LYRICAL TAIL   作:ZEROⅡ

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遅くなりました。

最近新しく買ったゲームにドハマりしてしまい、つい更新が疎かに……しかも内容はかなりグダグダというこの体たらく…本当に申し訳ありません。

あと、お気に入り件数がついに100を越えました。読んでくださっている皆さん、本当にありがとうございます。

この小説と交互に連載している『ユーノの子育て日記』もよろしくお願いします。


四天王

 

 

 

 

 

「うおらああああ!!!!」

 

 

「ふん!!」

 

 

ナツが振るった炎の拳を、鼻を鳴らしながら片手で受け止める悪霊の札(デーモンカード)の魔導士……獄炎のグラン。

 

 

「オレに炎は通用しないぜ」

 

 

グランがそう言うと同時に、受け止めていたナツの拳の皮膚がジュウッと音を立てて溶け始める。

 

 

「ぐああ!!!」

 

 

「ナツ!!!」

 

 

皮膚が溶ける痛みに悲鳴を上げるナツに、ハッピーが叫ぶ。

 

 

「おらよっ!!!」

 

 

「ぶほっ!!!」

 

 

そしてそのまま反対の手で作った拳をナツの顔面に叩き込み、それを喰らったナツは後ろに大きく吹き飛ばされ、地面を転がる。

 

 

「っつう……熱ィなんて感覚、久しぶりだぜ」

 

 

「大丈夫ナツ?」

 

 

「大丈夫だ、ハッピーは離れてろ」

 

 

「あい…」

 

 

体制を立て直しながらそう毒づくナツを心配するハッピーだが、ナツにそう言われ少し離れた場所へと移動する。

 

 

「どうしたよ火竜(サラマンダー)……その程度か?」

 

 

「ナメんじゃねえ!!! 火竜の……」

 

 

グランの挑発めいた言葉にイラだったナツは、大きく息を吸い込み……

 

 

「咆哮!!!!」

 

 

灼熱のブレスをグラン目掛けて放った。

 

 

「無駄だ……熔壁(ようへき)!!!」

 

 

グランが片手を大きく振り上げると、それに呼応するように地面からマグマの壁が出現し、ナツのブレスを防いだ。

 

 

「獄炎のマグマは炎すらも焼き尽くす……テメェのぬるい炎じゃあオレのマグマには勝てねえ!!!」

 

 

そう言うと、グランは壁にしたマグマを操り、別の形へと形成させる。

 

 

熔魔・波山(ようま・ばさん)!!!!」

 

 

そしてそのマグマはまるで怪鳥のような形となり、そのままナツに向かって飛んで行った。

 

 

「くっ!!」

 

 

ナツは唸りながらも飛んできたマグマの怪鳥を回避するが……

 

 

「逃がすかよ!!!」

 

 

そうはさせまいと、グランは腕を振るってマグマの怪鳥を操り、ナツにさらなる追撃を行なう。

 

 

「くそっ!!!」

 

 

それを見たナツは毒づきながらも高くジャンプしてその追撃をかわす。

 

 

「そこだ!! 空中じゃ避けられねえだろ!!!」

 

 

それを好機と見たグランはさらにマグマの怪鳥を操り、空中にいるナツへと向かわせる。

 

 

「火竜の……」

 

 

それに対しナツは、頭上で両手を合わせて巨大な炎の球体を造りだし……

 

 

「煌炎!!!!」

 

 

ドガァァァァアアン!!!!

 

 

それを思いっきりマグマの怪鳥目掛けて放ち、地面へと叩きつけてマグマを爆散させた。

 

 

「なに!!?」

 

 

「うおおおおお!!!!」

 

 

それを見たグランが驚愕している間に、地面へと着地したナツは一直線にグランへと向かって駆け出す。

 

 

「火竜の鉄拳!!!!」

 

 

「っ…熔壁!!!」

 

 

ナツの炎を纏った拳に対し、グランは再びマグマの壁を作り出してそれを防ぐ。

 

 

「無駄だっつってんだろ!!! 炎ごときじゃマグマには勝てねえ!!!」

 

 

「ぐっ…おおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 

グランの言葉など意にも介さず、ナツはマグマの壁にさらに拳を押し込もうとする。

 

 

「火竜の……」

 

 

その瞬間、ナツの肘から炎が噴出し……

 

 

炎肘(えんちゅう)!!!!」

 

 

ドパァァアン!!!

