場所は……小さな村にある魔導士ギルド・
「みんなー大変だァー!!! ニルヴァーナがここ向かってるぞ!!!」
「何!?」
「連合軍の作戦は失敗か!?」
「あのジュラやエルザもいたというのに…」
その村の中央にあるネコを模したテントの中に一人の男が駆け込んできて、その報告にギルドの面々は騒然としていた。
「マスター!!!」
「なぶら」
マスターと呼ばれた老人は一言そう言うと、目の前のグラスに酒を注ぎ……そのまま注いだ酒を飲まず、ビンに入った酒をラッパ飲みした。
「えーーーっ! ラッパ飲みすんなら注ぐなよ!!」
「なぶら」
「てか、ニルヴァーナが向かって……」
「何!? 誠か!!?」
「飲み干してからしゃべってくれ!!!」
「ニルヴァーナがここに向かって……これは運命か偶然か、なぶら……」
「ウェンディにエリオにキャロ、無事だといいんだが…」
「ああ……いざって時は、オレらじゃ役に立てねえし……」
「ごきゅごきゅ……安心せい」
「飲めってちゃんとー!」
ラッパ飲みした酒を再び吐き出しながらしゃべるローバウルにギルドメンバーがツッコミを入れる。
「光の魔力は生きておる。なぶら大きく輝いておる」
ローバウルのその言葉に、「オオッ!」と歓声を上げるギルドメンバーたち。
「けど、これは偶然じゃないよな」
「オレたちの正体を知ってる奴がいたんだ」
「だからここを狙って」
それでもなお、不安の声を上げるメンバーたち。
「なぶら…」
「長ェ付き合いだが、未だに『なぶら』の意味がわからん」
どうやらローバウルが先ほどから口にしている「なぶら」の意味はギルドメンバーすら知らないようである。
「マスター、避難しようぜ!」
「ニルヴァーナは結界じゃ防ぎきれねえ!!」
「バカタレがァ!!!!」
逃げようと提案するメンバーたちを、ローバウルが一喝する。
「アレを止めようと、なぶら戦っている者たちがいる。勝利を信じる者は動く必要などない」
ローバウルの言葉に、静まり返るギルドメンバー。
「なんてな…」
そう言って酒瓶をテーブルの上に置くローバウル。
「時が来たのかもしれん。ワシらの罪を清算する時がな」
そう呟くローバウルの表情は……どこか寂しげであった。
第六十七話
『君の言葉こそ…』
一方その頃、ナツたちはニルヴァーナを止める方法を必死に模索していた。
「止めるって言っても、どうやって止めたらいいかわかんないんだよ」
「壊すとか」
「またそーゆー考え!?」
「大体こんな大きいのどうやって壊すのよ」
ナツの提案をルーシィとティアナが呆れながら却下する。
「やはりブレインに聞くのが早そうだな」
「簡単に教えてくれるかしら……」
「もしかしてジェラールなら……」
「キャロちゃん!」
「今ジェラールさんの話はっ……!」
「あっ!」
エリオとキャロの言葉で、ウェンディはナツたちがジェラールをよく思っていない事を思い出し、慌てて口をつぐむ。
「ウェンディ、何か言った?」
「ううん……何でもない」
スバルの問い掛けに首を振りながら答えるウェンディ。
「私……ちょっと心当たりがあるから探してきます」
「ウェンディ!! 待ちなさい!!!」
「ちょっ…ウェンディ!!!」
スバルの静止も聞かず、王の間から飛び出していくウェンディとそれを追うシャルル。
「あっ、大丈夫です!! 僕たちが着いて行きますから!!」
「すぐ戻ってきます!!」
「エリオにキャロまで!!!」
そんなウェンディを追って、エリオとキャロも王の間を飛び出して行った。
「どうしたんだろう?」
「うむ」
一同が3人の行動に疑問を抱いていると……
〈みなさん、聞こえますか?〉
「「「!!」」」
突然誰からの声が全員の頭に響いてきた。
〈私デス、ホットアイデス〉
「リチャード殿!? 無事なのか!?」
「念話!? 大勢に」
「誰だ!?」
「あとで説明してあげるから、今は黙ってなさい」
