LYRICAL TAIL   作:ZEROⅡ

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とりあえず、まずは一言……


本っっっっ当にすみませんでしたーー!!!!!


2ヵ月以上も投稿できず、読者の皆様に多大なるご迷惑をおかけしたことを、深く謝罪したします。

感想覧に投稿してくださった方々にも、返信できなかった事をお詫び申し上げます。


他にもまだまだ謝罪したい事がありますが、とりあえずまず本編の方をどうぞ。相変わらず支離滅裂な文章ですが、どうぞお楽しみください。感想お待ちしております。

こんな駄作者ですが、これからもどうかよろしくお願いします。


母の亡霊

 

 

 

 

 

 

時は少々巻き戻って、ナツたちがミケロの家へと赴いている頃……とある街にある少し大きい一軒家『ナカジマ家』

 

 

その家のリビングでは、1人の男性と6人の少女たちがテーブルを囲んで何やら話し合っていた。

 

 

「お前等なァ……揃いもそろって急に示し合わせたように帰って来やがって」

 

 

溜息まじりにそう言うのはこの家の家主であり、評議院に努めている男性……ゲンヤ・ナカジマ。

 

 

「そんな言い方ないでしょ? みんなお父さんが心配で帰ってきたんだから」

 

 

「まったくだ。ERAが襲撃されたと聞いた時は、心配で気が気ではなかったぞ」

 

 

そんなゲンヤを咎めるようにそう言うのは彼の娘でナカジマ姉妹の長女であるギンガと、次女のチンク。2人とも蛇姫の鱗(ラミアスケイル)に所属する魔導士である。

 

 

「でもラッキーッスよね、評議院の支部の査察に行ってたおかげで、パパリンは無事だったんスから」

 

 

「バカヤロウ! 人が大勢死んでんだ。ラッキーだなんて思えるか」

 

 

「ご…ごめんなさいッス」

 

 

ゲンヤに叱られて頭を垂れているナカジマ姉妹の末っ子のウェンディ。青い天馬(ブルーペガサス)所属の魔導士である。

 

 

「けどまだ安心はできねえ。敵は冥府の門(タルタロス)だからな」

 

 

「うん。もしかしたらお父さんの命も狙われてるかもしれない」

 

 

そんな言葉を口にするのはお馴染み妖精の尻尾(フェアリーテイル)に所属するナカジマ姉妹の三女と五女であるノーヴェとディエチの2人。

 

 

「つーか、ディエチは無理して来なくてよかったんだぞ? お前もう魔導士辞めてんだし」

 

 

「ううん、家族に危機が迫ってるのに、私だけジッとなんかしてられないよ。お父さんもギルドも守る為なら私は戦う。それに、私は魔導士として仕事をするのを辞めただけで、戦う為の魔法の鍛錬は続けてきたんだから」

 

 

「……そうかよ」

 

 

ディエチの強い覚悟の篭った言葉を聞いて、ノーヴェは安心したように笑った。

 

 

「大丈夫だよ!! どんな敵が来たって、私たち姉妹でお父さんを守ってみせるから!!」

 

 

最後にそう締めくくるのは、同じく妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士でありナカジマ姉妹の四女であるスバル。彼女が強く言い放ったその言葉に、姉妹全員が同意するように頷いた。

 

 

「つってもなぁ、狙われてんのは元も合わせて評議院のお偉いさん方だろ。平議員のオレが狙われるたぁ到底思えねえけどな」

 

 

「それでも心配なものは心配なの」

 

 

その言葉に対してギンガがピシャリとそう言うと、ゲンヤは何とも言えない表情になった。すると、ゲンヤは何か思い出したかのようにスバルとノーヴェとディエチの3人に顔を向ける。

 

 

「そういや、現評議員で生き残ったリンディ提督はお前ら妖精の尻尾(フェアリーテイル)で匿ってんだろ?」

 

 