 

 

それをブースターのようにして威力が上がったナツの拳が……マグマの壁を突き抜けた。

 

 

「なっ…!!?」

 

 

「だらぁぁあああ!!!」

 

 

「がはっ!!!」

 

 

そしてナツはそのままグランを思いっきり殴り飛ばし、その衝撃でグランがかけていたサングラスが粉々に砕け散る。

 

 

「ぐっ…つう……!!!」

 

 

グランは殴られた頬を押さえながら起き上がり、粉々になったサングラスを一瞥する。

 

 

「あーあ…このサングラス気に入ってたのによぉ……にしても驚いたぜ、まさかマグマの壁を突き破るとはな」

 

 

「へっ……ナメんなっつったろ?」

 

 

グランの言葉に対し、ナツはニッと笑みを浮かべる。

 

 

「火竜の炎の熱さに限界はねえ。テメェのマグマの方が熱ィっつうなら、オレがさらに熱い炎で燃やし尽くしてやる!!!」

 

 

理屈はメチャクチャだが、絶対的な自信を持ってそう言い切るナツを見て、グランも楽しそうな笑みを浮かべる。

 

 

「へへっ…おもしれぇ奴だ、火竜(サラマンダー)

 

 

そう言うと、グランは力強い眼差しでナツを見据える。

 

 

「楽しくなってきたぜ、こんなケンカは久しぶりだ」

 

 

「燃えてきただろ?」

 

 

「そうだな……本気で行くぞオラァア!!!」

 

 

「かかってこいやぁああ!!!!」

 

 

そう言って……2人の炎とマグマは再び激突したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第七十八話

『四天王』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方…こちらではグレイとなのはが、悪霊の札(デーモンカード)の魔導士である少女…武装姫のメイアと戦闘を繰り広げていた。

 

 

「爆撃」

 

 

メイアはそう呟くと同時に、両腕両足に装着された小型のミサイルポッドから爆弾魔水晶(ラクリマ)で作られた何発もの小型ミサイルを発射する。

 

 

「ディバインシューター!!! シュート!!!」

 

 

ドガガガガガガガ!!!!

 

 

それに対し、なのはは周囲に生成した多くの桜色の魔法弾を発射し、飛来してくるミサイルを撃ち落す。

 

 

「アイスメイク〝(アロー)〟!!!」

 

 

そしてすぐさまグレイが氷で造り出した弓を構え、これまた冷たい氷で造られた矢を放った。

 

 

「撃墜」

 

 

しかしメイアは冷静に背中に装着した大砲を構え、砲撃を放って氷の矢を撃ち落す。

 

 

「ディバインバスター!!!」

 

 

すると、なのはは立て続けにレイジングハートから強力な砲撃を発射する。

 

 

「回避」

 

 

メイアはそれを横に軽くジャンプしてそれをかわす。

 

 

「反撃」

 

 

そしてお返しと言わんばかりに両手に持ったマシンガンと両腕両足に装着したミサイルポッドから、魔法弾とラクリマミサイルを一斉に発射する。

 

 

「〝槍騎兵(ランス)〟!!!」

 

 

「シュート!!!」

 

 

それに対しグレイはいくつもの氷の槍…なのははいくつもの魔法弾で相殺しにかかるが……

 

 

「ヤベェ!!!」

 

 

「防ぎきれない!!!」

 

 

メイアの放った弾幕は半端ではなく、2人の魔法でも全ては相殺できなかった。

 

 

ドガァァアアン!!!

 

 

「ぐぉおおお!!!」

 

 

「きゃあああ!!!」

 

 

直撃はしなかったものの、爆発により発生した爆風によりグレイとなのはは吹き飛ばされてしまった。

 

 

「くそっ……とんでもねえ奴だな」

 

 

「うん…遠距離戦闘じゃ、あの子の方が一枚上手なの」

 

 

起き上がりながら毒づくグレイと冷静に相手を分析しているなのは。

 

 

「なのは、援護してくれ。オレが一気に近づいて接近戦に持ち込む」

 

 

「わかったの、だけど無茶しないでね」

 

 

グレイの提案に頷き、レイジングハートを構えるなのは。

 

 

「行くぞ!!!」

 

 

そう言って勢い良くメイアへと向かって駆け出すグレイ。

 

 

「撃破」

 

 

それを確認したメイアは先ほどと同じように魔法弾やラクリマミサイルなどの弾幕を張る。

 

 

「させない!!!」

 

 

そう言うと、なのははレイジングハートに魔力を集束させ……

 

 

「ストレイトバスター!!!!」

 

 

そのまま、ディバインバスター以上の集束砲を発射した。

 

そしてその集束砲がグレイに接近している弾幕の一部に直撃すると……

 

 

ドガガガガガガガガ!!!!