〈残念ながら無事ではありませんデス。ミッドナイトにはやはりかなわなかった、みなさんの力を合わせてミッドナイトを倒してください。奴を倒せば、ニルヴァーナへの魔力供給が止まり……この都市は停止するハズ〉
「生体リンク魔法で動いてやがったのか……」
「ふえー」
リチャードからの説明に、納得する一同。
「奴は王の間の真下にいマス。気をつけてください…奴はとても…とても強いデス」
「リチャード殿……」
「王の間の真下って……この下だよね!?」
「おし!!! 希望が見えてきたぞ」
「強い奴か……燃えてきたぞ」
「ナツ、言っとくけどこれを止める為なんだからね」
若干主旨がずれているナツにティアナが釘を刺す。
「行くぞ!!!!」
そして一同は、リチャードからの情報を頼りに王の間の真下へと移動して行ったのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「六つの祈りは残り一つとなりマシタ。必ず勝って……ニルヴァーナを…止めるのデスヨ」
そう言ってナツたちに念話を送っていたのは…なんとリチャードではなく、ブレインであった。
「(くくく……ただではやられんぞ、ただではな……)」
◆◇◆◇◆◇◆◇
そうとは知らないナツたちは、すでに王の間の真下の部屋へと辿り着いていた。
「見て!! 扉だよ!!!」
「あそこか!!」
「よーし!!」
スバルが指差す先には、大きな扉があり、一同はその扉に向かって駆け出す。
「出て来い居眠りヤロォ!」
そして一番早く扉の前に立ったナツが、躊躇なく扉に手をかけ、一気にそれを開いた。
それと同時に…眩い光がナツたちを覆った。
「え?」
「これってまさか…!!」
「罠だーーーー!!!!」
ジュラの叫びが響いた次の瞬間……
ドゴォォォォオオン!!!!!
激しい大爆発が巻き起こったのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
一方その頃……エルザはジェラールと共に行動を共にし、響いてきた爆発音に耳を傾けていた。
「今の爆発は」
「王の間の方だ」
突然の爆発音に2人が首を傾げていると……
「父上も人が悪い…ボクの楽しみを奪ってしまうんだからね」
「!」
そこへ最後の六魔……ミッドナイトが現れた。
「もう君たちが最後のエモノだ。楽しませて欲しいな」
そう言って笑みを浮かべながらエルザとジェラールに歩み寄るミッドナイト。
「下がっていてくれ、エルザ」
「ジェラール」
そう言うとジェラールはエルザを下がらせ、ミッドナイトと相対した。
◆◇◆◇◆◇◆◇
場所は戻り……ブレインの罠により大爆発を受けたナツたちは……
「うう…痛え…」
「つう…みんな、大丈夫?」
「生きてんのか…オレたち……」
「みたい……ですね…」
「あい」
「どうなってるの……? あたしたち、あんな大爆発をくらって……痛!」
そう言って立ち上がろうとしたルーシィは、何やら天上のようなモノに頭をぶつける。
「オレたち、埋まっちまって…」
「いえ…違うわ……これは…」
気がつくと、ナツたち妖精メンバーは岩の防壁のようなモノに守られていた。
「ぷはー!」
そしてナツがその岩を突き破り、外へと顔を出す。それと同時に、ナツは目を見開いて驚愕した。
何故なら……岩の防壁の外ではジュラがただ一人……ナツたちを守るように立っていたのだから。
「オッサン!!!」
「ジュラさん!!!」
「ジュラ…」
「あたしたちを守って……」
「あの大爆発を……たった一人で受け止めて……」
ジュラの大それた行動に驚愕する妖精メンバーたち。
「ハア…ハア…ハア…」
「おっちゃ~~ん!!!!」
「元気がいいな、若い者は。無事…で…よか…った…」
そう言うと、ジュラはその場に力なく倒れてしまった。
「オッサン!!!」
「しっかりしてーーー!!!」
「ジュラさん!!!」
「ジュラー!!!」
倒れたジュラに、慌てて駆け寄るグレイたちだが、ジュラは完全に意識を手放していた。
