LYRICAL TAIL   作:ZEROⅡ

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六魔壊滅?

 

 

 

 

 

ナツのドラゴンの咆哮のごとき叫び声により、耳をやられ倒れた六魔将軍(オラシオンセイス)の一人…コブラ。これで敵となる六魔将軍(オラシオンセイス)は残り2人となった。

 

 

「バカな…叫び声だけでコブラを倒したというのか。何者なのだ、あの男は…」

 

 

六魔の中でも実力者であるコブラを、まさかの叫び声だけで倒したというナツに、ブレインは声を震わせてそう呟いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第六十六話

『六魔壊滅?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「す…スゴイ……!! やっぱりナツさんはスゴイ!!!」

 

 

エリオは自身の憧れであるナツのスゴさを改めて確認し、やや興奮気味に目を光らせる。

 

 

ガクン!

 

 

「うわっ!」

 

 

すると、またもや飛んでいた高度がガクリと下がる。

 

 

「フ…フリード!! 大丈夫!!?」

 

 

「キュ~…」

 

 

エリオは背中に張り付いて飛んでいるフリードに問い掛けるが、フリードは弱い鳴き声を上げながら首を横に振った。

 

 

「コブラの毒の影響が……ぐっ…僕も体が…」

 

 

コブラから受けた毒竜のブレス……その毒が体に回り、体の自由を奪っていた。

 

 

「なんか……オイラ、体の調子が…」

 

 

「ハッピー!!! あいつの毒か…オレも体が……」

 

 

見ると、ナツとハッピーもエリオたちと同じような状況に陥っていた。

 

そしてついに……

 

 

「キュク~……」

 

 

ポンッ!

 

 

「フリード!!? うわぁぁああ!!!」

 

 

ついに力尽きたフリードが、自分の世界へと強制的に返還されてしまった。それにより飛行源を失ったエリオは必然的に落下する。

 

 

「エリオ!! 危ねえ!!!」

 

 

それを見たナツは動けない体を必死に動かし、ギリギリでエリオの服を掴んで助けるが……

 

 

「2人は……無理……」

 

 

ただでさえ弱っている上に、エリオまで加わってしまった為、ハッピーは力なく墜落してしまった。

 

 

「ぐあっ!」

 

 

「うあっ!」

 

 

「わっ!」

 

 

幸い、地面から近い状態で落ちた為、大したダメージもなく地面に倒れるナツとハッピーとエリオ。しかしそれでも、毒のせいで体を動かす事ができなかった。

 

 

「う、しかも…乗り物の上…」

 

 

そしてナツはいつものの乗り物酔いでさらに苦しむ事になる。

 

 

「っ!!? ナツさん!!! 前!!!」

 

 

「!!」

 

 

エリオの声を聞いて、ナツは目の前に視線を向ける。

 

 

「六魔の誇りにかけて…テメェを倒す……ハァ、ハァ…」

 

 

そこには、気絶状態から復活したコブラが、息を荒げながら立っていた。

 

 

「死ねェ……」

 

 

「く…くそ……体が……」

 

 

「旧世代の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)がァぁ!!!!」

 

 

コブラの毒+乗り物酔いの影響でまったく体を動かす事が出来ないナツ。そんなナツに、コブラの毒を纏った腕が容赦なく振り下ろされる……

 

 

 

バシュ!

 

 

 

と、思われた瞬間……杖を銃のように構えたブレインが、コブラを背後から撃ちぬいた。

 

 

「もういい、コブラ」

 

 

「ブ……ブレイン…何を……」

 

 

「うぬはよくやった。ゆっくり休め」

 

 

そう言ってブレインはコブラに優しい言葉をかけるが、コブラの耳には、ブレインの心の声が聴こえていた。

 

 

「(正規ギルドに敗れる六魔などいらぬわ、クズが!!!)」

 

 

「くそォ…くそォ…!!!」

 

 

ブレインの本音を聴いたコブラは、悔し涙を浮かべる。

 

 

「(オレの祈り…オレは……たった一人の友の声を聴きたいだけだった……キュベリオス……)」

 

 

そうして倒れたコブラの傍には、相棒のキュベリオスだけが寄り添っていた。

 

 

「お前……仲間じゃねえのかよ」

 

 

「仲間など、この先いくらでも増やせる。ニルヴァーナの力でな」

 

 

「そんなのは仲間って言わねえだろ。操り人形だ」

 

 

ブレインの言葉に怒りの形相を浮かべて睨みつけるナツ。

 

 

「そう噛み付くな、私はうぬの力を気に入ったのだよ。言ってる意味がわかるかね?」

 

 

「うぐ…うう…」

 

