LYRICAL TAIL   作:ZEROⅡ

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大学が終わったので執筆時間が取れるようになりました。

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開かれた扉

 

 

 

 

 

 

ナツたちの前に現れた7年後の未来からやって来たローグ。彼は1万のドラゴンを唯一倒す方法であるエクリプスの扉を閉める者……ルーシィを抹殺する為に彼女に牙を剥く。

 

 

しかしそんなルーシィを身を挺して守ったのが、少し先の未来からやって来たルーシィ自身であった。未来ローグによって致命傷を負わされた彼女は、ナツたちに未来を託して静かに息を引き取った。

 

 

そして未来ルーシィとの約束を守る為に、ナツは未来ローグの前に立ち塞がる。

 

 

「ティア!! ルーシィを頼む!!!」

 

 

「ええっ!! ルーシィ!! ここから離れるわよ!!!」

 

 

「でも…!!!」

 

 

「行こうルーシィ!!!」

 

 

「ここはナツに任せよう!!」

 

 

「狙われてるんだよ! アイツから逃げなきゃ!」

 

 

「う…うん」

 

 

ユーノに手を引かれ、ティアナやロキたちと共に急いでその場から離れるルーシィ。

 

 

「逃がすかっ!!!!」

 

 

それを追おうとする未来ローグだが、そんな彼の行く手をナツが阻む。

 

 

「ぐっ!! ナツ・ドラグニル!!」

 

 

忌々しげに彼の名を呟くと同時に、ナツの拳に殴り飛ばされる未来ローグ。そしてその間に、ルーシィたちはその場からの離脱に成功した。

 

 

「お前が立ち塞がるのは想定内だ。どの道お前はドラゴンに殺される未来。このオレが殺しても歴史に何の影響もあるまい」

 

 

「お前そんな奴だったか?」

 

 

「歳月は人を変える。ここで死ね、ナツ・ドラグニル」

 

 

そう言って影でナツを攻撃する未来ローグだが、ナツはその影を己の炎で焼き尽くして防ぐ。

 

 

「お前はオレの目の前で大切なものを奪ったんだ。お前のやり方は信じねえ、オレはオレたちのやり方で未来を守る!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第215話

『開かれた扉』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユキノー!! どこにいるのー!! ユキノー!!」

 

 

一方、いなくなったユキノを探して来た道を引き返して来たミラジェーンは、未来ルーシィに話を聞いた大食堂へと戻って来ていた。

 

 

「ミラジェーン様……」

 

 

「ユキノ!!? 何してるのこんな所で!!」

 

 

すると、大食堂の隅で膝を抱えて座り込んでいたユキノを発見した。

 

 

「すみません、私……」

 

 

「さ……行くわよ」

 

 

「………行けません」

 

 

そう言ってユキノに手を差し伸べるミラジェーンだが、ユキノはそれを首を横に振って拒絶する。

 

 

「私と……一緒にいると……不運に見舞われるんです。昔から…ずっとそうなんです…私といると周りの人が不幸になる」

 

 

「私の周りには自分の不幸を人のせいにする人はいないわ」

 

 

「だけど…」

 

 

目元に涙を浮かべながらそう語るユキノ。すると……

 

 

 

「大丈夫、人には必ず生きる意味がある。どんなに小さな事でも必ず…あなたには意味がある」

 

 

 

そう優しく語りかけながら、ミラジェーンはユキノをそっと抱きしめたのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「これよりドラゴン迎撃に備えて、(エクリプス)・キャノン発射シークエンスに移行します!! 開錠!!!!」

 

 

その頃…地上ではついにエクリプスの錠が解放され、その扉が開かれようとしていた。

 

 

「(ついに扉が開くのか……)」

 

 

「(姫の意志……最後まで見届けよう)」

 

 

ゆっくりと開錠されていく扉を静かに見据えるダートンとアルカディオス。

 

 

「ドラゴンの進軍状況は」

 

 

「西方の観測所、未だ敵影なし! 東方にも異常はありません!」

 

 

「住民の避難の方は」

 

 

「兵士たちが順次誘導しています」

 

 

「願わくば一撃で全滅させたい。これだけの魔力再装填には年単位の時間がかかります」

 

 

