LYRICAL TAIL   作:ZEROⅡ

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今回はいつもより短めですが、書きたかった事を全て詰め込みました。

感想お待ちしております。


兵器の涙

 

 

 

 

 

「だらぁぁああああ!!!」

 

 

「ぐっ…コイツ……!!!」

 

 

塔の上階にある広場で繰り広げられているナツとノーヴェの戦い。しかし、ナツの反撃以降…その戦いはナツの優勢で進んでいた。

 

ナツの炎の拳による猛攻に、ノーヴェは表情を歪めながら右手に嵌めたガンナックルで防御する。

 

 

「いつまでも……調子に乗ってんじゃねぇええ!!!」

 

 

「ぬおっ!!?」

 

 

すると、ノーヴェはナツの拳を鷲掴みして受け止めると、そのまま腕を絡め取って背負い投げの要領で、ナツを空中に投げ飛ばした。

 

 

「よっと……へへっ」

 

 

「!!」

 

 

しかしナツは空中で体制を立て直して着地すると、余裕そうに笑みを浮かべる。それを見たノーヴェの表情は、さらに険しくなる。

 

 

「だったら……こいつでどうだ!!!」

 

 

そう言って、ノーヴェはガンナックルを構えると……

 

 

ズガガガガッ!!!

 

 

「がっ……!!!」

 

 

そこから弾丸を発射し、ナツの体を打ち抜いた。

 

 

「……なーんてな」

 

 

「!?」

 

 

なんと、ナツを打ち抜いたかのように見えた弾丸は、彼に届く前に彼の炎によって消滅していた。

 

 

「オレに鉛玉なんざ効かねーぞ」

 

 

そう言うと、ナツはお返しと言わんばかりに大きく息を吸い込んで頬を膨らまし……

 

 

「火竜の咆哮!!!」

 

 

そのまま灼熱のブレスをノーヴェ目掛けて放った。

 

 

「チッ…ジェットエッジ!!!」

 

 

するとノーヴェは舌打ち混じりに両足に装着したジェットエッジの機動力を使って走行し、ナツのブレスを回避した。

 

そしてそのまま、ジェットエッジのスピードを活かしてナツ目掛けて走り出す。

 

 

「(負ける訳にはいかねーんだ……アタシは戦闘機人……ただの魔導士の人間なんかに──)

 

 

──負けるかよぉぉおおお!!!!」

 

 

そう吼えるノーヴェの声には……どこか、悲痛な叫びも混ざっているように聞こえていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第九十二話

『兵器の涙』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リボルバー・スパイク!!!!」

 

 

そのままノーヴェはスピードを乗せた上段蹴りをナツ目掛けて放つ。

 

 

「おっと!」

 

 

それをナツは片腕でガードするが……

 

 

「オラァァァアアア!!!!」

 

 

「なにっ!? うおわぁぁああ……へばっ!!!」

 

 

ノーヴェの蹴りの勢いは止まらず、押し負けたナツの体はそのまま吹き飛び、壁に激突した。

 

 

「いってぇ~……」

 

 

「ナツ!! また来てるよ!!!」

 

 

「!?」

 

 

ナツが壁にぶつけた体を押さえていると、ハッピーの呼びかけが聞こえ、すぐさま顔を上げた。

 

 

「オォォォォオオオオ!!!!」

 

 

見ると、足を天上に向かって大きく振り上げた状態で、空中に飛び上がっているノーヴェの姿があった。

 

 

「やべっ……!!」

 

 

それを見たナツはすぐさま横に飛んで回避する。

 

 

ズドォォォォオン!!!

 

 

その瞬間、先ほどまでナツが居た場所にノーヴェの踵落しが突き刺さり、地面を砕く。

 

 

「逃がすかぁ!!!」

 

 

しかし、ノーヴェの攻撃はまだ終わらない。

 

今度は高速回転しているジェットエッジのローラーを壁につけると、そのローラーの勢いで壁を伝って走り出す。

 

 

「くたばれぇええ!!!」

 

 

そしてすぐにナツの眼前へとやってくると、今度はガンナックルを装着した拳でナツに殴り掛かる。

 

 

「火竜の……」

 

 

それに対してナツも、避けられないと判断したのか、炎の拳を構える。そして……

 

 

「鉄拳!!!!」

 

 

両者の拳が激突した。

 

 

ズドォォォオオオン!!!