 

ブレインを睨みつけながら、ただ呻くナツ。

 

 

 

「うぬを私の最初の操り人形にしてやろう」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

一方その頃……ミッドナイトと戦う為に残った元六魔将軍(オラシオンセイス)のホットアイこと…リチャード。

 

彼の目の前には、キズつき倒れているミッドナイトの姿があった。

 

 

「このボクが……ま……負ける…?」

 

 

「強い信念を持つ者が勝つ。ジュラはそう言ってましたデス」

 

 

「いやだ……負けたくない、負けたら父上に捨てられる……負けたくないっ!!!」

 

 

そう言って起き上がり、その場から逃げるように姿を消すミッドナイト。

 

 

「逃げても無駄デスヨ。私の〝天眼〟は全てを見通せマス!!!」

 

 

そう言ってリチャードは天眼で周囲を見渡す。

 

 

「観えタ!!! リキッドグラウンド!!!!」

 

 

そう言ってリチャードは地面を柔らかくする魔法で近くの建物を倒壊させる。

 

 

「うわあああああああっ!!!!」

 

 

そしてその建物の影に隠れていたミッドナイトは、倒壊に巻き込まれてダメージを負った。

 

 

六魔将軍(オラシオンセイス)は今日で終わるのデス」

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「いたぞ!!!」

 

 

「ナツ!!!」

 

 

「!」

 

 

ニルヴァーナの本体へと侵入し、ジュラと合流したグレイ、ルーシィ、ティアナ、スバルの5人は…ブレインによって引き摺られてどこかへ連れて行かれそうになっているナツを発見する。

 

 

「ナツ!!! どーしちゃったの!!?」

 

 

「これ……乗り物だから…」

 

 

「みなさん…ナツさんが……」

 

 

「ハッピー!? エリオ!!?」

 

 

「ネコ殿とエリオ殿も無事か」

 

 

「「ネコ殿?」」

 

 

そしてその近くには、倒れているエリオとハッピーの姿があった。

 

 

「みんなぁ…ナツを助けて……つれていかれちゃう」

 

 

涙ながらそう頼み込むハッピー。

 

 

「六魔も半数を失い、地に落ちた。これより新たな六魔を作る為、この男を頂く」

 

 

「いつか来ると思ってたが……」

 

 

「あのバカ、本当に闇ギルドにスカウトされたのね」

 

 

ブレインの言葉を聞いて、グレイとティアナが呆れるように呟く。

 

 

「ナツはあんたたちの思い通りにはならないんだからね!!!」

 

 

「そーだそーだ!! ナツを返せーー!!」

 

 

「ニルヴァーナがこやつの心を闇に染め、私の手足となるのだ」

 

 

「なるか。カブッ」

 

 

「くっ! まだそんな力が!!!」

 

 

「ぐほっ!」

 

 

抵抗としてブレインの腕に噛み付くナツだが、すぐさま地面に叩きつけられる。

 

 

「う……うぼ…うぼぼ……」

 

 

「体調が悪そうだな」

 

 

「ナツは乗り物に極端に弱いんです」

 

 

苦しげなナツを見てそう言うジュラに、ティアナが答える。

 

 

「早く…こいつ…倒し…て……コレ……止めてくれ…うぷ」

 

 

「OK!!」

 

 

「まったく…世話がやけるわね」

 

 

「お前の為じゃねーけど、止めてやんよ」

 

 

「うん!!」

 

 

ナツの言葉を聞いて、戦闘態勢に入る妖精メンバー。

 

 

「止める? ニルヴァーナを? できるものか。この都市は間もなく第一の目的地、化猫の宿(ケット・シェルター)に到着する」

 

 

ブレインのその言葉を聞いて、その場にいた全員が目を見開いて驚愕する。

 

 

「ケット…シェルター……僕たちのギルドを……何で……?」

 

 

化猫の宿(ケット・シェルター)に所属しているエリオは特に衝撃を受け、声を震わせている。

 

 

「目的を言え。なぜエリオ殿たちのギルドを狙う」

 

 

ジュラがブレインに対しそう問い掛けるが、ブレインは問いに答えず言葉を続ける。

 

 

「超反転魔法は一瞬にして光のギルドを闇に染める。楽しみだ……地獄が見れるぞ」

 

 

「酷い……」

 

 

「エグいな、コノヤロウ」

 

 

「こいつ、許せない」

 

 

「ここまで腐ってるなんてね」

 

 

そんなブレインに対し、グレイ、ルーシィ、ティアナ、スバルは怒りの表情を浮かべる。だがその時……

 

 

 

「聞こえなかったか? 目的を言え」

 

 

 

「「(ゾクッ!!)」」

 

 

後ろから聞こえてきたジュラの低い声に、グレイとティアナは背筋を凍らせ、軽く青ざめる。

 

 

「うぬのようなザコに語る言葉はない!!!! 我は光と闇の審判なり、ひれ伏せぇっ!!!!」

 

 

「困った男だ。まともに会話もできんとはな」

 

 

「消えうせろ、うじどもが!」

 

 

ブレインがそう言い放ったその瞬間……

 

 

 

ドゴォォ!!!! ガガガガガッ!!!!

