LYRICAL TAIL   作:ZEROⅡ

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エバルー屋敷

 

 

 

ナツ、ハッピー、ルーシィの三人チームにユーノを加えた四人は、仕事先である『シロツメの街』に到着した。

 

 

「着いた!!」

 

 

「ナツ、大丈夫?」

 

 

「もう二度と馬車には乗らん…」

 

 

「いつも言ってるよ」

 

 

乗り物酔いで苦しそうなナツにユーノが声をかけるが、どうやら大丈夫そうだ。

 

 

「とりあえず腹減ったな。メシにしよメシ!!」

 

 

「ホテルは? 荷物置いてこ―よ」

 

 

「あたしお腹空いてないんだけどぉ~。アンタ自分の〝火〟食べれば?」

 

 

何気なく言ったルーシィの言葉にナツはドン引きする。

 

 

「とんでもねぇ事言うなぁ。お前は自分の〝プルー〟や〝牛〟を食うのか?」

 

 

「食べるわけないじゃない!!」

 

 

そんな言い争いをする二人の間にユーノが仲介に入る。

 

 

「まぁまぁ……つまり、ナツは自分で出した火は食べることが出来ないんだ」

 

 

「めんどくさー」

 

 

ユーノの説明を聞いて、ルーシィは呆れ気味に言う。

 

 

「そうだ! あたしちょっとこの街見てくる。食事は三人でどーぞ」

 

 

そう言ってルーシィはどこかに行ってしまう。

 

 

「何だよ……みんなで食った方が楽しいのに」

 

 

「あい」

 

 

「まぁ、彼女にも彼女なりの考えがあるんだよ。さぁ、早くホテルに荷物を置いてご飯を食べに行こう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第五話

『エバルー屋敷』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、ホテルに荷物を預けた三人は街のレストランで食事を取っていた。

 

 

「脂っこいのはルーシィにとっておこっか」

 

 

「脂っこいの好きそうだもんね」

 

 

「おおっ!! これスッゲェ脂っこい!!!」

 

 

「二人とも……」

 

 

ナツとハッピーの会話をユーノは食後のコーヒーを飲みながら聞いている。すると…

 

 

「あ、あたしがいつ脂好きになったのよ…もう……」

 

 

ユーノの背後からルーシィの声が聞こえたので、ユーノは振り返りながら声をかける。

 

 

「あ、ルーシィ。もう用事は終わ……った……の?」

 

 

「お! ルー……シィ?」

 

 

ユーノとナツはほぼ同時に言葉を詰まらせた。何故なら、そこにはルーシィが立っていた。

 

 

「結局あたしって、何着ても似合っちゃうのよねえ」

 

 

……メイド服姿で。

 

 

「「「……………」」」

 

 

その姿を見てポカーンとする三人。特にナツとハッピーは口に入れていたモノをボロボロとこぼすほど呆然としていた。

 

 

「お食事はおすみですか? 御主人様。まだでしたらごゆっくり召し上がってくださいね♪」

 

 

と、ルーシィはメイドになり切ってそう言うが、ナツとハッピーとユーノは顔を見合わせ、ヒソヒソと話し始める。

 

 

「どーしよぉ~! 冗談で言ったのに本気にしてるよ~!! メイド作戦」

 

 

「だからルーシィをからかうのは程々にしときなよって言ったのに……」

 

 

「今さら冗談とは言えねえしな。こ…これでいくか?」

 

 

「聞こえてますがっ!!?」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

ちょっとしたひと悶着はあったが、一同は大きな屋敷の前に来ていた。

 

 

「立派な屋敷ね~。ここがエバルー公爵の……」

 

 

「違うよ。ここは依頼主の屋敷。まずは依頼主に会って、クエストの詳しい話を聞かないとね」

 

 

「そっか……本一冊に20万Jも出す人だもんね。お金持ちなんだぁ」

 

 

ルーシィが感心している間に、ナツが屋敷の扉をノックする。

 

 

「どちら様で?」

 

 

「魔導士ギルド、フェアリー……」

 

 

「!! しっ!!! 静かに!!! すみません…裏口から入っていただけますか?」

 

 

「「「?」」」

 

 

三人は首を傾げるが、言われたとおりに裏口から入ることになった。

 

 

そして屋敷に入ると、初老の男女が迎えてくれた。

 

 

「先程はとんだ失礼を……私が依頼主のカービィ・メロンですこっちは私の妻」

 

 

夫婦ともに頭を下げて挨拶をする。

 

 

「うまそうな名前だな」

 

 

「メロン!」

 

 

「二人とも!」

 

 

「ちょっと失礼よ!」

 

 

「あはは! よく言われるんですよ」

 

 

ナツとハッピーの失礼な発言に、ユーノとルーシィは注意するが、カービィ本人は笑って許してくれた。

 

 

「(メロン…この街の名前もそうだけど、どこかで聞いたことがあるのよね…)」

 

 

と、ルーシィは顎に手を当ててここまで考えるが、特に思い当たるフシが無いので、すぐに思考を切り替えた。

 

 

「まさか噂に名高い妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士さんがこの仕事を引き受けてくれるなんて……」

 

 

「そっか? こんなうめぇ仕事、よく今まで残ってたなぁって思うけどな」

 

 

「(仕事の内容と報酬がつりあってないから警戒してたんだよ、みんな)」

 

