ラクサスが神鳴殿を発動させて十数分が経過した。ギルドでは現在、レビィが必死にフリードの術式を解読していた。
「う~ん……ローグ文字の配列情報を文字マテリアルに分解して……ルール構築に使う単語をピックアップ。L・O・S・U。さらにそれをギール文法に変換」
ブツブツと呟きながら紙に様々な文字を書き記していくレビィ。その様子をガジル、ルーテシア、アギトの三人は唖然とした表情で見ていた。
「すげえなお前……何言ってるかまったくわからねえ」
「……???」
「ルールー、無理に理解しようとすんな」
「違う!!! LとSはブラフだわ!!! アルスがキーコードよ!!」
「そ…そうか」
「大丈夫。私がアンタたちをここから出してあげる」
「オレは別に…」
「お願い、ラクサスを止めて」
「…………」
レビィにまっすぐな瞳でそう言われ、ガジルは何も言えなくなった。
ガコォン!!!
すると、突然大きな音が響き、全員がそちらに視線を向けると、ナツが術式の壁に頭を打ちつけていた。
「ヨユー」
ナツはイライラとした表情のまま、そう言い放ったのであった。
第五十二話
『獅子と翡翠の光』
一方その頃、エルザはラクサスを探してとある建物に来ていた。
「リィンフォースの話では、ここにラクサスがいると……」
遡ること数分前……エルザにリィンフォースから念話が送られてきた。
〈聞こえるかスカーレット? リィンフォースだ。エバーグリーンは倒した…これでギルドのみんなの石化は解除されるだろう〉
『そうか……さすがだな、リィンフォース』
〈よせ……それより、私はこれからヴィータとザフィーラを探してギルドに連れて帰る。主はやての事も心配だからな。ラクサスと他の雷神衆は任せてもいいか?〉
『ああ、構わない』
《そうか。ならば先ほど、エバーグリーンから聞き出したラクサスを居場所を教えておく》
そんなこんなで、現在エルザはラクサスがいると言われている建物に来ていた。
「ラクサス!!!」
そしてエルザが勢い良く建物の中に入るとそこは……
かぽーーーーん
銭湯の男湯であった。
「エルザちゃん!?」
「ちょ…!!何これ!?」
「ここは男湯だぞ!」
「何かのサービス!?」
いきなりのエルザ登場に戸惑う男客たち。
「どこだラクサス!!!」
そう言ってエルザは辺りを見回してラクサスを探すが、当然そこにラクサスはいない。
「だ……騙されたのかっ!!」
そこでようやくエバーグリーンの情報が嘘だと言う事に気づき、その場で膝をついて項垂れるエルザであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
同時刻…ハッピーと共にラクサスを探すためギルドを飛び出したルーシィ。
「何でギルドの拡声器使えないんだろ?」
「『B・O・F中はマスター以外使用禁止』って術式があったのよ。本当…ありえない芸の細かさね。てか上着着てくるんだった。さむっ」
因みにルーシィの服装は未だチアガール。
「とにかく神鳴殿から街の人を避難させなきゃ」
「その事だけど、オイラはやめておいた方がいいと思うな」
「何でよ?」
「今この街は収穫祭で、マグノリア以外の人々も集まってすごくごった返してるんだよ。パニックは危険だよ。必要のないケガ人が大勢でるし」
「でもそれじゃあ……どうしよう」
何かいい手はないかとルーシィが呟く。すると……
『ねー』
『どうしよっか』
『ねー』
「!」
気がつくと、いつの間にかルーシィの隣にトーテムポールのような人形が5体浮かんでいた。
