楽園の塔が崩壊してから3日後…アカネビーチのホテルの一室では……
「んごぉおおお…ぐがぁぁあ…がるるる…」
ベッドの上で高いびきを上げながら寝ているナツがいた。
「大丈夫かこいつ?」
「この間の一件が終わってから、3日間も眠ってるからね……」
「さすがにこんなに眠ってるナツを見るのは初めてね」
3日間も眠り続けているナツを見て、心配する面々。
「ナツ!! ルーシィがメイドのコスプレで歌って踊ってみんな引いてるよ!」
「そんなんで反応されて起きてもらってもヤだけど……」
「ぷ」
「寝ながら笑うな!!!」
眠りながらもしっかり反応したナツにルーシィはツッコミを入れる。
「もうしばらく休ませてやろう。仕方ない状況だったとはいえ、〝毒〟を食べたに等しい」
「エーテリオンを食ったんだっけか? だんだんコイツも化け物じみてきたな」
「うん……ティアナも大丈夫? エルザの話だと、スターライトブレイカーを撃ったって……」
「……そうみたいですね。あの時は無我夢中で、よく覚えていませんけど……でもあの時…体中にもの凄い魔力が流れ込んできたのは覚えてます」
ティアナがそう言うと、フェイトが首を傾げる。
「流れ込んできた? 自分の魔力が湧き出てきたんじゃなくて?」
「はい……その魔力も何だか変な感じで……」
「変な感じって…どんな?」
ルーシィがそう尋ねると、ティアナは「うーん…」と思い出しながら語る。
「何て言ったらいいのかしら……感覚的には、とにかく強大な魔力だったのよ…それこそ恐怖を覚えるほどのね。でもそんな感覚とは裏腹に、何と言うか……凄く安心感がある魔力だったわ……」
「恐怖と安心感のある魔力? んだそりゃ?」
ティアナの説明に、グレイだけでなく、ルーシィやフェイトも頭に疑問符を浮かべていた。
「私だってわからないわよ、あの時自分に何が起こったのか……とにかく、そんな感じの魔力が私の体に流れ込んできた…としか……」
そう言ってティアナが軽く頭を抱えていると、今まで黙って聞いていたエルザが口を開いた。
「ふむ……ひょっとしたら、ジェラールが言っていた〝
「「「「「スタークリエイター?」」」」」
〝
「星の創造主……凄い響きね、それ」
「あい」
「エルザ、それって一体……?」
「すまないが、私にもわからん。ジェラールがそう呼んでいたのを聞いただけなんでな」
フェイトの問い掛けに、エルザは首を横に振ってから答えた。
「んじゃあ、ギルドに帰ったらユーノにでも聞いてみるか? あいつならこう言うの詳しいだろ」
「そうだな。魔法考古学者のユーノならば、何か知ってるかもしれん」
結局、ティアナの問題はギルドに戻ってから…ということで一旦落ち着いた。すると、エルザがある事に気がついた。
「そう言えば、あのエレメント4の娘は?」
そう、楽園の塔で共に戦ったジュビアの姿がなかったのだ。
「ああ……ジュビアか。もう帰っちまったよ。
「そうか…聞けば世話になったようだし、私からマスターに稟請してもよかったのだがな」
「ホントあの子行動力あるよね」
「まったくね──てハッピー!! アンタ何してんの!!?」
「あい?」
そんな会話をしている間に、ハッピーは何故かナツの口に生魚を突っ込んでいた。
「それよりエルザ…寝てなくて大丈夫なの?」
「ん……見かけほどたいしたケガではない。エーテリオンの渦の中では、体は組織レベルで分解されたハズなのだがな」
「分か……!!? 本当に奇跡の生還だったんだね……」
シレっととんでもない事を言うエルザにフェイトは若干呆れながら言う。
「そう言うフェイトは…その……残念だったな……会ったんだろう?