 

ユーノは口には出さず、心の中でそう思った。

 

 

「しかもこんなお若いのに。さぞ有名な魔導士さんなんでしょうな」

 

 

「ナツは火竜(サラマンダー)って呼ばれてて、ユーノは魔法考古学者なんだよ」

 

 

「おお!! その字なら耳にしたことが。それにこの方があの有名な!!」

 

 

「いえそんな……有名と言う程では……」

 

 

ユーノは照れくさそうに苦笑する。そして、カービィの視線はルーシィへと向く。

 

 

「……で、こちらは?」

 

 

「あたしも妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士です!!」

 

 

ルーシィがそう言うと、カービィはルーシィの服装をジッと見る。

 

 

「その服装は趣味か何かで?いえいえ…いいんですがね」

 

 

「ちょっと帰りたくなってきた」

 

 

「まぁまぁ……」

 

 

シクシクと泣くルーシィをユーノが慰める。因みにナツとハッピーは爆笑していた。

 

 

「仕事の話をしましょう」

 

 

カービィがそう言うと、全員が気を引き締める。

 

 

「私の依頼したいことはただ一つ。エバルー侯爵の持つ本、日の出(デイ・ブレイク)の破棄又は焼失です」

 

 

「盗ってくるんじゃねえのか?」

 

 

「実質上、他人の所有物を無断で破棄するわけですから、盗るのと変わりませんがね……」

 

 

「驚いたぁ…あたしてっきり奪われた本かなんかを取り返してくれって感じの話かと」

 

 

「中にはそう言う依頼もあるんだよ。でも、魔導士ギルドに依頼するほどなんて……その本はカービィさんにとってどう言った本なんですか?」

 

 

「…………」

 

 

ユーノの質問にカービィは黙る。するとナツが笑いながら口を開く。

 

 

「どーでもいいじゃねえーか。20万だぞ20万!!」

 

 

「いいえ…200万Jお払いします。成功報酬は200万Jです」

 

 

「えぇっ!!?」

 

「にっ!!?」

 

「ひゃっ!!!」

 

「くぅ!!?」

 

 

その言葉を聞いて、上からユーノ、ルーシィ、ハッピー、ナツの順番で驚愕する。

 

 

「なんじゃそりゃあああっ!!!」

 

 

「おやおや、値上がったのを知らずにおいででしたか」

 

 

立ち上がって驚愕するナツにカービィが笑いながら言う。

 

 

「200万!!? ちょっとまて!! 四等分すると…………うおおおっ計算できん!!」

 

 

「簡単です。オイラが100万、ナツが100万、残りは二人です」

 

 

「頭いいなぁ!!! ハッピー!!!」

 

 

「残らないわよっ!!!」

 

 

「四等分で一人50万だよ。それより、落ち着きなよ」

 

 

興奮する三人をユーノが冷静に落ち着かせ、カービィに向き直る。

 

 

「カービィさん。どうして急に値上がりを? 正直、本一冊で20万でもつりあっていないと思っていたのに、200万だなんて……」

 

 

「それだけどうしてもあの本を破棄したいのです。私はあの本の存在が許せない」

 

 

「……………」

 

 

カービィの意味深な言葉をユーノは黙って聞いている。すると、隣にいたナツの顔が燃え上がる。

 

 

「おおおおおっ!!! 行くぞルーシィ!!! 燃えてきたぁ!!!」

 

 

「ちょ…ちょっとぉ!!!」

 

 

そう言って、ナツはルーシィとハッピーを引っ張って大急ぎでエバルーの屋敷へと向かった。

 

 

「やれやれ……」

 

 

取り残されたユーノもその後を追うように広間を出て行き、広間にはメロン夫婦が残った。

 

 

「あなた…本当にあんな子供たちに任せて大丈夫なんですか?」

 

 

「…………」

 

 

「先週…同じ依頼を別のギルドが一回失敗しています。エバルー公爵からしてみれば、未遂とはいえ自分の屋敷に賊が入られた事になります。警備の強化は当然です。今は屋敷に入る事すら難しくなっているんですよ」

 

 

「わかっている……わかって…いるが……あの本だけは…この世から消し去らなければならないのだ」

 

 

カービィが苦悩に満ちた表情で発する重たい言葉。その言葉を、彼の妻以外で聞いている者がいた。

 

 

 

「……………」

 

 

 

その言葉を広間の入り口前の扉に隠れているユーノであった。カービィの言葉を聞いたユーノは、掛けているメガネをクイッと押し上げると……

 

 

日の出(デイ・ブレイク)……調べてみる必要がありそうだね」

 

 

誰にも聞こえないようにそう言い残し、今度こそ、屋敷を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「ごめん、お待たせ」

 

 

「おせぇぞユーノ。何してたんだよ?」

 

 

「ちょっとね。それより、どうしたのルーシィ」

 

 

少し遅れてナツ達と合流したユーノは謝罪をした後、何故かしくしくと泣きながら落ち込んでいるルーシィが目に入った。

 

 

「あい。メイド作戦が失敗したのです」

 

 

「使えねぇよな」

 

 

「違うのよ!! エバルーって奴の美的感覚がちょっと特殊なの!!! アンタも見たでしょメイドゴリラ!!!」

 

 

「め…メイドゴリラ?」

 