「ルーシィ危ない!!!」
「きゃわっ」
それを見たハッピーはルーシィを抱えて飛び上がる。それと同時に、人形から魔力弾が発射された。
「なっ、なにコレぇ!?」
「ビックスローだ!!!」
そう言いながらハッピーが建物の屋上に着地すると、その向かいの建物にはグレイを倒した雷神衆の一人…ビックスローが立っていた。
「よぉ…アンタが噂の新人かい?」
「噂って何よ!!! すっごい嫌な予感するけど」
「コスプレ好き女王様だろ?」
「どんだけ尾ヒレついてんのよ!!!」
「それなに? チアガール?」
『チアだ』
『チアだー』
「これは……!」
チアガール姿で弁解しても、説得力のないルーシィであった。
「ヘイベイビー、やっちまいな!」
ビックスローがそう言うと、彼の人形が再びルーシィに向かって魔力弾を放つ。
「わっ!」
「ぎゃっ」
それを何とかギリギリでかわすルーシィとハッピー。
「悪いねぇ、入ったばっかなのに優しくしてやれなくてさぁ。でも今はこーゆーゲームの最中だから」
「あんたたち、あんな事までしてマスターが許すとでも思ってんの!?」
「マスターの許しなんかいらないよ。このゲームが終わる頃にはラクサスがマスターだし」
「もうっ! あの飛んでるのが邪魔ね」
人形を睨みながらそう言うと、ルーシィは鍵を構える。
「開け人馬宮の扉!!! サジタリウス!!!!」
「お呼びでありますか、もしもし」
そしてルーシィはサジタリウスを召喚する。
「おお!! 星霊魔法!!? つーか星霊にもコスプレかよ!!!」
「違うからっ」
ルーシィはツッコミつつ、サジタリウスに指示を出す。
「狙いは飛び回ってる奴、OK?」
「了解であるからして、もしもし!!!」
ルーシィの指示を聞き、サジタリウスは弓を構えて人形を狙い打つ。その矢は百発百中で、あっという間に5体の人形を粉々に破壊した。
「やった」
「NO---!!! ベイビーー!!!」
人形が破壊された事によって頭を抱えるビックスロー。だが……
「なんつって」
ズドォ!!!
「!!!」
「サジタリウス!!!」
次の瞬間、どこからか攻撃を放たれ、サジタリウスに直撃した。
「もしもし…? しばらく休憩が必要であります…から……」
「そんなっ!!!」
それによって大ダメージを負ったサジタリウスは、そのまま星霊界へと戻ってしまった。
「いくら人形壊しても、〝魂〟を操るオレにはまったく関係ねーし」
「魂!?」
「ビックスローは魂を人形に憑かせる魔法を使うんだ」
「この下ホビーショップ。人形の宝庫よ」
つまり、いくら人形を破壊されても代わりはいくらでもあると言う事である。
そしてそんな会話をしている間に、一体の人形がルーシィの鍵を掠め取ってしまった。
「あ! あたしの鍵!!!」
そしてその人形は鍵を持ったままどこかへと飛んでいった。そしてすぐさま、別の人形がルーシィに襲い掛かる。
「きゃあ!」
「んぎゃ!」
人形の猛攻にルーシィはこかされ、ハッピーは蹴り飛ばされる。
「もう後には引けねえんだ。悪ぃな、コスプレ嬢ちゃん。ラクサスの為にその魂を捧げろ!!! バリオンフォーメーション!!!」
ビックスローの指示と共に、五角形の形に並ぶ人形たち。そして……
「てぇい!!!」
そこから、なのはのディバインバスター並みの砲撃が発射された。
「なに…これ…」
「やめろーーー!!!」
迫り来る砲撃にルーシィは目を見開き、ハッピーは叫びを上げる。
その時……
「ラウンドシールド!!!!」
ドゴォォォォオン!!!!