「うん。ポーリュシカさんの家で療養してるんだけど、まだ意識が戻らなくて……」

 

 

「今はクロノさんとアルフが護衛についてるし、表向きじゃあリンディさんも死んだ事になってる」

 

 

「だから当分は大丈夫だとは思うけど……」

 

 

「そうか……」

 

 

3人の言葉を聞いて、ゲンヤはそう呟きながら考え込むように視線を下に向ける。

 

 

するとその時……玄関の扉から、コンコンっというノックの音が聞こえた。

 

 

「「「!!」」」

 

 

それを聞いた瞬間、ナカジマ姉妹全員が一斉に身構えた。

 

 

「……父上、今日の来客の予定は?」

 

 

「いや、ねえな」

 

 

チンクの問い掛けにそう答えると、彼女たちはより一層警戒心を強めた。

 

 

「じゃあとりあえず、アタシが様子を見てくるッス」

 

 

そう名乗り出たのはウェンディ。その表情はいつもの陽気なものではなく、真剣そのもの。さらにその腕には、かつての愛機であったライディングボードを改良した〝スカイボード〟を抱えていた。

 

 

「気を付けろよ」

 

 

「わかってるっスよ」

 

 

ノーヴェの忠告に頷きながら、リビングから出て玄関へと向かって行くウェンディ。

 

 

「どちら様ッスか?」

 

 

そして扉の前に立つと、ウェンディはその向こう側に立っているであろう人物に向かってそう問い掛ける。

 

 

『開けてもらえるかしら?』

 

 

返ってきたのは女ものの声。その声にウェンディは顔をしかめながら返す。

 

 

「誰ともわからない人を、この家にあげる訳にはいかないッス」

 

 

『……そう』

 

 

その言葉を最後に、扉の向こうから感じていた人の気配が消えていくのを感じたウェンディは「ふぅ」と小さく息を吐いた。

 

 

しかし……

 

 

『なら──自分で開けるわ』

 

 

「!!」

 

 

次の瞬間……凄まじい衝撃波と共に扉が吹き飛び、その正面にいたウェンディもまとめて吹き飛ばされ、壁に激突したのであった。

 

 

「がっ……!!!」

 

 

「「「ウェンディ!!!」」」

 

 

それによって床に倒れたウェンディにスバルたちが駆け寄ろうとしたその時……破壊された扉の向こうから、声が響く。

 

 

「形式上……一応こう言っておいたほうがいいのかしら?」

 

 

「!!?」

 

 

「えっ……!!?」

 

 

「お…オマエ……!!?」

 

 

その襲撃者の姿を見た瞬間、スバルとギンガ…そしてゲンヤは大きく目を見開きながら、信じられないものを見るような表情に変わった。

 

 

そしてそんな3人に対して、その襲撃者である女性は静かにこう告げた。

 

 

 

「──ただいま」

 

 

 

その言葉を聞くと同時に、スバルとギンガとゲンヤは、声を震わせながら口を動かし、その人物の名を口にした。

 

 

「そ…そんな……ウソ…!!」

 

 

「あ…あなたは……!!!」

 

 

「──ク…クイント……!!?」

 

 

その襲撃者の名は『クイント・ナカジマ』。10年以上も昔に死んだハズのゲンヤの妻であり、スバルとギンガにとっての実の母にあたる人物だったである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第239話

『母の亡霊』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウェンディ!! 大丈夫!!?」

 

 

「な…なんとか……」

 

 

倒れるウェンディの容体を確認したディエチと、そんな彼女に支えられながら何とか起き上るウェンディ。そんな彼女たちの前で静かに佇む長い薄紫色の髪をポニーテールのように結んだ髪型に黒い装飾の篭手のようなグローブを両腕にはめた女性。愕然としているスバルたち3人を除いた全員がその女性を睨むと、彼女の腹部に刻まれた紋章……冥府の門(タルタロス)のギルドマークが目に留まった。

 

 

「あの紋章……こいつ、冥府の門(タルタロス)か!!?」

 