「………くそーーーー!!!!!」
そして……その部屋にはナツの怒りの叫び声が響き渡ったのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃、ナツたちと分かれたウェンディは、シャルルと共に空からニルヴァーナの行く先を確認していた。
「やっぱり
「ウェンディ…悪いけどこれ以上は飛べないわ」
「うん!! ごめんねシャルル。歩いて探そう、ジェラールを」
「あんたとエリオ、鼻いいもんね」
そんな会話をしたあと、ウェンディとシャルルはゆっくりと降下してニルヴァーナに降り立つ。
「ウェンディ!!」
「シャルルちゃん!!」
そんな2人を地上で待っていたエリオとキャロが迎える。
「どうだった?」
「うん…やっぱりニルヴァーナは私たちのギルドに向かってる」
「じゃあやっぱり止める方法は、ジェラールさんを探して聞いてみるしかないんだね」
「そう言う事になるわね」
ニルヴァーナを止める方法ならジェラールが知っている。そう結論付けたウェンディたちは、ジェラールの捜索を決意する。
「でも……あのジェラールは、私の知ってるのとは少し違うニオイがする」
「あ、ウェンディもそう思う? 僕も最初に会った時から気になってたんだ」
「そうなの?」
「とにかく、ジェラールを探すのよ!! そいつなら止められるかもしれなんでしょ?」
「うん!!!」
「行こう!!!」
「ジェラールさんを探しに!!!」
そう言うと…ウェンディ、エリオ、キャロ、シャルルの4人はジェラールを探す為、駆け出していった。
「(無事でいてね、ジェラール)」
「(あなたは僕たちの事を忘れてしまったみたいですが……)」
「(私たちはあなたの事、忘れた日なんて一日もないんですよ)」
そんな想いを胸に秘め、3人は必死でジェラールを探したのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
そして……そのジェラールはというと……
「哀れな道化師」
ミッドナイトとの戦闘に敗北し、ボロボロの姿で地面に倒れ伏していた。
「記憶と一緒に魔法の使い方まで忘れちゃったのかな、ジェラールくん」
「うぅ…」
ジェラールは何とか起き上がろうとするが、受けたダメージのせいでそれは叶わなかった。
「(あのジェラールがこうもあっさり…)」
「くぅ…」
「ふぅん、まだ生きてるの?」
「(いや…自らにかけた自律崩壊魔法陣で、予想以上に魔力を消耗している)」
それを見ていたエルザは、驚愕しながらも冷静にジェラールの敗因を分析していた。
「ボクはね……君のもっと怯えた顔が見たいんだ」
倒れるジェラールに向かってミッドナイトがそう言った瞬間……
「!」
彼の目の前にエルザが現れ、エルザは手に持った剣をミッドナイトに向かって振るう。
カクン…
「!?」
しかし、それはミッドナイトに当たることなく、まるで彼の体を避けるように太刀筋が曲がった。
「もうメインディッシュの時間かい? エルザ・スカーレット」
「(剣閃が曲がった!!?)」
「エルザ離れろ!! そいつはマズイ!!!」
「くっ!」
ジェラールの警告の言葉を無視し、再びミッドナイトに向かって剣を振るうエルザ。しかしその太刀筋も、先ほど同様カクンっと曲がってしまった。
「(また!!?)」
「フン」
ミッドナイトはそんなエルザを鼻で笑いながら、彼女に向かって手を翳すと、そこから発せられた衝撃でエルザを吹き飛ばす。
そして吹き飛ばされながらも攻撃を2本の剣をクロスさせてガードし、何とか踏み止まるエルザ。
すると……
メキメキメキ……
「何…!!?」
突然彼女が纏っていた鎧が、メキメキと音を立てて歪むように変形し始める。
「ぐああ!」
「エルザ…」
そしてその変形した鎧は捩れるようにエルザの体を拘束し、そのまま強く締め付ける。
「……はァ!!!!!」
