとは思うけれどもッ!! よりによって今は無いじゃろ!! ていうかお前らいつから!! いやその前に隠しなさいよちょっとはア!!」

「ちょちょちょちょい待ち。何の話?」

「池上さん、あの」

 珍しく遠慮がちに、割って入ったのは花京院だった。

「僕の言い方が悪かったかもしれないんだが…」

「んあ? あ、あああソレか! ごめん!! いや私が悪かった!!」

 これでもちゃんとテンパッてますからねー私もねー。

 千時は片手に抱いたノートを持ち直した。

「すごく誤解です!」

 ジョセフは振り上げた拳の行き場を失くして、ウウだかアアだか唸った。

「ジョセフさんがアヴさんと作戦会議すんのと一緒な話で、他の理由は何も無い」

「他の理由ってな! お前!! 見えなくてもコイツは未成年なんだぞ! いやむしろお前が自称二十歳過ぎの大人なんだろーがッ!! 分別ってものがだな!!」

 すごい! 超レア!! 支離滅裂なジョセフ・ジョースター…だとッ!? 

 じゃなくて。

「承太郎さんや」

 千時はジョセフの脇から顔を出し、その向こうで黙然と立つ学生に手を振った。

「悪いんだけど、援護してもらえない?」

「死人に寝込みを襲われそうなのにか?」

「バッカこちとらソレどこじゃねーわ」

 軽い応酬だったが、承太郎はやれやれとため息一つ、大股にジョセフへと近付いた。

「ジイさん。アンタ、自分の孫がそんな節操無しに見えるか」

「そういう問題じゃあないッッ!!」

「母親が死にそうだってのに女にウツツ抜かすようなフヌケ野郎に見えるのかっつってんだこのクソジジイッッ!!」

「援護射撃が空爆レベルッ! 人選を誤ったゴメンッッ!!」

 カオス! 胸倉掴み合ってるジジマゴに私のために争わないで状態のゾンビとか! カオス!! 場違いにもブフッと噴き出してしまって、二人が同時にそっくりな顔で見下ろすものだから、千時は俯いて笑いを噛み殺した。

「ご、ごめんよ。えー、ね。ジョセフさん。あの、ちょっと承太郎に相談したいことがあってさ。長くかかりそうだから、ほらそのためにノート買ってきたりとかしてるわけで…」

 どうにか残りの笑いを堪え、千時は背筋を伸ばした。

「いやホント、ノリさんに部屋替えてって言う前に、ジョセフさんに言うべきだった。軽率かつ半端な事を人伝てに言っちゃったのは申し訳なかった。でも、ちょっと必要だと思うんだ」

 承太郎が重い足取りで、のっそり千時の背後へ回った。

 二対四。勝ち目? 有ろうが無かろうが、どうにかする。

「剣のスタンド、アヌビスと戦ったのはもうみんな聞いてる? オーケー、ポルナレフ君ありがとう。きみ、操られて気絶してた時の記憶無いって言ったよね?」

 いきなり話を振られた剣の達人は、えっと青い目を丸くした。

「ああ、覚えてねえが…」

「その間に承太郎と私とで、それぞれスタンドさんがたの新発見がございましてですね」

「何!?」

 声を上げたのが誰やら。千時は四人へまとめて頷き返した。

「ただ、正直かなり混乱してる。自分で理解してからじゃないと、とても説明できない。承太郎と事実を揃えて、確実な事を炙り出したいわけです。だから部屋に缶詰させてもらいたいって話だったわけよ」

「理由はいいが、池上さん」

 花京院が、何とも微妙な顔をした。

「この時間からというのが問題だと…」

 そう。

 もう空は薄暗い。

「分かってる。…ちなみにみんな! ジョセフさんに奥さんとの馴れ初めを詳しく聞けばいいと思うよ!!」

「うおッ!?」

 ジョセフが盛大にのけぞって、全員の視線がそっちへいく。

 えーえー、そうですとも。考えてみりゃジョセフ・ジョースター氏なんてあんた、おまゆう代表じゃありませんか。いや孫の貞操かかっててパニくったのは分かるけど。これくらいの仕返しは自分で始末したらいい。