 

「言い訳だ」

 

 

「キィーー!!! くやしーーー!!!」

 

 

ルーシィは悔し涙を流しながら大声を上げるが、そんなことは気にせず、ナツは話を進める。

 

 

「じゃあ次の作戦行ってみっか!」

 

 

「次の作戦?」

 

 

「おう! ユーノが変身魔法で小動物に変身して忍び……」

 

 

「絶っ対にイヤだ!!!!」

 

 

ナツが言い切る前にユーノが全力で否定する。

 

 

「何だよユーノ。まだあん時の事引きずってんのか?」

 

 

「あの出来事は僕の人生最大の汚点にして一番のトラウマなんだよ……」

 

 

顔に影を作り、暗い表情でそう語るユーノを見て、ルーシィは首を傾げ、近くにいたハッピーに尋ねる。

 

 

「ねぇ、ユーノさんはどうしてあんなに変身魔法を嫌がってるの?」

 

 

「あい。ユーノは昔一度だけ今回と同じような仕事を受けたことがあるんだ。で、その時に変身魔法を使ってフェレットに変身して忍び込んだんだけど、その時に間違えて……」

 

 

「ハッピー」

 

 

「!!!」

 

 

すると…冷たく、無機質な声が聞こえ、ハッピーはビクッと身体を震わせる。見るとそこには満面の笑みだが目が一切笑っていないユーノの姿があった。

 

 

「それ以上しゃべると………怒るよ?」

 

 

「ご…ごめんなさい」

 

 

ユーノにそう言われ、それ以降ハッピーは黙ってしまった。それを見ていたナツとルーシィも恐怖に煽られ、それ以上何も言わないことにした。

 

 

そして結局、一同は屋上の窓から忍び込むことにした。

 

 

「なんでこんなコソコソ入らないきゃいけねえんだ」

 

 

「依頼とはいえ、やってることは賊と一緒だからね。相手が悪党じゃない限り、強硬手段は得策じゃないんだ」

 

 

「そうよ! ヘタなことしたら軍が動くわ」

 

 

「何だよ。お前だって『許さん!!』とか言ってたじゃん」

 

 

「ええ!! 許さないわよ!! あんなこと言われたし!! だから本を燃やすついでにアイツの靴とか隠してやるのよっ!!」

 

 

「うわ…小っさ」

 

 

「あい」

 

 

「三人とも静かに……入るよ」

 

 

騒ぐ三人に注意を促しながら窓を開けて中に入り込むユーノ。それに他の三人が続く。

 

 

「ここは物置か何かかしら?」

 

 

忍び込んだ部屋は色んなモノが置かれていた。おそらくルーシィの言う通り物置だろう。

 

 

「ナツ、見て~」

 

 

「お!似合うぞハッピー」

 

 

「遊ばないの。ほら、そこの部屋から出られるから行くよ?」

 

 

ドクロを被って遊んでいるハッピーとそれを見て笑っているナツを注意しながら、ユーノは先導して扉を開く。そして誰も居ないことを確認すると、全員で廊下に出る。

 

 

「おいユーノ。まさかこうやって一個一個部屋の中を探していくつもりなのか?」

 

 

「もちろん」

 

 

「誰かとっつかまえて本の場所聞いた方が早くね?」

 

 

「あい」

 

 

「ダメ。見つかったら色々と面倒なんだから」

 

 

「それに見つからないように任務を遂行するのも忍者みたいでかっこいいでしょ?」

 

 

「に……忍者かぁ」

 

 

忍者と聞いて、ナツが惚けた顔をする。すると……

 

 

「侵入者発見!!!」

 

 

床からゴリラのようなメイドとキッツイルックスをしたメイド数人が飛び出してきた。

 

 

「うほぉぉおおおおっ!!!」

 

 

「見つかったぁーーっ!!」

 

 

「ハイジョ…シマス」

 

 

そう言ってメイドゴリラが目を光らせる。その時……

 

 

 

「チェーンバインド!!!」

 

 

 

『!!!』

 

 

ユーノが魔法で作られた翡翠色の鎖を放ち、メイド全員を一瞬で縛り上げた。

 

 

「今だ! ナツ!!」

 

 

「おおおおっ……」

 

 

すると、ナツはおもむろにマフラーで自分の顔を隠し……

 

 

「忍者ぁっ!!!」

 

 

と、忍者のまね事をしながら、炎を纏った蹴りでメイドたちを蹴り飛ばした。

 

 

「まだ見つかるわけにはいかんでござるよ。にんにん」

 

 

「にんにん」

 

 

「普通に騒がしいからアンタ……」

 

 

「とにかく、一度隠れよう。こっちだ」

 

 

そう言ってユーノは三人を先導し、近くの部屋へ入る。

 

 

「ふぅー危なかったぁ」

 

 

部屋に入って一息つくと…

 

 

「うおお!! スゲェ本の数でござる!!」

 

 

「あい!! でござる!!」

 

 

二人の言う通り、一同が入った部屋は巨大な本棚が並んでいた。

 

 

「エバルー公爵って頭悪そうな顔してるわりには蔵書家なのね」

 

 

「探すぞー!!」

 

 

「あいさー!!」

 

 

「確かに、これを全部読んでるとしたら感心するね」

 

 

「うほっ!! エロいの見っけ!!」

 