 

 

「!!」

 

 

そのまま連鎖爆発を引き起こし、一瞬にして全ての弾幕が撃墜された。

 

 

「……驚愕……!!」

 

 

機械のように感情を露にしないメイアもこれには驚いたようで、僅かに眼を見開いている。

 

 

「驚いてるヒマはねぇぞ!!! アイスメイク……」

 

 

そしてその間にメイアの接近に成功したグレイはいつものように手のひらに拳を叩きつけ……

 

 

「〝戦斧(バトルアックス)〟!!!」

 

 

造り出した氷の斧を横薙ぎに振るい、メイアが装備していたマシンガンとミサイルポッドを破壊した。

 

 

「痛恨……!!」

 

 

それを見たメイアはすぐさま破壊された武器を捨て、後ろに大きく飛んでグレイから距離を取る。

 

 

「逃がすか!! アイスメイク…〝大鎌(デスサイズ)〟!!!」

 

 

グレイはそれをさせまいと、すぐに氷の鎌を造り出してメイアに追撃をかけるが……

 

 

「爆破」

 

 

「!!」

 

 

メイアは懐から爆弾魔水晶(ラクリマ)を取り出す。そして……

 

 

ドガァァン!!!

 

 

「ぐあああ!!!」

 

 

「………!!!」

 

 

「グレイ!!!」

 

 

なんと…自分諸共爆発に巻き込み、グレイを吹き飛ばした。

 

 

「グレイ!! 大丈夫!!?」

 

 

「あぁ…たいした事ねぇ」

 

 

安否を確認しながら駆け寄ってくるなのはに答えながら、ゆっくりと起き上がるグレイ。その表情は驚愕に染まっていた。

 

 

「マジかよあの女……自分ごと爆破させやがった」

 

 

「うん……しかも、その行動にまったくの躊躇がなかったの」

 

 

メイアの予想外の行動に驚愕している間に、倒れていたメイアがゆっくりと起き上がる。

 

 

「怪我…軽傷…支障…皆無」

 

 

メイアはそう呟きながら自身の状態を確認する。

 

 

「油断…反省」

 

 

そして自身の確認を終えたメイアは、その機械のように感情の篭っていない瞳でグレイとなのはを見据える。

 

 

「武器…交換」

 

 

先ほど破壊されたマシンガンとミサイルポッドに代わる新たな武器を換装して自身に装着するメイア。

 

両手にはハンドガンとライフルがそれぞれ片手に握られており…両足には先ほど破壊されたものとは少し形態が違うミサイルポッドが装着される。

 

 

「本気」

 

 

まるでここからが本番だと言わんばかりに2人を睨みつけ、メイアは新たな武器を構えたのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

その頃…ティアナとルーシィは、先の2人と同じく悪霊の札(デーモンカード)の魔導士…幻獣のガワラと対峙していた。

 

 

「クロスファイヤーシュート!!!」

 

 

「無駄だ!!」

 

 

ティアナが一斉に放った数十発の魔法弾に対し、ガワラは手を翳して幻影の壁を造りだし、それを幻影を実体化させる魔法〝幻実(リアルモーメント)〟により本物の壁へと変換して魔法弾を防御した。

 

 

「幻影を実体化させる……これこそ、究極の幻影魔法だ」

 

 

腕を横薙ぎに振るい、再び幻影となった壁を霧のように消し去りながら得意気にそう言うガワラ。

 

 

「そう言えば、ルーシィと共闘するのはこれが初めてね」

 

 

「そう言えば…そうよね」

 

 

「頼りにしてるわよ」

 

 

「任せて!!!」

 

 

ティアナの言葉に嬉しそうに頷くルーシィ。

 

 

「何をゴチャゴチャ相談してやがる!! 幻獣・(ウルフ)!!!」

 

 

そう言うと、ガワラは幻影で狼の群生を造り出す。そして造り出された狼の群れは、そのままティアナたちに向かって駆けて行く。

 

 

