LYRICAL TAIL   作:ZEROⅡ

74 / 240
今回は原作コミックス26巻についていたOVAの話です。

しばらくはOVAやアニメオリジナルの話が続きます。


思ったよりどえらい長くなっており、オマケにグダグダ感も半端ないですが、それでも読んで頂けるとありがたいです。


感想お待ちしております。


間話
フェアリーヒルズ


 

 

 

 

 

 

六魔将軍(オラシオンセイス)討伐作戦が終わり…ギルドに新しい仲間のウェンディ、エリオ、キャロ、シャルルの四人加わり……さらにはなのはが拾った記憶喪失の少女・ヴィヴィオの登場から早数日。

 

そんなある日の事……

 

 

「んー…なんの仕事にしようかな~?」

 

 

そう言って鼻歌混じりにギルドの依頼板(リクエストボード)を覗き込むルーシィ。

 

 

「ん?」

 

 

そんなルーシィの目に、一枚の依頼書が留まった。

 

 

「『女子限定、探し物を手伝いなさい。報酬なんか出さないよ』? なにこれ?」

 

 

「どうしたの? ルーシィ」

 

 

あまりに不審な依頼書にルーシィが首を傾げていると、そんな彼女にティアナが話しかける。

 

 

「見てよティアナ、この変な依頼書!」

 

 

「変な依頼書?」

 

 

ティアナはルーシィが指差す依頼書を覗き込むと「ふーん…」と言って、彼女の疑問に答える。

 

 

「イタズラじゃないの? たまにあるのよ、近所の悪ガキどもが張っていくこと。その証拠に、他の依頼書より飾り気がないでしょ」

 

 

「でもイタズラだったら、バカげた報酬額書いた方が効果的じゃない?」

 

 

「そこまでは知らないわよ」

 

 

「確かに受注された記録のない依頼書だけど…少し気になるわね」

 

 

「ミラさん」

 

 

ティアナが肩を竦めながらそう答えると、そこへ依頼書の記録書を持ったミラがやって来た。

 

 

「依頼主の名前はないけど、住んでる所が書いてあるでしょ?」

 

 

「あれ? ここって確か……」

 

 

妖精の尻尾(ウチ)の女子寮…〝フェアリーヒルズ〟よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第七十四話

『フェアリーヒルズ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後…ミラに依頼書の確認を頼まれたルーシィとティアナは、ギルドから少し離れた場所にあるフェアリーヒルズへと向かっていた。

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)に女子寮なんてあったんだぁ~。あ! だから女子限定だったのね」

 

 

「知らなかったの?」

 

 

「全然…だって誰も教えてくれないんだもん」

 

 

「私は寮生活じゃないからフェアリーヒルズには一度も行った事ないし、それにそれくらい自分で調べなさいよ」

 

 

ティアナの辛らつな言葉に「う~」と唸るルーシィ。

 

 

「そう言えば、ティアナの家ってどこにあるの?」

 

 

「マグノリアの街の…中心辺りかしら? 兄さんと一緒に住んでた家があるから、そこに住んでるわ。借家じゃないから家賃もかからないし」

 

 

「ぐっ…羨ましい……うう…女子寮の存在を知ってれば、家賃7万のアパートなんか借りなかったのに……」

 

 

「ここは月10万Jだよ」

 

 

「え?」

 

 

「!」

 

 

突然正面から聞こえてきた声に、視線を向けるルーシィとティアナ。すると2人の目の前には、一人の老婆が立っていた。

 

 

「10万J。まける気はないよ」

 

 

「「はい?」」

 

 

老婆の言葉に、2人は首を傾げながら歩みを進めていると……

 

 

「ストーーップ!!! 止まらんかい!!!!」

 

 

「ひっ」

 

 

「な…なによ?」

 

 

突然老婆に怒鳴られ、2人は思わず歩みを止めてしまう。

 

すると、老婆は突然ルーシィとティアナに飛び掛る。

 

 

「ひいいいい!!!」

 

 

「な…何なのよーー!!?」

 

 

そしてそのままカサカサと虫のように体中を這いずり回られ、悲鳴を上げる2人。

 

 

「どうやら〝女子〟のようだね」

 

 

「見た目で判断してくれないかしら!!!」

 

 

「っていうか今、さりげなく体舐めたでしょ!!? 女同士とはいえセクハラよ!!?」

 

 

老婆に対してそう抗議をするルーシィとティアナだが、老婆は気にした様子もなく話を進める。

 

 

「アンタたちが仕事をやるのかい?」

 

 

「はあ?」

 

 

「仕事って事は…もしかして……」

 

 

「アタシが仕事の依頼人、ヒルダだよ。この寮の寮母をしてんだ」

 

 

そう…その老婆こそ、今回の問題となっている依頼書の主……ヒルダであった。

 

 

「寮母さんねぇ……」

 

 

「てか仕事とかやる気ないし…そもそも報酬なしって仕事になってないじゃん!!!」

 

 

「ひやかしかい?」

 

 

「ひやかしてんのはそっちでしょー!!!」

 

 

「落ち着きなさい、ルーシィ」

 

 

ヒルダに対して怒鳴るルーシィに、落ち着くように言うティアナ。

 

 

「申し訳ありませんがヒルダさん。私たちは仕事の依頼を引き受けに来た訳ではなく、受注されていない依頼書の確認の為にやって来たんです。ギルドへの正式な受注をされていない依頼は受ける事は出来ませんし、そもそも探し物ならば寮に住んでる人に頼めば……」

 

 

「それができんから……寮の娘以外の者に頼んでおるんじゃ」

 

 

「「?」」

 

 

ティアナの丁寧な説明に対し、溜息混じりにそう言うヒルダ。それを聞いて、ティアナとルーシィは首を傾げる。

 

 

「今回の仕事は寮の娘には絶対知られてはならん」

 

 

「どういう事?」

 

 

「やってくれるのかい?」

 

 

「まぁ、ここまで来て帰るのもあれですし…話ぐらいなら」

 

 

「ひやかしなら帰っとくれ」

 

 

「わかったわよ!! 手伝ってやります!!!」

 

 

ヒルダの挑発めいた言葉に乗せられ、そう言い放つルーシィ。

 

 

「ちょっとルーシィ……」

 

 

「いいじゃない、探し物くらいすぐ見つかるわよ!!」

 

 

「……はぁ、しょうがないわね」

 

 

完全に頭に血が上っているルーシィに溜息をつくティアナ。

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士に二言はないね?」

 

 

「探し物の手伝いでしょ? いいわよ!! それくらいっ」

 

 

「じゃあまずはこれに着替えて貰おうかい」

 

 

「何よソレー!!!」

 

 

そう言ってヒルダが取り出したのは露出度の高い、白と黒の二着のネコを模した服であった。

 

 

「ちょ…ちょっと待って!! こんなの着るなんて聞いてな……」

 

 

「いいから早く着替えんかい!!!」

 

 

「こ…ここではイヤーー!!!」

 

 

「誰も見とらんわい」

 

 

「きゃっ! ヒルダさんどこ触って…ひゃああ!!!」

 

 

2人の抗議の言葉を無視し、ヒルダはルーシィとティアナに服を着せに掛かった。

 

 

「あ…あの…」

 

 

「すごく恥ずかしいんですが……」

 

 

