激しい死闘の末、ついにファントム最強の魔導士の一人…ガジルを倒したナツ。ルーシィも救い出し、一息ついたのも束の間……
「究極召喚…〝白天王〟!!!」
彼等の目の前には、凄まじい魔力を放出しながら叫ぶルーテシア。そして彼女の後ろ…正確には砕けた壁の外には巨大な召喚の魔法陣が展開されていた。
「アァァァァアアア!!!!」
ルーテシアの絶叫と共に天空に巨大な魔法陣が煌いて、地響きを轟かせながらそこから全身を白い外皮で覆い、2本の角を持ち、ファントムMk2とほぼ同等の大きさを持った巨人……白天王が姿を現した。
「な…なんだこりゃあ!!?」
「ウソ…でしょ?」
「……………(絶句)」
「な…何よ……アレ?」
それを見たナツは叫び、ルーシィは滝のような冷や汗を流し、ハッピーは大口を開けて絶句し、ティアナも目を見開いて驚愕していた。
「ガジルを傷つけた妖精の尻尾(フェアリーテイル)……壊して……全部壊して!!白天王!!!!」
『────────!!!!』
ルーテシアの悲鳴にも似た命令。それに答えるように、白天王は大地を震わせるような咆哮を轟かせたのだった。
第二十八話
『誇り』
「な…なんやアレは!!?」
「なんだよありゃあ!?」
「なんという巨大な……!」
「こんな相手…どうしたら……!?」
ヴィータ、ザフィーラ、シャマルは白天王を見て唖然とする。そんな中、はやては何かを決心したような顔付きになる。
「リィンフォース!! 今度こそアレをやるで!!」
「あ、主!? しかし……!!」
「もう四の五の言うてるヒマはあらへんねや!! あれを倒せる可能性があるんはあの魔法だけや!! もうやるしかあらへん!!!」
「主……わかりました」
はやての説得に、リィンフォースは静かに頷き、はやてに向かって手を差し伸べた。はやてはその手に自分の手を重ねると、二人は同時に口を開いた。
「「ユニゾン・イン!!!」」
その言葉と同時に、はやてとリィンフォース…二人の体が眩い光に包まれる。すると、その周りにいたシェイドの何体かが光に当てられて消滅していく。
そしてその輝きが止むと……茶髪は白色を帯びてベージュとなり、瞳は緑を帯びて碧眼となる。そしてその背中に三対六枚の小さな黒翼を背負ったはやて一人が立っていた。
これがリィンフォースが得意とする魔法……魔導士と融合することで、その魔導士の魔力を大幅に増加させる
「行くで? リィンフォース」
―はい。我が主―
はやては自身の胸の奥から聞こえてくるリィンフォースの声に小さく微笑むと、背中の黒翼を広げて空を飛ぼうとする。すると……
「待って!!!」
「っ!?」
突然背後から聞こえてきた声に、動きを止めてそちらを見る。そこには……
「私も行くよ……はやてちゃん」
「なのはちゃん!!?」
そう…ジュピターによる攻撃で気絶していたはずの、なのはが立っていた。
「む、無茶やでなのはちゃん! そないなボロボロな状態で戦うやなんて……」
はやてはなのはに静止の言葉をかける。しかし、なのはは首を横に振る。
「大丈夫だよ……それにギルドが危ないって時に、私だけ寝てることなんて出来ないの」
「……なのはちゃん」
なのははジュピターのダメージでボロボロの姿だが、その眼差しはどこまでも真っ直ぐで、とても強い決心が映し出されていた。
それを見たはやては、持っていた夜天の書をゆっくりと開き、シュベルトクロイツを振るった。
「彼の者に大空を翔る翼を……〝エアリアル〟!!!」
その瞬間、なのはの足に桜色の魔力で形成された翼が出現する。
「行こう…なのはちゃん」
「うん!ありがとう、はやてちゃん!!」
そう言って二人は笑い合い、翼を広げて白天王へと向かっていったのであった。
◇◆◇◆◇◆◇
「はぁ…はぁ…はぁ……!」
「はっ…はっ…はっ……!」
その頃、エルザとゼストの二人は互いに距離をあけ、乱れた息を整えていた。すると……
「ふふっ……」
ゼストが小さな笑みを浮かべた。
「何が可笑しい?」
「いや、すまない。こんなに楽しい戦いは久しぶりだと思ってな。この全身の血が滾るような感覚……やるかやられるかの緊迫感……そうだ、これが『戦い』だったな。