「ルーシィ、もう一回ロキを呼び出して。3人がかりで一気に決めるわよ」

 

 

「わかったわ! 開け!! 獅子宮の扉!! ロキ!!!」

 

 

「また僕の出番かい?」

 

 

ルーシィはティアナの指示通り、さっそくロキを呼び出す。

 

 

「ロキ、私があの幻影を一掃したら、すぐにあの男との接近戦に持ち込んで!!!」

 

 

「OK」

 

 

「ルーシィはロキが接近戦に持ち込んだら援護に回って!! あんたの鞭なら、中距離からでもいけるハズよ!!」

 

 

「うん!!」

 

 

ティアナの指示を聞き、何の迷いも無く頷くロキとルーシィ。

 

 

「それじゃあ行くわよ!! クロスファイヤー……」

 

 

そう言うと、ティアナは自身の周囲に先ほどよりも多くの魔法弾を生成し……

 

 

「フルバーストッ!!!」

 

 

それらを向かって来る狼の幻影に向かって一斉に放った。

 

 

ボボボボボボン!!!

 

 

そしてティアナが放った魔法弾の雨が着弾すると同時に、狼の幻影は煙のように消滅していく。

 

 

「(思ったとおり、あいつの幻影はちょっとした衝撃ですぐに消滅する。これなら実体化する前に叩き潰せれば……)

 

ロキ!! ルーシィ!! 今よ!!!」

 

 

「ああ!!」

 

 

「ええ!!」

 

 

ティアナの合図と同時に、ロキとルーシィは一気にガワラへと向かって駆け出す。

 

 

「なるほどな、この程度の幻影じゃダメか。だったらこいつはどうだ!!! 人魂・複写(ひとだま・コピー)!!!」

 

 

すると、ガワラは新たに2つの幻影を作り出す。それは……

 

 

「何!? これは!!?」

 

 

「あたし!!?」

 

 

ロキとルーシィ…2人の姿を模した幻影であった。

 

 

「こんな幻影じゃ、僕は止められないよ!!!」

 

 

そう言うと、ロキは光を纏った拳を自分の姿をした幻影へと振るう。

 

 

ボフッ!!

 

 

それが当たると同時に、ロキの幻影は煙のように霧散して消滅したと思われたが……

 

 

「なっ!!?」

 

 

先ほどの狼の幻影とは違い、何とその場で幻影が再生したのだ。

 

 

「さっきの動物型と違って、今度は人型の幻影だ。ちょっとやそっとじゃ消えねえぜ。おまけに……」

 

 

ガワラが得意気にそう言うと、ロキ(幻影)は拳を振るい……

 

 

「ぐはっ!!」

 

 

ロキの頬を思いっきり殴った。

 

 

「きゃあっ!!!」

 

 

そしてルーシィの方も、同じくルーシィ(幻影)の鞭攻撃により悲鳴を上げていた。

 

 

「オレの幻実(リアルモーメント)によりこいつらは実態を持ち、お前らに攻撃できる。つまり、テメェらの攻撃は効かねぇが、逆にこちらの攻撃は効くってわけだ」

 

 

ニヤニヤと笑みを浮かべながらそう口にするガワラ。

 

 

「くっ…ロキ!! ルーシィ!! 一旦下がって!!!」

 

 

ティアナの指示を聞き、体制を立て直す為に後退しようとするロキとルーシィ。

 

 

「させるかよっ!!」

 

 

それを見たガワラはリーチのある鞭を使うルーシィ(幻影)を操り、ルーシィに向かって鞭を振るわせる。

 

 

「ルーシィ、危ない!!!」

 

 

そこへ間一髪ロキが間に入り込み、光を纏った拳でバチンッと鞭を弾き返す。そしてすぐさまルーシィを抱きかかえ、ティアナのもとへと一気に後退する。

 

 

「ありがとうロキ、助かったわ」

 

 

「これくらい御安いご用さ。それに何たって僕は、君にとっての白馬の──」

 

 

「はいはい調子に乗らない!!」

 

 

ロキの言葉を遮り怒鳴るルーシィ。

 

 

「それにしても厄介だね、あいつの魔法」

 

 

「幻影を実体化させるなんて…反則くさー」

 

 

ガワラの魔法に対し、顔をしかめるロキとルーシィ。すると……

 

 

「……面白いじゃない」

 

 

「「?」」

 

 