 

 

2人の拳がぶつかり合い、凄まじい衝撃が周囲に響き渡る。そして……

 

 

「うわぁぁぁあ!!」

 

 

拳による競り合いに負けたのは……ノーヴェであった。

 

拳を弾き返されたノーヴェは、そのまま後方に飛ばされる。

 

 

「うおっしゃあああ!!!」

 

 

それを好機と見たナツは、今度は両手に炎を灯し、追い討ちを掛ける様にノーヴェに飛び掛る。

 

 

「くっ……させる──かぁ!!!」

 

 

「うごっ!!」

 

 

しかしノーヴェも負けじと足を真上に振り上げ、ナツの顎を蹴り上げた。

 

 

「デリャアァ!!!」

 

 

「うげっ!!!」

 

 

そしてその蹴り上げた足をそのまま振り下ろして、ナツの頭に踵落しを炸裂させる。それを喰らったナツはうつ伏せの状態で地面に倒れる。

 

 

「もう一発!!!」

 

 

ノーヴェは追い討ちの踵落しを決める為に、再び足を大きく振り上げて、そのままナツの頭目掛けて振り下ろす。

 

 

「喰らうかっ」

 

 

その瞬間、ナツは腕を使って後ろに小さく跳ねて踵落しを回避する。

 

 

「火竜の……」

 

 

そしてナツは、地面に手を付いた状態で炎を纏った両足をブレイクダンスのように振り回し……

 

 

「鉤爪ッ!!!!」

 

 

「がはっ!!!」

 

 

ノーヴェの頬に炎の蹴りを叩き込む。しかし、ナツの攻撃はまだ終わっていない。

 

 

「と──劍角!!!!」

 

 

今度は足に纏った炎をそのままブースターとして使い、そのまま全身に炎を纏った状態でノーヴェ目掛けて突進した。

 

 

「がぁぁあああああ!!!」

 

 

そしてその攻撃は見事にノーヴェの腹部を捉え、そのままノーヴェはナツに押されるように後ろへと後退して行く。

 

 

「ぐぁぁあ……ッ!!! ジェットエッジィ!!!!」

 

 

「!!?」

 

 

しかし……ノーヴェがナツの攻撃に耐えながら叫ぶと、両足のジェットエッジが前進する為にローラーが高速回転を始める。それによって、ノーヴェの後ろに押される勢いは弱まっていく。

 

そしてナツの突進の勢いが弱まってきたのを見計らって、ノーヴェは両手を組んで大きく頭上へと振り上げ……

 

 

「オラァア!!!」

 

 

「何っ!!? ぐあぁぁああ!!!」

 

 

そのまま両手をハンマーのように勢いよく振り下ろし、ナツを思いっきり地面に叩きつけた。

 

 

「ナツ!!!」

 

 

「ぐっ…大丈夫だ……くそっ」

 

 

ナツはハッピーの声に応えるように起き上がると、そのまま後退してノーヴェから距離を取った。

 

 

「ハー…ハー…ハー…!!」

 

 

「フゥ…フゥ…フゥ……!!」

 

 

そして両者共に息を乱しながらも、お互いの姿を見据える。すると、ナツが口角を吊り上げて笑みを零す。

 

 

「へへっ…やっぱ強ェなお前。最高に燃えてきたぞ」

 

 

「……勝手に燃えてろ」

 

 

ナツのそんな言葉に対して、ノーヴェは素っ気無くそう言い返す。

 

 

「なんだよ……オメェは楽しくねーのかよ?」

 

 

「楽しいだと?」

 

 

続けてナツの言葉に、今度は眉を顰めるノーヴェ。

 

 

「ああ、やっぱケンカはこうじゃねーとな。相手が強ければ強ェほど燃えるし、楽しいもんな!!」

 

 

そう言って本当に楽しそうにニカッと笑うナツ。

 

 

「ナツー、オイラたちはヴィヴィオとミラを助けにきたんだよ? そこらへん忘れてないよね?」

 

 

「あ…あたりめーだろ!! ちゃんと覚えてるっつーの!!!」

 

 

「今一瞬だけ忘れてたよね」

 

 

ナツとハッピーがそんなちょっとした漫才のようなやり取りをしていると……ノーヴェがゆっくりと口を開いた。

 

 

「戦いが……楽しいだと? ふざけんじゃねえぇぇえ!!!」

 

 

「うおっ!!?」

 

 

突然怒声を上げながら殴り掛かるノーヴェに対し、ナツは驚きながらも咄嗟の動きでそれをガードした。

 

 

「アタシたち戦闘機人を…お前みたいなお気楽ヤローと一緒にすんじゃねぇよ!!!」

 

 

「……なんだと?」

 

 

「アタシたち戦闘機人は、戦う為だけに生み出された人間兵器だ!!! お前らみたいにお気楽にヘラヘラ笑ってるような正規ギルドの連中とは……戦いに対する覚悟が違うんだよっ!!!」