そんな状況を、未来ローグから逃げ切って地上に出る事に成功したティアナやルーシィたちが、草葉の陰に身を潜めながら伺っていた。

 

 

「脱出早々すごい所に出くわしたわね」

 

 

「扉が開くトコみたいですね」

 

 

「あれ? ロキがいないよ」

 

 

(エクリプス)の近くだと魔法が使えないから、星霊界に帰ったよ」

 

 

そんな会話をしながら隠れて様子を伺っていると……

 

 

「隠れてる必要はない。出てきなさい」

 

 

「「「!!」」」

 

 

どうやらアルカディオスにはバレてしまっていたようで、彼に指摘されたティアナたちは大人しく隠れるのをやめて姿を現す。

 

 

「オイラたち何も悪い事してないぞ!!」

 

 

「アンタと大臣が一緒にいるって事は…」

 

 

「色々事情が変わったのです」

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)。この度は申し訳ありませんでした。今は緊急事態の為、正式な謝罪は後日改めて」

 

 

彼らの存在に気がついたヒスイは、最初に謝罪の言葉を述べる。

 

 

「それと、大魔闘演武優勝おめでとうございます」

 

 

「優勝!!」

 

 

「エリオ君…みなさん……やったんですね」

 

 

「さすがだな」

 

 

「はい!」

 

 

こんな状況だが妖精の尻尾(フェアリーテイル)が優勝したと聞いて、素直に喜ぶ。すると、ルーシィがヒスイに対してある疑問を投げかける。

 

 

「何で扉を開いてるの? まだドラゴンは来てないのに」

 

 

「ドラゴンの事を……」

 

 

「ええ…彼女らも事情は知っています。そう言えば、未来から来た〝君〟は?」

 

 

「「「…………」」」

 

 

「殺されたわ…もう1人の未来から来た奴にね」

 

 

「「!」」

 

 

アルカディオスの問いにルーシィたちが言い辛そうに目を伏せると、代表してティアナがそう答える。そしてもう1人の未来人に未来ルーシィが殺されたと聞いて、ヒスイとアルカディオスは目を見開く。

 

 

「その男は言ってた、あたしが扉を開くのを邪魔したせいで(エクリプス)・キャノンが撃てなかったって」

 

 

「だから君を殺そうと?」

 

 

「邪魔をするのですか?」

 

 

「そんな事しませんっ!! だけど……どうしてドラゴンが来てないのに扉を開いているのか気になるんです」

 

 

「単純な事です。砲撃までに時間がかかるからです。ドラゴンが現れてからの開聞では間に合いません」

 

 

「本当にドラゴンを倒せるんですか? 全部」

 

 

「確実……とは言えませんが、最悪の事態に備え、陛下も策を講じているハズです」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

同時刻……クロッカスの街の中央広場『リ・イン・クリスタル』。

 

 

そこでは大魔闘演武に出場した全ての魔導士ギルドの人間が集められ、その前にはフィオーレ国王であるトーマ・E・フィオーレが現在の状況を説明していた。

 

 

「……と言う訳で、大魔闘演武の余韻に浸るヒマもなく大変に心苦しいのだが、今……この国は存亡の危機にある……とさっき聞いた」

 

 

「1万のドラゴン…ですと?」

 

 

「アクノロギアだけでもまったく歯が立たへんかったのに……」

 

 

「あれが特別だとしても」

 

 

「1万てのはね……」

 

 

国王の話を聞いて、魔導士ギルドの者たちは動揺し、特に直接アクノロギアと対峙した事のある妖精の尻尾(フェアリーテイル)は息を呑んだ。

 

 

「今……城では大規模な作戦が遂行されておる。エクリプス計画。この作戦の目的は1万のドラゴンを一掃するというもの。しかし…相手は大群ゆえ必ず数頭…あるいは数百頭かが生き残ると推測される。魔導士ギルドのみなさん……どうか私たちに力を貸してください。生き残ったドラゴンを皆さんの力で倒して欲しい。この通りです──この国を救ってください」

 

 

そう言ってこの国を救う為に魔導士ギルドの面々に深く頭を下げる国王。

 

 

すると……

 

 

 

 

 

 

「オオッ!!!」

「当然だ!!!」

「任せとけ!!!」

「怪物なんかにやられるかよっ!!!!」

「魔法と共に歩んだこの国は──オレたちの国だ!!!!」

「「「オオオオオオオオオッ!!!!」」」

 