 

 

 

ジュラの魔法により周囲の岩と地面のが、一斉にブレインへと襲い掛かり、ブレインを吹き飛ばして壁へと叩き付けた。

 

 

「「「……………」」」

 

 

それを見た妖精メンバー+エリオは、あんぐりと口を開けて呆然としていた。

 

 

「………な…何だ、この魔力は…」

 

 

「立て。化猫の宿(ケット・シェルター)を狙う理由を吐くまでは寝かさんぞ」

 

 

驚愕するブレインに、怒りの表情を浮かべたジュラはそう言い放った。

 

 

「も…もしかしてこのオッサン……」

 

 

「「めちゃくちゃ強い……!?」」

 

 

「これが……聖十のジュラ……!!」

 

 

「マスターと同じ聖十の称号を持つ者……」

 

 

「う…うぷ……」

 

 

「す…スゴイ……!!」

 

 

初めて見るジュラの実力に、一同は愕然とする。

 

 

「なるほどな…少々驚いたが、聖十の称号は伊達じゃないという事か」

 

 

化猫の宿(ケット・シェルター)より近いギルドはいくらでもある。わざわざそこを狙うからには、特別な目的があるからであろう」

 

 

「これから死ぬ者が知る必要はなかろう」

 

 

そう言ってブレインは杖を掲げ、まるで怨霊のような黒い魔力を集束させる。

 

 

「あの魔法は!!」

 

 

常闇回旋曲(ダークロンド)

 

 

そしてそのまま、強大な魔法を放つ。

 

 

「岩鉄壁!!!!」

 

 

それに対しジュラは、地面から複数の岩の壁を出現させ、それを防いだ。

 

 

「おおっ!!!」

 

 

「防いだ!!!」

 

 

「かかったな」

 

 

それを見て歓喜の声を上げるグレイとスバルだが、いつの間にかブレインはジュラの背後へと移動していた。

 

 

常闇奇想曲(ダークカプリチオ)!!!!」

 

 

そして今度は、回転するレーザーの様な黒い魔法を放った。

 

 

「ふん!」

 

 

「岩が曲がった!!?」

 

 

ジュラは先ほどの岩の壁の一つを、まるで生き物のように操り、再びブレインの魔法をガードした。

 

 

「無駄だ!!! 常闇奇想曲(ダークカプリチオ)は貫通性の魔法! そんな岩ごと貫いてくれるわァ!!!!」

 

 

「!!!」

 

 

ブレインの言う通り、ブレインが放ったレーザーのような魔法は岩をガリガリと削っていき、そのまま貫通してジュラの目前まで迫る。

 

 

「ふん!!!」

 

 

しかしその瞬間、ジュラは貫通してきた魔法ごと岩を曲げて、そのまま軌道を無理矢理上空へと逸らした。

 

 

「「「!!!」」」

 

 

「!!!」

 

 

誰もが予想しなかった方法で魔法を回避した事に、全員が目を見開いて驚愕する。

 

 

「はァ!!!!」

 

 

「ぐおっ!」

 

 

するとジュラは、先ほどまでガードに使っていた岩を分解し、それによって出来た複数の岩をブレインにぶつけて攻撃する。

 

しかし、ジュラの攻撃はこれだけでは終わらなかった。

 

 

「がっ! はぐ! な…なんだ…これは…!?」

 

 

ブレインに直撃した岩は、そのまま彼の体から離れる事なく、次々と体に纏わりついていく。

 

 

「……………!」

 

 

「岩の中に……閉じ込めた!?」

 

 

ティアナの言う通り…遂には声すら出せぬ程、ブレインは岩の中へと閉じ込められてしまった。

 

だがジュラの攻撃は……まだ終わっていない。

 

 

 

 

 

「覇王岩砕!!!!」

 

 

 

 

 

「うあ"あ"あ"あ"あ"っ!!!!」

 

 

ブレインを閉じ込めた岩を中から爆砕させ、ブレインは断末魔を上げながら吹き飛ばれた。

 

 

「(これが……ギン姉のギルドのエース……)」

 

 

