LYRICAL TAIL   作:ZEROⅡ

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無理矢理感がパネェ……


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ヴィヴィオの正体

 

 

 

 

 

 

ヴィネアの塔で激しい戦闘が繰り広げられている頃……時を同じくして、ベルカの街の聖王教会では……

 

 

「あった……これだ、聖王オリヴィエ・ゼーゲプレヒトの回顧録」

 

 

「やっと見つけたわね~」

 

 

「苦労しましたね」

 

 

場所は聖王教会の資料室。そこでユーノとルーシィの2人は、聖王に関する文献を調べていた。

 

しかし資料室に保管されている膨大な文献の量とは裏腹に、カリムが把握している聖王について記録されている文献は数えるほどしか存在しなかった。最高責任者であるカリムも文献全てを把握しているわけではない為、もしかしたらまだ聖王に関する文献があるのではないかと思い、ユーノとルーシィとカリムは3人で資料室の文献をしらみ潰しに探し回った。

 

そしてようやく……聖王の回顧録が見つかったのである。

 

 

「見つかったのが聖王自身の回顧録っていうのはありがたいね。これでヴィヴィオの事が少しでも分かればいいんだけど……」

 

 

「さっそく読んでみましょ!!」

 

 

ルーシィの言葉に頷くと、ユーノはさっそく回顧録のページを捲った。そしてその1ページ目を見た瞬間、3人は驚愕した。

 

 

「えっ?」

 

 

「ちょっとこれって……!!」

 

 

「まさか……!!」

 

 

その1ページ目には当時の聖王…オリヴィエの姿が描かれた挿絵が記載されていた。だが2人が驚愕したのは、そのオリヴィエの容姿であった。

 

 

「ヴィ…ヴィヴィオにそっくり!!?」

 

 

幼い少女姿をしたヴィヴィオとは異なり、挿絵に写っているオリヴィエの姿は立派な女性である。しかしそれでも顔立ちなどは非常に似ており、まるで今のヴィヴィオをそのまま大人にしたような姿であった。

 

 

「やっぱり聖王オリヴィエとヴィヴィオは何か関係が……とりあえず読んでみるよ」

 

 

「う…うん……」

 

 

ユーノは回顧録のページをパラパラと捲りながら、本の内容を頭に叩き込んでいく。

 

 

「聖王オリヴィエ……覇王イングヴァルト……冥王イクスヴェリア……エレミア……シュトゥラ……王たちによる覇権を巡る戦乱……」

 

 

ブツブツと呟きながらページを読み進めていくユーノ。

 

 

「そして……っ!!?」

 

 

すると、突然ユーノの顔色が変わる。

 

 

「ユーノ?」

 

 

それを見たルーシィが呼びかけるが、ユーノは気にもかけず、今度は黙ったまま回顧録のページを読み進めていく。そして一通り読み終えたユーノは唇を震わせながら口を開いた。

 

 

「まさか……こんな事がっ───カリムさん!!!!」

 

 

「は、はいっ!!!」

 

 

突然大声で名を呼ばれ、肩をビクリと震わせながら返事をするカリム。しかしユーノは意にも介さず言葉を続ける。

 

 

「この聖王教会は、400年前に存在していた聖王の城の跡地に立てられたって事で間違いないんだよね!!?」

 

 

「あ、はい……一応そう言い伝えられていますが……」

 

 

「そう……じゃあこの本に記されているアレはここにあったと言う事か。じゃあ奴等はその為にこの街を……だとしたら奴等の目的は……」

 

 

再びブツブツと呟きながら考え込むユーノに、とうとう業を煮やしたルーシィが怒鳴るように問い掛ける。

 

 

「ユーノ!!! 1人で納得してないで教えてよっ!!!」

 

 

ルーシィのその言葉に、ハッと我に帰ったユーノは「ゴメン…」と謝罪した後、すぐに口を開いた。

 

 

「恐ろしい事が分かったんだ……一刻も早くギルドのみんなに伝えて、ヴィヴィオを助け出さないと……!!!」

 

