ついに
そしてナツとティアナの目の前には、力尽きて倒れているゼロの姿があった。
「やったな……」
「ええ……」
そう言ってナツとティアナはお互いに笑いあった。
「(やはり……期待以上の二人だった……)」
そんな二人を、気がついたジェラールが微笑みながら眺めていた。すると……
ガラガラガラ!!!
「ぐおっ!」
「きゃあっ!」
「ナツ!!! ティアナ!!!」
すると、ナツとティアナは体力と魔力が尽きたのか、フラフラと体を動かしたあと力無く倒れる。さらに、動力源を失ったニルヴァーナ全体が崩壊し、部屋には落石が降り始めた。
そしてそれは……
「きゃああっ!」
「うわああ!」
必死に落石を避けながら逃げ回るルーシィとハッピー。
「やべーぞこりゃ…」
降り注ぐ落石を見て毒づくグレイ。
「急いで脱出しないと…ウィングロード!!!」
ウィングロードを展開し、マッハキャリバーの機動力を駆使して落石の中脱出を試みるスバル。
「くっ!」
振ってくる落石を間一髪で避けながら出口へと向かうエルザ。
「メエーン!」
落石が頭に直撃し、妙な悲鳴を上げる一夜。しかもその姿は〝力の
「シャルル!」
「ウェンディ、こっちよ!!」
シャルルに先導されながら、落石が降り注ぐ中を走るウェンディ。
「きゃあっ!」
すると、足元の岩に躓いたのか、ウェンディはその場で転んでしまう。
「ウェンディ!!」
しかもそんなウェンディの頭上から複数の落石がガラガラと音を立てて振ってくる。
もうダメかと思われたその時、間一髪で復活していたジュラが岩鉄壁で落石を防ぎながらウェンディとシャルルを救出した。
「ジュラさん!!」
そしてジュラはそのままウェンディとシャルルを抱えたまま、脱出していった。
「おおおおおっ!!!」
持ち前の電光石火のようなスピードを活かして落石を回避しながら通路を走るエリオ。
「出口だっ!!」
すると目の前に外へ通じると思われる穴を見つけ、エリオはそこへ向かって一気に通路を走り抜ける。
「うおおおおっ!!!」
そしてエリオは叫び声を上げながら、穴を通ってニルヴァーナの外へと飛び出し、脱出に成功した。しかし……
「う…うわぁぁああ!!!」
脱出したのはいいが、飛び出した飛距離が足りずに落下していくエリオ。しかも落下地点には瓦礫の山があり、そこへ落ちればただでは済まないだろう。
「……!!」
エリオが覚悟して目を閉じたその時……
「エリオくーーん!!!」
誰かがエリオの名を叫び、そして落下している彼の手を掴んだ。
「キャロ!!! それにフリード!!!」
その人物とは……コブラの毒から復活したフリードと、そのフリードの背中に跨ったキャロであった。
第七十一話
『緋色の空』
「みんな無事か!?」
その後、脱出に成功したグレイは他の面々が無事か確認を取る。
「なんとかー」
「ぷはー」
「あぎゅー」
そのすぐ近くにはギリギリ脱出に成功し、グッタリとしているスバルとルーシィとハッピーがいた。
「エルザさ~ん! よかったぁ」
「な…何だその体は!?」
頭にタンコブを作りながらも脱出し、エルザに駆け寄る一夜と、そんな一夜のマッチョ姿に軽く引いているエルザ。
「みなさーん!!」
「ご無事ですかー!?」
そこへ脱出に成功したエリオとキャロが合流する。
「ナツさんは!!?」
「見当たらんな」
「ジェラールもいない!!」
「ティアナって女もいないわね」
ジュラの助けによって脱出できたウェンディとシャルルは、ナツとティアナとジェラールを探して周囲を見渡すが、そこに彼ら3人の姿はなかった。
「ナツ…ティア……」
「あのクソ炎、何してやがんだ!」
「(ナツ…ティアナ…ジェラール……何をしている…)」
全員がナツたちの安否をしていると……
ボヨン
「ん」
「ひっ!」
突然ルーシィとハッピーがいた足場が盛り上がる。そしてそこから穴を開けて現れたのは……
「愛は仲間を救う…デスネ」
「んあ?」
「んん?」
ナツとティアナ…そしてジェラールを抱えたリチャードであった。
「ナツさん!!!」
「ティア!!!!」
「
「色々あってな…大丈夫……味方だ」
ナツとティアナの無事を喜ぶウェンディとスバル。そして頭に疑問符を浮かべているシャルルに、ジュラが簡単に説明する。
「「「ナツさん!!!!」」」
「うお」
そんなナツに向かって、ウェンディとエリオとキャロの3人が飛びつく。
「本当に、約束守ってくれた……」
「僕たちのギルドを…守ってくれた……」
「本当に…ありがとうございます……」
ナツに抱きつき、涙を流しながらお礼の言葉を言う3人に、ナツはニッと笑いかける。
「みんなの力があったからだろ? ウェンディたちの力もな。今度は元気よくハイタッチだ」
「「「はい!!!」」」
パァァン!!!