 

 

「!! ぐはっ!!!」

 

 

「ナツ!!!」

 

 

そう叫びながらノーヴェが振り上げた足は、ナツの顔面を捉え、それを喰らったナツは吹き飛び地面を転がる。

 

 

「そうだ……アタシたちは戦闘機人……戦う為にドクターによって生み出された兵器……ドクターの命令通り戦わねえと……存在してる意味がねえんだ」

 

 

「ふざけんなバカヤロウ」

 

 

「!!?」

 

 

耳に入ってきた声の方へと、すぐさま顔を向けるノーヴェ。そこには、ノーヴェに蹴り飛ばされながらもゆっくりと立ち上がるナツの姿があった。

 

 

「存在してる意味だぁ? んな事、生きてるから存在してるに決まってんじゃねーか。戦う為の兵器だとか、誰かの命令だとか、そんなもん……何の関係もねーよ」

 

 

「なんだと……?」

 

 

「結局テメェは自分の意志じゃなくて、誰かに言われるがままに戦ってるだけの操り人形と一緒じゃねえか。自分の意志を持たねー奴に、覚悟がどうとか言われたくねーな」

 

 

「っ……お前に何がわかるっ!!!?」

 

 

ナツの言葉を聞いたノーヴェは怒声と共にナツに殴りかかる。そしてナツは、その拳を避けることも受け止めることもせず、ただノーヴェに殴られる。

 

 

「アタシたち戦闘機人は、プロジェクトFによって造り出された存在……ニセモノの命を持った連中なんだよっ!!!! 体だって、改造されて機械と融合した体だ……そんな奴等が造り主のもとを放れて普通に生きていけると思うか!!? だからアタシたちは…ドクターの命令通りに生きていくしかないんだよっ!!!!」

 

 

ナツを殴りながら悲痛な叫び声でそう言い放つノーヴェ。すると……

 

 

「違うっ!!!!」

 

 

「!!!?」

 

 

今まで殴られていたナツがノーヴェの拳を回避し、逆にノーヴェの頬にカウンターパンチを叩き込んだ。

 

 

「造られた存在だろうが何だろうが、命にニセモンなんかねえんだ!!! ちょっと生まれ方が違うくれェで、メソメソ言ってんじゃねえ!!!」

 

 

「…………!!!」

 

 

ナツの言葉を聞いて、ノーヴェは思わず息を呑む。

 

 

「……それでも…結局アタシたちはただの兵器だ……どんなに取り繕っても…戦う為だけに生み出された兵器って事には変わりねえ……何も変わらねえんだよぉ!!!!」

 

 

そう言ってガンナックルを装着した拳を構えて、再びナツに殴り掛かるノーヴェ。しかし……

 

 

ガシッ!

 

 

「!!?」

 

 

その拳は、ナツに軽々と受け止められた。

 

 

「は…放しやがれ!!」

 

 

「お前……正規ギルドはお気楽にヘラヘラ笑ってる連中って言ったよな?」

 

 

掴んだノーヴェの拳を放さず、そう問い掛けるナツ。

 

 

「なんだよ……それがどうした!?」

 

 

「それの……何がワリーんだよ?」

 

 

「!!?」

 

 

ギルドの悪口を言った事に対して怒鳴られると思っていたノーヴェは、ナツの予想外の言葉に目を見開いた。

 

 

「オレたちはみんな……何かを抱えて生きている。キズも…痛みも…悲しみも…辛い過去も……だけどみんな、それを全部受け入れて…乗り越えて…前を向いて必死に今を生きてんだ!!!

 

 

だからオレたちは、心の底から笑っていられるんだっ!!!!!」

 

 

「っ………!!!」

 

 

ナツの想いの籠った叫びを聞いて、ノーヴェは言葉を失った。

 

 

「だからお前も……生きる事に絶望なんかしてんじゃねえ」

 

 

「!!!」

 

 

そう言いながらナツは、ノーヴェの拳を掴んでいる手とは反対側のもう一つの手で拳を作り、それをゆっくりと持ち上げる。

 

 

「お前の持ってる〝命〟はニセモンなんかじゃねえ、立派な生きてる証だ。戦闘ナントカとか、兵器とか関係なく…今この瞬間を、前を向いて一生懸命生きていれば──」

 

 

そしてその拳をグッと握り締め、思いっきり振り切りながら言い放つ。

 

 

 

 

 

「きっと楽しいハズだ!!!!」

 

 

 

 

 