突然笑みを浮かべてそう呟くティアナに、2人首を傾げる。

 

 

「同じ幻影を使う魔導士として、あいつに幻影の使い方って奴を教えてやるわ。2人とも、耳を貸して。別の作戦を伝えるわ」

 

 

そう言うと、ティアナはガワラには聞こえない声量で2人に作戦を伝える。

 

 

「……なるほどね」

 

 

「この作戦はロキ、あんたに懸かってるわ」

 

 

「任せたわよ、ロキ」

 

 

「了解」

 

 

ティアナとルーシィの言葉に頷くと、ロキは一直線にガワラへと向かって駆け出した。そんなロキを、ガワラは鼻で笑う。

 

 

「ハッ、何をコソコソ相談していたかと思えば、バカ正直に突撃とはな…そう言うのをバカの一つ覚えっつーんだよ!!!」

 

 

「それはどうかな?」

 

 

そう言うとロキは立ち止まり、全身から光を溢れ出させる。

 

 

獅子光耀(ししこうよう)!!!」

 

 

そしてそのままロキは全身から眩い光を放つ。

 

 

「ぐっ!!? 目眩しか!!?」

 

 

その光を直視したガワラは腕で顔を覆って目を守るが、それでもあまりの光の眩さに瞼を閉じる。

 

 

「今だ!!!」

 

 

その隙をついて、拳を構えて再び走り出すロキ。

 

 

「この……!!! 幻獣・大猿(エイプ)!!!」

 

 

しかしガワラの目はすぐに回復し、巨大なゴリラの幻影を造り出した。

 

 

「死ねぇ!!!」

 

 

そして造り出されたゴリラの幻影はその巨大な拳を振るい、ロキに殴り掛かる。しかし……

 

 

スカッ

 

 

「なに!!?」

 

 

その拳はロキの体をすり抜けてしまった。

 

 

「幻影か!!? あの時に……!!」

 

 

そう…目の前にいたロキはティアナの幻影であり、先ほどの目眩ましの際に入れ替わって変わっていたのである。

 

 

「隙あり!!!」

 

 

するといつの間にかガワラの背後にまで移動していたルーシィが鞭を構えて接近していた。

 

 

「チィッ!!!」

 

 

ガワラは舌打ちをしながら再び幻影のゴリラを操作し、拳を振るわせるが……

 

 

スカッ

 

 

「また幻影だと!!?」

 

 

そのルーシィも幻影であり、またもや攻撃は空振りに終わる。

 

 

「あの小娘……!!」

 

 

そう言ってガワラは少し離れたところにいるティアナを睨みつけるが、対するティアナは得意気な笑みを浮かべていた。

 

 

「どこを見ているんだい?」

 

 

「!!」

 

 

すると、今度はガワラの右側からロキが拳を構えて接近してくる。

 

 

「今度も幻影か!!?」

 

 

「残念、本物だよ!!!」

 

 

バキィ!!

 

 

「ぐはっ!!」

 

 

ロキの拳が思いっきり直撃し、ガワラはよろける。

 

 

「コノヤロウ!!!」

 

 

「おっとっと」

 

 

それに逆上したガワラは幻影のゴリラを操作してルーシィにお返しと言わんばかりに殴りかかるが、ロキはそれを軽々と避ける。

 

 

「ルーシィ!!!」

 

 

「うん!!!」

 

 

ヒュン…パシィ!!

 

 

「ぐおっ!!?」

 

 

すると、ガワラの背後から伸びてきたルーシィの鞭が、ガワラの首に巻きついた。

 

 

「捕まえたわ!!! 今よティアナ!! ロキ!!」

 

 

「えぇ!!!」

 

 

「了解!!!」

 

 

ルーシィの言葉を聞き、ティアナはクロスミラージュをダガーモードにして…ロキはさらに強い輝きを纏った拳を構えてガワラへと駆け出す。

 

そして……

 

 

 

「クロス・スライサー!!!」

 

 

獅子王の輝き(レグルス・インパクト)!!!!」

 

 

 

「ぐああああああああっ!!!!!」

 

 

ティアナの斬撃と、ロキの渾身の一撃を喰らったガワラは吹き飛び…何度も地面を跳ねたあと、力なく倒れたのだった。

 

 

「やったぁ!!!」

 

 

「愛の勝利だね」

 

 

ガワラが倒れた事を確認したルーシィとロキは歓喜の声を上げる。

 

 

「2人とも、喜ぶのはあと。どうしてこの街を襲ったのか、理由をあいつから聞き出さないと」

 

 

そう言ってティアナが倒れているガワラに向かって歩き出そうとしたその時……

 

 

 

 

 

ドスッ!!!