 

「魚図鑑だ!!!」

 

 

「はぁーこんな中から一冊の本を見つけんのはしんどそぉ」

 

 

「ふふ、そうでもないかもしれないよ」

 

 

「え? それってどういう……」

 

 

ユーノの意味深な言葉にルーシィが問い掛けようとしたその時……

 

 

「おおおっ!!! 金色の本発っけーん!!!」

 

 

「ウパー!!!」

 

 

ナツとハッピーの楽しそうな声が響いた…と言うより先ほどから騒がしい二人である。

 

 

「アンタら真面目に探しなさいよ!!!」

 

 

「いや、見てみなよルーシィ」

 

 

「え?」

 

 

ユーノにそう言われ、ナツが持っている金色の本を凝視するルーシィ。その本のタイトルは……

 

 

日の出(デイ・ブレイク)!!!」

 

 

「見つかったーーっ!!」

 

 

「こんなにあっさり見つかっちゃっていい訳!!?」

 

 

「ね? こういう時のナツって、すごく運が良いんだ」

 

 

驚愕する三人にまるで分かっていたかのように言うユーノ。

 

 

「さて、燃やすか」

 

 

「簡単だったね」

 

 

そう言って、手に炎を灯して本を燃やす準備をするナツ。

 

 

「ちょっと待った」

 

 

すると、ユーノがそれを止めに入る。

 

 

「どうしたユーノ?」

 

 

「悪いけど、燃やすのはちょっと待ってもらうよ」

 

 

そう言うとユーノはナツから本を受け取り、その本のページをパラパラと捲り始める。そしてしばらくそうした後、パタンっと勢いよく本を閉じる。

 

 

「やっぱりね……」

 

 

そして、小さく呟くように言うと、ルーシィが首を傾げる。

 

 

「どうしたの?」

 

 

「読んでみればわかるよ」

 

 

そう言ってユーノはルーシィに本を渡す。すると、ルーシィは驚いた表情をする。

 

 

「こ…これ……作者ケム・ザレオンじゃない!!!」

 

 

「ケム?」

 

 

「魔導士であり、小説家だった人だよ」

 

 

「あたし大ファンなのよーー!!! うっそぉ!!? ケム・ザレオンの作品全部読んだハズなのにーー!!! 未発表作ってこと!!? すごいわ!!!」

 

 

一人感極まるルーシィに、ナツが興味なさそうに告げる。

 

 

「いいから早く燃やそうぜ」

 

 

「何言ってんの!!? これは文化遺産よ!! 燃やすだなんてとんでもない!!!」

 

 

「仕事放棄だ」

 

 

「いや、ルーシィの言う通りだよ」

 

 

言い争う三人に、ユーノが割ってはいる。

 

 

「この本は燃やすわけにはいかない」

 

 

「ユーノまで何言ってんだよ!!?」

 

 

「よく聞いて。この本には……」

 

 

ユーノが何かを説明しようとしたその時……

 

 

「なるほどなるほど、ボヨヨヨ……貴様らの狙いは〝日の出(デイ・ブレイク)〟だったのか」

 

 

床を突き破り、この屋敷の主・エバルー公爵が現れた。

 

 

「ホラ…もたもたしてっから!!」

 

 

「ご…ごめん」

 

 

文句を言うナツに謝罪するルーシィ。

 

 

「ふん、魔導士どもが何を躍起になって探しているかと思えば…そんなくだらん本だったとはねぇ」

 

 

「くだらん本?」

 

 

依頼主のカービィが大金を出してまで破棄したい本を、エバルーまでもくだらないと言った。

 

 

「も…もしかしてこの本、もらってもいいのかしら?」

 

 

「いやだね。どんなくだらん本でも我輩の物は我輩の物」

 

 

「ケチ」

 

 

「うるさいブス」

 

 

口論するルーシィとエバルー。

 

 

「燃やしちまえばこっちのモンだ」

 

 

「ダメ!! 絶対ダメ!!!」

 

 

「ルーシィ!! 仕事だぞ!!」

 

 

「じゃ、せめて読ませて」

 

 

「「「「ここでか!!?」」」」

 

 

ルーシィの予想外な行動に、その場に居た全員がツッコム。

 

 

「ええい!!!気にくわん!!偉ーーい我輩の本に手を出すとは!!!来い!!バニッシュブラザーズ!!!」

 

 

エバルーがそう叫ぶと、本棚の後ろに隠された扉が開き、そこから二人組みの男が現れる。

 

 

「やっと仕事(ビジネス)時間(タイム)か」

 

 

「仕事もしねえで金だけもらってちゃあママに叱られちまうぜ」

 

 

「グッドアフタヌーン」

 

 

「こんなガキ共が妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士かい? そりゃあママも驚くぜ」

 

 

そう言う二人の男の服には、狼のような紋章がついていた。

 

 

「あの紋章は……傭兵ギルド、南の狼だね」

 

 

「こんな奴等雇ってたのか」

 

 

「ボヨヨヨ!! 南の狼は常に空腹なのだ!! 覚悟しろよ!!」

 

 

エバルーがそう言うと同時に、互いを睨みあう一同。

 

 

……その中で一人本を読みふけるルーシィ。

 

 

「「「「「「おい!!!!」」」」」

 

 