 

「一体……何がわかったの?」

 

 

神妙な面持ちでそう言うユーノに、ルーシィは恐る恐る尋ねる。そしてユーノはその問い掛けに対し、ハッキリと答えた。

 

 

 

 

 

「世界が……滅ぶ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第九十六話

『ヴィヴィオの正体』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ…ハァ…ハァ……」

 

 

ヴィネアの塔の上階へと続く通路。そこではグレイが1人、息を乱しながら通路に沿って歩いていた。

 

 

「どうやら塔の内部は警備が手薄らしいな……助かったぜ」

 

 

塔の中に入ってからグレイは1度もガジェットと遭遇していない。どうやら塔の入り口前と9つの塔にガジェットによる戦力をほとんど導入したようである。

 

それはグレイにとってはありがたい事であった。ウェンディとシャマルの治療によって多少マシにはなったが、とても全快とは言える状態ではないのだ。

 

だがそれでも……グレイは歩みを止めない。ヴィヴィオを助ける為に。

 

 

そうして歩みを進めていると、グレイはひと際広い通路へと辿りついた。まるで王族の城の、王の間へと続く通路のようである。

 

 

「!!」

 

 

そこでグレイは、その通路の真ん中で1人佇んでいる人物を見つけた。

 

 

「フン…貴様か。また会ったな」

 

 

「……マスターゲイル……!!!」

 

 

その人物とは…悪霊の札(デーモンカード)のギルドマスター……ゲイル・レアグローブであった。

 

 

「まさか我がギルドが誇る四天王を倒すとはな。素直に褒めておこう、妖精の尻尾(フェアリーテイル)

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)に対し賞賛の言葉を送ったあと、ゲイルはまるで見下すような視線でグレイを見据える。

 

 

「で? またたった1人で何をしに来たんだ…小僧」

 

 

「何べんも同じ事言わせんなよ……ヴィヴィオを取り返しに来たに決まってんだろ!!!」

 

 

「ではオレも同じ事を言わせてもらおう。それは出来ん相談だ」

 

 

「相談が通用する相手とは思ってねーよ!!!!」

 

 

そう言うと同時にグレイは手のひらに拳を乗せた構えを取る。

 

 

「アイスメイク〝槍騎兵(ランス)〟!!!」

 

 

グレイは手先から氷で造られた無数の槍を放つ。それに対しゲイルは腕を組んだまま「ふう…」と小さく息を吐いて……

 

 

闇壁(ブラックウォール)

 

 

自身の眼前に、漆黒の色をした魔力の壁を生成する。そしてその壁にグレイが放った氷の槍が次々と衝突すると、それらの槍は全て、壁に飲み込まれるようにして消滅していく。

 

 

「何っ!!?」

 

 

「闇は全てを飲み込み、無へと還す」

 

 

驚愕しているグレイに、ゲイルは静かにそう言い放つと、右手人差し指をピッと向ける。

 

 

漆黒弾(ブラックゼニス)

 

 

最初に塔の前で放ったモノと同じ……漆黒の魔力の球体を発射した。

 

 

「同じ魔法が通じるかよ!!! 氷雪砲(アイスキャノン)!!!!」

 

 

それに対しグレイは巨大な氷の大砲を造り出し、そのまま強烈な砲撃を放った。

 

 

ドガァァアアアン!!!!

 

 

漆黒の弾丸と氷の弾丸が衝突し、凄まじい衝撃が発生すると共に、両者の弾丸は相殺される。

 

 

「ほう……中々やるな、小僧」

 

 

「余裕ぶってんじゃねーよ。お前の闇なんざ、オレが全部凍らせてやる」

 

 

「戯言を。闇は全てを支配する魔の深淵……凍るという概念すら存在しない」

 

 

そう言うとゲイルは、手のひらを翳すと……

 

 

闇の流動(ブラック・ストリーム)!!!」

 

 

螺旋状に渦巻くレーザーのような漆黒の魔法を発射した。

 

 

「アイスメイク〝(シールド)〟!!!!」

 

 

それに対しグレイは氷の盾を造り出して防御を試みるが……

 

 

バキャァアア!!!