結局……ヒルダの手によってルーシィは黒のネコ服…ティアナは白のネコ服に強制的に着替えさせられた。

 

 

「語尾に『にゃー』をつけんかい!!!」

 

 

「……………」

 

 

「何か…意味……あるのか…にゃ?」

 

 

ヒルダの命令にティアナは心底嫌そうな顔をし、代わりにルーシィが語尾に「にゃー」をつけてヒルダヒルダに尋ねる。

 

しかしヒルダはしばらく黙ったまま口を閉ざし……

 

 

「やっぱ気持ち悪いのう」

 

 

と言った。

 

 

「「帰っていいかしら!!?」」

 

 

「おう…帰れ帰れ、一度引き受けた仕事もまともにこなせんようじゃ使えんわい」

 

 

怒鳴る2人に対して、しっしっと手を振りながらそう言うヒルダ。

 

 

「魔導士なんてやめちまえ」

 

 

さすがにそこまで言われては、このまま引き下がる引き下がる事は出来なくなった。

 

 

「あーもう!!! わかったわよ!! やればいいんでしょ!!?」

 

 

「やります!! やりますにゃー!!!」

 

 

「『にゃー』はもうええわい」

 

 

2人の承諾を得て、さっそくヒルダは仕事の話を始める。

 

 

「なーに仕事は簡単。どこに置いたか忘れちまった『光る宝』を探してほしいんだよ」

 

 

「光る宝?」

 

 

「この寮のどこかにあるハズなんじゃがな。それと……さっきも言ったが『光る宝』の事は寮の娘には絶対秘密にしとくれよ」

 

 

「ちょっと待ってください。光る宝って具体的には何なんですか?」

 

 

ティアナがもう少し詳しい話を聞こうとすると……

 

 

「あの…ルーシィさん?」

 

 

「ティアナさん…ですよね?」

 

 

「え? あら、ウェンディにキャロじゃない」

 

 

「それにシャルルも」

 

 

突然後ろから声をかけられ、振り向くとそこにはギルドの新人魔導士のウェンディとキャロ…そしてシャルルの姿があった。

 

 

「いつもの感じと違う服だから、お2人じゃないのかと思いました」

 

 

「よりによって、私の前でその格好? いい度胸ね」

 

 

「好きで着てんじゃないから……」

 

 

「えっと…お2人ともお似合いですよ?」

 

 

「キャロ……変なフォローはいらないわよ。それで、ウェンディたちはこの寮に何か用なの?」

 

 

そんな会話をしつつも、ウェンディたちにそう問い掛けるティアナ。

 

 

「私たち、今日からこの寮にお世話になる事になったんです」

 

 

「オイラはシャルルの引越しのお手伝いだよ!」

 

 

「アンタには頼んでないわよ」

 

 

どこからかひょっこり現れたハッピーにシャルルは冷たくそう言い放つ。

 

 

「ふーん、そうなの。てかハッピー、あんたオスでしょ? ここは男子禁制だから入れないわよ」

 

 

「オイラは男子じゃありません、ネコです」

 

 

「あはは……」

 

 

ハッピーの言葉に、キャロの苦笑いを筆頭にして全員が呆れる。すると……

 

 

「ルーシィにティアナか? こんな所に来るなんて珍しいな」

 

 

「エルザ!!!?」

 

 

女子寮の2階の部屋の窓から、エルザが顔を出した。

 

 

「もしかして、エルザってこの寮に住んでんの?」

 

 

「ああ…他にもレビィやビスカ…なのはにフェイト、それにジュビアがいる」

 

 

「へぇ~」

 

 

「結構色んな人が住んでるのね」

 

 

意外と知らない身近な人たちの住まいの発見に、そう声を漏らすルーシィとティアナ。

 

 

「おお…ウェンディとキャロ、それにシャルルか。今日からだったな?」

 

 

「「よろしくお願いします!!!」」

 

 

そう言ってエルザに元気な挨拶をするウェンディとキャロ。

 

 

「あの、ヒルダさん……ってあれ!!?」

 

 

「消えてるし!!!!」

 

 

ティアナとルーシィはふとヒルダの方に視線を戻すと、そこにはすでにヒルダの姿はなかった。

 

 

「ルーシィとティアナは何をしているんだ?」

 

 

「う…うん、ちょっと見学に」

 

 

「私はその付き添いです」

 

 

エルザの問い掛けに対して、2人は咄嗟にそう答える。

 

 

「だったら、私が案内しよう」

 

 

「本当?」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「入れ。ハッピーは、ウェンディたちを部屋に案内してくれ。2階の角部屋だ」

 

 

そう言うとエルザは窓から顔を引っ込めて、中へと戻って行った。

 

 

「あいさー!」

 

 

「よろしくお願いします」

 

 

「お願いね、ハッピーちゃん!」

 

 

「ま、頼んだわよ」

 

 

「ってかハッピー、もしかしてアンタ時々ここに来てるの?」

 

 

「あい。ネコですから」

 

 

「何よそれ……」

 

 

ハッピーの言葉に再び呆れる一同。

 

 

「(光る宝、探している事はみんなには秘密……よし!! がんばるぞ!!!)」

 

 

「(この変な格好には納得いかないけど……これも仕事だと割り切るしかないわね。ギルドの魔導士として、受けた仕事は必ず完遂させて見せるわ)」

 

 

成り行きで引き受けた仕事だが、ルーシィとティアナはやる気に満ちていたのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

一方その頃……妖精の尻尾(フェアリーテイル)のギルドでは……

 

 

「さっ! 張り切って掃除すんぞ!!!」

 

 

ワカバを筆頭にしたギルドの男性陣全員は、ギルドの裏側にあるプールを掃除していた。

 

 

「ちぇー…メンドクセェなぁ、こんなでかいプール作りやがって」

 

 

「まぁそう言うな、こいつのお陰で妖精の尻尾(フェアリーテイル)女子一同の水着姿が拝めるんだからな!!」

 

 

海パン姿でマフラーを頭に巻き、モップ片手に文句を言うナツに対し、そう説得するワカバ。

 

 

「あはは……まぁせっかくですから、楽しみながら掃除しましょうよ、ナツさん」

 

 

「こういう大きいプールは小マメに掃除しておかないと、すぐに藻とかが溜まっちゃうからね。ちゃんと清潔にしておかないと」

 

 

海パン姿のエリオとユーノも、掃除用具を持って準備に取り掛かっている。

 

 

「おーし、やるか!!」

 

 

そしてやる気を見せているグレイだが……

 

 

「つーか、テメェは何か履いて来いっての!!!」

 

 

「漢だ!!!」

 

 

「うおおっ!!?」

 

 

ナツの指摘により自分が素っ裸だと言う事に気づいたグレイは、慌てて海パンを取りに行った。

 

 

「おい、マカオとザフィーラはどうした?」

 

 

「ザフィーラはヴォルケンリッターの連中と仕事行ったよ」

 

 

「ハッピーもいないな」

 

 

「あいつ逃げたな!!!」

 

 

「あ、ハッピーならシャルルの引越しの手伝いをすると言って、ウェンディたちと一緒に女子寮に行きました」

 

 

「何!? ネコとはいえ堂々と女子寮に行くとは!! 漢にあるまじき行為!!!」

 

 

「まぁまぁ。そう言えば、エリオの住むところは決まってるの?」

 

 

「はい、僕はしばらくナツさんの家でお世話になることにしました!!」

 