「ふっ……それはこちらの台詞だ。貴殿との戦いで、私はもっと強くなれるのだからな」
そう言うと、二人は同時に小さく笑みを浮かべ、それぞれの武器を構える。そして再び激突するかと思われたその時……
『────────!!!!』
「「っ!!?」」
突如、外からこの世のモノとは思えないほどの雄叫びが響いてきた。
「何だ? 今のは……」
「この感じ……まさか……」
聞こえてきた雄叫びにエルザは困惑し、ゼストは心当たりがあるのかスッと目を細める。すると……
「旦那ーーーっ!!!」
「っ…子供?」
「……アギト?」
赤い髪の少女…アギトが何やら慌てた様子でゼストに駆け寄ってきた。
「大変だ旦那!! ルールーが…ルールーがぁ……!!」
「わかっている……どうやら〝白天王〟を召喚したようだな」
「ヤバイよ旦那!! ルールーはまだ白天王を完全にコントロールできないんだ!! このままだと
「あぁ……それだけは防がなくてはな……」
白天王の出現に深刻な顔で相談するゼストとアギト。
「おいどういうことだ!!? ここらが更地になるとは一体!!?」
そこへ、先ほどからほったらかしにされていたエルザが怒鳴りながら問い掛ける。だがアギトはそんなエルザを睨むと……
「うるせぇ!! こっちは今大事な話をしてんだ!!! 邪魔すんなババァ!!!」
と言った。
「バッ……!!!」
ババァと言う言葉にショックを受けるエルザ。そして……
「私は……まだ19だぁぁぁああ!!!!」
すぐさま天輪の鎧に換装し、叫びながらアギトに向かって数本の剣を放つ。
「うおぉぉぉおお!!?」
驚愕の声を上げながらそれを避けるアギト。
「こ、このぉ!! フレネンスヒューガ!!」
それに対抗してアギトは数発の火炎弾をエルザに向かって放つ。だが…
「ハァァァア!!!」
その全てがエルザの剣の一振りによって霧散した。
「な、なにぃ!!?」
自分の魔法があっさりと無効化されたことに驚愕するアギト。その隙にエルザはアギトの目の前に移動すると、彼女の眼前に剣を突きつけた。
「ひっ!!」
「もし次同じようなことを言ったら、子供とはいえ容赦はせんぞ。わかったな?」
「は…はい……」
エルザのドスの効いた声と鬼のような目でアギトは完全に威圧され、涙目で震えながら頷いた。
「だんな~アイツ怖い……」
「……今のはお前が悪い」
ゼストは泣きついて来るアギトの頭を撫でながらそう言うと、エルザに向き直る。
「すまなかったな。こいつはアギト。オレの相棒みたいなものだ」
「そうか。それより、さっきは会話はどういうことだ?」
エルザの問い掛けにゼストは少し迷った素振りを見せた後、ゆっくりと口を開いた。
「うちのギルドにはアギトと同い年の召喚魔導士、ルーテシアと言う少女がいてな。その子は幼いながらにして、天才的な魔法センスと膨大な魔力量を持っている。だが、幼いルーテシアには膨大な魔力は大きすぎて、ちょっとした感情の揺らぎで魔力と魔法を暴走させてしまうことがあるんだ」
「暴走だと?」
「あぁ。普段のルーテシアは冷静沈着で、感情を中々表に出さない子だから、滅多に暴走することはないんだが……」
そこまで言うと、ゼストは目を伏せた。
「だが……なんだ?」
「……ルーテシアはガジルに対してかなり懐いていてな。ガジルの事となると、すぐに感情的になってしまうんだ。今回の場合、ガジルがそちらの
ゼストがそこまで説明すると……
「さて、説明できるのはここまでだ。続きと行こうか、
そう言って再び槍を構える。
「ふっ……そうだな」
ゼストの意図を理解したエルザも笑みを浮かべながら剣を構える。それを見たアギトは慌てた様子でゼストに向かって声を上げた。
「だ、旦那!?何やってんだよ!? こんな奴ほっといて、早くルールーを止めにいかなきゃ!!」
「悪いが、それは出来ん」
アギトの言葉に対し、ゼストはキッパリと言い放った。
「彼女のおかげで、オレは魔導士としての戦いと言うものを思い出すことが出来た。そんな相手に背を向けるのはオレの誇りが許さん」
「で…でも……!!」
それでもアギトは何とかゼストを引き止めようとするが、中々言葉が見つからずにオロオロしている。そんなアギトを見て、ゼストは再び口を開く。