 

 

ゲイルの漆黒の魔法の前に、氷の盾は虚しく砕け散った。

 

 

「くっ……ぐおぁああああああ!!!!」

 

 

そしてそのままグレイは漆黒の魔法に飲み込まれ、後ろに大きく吹き飛ばされる。

 

 

「くそっ!!! アイスメイク〝大槌兵(ハンマー)〟!!!!」

 

 

グレイはすぐに体制を立て直すと、手のひらに拳を乗せる構えを取り、ゲイルの頭上に巨大な氷のハンマーを造り上げて落下させる。

 

 

「フン」

 

 

しかしゲイルは鼻を鳴らしながら、落下してきたハンマーを片手で難なく受け止める。

 

 

「アイスメイク〝(アロー)〟!!!」

 

 

グレイは間髪いれずに氷の弓矢を造り出し、冷たい風を纏った矢を放つ。

 

 

「ぬぅん!!!」

 

 

が…ゲイルは受け止めていた氷のハンマーを地面に叩きつけ、それを盾代わりにして飛来してきた矢を防ぐ。

 

 

「む?」

 

 

そこでふと、ゲイルは先ほどまでの場所にグレイの姿が見当たらない事に気がつく。どこへ行ったのかとゲイルは視線を泳がせる。すると……

 

 

「こっちだ!!!」

 

 

「!!」

 

 

背後から聞こえてきた声に振り返ると、そこには氷の剣を握って自分に飛びかかろうとしているグレイの姿があった。

 

 

「ハァ!!!」

 

 

そんなグレイに向かって、ゲイルは鋼の篭手によって包まれた拳を振るう。そしてその拳はグレイを捉えたが……

 

 

ガシャァァアアン!!!

 

 

「なに?」

 

 

なんとゲイルの拳を喰らったグレイは、そのまま粉々に砕け散った。よく見ると、それは氷で造られた人形であった。

 

 

「残念だったな……囮だよ」

 

 

「!!?」

 

 

ゲイルが氷の人形に気を取られている間に、いつの間にかグレイは彼の懐に潜り込んでいた。

 

そしてグレイはそのまま腕と肘に氷の刃を纏い……

 

 

 

氷刃・七連舞(ひょうじん・ななれんぶ)!!!!!」

 

 

 

一瞬の内に、七回もの強烈な斬撃をゲイルに叩き込んだ。

 

 

「ぐおぉお!!!」

 

 

それを喰らったゲイルは吹き飛び、地面に仰向けに倒れる。

 

 

「……立てよ。テメェの力はこんなモンじゃねえだろ? 本気で来いよ…マスターゲイル」

 

 

「…………」

 

 

グレイの言葉に対し、むくりと何なく体を起こすゲイル。そしてそのまま立ち上がり、首をコキコキと鳴らすと……

 

 

「いいだろう」

 

 

そう言い放つと同時に、背中に背負っていた大剣の柄に手を伸ばす。

 

 

「だが後悔するがいい……今の攻撃でオレを倒せなかった事を。そして……」

 

 

そのまま大剣を引き抜き、黒い刃が妖しく光る。

 

 

 

「我が魔剣……〝デカログス〟を抜かせてしまった事をな」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

一方その頃、既にナツたちが去った後の結界の塔の1つでは……

 

 

「オイ、起きろウェンディ……オイッ!!」

 

 

「う…うぅ~~……オレンジの…オレンジの弾がアタシを襲うっス~…!! 助けて欲しいっス~…!!」

 

 

「何寝惚けてやがんだ。さっさと起き──ろっ!!!」

 

 

「ふべっ!!? な…何事っスか!!? 敵襲っスか!!? ってあれ……ノーヴェじゃないっスか」

 

 

「やっと起きたか」

 

 