そして3人は、ナツの言った通り……元気のいいハイタッチを交わしたのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「全員無事で何よりだね」
「みんな……本当によくやった」
「これにて作戦終了ですな」
「あとは各ギルドのマスターに連絡すれば、任務完了ですね」
「それと、クリスティーナに乗ってた人たちの無事も確認しないとね。ギン姉、大丈夫だといいんだけど」
その後…
「……で、あれは誰なんだ?」
「「?」」
そう言ってグレイが視線を向けた先には、ジェラールの姿があった。
「カッコイイ人だね」
「天馬のホストか?」
「あんな人いたっけ?」
ジェラールの姿を見て首を傾げているグレイたちにエルザが口を開いた。
「ジェラールだ」
「何!!?」
「あの人が!!?」
「???」
「…………」
楽園の塔でジェラールの姿を見ることができなかったグレイとルーシィは驚愕し、ただ一人事情を知らないスバルだけが、さらに首を傾げていた。そして近くでその話を聞いていたナツは、ムスッと顔をしかめていた。
「だが、私たちの知っているジェラールではない」
「記憶を失っているらしいの」
「いや……そう言われてもよぅ……」
「大丈夫ですよ、ジェラールさんは本当は優しい人ですから」
納得のいかない表情をしているグレイに、そう説明するエリオ。
すると、ジェラールのもとにエルザが歩み寄る。
「とりあえず、力を貸してくれた事には感謝せねばな」
「エルザ…いや……感謝されるような事は何も……」
「これからどうするつもりだ?」
二人で岩場に腰掛けながら、エルザはそう問い掛ける。
「わからない」
「そうだな……私とお前との答えも簡単には出そうにない」
「怖いんだ…記憶が戻るのが……」
そう言って怯えるように体を震わせるジェラール。そんなジェラールに対してエルザは……
「私がついている」
と…優しい笑みを浮かべながらそう言った。
予想外の言葉だったのか、ジェラールは驚いた表情を浮かべている。
「たとえ再び憎しみ合う事になろうが……今のお前は放っておけない……私は…」
エルザがそう何かを言い掛けたその時……
ゴチィン!
「メエーン!」
「「!!」」
何かがぶつかる音と、一夜の奇妙な悲鳴が響いた。
「どうしたオッサン!!」
「トイレの
「だからそこに
少々顔を赤くしながらツッコミを入れるティアナ。
「何か地面に文字が……」
「こ…これは……術式!!!?」
「いつの間に!?」
「閉じ込められた!?」
「誰だコラァ!!!」
いつの間にか連合軍一同は、術式による結界の中に閉じ込められていた。
「な…なんなの~」
「一体誰が……」
「もれる」
結界の中に閉じ込められ、一同が動揺していると……近くの草場から複数の部隊のような人たちが歩いてきた。
「手荒な事をするつもりはありません。しばらくの間、そこを動かないで頂きたいのです」
すると、その部隊のリーダー格のような青年が代表して口を開いた。
「私は新生評議院第四強行検束部隊隊長、ラハールと申します」
「新生評議院!!?」
「もう発足してたの!?」
「相変わらずそういう仕事だけは早いわね……」
メガネをかけた青年……ラハールの言葉に、驚愕する一同。
「でもオイラたち、何も悪い事してないよっ!!」
「お…おう!!」
「そーだそーだ!!」
「存じております。我々の目的は
「!!」
リチャードを指差しながらそう言い放つラハール。
「ま…待ってくれ!!」
「いいのデスネ、ジュラ」
「リチャード殿」
異議を唱えようとしたジュラを、リチャード本人が引き止める。
「善意に目覚めても、過去の悪行は消えませんデス。私は一からやり直したい」
そう言うリチャードを見て、ジュラはある事を申し出る。
「ならばワシが代わりに弟を探そう」
「本当デスか!?」
「弟の名を教えてくれ」
「名前はウォーリー。ウォーリー・ブキャナン」
「ウォーリー!!?」
「ウォーリーって…あの……!!?」
「「!!」」
その名前を聞いたエルザとティアナは驚愕し、ナツとハッピーの脳裏には楽園の塔で戦った…カクカクでダンディーを自称する男の顔が浮かんだ。