そんなルーシィに全員が再びツッコミを入れる。

 

 

「これ……」

 

 

すると、ルーシィが少々震えながら呟いた。そして突然立ち上がり、部屋の出口に向かって走り出した。

 

 

「ナツ!! 少し時間をちょうだい!!! この本にはなんか秘密があるみたいなの!!!」

 

 

「は?」

 

 

「秘密!!?」

 

 

「(……ルーシィも気がついたんだね)」

 

 

「ルーシィ!! 何処行くんだよ!?」

 

 

「どっかで読ませて!!」

 

 

「はぁ!?」

 

 

ルーシィは早口にそう言うと、部屋を出て行ってしまった。

 

 

「作戦変更じゃ!! あの娘は我輩自ら捕まえる!!! バニッシュブラザーズよ!! その小僧どもを消しておけ!!」

 

 

そう言うとエバルーも何故か床に潜って姿を消した。

 

 

「やれやれ身勝手な依頼主は疲れるな」

 

 

「まったくだ」

 

 

「めんどくせぇ事になってきたなぁ。ハッピーとユーノはルーシィを追ってくれ」

 

 

「加勢は?」

 

 

「いらね。一人で十分だ」

 

 

自信満々にそう言うナツに、ユーノとハッピーは頷き合う。

 

 

「了解。任せたよ」

 

 

「ナツ!! 気をつけてねーー!」

 

 

「おーー!! ルーシィ頼むぞーー!!」

 

 

そう言って、ユーノとハッピーはナツをその場に残し、ルーシィとエバルーを追いかけて行った。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

そして、場所は移り屋敷の下水道。

 

ルーシィはそこで倍速で本を読める眼鏡、『風読みの眼鏡』をかけて本を読んでいた。そして読み終わり、本をパタンっと閉じる。

 

 

「ユーノさんが言おうとしてたのは、この事だったんだ……この本は、燃やせないわ…カービィさんに届けなきゃ……」

 

 

そう言ってルーシィが立ち上がったその瞬間……

 

 

「ボヨヨヨ…風読みの眼鏡を持ち歩いているとは…主もなかなかの読書家よのう」

 

 

ルーシィがもたれ掛かっていた壁から、突然腕が飛び出してきた。

 

 

「!! やばっ!!」

 

 

気付いた時には既に遅く、ルーシィの両腕は押さえられ、鍵も落としてしまった。

 

 

「さあ言え何を見つけた? その本に秘密とは何だ?」

 

 

「あ、アンタなんかサイテーよ…文学の敵だわ……」

 

 

腕から走る痛みに耐えながら、ルーシィはエバルーに向かってそう言った。

 

 

「文学の敵だと!!? 我輩のように偉~~~くて教養のある人間にたいして」

 

 

「変なメイド連れて喜んでる奴が教養ねえ…」

 

 

「我が金髪美女メイドを愚弄するでないわっ!」

 

 

「痛っ!! 色んな意味で…」

 

 

さらに腕を捻られ、苦痛の声を上げるルーシィ。

 

 

「宝の地図か!? 財宝の隠し場所か!? その本の中にどんな秘密がある?」

 

 

「…………!!」

 

 

「言え!!言わんと腕をへし折るぞ!!」

 

 

「…べーー」

 

 

そう言って舌を出すルーシィ。それによって、エバルーの逆鱗に触れる。

 

 

「調子に乗るでないぞ小娘がぁあ!! その本は我輩の物だ!! 我輩がケム・ザレオンに書かせたんじゃからな!! 本の秘密だって我輩のものなのじゃぁ!!」

 

 

そう怒鳴りながらさらに力を入れるエバルー。本当に腕が折れると思ったその時……

 

 

 

「チェーン・バインド!!!」

 

 

 

「ボヨ?」

 

 

「えっ?」

 

 

突如、エバルーの首に魔力で構成された鎖が巻きつき……

 

 

「せぇえええいっ!!!」

 

 

「ぎゃぁああああ!!?」

 

 

思いっきり引っ張られ、壁に叩きつけられた。そして、解放されたルーシィに駆け寄る。

 

 

「大丈夫、ルーシィ?」

 

 

「ユーノさん!ハッピー!!」

 

 

その二人の姿を見て、ルーシィは安堵の表情をする。

 

 

「おのれ……」

 

 

「形成逆転ね。この本をわたしにくれるなら見逃してあげるわよ。一発は殴るケド……」

 

 

復活したエバルーに向かって鍵を構えながらそう言うルーシィ。

 

 

「ほぉう…星霊魔法かボヨヨヨ。だが、文学少女のくせに言葉の使い方を間違っておる。形勢逆転とは勢力の優劣状態が逆になること…人一人とネコが一匹増えたくらいで我輩の魔法〝土潜(ダイバー)〟はやぶれんぞ!!」

 

 

そう言って再び地面に潜るエバルー。

 

 

「この本に書いてあったわ。内容はエバルーが主人公のひっどい冒険小説だったの」

 

 

「なんだそれ!!?」

 

 

攻撃を避けながらそう言うルーシィに驚くハッピー。

 

 

「我輩が主人公なのは素晴らしい。しかし内容はクソだ。ケム・ザレオンのくせにこんな駄作を書きよってけしからんわぁっ!!」

 

 

その言葉に激昂したのか、ユーノが怒鳴る。

 