 

 

 

 

返って来たのは全てのギルドからの賛同の声であった。

 

 

「おぉお…おお」

 

 

その声を聞いた国王は感激のあまり涙を流す。

 

 

「私たちの仲間が王国軍に捕われているのだが…」

 

 

「無事です。さっき姫と合流したとの報告が」

 

 

「じゃあ、もう何の心配もなく戦えますね」

 

 

「おしっ!! もうひと暴れするかっ!!!」

 

 

ルーシィたちが無事だと聞いて、ようやく心配事が解消されたエルザたち。

 

 

「ドラゴン」

 

 

「オレたちの出番って訳だな」

 

 

「ドラゴンを相手に、私の拳がどこまで通用するか……」

 

 

「がんばれースティング君!」

 

 

「フローも」

 

 

「お嬢は?」

 

 

「さあ」

 

 

「見ていないな」

 

 

剣咬の虎(セイバートゥース)……

 

 

「全てのギルドの意志が1つに」

 

 

「何て素敵な香り(パルファム)

 

 

(ドラゴン)天馬(ペガサス)か、絵になるね」

 

 

「相手はマジモンのドラゴンだけどな」

 

 

「私の魔法…ドラゴンに効くかなぁ?」

 

 

「がんばろう」

 

 

「ちっ! しょうがねえな」

 

 

「アタシも大会に出られなかった分、がんばるッスよ~!!」

 

 

青い天馬(ブルーペガサス)……

 

 

「カグラちゃん、休んでなきゃダメだよ!」

 

 

「そうです!! 無茶はダメですよカグラさん!!」

 

 

「いいや……皆戦うのだ」

 

 

「もう、カグラちゃんってば強情さん」

 

 

「ワイルド~~~っ」

 

 

「「「フォーーー!!!」」」

 

 

「うちらはセクシーフォーだよ!!」

 

 

人魚の踵(マーメイドヒール)……四つ首の猟犬(クワトロケルベロス)……

 

 

「お前との共闘も懐かしいな」

 

 

「足引っ張るなよ」

 

 

「スバルはともかく、ノーヴェやチンクたちと一緒に戦うのは初めてね」

 

 

「だなっ」

 

 

「うむ」

 

 

「よーしっ!! 新生ナカジマ姉妹の力で、ドラゴンをやっつけよう!!!」

 

 

「ヴィヴィオ、あんまり無茶しちゃダメだよ?」

 

 

「ママもね!」

 

 

「ウェンディは無事なの?」

 

 

「大丈夫だよ。ナツさんやティアナさんたちも一緒だから」

 

 

「戦じゃの」

 

 

「アタシも回るよ!! 激しくねっ!!」

 

 

蛇姫の鱗(ラミアスケイル)……そして妖精の尻尾(フェアリーテイル)

 

 

その他にも多くの魔導士ギルドが、この国を守る為に一致団結して戦おうとしてくれている。そんな彼らに対して国王は、ただただ感謝の言葉しか出て来なかった。

 

 

「ありがとう…ありがとう…ありがとう……………………カボ」

 

 

「「「!!!?」」」

 

 

ここで少し国王の意外な正体が明らかになってしまった事はさておき……ここから少し離れた場所で3人の人物がその光景を眺めていた。

 

 

「なんて事だ」

 

 

「エクリプスだと? 存在しているだけで30の法律に触れるぞ」

 

 

「けど1万のドラゴンってのも見過ごせないね。どうするんだい?」

 

 

その3人とは、評議員であるドランバルト、ラハール、アルフであった。

 

 

「この事態、評議院本部に連絡した方がよさそうだな」

 

 

「ラハールとドランバルト、そしてアルフだな」

 

 

するとその3人の後ろから声をかける人物がいた。

 

 

「アンタは!!」

 

 

「ジェラール!!」

 

 

「なぜここに…!!!」

 

 

その人物…ジェラールの姿を見た瞬間に警戒心を露にして身構える3人。だがジェラールはそんな事意にも介さず、言葉を続けた。

 

 

「頼みがある」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

ゴーーン…ゴーーン…ゴーーン……

 

 