 

「その代わり食費は自腹だけどな」

 

 

「そ…そういう所はちゃっかりしてるんだね、ナツ」

 

 

プール掃除組みがそんな会話をしているのと同じ頃……ギルドの屋根の上ではガジルとアルザックが手を金槌に変形させて屋根の修理をしていた。

 

 

「便利なものだな」

 

 

「新築して対して日が経ってねえのに、何で雨漏りすんだよ」

 

 

「誰のせいで新築するハメになったのかな?」

 

 

「テメェ!! 脳天に釘打ち付けんぞコラ!!!」

 

 

「釘を食うな釘を!!!」

 

 

怒鳴りながら修理用の釘を口に放り込むガジルにツッコミをいれると、アルザックはある事に気がついた。

 

 

「そう言えば、今日はルーテシアとアギトとは一緒じゃないんだな」

 

 

「あぁ、あいつらか。今日はこの間入った小娘どもの歓迎会をやるとか言って、ジュビアの奴に誘われて女子寮に行ったぜ」

 

 

「そうか。そういやあの2人って、新しく入った3人と同い年だったよな?」

 

 

「まぁな。これでルーテシアの奴も、少しでもオレから離れられりゃあいいんだがな……あいつはオレに依存し過ぎる。こんなオレになんか拘った所で、いい事なんかねぇんだがな」

 

 

「ガジル……」

 

 

そう言い放つガジルは……どことなく娘を見る父親のような顔をしていた。

 

そんなガジルに対し……アルザックはこう言い放った。

 

 

 

「お前……ロリコンだからあの2人と一緒にいたんじゃないんだな」

 

 

「テメェ本気で脳天に釘ぶち込むぞコラァ!!!」

 

 

 

屋根の上からは…ガジルの叫び声が響き渡ったのであった。

 

 

そしてその頃…マックスが店番をやっているグッズショップでは……

 

 

「今日も客は来ねーし…ヒマだなぁ」

 

 

最近客足が遠退いている為か、マックスはヒマを持て余していた。するとそこへ、マカオが声をかける。

 

 

「よう、最近フィギュアの売れ行きはどうだぁ?」

 

 

「ん? ルーシィとかミラとかエルザとか…それになのはとかフェイトとかのはよく出るけどねー…男子はイマイチだな」

 

 

「ほーう」

 

 

やはりフィギュアを売るなら男のものより、女のフィギュアの方がよく売れていくのは、どの世界でも同じようである。

 

 

「何か用か?」

 

 

「(気になる…オレのフィギュアがどんだけ売れてっか異様に気になる!!!)」

 

 

言葉には出さず、心の中でそう呟くマカオ。するとそんな彼に、ワカバが歩み寄る。

 

 

「おい!! 今日はプール掃除の日だぞ!! 海パン履いてとっととプールに来い!!!」

 

 

「うるせーなぁ…今大事な話が……」

 

 

「あぁ?」

 

 

首を傾げるワカバの目に、売られているフィギュアが留まり…それで全てを察した。

 

 

「どーせお前のフィギュアなんか一個も売れやしねーよ。早く来いや」

 

 

「うぐっ…」

 

 

「ってか、製造してねーんだけど…ね」

 

 

ワカバに図星を突かれ、さらにはマックスの畳み掛けるような言葉に…ワカバは本気でヘコんだのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「ここがロビーだ」

 

 

「キレイだねー」

 

 

「えぇ、よく掃除されてるわ」

 

 

その頃ルーシィとティアナは、エルザにフェアリーヒルズ内を案内して貰っていた。

 

しかしエルザは、2人の今の格好が気になるのか、ずっと凝視していた。

 

 

「あのさ……あたしたちの格好、つっ込んでもいいんだけど」

 

 

「ん? 2人とも似合ってるぞ。特にティアナは収穫祭の時よりも可愛くなったな」

 

 

「しまった……私はすでに披露済みか……」

 

 

収穫祭のミスフェアリーテイルコンテストの時にやったネコの格好を思い出し、顔を赤くする。

 

そしてそんな会話のあと…ルーシィとティアナはロビーを見回しながらヒソヒソと会話を始める。

 

 

「光る宝……やっぱりないわね」

 

 

「目に見えてたら探すのに苦労しないし……何より特徴が漠然とし過ぎてて、どんなものかイマイチピンっと来ないわ。意外と厄介ね、この仕事」

 

 

ヒソヒソと会話を終えたルーシィとティアナはふと、エルザへと視線を戻す。

 

 

しかしそこには、何故か2人と同じようなネコの服装へと換装したエルザの姿があった。

 

 

「──って何やってんの!!?」

 

 

「い…いや、流行なのかと思って……」

 

 

「違います!!!!」

 

 

そんな会話をしている3匹のネコ(笑)であった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「私たちの部屋、とっても日当たりがよくていい部屋だったね~」

 

 

「うん。それに凄く広いお部屋だったよね♪」

 

 

「で、アンタは何してんのよ?」

 

 

「オイラが寮の中を案内してあげるよ!!」

 

 

そう言うと、ハッピーはシャルルたちに寮の中の案内を始めた。

 

 

まず最初にやってきたのは、まるで銭湯のような大きい湯船がある浴場。

 

 

「ここは大浴場。各部屋にもシャワーはあるけど、湯船に浸かりたい時はここだよ」

 

 

「ひろーい!!」

 

 

「こんな大きなお風呂初めてー!!」

 

 

「中々いいじゃない」

 

 

次にやってきたのは何十…何百もの本が収納された本棚が並ぶ部屋。

 

 

「地下は資料部屋だよ。ギルドほどじゃないけど……寮生たちの仕事の記録なんかがあるんだ」

 

 

「住んでないのにやけに詳しいわね?」

 

 

「よく来てるからね」

 

 

シャルルの問い掛けに、ハッピーは何故か誇らしげにそう答えたのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「ここはレビィの部屋だ」

 

 

「あ!! ルーちゃんにティアナ!! 遊びに来たの?」

 

 

「うわ!! すごい本の数」

 

 

エルザに案内されてやって来たレビィの部屋は…何十冊もの本で埋め尽くされていた。それこそ、本棚に収まりきらず、床にはほとんど足の踏み場もないほどである。

 

 

「これ全部読んだの?」

 

 

「うん! これでも半分くらいは処分したんだよ」

 

 

「あっ!! この本!! 今はもう絶版されちゃった人気の小説じゃない!!! 私ずっと読みたくて探してたのよ。ねぇレビィ、今度貸してくれる?」

 

 

「いいよ!! 他にも読みたい本があったら何でも言ってね」

 

 

ティアナの頼みを、レビィは快く承諾する。

 

 

「私もたまに不要な本を貰っているんだ」

 

 

「エルザは、ちょっとHな本が好きみたい」

 

 

レビィがコソッとルーシィとティアナにそう耳打ちした瞬間……

 

 

 

ドガンッ!!!

