吾郎が知り合いだったおっさん……監督と感動の再会をしているところに、謎の集団が現れた。その先頭には少し太ったおっさんがいる、恐らくあのおっさんがリーダーなんだろう。そのおっさんは集団を停止されると、こちらに近付いてきて、話し掛けてきた。
「やぁ、どうもどうも」
「なんです、沢村さん。まだうちの使用時間ですけど?」
沢村?
俺は聞いたことのある名前に、首を傾げる。そしてやって来た集団の方をよくみると、あのいじめっ子の沢村の姿があった。
「悪いがね、安堂さん。今日からここは三船サッカー少年団の専用グラウンドになった」
「ええ!?一体どういうことですか……」
「昨日、自治会で決まったんです。とっとと、出て行って貰いましょうか?」
あー、なるほど。この親にして、この子ありだな。俺が一人思っていると、沢村がこっちを見て、にやにや笑っている。……うぜぇ。
その後は、監督がこっちはもともとグラウンドを使える時間が少ないのに何故なんだと聞くと、おっさんは自治会のことを表に出し、成果が出ない野球チームにこれ以上グラウンドを使わせても無駄だみたいなことになったらしい。
いやー、汚いね。
監督はおっさんの話を聞き、暗い表情になる。
あのおっさんの言ってることが、正論で言い返せないんだろう。おいおい、それでいいのかよ監督。だが、ここで吾郎が声を出した。
「待てよ!」
「うん?」
吾郎の言葉に反応し、沢村親子がこちらに振り向いた。
「おじさん、ドルフィンズは今何人いるの?」
「五人だけど……」
「じゃあ、俺と亮太を入れて七人か……」
おっと、俺もいつの間にかチームに入れられてるぞ。まぁ、別にここに入るつもりだったからいいけど。
「九人集まれば、グラウンドを使わせてくれるんだろ」
「ダメだね。人をただ集めても、野球ごっこじゃ同じだよ」
「じゃあ、どうしたら……」
「そうだなぁ。商店街の草野球チームに勝てるくらいなら、皆さんも考え直してくれるだろう」
こいつ、ボロを出しやがった。
俺はこのおっさんが致命的な、隙を見せたことで少しにやける。
「本当だな!?」
「ああ」
おっさんは吾郎の言葉を聞くと、グラウンドからサッカーチームの面子を連れて、出て行こうとする。……させるか!
俺はすかさずおっさんに声を掛けた。
「待てよ、おっさん」
「おっさん……!?」
おっと、おっさんじゃ、お気に召さなかったかな。俺は動揺しているおっさんに気にせず、話を進める。
「今のじゃただの口約束だ、信用できないね。知ってるぜ、大人の世界ではこういうの契約書とかに書き込むんだろ」
「このガキが……」
「監督。何か紙とペンはないか?」
「ああ、あるが……」
「直ぐに持って来て」
俺が監督に言うと、監督はベンチに置いてあった紙と、ペンを持って来る。
「そうだな。ただこっちが勝ってグラウンドを使わせて貰うだけじゃ、こっちのデメリットに見舞わない。契約内容はこっちが草野球チームに勝ったら、あんたらは一生俺たちに干渉できないでどうよ」
「いいだろう。どうせ勝てることなんてできないんだ。ただしお前たちが負けたら、即解散ぞ」
「分かってるよ。じゃあ、ここにサインを。あっ、監督もここにお願いします」
俺はおっさんと監督に紙にサインさせ、契約を成立させた。
おっさんたちが去って行った後、ドルフィンズの皆が、商店街チームと戦うことになり、心配の声を上げた。それに対し、吾郎はどうせ腹の出たおっさんの集団だと笑う。しかし、監督が言うには、そのチームは野球経験者たちが集まっていて、尚且つ去年の野球大会で優勝しているらしい……。
……えっ、マジか。
俺は監督の話を聞き、驚いて口をあんぐりと開けた。
実は俺も吾郎と似たことを思っていて、楽勝だと思っていたからだ。しかし、吾郎は周りの諦める的な空気に関わらず、この話を聞いても、勝つ気満々である。だが、監督は吾郎に横浜リトルを勧めた。そして、この後は練習もできるはずなく、今日は解散することになった。
次の日の朝、俺は学校に登校すると、下駄箱に貼ってあった紙に驚き、ずっこけた。しかも何がすごいって、その紙が下駄箱だけじゃなく、学校のあちらこちらに貼ってあったからだ。
内容は三船ドルフィンズ募集。先着二名には給食のプリンをプレゼント、と書いてあった。
プリン……地味に欲しいな。
俺はそんな紙を見ながら、自分の教室に向かって行った。
教室に着くと、なにやら揉めている男女を発見しする。本田と清水だ。本当に仲いいな……お二さん。そんな二人の喧嘩は、途中でやってきた先生によって収まった。
本当に仲が良いな、あいつら……。
俺は机に肘をつきながら、どうでもいいことを思っていた。
授業が終わると、清水が吾郎を連れてどこかへ行く。どうやら、吾郎は一人メンバーをゲットしたみたいだ……女だが。この時俺は、小三まで一緒に野球していた少女を思い出す。
おっと、この考えはいけないな……
俺は頭に浮かんだ一人の少女を思い出し、自分の考えを否定する。
「行くぞ。小森」
「うん……」
少し大きな声が聞こえたので見てみると、教室の出口にたくさんな荷物を抱える小森の姿があった。
……さて、こっちも動くか。
そして俺もドルフィンズのメンバーを増やすべく、行動を開始した。