街中に鳴り響く日の変わり目を知らせる金の音。今この時より、日付は7月6日から7月7日へと更新された。

 

 

「7月7日か……」

 

 

「確か、ドラゴンが消えた日だったよね」

 

 

「こんな日にドラゴンが現れる……ってのか」

 

 

「偶然…なんでしょうか」

 

 

7月7日は自分たちの育ての親であるドラゴンが消えた日と同じ日付……そんな日にドラゴンが襲ってくるという事に、ガジルとエリオは何か嫌な予感を感じていた。

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)はこの中央広場を守備する」

 

 

「他のギルドの者たちは?」

 

 

「それぞれ街の四方に散って待機中や」

 

 

「スカーレット、お前は休んでいろ。そのケガでは…」

 

 

「問題ない」

 

 

「シャマルとリオンとこの回復娘と王国の衛生兵(ヒーラー)のおかげで何とか動ける」

 

 

「ウェンディもいてくれたら、もうちょっと回復できたんだけどね」

 

 

「それにしても、不気味な月だな」

 

 

「うん…まるで血に染まっているみたい」

 

 

そう言って夜空に浮かぶ月を見上げるフリードとフェイト。その月はいつものように金色のような輝きではなく、赤く濁った輝きを放っていた。

 

 

月蝕(エクリプス)か…」

 

 

そんな赤い月を見上げて、ラクサスがそう呟いたのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

場所は戻って城の方では……ついに完全に錠が解かれたエクリプスの扉が、凄まじい魔力を漂わせながら開かれようとしていた。

 

 

「(扉が開く)」

 

 

その光景を、ルーシィは静かに眺めていた。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

エクリプスの扉が開く音は、ナツと未来ローグが戦っている地下にも地響きとして伝わっていた。

 

 

「この音は?」

 

 

「エクリプスの開く音。わざわざルーシィを殺さずとも、扉は開かれた。だが……あの女は必ず邪魔をする。扉を閉めると決まっている」

 

 

ナツと攻撃をぶつけ合いながらそう言い放つ未来ローグ。その言葉にナツが大声で反論する。

 

 

「ルーシィはそんな事しねえ!!!! みんなの未来を打ち砕く訳がねえだろ!!!!」

 

 

「どけ」

 

 

「ぐあああ!!!」

 

 

そんなナツを足元からの影による攻撃で吹き飛ばす未来ローグ。

 

 

「オレはルーシィを殺しに行く」

 

 

「行かせるかァ!!!」

 

 

しかしナツは天井に両足をつけると、力強く天井を蹴り出して一直線に未来ローグへと向かって行く。

 

 

「モード雷炎竜!!!!」

 

 

「!!」

 

 

そしてナツはさらに雷を身に纏い、炎と雷の双属性……雷炎竜となり、未来ローグに炎の打撃と雷の追加攻撃を叩き込んだのであった。

 

 

「それが7年前に隠していた力か!!」

 

 

ナツはさらに拳を構えて追撃を加えようとする。しかし次の瞬間……ローグの体から白い光が放たれる。

 

 

 

「モード白影竜」

 

 

 

「!!」

 

 

そして光が止むとそこには、右半身が黒く染まった未来ローグの姿があった。

 

 

ナツがその姿に呆気に取られていると、次の瞬間には未来ローグはナツの脇腹を引き裂いていた。

 

 

「がっ!!」

 

 

「これが──光と闇の双属性」

 

 

そして……

 

 

 

 

 

「白影竜の(あしぎぬ)!!!!!」

 

 

 

 

 

「ぐあああああああ!!!!」

 

 

四方八方から走る光と闇の閃光が、ナツの体を切り刻んだのであった。

 

 

体を切り刻まれたナツは一瞬で傷だらけの姿となり、地面を転がった後に地に伏せた。

 

 

「白…影……」

 

 

「スティングを殺して奪った力だ。と言っても、この時代から見ればもう少し先の話だがな」

 

 

「お前…そんなに…命を……何とも思わねえ奴だったのか…」

 

 

「そうだ。お前もここで死ね」

 

 

地面に倒れ伏すナツを見下ろしながら、未来ローグは冷たくそう言い放った。

 

 

「死ぬ…かよ……!! ルーシィの後は追わせねえ……!!」

 

 

するとナツはフラフラになりながらもゆっくりと立ち上がりながら未来ローグを睨む。

 

 

「相変わらずしぶといな。だがこれで終わりだ。白影竜の……」

 

 

そんなナツにトドメをさそうと口の中に魔力を集束させる未来ローグ。

 

 

だがその時……

 

 

 

 

 

「何を遊んでいる?」

 

 

 

 

 

「「!!?」」

 

 

突然2人の耳にそんな声が聞こえてきたかと思った次の瞬間……

 

 

 

──ドスッ!!!