するとエルザは、絞め殺される前に換装で鎧を消し去る。それを見たミッドナイトは、僅かだが顔色を驚愕に染めていた。
「なるほど、そういう魔法か」
エルザは天輪の鎧へと換装しながら、ミッドナイトの魔法の正体を見破った。
「そう……ボクの
「なんという魔法だ……」
ミッドナイトの魔法の説明を聞いて、驚きの言葉を口にするジェラール。
「行くぞ」
「聞こえてなかったのかい? ボクに魔法は当たらないんだよ?」
ミッドナイトの魔法の詳細を知ってもなお向かって行くエルザに、ミッドナイトは嘆息しながら呟いたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「どうしよう……酷いケガ」
「ジュラさん!! しっかりして!!!」
「死ぬんじゃねえぞオッサン!!!」
「うう……罠だったんだ」
「やられたわね」
自分たちの身代わりとなって大爆発を受けたジュラを、必死で介抱するナツたち。すると……
「やれやれ」
「「「!」」」
「ブレインめ…最後の力を振り絞って、たった一人しか仕留められんとは……」
「誰だ!!?」
突然聞こえてきた謎の声に、その場にいた全員が声の主を探す。
「あそこ!!!」
「!?」
そしてハッピーが指差す方向には、その声の正体がいた。
「情けない…六魔の恥さらしめ」
「え?」
「あれって……」
謎の声の正体を見たルーシィとティアナは、素っ頓狂な声を上げる。
「まあ……ミッドナイトがいつかぎり我等に敗北は無いが、貴様等くらいは私が片付けておこうか」
その声の正体とは……何とブレインが持っていたドクロの杖……『クロドア』であった。
「杖が…しゃべったーーっ!!!!!」
しゃべる杖を見て大いに驚愕するハッピー。
「あれはブレインの持ってた杖だ」
「どうなってんのよー!!?」
クロドアの登場に驚愕と戸惑いを隠せない一同。
すると……
がしっ
「!?」
「オラオラオラオラオラオラ!!!!」
「このこのこのこのこのこの!!!!」
「ぐぽぽぽぽぽっ!」
「「「!!!」」」
何と……先ほどまでの空気や流れをぶった切って、ナツがクロドアを地面に何度も叩きつけ、スバルがクロドアの顔の部分を何度も殴り始めた。
「このでけェ街止めろ!!!! 棒切れ!!!!」
「そうだ!!! 今すぐニルヴァーナを止めろ!!!!」
「ちょっと!! 何者かもわからないのよ」
そんなナツとスバルにルーシィがツッコミをいれるが、2人は特に気にした様子はない。
「私は七人目の
「「と~め~ろォ~よ~!!!!」」
「ぐぽぽぽぽぽ!」
クロドアの名乗りの途中にも関わらず、再度攻撃を仕掛けるナツとスバル。
「
「てか…杖がしゃべってる事はもう置いといていいのか?」
「あのバカコンビ……」
「つっこむポイントが難しいね」
そんなナツとスバルの行動に、他の面々はすでに呆れ果てていた。
「ぬぇいっ! 凶暴な小僧と小娘め…」
そして何とか2人の攻撃から逃れる事に成功したクロドア。
「そろそろ奴等のギルドが見えてくる。早めにゴミを始末しとかんとな」
「それって、
「その通り。まずはそこを潰さん事には始まらん」
◆◇◆◇◆◇◆◇
「舞え!!! 剣たちよ!!!!」
天輪の鎧へと換装したエルザは何本もの剣をミッドナイトに向かって放つが……
「数撃てば当たると思った?」
ミッドナイトの魔法…〝
そして軌道を曲げられたそれらの剣は全て、エルザの方へと向かって行った。
「!!」
「言ったろ? はね返す事もできるって」
戻ってきた自身の剣に一瞬目を見開くエルザだが、すぐに冷静になり、飛んできた剣を全て叩き落した。
「フフ」
「くっ」
その隙にミッドナイトが手を翳すと、天輪の鎧が先ほどの鎧と同じように歪められ、エルザの体を締め付ける。
「ぐはっ!」
「もっと……もっと苦しそうな顔をしてくれよ」
「あぁあああ!」
「その顔が最高なんだ」