突如…一人の男が翡翠色の魔力の盾で砲撃を防ぎ、もう一人の男がルーシィを抱えて爆発の余波から庇った。
そしてその出来事に全員が呆然としていると、二人の内の一人が口を開く。
「何でだろうね。僕だけが君の意思に関係なく自由に
ルーシィを抱えた男がそう言うと、もう一人の男が呆れたように口を開く。
「ハァ……まったく…久々に帰って来たと思ったらこの騒ぎだ……ラクサスにも困ったモンだね」
「お……お前等は…」
その二人の男を見て、ビックスローは驚愕する。
「久しぶりだね、ルーシィ」
「約束を果たす時が来たようだね」
そしてその二人を見たルーシィは、嬉しそうな表情で二人の名を叫んだ。
「ロキ!! ユーノさん!!!」
その二人とは……ルーシィの星霊の一体で、獅子宮のレオこと…ロキ。そして
「ロキ!! お前ロキじゃねーか! やっぱり星霊だったのかぁ、くーーっそんな気がしてたんだよなぁ。黙っててやったのにオレに牙を剥くのか」
「気づいてた?」
「ビックスローは人の魂を見ることができるんだよ」
「それにお前は考古学者様のユーノじゃねーかぁ!!! 二人ともバトル・オブ・フェアリーテイルに参加か?あ?」
ビックスローの問い掛けに、ロキはスーツをビッと正しながら答える。
「その辺の事情にはあまり興味ないんだけどね。僕の
ロキがそう言うと、ユーノもメガネを押し上げながら口を開く。
「僕も同意見だよ。ここへ来る途中で、何人ものキズつき倒れた仲間たちを見てきた……彼女を……ルーシィをそんなに目に遭わせようと言うのなら……容赦しないよ…ビックスロー」
ユーノの言葉を聞き、ビックスローはバカにしたように笑う。
「容赦しないってオイオイ、学者様がオレに勝てると思ってんの? ロキだってオレに勝てたことねーじゃん。オレはいつも手ぇ抜いてケンカしてやってんのになぁ。昔みてーにいじめてやろーぜベイビー!!!」
そう言うと、ロキは人形たちを突撃させる。
「ルーシィ、下がってて」
「何言ってんの!! 星霊は盾じゃないの!! 一緒に戦うのがあたしのスタイル」
「……ははっ、ルーシィらしいよ」
鞭を構えながらそう言うルーシィに、ユーノは微笑みながらそう言う。そんな会話をしている間に、人形たちが三人に向かって魔力弾を放ってくる。
「あの人形は僕とロキで何とかする!!! 道が出来たら、ルーシィはビックスローを!!!」
「はい!! いくよハッピー!!」
「あい!!」
ユーノの言葉に全員が頷き、それぞれ行動を開始する。
「
すると、ロキの両腕が眩い光に包まれ、そのまま腕を振るって人形を破壊した。
「無~駄だってぇ!!! 魂に攻撃は効かない!!! いくら壊されても新しい
だがビックスローは再び別の人形を操り、ルーシィに突撃させる。しかし……
「チェーンバインド!!!!」
「なに!!?」
ユーノがすぐさま魔力で構成された鎖で、それらの動きを封じた。
「だったら、こうやって動きを封じるまでさ!!! 今だよルーシィ!!!」
「チャンス!!」
そう言ってルーシィはハッピーと共にビックスローに向かって飛んでいく。
「これで観念しなさーい!!!」
「くっ」
ルーシィは鞭を振るって攻撃を仕掛けるが、ビックスローは後ろに飛んでそれを避ける。
「おおっ、怖ーな女王様」
「違うって言ってんでしょ!!!」
「ビックスロー本体はそう力を持っていない!! がんばれ!!!」
「何だとコノヤロウ!!! あふっ」
ビックスローはロキの言葉に激情するが、ルーシィの鞭が命中し黙らされる。
「ちくしょオ!!! アレをやるしかねえか!!!」
そう言うと、ビックスローは身に着けていた仮面を外す。
「
「目を見ちゃダメだ!!! ルーシィ!!! ユーノ!!! ロキ!!!」
「え?」