 

 

 

「ア?」

 

 

気がつけばナツの背後にいつの間にか全身を黒いローブで身を隠した仮面の男が立っており……その隠れた腕の袖部分から飛び出した闇のように黒い魔力で構築された刃が、ナツの背中から腹部へと貫通していた。

 

 

「ガ…アァアアアアアアアアッ!!!!」

 

 

いきなり背後からの不意打ちを受けたナツの絶叫が響き渡る。そして仮面の男が魔力刃を引き抜くと、ナツは腹から血をドクドクと流しながら、そのまま地面に倒れ込んでしまう。

 

 

「お前は……」

 

 

「エクリプスの扉は開かれた。こんな所でこんな奴の相手をしているヒマがあるのか? ローグ」

 

 

「フン…オレより先にこの時代にやって来ていたにも関わらず、今まで何もしなかった貴様に言われる筋合いはないな」

 

 

「そう言うな。扉が開かれるまでオレの素性は誰にも知られる訳にはいかなかったのでな、身を隠す必要があったのだ」

 

 

「自分から協力を申し出ておいてよく言う」

 

 

「貴様の計画はオレにとっても重要な事だからな」

 

 

どうやら未来ローグと仮面の男は顔見知りらしく、そんな言い合いのような会話をしている。そして話を聞いていると、この2人は協力関係のようである。

 

 

「お…まえ……!!」

 

 

すると、地面に倒れているナツが腹部のダメージを堪えながら、激しく動揺した顔つきと信じられないようなものを見る目で仮面の男に視線を向けていた。

 

 

「この…ニオイ……お前…まさか……!!!」

 

 

「……………」

 

 

「なんで…なんでお前が……!!」

 

 

声を震わせ、途切れ途切れの声でそう問い掛けるナツに答えず…仮面の男は一瞬だけ彼に視線を向けるが、すぐに未来ローグに向き直った。

 

 

「行くぞローグ。あとは影に沈めておけば十分だ」

 

 

「フン」

 

 

そう言って未来ローグとと共にその場から歩き去ろうとする仮面の男。

 

 

「「!」」

 

 

すると、そんな2人の周囲を無数の水晶玉が取り囲んでいた。

 

 

「フラッシュフォワード!!!!」

 

 

そしてそれらの水晶玉が一斉に未来ローグと仮面の男に襲い掛かるが、それよりも早く未来ローグは影となってその場から離脱し、仮面の男も文字通り姿を消した。

 

 

あとに残ったのは、力尽きて倒れているナツと、先ほどの攻撃を放ったウルティア…そしてメルディだけであった。

 

 

「逃げられたっ!!」

 

 

「ナツ!! しっかりしなさい!! メルディ、応急薬を!! 急いで!!」

 

 

「うん!」

 

 

2人が消えたのを確認したウルティアとメルディはすぐさま倒れているナツへと駆け寄り、応急処置を施そうとする。しかし……

 

 

「ちょ……何よコレ……ナツ!!! マズイ!!! 影に囚われてしまう!!!」

 

 

ナツの体はゆっくりと影の中へと沈んでいき……取り込まれようとしていた。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「見ろ!!」

「オオッ!!」

「人類の希望の扉が開く!!」

「勝利の扉が開くぞ!!」

 

 

その頃…エクリプスの扉は今まさに完全に開かれようとしていた。

 

 

「すごい魔力だね。ヒゲがビリビリする」

 

 

「毎年大魔闘演武に参加する魔導士たちから吸収していた魔力ですからね」

 

 

「確かにこれならドラゴンを一掃できるかも」

 

 

「これほどの魔力が一か所に」

 

 

扉の奥から漂う莫大な魔力を感じながらそういうエクシードの4人。

 

 