 

 

 

「さ…次に行こうか」

 

 

「レビィちゃ~ん」

 

 

「口は禍の門……ね」

 

 

そう言って3人が立ち去った跡には……エルザによって壁に叩きつけられたレビィだけが取り残されたのであった。

 

 

その後…次に3人がやって来たのは……

 

 

「あれ、エルザ? それにルーシィにティアナまで……珍しいね」

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強の女魔導士候補の一人…フェイトの部屋であった。

 

 

「突然すまないな。2人が寮の見学に来たというので、案内しているんだ」

 

 

「それはいいけど……2人のその格好は?」

 

 

「うっ…改めてつっ込まれると、やっぱり恥ずかしいわね」

 

 

「確かに……」

 

 

フェイトにネコ姿をつっ込まれ、赤面するルーシィとティアナ。

 

 

「フェイトの部屋って、意外と物が少ないのね?」

 

 

「うん、私はほとんど仕事に行ってて部屋を空けてる事の方が多いからね」

 

 

ルーシィがフェイトの部屋を覗き込むと、中には机にベッド…それに小さな本棚など、必要最低限のモノしか置かれていなかった。

 

 

「でもフェイトさん、いくら空けてる事が多いからってここまで質素なのはどうかと思いますよ?」

 

 

「え? そ…そうかな?」

 

 

「そうですよ。例えばこの部屋に……フリードさんを招いた時にはどうするんですか?」

 

 

「えぇ!!? フ…フリードを!!?」

 

 

ティアナがそう言った瞬間…フェイトは顔が一瞬にして茹で上がる。

 

 

「あんまり部屋にものが無さ過ぎると、逆に気まずくなったり……ってあれ? フェイトさん?」

 

 

「そ…そんな……私とフリードはまだそんな関係じゃ…でも同じギルドの仲間としてなら来てくれるかも……でももしその時にフリードが迫ってきたら……ダ…ダメだよフリード!!! 私たちにはまだ早いよーー!!!!」

 

 

「「「……………」」」

 

 

顔を真っ赤にしながら変な世界へトリップしているフェイトを見て、若干引いた目でそれを見つめているエルザ、ルーシィ、ティアナの3人。

 

 

「次…行くか」

 

 

「うん」

 

 

「そうですね」

 

 

そんなフェイトをその場に残し…3人は次の部屋へと向かった。

 

 

因みにこれは余談だが、この日を境に質素だったフェイトの部屋に若干の小物が増えたのであった。

 

 

そして次に3人がやって来た部屋は……

 

 

「あっ! エルザさんにルーシィにティアナ、いらっしゃい」

 

 

「いらっしゃーい!!!」

 

 

フェイトと同じくギルド最強の女魔導士候補の一人であるなのはと…最近なのはが拾い預かっている記憶喪失の少女…ヴィヴィオが住んでいる部屋であった。

 

 

「ネコさんだー!!!」

 

 

ルーシィとティアナの格好を見て、すぐさま近くにいたルーシィに飛びつくヴィヴィオ。

 

 

「こんにちはーヴィヴィオ♪」

 

 

「こんにちわ!! ルーシィおねーちゃん!!!」

 

 

「ああ…ヴィヴィオ可愛い……あたしに妹がいたらこんな感じかしら?」

 

 

「だとしたら将来がとても心配ね」

 

 

そんなティアナの皮肉も通用しないほど、ルーシィはヴィヴィオに夢中であった。

 

 

「ルーシィおねーちゃん、みてみてー!」

 

 

「んー?」

 

 

そう言うと、ヴィヴィオはその小さな手で自分の金髪を弄くると……

 

 

「じゃーん!! ルーシィおねーちゃんのマネー!!!」

 

 

いつものルーシィの髪型と同じ、頭の横で髪を手で束ねて…嬉しそうにルーシィに見せていた。

 

 

「どうしようティアナ!!! ヴィヴィオが可愛すぎる!!!!」

 

 

「とりあえず落ち着きなさい。今のアンタ、かなりアブナイ顔してるわよ」

 

 

すっかりヴィヴィオにメロメロなルーシィに、本気で引いたティアナであった。

 

 

「にゃはは…ちょうどよかった、今から紅茶でも淹れようよ思ってたから、よかったら飲んでいく?」

 

 

「それはいいな、ぜひ頂こう」

 

 

そう言って部屋に入ってくエルザに着いて行くようにしてルーシィとティアナも部屋の中に足を踏み入れる。

 

 

「うわー…キレイな部屋」

 

 

「本当ね、埃一つないわ」

 

 

なのはの部屋はとてもキレイに片付いており、オシャレな小物も多く、まさに歳相応の女の子部屋という感じであった。

 

 

「まぁね、小マメに掃除してるし…仕事に行っている間は寮母さんが掃除してくれてるから」

 

 

「(へぇー…あのおばあちゃん、意外とそういう事はちゃんとするんだ)」

 

 

なのはの言葉を聞いて、ルーシィは内心でヒルダの事を評価した。

 

 

「はーい、紅茶淹れたよ♪ヴィヴィオにはキャラメルミルクね」

 

 

「わーい!!」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

なのはが淹れてくれた紅茶に、さっそく口をつけるルーシィたち。

 

 

「この紅茶…美味いな」

 

 

「でしょ? ジュビアちゃんに貰ったんだ~♪確か…なんとかグレイっていう紅茶」

 

 

「(でた…)」

 

 

「(やっぱりね)」

 

 

相変わらずのジュビアに、内心呆れながら紅茶をすするルーシィとティアナ。

 

 

「グレイと言えば……この間ヴィヴィオがグレイの事をパパって呼んだ時はビックリしたわね~」

 

 

「そうね…あれには本当に驚いたわ。ギルドのみんなも大騒ぎしてたしね」

 

 

「そう言えば、あの場を静めるのに夢中で結局グレイの事はうやむやになったんだったな。あの後のグレイの反応はどうだったんだ?」

 

 

「それが……グレイったらヴィヴィオがパパって呼ぶたびに『オレはパパじゃねーー!!』って言って逃げてっちゃうの」

 

 

「うわ、へタレだ」

 

 

「ヘタレね」

 

 

「ヘタレだな」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「ぶえっくし!!!」

 

 

「寒さに強いグレイがクシャミなんて珍しいね。風邪?」

 

 

「いや…誰かがオレの噂でもしてんじゃねえか?」

 

 

「もし風邪だったら気をつけなよ? 君はもう……一人のパパなんだからさ♪ぷくくっ」

 

 

「てめぇケンカ売ってんのかフェレット野郎!!! それにオレはパパじゃねえ!!!!」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「ここが私の部屋だ」

 

 

「「広!!!」」

 

 

なのはの部屋を後にしたルーシィとティアナがやって来たのはエルザの部屋。

 

その部屋は至る所に剣や鎧などが飾られており、そして今までの部屋の中でダントツに広く…現在ルーシィたちが立っている場所からでは、部屋の一番奥が霞んで見えてしまう程だ。

 

 

「物が増えすぎてな……5部屋借りて繋げさせてもらった」

 

 

「5部屋って事は……家賃50万!!?」

 

 

「さすがエルザさん……私たちとはスケールが違うわね」

 

 

あまりに大きいエルザのスケールに、ルーシィとティアナは舌を巻くしかなかった。

 

 

「すごい武器と鎧の数」

 

 

「魔法空間に入れて私が持ち運べる武具数にも限界がある。入りきらないものは全てここにあるんだ」

 

 

「いつも見てる天輪の鎧や黒羽の鎧も、こうして見るとほんの一部なのね……」

 

 

そう言って部屋に飾られているエルザの鎧の数々を眺めていくと、2人の目にあるものが飛び込んできた。

 

 

「あの……エルザさん…これって……」

 

 