 悪意の無いポルナレフに詰め寄られたジョセフへ、千時は頭を掻いて笑った。

 

 夕飯の席で、本当にフザケたヤツだと散々罵倒を浴びつつも、最終的には許可が下りた。部屋の鍵をジョセフに預け、いつでも誰でも好きなタイミングで覗いてくれてかまわない、という条件を提示しての事だ。既に数回、ジョセフとアヴドゥルが顔を出した。

 ここまで千時は、隅の小さなデスクスペースで、ひたすら書き物をしていただけである。承太郎が後ろで何をしていたかもあまり気にしなかったので、ドアが開くたび物音にビックリした。

 一応申し述べておくが、無論シャワーはガマンだ。まあ気分からしてそれどころじゃないけれども。

 ペンを置き、書いたことを頭から読み返して、伸びを一つ。

 千時は振り返って承太郎を探、そうとして、ギャッと身を竦めた。全体的に黒っぽくて大柄なんだから、気配も無く背後に居ないでほしい。怖い。

 承太郎は背後のベッドにただ座って、千時を見ていたらしかった。

「…や、やあ」

「どうした。水でも飲むか」

「いや、一段落できみの出番になっただけ」

「そうか。俺は何を話しゃあいいんだ。ゾンビさんよ」

「おっと。あまり口に出されちゃ困る」

 承太郎は大仰にため息をついた。だが、ここまで終始、千時に反対していない。あの情報量だ。頭がぐるぐるするのは、多分、同じ。

「ちょっと試すから待っててねー…」

 承太郎にそう前置きして、千時は頭上に呼びかけた。

「T・T。ガードしてくれる? 音も聞こえないように」

 ひょいと現れたT・Tは、ふわりと両手を広げて、イスごと千時を中へ収めた。

 で、千時は、腹の底から大声を出した。特に意味もない、わああああ、というだけの叫びである。外に聞こえていたらホテルのおじさんが飛んで来ちゃうレベルだったはずだ。が、案の定、薄ピンクの向こうの承太郎が訝しげな顔をしただけだった。

 よろしい。千時は頭上を見上げた。

「T・T、この手のドーム、サイズ大きくしても音は漏れない?」

 T・Tがこっくり頷く。

「時計は分かる?」

 OK。

「今、午後9時ね。この手を持続できる時間を訊くよ? 10時」

 大丈夫。

「12時」

 平気。

「じゃあ3時?」

 余裕余裕。

「朝日が昇るまで」

 ネコミミマネキンは、首を縦に振り続けた。

 千時は頷き返し、承太郎を手招きした。

「じゃあ、承太郎も入れて」

 ふわっと指がゲートのように開き、全体が大きく広がる。

「今、何か聞こえた?」

「…いいや。何だ、こいつは音を遮断するのか? 初めて見た時も、お前の声がこっちに聞こえなかったな」

「みたいだね。それも今晩、確かめておこうじゃないですか。さあどうぞ、秘密基地へいらっしゃいませ」

 千時はノートとペンを手に、椅子を降りて床に座った。椅子を譲ったつもりだったが、承太郎は正面にのっそり体を丸め、あぐらをかいて座った。

「T・T、閉じて。今夜はずっと、外に音は聞こえないように」

 T・Tは頷くと、祈るように手を閉じた。

 承太郎が上を見たが、トパーズの目はキラリともせず、妙に物静かだ。

 千時は承太郎の腕をちょっとツツいて、こちらへ注意を向けた。

「一つだけ注意ね。ドームの中では、絶対にスタープラチナを出さないで」

「何?」

「何。出す予定あんの」

「無い。が、なぜわざわざ言うんだ」

「いいから。さてと」

 千時はノートをめくり、承太郎に開いて見せた。

「私が覚えていられた内容を書き出した。他に思い出せること教えて」

 箇条書きのそれは、昼にT・Tの口から語られた、荒唐無稽な話の数々だ。但し、おそらく正確ではない。千時は、自分がかなり混乱していた事を自覚している。

 承太郎は難しい顔でノートを手に取り、読み始めたが、すぐに目を見開き、一カ所を指さして止まった。時系列だけは清書して整えてあるからだ。

「これは」

「言ったでしょ。スタンドさんがたの新発見、て」

 〝スタープラチナの時止めが私にはきかなかった。〟

 彼に関する記述はそのたった一行だが、承太郎は息を詰めた。

 千時は、部屋の戸を開けたアヴドゥルと、その向こうのポルナレフが目を丸くしているのに手を振りながら、言った。

「だから誰にも聞かれたくなかったわけよ」

 承太郎がベッドに入るのは、それから三時間も経ってからになった。

 