「(リオンが『さん』付けで呼ぶ訳だ……)」

 

 

そしてブレインは、そのまま力なく地面に倒れたのであった。

 

 

「やりやがった!! こいつ六魔将軍(オラシオンセイス)のボスだろ!?」

 

 

「あたしたち勝っちゃった!!!」

 

 

「やったねティア!!!」

 

 

「そうね……私何にもしてない気がするけど」

 

 

ブレインが倒れた事に、歓喜の声を上げる妖精メンバーたち。

 

 

「さあ……エリオ殿たちのギルドを狙う理由を言え」

 

 

「ねえ……これ…止めればいいんじゃない?」

 

 

「オレの為にも…ぜひ……」

 

 

「だからあんたの為じゃないっての……」

 

 

ブレインに目的を吐かせようとしているジュラと、ナツの発言に呆れながらツッコミを入れているティアナ。

 

 

「ま…まさかこの私が……やられる…とは……ミッドナイトよ…後は頼む…六魔は決して倒れてはならぬ……六つの祈りが消える時…あの方が…」

 

 

そう言い残して、ブレインは力尽きたように意識を失った。

 

 

「あの方?」

 

 

「つーかこいつの顔……今…模様が1コ消えなかったか?」

 

 

「そう言えば、最初に見た時より模様の数が減っているような気が……」

 

 

「ぶ…不気味な事言わないでよぉ~、夢に出そうじゃない……」

 

 

グレイとティアナの言葉に、ルーシィは自身の体を抱きながら震えた。すると……

 

 

「みなさーん!」

 

 

「大変です~!」

 

 

「やっぱりこの騒ぎはアンタたちだったのね」

 

 

「ウェンディ!? キャロ!?」

 

 

ウェンディとキャロ…そしてシャルルの3人が慌てたようすで駆け寄ってきていた。

 

 

「この都市……私たちのギルドに向かってるかもしれません!!!!」

 

 

「らしいが、もう大丈夫だ」

 

 

「え? ひゃっ」

 

 

「わっ!」

 

 

足元に倒れているブレインは見て小さく悲鳴を上げるウェンディとキャロ。

 

 

「あのコブラってヘビ使いも向こうで倒れているし」

 

 

「じゃあ…」

 

 

「ニルヴァーナを操っていたのがブレインだとすると、こいつを倒した今、この都市も止まると思うわ」

 

 

「よ…よかったぁ……」

 

 

スバルとティアナの言葉を聞いて、ウェンディとキャロは安堵したように笑顔を浮かべる。

 

 

「気に入らないわね、結局化猫の宿(ケット・シェルター)が狙われる理由はわからないの?」

 

 

「まぁ深い意味はねえんじゃねーのか?」

 

 

「たまたまだよ、きっと」

 

 

「気になる事は多少あるが、これで終わるのだ」

 

 

「お…終わってねえよ……早くこれ…止め……うぷ」

 

 

「ナ…ナツさん……しっかりしてくださ……うぐっ」

 

 

「ナツさん!!! エリオ君!!! まさか毒に…」

 

 

「ウェンディちゃん!!! 早く解毒を!!!」

 

 

「オスネコもよ!! だらしないわね!」

 

 

「あい」

 

 

乗り物酔いと毒で苦しんでいるナツとエリオ、そしてハッピーを発見したウェンディは、大急ぎで3人の治療にあたったのであった。

 

 

「デカブツが言ってたな、制御してるのは王の間だとか」

 

 

「リチャードさんだね」

 

 

「中央だって言ってたから……あの建物ね」

 

 

「あそこに行けば、ニルヴァーナを止められるんだ」

 

 

そう言うと、その場にいた一同はニルヴァーナを止める為……王の間へと向かって行った。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

その頃、ミッドナイトと戦っていたリチャード。

 

彼の目の前にはキズつき、うつ伏せに倒れているミッドナイトの姿があった。

 

 

「ボクは…夢を見る」

 

 

「!」

 

 

「君も、夢を見る」

 

 

すると、ボロボロになりながらもそんな事を呟き、ゆっくりと立ち上がるミッドナイト。そして……

 

 

 

「真夜中に」

 

 

 

「ぐあああああっ!!!!」

 

 

その瞬間、リチャードの体の至る所に切り傷が刻まれた。

 

 

「あ…あ……」

 

 

痛みの中で自分が何をされたかまったく分からず、愕然とするリチャード。そして気がついた……

 

 

「(ミッドナイトのキズが無い…!!?)」

 

 

先ほどまでリチャードの魔法でボロボロになっていたハズのミッドナイトの体に、キズ一つ刻まれていなかった。まるで、先ほどまでのキズが無かった事にされたかのように。

 