 

 

 

 

 

「がっ……!!!」

 

 

「「え?」」

 

 

突然ティアナの腹部に、1本のナイフが深々と突き刺さられた。

 

 

「ぐっ…うぅ……!!!」

 

 

「ティアナ!!!」

 

 

「しっかりするんだ!!!」

 

 

ルーシィとロキは地面に倒れてしまったティアナに急いで駆け寄り、彼女のキズの具合を調べようとする。すると、ティアナの腹部に突き刺さっていたナイフが煙のように消滅した。

 

 

「これって……まさか!!」

 

 

「その通りだ」

 

 

「「「!!!」」」

 

 

ルーシィの疑問に答えるように姿を現したのは、無傷のガワラであった。

 

 

「お前は!!?」

 

 

「そんな!! さっき倒したハズなのに!!!」

 

 

「倒したってのは、アレの事か?」

 

 

そう言ってガワラが指差す方向には、煙のように消えて行く倒れたガワラの姿があった。

 

 

「まさか…幻影!!? さっきまで僕たちが戦っていたのは、お前の幻影だというのか!!?」

 

 

そう……先ほどまでティアナたちが戦っていたのは、幻影で造り出され、魔法によって実体化したガワラの幻影だったのである。

 

 

「まぁ、ちょっとしたお遊びみてーなモンだ」

 

 

ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながらそう言うガワラを睨みつけるルーシィとロキ。

 

すると……

 

 

ドガァァァアアアン!!! ドガァァァアアアアン!!!

 

 

「「!!」」

 

 

突然近くの2ヶ所から大きな爆発音が2つ響き渡ると……

 

 

「ぐはぁっ!!!」

 

 

「ナツ!!?」

 

 

街の東側で戦っていたハズのナツがボロボロの姿で吹き飛んできたのである。しかもそれだけではなく……

 

 

「うあああああ!!!」

 

 

「きゃああああ!!!」

 

 

「グレイ!!? なのは!!?」

 

 

別の方向からは同じくボロボロになったグレイとなのはが吹き飛んできた。

 

 

「グランにメイアか……」

 

 

「よっす」

 

 

「合流」

 

 

すると、ガワラのもとにグランとメイアの2人が合流する。

 

 

「ったく、ちょいと本気だしたらこのザマかよ。もうちょい粘ってくれよ火竜(サラマンダー)

 

 

「ハッ、正規ギルドの実力なんざこの程度だろ」

 

 

「嘆息」

 

 

どこかガッカリした様子でそう言うグランとメイア、そしてバカにしたように笑うガワラ。

 

 

「ナツ!!! みんな!!! しっかりして!!!」

 

 

「くっ…あんのヤロー……」

 

 

「くそっ……!!」

 

 

「う…うぅっ……」

 

 

ルーシィの声に応える様にゆっくりと起き上がるナツとグレイだが、なのははダメージが大きいのか立ち上がれずにいた。

 

 

「! ティア? おいティア!!! どうした!!!?」

 

 

すると、腹部のキズを抑えて倒れているティアナに気がついたナツはすぐさま彼女に駆け寄る。

 

 

「ごめんナツ……ティアナはあのガワラって奴に……!!」

 

 

「……許さねえ」

 

 

ルーシィの言葉を聞いたナツは、ギロリと目の前の敵である3人を睨みつける。

 

 

「よくもティアを!!! コノヤローーー!!!!」

 

 

「待つんだ!! ナツ!!!」

 

 

ロキの静止も聞かず、怒りの表情で炎を纏った拳を構えて3人に向かって突撃して行くナツ。

 

 

「オレがやる」

 

 

そう言うと、グランがあとの2人より一歩前に出てナツに立ち向かう。

 

 

「オラァァアア!!!!」

 

 

「おっと……」

 

 

グランはそんなナツの拳を軽々とかわし、ナツの懐に潜り込む。そしてナツの腹部にそっと手を添え……

 

 

「大噴火!!!」

 

 

ドゴォォォォオン!!!