 

「の…ようだな。しかし、父上やギンガはコイツの事を知っているようだが……?」

 

 

「それは……」

 

 

襲撃者に対して身構えるノーヴェ。そしてチンクの疑問に対してギンガが言いよどんでいると、ゲンヤがその問いに答えるべく口を開いた。

 

 

「そいつはクイント……オレの妻であり、ギンガとスバルにとっちゃあ実の母親だ」

 

 

「なに!?」

 

 

「母上だと!!?」

 

 

「って事はアタシたちにとってもママリンになるって事ッスか!?」

 

 

目の前にいる襲撃者……クイントが自分たちにとっても母親にあたる人物だと言われ、動揺するチンクたち。だがそれに対してディエチが疑問符を浮かべる。

 

 

「アレ……? でも確か、2人のお母さんって……」

 

 

「……えぇ、そうよ。私とスバルの母さん……クイント・ナカジマはもう──10年以上も前に死んだハズの人間よ」

 

 

「「「!!?」」」

 

 

ギンガのその言葉を聞き、ノーヴェやチンクたちに衝撃が走る。そう…クイント・ナカジマは10年以上も前に厄災の悪魔デリオラによって殺害されているのだ。チンクたちはそんなとっくの昔に死んだハズの人間が、今こうして目の前にいるという事実に驚きを隠せなかった。

 

 

そして茫然としていた表情を引き締めて、目の前に立つクイントを睨みながら、ギンガが叫ぶように問い掛ける。

 

 

「答えなさい!!! あなたは一体何者!!? どうして死んだ母さんと同じ姿をしているの!!?」

 

 

「……………」

 

 

そんなギンガの問い掛けに、まったく答える様子もなく口を閉ざしながら佇むクイント。

 

 

「答えないのなら……力尽くでも!!!」

 

 

そんなクイントの態度に激昂したギンガは、左手に装着したリボルバーナックルを構え、両足のブリッツキャリバーの機動力で素早くクイントへと殴り掛かる。

 

 

「ハァァァ!!!!」

 

 

「…………」

 

 

迫るギンガの拳を避けようとする素振りもせず、ただジッと見据えるクイントは、その拳に対してそっと自身の右手を向ける。

 

 

すると次の瞬間……ギンガの拳はクイントの手によってスルリと受け流されてしまった。

 

 

「えっ…きゃっ!?」

 

 

まるですり抜けたかのように拳を受け流されてしまったギンガは、その勢いが空回ってしまい、そのまま床に転んでしまう。

 

 

「今のは……!!」

 

 

驚愕と戸惑いが入り混じったような表情でクイントへと視線を向けるギンガ。そしてクイントはそんなギンガに背を向けながら、首を動かして目線だけ彼女に向けると……

 

 

「終わりかしら?」

 

 

と言いながら、口元に挑発的な微笑を浮かべた。

 

 

「っ……この!!!」

 

 

そんなクイントに対してギンガはすぐさま立ち上がり、彼女の後ろから後頭部を狙って上段蹴りを放つ。しかしクイントはその攻撃を見向きもせずに、片腕を盾にして軽々とガードしてしまった。

 

 

「やあぁぁぁ!!!」

 

 

それでも負けじと自身のシューティングアーツを駆使してパンチやキックなどの攻撃を仕掛けて行くギンガ。だがその攻撃も、ことごとくガードされたり受け流されたりして、クイントにダメージを与える事はできなかった。

 

 

「……ハァッ!!!」

 

 

「!? きゃああっ!!!」

 

 

すると休む事無く打撃を放っていたギンガの一瞬のスキを見切り、そこを的確についたクイントの鋭い蹴りによるカウンターが炸裂し、ギンガは吹き飛ばされて壁に強く叩き付けられた。

 

 

「ギンガ!!! おのれっ……!!!」

 

 

それを見て激昂したチンクは、クイントに向かって十数本ものスティンガーを投擲する。

 