 

「ボクに攻撃は当たらない。ボクは父上をも越える最強の、魔導士なんだ」

 

 

そう言うとミッドナイトは、不気味な笑みを浮かべた。

 

 

「(私の祈り……弟よ……もう一度お前の顔を……見たかった…)」

 

 

そう思い残して、リチャードは力なくその場に倒れてしまったのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「五つ目の祈りが消えた……ミッドナイトよ……うぬは決して消えるな……それが私の祈りだ……」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「どうなってやがる……」

 

 

「何これ…」

 

 

「む…」

 

 

その頃、王の間へとやって来たグレイたちは、困惑の表情を見せていた。

 

 

「王の間ってここよね? なのにそれらしきモノが何一つないじゃない!!!!」

 

 

「これじゃどうやってニルヴァーナを止めていいのかわかんないよー!!!!」

 

 

そう……王の間にやって来たのはいいが、そこにはニルヴァーナを操縦できるようなモノがまったく存在しなかったのだ。

 

 

「ぬうぅ…」

 

 

「くそっ……ブレインを倒せば止められるモンかと思ってたけど……」

 

 

「甘かった……止め方がわからないなんて」

 

 

ニルヴァーナを止める方法が分からず、困惑する一同。

 

一方…その近くでは、ウェンディがナツとエリオとハッピーの解毒を行なっていた。すでにエリオとハッピーは完治し、残るはナツだけなのだが……

 

 

「どうしよう? 解毒の魔法をかけたのにナツさんが…」

 

 

「おおお…」

 

 

「こんなに苦しんでる……」

 

 

「ナツは乗り物に弱いんだよ」

 

 

「そうなんですか?」

 

 

「情けないわね」

 

 

「乗り物酔い? だったら、バランス感覚をやしなう魔法が効くかも」

 

 

そう言うとウェンディは、手に淡い光を集める。

 

 

「トロイア」

 

 

そしてナツにその光をゆっくりと流し込む。

 

 

「! おお!?」

 

 

すると、目をパチッと開いたナツはゆっくりと起き上がり、その場で何やら確認するように飛び跳ねたりなどする。そして……

 

 

「おおおおおっ!!!! 平気だっ、平気だぞっ!!!!」

 

 

先ほどまでの乗り物酔いがウソのように元気になったのである。

 

 

「よかったです、効き目があって」

 

 

「すげーなウェンディ!! その魔法教えてくれ!!!」

 

 

「天空魔法だし、ムリですよ」

 

 

「これ…乗り物って実感ねーのがアレだな。よし!! ルーシィ、船とか列車の星霊呼んで──ぐはっ!」

 

 

「今それどこじゃないの、空気読みなさいこのバカナツ!!!」

 

 

乗り物酔いが直って大ハシャぎするナツを、ティアナが容赦ない拳骨で地に沈めた。

 

 

「止め方がわからねえんだ。見ての通り、この部屋には何もねえ」

 

 

グレイの言葉を聞いて、ナツは真剣な顔をして起き上がる。

 

 

「でもニルヴァーナの制御が出来るのはここだって、リチャードさんが言ってたし」

 

 

「リチャード殿がウソをつくとも思えん」

 

 

「止めるとかどうとか言う前に、もっと不自然な事に誰も気づかない訳!?」

 

 

シャルルの言葉を聞いて、全員の視線がシャルルに集中する。

 

 

「操縦席はない、王の間には誰もいない、ブレインは倒れた。なのに何でこいつはまだ動いてるのかって事よ」

 

 

シャルルの言う通り、思いつく限りのニルヴァーナを止める方法は全てクリアしているにも関わらず、変わらずニルヴァーナは目的地へと向かって動き続けている。

 

 

「まさか自動操縦!?」

 

 

「考えられない事もないわね……って事は、すでにニルヴァーナ発射までセットされてる可能性も……」

 

 

「そ…そんな……」

 

 

「僕たちの…」

 

 

「私たちの…ギルドが…」

 

 

グレイとティアナの言葉を聞いて、ウェンディ、エリオ、キャロの3人は目に涙を浮かべる。すると、そんな3人に向かってナツが口を開く。

 

 

「大丈夫! ギルドはやらせねえ、この礼をさせてくれ。必ず止めてやる!!!!」

 

 

そんなナツの力強い言葉に、3人は涙を浮かべながらも、ナツに対して期待の眼差しを向けたのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「ニルヴァーナは止まらない。このボクがいる限りね」

 

 

 

 

 

周囲に誰もいない都市の中で……ミッドナイトが不気味にそう呟いたのであった。

 

 

 

 

 

つづく


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