 

 

「ぐあぁぁあああああああ!!!」

 

 

その名の通り噴火のごとき爆発を腹部に叩き込まれ、ナツはその衝撃で何度も地面をバウンドしながら遠くの方へと吹き飛ばされてしまった。

 

 

「くそっ!! アイスメイク〝大槌兵(ハンマー)〟!!!!」

 

 

続けてグレイが3人の頭上に巨大な氷のハンマーを造りだし、それを一気に落とそうとするが……

 

 

「無駄だ」

 

 

グレンが操るマグマがまるで屋根のようになり、落ちてくるハンマーから身を守る。それだけでなく、その灼熱の温度により、氷のハンマーは溶けてなくなった。

 

 

「あー…もういい、飽きた。メイア、あとはお前が全部吹き飛ばせ」

 

 

「了解」

 

 

「おい待て、あの女どもは連れ帰ってお楽しみをだな」

 

 

「ガワラ、テメェの気色悪ぃ趣味に付き合わせんな。つーかいい加減仕事しねーと、マスターにどやされるぞ」

 

 

「むっ……それは困るな。しかたねえ」

 

 

グランの言葉に諦めたように息を吐くガワラ。そして、メイアが一歩前に出て体中に装備した銃火器をナツたちへと向ける。

 

 

「目標…殲滅」

 

 

そう呟くと同時に…射撃・砲撃・爆撃のあらゆる攻撃がナツたちを襲う。

 

 

「みんな伏せろォ!!!」

 

 

「伏せてどうにかなるもんじゃねえだろ!!! オレの(シールド)で!!!」

 

 

「ダメ!!! 間に合わない!!!」

 

 

そして……

 

 

 

ドガァァァァアアン!!!

 

 

 

ナツたちは凄まじい爆発の中へと、飲み込まれて行ったのだった。

 

 

「障害…排除」

 

 

「お疲れさん。さて、仕事するか…内容なんつったっけ?」

 

 

「この間逃がしたガキの捕獲だ」

 

 

「誘拐」

 

 

「あぁ、そうだった。特徴は確か……金髪に赤と緑の虹彩異色だったな。んじゃ、さっさと街に入って探すとしますか」

 

 

「そうだな」

 

 

「探索」

 

 

そう言って未だに立ち上っている爆煙に背を向けてベルカの街へと向かおうとするグラン、ガワラ、メイアの3人。

 

すると……

 

 

 

 

 

「待て」

 

 

 

 

 

「「「!!?」」」

 

 

突然背後から聞こえてきた殺気の篭った声に、3人は思わず立ち止まる。そしてバッと振り返り、爆煙の方へと視線を移すと……

 

 

「貴様等の話……もう少し詳しく教えてもらおうか?」

 

 

超防御力を誇る鎧…『金剛の鎧』を身に纏い、ナツたちを守るように立っているエルザの姿があった。

 

 

「エルザ!!!」

 

 

エルザの登場に歓喜の声を上げるルーシィ。

 

 

「遅れてすまない。ハッピーから皆がピンチだと聞いて急いでやってきたのだが……」

 

 

「いや…ナイスタイミングだ」

 

 

「にゃはは…エルザさん、助かったの」

 

 

鎧を普段の鎧に戻しながら申し訳無さそうに言うエルザにグレイとなのはが起き上がりながらそう言う。

 

 

「それより、今あいつらが言った金髪で赤と緑の虹彩異色のガキって言うのはよ……まさかとは思うが」

 

 

「ヴィヴィオの事……だよね?」

 

 

グランたち…悪霊の札(デーモンカード)の狙いがヴィヴィオだと言う事が分かり、目の前の3人を睨むグレイとなのは。

 

 

「どうしてあいつらがヴィヴィオを…?」

 

 

「わからん。しかし、だからと言って放っておくわけにもいくまい。まずは奴等から情報を聞き出すしかない」

 

 

そう言うと、エルザは目の前に立つ3人に向かって剣を突きつける。

 

 

「おいおい…あれって妖精女王(ティターニア)じゃねぇか?」

 

 

「予想外だな……妖精女王(ティターニア)が相手となると、オレたちでもただじゃ済みそうにねぇ」

 

 

「強敵」

 

 

思わぬ乱入者であるエルザの登場に顔をしかめるグランたち3人。

 

 

「行くぞ!!!」

 

 

そう言って剣を構え、3人に向かって駆け出すエルザ。

 

 

だがその時……

 

 

 

「ストップです」

 

 

 

『!!!?』

 

 