 

「ね、ごめん、承太郎。…ねえ、ねえ」

 最初はベッドの脇から声をかけただけだったが、どうしても起きてくれないので、千時は肩を揺す…ろうとしたんだけれども重くて揺らせず、結果、シャツがズレただけに終わった。

「…なんだ」

 それでも起きてくれたので良しとしよう。

 承太郎は不機嫌そうに、ごろりと半分寝返って、顔を見せた。

「起こしてごめん。ライター貸して」

「上着だ。勝手に取れ」

「ありがと」

 起こしてしまったせめてもの謝罪に、千時は、めくれていた毛布を分厚い肩まで引き上げてやった。

 ハンガーにかかった学ランは、運良く最初に手を突っ込んだポケットにお目当ての物があって、余計なガサ入れをせずに済んだ。

 5時過ぎ。今朝は便乗している商船の都合、7時に港へ着かなければならない。あと一時間ほどで皆が起きてくる。

 千時は物音をたてないよう気をつけながら、さらに荷物の中の小鍋をひっぱり出し、もう片手にノートを取って、窓からホテルの庭へ出た。日本と違って真っ暗だ。街灯ってものが無い。

 川のせせらぎの音と、ホテルのこぼす微かな灯りに目を凝らす。来た時には嬉しかった綺麗な芝生が、今は生憎。どうにか右奥の木の下に草の生えていない地面を見つけて、小鍋を置く。ノートをビリビリに破いて細かくし、容量より少な目で鍋へ投入。ここでライターの出番だ。ホテルのマッチが置いてあれば、承太郎を起こさずに済んだのだが。

 ぽわっと火が燃え上がり、白い紙片はぐずぐずと黒く染まって、なめらかに灰となる。火が収まる頃合いでノートを破き、またポイポイと中へ入れてやれば、炎はムシャムシャ美味しそうに紙を食べた。

「用心深いこった」

 不意に頭上から声が降ってきて、千時は小さく笑った。

「夜中まで付き合わせた上、起こしちゃってごめん」

「そこまでしなくちゃあならねえのか」

「ならねえのよ。フッフ」

 承太郎は腰をかがめ、千時の横へ手を出した。何をするのかと思ったら、指には煙草。小鍋の火を器用にもっていく。千時が用済みのライターを感謝と共に頭上へ上げると、太い指が摘みあげた。

 後方、別の場所からカタンとまた音がして、今度は振り返ると、

「あ。あっちも起こしちゃった」

 窓からこちらを見たのは花京院だった。彼は苦笑しただけで、軽く手を振って窓を閉めた。

 まだ起きるには早い。

 ノートを燃やし終わった頃、承太郎は二本目を吸い終わっていた。

「少しは寝ろ」

「ご心配なく。もともと夜型だから、一晩くらいは。ま、昼過ぎあたりにちょっとボンヤリしてるかも」

「テメエは結局、死にたいまんまか」

 さらっと言われて、千時は詰まった。T・Tに暴露された心情は、あまりといえばあまりな内容だ。あれではまるで、承太郎を拒絶したように聞こえる。

 …彼ではない。彼だからではないし、彼だけでもない。

 千時は、ゆっくりと紡いだ。

「命は全て常に等しくて、優劣や愚かさがまるで階段の上下のように見えたとしても、その錯覚は期待という願望にすぎない…、とかね。思っちゃってたりなんかして。

 …ごめん。それを希望にできないのは、承太郎だからじゃなく、私だからなんだよ。でも嬉しいのは本当。あんなこと言ってくれる人は居なかったし、きっともう二度と居ない。ずっと嬉しい。ありがとう」