 

だがクイントはその攻撃に対して特に顔色を変える事無く、なんと飛んできたスティンガーを1本残らず両手でキャッチして受け止めてしまった。

 

 

「(受け止めただと……!? だが、それは愚策だ!!!)」

 

 

スティンガーを全てキャッチするという芸当に内心驚愕するチンクだが、同時に勝機を見出して自身の魔法を発動させる。

 

 

「爆ぜろ!! ランブルデトネイター!!!!!」

 

 

チンクは自身が触れた金属を爆発させる魔法〝ランブルデトネイター〟を発動し、同時にクイントが掴んでいる全てのスティンガーが輝き始める。

 

 

そしてスティンガーが爆発するかと思われたその時──クイントの両手からグシャリという音が響き渡った。

 

 

「は……?」

 

 

その光景を見たチンクは思わず口からそんな気の抜けたような声が漏らす。目の前で起きた現実が、余りにも信じられなかったからだ。

 

 

チンクの魔法は確かに発動し、スティンガーは爆発しようとしていた……否……間違いなく爆発はしたのだ。だがクイントは、爆発したスティンガーから放たれる爆炎と爆風が広がる前に……それらを自身の両手で包んで抑え込んだのである。それはつまり……

 

 

「バ…バカな……爆発を…握り潰しただと……!!?」

 

 

爆発が広がる前に握り潰すというありえない技に、チンクはただただ絶句するしかなかった。

 

 

「オォォォオオ!!!」

 

 

すると、そんなチンクの脇を抜けて、ガンナックルとジェットエッジを装着したノーヴェがクイントへと向かって行く。

 

 

「ラァ!!!!」

 

 

そしてそのままクイントに向かって鋭く、重い蹴りを放つが、やはりそれはクイントの腕でガードされてしまう。だがノーヴェも負けじとストライクアーツを駆使して打撃を仕掛けて行く。

 

 

「今だっ!!!」

 

 

「!!」

 

 

すると、ことごとくガードされながらも打撃を放っていたノーヴェがその場から飛び退きながらそう叫ぶ。その瞬間、彼女の後ろに控えていたディエチが武器を構えていた。

 

 

「ガトリングバレット!!!!」

 

 

ヘヴィバレルを改良した新たな武器〝ガトリングバレル〟を構えたディエチは、その砲身から無数の魔法弾を連射して放つ。

 

 

「っ……」

 

 

完全に反応が出遅れたクイントは、顔をしかめながらその場から飛び退いて魔法弾を回避する。しかし……

 

 

「ウェンディ!!!」

 

 

「OKッス!!!」

 

 

「!?」

 

 

そんなクイントの背後には、スカイボードに乗ったウェンディが待ち構えていた。

 

 

「スラッシュライド!!!!」

 

 

「ぐっ…!!」

 

 

そしてウェンディの乗ったスカイボードから放たれるスピードを乗せた一撃を喰らい、吹き飛ばされるクイント。

 

 

「行ったッスよ!!!」

 

 

さらに、クイントが飛ばされたその先で待ち構えていたのは……リボルバーナックルを構えたスバルであった。

 

 

「あなたが何なのかはわかんないけど、まずはとりあえず倒す!!!」

 

 

そしてスバルはリボルバーナックルに魔力を込め、そのままその拳を振るった。

 

 

「リボルバーキャノン!!!!」

 

 

その強力な一撃によって、クイントは吹き飛ばされ、そのまま壁を突き破って外まで飛ばれていったのであった。

 

 

「おっしゃあ!!」

 

 

「よしっ」

 

 

「見たッスか!! アタシたち姉妹のコンビネーション!!!」

 

 

それを見たノーヴェとディエチとウェンディは決まったと確信し、喜びを露にする。

 

 

「つーかお前等…家を壊すんじゃねーよ」

 

 

「「「うっ…」」」

 

 