「……うん」
エルザが言い難そうにそう問い掛けると、フェイトは表情を暗くしながら頷いた。
「「フェイト…」」
「フェイトさん…」
それを見たグレイたちは心配しながらフェイトに視線を送る。しかし、フェイトはすぐに笑顔を浮かべる。
「でも大丈夫! 今回はダメだったけど、いつか絶対に見つけ出してみせるよ!!!」
フェイトが力強くそう言うと、一同は安堵したように息を吐いた。
「なにはともあれ、さすがはエルザとフェイトだな。勝手に毒食ってくたばってるマヌケとはエライ違いだ」
グレイがナツを見ながらそう皮肉を言うと、ナツの耳がピクリと反応する。そして……
「今なんつったぁ!!! グレーーイ!!!!」
「起きたー!!!」
怒号を上げながら、ナツは目を覚ました。しかしグレイは構わず、皮肉を言い続ける。
「素敵な食生活デスネって言ったんだよバーカ。てかお前フクロウのエサになってなかったか? 食う方か? 食われる方か? どっちだよ食物連鎖野郎」
「うぬぬぬぬぬぬぬ」
グレイの皮肉の連続にナツは悔しそうに唸る。そして……
「くかー」
「寝たーー!!!」
「絡む気がねえなら起きんじゃねえ!!!」
再びベッドの上で寝息を立て始めた。
「ハァ…まったく……」
「あはははっ!!」
「ふふっ…」
「クス」
それを見た一同は、同時に笑いを噴出し……
『あはははははは!!!』
楽しそうな笑い声を響かせたのであった。
第四十四話
『強く歩け』
その後…アカネビーチの浜辺では、エルザはショウ、ウォーリー、ミリアーナと向き合っていた。
「あ…あのよ……すまなかったゼ、エルザ」
「ごめんなさい、エルちゃん」
エルザに向かってそう謝罪するウォーリーとミリアーナ。それを聞いたエルザは、逆に申し訳無さそうに口を開く。
「私の方こそ…8年も何もできなかった。本当にすまない」
「姉さんはジェラールに脅されてたんだ。オレたちを守る為に近づけなかったんじゃないか」
「今となっては、そんな言い訳も虚しいな。もっと早くに何とかしていれば、シモンは…」
ショウがそう言ってフォローするも、エルザは沈んだ表情をしている。
「シモンは真の男だゼ!! だって…だってよう…エルザを守りたかったんだ。あいつはずっと…」
「ウォーリー!!」
余計な事まで言おうとするウォーリーをミリアーナが止める。
「あいつの気持ちはよくわかるし…残された者の気持ちも今はよくわかる。だけど私たちは進まねばならない。シモンの残してくれた未来を」
「うん」
「とても悲しい事だけど、シモンはずっと私たちの中にいるんだね」
「そう信じなきゃやっていけねえゼ、チクショウ……一体オレたちは何の為に……」
エルザの言葉を受け止めつつも、涙を流すウォーリー。
「過去は未来に変えて歩き出すんだ。そして今日の一歩は、必ず明日へと繋がる一歩となる」
「今日の一歩か……」
「私たちはこれから、どうすればいいんだろうね」
これからの未来の事に不安を抱く三人。すると、エルザがある提案を持ちかける。
「行くアテがないなら、
「!!」
「フェアリーテイル!!?」
「みゃあ!? 私たちが!!?」
突然のエルザの提案に、当然三人は驚愕する。
「お前たちの求めていた自由とは違うかもしれんが、十分に自由なギルドだ。きっと楽しいぞ」
「そういや
「元気最強のギルドだぁー!!」
「それにお前たちとも、ずっと一緒にいたいしな」
「……………」
エルザが微笑みながらそう言うと、ショウは一人…考え込むように顔を俯かせた。
「さあ…戻ろう。ナツにもお前たちをキチンと紹介せねばな」
「オレの事は世界一ダンディな男と言ってくれヨ」
「私はハッピーちゃんとお友達になるー!」
そんな会話をしながらホテルへと歩き出す一同。その時……
―強くなったな、エルザ―
「(ジェラール!!?)」
エルザの耳に、ジェラールの声が聞こえ、慌てて振り返るが……そこには広大な海が広がっているだけであった。
「(……そんな訳ないか……)」
そしてエルザは、自分にそう言い聞かせると、再びホテルに向かって歩き始めたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
同時刻……楽園の塔跡地付近にある、とある島では……
「……はい。Rシステム…楽園の塔は跡形もなく消滅し、本当に死者を蘇らせる魔法かどうかは確かめられませんでした。いかがいたしますか?」
一人の女性…トーレは通信用の
『ふむ、そうか……Rシステムは非常に興味深い魔法だったのが、残念だ。この魔法の研究はまた今度という事にしよう。彼女も納得してくれるだろう』
「了解。ところで、評議院の方はどうなりましたか?」
『計画通りだよ。評議院は責任問題が大き過ぎて、しばらくは正常に機能しないだろう。ひょっとしたら、組織解体もありえるかもしれないね』