そしてナツの振り切った拳は……ノーヴェの頬に叩き込まれた。

 

 

「ぐっ…あぁぁぁあああああ!!!!」

 

 

そして殴り飛ばされたノーヴェは、地面は何度も転がり、やがて仰向けに倒れた状態で止まった。

 

 

「……………」

 

 

「よお、気分はどうだ?」

 

 

そんなノーヴェの顔を覗き込みながら、そう問い掛けるナツ。

 

 

「……最悪に決まってんだろ。訳わかんねー事ばっか言いやがって、呆れてもう動く気にもなれねーよ」

 

 

「そっか、んじゃあこのケンカはオレの勝ちだなっ!!!」

 

 

「……好きにしろよ」

 

 

「かっかっか!」と笑うナツに対して素っ気無く言い放つノーヴェだが、その表情はどこか……憑き物が落ちたように穏やかであった。

 

 

「オラ、この塔の魔水晶(ラクリマ)を壊すんだろ? あの通路を進んだ先にあっから、さっさと行けよ」

 

 

そう言いながら、ノーヴェは通路の方角を指差す。

 

 

「ナツ、早く行こうよ!!」

 

 

「ちょっと待てハッピー、オレはまだこいつに聞きたい事があるんだ」

 

 

「あ?」

 

 

そう言ってナツは、倒れてながらも怪訝な顔をしているノーヴェを真っ直ぐと見据えながら……

 

 

 

「ノーヴェ……お前妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入らねーか?」

 

 

 

と…問いかけた。

 

 

「は…ハァァアアアア!!!?」

 

 

「うえええええ!!?」

 

 

その問い掛けに、ノーヴェは思わず上半身を起こして、ハッピーと共に驚愕の声を上げた。

 

 

「何考えてんだテメェ!!? アタシは闇ギルド…しかもバラム同盟の一角ギルドの一員だぞ!!! 正規ギルドになんか入れる訳ねーだろ!!!」

 

 

「大丈夫だって、昔オレたちのギルドをメチャクチャにした鉄クズヤローだって入れたんだ。じっちゃんも認めてくれるって」

 

 

「そういう問題じゃねーだろぉぉお!!!!」

 

 

ナツの能天気な発言に、大声でツッコミを入れるノーヴェ。もはや先ほどまでの2人の戦いなどどこ吹く風である。

 

 

「ナツ、そもそもどうしてノーヴェをギルドに入れようと思ったの?」

 

 

「ん? 決まってんじゃねーか、ノーヴェがいたら楽しそうだろ?」

 

 

「っ………!!」

 

 

ハッピーの問い掛けに対してナツがそう答えると、それを聞いたノーヴェが反応する。

 

 

「? どうしたんだよノーヴェ?」

 

 

「ウ…ウッセェ!!! つーか、いつまでここで油売ってんだよ!!? お前らの目的は魔水晶(ラクリマ)を壊す事だろ!!?」

 

 

「そうだよナツ!!! 制限時間もあるんだから急がないと!!!」

 

 

「しょうがねーなぁ。んじゃあ、この一件が終わったらまた聞きに来るからな、逃げんなよノーヴェ!!!」

 

 

「わかったからさっさと行きやがれ!!!」

 

 

「おう、じゃあなっ!!!」

 

 

そう言うと、ナツは片手を振ってハッピーと共に通路の先へと走っていったのだった。

 

 

「………はぁ~」

 

 

それを見送ったノーヴェは、再び上半身を倒して仰向けに寝転がる。

 

 

「ったくあのヤロー……好き勝手言いやがって」

 

 

そう愚痴るノーヴェの脳裏には、先ほどまでのナツの言葉が蘇る。

 

 

 

―存在してる意味だぁ? んな事、生きてるから存在してるに決まってんじゃねーか―

 

 

―造られた存在だろうが何だろうが、命にニセモンなんかねえんだ!!!―

 

 

―だからお前も……生きる事に絶望なんかしてんじゃねえ―

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入らねーか?―

 

 

 

「本当に……好き放題に言いやがって…チクショウ……なのに……」

 

 

そう呟くノーヴェの声は、段々と震え始める。そして……

 

 

 

「なのにどうしてこんなに……嬉しいんだよ……!!!!」

 

 

 

そんなノーヴェの両目からは……大粒の涙が溢れ出していた。

 

 

「うぐっ…えぐ……ぐすっ……」

 

 

仰向けのまま両目を腕で覆い、涙を拭い続けるノーヴェ。

 

そうしながら、ノーヴェは小さく、ポツリとこう呟いた。

 

 

 

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)……か」

 

 

 

 

 

つづく


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