ティアナに敗れ、気を失っていたウェンディは、同じナンバーズであるノーヴェによって叩き起こされた。

 

 

「うぅ? 何か顔が思いっきり踏まれたみたいに痛いんスけど……?」

 

 

「気のせいだろ」

 

 

本当は心当たりがあるのだが、シレっとそう言い切るノーヴェ。

 

 

「ってそうっス!! 結界の魔水晶(ラクリマ)はどうなったんスか!!?」

 

 

「全滅だよ。デーモンの四天王も…アタシらナンバーズも全員やられて、魔水晶(ラクリマ)は全部壊されちまった」

 

 

「マジっスか!!? チンク姉も!!?」

 

 

「ああ。ついでに言えば、もうヴィネアの塔には妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士が何人か入り込んでる。もう塔の中にはデーモンの魔導士は居ねえし、ナンバーズもディエチだけだ。クア姉もドゥーエ姉も、ゲーム前に本部に帰っちまったからな」

 

 

「でも、まだ転送の魔水晶(ラクリマ)は壊されてないんスよね? だったらまだこっちに勝機があるんじゃないっスか?」

 

 

「そうだ、まだこっちに勝機がある。だからお前を起こしに来たんだよ」

 

 

「へ?」

 

 

「今からチンク姉やセインと合流して、ヴィネアの塔に戻るぞ。上手くいけば、ディエチとも合流できるだろ」

 

 

「それで…どうするんスか?」

 

 

ウェンディの問い掛けに対し、ノーヴェはニッと口角を吊り上げ……

 

 

「借りを返しに行くんだよ」

 

 

と…言い放ったのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

同時刻…ヴィネアの塔の入り口前。

 

 

「ブリューナク!!!」

 

 

「ブラッディダガー!!!」

 

 

「牙獣拳!!!」

 

 

「逆巻け!! ヴィンデルシャフト!!!」

 

 

そこでは合流したはやてとシャッハ…そしてリインフォースやザフィーラを加えた妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーたちが、ガジェットの群生の殲滅に当たっていた。

 

その傍らでは、ウェンディとシャマルが先の戦いで負傷したエルザやエリオを初めとした面々を治療している。

 

 

「エリオ君、大丈夫?」

 

 

「うん、僕はもう大丈夫。だからウェンディはシャマルさんと一緒にエルザさんの治療を……」

 

 

「強がり言わないの!! アンタはさっきの戦いでだいぶ無茶したんだから、しっかりとウェンディの治療を受けなさい!!!」

 

 

「う…はい」

 

 

シャルルの一喝によりバツの悪そうな表情で、ウェンディの治療を受けるエリオ。

 

 

「塔の中のみんなは大丈夫かな?」

 

 

「大丈夫!! ナツもティアもグレイさんも、それにマスターだって、みんなすごく強いんだから!!!」

 

 

不安そうに言葉を漏らすキャロを元気付けるようにそう言うのは、すでに治療を終えたスバル。

 

 

「そうですよね……」

 

 

スバルの言葉に、少々安堵したような表情を浮かべるキャロ。すると……

 

 

『もしもし!!! 誰か聞こえる!!? もしもし!!?』

 

 

「ひゃっ!!?」

 

 

「うわっ!!?」

 

 

突然キャロの懐から大声が響き、それを聞いたキャロと近くにいたスバルは驚いたような声を上げる。

 

そしてキャロは驚きながらも慌てて自分の懐を探り、そこに仕舞っていたエルザから預かっていた小型の通信用魔水晶(ラクリマ)を取り出す。

 

 

「も、もしもし?」

 

 

『その声はキャロ? 僕だよ、ユーノ!!』

 

 

「ユーノさん?」

 

 

通信の相手は、ユーノであった。

 

 

『そっちの状況は?』

 

 

「えっとですね……」

 

 

キャロは魔水晶(ラクリマ)越しにいるユーノに、現在の状況を簡単に説明した。

 

 

