あの約束を   作:厨二王子

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14話 一歩踏み出す勇気

「よっ、小森!」

 

「えっと、君は……」

 

「なんだ、お前?」

 

 俺が下駄箱から校庭に出ると、見覚えのある四人を見つける。小森に沢村、取り巻き二人だ。

 俺は睨み付けてくる沢村を無視して、小森に声を掛けた。

 

「いやー、探したぜ。どうだ、俺と野球やってみないか?」

 

「えっ……」

 

 小森が野球に興味があるのか、俺の言葉に反応した。よし、食い付きは上々。

 

「はっ、お前何言ってんの?今から小森は俺らと帰るんだよ」

 

 たく、うるせぇな。

 

「黙れ、今俺は小森と話してるんだよ。外野は邪魔するな」

 

 俺が少し脅かしながら言うと、沢村は迫力に負けて一歩下がった。

 

「小森、こっちに来い」

 

「……ごめん」

 

 小森は俺の方から沢村の方に向かおうとする、しかし。

 

「逃げるのか?」

 

「……」

 

 俺の一言で、小森の動きは止まった。

 

「いい加減にしろよ。友達なんて待ってたって出来やしないぜ。大切なのは勇気ある一歩だ」

 

「一歩……」

 

「そうだ。だから、その一歩として俺と野球やらないか?」

 

「……」

 

 小森の中で、気持ちがかすかに揺れている。これは俺の印象だが、小森は優しい。さらに、沢村とも最初はこんな関係でもなかったかもしれない。

 

「僕は……」

 

「僕は?」

 

 小森は精一杯大きな声で、俺に向かって叫んだ。

 

「僕は野球をやりたい!」

 

「よし、よく言った」

 

 俺は小森に近づき頭を撫でた。沢村はその様子を悔しそうに、見ている。

 

「んっ、何だ。お前も野球やりたいのか?」

 

「……誰が野球なんかやるか。覚えてろよ、小森」

 

「沢村くん……」

 

 沢村は最後に一言を告げて、俺たちから去って行った。俺はその背中を溜め息を吐きながら、見つめていた。

 

 

 

 

 

「これで一人確保」

 

「後何人集めればいいの?」

 

「ああ、吾郎がもう一人集められそうだから、人数的にはこれでいいんだ」

 

「人数的には?」

 

「そんなことより、小森は野球経験はあるのか?」

 

「えっと、お父さんとよくキャッチボールしてたくらいかな……」

 

「マジか。じゃあ試しに、キャッチボールしようぜ」

 

 俺は小森に一言告げると、もしもの時に持ってきておいた二つのグローブを、鞄から取り出した。

 

「それじゃあ、はいこれ」

 

「どうも……」

 

 小森は遠慮ぎみにグローブを受けとった。たく、堂々としてればいいのに。

 

「最初は軽くな」

 

「うん!」

 

 キャッチボールを始めようとすると、小森の雰囲気が変わった。へぇ、やるじゃん。とりあえず俺はそんな小森に軽くボールを投げてみた。

 

「ほら!」

 

 俺の投げたボールは小森のグローブに向かっていく。小森はそのボールをビビることなく、綺麗にキャッチした。

 

「なるほど……。じゃあ、少し速くするけど大丈夫か?」

 

「大丈夫だよ」

 

 俺の質問に小森は笑顔で答えた。よし……。

 

「じゃあ、これならどうだ!」

 

 コントロールはさっきより少し荒くなったが、

 ボールの速度は速い。それでも小森は先程と同じく、キャッチした。

 

「やるじゃないか、小森。このボールを取れるなんて……キャッチャーできるな」

 

「そうかな」

 

 いや、俺のコントロール悪い速球も取れるし、吾郎の球も取れるだろう。まぁ、まだ見たこと無いけど。

 

「とりあえず、今日はこんくらいにしておくか」

 

「うん」

 

「明日は吾郎にも伝えるし、あいつの球取って貰いたいからグローブ持って来てな」

 

「分かったよ」

 

 俺は小森に明日のことを話し、この場で解散することにした。

 

 

 

 

 

「おお、小森がメンバーに……てことはこれで人数揃ったな。……一人女がいるけど」

 

「なんだとー!」

 

「まぁまぁ」

 

 朝、小森を連れて吾郎に報告に行くと、さっそく吾郎は清水と喧嘩を始めた。毎度毎度よくやるよ。

 

「お二人さん、夫婦喧嘩は他所でやってくださいよ」

 

「「夫婦じゃねぇ」」

 

「息ピッタリじゃねぇか」

 

「あはは……」

 

 俺は二人の様子を見て突っ込み、小森は苦笑いしている。

 

「まぁ、そういうことだ。吾郎、放課後に球受けて貰え。キャッチャーもできるかもしれないぞ」

 

「本当か!?頼むぜ、小森」

 

「うん」

 

「俺は今日の放課後に用があるから、顔を出せないわ」

 

「……って、お前は来れないのかよ」

 

「悪いな。ちょっと変にいじになってる奴をしばかなくちゃならないんだ」

 

「「「?」」」

 

 俺は遠くから睨んでいる男子をちらみしながら、言葉を出す。

 三人は俺の言葉を聞き、首を傾げた。

 

「まぁ、何はともあれ。これで試合ができるな」

 

「勝つ自信は?」

 

「あるに決まってんだろ。俺が全員三振してやるぜ」

 

 吾郎くんは自信満々である。やっぱ、球が速いのだろうか。この後は、清水のプレーをどうすかに話し合い、清水本人は一人騒いでいた。

 

 

 

 

 

 放課後になると、俺以外の三人は先に教室から出て行く。すると、俺の机に沢村がやってきた。

 

「……」

 

「おう、なんだい沢村くん」

 

 俺が近寄ってきた沢村に声を掛けると、奴は睨みはさらに鋭くなる。……ああ、怖い怖い。

 

「調度、俺もお前に話があったんだ。外で話そうぜ」

 

 俺は沢村を連れて、校庭に出て行った。




すいません、次の更新は明後日の木曜です。

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