「使い道あるの?」

 

 

そんな2人の目の前には……バレリーナのような衣装の股間部分からアヒルの顔が飛び出してきているという奇妙な服であった。

 

 

「ないな……いらんと言うのに、ナツから昔もらった物だ。ティアナ、欲しければやるぞ」

 

 

「いりませんよ!!! っていうかあのバカは女子に対してなんてもの渡してんのよ!!!!」

 

 

そう言いながらティアナは今この場にいないナツに対して怒りを向ける。

 

 

「ところで、ウェンディたちの歓迎会を兼ねて、これからみんなで湖に泳ぎに行くんだが…2人も一緒にどうだ?」

 

 

「あー…あたしたち水着持って来てないし……」

 

 

「もう少し寮の中を見学させてください」

 

 

「そうか? 残念だな、疲れたら私の部屋で休んでるといい」

 

 

「うん」

 

 

「楽しんできてください」

 

 

そう言うと、ルーシィとティアナはエルザとその場で別れたのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

一方その頃…プール掃除組みはというと……

 

 

 

「燃えてきたろ? 今までに味わったことの無いプールだろぉ?」

 

 

「ナイスアイデアだな!」

 

 

「漢はやっぱり温泉だ!!」

 

 

水を張ったプールの中からナツがプールの水を熱し、まるで風呂のようなプールにしていた。

 

 

「ったく…暑苦しい奴め。プールと言えばこうだろ!!」

 

 

「冷たっ!!」

 

 

「これはプールというより、もう氷そのものだね」

 

 

「ひゃーはっは!! こりゃあいいや!!」

 

 

対するグレイは自慢の氷魔法でプールの水をこれでもかという程冷やしていた。冷やしすぎて中に入っていたマックスは氷付けになっていたが……

 

 

「でしたら、こういったプールはどうでしょう?」

 

 

「おおっ! プールの中に流れる電気が体のツボを刺激してるぜ」

 

 

「こりゃあ肩こりに効くぜ」

 

 

そしてもう一方のプールでは、エリオが中から微量の電気を流して電気プールにしており、そのプールは特にマカオやワカバなど年配魔導士に好評であった。

 

 

「プール掃除はどうなったんだ?」

 

 

「イカレてるぜ」

 

 

「いいんじゃない? 少しくらい息抜きもしないとね♪」

 

 

その様子を海パンに着替えたガジルとアルザックが呆れた表情で眺めており、そんな2人に水着姿で日光浴をしているミラがそう言った。

 

 

「ん? なんだこの穴?」

 

 

すると、ナツがプールの底にある奇妙な穴を見つけた。

 

 

「ガラスはめ込んであんぞ?」

 

 

「の…覗き穴!!? 漢にあるまじき行為!!!」

 

 

どうやらその穴は、プールの中を覗けるようにしたものらしい。

 

 

「どうやら下には部屋まであるようだね」

 

 

「でも、覗くって何を覗くんですか?」

 

 

「そりゃあお前、女子一同の水着姿だろうがよ!!」

 

 

エリオの疑問にワカバがそう答える。

 

 

「そんなの何が楽しいんだ?」

 

 

「イカレてるぜ」

 

 

「とにかく、この下の部屋を調べてみようよ。犯人が分かるかもしれないよ」

 

 

ユーノの提案により、男性陣は覗き穴に通じている部屋へと向かったのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

その頃…フェアリーヒルズの裏側にある湖では、女子寮の寮生たちがウェンディたちの歓迎会として湖で遊びまわっていた。

 

中には先ほどルーシィとティアナが訪れた部屋の住人以外…ジュビア、ビスカ、エバーグリーンの3人…そしてジュビアの誘いで参加しているルーテシアとアギトの姿もあった。

 

女子たちはビーチバレーをしたり浜辺を走り回ったりと、湖での遊びを大いに堪能していた。

 

 

「いつも言ってますけど、水泳はジュビアにはつまらないですわ」

 

 

「まぁまぁジュビアちゃん♪こうやって大勢で遊んだ方が楽しいじゃない?」

 

 

「たのしーよ!! ジュビアおねーちゃん!!」

 

 

水遊びで唯一つまらなさそうにしてるジュビアになのはとヴィヴィオがそう言う。

 

 

「行っくよー!!」

 

 

「おっしゃあ!! ルールー、アタックだ!!」

 

 

「ん」

 

 

「フェイト!! ブロック!!」

 

 

「任せて!!」

 

 

こちらではレビィ&フェイト対ルーテシア&アギトのビーチバレーが繰り広げられていた。本来は女子寮組みではないルーテシアとアギトもそれなりに楽しんでいるようである。

 

 

「楽しいねキャロちゃん♪」

 

 

「うん!!」

 

 

「キュクー」

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)もフェアリーヒルズも、どっちも楽しいぞ」

 

 

みんなが遊んでいる光景を見て、心の底から楽しそうな笑顔を浮かべるウェンディとキャロに、エルザが笑顔でそう言う。

 

 

「フン…みんなガキね」

 

 

「お待たせいたしました」

 

 

そう言ってビーチパラソルの下で日光浴をしているシャルルに、何故かボーイの服を着たハッピーが飲み物を運んできた。

 

 

「あら? オスネコのくせに気が利くのね」

 

 

「女子寮のみなさんにそう言われます」

 

 

一体どれほど女子寮に入り込んでいるのだろうか……

 

 

「みなさん!! それでは例の奴いきますよー!!!」

 

 

すると、突然ハッピーはボーイ服を脱ぎ捨てて高らかにそう宣言した。

 

 

「「???」」

 

 

当然、新人メンバーであるウェンディとキャロには何の事だかわからない。

 

 

 

「フェアリーヒルズ名物!!『恋のバカ騒ぎ』!!!」

 

 

 

すると次の瞬間には、どこから持ってきたのかモニターと雛壇が用意されており、ハッピーは司会者席に…新人以外の女子メンバーは雛壇に着席していた。

 

 

「ガジル」

 

 

「グレイ様」

 

 

「早過ぎ!!」

 

 

始まってすぐ意中の人を告げるルーテシアとジュビアにツッコミを入れるハッピー。

 

 

「2人とも、まだ今日のお題が出てないぞ」

 

 

「今日のお題は『あなたが妖精の尻尾(フェアリーテイル)の中で彼氏にしてもいいのは誰?』です」

 

 

「グレイ様。以上」

 

 

「ジュビア、それじゃつまんないよ。他の人!」

 

 

お題を出してまたもや即答するジュビアにそう言うと、ハッピーは他の人を指名する。

 

 

「エルザは?」

 

 

「いないな」

 

 

「にべもないね。他の人」

 

 

「お題に無理があんじゃねえか? ジュビアとルールーはともかく、他の奴にそんな人いんのか?」

 

 

そう言ってお題に対して異論を唱えるアギト。

 

 

「レビィはどうなの?」

 

 

「私!!?」

 

 

「例えばジェットとか、ドロイとか……三角関係の噂もあるしね」

 

 

「冗談!! チーム内での恋愛はご法度よっ!!! 仕事にも差し支えるもん!!!」

 

 

そう言ってバッサリと切り捨てるレビィ。どうやら同じチームの2人は眼中に無いようである。

 

 

「三角関係と言えば、なのはとジュビアはどうなの?」

 

 

「私と…」

 

 

「ジュビアですか?」

 

