LYRICAL TAIL   作:ZEROⅡ

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卒論の息抜きに少し書こうと思ったらいつの間にか3話分も書いてた自分にビックリ。


という訳で、1時間おきの3話連続投稿です。

1話目はサブタイ通りエルザとカグラの戦いでほぼ原作通りですが、応援席からの戦いのリアクションなどはリリカルキャラをメインにしておりますので、どうかご容赦を。

感想お待ちしております。


エルザvsカグラ

 

 

 

 

 

ルーシィを救出し、餓狼騎士団から聞き出した奈落宮の出口へとやって来たナツたちを待ち受けていたゼレフに似た魔力を持った黒いローブで全身を隠した1人の少女。

 

 

その正体は何と……救出したルーシィとは別の、もう1人のルーシィであった。

 

 

「ルーシィがもう1人…」

 

 

「ど…どういう事ですか?」

 

 

「ジェミニ…じゃないですよね」

 

 

「エドラスとかそういうのじゃ……」

 

 

「でもなさそうだね……君は一体?」

 

 

目の前に2人のルーシィが存在するという光景に全員が愕然としていると、黒いローブを着た方のルーシィが事情を説明し始めた。

 

 

「時空を超える扉・エクリプスの事はもう知ってるよね」

 

 

「「「!」」」

 

 

「エクリプス……まさか!!」

 

 

「もしかしてあなたは、そのエクリプスを使って……」

 

 

「未来から来たの」

 

 

「「「なーーーーーっ!!!!」」」

 

 

未来から来たというルーシィの言葉に、驚きを隠せないナツたち。

 

 

「未来の…ルーシィ……」

 

 

「そんなバカな…」

 

 

ユーノとロキはありえないと言いたげな表情で静かにそう呟く。

 

 

「この国は…もうすぐ…」

 

 

未来ルーシィはそこまで言うと、突然力が抜けたようにバタンっとその場に倒れてしまった。

 

 

「おいっ!!!」

 

 

「だ…大丈夫ですかっ!?」

 

 

「……心配ないよ、気を失っただけみたいだ」

 

 

ナツたちは倒れた未来ルーシィに慌てて駆け寄り、ユーノが彼女の容体を確認してそう告げる。

 

 

「どうなってるんだ……一体……」

 

 

「訳がわからん」

 

 

「……………」

 

 

ハッピーとリリーがそう疑問を浮かべている傍で、何とも言えないような表情で未来ルーシィを見下ろしている現代のルーシィ。

 

 

「ルーシィ…大丈夫?」

 

 

「うん……でもなんか、気味が悪いよ。なんであたしが…」

 

 

ルーシィはティアナの問い掛けにそう頷くが、表情は晴れない。突然目の前に現れた未来から来たというもう1人の自分……ルーシィ本人からしてみれば、確かに気味の悪い事この上ないだろう。

 

 

「とにかく放ってはおけない。このルーシィも連れて行こう」

 

 

ユーノはそう言うと、気を失っている未来ルーシィを抱き上げる。

 

 

「まずは城を出て信号弾を上げるわよ」

 

 

「ルーシィさんの救出成功ってですね」

 

 

「ああ…2人になるとは思わなかったけどな」

 

 

予想外な出来事はあったが……ナツたちは当初の目的を果たす為に奈落宮を脱出し、信号弾を上げるべく城の外を目指したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第207話

『エルザvsカグラ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし解せませんな。姫がエクリプスの扉を開くには星霊魔導士の力が必要なハズ。その2人を奈落宮に落とすなど…矛盾しております」

 

 

「そうですね……あの時は十二の鍵が手元にあった事をいい事に……軽率でした」

 

 

ダートンの指摘に対し、ヒスイは悔いるようにそう言葉を漏らす。

 

 

「しかしその十二の鍵も奴等の許に戻ってしまった。姫はどうやってエクリプスの扉を開くおつもりか」

 

 

「鍵はすでに用済みです」

 

 

「!」

 

 

「昨日のうちに十二の鍵を使い、エクリプスの錠を外しました。あとは扉を開くだけです、人間の手で」

 

 

「その人間は人類の未来を変える責任を背負うつもりがおありであろうか」

 

 

「私1人では無理です。だからあなたの認可と、本当はアルカディオスにいてほしかった」

 

 

ヒスイのその言葉に、アルカディオスを奈落宮に落とした本人であるダートンはバツの悪そうな表情で俯く。

 

 

「扉を開くかどうかは大魔闘演武の結果次第──今は大会を見守りましょう」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

その頃……大魔闘演武にて、エルザ・カグラ・ミネルバによる三つ巴の戦いが繰り広げられていたのだが、趣向を変えようと言い出したミネルバが2人に見せたのは、彼女によって捕えられたミリアーナであった。それを見た瞬間、エルザとカグラの表情が変わった。