しかしすぐにゲンヤに睨まれ、気まずそうに顔をしかめた。だがゲンヤも守られている立場だという事を理解している為、それ以上は強く言わなかった。

 

 

「……………」

 

 

そんな3人をよそに、ジッとリボルバーナックルを装着した手を眺めているスバル。

 

 

「ん? どうしたスバル?」

 

 

そんな彼女の様子に気がついたノーヴェが問い掛けると、スバルは戸惑ったように答える。

 

 

「なにか……変」

 

 

「変?」

 

 

「あの人を殴った時……全然拳に、手ごたえを感じなかった」

 

 

「え?」

 

 

スバルのそんな言葉にノーヴェが首を傾げる。

 

 

「しかし、何だったんだ奴は?」

 

 

「わからない……それにどうして母さんと同じ姿を……?」

 

 

そう言って疑問符を浮かべるギンガとチンク。するとその時……

 

 

「それは簡単な事よ」

 

 

「「「!!?」」」

 

 

2人の疑問に答えるように聞こえてきたその声に、全員の視線が一斉にクイントが飛び出していった壁の穴へと向けられる。

 

 

「私はかつて……クイント・ナカジマだった(・・・)者。デリオラによって死に際となったこの体は、冥府の門(タルタロス)によって改造され──悪魔へと転生した」

 

 

そんな声と共にそこから現れたのは、無傷で傷1つない姿のクイントであった。しかしその姿は、先ほどまでは明らかに異なっていた。

 

 

 

冥府の門(タルタロス)の九鬼門の1人であるシルバー様に仕える悪魔──クイント・エーテリアス。それが生まれ変わった今の私の名よ」

 

 

 

肌色だった皮膚は褐色に変わり、目の白い部分は黒く染まり、極めつけには後頭部から首元にまで向かって生えた2本のヤギのようなツノ。まさしく悪魔の姿であった。

 

 

「悪…魔……」

 

 

「人間では…ないだと……」

 

 

「ゼレフ書の悪魔じゃなくて…人工的に生み出された悪魔……」

 

 

「そんなの…ありえねえだろ……!!」

 

 

目の前のクイントが冥府の門(タルタロス)によって生み出された悪魔と聞いて、チンク、ノーヴェ、ディエチ、ウェンディの4人は絶句する。だがそんな4人よりも、スバルとギンガは強いショックを受けていた。

 

 

「そ…そんな……じゃあ貴女は……!!」

 

 

「本当に…お母さん……なの…!!?」

 

 

「だった…よ。あなたたちの母であるクイントは死んだ。今の私に人間だった頃の感情はないわ」

 

 

「「っ……!!!」」

 

 

言葉の通り、何の感情も篭っていない冷たい眼差しを向けながらそう言い放つクイント。それを聞いたギンガとスバルは彼女に対して言い知れぬ恐怖を感じたのであった。

 

 

「……お前さんが何者なのか、よくわかった。お前がオレのカミさんだったって事もな」

 

 

すると、今まで黙っていたゲンヤが静かに口を開いた。

 

 

「だが何でここに来た? 冥府の門(タルタロス)の標的は元も含めた評議院のお偉いさんだろ? 確かにオレも議員だが、大した権力もない平議員のオレを殺すメリットはないハズだ」

 

 

そう言ってクイントに対して疑問をぶつけるゲンヤ。するとそれを聞いたクイントは、クスリと笑みを浮かべながら口を開く。

 

 

冥府の門(タルタロス)の情報網を甘くみないで欲しいわ。あなたの本当の役職を、私たちが知らないとでも?」

 

 

「!」

 

 

クイントのその言葉を聞いて、僅かに眉を顰めるゲンヤ。そしてクイントはそんなゲンヤに対して、続けざまに言い放つ。

 

 

「〝魔法評議院特別顧問〟……平常時においてはあなたの言う平議員で、特に何の権限もない。けれど非常時においてのみ、議長と同等の権限と発言力を得る事ができる……それがあなたの評議院における本当の役職よ」