 

「無理矢理書かせたくせに、偉そうなことを言うな!!!」

 

 

「偉そう? 我輩は偉いのじゃ。その我輩の本をかけるなどもすごく光栄なことなのじゃぞ」

 

 

「脅迫して書かせたんじゃないっ!!!」

 

 

「脅迫?」

 

 

脅迫と言う言葉にハッピーは首を傾げるが、エバルー本人はどこ吹く風と言う表情をしている。

 

 

「それが何か? 書かぬと言う方が悪いに決まっておる」

 

 

「なにそれ…」

 

 

「無駄だよルーシィ。この男は根本的に腐ってる」

 

 

反省の色が無いエバルーにルーシィとユーノは呆れる。

 

 

「偉ーーーいこの我輩を主人公に本を書かせてやると言ったのに、あのバカ断りおった。だから言ってやったんだ。書かぬと言うなら奴の親族全員の市民権を剥奪するとな」

 

 

「市民権剥奪って…そんなのとされたら商業ギルドや職人ギルドに加入できないじゃないか!? こいつそんな権限あるの!?」

 

 

「封建主義の土地はまだ残ってるのよ…」

 

 

「こんな奴でもこの辺りじゃ絶対的な権限を振るっているんだ」

 

 

ルーシィを庇いながらユーノはエバルーからの攻撃を避け続ける。

 

 

「結局奴は書いた!! しかし一度断ったことがムカついたから独房で書かせてやったよ!! ボヨヨヨヨ!! やれ作家だ文豪だ…とふんぞりかえっている奴の自尊心を砕いてやった!!!」

 

 

「自分の欲望のためにそこまでするのってどうなのよ!?」

 

 

「独房に監禁された3年間! 彼がどんな思いでいたかお前に分かるか!!?」

 

 

「3年も…!?」

 

 

「我輩の偉大さに気付いたのだ!!」

 

 

「違う!! 自分のプライドとの戦いだった!! 書かなければ家族の身が危ない!!」

 

 

「けど、お前みたいな奴を主人公にした本なんて…作家としての誇りが許さない!!」

 

 

家族を想う心と作家としての誇りのぶつかり合う三年間。その間にも誇りを汚される本を書いた。

 

 

「貴様ら…何故それほど詳しく知っておる?」

 

 

「全部この本に書いてあったのさ」

 

 

ユーノはルーシィが抱えている本を指差しながら言う。

 

 

「はぁ? それなら我輩も読んだ。ケム・ザレオンなど登場せんぞ」

 

 

「もちろん普通に読めばファンもがっかりの駄作よ。でもアンタだって知ってるでしょ? ケム・ザレオンは元々は魔導士」

 

 

「なっ……まさかっ!?」

 

 

「そうさ。彼は…ケム・ザレオンは最後の力を振り絞って…この本に魔法をかけたんだ!!」

 

 

「魔法を解けば我輩への恨みをつづった文章が現れる仕組みだったのか!? け、けしからん!!」

 

 

「発想が貧困ね…確かにこの本が完成するまでの経緯は書かれてたわ。だけどケム・ザレオンが残したかった言葉はそんなことじゃない。本当の秘密は別にあるんだから」

 

 

「な……っ!? なんだと!?」

 

 

「だからこの本はアンタには渡さない!! てゆーかアンタには持つ資格なし!!」

 

 

そう言って、ルーシィは一本の鍵を構える。

 

 

「開け!! 巨蟹宮の扉……『キャンサー』!!!」

 

 

その瞬間、ルーシィの前に現れたのは、背中からカニの足を生やし、両手には普通のハサミを持った人型の星霊だった。

 

 

「蟹キターーーー!!!」

 

 

そしてハッピーの感激の声が響く。

 

 

「絶対語尾に『~カニ』つけるよ!! 間違いないよね!! カニだもんね!! オイラ知ってるよ〝お約束〟って言うんだ!!」

 

 

「集中したいの…黙んないと肉球つねるわよ」

 

 

興奮するハッピーにルーシィが冷たく言い放つと、キャンサーがゆっくりと口を開く。

 

 

「ルーシィ…………今日はどんな髪型にするエビ?」

 

 

「空気読んでくれるかしら!!?」

 

 

「エビーーーー!!?」

 

 

「また……予想外な星霊だね」

 

 

キャンサーの語尾はまさかのエビだった。

 

 

「戦闘よ!! あのヒゲオヤジやっつけちゃって!!!」

 

 

「OKエビ」

 

 

「まさにストレートかと思ったらフックを食らった感じだね。うん、もう帰らせていいよ」

 

 

「アンタが帰れば?」

 

 

そんなコントのようなやり取りが続いていると、突然エバルーが雄叫びを上げた。

 

 

「ぬぅおおおっ!!」

 

 

そして、なんと一本の鍵を構えた。

 

 

「開け!! 処女宮の扉……『バルゴ』!!!」

 

 

「えっ!!?」

 

 

「ルーシィと同じ魔法!!?」

 

 

「しかもアレは、黄道十二門の鍵!!?」

 

 

エバルーがルーシィと同じ魔法を使ったことに驚愕する一同。そして現れたのは……

 

 

「お呼びでしょうか? 御主人様」

 

 

あのゴリラメイドであった。

 

 

「こいつ…星霊だったの!!?」

 

