山で約束を結んでから時が過ぎ、冬になった。あの日から俺はランニングや筋トレなど、朝の日課として行っていた。ちなみに、親父にはまだメジャーリーガーになるとは言ってない。いや普通に恥ずかしいし……。
そして今日はクリスマスの数日前、俺は涼子と共に壮絶な計画を練っていた。
「本当にやるの?」
「ああ。今日こそジュニアの高級マンションに進入する。そこで、クリスマスパーティーをやるんだ!」
「えーっと、どんな作戦だっけ?」
「なに、簡単だ。俺が独自のルートで入手したジュニアの合鍵を使い、部屋に進入する。そして、そこでクリスマスケーキを置いて、待機するんだ。あっ、クリスマスプレゼントも忘れるなよ、二人分」
「それって犯……」
「言うな。その先の台詞は予想できる」
「そう……」
涼子は俺の言葉を聞き、納得する。いや、納得して貰った。涼子は溜め息を吐きながら、頷く。……何故だ?
俺は涼子に今日の日程を伝えて、自分のクラスに帰って行った。
「今日の遊びはここまでかな」
「うん……そうだね」
「じゃあ、解散するか」
俺たちはいつもの公園で野球をして、お互いの家に帰ろうとする。
「お先に」
「また明日な」
「じゃあね」
ジュニアが先に帰って行く。俺と涼子は帰るふりをして、公園に残った。
「涼子、親から許可は取ったか?」
「特別に貰ったよ」
「よし、こっちも同じくだ」
俺は涼子にしっかり親の許可を貰ったのか、確認する。今日は帰りが遅くなるので、親の許可が必要だったが、まぁ取れて良かった。
俺は涼子の話に頷くと、近くに置いてあった段ボールを持ち出す。涼子はそれを見て、首を傾げた。
「それで何するの?」
「これで、隠れながら行くのさ。とりあえず、駆け足で先回りするぞ。ルートは確認済みだ」
「……分かったわ」
俺と涼子は段ボールを被りながら、駆け足でジュニアより速く、彼の家に向かった。
「……」
僕は無言でマンションの玄関の扉を開ける。今日も父さんは仕事で、家にはいない。僕は部屋にあがっていく。そして家には誰もいない筈なのに、部屋に明かりが点いていることに、気がついた。
……泥簿?
僕は玄関に置いてあったバットを持って、そっとその部屋へと向かう。部屋の前に着くと、緊張で少し固まる。
そして僕は、勇気を振り絞り、思いっきり勢いよく部屋の扉を開けた。
「よっ、ジュニア。お邪魔してるぜ」
「……お邪魔してます」
「……」
その部屋にはいつも遊んでいる二人が、当たり前のようにそこにいた。亮太に限っては寝転びながら、テレビを点けて見ている。とりあえず、亮太はムカついたので勢いよく殴っておいた。
「いやー、悪い悪い。ちょっとしたでき心で」
「どうやって入って来たの?」
「ジュニアの机の中にあった合鍵で」
「だから合鍵がなかったのか……」
ジュニアは溜め息を吐きながら、片手で頭を抑える。なるほど、なるほど。溜め息を吐くほど、嬉しかったのか……納得だな。
「いやー、一回でもいいから、ジュニアの家に来てみたかったんだよ」
「マンションなのに、広いんだね」
「まぁね……」
俺と涼子は部屋を見回す。俺は直ぐにある場所に向かった。
「何してるの?」
「んっ?ああ、ギブソンもお宝本持ってるかなーと思って」
俺はギブソンの部屋らしき所に行くと、ベットの下をチェックした。
「お宝本?」
「ふっ、ジュニアにはまだ早いかな」
「なんか、むかつく」
ジュニアは俺の一言を聞いて、少し機嫌が悪くなる。俺は気にせず捜索を続けた。
「というか、ここ父さんの部屋で、入ったらまずいから」
「はいはい、分かったよ。直ぐに……んっ?」
俺は部屋を出てこうとしたところで、ある写真を見つけた。
「これ家族の写真?」
「そうだよ」
「ふーん」
家族の写真を見るにそこには四人写っていて、皆仲が良さそうだった。
「仲よさそうだな」
「この時はね……」
ジュニアの顔が曇る。仕方ないな……話題変えるか。
「まぁ、いいや。それよりジュニア、ケーキ食べようぜ。買ってきたんだ」
「相変わらず、準備いいね」
俺はジュニアを強引に連れて、涼子のいる部屋に向かった。
「そろそろプレゼント出そうぜ。あっ、ジュニアのは高価なものだぞ」
「楽しみにしててね」
「僕は何も用意してないけど……」
「ああ、それは気にしなくていい。この家に入れてくれたことと、このお菓子がプレゼントってことにしておくから」
ジュニアが申し訳ない顔をすると、俺は気にしなくていいと声を出した。
「じゃあ、俺から。涼子にはこれな」
「野球ボール?」
「こないだ公園で、俺がお前のボールなくしゃったからな。そのお詫びもかけて」
「気にしなくていいのに……」
そういうわけにもいかないしな。それに、ボールは沢山あって俺も困らないし。
「次にジュニアのだが……あれだ」
「あれ?」
俺が指差した先には、ジュニアと会ったばかりの頃、ジュニアにあげたグローブがあった。
「それって……」
「ああ、確かあれ貸しているってことだったけど、あれをプレゼントするよ。どうだ、嬉しいだろう」
「なんか、悔しいけど……ありがとう」
「はっはっは、どういたしまして」
ジュニアは顔を俺から反らしながらお礼を言ってきた。うん、ツンデレだな。
そして、次に涼子が俺たちへのプレゼントを取り出した。
「ブレスレット?」
「おー、洒落てるな」
見たところそのブレスレットはシンプルなデザインのものだ。値段は高そうでもないが。
「三人お揃いよ。しっかり、お小遣いで買ったわ」
涼子がその小さな胸を張り、答える。なんか、こういうのもいいな。
「じゃあ、有り難く貰っておくよ」
「……ありがとう」
「どういたしまして」
俺とジュニアはさっそく着けてみる。うん、なんかしっくりくる。そして、プレゼント交換かが終わると、テンションを上げて、俺は声を出した。
「じゃあ、ケーキ食べようぜ!」
「それが亮太の目的でしょ?」
「まぁ、私もお腹空いたし、いいじゃない」
この後は、夜八時くらいまで俺たちは夜通し、クリスマスを楽しんだ。後、地味にギブソンと遭遇することを期待していたんだが、ギブソンが俺たちがいる間、家に帰って来ることはなかった。