トーレの問い掛けに、男性は面白話をするように答える。
「しかし、ジェラールもバカな男ですね。利用していると思っていた女…ウルティアに逆に利用されているとも知らずに……」
『まったくだよ。評議院を巻き込んだ騒動、エーテリオンの投下……ククク…彼が暴走してくれたお陰で、私たちの計画は滞りなく進んでくれた』
「では、そろそろ次の計画に……」
『まぁ待ちたまえ、そう慌てることはないよトーレ。次の計画発動まで、少なくともあと数週間以上はある。もうすぐ迎えをよこすから、それまで君はそこで安静にして、戦いの傷を癒しておくといい』
「……了解しました…マスター・スカリエッティ」
そう言ってトーレは、闇ギルド〝
◆◇◆◇◆◇◆◇
場所は戻り…アカネビーチ付近のホテル。ようやく目覚めたナツを含めた一同は、ショウたち三人と共に、宴会のような夕食を済ました。
そしてその夜……
「ティアナ!! フェイト!! ルーシィ!!」
何やら慌てた様子でエルザが女子部屋へと入って来た。
「ショウたちを見なかったか?」
「見てないケド……」
「私も夕食以降は見てませんよ?」
「どうかしたの?」
「同じホテルに泊まっていたハズなんだが、どこにもいないんだ」
「あたしたち明日チェックアウトだから、一緒にギルド行こーって言ってたのにね」
突然消えたショウたちに、エルザは不安そうな表情をする。
「もしかして、何も言わずに出て行ったんじゃないかしら?」
「……かも…しれないね」
ティアナとフェイトがそう言うと、エルザは小さく溜め息をついて「そうか…」と呟いた。
「追わなきゃ!! どーしちゃったんだろ!? もう離れる必要なんてないのに!!」
そう言って立ち上がり、ショウたちを探しに行こうとするルーシィ。だがエルザは、何やら決心したような顔付きになり……
「ナツとグレイに〝花火〟の用意と伝えてくれ」
そう言い残して、部屋を飛び出して行った。
「え……ちょ…!!! 何!? 花火って!!?」
エルザの言葉の意味がわからず、困惑するルーシィ。だがティアナとフェイトの二人は、何かわかったような顔つきをしていた。
「エルザさん……」
「……それが…エルザの答えなんだね……」
二人はそう呟くと、お互いに顔を見合わせて頷きあう。
「行くわよルーシィ!!」
「えぇ!? ちょっと!! どういう事!!?」
「説明はあとで!! とにかく今はナツとグレイを呼びに行こう!!!」
そう言って二人は未だ困惑するルーシィを引きずりながら部屋を飛び出した。
「ちょっとーーーーー!!!!」
そして引きずられていくルーシィの叫びが、虚しく廊下に響いたのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その後…夜の浜辺では……ショウ、ウォーリー、ミリアーナの三人が一隻の小船の前に集まっていた。
「本当にオレたち、やっていけるのかナ。外の世界でヨ」
「みゃあ」
「やっていけるかどうかじゃないよ! やっていかなきゃ。これ以上姉さんに迷惑をかけられない」
そう言ってショウは小船を繋いでいたロープを解く。
「行こう!! 姉さんたちがオレたちに気づく前に出発するんだ!!」
「だな!! なんとかなるゼ!!」
「元気最強ーーー!!!」
そう言って三人が小船を押して出航しようとしたその時……
「お前たち!!!」
「「「!!!」」」
三人にとって聞きなれた声が響き、そちらの方を見てみると…そこにはエルザが歩み寄ってきていた。
「姉さん!!」
「エルちゃん……」
「くうぅ…噂をすれば何とか…だゼ」
そう言って動揺する三人を、エルザは静かに見据える。
「と……止めるつもりなら無駄だゼ。オレたちは自分で決めたんだ…」
「……………」
ウォーリーがそう言うが、それでもエルザは黙って三人を見据えている。すると、ショウが口を開いた。
「オレたちはずっと塔の中で育ってきた。これから初めて〝外〟の世界に出ようとしてる。わからない事や不安な事が一杯だけど、自分たちの目でこの外の世界を見てみたい。もう誰かに頼って生きていくのはイヤだし、誰からの為に生きていくのもごめんだ。これからは自分自身の為に生きて、やりたいことは自分で見つけたい」
そこまで言うとショウは一旦言葉を区切ると、真っ直ぐとした目でエルザを見つめて言い放った。
「それがオレたちの自由なんだ」
ショウたちの決心を聞いたエルザは微笑を浮かべながら目を伏せる。
「その強い意志があれば、お前たちは何でもできる。安心したよ。だが
そう言うと、エルザは換装を始める。
「ちょ……!! 抜けるって…入ってもねぇのに」
「……………」
エルザの言葉に困惑する三人。その間にエルザが換装を終えると、エルザは鎧を纏って、
「一つ!!