 

「エビ」

 

 

ゴリラメイド……バルゴが星霊だったことにさらに驚愕する。だが、驚きの事態はそれだけではなかった。

 

 

「あっ!!!」

 

「あ!!!」

 

「あぁ!!!」

 

「あ!!!?」

 

 

それを見た瞬間、エバルーを含めた全員が愕然とした。何故なら……

 

 

「「ナツ!!!」」

 

 

「お!!?」

 

 

バルゴと共にナツが現れたのである。

 

 

「なぜ貴様がバルゴと!!?」

 

 

「あんた……どうやって…」

 

 

「どう…って、コイツが動き出したから後つけてきたらいきなり…訳わかんねーーー!!!」

 

 

「『つけて』っと言うより、『つかんで』って言ったほうが正しいよね?」

 

 

ユーノの言う通り、ナツの手はガッチリとバルゴの服を掴んでいた。

 

 

「まさか…人間が星霊界を通過してきたって言うの!!?」

 

 

「そんな……ありえない!!!」

 

 

驚愕して動揺しているルーシィとユーノに、ナツが声をかける。

 

 

「ユーノ!! ルーシィ!! オレは何をすりゃいい!?」

 

 

その言葉にハッと我に帰ったユーノとルーシィは互いの顔を見合わせて、同時に頷き合い……

 

 

「「そいつをどかして!!!」」

 

 

と言った。

 

 

「おう!!! どりゃあっ!!!!」

 

 

「ぼふおっ!」

 

 

「何ぃ!!?」

 

 

ナツは言われた通り、バルゴを思いっきり殴り、地面に叩きつけた。

 

 

「ストラグル・バインド!!!」

 

 

「んぷっ」

 

 

その瞬間、エバルーの首にユーノが放った魔力の紐が巻きつく。

 

 

「もう地面には逃がさない! 行くよルーシィ!! キャンサー!!」

 

 

「うん!!」

 

 

「エビ」

 

 

ユーノの言葉に、ルーシィとキャンサーが頷き、構える。

 

 

「お前なんか……!!」

 

 

ユーノはバインドを思いっきり引っ張ってエバルーを空中に放り投げる。それに合わせて鞭を構えたルーシィとキャンサーが飛び上がり……

 

 

 

「ワキ役で十分なのよっ!!!」

 

 

 

「ボギョオ!!!」

 

 

同時に攻撃を浴びせ、エバルーを気絶させたのであった。

 

 

「ふぅ……ハデにやっちゃったね」

 

 

「ははっ。さっすが妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士だ」

 

 

「あい」

 

 

みんなが笑い合っている中、ルーシィは一人、本を大切そうに抱えていたのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

その後、カービィの屋敷に戻って来た一同は、盗ってきた本をカービィに差し出した。

 

 

「こ、これは一体……どういうことですかな? 私は確か破棄して欲しいと依頼したはずです」

 

 

「破棄するのは簡単です。カービィさんにだってできる」

 

 

「だ…だったら私が焼却します。こんな本…見たくもない!!」

 

 

そう言って、ルーシィから本を乱暴に受け取るカービィ。

 

 

「カービィさん、貴方がなぜこの本の存在が許せないのか、わかりました」

 

 

「……………!!」

 

 

「父親の誇りを守るため……」

 

 

「貴方はケム・ザレオンの息子ですね」

 

 

「うおっ!!!」

 

 

「パパーーー!!?」

 

 

ユーノとルーシィが言ったことに驚くナツとハッピー。

 

 

「なぜ…それを……」

 

 

「この本を読んだことは?」

 

 

「いえ…父から聞いただけで読んだことは…しかし読むまでもありません。駄作だ…父が言っていた……」

 

 

「だから燃やすって?」

 

 

「そうです」

 

 

それを聞いたナツは怒りの形相でカービィに詰め寄る。

 

 

「つまんねぇから燃やすだと!? そりゃああんまりじゃねーのか!!? 父ちゃんが書いた本だろ!! お?」

 

 

「落ち着いてナツ!!!」

 

 

「言ったでしょ! 誇りを守るためだって!」

 

 

怒鳴るナツをユーノとルーシィが押さえる。

 

 

「ええ…父は〝日の出(デイ・ブレイク)〟を書いたことを恥じていました」

 

 

そこからカービィは全てを語った。

 

31年前、突然帰ってきた父親が作家を辞めると言って腕を切り落としたこと。

 

その後、入院した父親を憎み、彼を罵倒したこと。そのすぐあとに自殺したこと。

 

 

「しかし、年月が経つにつれ、憎しみは後悔へと変わっていった。私があんなことを言わなければ父は死ななかったかもしれない…と」

 

 

そう語るカービィに誰も何も言わない。

 

 

「だからね…せめてもの償いに父の遺作となったこの駄作を…父の名誉のためこの世から消し去りたいと思ったんです」

 

 

ポケットからマッチを取り出し、火を着けるカービィ。そしてそれをゆっくりと本に近づける。

 

 

「これできっと父も……」

 

 

「待って!!」

 

 

その瞬間、突然本が輝き始める。

 

 

「え?」

 

 

「っ!!」

 

 

「な…何だこれは…!!」

 

 

突然の出来事に驚愕するカービィ。すると、本のタイトルの文字が飛び出し、中に浮かぶ。

 