 承太郎はため息すら残さず、その場を立ち去った。

 千時は彼の足音を聞きながら、ディスプレイの向こうに綴られていた未来を思った。

 彼の伴侶となった女性は、きっと、彼を希望と信じたに違いない。やがて同じ人間である事に安心したはずだ。そうしていつしか、それが自分にとっての光ではなかったと気付く。

 言えるものなら言ってやりたかった。いくらその背が大きくても、背負えるものには限度があると。人として生まれてしまったら、何を持とうが何になろうが、人の範疇を出ることなどできない。だから誰一人、他者の何にも成り得ないのだ。希望にも、絶望にも、善意にも悪意にも、だから本当は救世主なんてものも、存在しない。

 千時は灰と焦げにまみれたモノクロの小鍋をじっと見つめて、一人、夜明けを迎えた。

 

 ホテルに頼んであった軽食を各部屋で済ませて準備をし、チェックアウト後はすぐに港へ。乗り込むのは先日と同じ船で、次の寄港地までの便乗予定。その先は、また現地で手配するらしい。

 千時は、気まずいながらも先の言いつけ通り、ジョセフかアヴドゥルの傍というルールを守った。ジョセフの隣に行くと苦虫を噛み潰したような顔をされたが、向こうから手を繋いでくれて、彼女はホッとした。

 次の立ち寄り先はナイル河中流の街、ルクソール。船が停まった港は、また観光地の手前だとアヴドゥルが教えてくれた。

「この西岸の奥に、かつての王、ファラオ達が眠っている。あの有名なツタンカーメン王の墓も、この王家の谷にあるのだ」

「へー。歴史のある場所なんだな」

 ポルナレフが感心しきりに荒野を眺めたからか、エジプシャンは丘に並ぶ家々も指さして、説明を加えた。

「未だにどこかの家の地下では、金銀財宝を求めて、政府に内緒で洞窟を掘っているやつが居るということだ」

「まだ発見されていない墓や財宝があるかな」

「ひょっとしたらな」

 千時はアヴドゥルの傍にくっついて、ふんふんと話を聞いていた。彼ら二人は、内心でどう思っていようと、基本的にフラットなテンションで居てくれるから助かる。

「ところで、ジジイはどこへ行った」

 承太郎がボソッと割り込み、アヴドゥルがそちらへ向き直った。

「トイレだ。イギーと一緒だから、異常があれば気付くだろう」

「トイレぇ!?」

 素っ頓狂な声をあげたのはポルナレフ。そりゃあそうだ、ひたすら茶色いだけの荒野ど真ん中である。少し行かないと建物も無いのに、どこにトイレがという景色。

「おまえもいくか?」

「ま、と、も、な! 仕組みならなッ!!」

 ああ、うん、すごくわかる。千時は思い切り同意しながら、少しばかり彼らから離れた。潜水艦では承太郎に避けられた側だが、今回は千時が何となく気まずい。

 見計らったように、花京院がふらりと寄ってきた。

「ジョセフさんと喧嘩してまで勝ち取った彼とは、うまくやれたのかい?」

「…それ狙って言ってる?」

「勿論。僕だって驚かされた被害者の一人だぞ」

「タチが悪い」

「きみのほうが悪い」

「ごめんてばあ!」

「謝るくらいなら、最初からちゃんと説明すれば良かったんだ」

 花京院が今更憤慨しているのは、ベンチで千時が「今夜、部屋替わって!」としか言わずに店へ行ってしまったからだ。彼は慌てて「池上さんに今夜部屋を替わってくれと言われたんですが!!」とジョセフにありのまま相談しに行ってしまった。で、ジョセフがもっと慌てて、煙草を吸いに出ようとしていた承太郎をフロント前で捕まえた、ソコに千時がただいまーだったわけだ。