「これで未来が救われるんですよね」

 

 

「うん」

 

 

「未来から来たアンタも、うかばれるといいわね」

 

 

ティアナとウェンディの言葉にそう答えながら静かに目の前の扉を見上げているルーシィ。

 

 

すると…突然彼女はゆっくりと、扉に向かって歩き始めた。

 

 

「ルーシィ?」

 

 

そんなルーシィの行動にユーノが首を傾げていると、ルーシィはゆっくりと口を開いて驚くべき事を言い放った。

 

 

 

「ダメ……扉を開けちゃ……ダメ……今すぐに扉を閉めなきゃ……」

 

 

 

そんな事を言い出したルーシィに、その場にいた全員が驚愕する。

 

 

「扉を閉めて!!!! 今すぐ!!!! その扉を開けちゃダメ!!!!」

 

 

「ルーシィさん?」

 

 

「急にどうしたのよ!?」

 

 

「何を言って……」

 

 

突然扉を閉めろと叫ぶルーシィに、ウェンディやティアナたちも動揺する。あの未来ローグが言っていた通りになろうとしているのだから。

 

 

「お願い!!! 扉を閉めて!!!!」

 

 

「なりません!!! これは大群のドラゴンに対抗できる唯一の兵器!!!! 今……扉を閉じたら(エクリプス)・キャノンは撃てない!!!!」

 

 

(エクリプス)・キャノンなんて無い!!!! あれは〝扉〟!!!! 時間を繋ぐ扉なの!!!!」

 

 

「その蓄積された魔力を放出するのが(エクリプス)・キャノンです!!!!」

 

 

「それは違う!!!! あれは兵器なんかじゃない!!!!」

 

 

「ルーシィ、落ち着いて!!」

 

 

「その辺にしておけ、この国の姫君にあらせられるぞ」

 

 

ヒスイとそんな言い争いをするルーシィを、ユーノとアルカディオスが宥める。だがそれでもルーシィは止まらない。

 

 

「あの扉は……400年前と繋がって……」

 

 

そしてルーシィがそう言いかけた瞬間……突然地面を大きく揺るがすほどの地響きが起こる。

 

 

「!!」

 

 

「何!?」

 

 

「うわぁ!」

 

 

「きゃあ!」

 

 

「ハッピー! シャルル! 大丈夫ですか!?」

 

 

「すごい地響きだ!」

 

 

「地響きというより…地震じゃない!」

 

 

そんなとてつもない地響きが起こったかと思うと……さらに信じられない事が起こった。

 

 

「ああ……」

「そんな……」

「ウソだろ……」

 

 

それを見た瞬間……その場にいた全ての人間が言葉を失った。

 

 

 

 

 

何故なら……扉から現れたのは(エクリプス)・キャノンなどではなく──今まさに迎え撃とうとして相手であるドラゴンそのものだったのだから。

 

 

 

 

 

「扉からドラゴンが……」

 

 

人類の希望であるハズだったエクリプスの扉からドラゴンが現れるという事態に目を見開くヒスイ。

 

 

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!」

 

 

 

そして扉から現れたドラゴンは大気を震わせるような咆哮を上げる。するとその咆哮によって起こった空気の振動は衝撃波となり、周囲の人間を吹き飛ばし…地面を抉っていく。

 

 

そしてさらにドラゴンがその強靭な手を地面に叩きつけると、その瞬間地面が割れ…クロッカスの街が半分に避けたのであった。

 

 

「これほど……なのか」

「ウソだ…こんなの……」

「勝てる訳ねえ…」

「なんだよコレ……」

 

 

ドラゴンの力を目の当たりにしたアルカディオスは戦慄し、王国兵たちは激しく動揺していた。

 

 

だがこれで終わりではない……

 

 

「もう1頭出てきた!!!!」

 

 

「どうなってやがる!!!? まだ出てくるぞ!!!!」

 

 

1頭だけでなく、2頭目3頭目のドラゴンが次々とエクリプスの扉から出現しているのだ。

 

 

「扉はどうやって閉めるの!!?」

 

 

「……………」

 

 

ヒスイに扉の閉め方を聞き出そうとするルーシィだが、ヒスイは目を見開いたまま呆然としていた。

 

 

「早く!!!!」

 

 