エルザと3人の間に、メガネをかけた男性が突然その場に現れた。

 

 

「オルバ!!?」

 

 

グランはメガネの男性……オルバの登場に驚愕する。

 

 

「グラン、ガワラ、メイア。ご苦労様です。君たちの仕事は終わりました」

 

 

「なに? どういう事だ? まだガキを捕獲しちゃいねーぞ」

 

 

「未遂」

 

 

「そちらの件は、同盟ギルドに任せてあります。私たちの本当の任務は、彼ら…妖精の尻尾(フェアリーテイル)の戦闘データの収集です」

 

 

『!!?』

 

 

メガネを押し上げながらそう答えるガワラの言葉に、エルザたちは目を見開く。

 

 

「君たち3人と戦った者たち…そして雑兵たちと戦っていた妖精女王(ティターニア)のデータも充分に集まりました。ここにはもう用はありません、引きますよ」

 

 

「チッ…結局オレたちはお前の手のひらで転がされてただけかよ」

 

 

「気に食わねーな」

 

 

「不快」

 

 

「そうおっしゃらないでください。限られた優秀な兵をどう上手く使うかも、軍師たる私の役目なのですから」

 

 

オルバの言葉に不満を漏らしながらもその場を去ろうとするグランたち4人。当然、それをエルザは見過ごさない。

 

 

「待て!!! このまま逃がすものか!!!!」

 

 

そう言うと、エルザは自身の鎧を天輪の鎧へと換装し……

 

 

循環の剣(サークルソード)!!!!」

 

 

数本もの剣をオルバたちに向かって発射する。

 

 

「やれやれ……」

 

 

それに対し、オルバは小さく嘆息しながら迫り来る剣にそっと手を翳すと……シュンッと、剣がその場から消えてなくなった。

 

 

「剣が……消えた?」

 

 

突然剣が消失するという出来事にエルザが目を見開いて驚愕していると、オルバは静かに口を開く。

 

 

「こちらはもう交戦の意思はありません。どうかお見逃し頂きたいのですが」

 

 

「ふざけるなっ!!! 仲間をこれだけ傷つけておいて、今更見逃す事などできる訳がない!!!」

 

 

オルバの言葉に対し、当然エルザは憤慨しながら却下する。

 

 

「わからない人ですね。私たちは悪霊の札(デーモンカード)の中でも最強の四天王と呼ばれる4人です。そんな私たちを相手にして、アナタは負傷した仲間を守りながら戦えますか?」

 

 

丁寧な言葉だが、その音質にはどこか重圧に似た迫力が含まれており…さらにはオルバのメガネの奥から覗いている鋭い眼光からは、凄まじい殺気が放たれていた。

 

 

「…………!!!」

 

 

オルバの重圧と殺気に、思わず息を呑むエルザ。そんなエルザを一瞥したあと、オルバは小さく笑いながら彼女に背を向ける。

 

 

「それでは……縁がありましたら、またお会いしましょう」

 

 

「!!? 待──」

 

 

エルザの静止の言葉が届く前に、オルバたち4人はその場からシュンっと、文字通り姿を消したのであった。

 

そしてすぐさま辺りを見回すが、そこにはオルバたちの姿はおろか、倒したハズの悪霊の札(デーモンカード)の魔導士たちの姿もなかった。どうやらオルバが消えると同時に一緒に回収したようである。

 

 

「くそっ!!!」

 

 

完全に相手を逃がした事に、悔しそうに毒づくエルザ。その後ろでは、グレイやなのはたちも悔しそうな顔をしている。

 

 

「敵はもういない!!! すぐに負傷したナツとティアナの治療の為に、2人を街へと運べ!!!」

 

 

「お…おう!!!」

 

 

「うん!!」

 

 

「わかったの!!」

 

 

いち早く立ち直ったエルザの指示により、グレイたちもすぐに立ち上がってすぐに行動を開始したのであった。

 

それを確認したエルザは、1人空を仰ぎながら…誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。

 

 

 

「罠と呼ばれた依頼書…悪霊の札(デーモンカード)…そして奴等の狙いであるヴィヴィオ……一体何がどうなっている?」

 

 

 

こうして……様々な謎を残し、ベルカの街防衛線は終わった。

 

 

しかし、エルザたちはまだ知らない。

 

 

この戦いが……ほんの始まりでしかなかった事を……

 

 

 

 

 

つづく


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