 とはいえ。

「私もパニックだったんだよ。あの時は」

「そんなに重大な問題なのか」

 そらまあ、いっぺん死んでたってんだから重大だよね。たぶんね。

 目を眇める花京院に、しかし千時は笑ってみせた。

「いや、情報量が多くてオーバーヒートしてただけ」

 言っている間に、ジョセフとイギーが戻ってきた。

 促され、向かう先は川沿いを下流へ。とことこ、何もない場所を歩く。とりあえず前方に小さく見える家だか建物だかに向かっているのは分かった。

「池上さん。それに承太郎」

 歩きながら、花京院が呼びかけた。

「そろそろ何か話してくれないか。正直、気懸かりで仕方ない」

 他の三人も頷き合い、千時と承太郎に視線を寄越している。

「じゃあ、まあ、歩きながら」

 千時は軽く応えて手を振り、少し声を張り上げた。

「とりあえず、スタープラチナさんが時止めに成功した」

「ええっ!?」

 全員、一斉に承太郎へ振り返る。

 承太郎は帽子の鍔を軽く下げた。

「あと、こっちはスーパー器用貧乏ちゃんと判明した。T・T!」

 突っ込む間を置かずさらっと流して、千時は頭上に呼びかけた。

「できるかなー? ジェイル」

 ぴょこんと出てきたT・Tと同時、千時の眼前に十本の柱が突き立った。半透明の指で出来た柵だ。隣に居た花京院と、その後ろのポルナレフがたたらを踏む。

「ネット」

 柱は空中へ緩み、今度は綺麗に絡み合って投網のように広がった。その横合いに居たアヴドゥルが、慌てて一歩よける。

「ガード」

 指が解け、例の祈りの形に組まれて千時を包み、最後は、

「ロープ」

 千時がピッと指さした前方数メートルの岩に、伸びたT・Tの指がひょうと巻き付く。

 唖然とした一行が足を止め、

「なっ…、何だァ!?」

 ポルナレフが困惑の声を上げた。

「動作性能こんなカンジ。意思伝達は言葉にしないと無理なんで、サイン決めた。T・T、最大サイズの全員ガード、中隔離で」

 何だかラーメン屋の注文みたいな調子だが、T・Tは重大な使命でも果たすかのように目をキラリとさせた。ふわりと大きく両手を広げ、全員を覆うように3メートル四方も包み込む。

「おっ! 初めて入ったわい」

「スタンドの中だなんて、不思議な気分だ」

 ジョセフと花京院がおもしろそうに周囲を見回した。

「おかしいな。どうも気温が下がったように感じるが…」

 アヴドゥルは不思議そうだ。そういえば、彼らがT・Tの手に入るのは初めてだった。

 千時は障壁に片手を置いて、天井を見上げた。

「各パーツの移動範囲も、これと同じくらいだって。だから攻撃には当たりにくいと思うんだけど、問題は強度でね。この手、ものすごい見かけ倒しなの」

「見かけ倒し?」

「そー。強度が精々、人間の手の倍くらいなんだって。だから、人間の力のボコ殴りくらいにしか耐えられない。私の手へのフィードバックはサイズ比で縮小されるし、大小に強度は無関係だから、この最大サイズで張ってれば多少は保つだろうけど、スタンド戦ではまず無意味だと思う。使えるとしたら、見た目がソレっぽいからネコダマシ、程度かな」

「あー…、ちょっといいか」

 花京院が唖然としながら割って入った。

「なぜそんな事が、急に分かったんだ?」

「ノリさんのマネ」

「僕?」

「一晩掛かりで一問一答イエスノー、ひたすら質問し続けた」

 大変でしたわよ、これでも。

 ノートはそれをメモし、整理するために消費した。

 T・Tは発声器官を持っていない。だが、言語そのものは理解し、否定と肯定を表現する事はできる。

 まずT・T自身が語った事を、承太郎に確認しながら細大漏らさず書き出し、彼の頭脳と共に意見を出し合って読み解き、それをまたT・Tに一つずつ確かめた。

 さらに千時には、元の世界で拾った多少の知識がある。承太郎を解放した後もT・Tのドームに籠もり、覚えていた情報と照らし合わせながら、思いつく限りの質問を続けたのだ。