『ならちょうどいい、そこにウォーレンはいるかい? いたらすぐに代わって!!』

 

 

「は、はい!! ウォーレンさん!!!」

 

 

ユーノの指示を聞いたキャロは、慌ててウォーレンのもとへと向かった。

 

 

「ん? どうしたキャロ?」

 

 

「あの…ユーノさんがウォーレンさんに代わってくれって」

 

 

「ユーノが?……代わったぞ、ユーノ」

 

 

キャロから受け取った魔水晶(ラクリマ)で、ユーノにそう声をかけるウォーレン。

 

 

『ウォーレン、君に頼みがある。魔水晶(ラクリマ)を介して僕の言葉を、今すぐ君の念話(テレパシー)で全員に伝えて欲しい。大事な話があるんだ』

 

 

「何かよくわかんねえが……了解だ。オレの思念を出来る限り全員に繋ぐ。少し待ってろ」

 

 

『お願い!!』

 

 

そう言ってウォーレンはユーノの頼み通り、その場にいるギルドメンバー全員と、塔の内部にいるメンバーたちに思念を繋ぎ始めたのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

場所は戻り……グレイとマスターゲイルが戦っている場所では……

 

 

「がっ…ごはっ……!!!」

 

 

「………………」

 

 

血反吐を吐きながら地面に倒れ伏しているグレイと、そんなグレイを見下すような目で見据えるゲイル。

 

 

「何だ…奴の剣は……!?」

 

 

そう言葉を口にしながらもグレイはヨロヨロと立ち上がり、再び手のひらに拳を乗せる構えを取る。

 

 

「アイスメイク〝円盤(ソーサー)〟!!!!」

 

 

グレイは回転ノコのような氷を造りだし、ゲイルに向かって発射する。それに対しゲイルは悠々と魔剣・デカログスを構え……

 

 

爆発の剣(エクスプロージョン)

 

 

ドゴォォォオオン!!!

 

 

その剣を振り下ろした瞬間に大爆発が起こり、氷の回転ノコを跡形も無く粉砕した。

 

 

「まただ……また剣の形状が変わりやがった……」

 

 

グレイの言う通り、ゲイルが握るデカログスは先ほどまでの大剣ではなく、赤を基調とした細身の剣へと形状を変えていた。

 

 

「驚いているヒマがあるのか?」

 

 

「!!」

 

 

そう言いながら剣を構えるゲイルを見て、グレイもすぐさま構える。

 

 

「アイスメイク──」

 

 

「遅い」

 

 

だが次の瞬間には、すでにゲイルはグレイの目前へと迫っていた。

 

 

「7回……さっきのお返しだ」

 

 

そう言うとゲイルは、またもや形状の変わった剣をグレイに振るう。

 

 

音速の剣(シルファリオン)!!!」

 

 

「ぐあぁぁああああああ!!!」

 

 

ゲイルのたった一振りから放たれた7回もの斬撃によって斬られたグレイは、再び地面に倒れる。

 

 

「何だ…このスピードは……それに、また剣が……!!!」

 

 

「ふむ、浅いか。やはり一撃の威力が小さいのがこの剣の欠点だな」

 

 

そう言うと同時にゲイルはデカログスを元の大剣型に戻し、そのままそれを肩に担ぐ。

 

 

「十の顔を持つ最強の魔剣……十剣(じゅっけん)デカログス。貴様の氷の魔法ごときで敗れる代物ではない」

 

 

「ナメんな……!!!」

 

 

ゲイルの言葉を聞いても尚、立ち上がるグレイ。

 

 

「最強の魔剣がどうした…十の剣がどうした……それでもオレは、倒れる訳にはいかねえんだよ!!!!」

 

 

力強くそう言い放つグレイを見て、ゲイルは小さく嘆息する。

 

 

「そうまでしてあの小娘を取り返したいのか?」

 

 

「ったりめーだろ」

 

 

「あの小娘の正体を知っても、そんな口が叩けるかな」

 

 

「!!?」

 

 