「大丈夫だ……すぐに終わらせる」
そう言うと、ゼストの槍が光に包まれ、形状を変化させる。
「すまないな
「構わんさ。私もすぐにでも仲間を助けに行きたいのでな」
そんな会話をしている間に、槍の形態変化が終わり、光が収まる。そしてゼストの手には、まるで鬼の角を連想させる二又の槍が握られていた。
「〝鬼神槍〟……我が二つ名と同様の名を持つ形態……その意味、わかるな?」
「最強の槍と言う訳か。いいだろう……ならば私も、この一本の剣に全てをかけよう!!!」
エルザは天輪の鎧から黒羽の鎧へと換装し、剣を構える。
そしてそのまま二人は互いの姿を静かに見据える。
「(……旦那のあんな楽しそうな顔…見たことねえ……)」
アギトは出会った当初からゼストの仏頂面しか見たことないため、今のゼストの楽しそうな表情は新鮮だった。
「……頑張れ…旦那…」
気付けば、アギトは小さくそう呟いていた。
そして…互いの姿を見据えていたエルザとゼストは……
「ハァァァァァアアア!!!!」
「オォォォォォォオオ!!!!」
雄叫びを上げながらついに動き出した。
目の前の相手に向かって駆け出す二人。
段々と詰まっていく二人の距離。
己の武器を持つ手に力を込める。
そして……
「黒羽・
「
二人の技が…交差した。
「「………………」」
武器を振り切ったまま互いに背を向けて動かない二人。
そして、最初に反応を見せたのは……
「ぐはっ!!」
エルザであった。血反吐を吐き、床に膝をつくと同時に鎧が砕け散り、彼女の脇腹からは大量の血が噴出す。
「やった!! 旦那の勝ちだ!!!」
それを見たアギトはゼストの勝利を確信する。
「……いや……」
しかし、当のゼストはただ静かにそう呟き、自身の槍を見つめている。
「旦那……?」
そんなゼストを見て首を傾げるアギト。
「この勝負……オレの負けだ」
パキンッ!
ゼストがそう言うと同時に、槍先が音を立てて割れ、カランッと虚しい金属音を響かせて床に落ちる。その瞬間……
ズバンッ!!
ゼストの体に斜め一閃の赤い線が刻まれ、ゼストはゆっくりと背中から床に倒れた。
「旦那ぁぁぁああ!!!!」
そんなゼストを見て、アギトはすぐさまゼストに駆け寄る。
「旦那! しっかりしろ!! 旦那!!!」
アギトは涙目になりながらゼストの体を揺らして必死に声をかけるが、ゼストからの反応はない。
「ごほっ……大丈夫……気を失っているだけだ」
そんなアギトに脇腹を押さえたエルザが歩み寄っていた。そんなエルザを、アギトは鋭い眼差しで睨みつける。
「こ…これ以上旦那に手出しするってんなら、アタシが相手だ!!!」
両手のひらに炎を灯らせながらエルザを威嚇するアギト。だがエルザはそんなアギトに優しげな笑みを浮かべる。
「安心しろ。もう戦うつもりはない」
「……本当か?」
「決着はついた。これ以上は望まん」
「……わかった。信じるよ」
エルザの嘘偽りのない真っ直ぐな目を見て、アギトは両手の炎を消す。
「それに……私も限界…だ」
ドサァ…
「お…おい!!」
突然倒れたエルザに驚きながらも駆け寄るアギト。
「き…気絶してやがる……」
そう…エルザはゼストとの戦いに加え、ジュピターで受けたダメージも残っているのだ。そんな状態で気絶するなと言うのが無理な話である。
「あっちにも何人か気絶してやがるし…ルールーも止めなきゃなんねーし……あーもー!! どうすりゃいいんだよぉぉお!!!」
そんなアギトの絶叫に似た叫びが響き渡ったのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
一方その頃……マグノリアの街から少し離れた南西の方角にある森。
「やっと…ここまでこれた……」
そこでは森中を歩いていた一人の女性が立ち止まり、一息ついていた。
「早く戻らないと……」
そう呟きながら再び歩き始める女性。その時……
『────────!!!!』
「っ!!?」
街の方角から聞こえてきた激しい雄叫び。それを聞いた女性は表情を険しくした。
「急ごう……ギルドが危ない……!!」
そう言うと同時に、森の中を駆け出し始める女性。
そんな彼女の手首には……
つづく