 あっちに伏せておくこと、こっちに伏せておくこと、明かすべきか秘するべきか。膨大でまばらな情報を頭に叩き込み、全てを繋ぐノートは燃やすしかなかった。

 結局、誰に対しても、すべての真実を明かすのは得策でなかったのだ。

「で、今この中はT・Tの作った嘘空間です」

「ウソ空間?」

 千時はアヴドゥルを親指で指した。

「アヴさんがさっき、気温下がった気がするって言ったでしょ?」

「あ、ああ」

「ソレがコレ」

 正直、これも明かすかどうか少し迷った。が、T・Tのおかしさについては今更隠し立てしても仕方がないし、千時が使い道を思いつかなくても、彼らは思いつくかもしれない。

「この手が完全に閉じてる限り、中に任意の亜空間を生成できる」

「亜空間を生成…?」

 ジョセフが顎髭を撫で、違和感に顔を顰めた次の瞬間。

「…そんなバカな!!」

 花京院が身を乗り出し、承太郎も顔を上げる。

 千時は頷き返しピースサインをしてみせた。

「そー。能力二こ目」

「聞いてねえぞ」

「承太郎が寝た後で分かったの。手を透かして向こうが見えるから認識し辛いけど、ここと向こうは別の空間。今はT・Tが、暑くもなく寒くもない適温を再現してるわけ」

 ああ! とあっさり頷いたのはポルナレフだった。

「海の中のは、ありゃあ空気持ってたんじゃなく、その場で作ってたのか。そういや俺が助けられた時も、音や風が入ってこなかったな」

「うん、いや入ってこないんじゃなく、別の場所だからって事だけど」

「ややッこしー」

 それでもポルナレフは、スタンドに対する理解がズバ抜けて早い。理屈はともかく、感覚ですぐに掴む。さすが、ディオにしつこく勧誘されるだけの事はある。

「音が遮断されるように思うのは、空間自体が違うから空気の振動の伝わりようが無いだけ。T・Tが外で聞いてる音なんかを中へ流す事はできるんだけど、基本的にはあらゆる事象が干渉しない。風が無いのも、ただ空間を再現してるだけだから。そもそも風ってのは、地球が回ってたり熱源があったりするから発生するわけでしょ。この中はそれと無関係だから吹かない」

「地球がだのと言い出したら、重力はどうなんだ」

 花京院が首を傾げて足元を見た。

「再現できるのはT・T自身が知ってるトコだけ。これ自体は地球の環境。じゃなきゃこの大気の組成がどうなのよとかなるっしょ。酸素オンリーじゃ死んじゃうし」

「ああそうか…」

「ただし、効果はあくまでも空間だけ。T・Tが空間を閉じた時に閉じるのは、T・Tが生成した空間のみ。巻き添えくって損傷したりはしないから安心して」

 全員が、いったい何を言いたいのかと、言葉の先を促した。

 千時は思わず見てしまったアヴドゥルから視線を逸らし、ちょこんと座るイギーを眺め、小さく息を吐いてから続けた。

「この先の敵に、ある種の亜空間を生成するのが居る筈で」

 何、と声を噛み殺したのは誰なのか。

 どうにか顔を上げて、千時は面々を順に見回した。

「いずれ詳しく説明するけど、そいつの場合は亜空間に触れたものを全て消失させるような能力だったりするから、そういう危険な種類じゃないってこと」

「…どうかな」

 承太郎が低く言って、大股に一歩、詰め寄った。

「危険と言うなら、例えば、だ。こいつは海底を〝知って〟いる。人を放り込んで、海ン中を再現すれば、どうだ?」

「おー。思いつかなかった。使える場面があるかもね」

 千時は答えながら、承太郎が気付かなくて本当に良かったと、胸を撫でおろした。

 実は、それどころではない恐ろしい事実を、彼女は知っている。

 まだ精々海の中なら、時間的に猶予がある。最悪、自分の首にナイフでも当てて、止めなきゃ死んでやるとでも言えばいい。

 しかしそれが、例えば宇宙空間だったとしたら? 