 

 

「特別…顧問…?」

 

 

初めて聞くゲンヤの役職に、スバルを含めた姉妹全員が驚愕の表情を浮かべる。

 

 

「……どこでそれを知った? その話は昔のクイントだって知らねえハズだぜ?」

 

 

「言ったでしょ? 冥府の門(タルタロス)の情報網を甘くみないでと。言うなれば10人目の評議員。〝鍵〟である可能性がある以上、殺す理由には十分よ」

 

 

「鍵だと?」

 

 

クイントの言葉から漏れた〝鍵〟というワードを聞いて、怪訝な表情を浮かべるゲンヤ。だがやがてその意味を理解したのか…冷や汗を流し、目を大きく見開きながらクイントに向き直った。

 

 

「まさかテメェらの目的は……!!!」

 

 

冥府の門(タルタロス)の目的に気がついたゲンヤがそう呟くと……クイントはスッと目を細めて身構える。

 

 

「少しおしゃべりが過ぎたようね。さっさと終わらせましょう」

 

 

「させない!!!」

 

 

クイントがそう言い放った瞬間、ゲンヤを守る為にスバルたち6人姉妹が彼女の行く手を阻むように並び立つ。

 

 

「……そうね、まずは邪魔者を始末してからにしましょうか」

 

 

「やれるもんなら…やってみろっ!!!!」

 

 

すると、ノーヴェが激昂しながらいの一番にクイントに向かって駆け出していく。

 

 

「リボルバースパイク!!!!!」

 

 

そしてそのままジェットエッジの機能と出力をフルに使った渾身の蹴りをクイント目掛けて放つノーヴェ。しかし……

 

 

「無駄よ」

 

 

「なっ!?」

 

 

だがそんなノーヴェの渾身の一撃は、片手で軽々と受け止められてしまった。そしてさらにクイントは、受け止めたノーヴェの足を払って彼女のバランスを崩させると……

 

 

「ハッ!!!」

 

 

「ごっ…あ……!!!」

 

 

その瞬間、クイントの強烈な拳がノーヴェの腹部に深々と突き刺さり、そのままノーヴェは口から血反吐を吐き出しながら吹き飛ばされて壁に激突すると、そのまま壁に背を預けながらズルズルと音を立ててゆっくり床に座り込んだまま意識を手放した。

 

 

「ノーヴェ!!!」

 

 

「くっ…よくも!!!」

 

 

その光景を見ていたディエチは怒りを露にし、ガトリングバレルから魔法弾を連射する。

 

 

円掌(えんしょう)

 

 

だがそれに対してクイントは片手をかざすと、そのまま円を描くような動きを見せる。すると、ディエチの放ったいくつもの魔法弾はその手に吸い込まれるように集まって行き、最終的には全ての魔法弾が彼女の手のひらに収まっていた。

 

 

旋廻(せんかい)

 

 

そしてクイントは受け止めた魔法弾をスッと振りかぶり、そのまま全ての魔法弾をディエチへと投げ返したのであった。

 

 

「うあああああっ!!!!」

 

 

あまりにも予想外の反撃にディエチは反応が遅れてしまい、己の放った魔法弾全てをその身に受けて、そのままゆっくりと床に倒れ込んで気を失った。

 

 

「ディエチ!!!」

 

 

「アレは…セイバーの覇王っ子が使ってた技と同じッス!!!」

 

 

「いや…それ以上だ」

 

 

クイントのその技は剣咬の虎(セイバートゥース)の格闘魔導士、アインハルトが使う魔法弾を投げ返す技『覇王流・旋衝波』と酷似していたが、チンクは技のキレも技術もそれ以上だと感じていた。

 

 

「あなたたちの力はさっきのですでに把握したわ。その程度の実力なら、片手だけで十分よ」

 

 

そう…クイントは先ほどから片手、片腕しか使用していない。それはつまり、ノーヴェとディエチの2人を片手であしらい、倒してしまったのである。

 