「その男なら知っている」
「何と!!?」
「!!!」
エルザのその言葉に驚愕するジュラとリチャード。
「私の友だ。今は元気に大陸中を旅している」
そう言うエルザの嘘偽りのない優しい表情を見て、リチャードは大粒の涙を流す。
「グズ…ズズズ……これが光を信じる者にだけに与えられた奇跡というものデスか。ありがとう、ありがとう……ありがとう!!!」
こうしてリチャードは、大粒の涙を流しながらエルザやジュラたちに感謝の言葉を言ったあと……評議院に連行されていったのであった。
「なんか可哀想だね」
「あい」
「仕方ねえさ」
「でも、ニルヴァーナを止める為の助力はしていたから、多少の減刑はされるハズよ」
リチャードの姿を見送りながらそんな会話をするルーシィとグレイとティアナ。
「もうよいだろ!! 術式を解いてくれ!!! もらすぞ!!!!」
「いえ……私たちの本当の目的は
「へ?」
「!!!」
闇ギルドのバラム同盟の一角を担う
「評議院への潜入…破壊、エーテリオンの投下。もっととんでもない大悪党がそこにいるでしょう」
そう言ってラハールが指差す先には……
「貴様だジェラール!!!! 来い!!!! 抵抗する場合は抹殺の許可もおりている!!!!」
ラハールの本当の目的は、楽園の塔での罪を訪われているジェラールであった。
「そんな…!!」
「ちょっと待てよ!!!」
それに対して異論を唱えようとするナツとウェンディ。
「その男は危険だ。二度とこの世界に放ってはいけない、絶対に!!!!」
ラハールのその言葉を聞いて、エルザは切なそうな表情を浮かべる。
「ジェラール・フェルナンデス。連邦反逆罪で貴様を逮捕する」
罪状と共に、ジェラールは手首に手錠をかけられる。
「ま…待ってください!!! ジェラールさんは記憶喪失……今は何も覚えていないんです!!!」
「刑法第13条により、それは認められません。もう術式を解いていいぞ」
「はっ」
ラハールはエリオの異論に対してあっさりそう言い返すと、部隊の者に術式の解除を言い渡す。
「で……でも!!」
「ジェラールさんは!!」
「いいんだ……抵抗する気はない」
それでも尚、異論を唱えようとするウェンディとキャロを、ジェラール自身が抑える。
「君たちの事は最後まで思い出せなかった。本当にすまない、ウェンディ…エリオ…キャロ」
「このコたちは昔、あんたに助けられたんだってさ」
「そうか……オレは君たちにどれだけ迷惑をかけたのか知らないが、誰かを助けた事があったのは嬉しい事だ」
そう言うとジェラールはどことなく嬉しそうな表情を浮かべた後、エルザへと視線を移す。
「エルザ、色々ありがとう」
ジェラールの感謝の言葉に、エルザは辛そうに目を伏せる。
「(止めなければ……私が止めなければ…ジェラールが行ってしまう…せっかく悪い夢から目覚めたジェラールを……もう一度暗闇の中へなど行かせるものか!!!!)」
手を強く握り、心の中でそう決心するエルザ。
「他に言う事はないか?」
「ああ」
「死刑か無期懲役はほぼ確定だ。二度と誰かと会う事はできんぞ」
「そんな…」
「いや……」
「ジェラールさん……」
ラハールの冷徹な言葉に、連合軍の面々が愕然とする。
「(行かせるものか!!!!)」
そしてエルザが行動を起こそうとしたしたその時……
「行かせるかぁぁっ!!!!!」
エルザよりも早く…ナツが評議員に襲い掛かった。
「!!」
「ナツ!!!」
「相手は評議員よ!!!」
「貴様……」
いきなりのナツの行動に驚愕する一同。
「どけェっ!!!! そいつは仲間だぁ!!!! つれて帰るんだーーー!!!!」
あれほど毛嫌いしていたジェラールを『仲間』と呼び…行く手を阻む評議員を殴り倒しながらジェラールへと向かって行くナツ。
「ナツさん……」
「よ……よせ……」
「と……取り押さえなさい!!!」
ラハールの命令で数人の評議員が、ナツを取り押さえる為に彼に向かって駆け出す。すると……
「行け、ナツ!!!!」
「こいつらは私たちが相手するから!!!」
「あんたはジェラールを!!!」
「グレイ!! スバル!! ティアナ!!」