 

レビィの問い掛けに対して首を傾げるなのはとジュビア。

 

 

「ほら、2人とも同じ人を好きな割には小説とかで見るようなドロドロした関係にはなってないじゃない?」

 

 

「にゃはは…レビィちゃん、皆がみんなそう言う風になるって訳じゃないんだよ?」

 

 

「そうです、ジュビアとなのはさんは恋敵である前に大切なお友達ですから」

 

 

「「ねー♪」」

 

 

そう言って本当に仲が良さそうに笑いあうなのはとジュビア。

 

 

「ほんと…なのはのああいう所はいくつになっても変わらないね」

 

 

「ああ……なのはは昔から、誰とでもすぐ友達になってしまうからな」

 

 

そんな2人を見て、フェイトとエルザは微笑ましいものを見るような表情になる。

 

 

「そう言えばフェイトは、フリードの奴とはうまくいっているのか?」

 

 

「わわっ!! エルザ!!! それ内緒だよ!!!」

 

 

エルザに自分の意中の人をバラされ、慌てて止めようとするフェイトだが……

 

 

「え? みんな知ってるよ?」

 

 

「「「うんうん」」」

 

 

「あう~…」

 

 

すでにその場にいる全員には知れ渡っていたようで、それを知ったフェイトは顔を真っ赤にして俯いてしまう。

 

 

「すまん、うっかりしていた…仲間だというのに……私のせいだ、取り合えず殴ってくれないか?」

 

 

「う…ううん、大丈夫! 大丈夫だから!!」

 

 

大袈裟にそう言うエルザを苦笑いで宥めるフェイト。

 

 

「んじゃあルーテシアは? ガジルとの出会いとか」

 

 

「あっ、それ気になる!!」

 

 

ハッピーが振ったルーテシアの話題にレビィが食いつき、他のメンバーも興味津々といった感じで彼女に視線を移す。

 

 

「私とガジルが出会ったのは……闇ギルドの違法魔法の研究所」

 

 

「「「……はい?」」」

 

 

ルーテシアがさらりと言ったとんでもない場所に、目を丸くする面々。

 

 

「生まれた頃から高い魔力を持っていた私は闇ギルドに誘拐されて…研究所に連れられて…毎日実験台として扱われて…それから……」

 

 

「ストップ!! ストーップ!!! ルールー!! 今その話は重たすぎる!!!」

 

 

淡々と語るルーテシアの話に全員が気まずい顔をし、それをアギトが慌ててストップをかけて止めた。

 

 

「ま、まぁとにかく!! そんなルールーが捕まってた闇ギルドの研究所を偶然ガジルが破壊したってだけの話だから!!!」

 

 

「そ…そうなんだー!!」

 

 

「つまりルーテシアにとっては、ガジルは囚われの姫を助けに来た王子様みたいなものなんだね!!」

 

 

「うむ、あいつも中々いい所があるな!!!」

 

 

アギトの慌てたような説明に合わせ、なのはとレビィとエルザが一気に捲くし立てて、この話題を終了させた。

 

 

「じゃ…じゃあ気を取り直して!! ルーシィはどう?」

 

 

次の話題に上がったのは、今この場にはいないルーシィの意中の人。

 

 

「ジュビアはロキだと」

 

 

「そう言えばこの間の討伐作戦の時に、青い天馬(ブルーペガサス)のヒビキって人に優しくしてもらったってルーシィから聞いたよ」

 

 

「でもルーちゃん、自分で書いた小説をユーノさんに褒められてすっごく喜んでたよ!!」

 

 

上からジュビア、なのは、レビィの順で自分の予想を口にする。

 

 

「それじゃあ今度は…ティアナはどう?」

 

 

そして次の話題は、同じくこの場にはいないティアナの話だが……

 

 

「これは話し合うまでもないんじゃないかな?」

 

 

「うん、どう考えてもナツでしょ」

 

 

「ジュビアもそう思います」

 

 

「やっぱりみんなそう思うよね?」

 

 

「愚問だな」

 

 

「見てたら分かるよなー」

 

 

「…………(コクコク)」

 

 

満場一致でティアナの意中の相手はナツに確定されたのであった。

 

 

一方…そんな彼女たちの話し合いを少し離れた所から眺めているウェンディとキャロとシャルル。

 

 

「いつもこんな事してるんだ」

 

 

「楽しそうだね」

 

 

「相当バカっぽいけど、魔導士の仕事はストレスかかるみたいだから、息抜きしてんでしょ」

 

 

「キュクー」

 

 

楽しそうに話す彼女たちを見て、ウェンディたちも自然と笑顔になる。

 

 

「ってか、アンタたちも次からアレに参加するんでしょ?」

 

 

「「えっ?」」

 

 

「ま、アンタたちの意中の相手はどうせエリオだろうけど」

 

 

「キュクキュク」

 

 

「「シャルル(ちゃん)!!! それは言わない約束!!!」」

 

 

そんなウェンディとキャロの叫び声が、浜辺に響いたのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

その頃ルーシィとティアナは、未だに光る宝のありかを探し回っていた。

 

 

「見つからないわね」

 

 

「うん。『光る宝』か……どこにあるんだろ?」

 

 

「まだ見つからんのかい?」

 

 

「あんたも探せば?」

 

 

「っていうかヒルダさん、いつの間に?」

 

 

先ほどまでいなかったハズなのに突然ぬっと出てきたヒルダにそう言い放つルーシィに、少なからず驚いているティアナ。

 

 

「ヒルダさん、光る宝というのは具体的に何なんですか?」

 

 

「それは見つけてのお楽しみ~♪」

 

 

「憎ったらしい~~」

 

 

小バカにしたようなヒルダの態度に、頭に怒りマークを浮かべるルーシィ。

 

 

「せめてどの辺でなくしたら思い出せないの?」

 

 

「う~ん……何か『暗い所』だったような……」

 

 

「暗い所? 暗い所と言えば……」

 

 

ヒルダの言葉を聞いて、ティアナはふと天上を見上げる。

 

 

「もしかして、屋根裏部屋じゃないの?」

 

 

「それだわっ!!!」

 

 

「おお!!! そこかも!!!」

 

 

光る宝のありかは屋根裏部屋ではないかと推測するティアナたち。

 

 

「行きましょ!!!」

 

 

「はう~腰がぁ~」

 

 

「うざ……」

 

 

さっそく屋根裏部屋に向かおうとするルーシィだが、わざとらしく腰の痛みを訴えるヒルダに軽くイラっとする。

 

 

「もう放っときなさい!! 行くわよルーシィ!!!」

 

 

「うん!!!」

 

 

「頼んだぞ~~」

 

 

ヒルダに見送られて、ティアナとルーシィは屋根裏部屋へと向かったのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「どうやらここが覗き部屋みたいだね」

 

 

「ぬおおお!! 許せん!!!」

 

 

「で? 犯人は誰なんだよ?」

 

 

「スゲーなぁ! 色んな角度で拝めるぜ!!」

 

 

一方ナツたちは、プールの底で発見した覗き穴に通じている部屋へとやって来ていた。

 

 

「くっだんねーなぁ、そろそろ本気で掃除すっかぁ」

 

 

「くだらねえって事はねえよなぁ、エリオ」

 

 

「ぼ…僕からはノーコメントで」

 

 

マカオの問い掛けに対して顔を真っ赤にしながらそう答えるエリオ。

 