 

「くっ…ナメるなァ!!!!」

 

 

それに対してチンクは、先ほどよりも多くのスティンガーを周囲に展開し、それらを一斉にクイント目掛けて放った。だがそれに対してクイントは腕を後ろに引きながら手を掌底の形にしてを構えると……

 

 

空掌(くうしょう)裂空波(れっくうは)!!!!」

 

 

クイントの掌底から勢いよく放たれた真空の衝撃波の塊がスティンガーを弾き飛ばしてしまったのであった。

 

 

「何っ!? ぐああああああっ!!!!」

 

 

そしてその衝撃波の塊はそのままチンクに直撃し、それを喰らったチンクは大きく吹き飛ばされ、壁に減り込むほど強く叩き付けられて、意識を手放してしまった。

 

 

「そんな……チンク姉まで……!!?」

 

 

ことごとく姉妹が敗れていく光景を見て愕然とするウェンディ。するとそんなウェンディに、クイントの射貫くような鋭い視線が向けられる。

 

 

「ひっ…!!」

 

 

その目を向けられて完全に委縮してしまうウェンディ。

 

 

「眠りなさい」

 

 

そして一瞬で背後に回られてしまったウェンディの首筋に手刀がトンっとあてがわれ、そのまま力なく倒れたのだった。

 

 

「みんな……くっ……!! ハァァアアアア!!!!」

 

 

倒れてしまった姉妹を見回したギンガは悔しそうに表情を歪めたあと、咆哮を上げながらクイントへと向かって行き、自身のシューティングアーツで果敢に攻めていく。そんなギンガの打撃をクイントは顔色一つ変えずに片手で捌いていた。

 

 

「(強い……私のシューティングアーツが、片手でここまで防がれるなんて…!! でも……!!!)」

 

 

そう考えながらギンガは、攻撃を続けながら声高らかに叫んだ。

 

 

「──今よスバル!!!」

 

 

「!!」

 

 

「うおおおおおおおおっ!!!!」

 

 

その瞬間……ギンガの後ろから突然現れたスバルが、クイントに向かってリボルバーナックルを装着した拳で殴り掛かる。

 

 

「くっ……」

 

 

完全に不意をついた攻撃に、クイントは毒づきながら、もう片方の腕を使ってスバルの攻撃をガードした。

 

 

「──そこだっ!!!!」

 

 

その時……一瞬だけスバルへと意識が向いたクイントに生まれた決定的なスキをギンガは見逃さなかった。

 

 

 

「リボルバーストライク!!!!」

 

 

 

そしてクイント目掛けて放たれたギンガのリボルバーナックルによる必殺の一撃。攻撃を放ったギンガも、それを見ていたスバルも確実に決まると確信していた。

 

 

だがしかし……

 

 

「甘いわ」

 

 

「「!!?」」

 

 

そんな声が聞こえた次の瞬間……クイントの振るった腕から放たれたとてつもない衝撃波が、ギンガとスバルの2人を襲った。

 

 

「「うわぁぁぁああああ!!!」」

 

 

その衝撃波によって2人は吹き飛ばされ、スバルは天井に叩き付けられてそのまま床に落下して倒れ……ギンガは2、3回床をバウンドしたあと壁に勢いよく叩き付けられて、同じくそのまま床に倒れ伏した。

 

 

「ぐっ……今のはまさか……繋がれぬ拳(アンチェインナックル)

 

 

「母さんが……一番得意だった技……」

 

 

思わぬ反撃によって大ダメージを受けてしまった2人は、立ち上がる事もできずに、愕然としながらそう呟く。

 

 

「(強い…!! これがかつて〝拳聖(けんせい)〟呼ばれ、国中のありとあらゆる武術を体得し、シューティングアーツの創り上げた……母さんの力……!!!)」

 

 

目の前に立つ母…クイントの圧倒的な力の前に、ギンガはただただ驚嘆しながら気を失ったのであった。

 