何と…グレイとスバルとティアナの3人まで、評議員を攻撃し始めた。
「事情はよくわからないけど、ナツが仲間だって言ってるんだから、その人は私たちの仲間だよ!!!」
「それに…気に入らないのよ!!! こんなに人がいる前で、これ見よがしに死刑だの何だの堂々と宣告して!!! 後味悪いったらないわ!!!」
「まったくだ、ニルヴァーナを防いだ奴に…一言の労いの言葉もねえのかよ!!!!」
そう叫びながら、ナツの援護をするように評議員を攻撃するグレイ、ティアナ、スバルの3人。
「それには一理ある。その者を逮捕するのは不当だ!!!!」
「悔しいけどその人がいなくなると、エルザさんが悲しむ!!!!」
「そうだ…ジェラールさんを……僕らの恩人を!! 絶対に連れて行かせたりなんかしない!!!!」
グレイたちの言葉に感化されたジュラ、一夜、エリオの3人も参戦する。
「もうどうなっても知らないわよ!!」
「あいっ!!」
そう言ってルーシィとハッピーも評議員も攻撃し始める。
「お願い!!! ジェラールを連れて行かないで!!!」
「やっと会えた私たちの大好きな人を、連れて行かないでください!!!」
涙を流しながら懇願するようにそう叫ぶウェンディとキャロ。
「来い!!!! ジェラール!!!! お前はエルザから離れちゃいけねえっ!!!! ずっと側にいるんだ!!!! エルザの為に!!!! だから来いっ!!!! オレたちがついてる!!!! 仲間だろ!!!!」
そう叫びながら評議員を押しのけ、必死にジェラールに向かって手を伸ばすナツ。
「全員捕らえろォォォ!!!! 公務執行妨害及び逃亡幇助だーー!!!!」
ラハールの指示によりさらに大勢の評議員たちが動き始める。
「ジェラーーーール!!!!」
それでもナツはジェラールに向かって手を伸ばし続ける。しかし……
「もういい!!!! そこまでだ!!!!!」
エルザの一喝により、その場にいた全員が動きを止め、彼女へと視線を向けた。
「騒がしてすまない。責任は全て私がとる」
そして静かに、淡々と言葉を発するエルザ。
「ジェラールを…つれて……いけ……」
最後は消え入りそうな声になりながらも確かにそう言ったエルザ。
「エルザ!!!!」
ナツは納得がいかなそうに怒鳴るが、エルザの表情は長い髪に隠れて見えない。
そしてジェラールが改めて連行されるその時……
「そうだ…」
「!」
「お前の髪の色だった」
ジェラールはそう言うと、エルザに優しい笑顔を向けた。
「さよなら、エルザ」
「ああ」
そしてその会話を最後に……ジェラールは評議院へと連行されていったのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その後……連合軍の面々は休息と心の整理も兼ねて、ニルヴァーナの残骸近くで体を休めていた。当然、先ほどの出来事により、全員が浮かない顔をしていた。
そしてその面々がいる場所から少し離れた場所にある丘に腰を下ろしているエルザ。
「…………」
連合軍の中でも一番浮かない表情をしている彼女は幼い頃……まだ奴隷だった頃の事を思い出していた。
奴隷時代・楽園の塔。
『ジェラール・フェルナンデス』
『うわー、覚えづれぇ』
『そう言うお前も、ウォーリー・ブキャナンって忘れそうだよ』
『エルザ、お前は?』
『私はエルザ、ただのエルザだよ』
『それは寂しいな』
そう言うと、幼いジェラールはエルザのさらっとした髪を触る。
『おおっ』
『ちょ…何よぉ』
『キレイな
『名前にしようってオマエ……そんなの勝手に…』
『エルザ…スカーレット……』
『お前の髪の色だ。これなら絶対に忘れない』
あの時の言葉の通り……ジェラールは最後の最後に……彼女のスカーレットの意味を思い出してくれた。
「ジェラール…」
エルザはジェラールの名を呟きながら膝を抱え込み……その両目からは大粒の涙を溢れさせた。
その日の朝焼けは、今までに見た事がないくらいに美しい緋色に染まっていた。
エルザの髪の色のように…あたたかく情熱的に……
顔を上げれば美しい空が広がっているのに……
顔を上げれば……
つづく