エルザの苦しむ表情を見て、ミッドナイトは嬉しそうに舌なめずりをする。
「つあっ!」
そんなミッドナイトに向かってエルザは持っていた剣を投げつける。
「さすがだね」
しかし、それはいとも簡単に
「スパイラル・ペイン!!!!」
「ぐああぁぁぁああああ!!!!」
ミッドナイトはエルザの周囲の大気を螺旋状に捻じ曲げ、小さな竜巻を巻き起こした。
「あぁぁあああ…」
それを喰らったエルザは、力無く地面に倒れ伏す。
「そんな…」
倒れたエルザを見て、愕然とした表情で呟くジェラール。
「もう終わり?」
「強い…」
「まだ死なないでよ、エルザ。
「
「僕たちの最初の目的地さ」
「なぜ……そこを狙う……」
ジェラールの問い掛けに、ミッドナイトは微笑を浮かべながら答える。
「その昔、戦争を止める為にニルヴァーナを作った一族がいた、ニルビット族。しかし彼らの想像以上に、ニルヴァーナは危険な魔法だった。だから自分たちの作った魔法を自らの手で封印した。悪用されるのを恐れ、彼らは何十年も何百年も封印を見守り続けた。そのニルビット族の末裔のみで形成されたギルドこそが、
ミッドナイトの言葉に、ジェラールは目を見開いて、その顔を驚愕に染める。
「奴等は再びニルヴァーナを封じる力を持っている、だから滅ぼさなければならない。この素晴らしい力を再び眠らすなんておかしいだろ? この力があれば、世界を混乱へと誘えるのに」
ミッドナイトの言葉を聞くにつれ、ジェラールの表情が怒りのものへと染まっていく。
「そしてこれは見せしめでもある。中立を好んだニルビット族に戦争をさせる。ニルヴァーナの力で奴等の心を闇に染め、殺し合いをさせてやるんだ!!!! ゾクゾクするだろう!!?」
「下劣な…」
大笑いしながら言い放つミッドナイトに対し、そう呟くジェラール。すると、それを聞いたミッドナイトは大笑いを止めて、ジェラールを見据える。
「正しい事を言うフリはやめなよ、ジェラール」
そのセリフに、ジェラールは言葉を失う。
「君こそが闇の塊なんだよ。汚くて禍々しい邪悪な男だ」
「ち……違う……」
「違わないよ。君は子供たちを強制的に働かせ、仲間を殺し…エルザまでも殺そうとしていた」
「…………!」
「君が不幸にした人間の数はどれだけいると思う? 君に怯え、恐怖し…涙を流した人間はどれだけいると思う?」
記憶の無い自信の悪行を次々と聞かされ、表情を暗くするジェラール。
「こっちに来なよジェラール。君なら新たな六魔にふさわしい」
そう言ってジェラールに手を差し伸べるミッドナイト。その手からジェラールは困惑しながらも目を逸らす。
すると……先ほどまで倒れていたエルザがゆっくりと起き上がり……
「私は…ジェラールの中の光を知っている」
そう言い放ちながら、エルザは換装で着物のような服装を身に纏い、その手には薙刀が握られていた。
「(エルザ…)」
そんなエルザの言葉を聞いたジェラールの脳裏に、彼女から言われた言葉を思い出す。
『生きて、この先の未来を確かめろ』
「(君の言葉こそ、オレに勇気をくれる光だよ)」
エルザの言葉を思い出したジェラールの表情からは迷いが消え、口元には笑みを浮かべた。
「へえ……まだ立てるのか。噂通りだね、エルザ。壊しがいがある」
「貴様等のくだらん目的は私が止めてやる。必ずな!!!!」
そう言って、エルザは再びミッドナイトと相対する。
「おいでエルザ。君の本気を見せてくれ……と言っても、ボクに攻撃は当たらないケドね」
「(そうだ……奴の
そんな事を思っていると、エルザは一気に駆け出し、ほぼ一瞬でミッドナイトの目前にまで迫った。
「(速い!!!)」
「いくら素早く動けても、ボクの
そう言うミッドナイトだが、エルザはお構い無しに彼に向かって薙刀を振るう。
しかし、やはりそれも
「ホラ」
だが次の瞬間……
ドッ…!
エルザが薙刀を持った方の手とは逆の手で、ミッドナイトの胸に掌底を打ち込み……
ゴォォォン!!!!