「! そ…そこの台座で……」

 

 

ルーシィの叫びで我に返ったヒスイは、そう言って扉の傍らにある台座を指差す。それを聞いたルーシィはすぐさま台座に向かって駆け出す。

 

 

だがその瞬間、扉から現れたドラゴンの雄叫びによって凄まじい突風が巻き起こる。

 

 

「あぅ!」

 

 

「危ない!!」

 

 

その風圧によって飛ばされそうになるルーシィを、ユーノが身を挺して受け止める。

 

 

「ルーシィ!!! 早く扉を閉めるんだ!!!」

 

 

「うん!!!」

 

 

ルーシィは地面を這いながらも突風に耐え、台座へと向かって行く。

 

 

「このトリガーを引くのね!!!! 星霊魔導士の力で……!!!!」

 

 

そして台座へとたどり着いたルーシィは、扉を閉める為のトリガーに手をかける。

 

 

「うわーーー!!! また出てきたーーーっ!!!」

「姫を守れーー!!!」

「退くなーーー!!!」

 

 

その間にも、扉からどんどんとドラゴンが現れる。

 

 

「1万のドラゴンは……(エクリプス)から来るんですね」

 

 

その光景を目にしながら、ヒスイは涙を流した。

 

 

「ルーシィさん!!! 何で気がついたんですか!!?」

 

 

「あたしじゃない!! クル爺がずっと調べてたの!! で……さっきこの扉の解析が終わった!! これはゼレフ書の魔法と星霊魔法が合わさった装置なの!! 本来なら時間座標を指定して時間を移動できるんだけど、今日だけは特別に……あの月が魔法を狂わす!!!」

 

 

「ルナティック」

 

 

「そのせいでこの扉は制御がきかなくなってる! 400年前……つまりドラゴンのいる時代と繋がっちゃったの!!!!」

 

 

「そんな…」

 

 

ドラゴンを倒す為に起動した装置がドラゴンを呼び込んだ……一体何の冗談かとその場にいた全員が叫びたかった。

 

 

「また1頭現れたぞ!!!」

「岩だ!! 岩が動いてる!!」

「その後ろにもう1頭いるぞ!!」

「ヒッ…骸骨だ!! 骸骨のドラゴンだ!!!」

 

 

1頭また1頭と扉からドラゴンが現れるが、扉が閉まる気配はない。

 

 

「ルーシィ!! まだ扉は閉まらないの!!?」

 

 

「次から次へとドラゴンが出てくるよォ!!!」

 

 

「何で!!? 何で扉が閉まらないの!!?」

 

 

必死にトリガーを引くルーシィだが、何故かトリガーはビクともしない。

 

 

「あぁん!!」

 

 

「ルーシィ!!!」

 

 

するとルーシィの傍を通ったドラゴンが地面を踏んだ瞬間、凄まじい振動と風圧によって吹き飛ばされ、トリガーから引き離されてしまう。

 

 

「私の…私の選択のミスで……世界が終わる……世界がドラゴンの怒りに染まる……」

 

 

「あたしはそんなのイヤ!!!!」

 

 

己のしでかしてしまった事を悔い、絶望の表情を浮かべながらそう呟くヒスイ。その言葉に対して、諦めずに体制を立て直して再びトリガーへと向かうルーシィが力強く叫ぶ。

 

 

 

 

 

「もう1人のあたしの分まで生きるんだ!!!! あたしの分まで泣いて…笑って…生きていくんだ!!!!」

 

 

 

 

 

目の前で死んでいった未来のルーシィ……その自分の分まで生きる為に、ルーシィは足掻く。

 

 

「あたしは──」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「この地響き……」

 

 

「ナツ!!! しっかりして!! どうしたらいいの!!?」

 

 

一方で未来ローグと戦い、突然乱入した仮面の男によって重傷を負わされたナツは影の中へと引きずりこまれそうになっていた。それを救援に来たウルティアがどうにかしようとするが、どうにもできずにいた。

 

 

すると……

 

 

「行かなきゃ……」

 

 

そう呟きながら、ナツはウルティアの肩に手を置いて自分の力で影の中から這い出てきた。

 

 

「約束したんだ……」

 

 

 

 

 

──未来を守る!!!!!

 

 

 

 

 

つづく


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