ゲイルの意味深な言葉にグレイは反応する。

 

 

「……どういう意味だ」

 

 

「いいだろう、教えてやる。あの小娘の正体と……我らの目的を」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

同時刻……塔の入り口前で戦っているメンバーたちは、ウォーレンの念話(テレパシー)を介して伝えられてくるユーノの話に、ガジェットを殲滅しながらも耳を傾けていた。

 

本当なら塔の内部に居る面々にも伝えたかったのだが、ウォーレンの思念はそこまで届かなかった為、断念した。

 

 

《400年前に存在していた巨大国家……ベルカ王国。そこは聖王が統治していた一つの国家と言われていたけど、実際には聖王家以外にも多数の国家が存在していた。それぞれの国の王たちは平和を愛していたけど、時代の後期には……覇権を巡る戦乱に明け暮れていた。そして最終的には聖王によって統治された》

 

 

何故今そんな昔話のような話をするのかメンバーたちは疑問に思ったが、それでも何か意味があるとユーノを信じて耳を傾ける。

 

 

《ここまでが、聖王教会にあった〝表〟の歴史だ》

 

 

ユーノの言う〝表〟という言葉が、全員の頭に引っ掛かった。

 

 

《そしてここからは、最後の聖王……オリヴィエ・ゼーゲプレヒトの回顧録に記されていた歴史の裏側だ》

 

 

そう前置きをしたあと、ユーノは再び語り始める。

 

 

《激しい戦乱の中で、痩せ続け、疲弊していく大地と人々。ボロボロになっていく国を憂いた聖王家はその戦乱を終わらせるべく…とある兵器を持ち出した。それこそが聖王家の守護兵器──〝聖王のゆりかご〟》

 

 

「!!? ゆりかご……」

 

 

その言葉を聞いたエリオは、グランが言っていた言葉を思い出すが、ユーノの言葉はまだ続く。

 

 

《聖王のみしか操る事が出来ない巨大兵器……その兵器の導入により、戦乱は終わりを告げると思われていた。しかし……聖王家の想いとは裏腹に、その兵器の力は強大過ぎた。敵の国だけでなく、自身の国や、罪の無い人々にまで被害を及ぼした。その力はまさに……世界を滅びしかねない程だったと記されている》

 

 

世界を滅ぼす兵器と聞いて、メンバーたちは息を呑む。

 

 

《後に聖王オリヴィエが、その生涯と引き換えにゆりかごの停止に成功。その後はどこか遠い地へと封印され、長かった戦乱は終わった。

 

だけど話はこれで終わりじゃない》

 

 

ユーノはさらに言葉を続ける。

 

 

《この際だから、ハッキリ言うよ……ヴィヴィオは──聖王オリヴィエのクローンだ》

 

 

ユーノのその言葉は、ギルドメンバーたちを震撼させた。

 

 

「あの少女が聖王様のクローン!!? どういう事ですか!!?」

 

 

メンバーたちの言葉を代弁するように、声を荒げて問い掛けるシャッハ。そしてそれに答えるようにユーノは語る。

 

 

《回顧録にはこう記されていたよ。聖王が亡くなった事によって、聖王を妄信する一部の者たちが、ある魔法を使用して聖王を蘇らせようとした。黒魔導士ゼレフの魔法を……》

 

 

伝説として語られる最凶最悪の黒魔導士ゼレフ……まさかその名まで出てくるとは思わなかったメンバーたちはさらに驚愕する。

 

 

《その結果……聖王の遺伝子を持つ1人の少女が生まれた。だけど信者たちが捕まった事により、その少女は生まれて間もなく聖王の城の地下深くへと封印された。

 

そして今年……正確には1ヶ月前、聖王の城跡地に立てられた聖王教会が襲撃され……その少女──ヴィヴィオは目覚めた》

 

 

「聖王教会の地下に……そんなものが……!!!」

 

 

《カリムさんと一緒に確認したから、間違いはないよ》

 

 