 

「おおっ!? 誰かプールに入ったぞ!!! おぐあっ」

 

 

ワカバがそう言うと同時に、ナツがワカバを押し退けて覗き穴を覗き込む。

 

 

「興味ねえなら覗くなっての」

 

 

「イカレてるぜ」

 

 

そんなナツを呆れた目で見ているグレイとガジル。

 

 

「んー……」

 

 

「ナツ、誰が見えるの?」

 

 

「泡ばっかでよくわかんねえぞ。おおっ!!?」

 

 

「どけよ」

 

 

ユーノの問いに答えながらナツが何かに気がついたと同時に、今度はグレイがナツを押し退けて覗き込む。

 

 

「誰だ?」

 

 

プールの中に人影は確認できるのだが、それが誰なのかまでは特定できない。それでもグレイはよく目を凝らして見続け、ようやくそれが誰なのか判明する。

 

 

「げっ!!?」

 

 

「誰だ?」

 

 

「見てみろよ…」

 

 

グレイは顔をしかめながら再びナツに交代する。

 

 

「んー…なんだ、じっちゃんか!」

 

 

その人影の正体は…ギルドマスターのマカロフであった。

 

 

『!!』

 

 

すると、覗き穴から誰かに覗かれていると気づいたマカロフは、慌てたように水中で暴れ始める。

 

 

「じっちゃん何であんなに慌ててんだ?」

 

 

「動揺してるって事はよ……」

 

 

「この覗き部屋の犯人って、マスターって事ですよね?」

 

 

ナツからマカロフが慌てていると聞いて、ガジルとエリオは覗き穴の犯人がマカロフだと断定する。

 

 

「んげっ!!?」

 

 

すると、覗き穴を覗いていたナツの目にあるものが映る。

 

 

それは……水中に浮かぶマカロフが履いていた水着であった。

 

 

「おいどうした? ナツ?」

 

 

「ナツさん?」

 

 

そうとも知らないグレイとエリオはナツに話しかけるが……

 

 

「ぎ…ぎ…ぎゃあああああ!!!! 目がぁぁああああ!!!!」

 

 

突然ナツは目を押さえながら悲鳴を上げ、口から炎を吹き出し始めた。

 

 

「熱っ!! ちょっ、ナツ!!! こんな密室で火を噴かないでよ!!!」

 

 

それにより部屋にいたメンバーたちはパニックに陥る。

 

 

「見ちゃいけねーモンを見たーー!!!」

 

 

「だから何がだよ!!? ったく……」

 

 

そんなナツを殴り飛ばして、今度はグレイが覗き穴を覗き込むが……

 

 

「うごっ!!?」

 

 

水中にいるナツと同じモノを目撃してしまい……

 

 

「ぐあああああ!!! 目がぁぁあああ!!!!」

 

 

ナツと同じく目を押さえながら悲鳴を上げ、無意識に氷を造りだしながら取り乱すグレイ。

 

それによって、部屋にいたメンバーの何人かが氷付けになる。

 

 

「一体…何が見えるんですか?」

 

 

あのナツとグレイがここまで苦しんでいるのを見たエリオは、興味本位で覗き穴を覗く。

 

 

「えっと……ひぃっ!!!」

 

 

そして水中のアレを目撃し……

 

 

「うわあああああ!!! 目がぁああああ!!!」

 

 

やはり目を押さえながら悲鳴を上げ、体中から電撃を放出しながら苦しむエリオ。

 

 

「だから何だってんだよ?」

 

 

そう言って、今度はガジルが覗き込む。

 

 

『いや~ん!』

 

 

そして目に映ったのは、水中で素っ裸のマカロフ。

 

 

「目…が……」

 

 

それを見たガジルは3人のように取り乱す事はなかったが、自身の目を鉄のシャッターで閉じた。

 

 

「「「うああああああああああ!!!!!」」」

 

 

両目を押さえながら苦しみ、炎・氷・雷を放出しているナツとグレイとエリオ。

 

 

「炎に氷に雷……えっと、氷は炎で溶けて水になって…その水が雷によって電気分解されて水素と酸素になり…そこへさらに炎が来ると……!! マズイ!!! みんな今すぐ逃げ──」

 

 

ユーノが慌てた口調でそう言いかけたその時……

 

 

 

 

 

ドガァァァァァアアアアン!!!!

 

 

 

 

 

3人の魔法によって部屋は大爆発を起こし……その上にあったプールまでもが吹き飛んでしまった。

 

 

「「「サ…サイテーだ……」」」

 

 

「もう、ダメでしょマスター! 怒りますよ?」

 

 

「しゅみましぇ~ん……」

 

 

そして後に残ったのは……死屍累々と転がる男性陣と、ミラに注意されているマカロフだけであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

ギルドのプールでそんな事があった頃……ルーシィとティアナは屋根裏の狭い通路を取って屋根裏部屋へと向かっていた。

 

 

「ルーシィ、何かあった?」

 

 

通路の関係上、ティアナはルーシィの後ろを追いかけている形になっている。そのため前の様子は見る事が出来ないので、ルーシィにそう尋ねる。

 

 

「ちょっと待って……あの扉かしら?」

 

 

ルーシィは目的地の屋根裏部屋と思われる扉を発見する。

 

 

そしてルーシィはゆっくりとその扉を開けると、その部屋の奥には、眩い光を放っている何かがあった。

 

 

「光る…宝!!!」

 

 

「見つけたの!!?」

 

 

「うん!!! これだわ!!! 間違いない!!! すっごい輝……き!?」

 

 

しかし、ルーシィが見つけたのは床に空いている穴であり、光の正体はその下の部屋から漏れている明かりであった。

 

そしてルーシィはその穴を覗き込んだ瞬間…言葉を失った。

 

 

「ルーシィ? どうしたの?」

 

 

「……口で説明するより見てもらった方が早いわね」

 

 

そう言うと、ルーシィは部屋の奥へと進み、ティアナが入れるスペースを作る。

 

 

「? なにこれ? 穴?」

 

 

「覗いてみて」

 

 

「?」

 

 

ルーシィに言われるがまま床の穴を覗き込むティアナ。そこから見えていたものは……

 

 

 

『やはり、水遊びの後はこれに限るな』

 

 

『うん、気持ちいいよね~』

 

 

『あれ? ジュビアちゃんどうしたの?』

 

 

『ジュビアおねーちゃん、なんでお体かくしてるのー?』

 

 

『ジュビアはお部屋で入りたい…恥ずかしいから……』

 

 

『女同士で何言ってんだよ?』

 

 

『ルーちゃんも誘えばよかったね』

 

 

『一応誘ったのだがな…』

 

 

 

何と……エルザを初めとしたギルドの女魔導士たちが、寮の大浴場で入浴している光景が広がっていた。

 

 

「まさか宝って……」

 

 

「確かに男子にとってはそうかもしれないケド……」

 

 

「サイテーね」

 

 

まさかの宝の正体に、ルーシィもティアナも怒りマークを浮かべる。

 

 

「ヒルダさん…いえ、あのばーさん……中々面白い事してくれるわね……」

 

 

「許すまじ!!!」

 

 

ヒルダに対して天上を見上げながらそう怒りの声をあげるルーシィ。

 

 

「!」

 

 

「? どうしたの?」

 

 

「見て、天上に何か……」

 

 

すると、ルーシィが何かに気づき、彼女が指差すまま天上を見てみると……そこには一枚の紙が貼り付けられていた。

 

 

「地図……いえ、寮の見取り図ね!!」

 

 

その紙は女子寮の見取り図であり、そしてその見取り図には、床の穴から漏れている一筋の光が差し込んでいた。

 

 

「床の光がピンポイントで寮の裏庭を指している…という事は!!!」

 

 

「ここに本当の宝が!!!」

 

 

ゴッ!!