 

「文字が浮かんだーーーっ!!」

 

 

「ケム・ザレオン…いいえ、本名はゼクア・メロン」

 

 

「彼はこの本に魔法をかけたんです」

 

 

「ま、魔法?」

 

 

ユーノとルーシィが説明をしている間に、タイトルの文字が入れ替わりながら、再び本に戻る。そのタイトルは……

 

 

DEAR(ディア)KABY(カービィ)!!?」

 

 

「そう…彼のかけた魔法は文字が入れ替わる〝立体文字(ソリッドスプリクト)〟の一種。中身も…全てです」

 

 

ユーノがそう説明し終えると同時に、本から無数の文字が輝きながら飛び出してきた。

 

 

「おおっ!!」

 

 

「きれー!」

 

 

「彼が作家を辞めた理由は…最低の本を書いてしまったことの他に……最高の本を書いてしまった事かもしれません。カービィさんへの手紙と言う最高の本を……」

 

 

そして、やがて全ての文字が本の中へと収まる。

 

 

「それがケム・ザレオンが本当に残したかった本です」

 

 

「父さん……私は父を……理解できてなかったようだ」

 

 

そう言って父親の想い知ることができたカービィは涙を流す。

 

 

「ありがとう。この本は燃やせませんね」

 

 

「じゃあ、オレたちも報酬いらねーな」

 

 

「うん」

 

 

「だね」

 

 

「え?」

 

 

「はい?」

 

 

ナツとユーノとハッピーが言った言葉にカービィとルーシィが呆然とする。

 

 

「依頼は『本の破棄』だ。達成してねーし」

 

 

「い、いや…しかし……そう言う訳には…」

 

 

「いいんです。目的を達成していないのに報酬なんて貰ったら、僕らがマスターに怒られてしまいますから」

 

 

「そうそう。いらねーもんはいらねーよ」

 

 

そう言ってナツはかっかっかっと笑いながら出口へと向かう。

 

 

「かーえろっ。メロンも早く帰れよ、じぶん家」

 

 

「「!!!」」

 

 

「え?」

 

 

最後にナツが言い残した言葉に、メロン夫婦は驚き、ルーシィは首を傾げていたのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

そして、その帰り道。

 

 

結局、メロン夫婦の二人は、本当は富豪ではなくただの一般人だったのだ。家も見栄を張るために友人から借りたものらしい。

 

そのことでルーシィは文句を言っていたが、ユーノになだめられて今は落ち着いている。

 

 

「あの小説家…実はスゲェ魔導士だよな」

 

 

「あい…30年も昔の魔法が消えないなんて相当な魔力だよ」

 

 

「若い頃には魔導士ギルドに居たみたいだからね」

 

 

「そこでの冒険の数々を小説にしたの。憧れちゃうなぁ~」

 

 

「やっぱりなぁ~…」

 

 

すると、ナツが意地の悪そうな顔をする。

 

 

「前…ルーシィが隠したアレ…」

 

 

ナツが言うアレとは、以前ルーシィの部屋で見つけた紙の束である。

 

 

「自分で書いた小説だろ」

 

 

「やたら本のことに詳しいわけだぁ~!!」

 

 

ナツとハッピーがそう言った瞬間、図星なのかルーシィの顔が赤くなる。

 

 

「ぜ…絶対他の人には言わないでよ!!」

 

 

「なんで?」

 

 

「ま、まだヘタクソなの!! 読まれたら恥ずかしいでしょ!!」

 

 

「いや、誰も読まねーから」

 

 

「それはそれでちょっぴり悲しいわっ!!!」

 

 

「あ、じゃあさ。僕、読ませてもらっていいかな?」

 

 

「え?」

 

 

ユーノの突然の申し出に、ルーシィはポカンとしている。

 

 

「僕も小説は大好きなんだ。完成したらでいいから、読ませてもらってもいい?」

 

 

「で、でも……まだ本当にヘタクソだし……」

 

 

「大丈夫だよ。それに、ルーシィが本当に一生懸命に書いた小説なら、絶対に面白いと思う」

 

 

「そ、そうかな……?」

 

 

「うん。それに……」

 

 

「それに?」

 

 

ユーノはルーシィに向かって微笑みながら……

 

 

 

「僕はルーシィみたいに夢に向かって頑張ってる人……結構好きだよ」

 

 

 

と言った。

 

 

「~~~~~!!」

 

 

その瞬間、ルーシィの顔がこれでもかと言うほど真っ赤に染まる。

 

 

「? ルーシィ、顔が真っ赤だけど…大丈夫?」

 

 

「だ、だだ…大丈夫です!!!」

 

 

「そう? ならいいけど……あ、ほら! 早く行かないとナツたちに置いていかれちゃうよ!!」

 

 

「う…うん……」

 

 

既に遠くを歩いているナツたちを追いかけるユーノの後ろをルーシィが着いて行く。因みに顔はまだ赤い。

 

 

「(ど…どーしよぉ!! 顔が熱い!! これってまさか…アレだよね!? まさかあたしってば、ユーノさんのこと……!!)」

 

 

帰り道、ルーシィはずっと顔を赤くしながら心の中で激しい葛藤を繰り広げていた。そんなルーシィの心中を知っているのは…ルーシィ本人だけであった。

 

 

 

 

 

つづく


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