「雷神衆はみんな〝眼〟にセカンドの魔法を持っているんだ!!! エバはメインで使ってるけど」
「何!?」
「ビックスローの目を見たら人形化して、魂を操られちゃうんだ」
ハッピーの言葉に従い、すぐさま目を閉じるルーシィとロキ。
「危なー」
「目をつぶったな」
一安心するルーシィだが、それこそがビックスローの狙い。自ら目を瞑って何も見えない状態のルーシィとロキに人形で攻撃を仕掛ける。
「きゃあっ!!」
「ぐあっ!!」
人形の猛襲でキズついていくルーシィとロキ。
「あうっ」
「くそ…こんな魔法が……」
ロキは闇雲に腕を振るうが、目が見えない状態で当たるわけがない。
「ヒャーハッハッハッハッ!!! この【
そう言って笑い声を上げながら己の勝利を確信するビックスロー。
だがその時……
「チェーンアンカー!!!!」
「ぐおっ!!?」
突如、ビックスローの首に翡翠色の鎖が巻き付いた。
その鎖の先に視線を向けると、そこには目を開けた状態で立っているユーノの姿があった。
「捕まえた……」
「な…何でテメェ目を開けてんだよ!!? オレの
「忘れたのかい? ビックスロー」
動揺するビックスローに、ユーノは笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「魔法考古学者である僕は、ギルドに所属している人達みんなの魔法や、その特性を熟知しているんだよ。まぁ…ナツの滅竜魔法みたいな謎の多い魔法もあるけど……」
「そ…それがどうしたんだよ!!?」
そう問い掛けながらもビックスローは鎖を解こうとするが、まったく外れる気配がない。
「魔法の特性を知っていると言う事は……弱点も知っていると言う事だよ!!!」
「っ!!!」
「そして君のその
「……………!!!」
ユーノの言葉に、ついにビックスローは言葉を失った。
「そう言うわけだからロキ、サングラスをかけてる君にも
「……そう言うことは早く言ってくれないかな?」
それを聞いたロキは軽い文句を言いながら目を開ける。
「あはは…ごめん。あ、ルーシィとハッピーはそのまま目を閉じてて……あとは僕とロキでやるから」
「は…はい……!!」
ユーノの言葉に素直に頷くルーシィ。
「よし……決めるよロキ!!!」
「うん!!!」
そう言ってユーノとロキは頷き合い、行動を開始した。
「せぇえい!!!」
「ぬおっ!!!」
ユーノはビックスローの首に巻きついたチェーンアンカーを思いっきり引っ張り、彼を引き寄せる。
そしてあらかじめ足元に展開させていた魔法陣を発動させ……
「ウェイブゲイザー!!!!」
「うおわぁぁあああ!!!」
そこから発せられる翡翠色の魔力の衝撃波でビックスローを吹き飛ばす。
さらにその吹き飛ばされた先には……ロキがいた。
「お前らがオレに…勝てるわけ……」
「あの頃の僕とは違うんだ……ルーシィに会って、星霊本来の力が蘇った。いや、ルーシィに会って、僕は強くなった。お前の操り人形とは違う!!! 愛が星霊を強くする!!!!」
そう言ってロキは、全ての光を右腕に込めて……思いっきり振るった。
「
「ぐおああああああああっ!!!!」
ロキの渾身の一撃を喰らったビックスローは断末魔を上げながら倒れ、気絶した。
「やった!!!」
「ありがとうロキ、ユーノさん」
「見て、ルーシィ。愛の光を」
そう言ってロキが光を壁に向かって放つと、そこには……
『I LOVE LUCY』
と映し出されていた。
「えーと…」
「でぇきてぇる゙」
「巻き舌風に言わないの!」
「えっと……あはは……」
その光景に、ルーシィは戸惑い、ハッピーは茶化し、ユーノは苦笑いしか出来なかったのであった。
【ビックスローVSルーシィ&ユーノ】
【勝者:ルーシィ&ユーノ】
つづく