「よっ、小森!」
「えっと、君は……」
「なんだ、お前?」
俺が下駄箱から校庭に出ると、見覚えのある四人を見つける。小森に沢村、取り巻き二人だ。
俺は睨み付けてくる沢村を無視して、小森に声を掛けた。
「いやー、探したぜ。どうだ、俺と野球やってみないか?」
「えっ……」
小森が野球に興味があるのか、俺の言葉に反応した。よし、食い付きは上々。
「はっ、お前何言ってんの?今から小森は俺らと帰るんだよ」
たく、うるせぇな。
「黙れ、今俺は小森と話してるんだよ。外野は邪魔するな」
俺が少し脅かしながら言うと、沢村は迫力に負けて一歩下がった。
「小森、こっちに来い」
「……ごめん」
小森は俺の方から沢村の方に向かおうとする、しかし。
「逃げるのか?」
「……」
俺の一言で、小森の動きは止まった。
「いい加減にしろよ。友達なんて待ってたって出来やしないぜ。大切なのは勇気ある一歩だ」
「一歩……」
「そうだ。だから、その一歩として俺と野球やらないか?」
「……」
小森の中で、気持ちがかすかに揺れている。これは俺の印象だが、小森は優しい。さらに、沢村とも最初はこんな関係でもなかったかもしれない。
「僕は……」
「僕は?」
小森は精一杯大きな声で、俺に向かって叫んだ。
「僕は野球をやりたい!」
「よし、よく言った」
俺は小森に近づき頭を撫でた。沢村はその様子を悔しそうに、見ている。
「んっ、何だ。お前も野球やりたいのか?」
「……誰が野球なんかやるか。覚えてろよ、小森」
「沢村くん……」
沢村は最後に一言を告げて、俺たちから去って行った。俺はその背中を溜め息を吐きながら、見つめていた。
「これで一人確保」
「後何人集めればいいの?」
「ああ、吾郎がもう一人集められそうだから、人数的にはこれでいいんだ」
「人数的には?」
「そんなことより、小森は野球経験はあるのか?」
「えっと、お父さんとよくキャッチボールしてたくらいかな……」
「マジか。じゃあ試しに、キャッチボールしようぜ」
俺は小森に一言告げると、もしもの時に持ってきておいた二つのグローブを、鞄から取り出した。
「それじゃあ、はいこれ」
「どうも……」
小森は遠慮ぎみにグローブを受けとった。たく、堂々としてればいいのに。
「最初は軽くな」
「うん!」
キャッチボールを始めようとすると、小森の雰囲気が変わった。へぇ、やるじゃん。とりあえず俺はそんな小森に軽くボールを投げてみた。
「ほら!」
俺の投げたボールは小森のグローブに向かっていく。小森はそのボールをビビることなく、綺麗にキャッチした。
「なるほど……。じゃあ、少し速くするけど大丈夫か?」
「大丈夫だよ」
俺の質問に小森は笑顔で答えた。よし……。
「じゃあ、これならどうだ!」
コントロールはさっきより少し荒くなったが、
ボールの速度は速い。それでも小森は先程と同じく、キャッチした。
「やるじゃないか、小森。このボールを取れるなんて……キャッチャーできるな」
「そうかな」
いや、俺のコントロール悪い速球も取れるし、吾郎の球も取れるだろう。まぁ、まだ見たこと無いけど。
「とりあえず、今日はこんくらいにしておくか」
「うん」
「明日は吾郎にも伝えるし、あいつの球取って貰いたいからグローブ持って来てな」
「分かったよ」
俺は小森に明日のことを話し、この場で解散することにした。
「おお、小森がメンバーに……てことはこれで人数揃ったな。……一人女がいるけど」
「なんだとー!」
「まぁまぁ」
朝、小森を連れて吾郎に報告に行くと、さっそく吾郎は清水と喧嘩を始めた。毎度毎度よくやるよ。
「お二人さん、夫婦喧嘩は他所でやってくださいよ」
「「夫婦じゃねぇ」」
「息ピッタリじゃねぇか」
「あはは……」
俺は二人の様子を見て突っ込み、小森は苦笑いしている。
「まぁ、そういうことだ。吾郎、放課後に球受けて貰え。キャッチャーもできるかもしれないぞ」
「本当か!?頼むぜ、小森」
「うん」
「俺は今日の放課後に用があるから、顔を出せないわ」
「……って、お前は来れないのかよ」
「悪いな。ちょっと変にいじになってる奴をしばかなくちゃならないんだ」
「「「?」」」
俺は遠くから睨んでいる男子をちらみしながら、言葉を出す。
三人は俺の言葉を聞き、首を傾げた。
「まぁ、何はともあれ。これで試合ができるな」
「勝つ自信は?」
「あるに決まってんだろ。俺が全員三振してやるぜ」
吾郎くんは自信満々である。やっぱ、球が速いのだろうか。この後は、清水のプレーをどうすかに話し合い、清水本人は一人騒いでいた。
放課後になると、俺以外の三人は先に教室から出て行く。すると、俺の机に沢村がやってきた。
「……」
「おう、なんだい沢村くん」
俺が近寄ってきた沢村に声を掛けると、奴は睨みはさらに鋭くなる。……ああ、怖い怖い。
「調度、俺もお前に話があったんだ。外で話そうぜ」
俺は沢村を連れて、校庭に出て行った。
すいません、次の更新は明後日の木曜です。