 

 

「「痛っ」」

 

 

そう言って勢いよく立ち上がろうとするルーシィとティアナだが、ここが屋根裏部屋という事を忘れ、2人仲良く天上に頭を打ちつけていた。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

その後…ティアナとルーシィは大急ぎで寮の裏庭へと向かった。

 

 

「寮の裏庭…大きな木があって……」

 

 

「そこに一日中〝影〟ができている『暗い』場所!!」

 

 

そして裏庭に到着した2人は、すぐさま条件に当てはまる地面を掘り起こす。そして……

 

 

 

「「あった!!!」」

 

 

 

2人はついに本当の宝である、キレイな小箱を発見した。

 

 

「やったー!!! おばーちゃん!!! 見つけたよー!!!」

 

 

「ヒルダさーん!!! 依頼完了しましたー!!!」

 

 

「おばーちゃーん!」

 

 

「ヒルダさーん!」

 

 

宝を発見した2人はすぐさま大声でヒルダを呼ぶが、ヒルダがその場に現れる事はなかった。

 

 

「どうした? ルーシィにティアナ、騒がしいな」

 

 

すると、2人の声を聞いてヒルダではなくエルザが駆けつける。

 

 

「エルザ!! 寮母のおばーちゃん知らない?」

 

 

「!?」

 

 

2人の言葉を聞いた瞬間、エルザの表情が驚愕に染まる。

 

 

「ヒルダさんっていう方なんですけど、少し届け物があって」

 

 

「ヒルダおばあちゃん? ど……どういう事だ!?」

 

 

「どういう事も何も、秘密の探し物を届けなきゃ」

 

 

「お前たちは何を言っているんだ!!!」

 

 

「え?」

 

 

「エルザさん?」

 

 

何故エルザが怒鳴っているのかがわからないティアナとルーシィは小首を傾げる。

 

 

「ルーシィ…ティアナ…ヒルダおばあちゃんはな……」

 

 

そしてエルザは……震える声でこう告げた。

 

 

 

 

 

「6年前に亡くなっている」

 

 

 

 

 

それを聞いた瞬間……ルーシィとティアナは目を見開く。

 

 

「う…そ? だ…だってあたしたち…」

 

 

「6年前…シロツメに買い物に行った帰りだ……馬車が崖から転落してな」

 

 

「で…でも!! なのはさんが部屋は時々寮母さんが掃除してくれてるって……」

 

 

「それは今のフェアリーヒルズの寮母…アイナさんの事だ」

 

 

エルザの言葉を聞いて、では自分たちが出会ったヒルダは何だったのかと困惑するティアナとルーシィ。すると、ルーシィが抱えてる小箱がエルザの目に留まる。

 

 

「その箱は?」

 

 

「あ…あたしたち……おばーちゃんに会ったの!!」

 

 

「それで…この箱を探して欲しいと…依頼を頼まれて……」

 

 

「何だと? 中身は!?」

 

 

「それはまだ…」

 

 

「開けてみるね!」

 

 

そう言って大急ぎで小箱を開けるルーシィ。するとそこに入っていたのは……

 

 

キラキラと光り輝く…何十個ものキレイな宝石であった。

 

 

「これは…宝石?」

 

 

「キレイ…」

 

 

輝く宝石に見惚れるティアナとルーシィ。しかしエルザは、信じられない物を見るような目で、口元を手で押さえていた。

 

 

「エルザ?」

 

 

「どうかしたんですか?」

 

 

そんなエルザに2人が声を掛けると、エルザはポツポツと語り始めた。

 

 

「ヒルダおばあちゃんはな……ガンコで、口うるさくて、憎まれ口ばかりたたくおばあちゃんだった。しかし誰よりも私たち寮生を気遣い、私たちが危険な仕事に行くのを辛そうにしていた」

 

 

『魔導士なんてやめちまえ』

 

 

「それがおばあちゃんの口癖だった。本心かどうかは、今となってはわからぬがな」

 

 

「「……………」」

 

 

それを聞いた2人は、昼間ヒルダに言われたあの言葉は……もしかしたら寮生たちに危険な事をして欲しくないという願いだったのではないかと思った。

 

 

「ある日、おばあちゃんは私たちにオモチャの宝石を買ってきてくれたんだ。そんな事は初めての事だったからな、みんな…すごく嬉しそうだった。

 

だが、全員に配るにはオモチャの宝石は一人分足りなかったんだ。あの時のおばあちゃんは、珍しくオロオロしててな……周りの子たちも変な空気になってしまって…私は場を鎮めたかったんだろうな」

 

 

『私には似合わん。遠慮する、みんなで分けてくれ』

 

 

「つい心にもない事を言ってしまったんだ。

 

本当はすごく欲しかった。大好きなおばあちゃんからの、初めてのプレゼントのハズだった。

 

その夜、おばあちゃんが私の部屋に来てな……」

 

 

 

『お前は将来いい女になるよ。きっと宝石の似合う美人になる』

 

 

 

「初めて見るおばあちゃんの笑顔にドキドキしたんだ」

 

 

『大人になったらアタシの宝石をあげるよ。本物の宝石だよ、全部あげる』

 

 

『わ…私はもう大人だ…』

 

 

『まだまだ…もう少し背が伸びて、胸も大きくなって。そしたらきっと、猫のお姫様がたくさんの宝石を運んできてくれるよ』

 

 

『猫のお姫様なんていないよ、子供扱いしすぎ』

 

 

『『アハハハ』』

 

 

「おばあちゃんが亡くなったのは、その次の日だ」

 

 

ヒルダとの思い出を語り終えたエルザの目からは大粒の涙が溢れ出しており、滴り落ちる涙が宝石を濡らす。

 

 

 

「あれから6年……あなたはずっと私たちを、見守ってくれていたんだな……」

 

 

 

涙ながらにそう言うエルザに、ティアナとルーシィも釣られて目元に涙を浮かべる。

 

 

「この宝石は、寮のみんなで分けよう」

 

 

「そうだね、それがいいと思う」

 

 

「ヒルダさんからの贈り物……きっとみんな喜んでくれますよ」

 

 

「これはお前たちの分だ」

 

 

「「え?」」

 

 

そう言って、エルザはティアナとルーシィの手に一つずつ宝石を乗せた。

 

 

「い…いらないってーー!!」

 

 

「そうですよ!! 私たちにこれを貰う権利なんて……」

 

 

「何を言っている。宝石を運ぶ猫のお姫様じゃないか」

 

 

「「!!」」

 

 

自分たちの格好を見て、何故こんな格好を強要されたのかようやく理解する事ができた。

 

そう……2人の格好はまさに、先ほどの話に出てきた猫のお姫様であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人の思いは繋がる。

 

 

時を越えて…愛する人のもとへ。

 

 

それを感じる事ができた。

 

 

2人への報酬は、それだけで十分であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。