 …T・Tは、彼らの歴史と、記憶を持っている。通ってきた場所を逐一〝知っている〟のだ。絶対零度の真空だけではない、大気圏へ突入した際に発生した高温の炎や、成層圏の低温低酸素、長らく埋まっていた土中深くといった空間を、T・Tは知っていた。

 この事実を得た時、千時もまた承太郎と同じやり方を考え、詳細を探った。

 外殻となる手の強度が低い点についても、亜空間がどんな過酷な環境であれ生成したT・T自身には影響しない、という回答を導き出した。

 結果、手の届く3メートルまで近付けば、相手を包み込んで…殺してしまえると分かった。

 生存不可能な条件を再現されたら、ひとたまりも無い。

 これまで事故が起きなかったのが奇跡だ。

 半透明でちょっとかわいらしい薄ピンク色をした手は、そんな恐ろしい力があるようには見えない。

 見えないままで、居させなければならない。

「問題は、中から攻撃されて手に穴あいたら終了ってとこだね。隙間ができたら消えちゃうから」

 うまく笑えている事を祈りつつ、T・Tに向かって片手を振る。T・Tはサインを読んで頷き、広げていた手を元に戻して千時の背後へ消えた。

「うおっ! ホントだ、外あっちィ」

 タイミング良くポルナレフが叫んで、アヴドゥルが笑う。

「熱射病で倒れることは無くなりそうだな」

「T・Tが大丈夫ならね。もう一つ」

「何だ」

「私に〝巻き戻し〟はできない」

 千時はパーカーの左袖をめくって、腕を掲げて見せた。

「なっ…」

「何だその傷は!」

 ジョセフが慌てて千時の前腕を掴んだ。肘寄りの辺りに、7、8センチほどの派手な切り傷がある。昨夜、千時が自分で付けたものだった。

「試した。大丈夫、見た目より浅いから」

「お前なあ! 仮にも女の子だろうが! それでなくても背中に大傷がついとるのに、もう!」

 娘の居るジョセフとしてはいたたまれないのだろう。彼はこれまで何度も、ふと思い出したように背中を見せろと言い、傷跡に試行錯誤している。薄くなったかな、なんて首を傾げ、もう痛くもないのに、自分が痛そうな顔をする。

「ごめんね、ジョセフさん。でも、きっちり確かめとかないと、これからもよろしく守ってよって言い辛い」

「言われんでも守るわい!」

「頼りにしてるゥ」

「わしらを何だと思っとるんじゃ、コイツ」

「ハハハ」

 フザケた調子でジョセフの手を取って、千時は歩き出した。

「巻き戻しに関しては大体ノリさんが解明してくれた通りだったけど、T・Tが直接触れるのが条件。しかも少し時間が要る。さらにさらに、生きてないと巻き戻せないって。これ重要だよ、生き返らせるのは無理なんだからね。戦闘中は確実に複数人で居て。そしたら一人ダウンしても、もう一人がカバーしてる間に治せる」

「ああ。複数行動は徹底しよう」

「最後にもう一個。意思伝達は言葉にしないと無理って言ったでしょ?」

「うむ」

「でも、私の記憶は把握されてた」

「何?」

 ジョセフがまた足を止めたため、千時も仕方なく立ち止まった。

「そもそも私とT・Tは、意識で繋がってない。理由はともかく、呼び出すのすら声に出さなきゃ出てこない。けど私は、ジョセフさんの脳の事も、ノリさんの目の傷も、一度だって巻き戻せとは言ってない。どうしてT・Tがそれを治して、他の傷を無視したか。

 その理由が、一番最初のスタンド発症時に、私の記憶を全部T・Tが読みとってたからだったの」

 実際には、アヌビス戦の際に二度目の読み取りが起きたために、T・Tは「治す」が「巻き戻し」と同義であることを学習したりしているのだが、細かいことはともかく。

「繋がってない代わり、T・Tは全部を共有してるって事。ジョセフさんとノリさんの事は私が最初から知っていて、無かったことにできたらな、って思ってた。T・Tはそれを知ってたから〝無かったこと〟にした。だけど別の怪我は知らなかったから、巻き戻すって発想が無かった」

「ふぅむ…」

「てことでエコヒイキじゃなかったんだよおおおアヴさんにポルナレフぅッ!!」

「あ、ああ?」

「アヴドゥルはともかく、なんで俺?」

「平気な顔するから流しちゃったけどアンタ足やられてたでしょーが!」

「あー、まあなァ。あんくらい平気だけど」

「平気だけどじゃないよ!」

 千時としては普段通りのつもりだったのだが、ポルナレフは、何とも微妙な笑い方をした。

「アンタの腕の傷と一緒さ」

 彼は何故か千時の正面まで来て、ジョセフと繋いでいた手の腕を掴んだ。驚く千時を無視して引き寄せ、パーカーの袖をめくって、さっきの傷をまるで全員に見せつけるようにした。