 

「くっ…うぅ……っ!!!」

 

 

唯一意識があるスバルも起き上る事が出来ず、ただ呻き声を上げるだけであった。

 

 

「これで、邪魔者はいなくなったわ」

 

 

そう言うと、クイントは今までの戦いを黙って静観していたゲンヤへと視線を向ける。

 

 

「よく逃げなかったわね」

 

 

「バカヤロウ、娘を見捨てて逃げる父親がいるかよ」

 

 

「今から殺されるとしても?」

 

 

「たとえ死んでも、オレは家族を見捨てるようなクズにはなりたくねえ」

 

 

「フフッ……いい度胸ね」

 

 

ゲンヤのそんな覚悟の篭った言葉を聞いて、クイントは感心したように小さく笑う。

 

 

「そんなあなたの度胸に免じて……あなたの愛した妻の姿で殺してあげるわ」

 

 

「そりゃ……本望だな」

 

 

そう言ってクイントは悪魔の姿から人間の姿に戻ると、ゲンヤの首を容赦なく鷲掴みにしてそのままゆっくりと持ち上げる。

 

 

「がっ…ああ…が……」

 

 

ギリギリと首を締め上げられ、苦痛の声を漏らすゲンヤ。

 

 

「や…めて……」

 

 

すると、床に倒れ伏しているスバルが、顔だけ上げながら小さくそう声をかける。

 

 

「やめてよ…お父さんを放して……お願いだからもう……こんな事はやめてよ!!! お母さん!!!!!」

 

 

両目から大粒の涙を流し、懇願するようにそう言い放つスバルだが……クイントは気にも留めずにゲンヤの首を絞め続ける。

 

 

「最後に…言い残す事はあるかしら?」

 

 

「遺言…か……? そう…だな……言いたい事は…いっぱいあるが……1つ…どうしても言っておきてえ事が…ある」

 

 

首を絞めながらそう尋ねるクイントに対して、ゲンヤは苦し気に声を出しながらも……最後となる言葉を口にする。

 

 

「─────…────…────……」

 

 

ゲンヤから発せられるその言葉は、スバルたちの耳には届かない。だがクイントの耳にはしっかりとその言葉が聞こえていた。そしてゲンヤの言葉を聞き終えたクイントは、静かに目を伏せると……

 

 

「そう──じゃあ、死になさい」

 

 

そんな無慈悲な言葉を言い放つと同時に、彼女が装着している黒い篭手が妖しく輝き始める。

 

 

「やめろォォォォォオオオオ!!!!!」

 

 

スバルの必死の叫びが響き渡る。そして次の瞬間……

 

 

 

 

 

ドガァァァァアアアアアアアアン!!!!!

 

 

 

 

 

スバルたちの家全体を吹き飛ばすほどの大爆発が巻き起こったのであった。

 

 

そしてその爆発が収まったあと、スバルの目に飛び込んできたのは……家の残骸である瓦礫とその瓦礫の上に1人静かに佇むクイントの姿。

 

 

そこにゲンヤの姿は……なかった。

 

 

「お…父…さん……ウソ……ウソだ……っ!!!!」

 

 

目の前で起きた事実を理解した……理解してしまったスバルは、悲痛な叫び声を上げる。

 

 

「うわああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

 

大切な父親を失った悲しみ…守れなかったという己の無力感…母であるクイントに対する怒りと憎悪……それら全てが入り混じったスバルの悲痛な鳴き声が周囲に木霊する。

 

 

「……任務完了」

 

 

そんなスバルに興味を失ったかのように小さくそう呟くと、クイントは踵を翻して静かにその場を去って行った。当然、今のスバルにそれを追いかける気力はない。

 

 

結局その場に残ったのは……崩壊した家の残骸と、気を失ったギンガたち……そしてその中で悲痛な叫び声を上げているスバルたちだけであった。

 

 

 

 

 

つづく


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