それを聞いたシャッハは軽いショックを受けると同時に、何故辺境の街であるベルカの街が襲われたのか合点がいった。

 

 

《そしてこれらの話を踏まえた結果……奴等の目的は──》

 

 

「ゆりかご……ですよね」

 

 

ユーノの代わりにそう答えたエリオに、メンバー達の視線が集まる。

 

 

「僕が戦ったデーモンの四天王に聞いたんです。マスターが計画の話をする際に〝ゆりかご〟という単語を口にしていたのを。ねぇ、シャルル?」

 

 

「ええ、確かにそう言ってたわ」

 

 

エリオの言葉に同意して頷くシャルル。

 

 

《その通りだよ。奴等はヴィヴィオの持つ聖王の遺伝子を利用して、それを復活させるつもりなんだ。世界を滅ぼしかねない力を持った古代兵器……〝聖王のゆりかご〟を》

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「……………!!!」

 

 

グレイは絶句していた。

 

塔の入り口前でユーノが語っていたヴィヴィオの正体と、2つの闇ギルドの目的を、目の前に佇むゲイルの口から聞いたのであった。

 

 

「これでわかったか? あの小娘は古代兵器を目覚めさせる重要な鍵だ。たとえ救い出せたとしても、ゆりかごを狙う連中によって常に危険に晒される事になる。当然それは貴様らの身にも降り掛かるだろうな。悪い事は言わん、あの小娘の事は諦め──」

 

 

「──冗談じゃねえよ」

 

 

ゲイルの言葉を遮り、そう言葉を口にしたグレイ。

 

 

「確かにヴィヴィオの正体には驚いたが……オレにはヴィヴィオがそんな崇高なモンには見えねーんだよな。あいつは無邪気で…明るくて…意外と我が侭で…強情で…そのくせ泣き虫で……こんなオレなんかのおんぶ1つで大喜びする──ただの普通のガキだ」

 

 

そう語るグレイの表情には、僅かだが優しい笑みが浮かんでいた。

 

 

 

「まぁ結局の所──(ヴィヴィオ)が欲しけりゃあ父親(オレ)を倒してからにしろって事だ」

 

 

 

グレイは力強い言葉で……そう言い放った。

 

 

「あいつが常に危険に晒されるってんならオレが守る。降り掛かる危険なんざ、全部払い除けてやるよ。あいつに選ばれた父親代わりとしてな」

 

 

そう言い放つグレイの眼には、強い覚悟が灯っていた。それを見たゲイルは、再びデカログスを構える。

 

 

「小僧……貴様の覚悟はよくわかった。だが、オレに勝てん事に変わりはない」

 

 

そう言ってゲイルは高々と振り上げたデカログスを、グレイ目掛けて振り下ろす。

 

 

「オレはテメェに勝って、ヴィヴィオを助け出す!!!」

 

 

対するグレイもそう言いながら、迫るデカログスに対処しようとしたその時……

 

 

 

 

 

ズドォォオオン!!!!

 

 

 

 

 

「ぬぐっ!!!?」

 

 

「!!?」

 

 

突如飛来した桜色の閃光がゲイルを直撃し、彼の体を吹き飛ばした。

 

そして閃光が飛んできた方向からは、グレイにとって聞き慣れた声が響いてきた。

 

 

「にゃはは……やっと父親だって認めたねグレイ。けどね、ヴィヴィオに選ばれた〝親〟はグレイ1人じゃないんだよ」

 

 

「……何者だ?」

 

 

ゲイルは声が聞こえる方向をギロリと睨みながらそう問い掛ける。そしてその問いに対して、その人物は高らかに答えた。

 

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士……高町なのは!!!」

 

 

 

その人物……なのははそう名乗ると、ゲイルを見据えながら続けて言い放つ。

 

 

 

(ヴィヴィオ)が欲しかったら、母親(わたし)も倒してからにしてください!!!」

 

 

 

今ここに……不屈の魔導士が参戦した。

 

 

 

 

 

つづく


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