そのままミッドナイトを吹き飛ばし、建物の壁に叩きつけた。
「なに…」
「貴様の魔法には二つ弱点がある」
壁に叩きつけられながら呆気に取られているミッドナイトに、エルザがそう言い放つ。
「(二つの弱点だと……? この僅かな時間の中で……)」
「一つ目は魔法や武具を曲げる事はできても、人間の体は曲げる事ができないという事だ。もしも可能ならば、私の鎧ではなく体を狙った方が早い」
「フン。そうだとしても、本気を出せば衣服で君を絞め殺せるんだよ」
エルザの説明を鼻で笑いながら、ミッドナイトは三度エルザの服を捩れさせ、彼女の体を締め付ける。しかしエルザはそれを意にも介さず、言葉を続けた。
「二つ目はこれだ」
「!!!」
エルザがそう言うと同時に、ミッドナイトの頭上に何本もの剣が出現し、彼に向かって降り注いだ。
「なっ! ぐはァっ!!!!」
「私の鎧を捻じ曲げている間、貴様は剣を避けてかわした」
「!!!」
「なぜ剣の軌道を曲げてかわさなかったのか。つまりは曲げられる空間は常に一ヶ所という事だ。自分の周囲か敵の周囲のどちらか一ヶ所だけ。私に魔法をかけている間は自分の周囲に
「ぬぅ…!」
「(なんという、洞察力…)」
自身の魔法の核心をつかれ唸るミッドナイトと、エルザの洞察力に言葉を失うジェラール。
「そしてこの〝悠遠の衣〟は伸縮自在の〝鎧〟。その魔法は効かん。ん? この鎧を含めると、弱点は三つだな」
エルザがそう言うと同時に、彼女が纏っている悠遠の衣は元の形へと戻る。
「くそォ…あと少しだったのに…」
「勝負はついた」
両膝をついて悔しそうに唸るミッドナイトにそう言い放つエルザ。
しかし、ミッドナイトは顔を上げて不気味な笑みを浮かべると……
「あと少し早く死んでたら、恐怖を見ずに済んだのにね」
そう言った瞬間……どこからか真夜中を知らせる鐘の音が鳴り響く。
「真夜中にボクの歪みは極限状態になるんだ」
それと同時に、ミッドナイトの体が変化し始めた。
「何だ!!?」
「ああああああああ!!!!」
体を変化させながら雄叫びを上げるミッドナイト。そして……
「ハハハハハハッ!!!!」
笑いながらそこに立っていたのは……体が一回りも二回りも大きくなり、全身が黒い皮膚に覆われた、まるで悪魔のような姿に変貌したミッドナイトであった。
「もうどうなっても知らないよ。うるァ!!!!」
そう言うと、ミッドナイトはエルザに向かって膨大な魔力を溜め込んだ腕を振り下ろす。
ドガァァァァアン!!!!
その威力は、ニルヴァーナ全体を揺るがすほどの威力であった。
「あう!」
「ぐあっ!」
何とか直撃は免れたエルザと、攻撃の余波により吹き飛ばされたジェラールが地面を転がる。
ズサッ!
その瞬間……触手のように伸びたミッドナイトの鋭利な爪が、ジェラールの胸を貫いた。
「ジェラール!!!! ぐはっ!」
続いてエルザまでもが、ジェラール同様ミッドナイトの爪に胸を貫かれる。
「おっと……簡単には死なないでよ。ここからが楽しいんだ」
「あああ…がはっ!」
まるでイタぶるように爪を動かし、エルザの胸のキズを広げていくミッドナイト。
「エルザーーーー!!!!」
「うああああああ!!!!」
「ハハハハハハッ!!!!」
ジェラールの絶叫…エルザの悲鳴…ミッドナイトの高笑いが響き渡ったその時……
ザンッ!!!!!
エルザの薙刀によって、元の姿のミッドナイトが斬り捨てられた。
「は?」
「!!?」
いきなりの出来事に斬られながらも呆気に取られるミッドナイトと、何が起こったのか理解できないジェラール。
「(な…何が起きたんだ!? オレは確か、体を貫かれて……エルザ……)」
「ボ…ボクの幻覚が効かない…のか……」
「(幻覚!!? あれが!!?)」
そう……ミッドナイトの変貌から始まったあの光景は全て、ミッドナイトによる幻覚だったのである。
「残念だが、目から受ける魔法は私には効かない」
エルザの右目は義眼である為、ミッドナイトの幻覚を免れたのである。
「そ…そんな…ボクは最強なん…だ……父上をも越える最強の…六魔。誰にも負けない最強の…魔導士」
「人の苦しみを笑えるようでは、その高みへはまだまだ遠いな」
「(うう……ボクの祈り……ただ眠りたかっただけなんだ……静かな所で……)」
そう思い残したミッドナイトは、力尽きてその場に倒れたのであった。
「(これが…エルザ……)」
エルザの実力を目の当たりにしたジェラールは目を見開いて驚愕する。
「誰にも負けたくなければ、まずは己の弱さを知る事だ」
倒れたミッドナイトに対し、そう教えを説くエルザ。
「そして常に、優しくあれ」
つづく