「誰が何と言ったって、心配すんなとしか言えねえ性分は俺も一緒だ。だが、お前は俺と違って戦う野郎じゃねえんだぞッ!!」

 唐突に怒鳴りつけられて、千時は思わず目を瞑った。体が竦んだが、ポルナレフはお構いなしで、彼女の腕を折りそうなほどだった。

「言葉くらいは何言ったって構わねえがなッ! 自分を捨てるようなやり方する馬鹿は大ッ嫌いだ!! ましてや女が自分の体傷つけるなんざ最低最悪なんだよッ!! 分かったかッッ!!」

 怒鳴るだけ怒鳴った男は、投げつけるように腕を放した。

 肩に担いでいた荷物を足もとに下ろし、中から軟膏と包帯を出して、また腕を取る。

 傷の手当てをされる間、千時は黙って俯いていた。

 いつもならポルナレフの足にでも噛みつくはずのイギーが、ツンと澄まして彼の隣に座っているのが、妙に頭に焼き付いた。

「ポルナレフ」

 アヴドゥルの深いため息と共に目の前のポルナレフが、シリアスモードから一転、ダアァァーッ! と猪木みたいに喚いた。

「わーってるよ! 言うなアヴドゥル!」

「まだ何も言ってないだろうが」

「あークソ!! もうっ! クソっ!! お前ホント、女の子だろオ!? なんでこういう! あーッ! あのなあッちょっと前の俺みたいでヤなんだよ! こんなん二度とすんな! なっ!? 分かった!?」

「わ、かった…ハイ…」

 ポルナレフは気まずそうに目を逸らしたが、巻き終わった包帯を両手で包んだ。

「…なんつーか、その、花京院に聞いたんだが」

「ん?」

「お前も一番上なんだって?」

 千時がきょとんとすると、ポルナレフは盛大なため息をついた。

「偉いとは思うぜ? こんな小っせー体で、こんな辺鄙なとこまでついてきて、周りは男ばっかでさ。言いたいことなんか山ほどあったろうに、愚痴の一つも聞いたことねえし」

 あ? いきなりロッジの時の承太郎みたいな事言い出した。

 ますます千時がポカンとしていると、彼は自慢の電柱頭をガシガシかきまわした。

「長男長女ってよぉ、頼るのとか甘えんのとか、ヘッタクソなんだよな。お互い、悪い癖は直そうぜ。お前が保証したんじゃねえか、俺がもう一人じゃないって。なら、その俺がお前についてんだから、お前も一人じゃねえんだって…」

「ポルナレフ」

 唐突に承太郎が鼻で笑った。

「残念ながら、そいつに精神論は通用しねえ」

「へ?」

 ポルナレフが振り返ると、承太郎はワンショルダーの肩をポンと叩いた。

「何しろ、この俺が振られたくらいだからな」

「は……」

 …数秒の間をおいてから。

 はぁぁあああああぁぁぁぁあああーッッ!? と、裏返った絶叫が、茶色い大地にこだました。

「承太郎が振られた!? どゆこと!? マジで!?」

「マジだ。女からあんなに手酷く振られたのは初めてだぜ」

「ちょッ! えっ! ウソ!? なんでよ!?」

「なんでもクソもねえよ。一刀両断だ」

「えええええーッ!?」

「じょ、承太郎! 私も詳しく聞いていいか!?」

「わしにもちゃんと報告しなさい承太郎ッ!!」

 アヴドゥルとジョセフまで頭を突っ込みギャーギャー喚くものだから、まるで会話が聞こえない。硬直しちゃった千時に向かってニヤリと一瞥、歩きだした承太郎は一体何を喋っているやら。

「い…、池上サン…」

 同じく固まっちゃった花京院が横目に見てきて、

「うう、あァ…」

 千時は、盛大に頭を抱えた。

 カッコ物理。

 


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