「ギルドの不利益になる情報なんて持ってねえゼ」
「依頼者ってなに?」
「姉さん…」
エルザが言う掟の言葉に首を傾げる三人。
「三つ!!!」
そしてエルザは、涙を流しながら最後の掟を告げる。
「たとえ道は違えど、強く…力の限り生きなければならない!!! 決して自らの命を、小さなものとして見てはならない!!!」
そこまで言うとエルザは一拍置いて…再び力強く言い放った。
「愛した友の事を生涯忘れてはならない!!!!!」
その言葉を聞いたショウたち三人の目から、涙が溢れ出す。
「
エルザがそう宣言すると、近くに隠れていたナツたちが姿を現す。
「お前らーー!!! また会おーなーーーっ!!!!」
そう言うとナツは口をモゴモゴとさせたあと、ポンポンっと小さな火の玉を夜空へと放つ。
「心に咲けよ!!! 光の華!!!」
その火の玉は上空で花火となり、綺麗に夜空を彩った。そして当然…花火を上げるのはナツだけではない。
「行くわよ!! クロスファイヤーシュート……花火バージョン!!!」
ティアナは数十個もの魔力弾を上空に打ち上げると、それは小さな花火として夜空に咲いた。
「氷もあるんだぜ」
グレイは得意の造形魔法を駆使して、世にも珍しい氷の花火を打ち上げる。
「私は……雷!!」
フェイトはバルディッシュを振るい、激しくも綺麗な閃光の花火で夜空を照らす。
「じゃあ、あたしは星霊バージョン!」
ルーシィは星霊の鍵を空に向かって翳すと、そこから魔力が放たれ、まるで星のように煌めく花火を咲かせた。
打ち上げられる様々な花火を、ショウたちは笑って涙を流しながら見上げる。
「私だって本当は、お前たちとずっといたいと思っている。だが…それがお前たちの足枷になるのなら…この旅立ちを、私は祝福したい」
「逆だよぉぉ、エルちゃぁん」
「オレたちがいたら、エルザはつらい事ばかり思い出しちまう」
エルザの言葉に、ウォーリーとミリアーナが涙を流しながらそう言う。
「どこにいようと、お前たちの事を忘れはしない。そして、つらい思いでは明日への糧となり、私たちを強くする。誰もがそうだ。人間には、そうできる力がある」
そう言ってエルザは、
「強く歩け! 私も強く歩き続ける。この日を忘れなければ、また会える」
エルザがそう言うと、三人は涙を流しながらも、笑顔を浮かべた。
「元気でな」
「姉さんこそ……」
「バイバイ、エルちゃーん」
「ゼッタイまた会おうゼ!!!約束だゼ!!!」
「約束だ」
再会の約束の言葉を交わし、三人は出航していった。
こうして長い間…偽りの楽園に囚われていた三人は、初めて自分たちの意志で〝外〟の世界へと旅立った。
夜空を彩り、綺麗に咲き誇る花火に見送られながら……
前を見て…真っ直ぐに……
強く歩き続ける為に……
旅立って行ったのであった。
つづく