 

 

「そうだ、その表情が見たかった」

 

 

「ミリアーナを放せ」

 

 

「そなた等に王者の戦いというものを見せてやろう」

 

 

「二度は言わぬ。命があるうちに私の仲間を解放しろ」

 

 

「奪ってみせよ」

 

 

怒りの表情を浮かべ、不倶戴天を構えながらミリアーナの解放を要求するカグラに対し…余裕を持った表情でそう言い返すミネルバ。

 

 

すると次の瞬間……カグラは瞬く間にミネルバの懐へと潜り込んでいた。

 

 

「(速い!!!!)」

 

 

カグラの懐に潜り込む速さに目を見張るエルザ。

 

 

「アミタが喰らったのを合わせれば、虎を喰うのは二頭目なるな」

 

 

「今度は美味い虎が喰えるとよいな」

 

 

そしてカグラがミネルバに向かって不倶戴天を振るったその瞬間……ミネルバが立っていたハズの場所に、突如としてエルザが現れる。

 

 

「!!」

 

 

「!」

 

 

突然攻撃対象が変わった事に目を見開くカグラと、突然眼前に攻撃が迫っている状況に立たされて同じく目を見開くエルザ。

 

 

咄嗟の反応でガードしたエルザの刀とカグラの不倶戴天が衝突し、ガキィィインっと甲高い金属音が鳴り響く。

 

 

「(入れ替わった!!?)」

 

 

「(入れ替えられた!!?)」

 

 

鍔迫り合いをしながらも、一瞬で場所を入れ替えた事に驚愕するエルザとカグラ。

 

 

「2人で決着をつけよ。勝者の相手を妾がしてやる」

 

 

そう言うと、ミネルバは捕らわれているミリアーナの姿を消し、2人に背を向けて歩き始める。

 

 

「乱入してきたわりには随分情けない王者だな」

 

 

「自分の戦略通りに駒を動かすのが王者だ」

 

 

エルザの皮肉に対しても余裕の態度を崩さずにそう言葉を述べるミネルバ。

 

 

「光栄に思え、2対1ではさすがに敵わぬ。そこの見積もりを誤った事は認めよう。王者は勝たねばならん。どんな状況にあってもな」

 

 

「ミリアーナを返せ!!!」

 

 

去っていくミネルバの背中に向かってエルザがそう叫んだエルザに、カグラがピクリと反応する。

 

 

「貴様が──仲間のフリをするなっ!!!!」

 

 

そんな怒声と共に、エルザに頭突きを叩き込むカグラ。

 

 

「積もる話もあるようだしな。邪魔をした」

 

 

「条件は呑む!! ミリアーナを解放しろ!!」

 

 

すぐに振り返ってそう言うカグラだが、すでにそこにミネルバの姿はなかった。

 

 

「まんまと出し抜かれたな」

 

 

「黙れ──貴様も虎女も私が斬る」

 

 

そしてカグラは鋭い眼光でエルザを睨み付けながら、そう言い放ったのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「くそっ!! 初代の作戦がめちゃくちゃじゃねーか。どこで狂っちまったんだ」

 

 

メイビスの予測のもとでたてた作戦がめちゃくちゃになってしまい、毒づきながら1人街の中を散策するガジル。

 

 

「ん?」

 

 

すると、そんなガジルの前に……彼を鋭く睨むローグが現れた。

 

 

「ガジル」

 

 

「しつけーなお前も。オレは火竜(サラマンダー)ほど優しくねえから覚悟しろよ」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「よう……滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の小僧」

 

 

「あなたは……セイバーの黒い雷使い」

 

 

同じ頃……街の一角でバッタリと出会った剣咬の虎(セイバートゥース)のオルガと、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のエリオ。

 

 

「もう気づいてんだろ? オレが雷の滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)だって」

 

 

「神様は殺せても、妖精は殺せますかね?」

 

 

そう言って互いに不敵な笑みを浮かべ、エリオは雷を…オルガは黒雷をバチバチと音を立てて体から放出しながら……雷の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)は対立し、睨みあったのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

そしてまた別の場所でも……

 

 

「こいつはとんでもないものと出くわしてしまったな……シェリア」

 

 

「そうだね……チンク」

 

 

「……ラミアの滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)と、ナイフ使いか」

 

 

蛇姫の鱗(ラミアスケイル)のチンクとシェリアの2人の前に立っているのは、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の中でも最強クラスの実力を持つラクサス・ドレアー。

 

 

「相手はたった1人で大鴉の尻尾(レイヴンテイル)のチームを全滅させたほどの手練れだ。2人がかりで確実に仕留めるぞ、シェリア」

 

 

「大丈夫!! 私とチンクなら負けないよ!!!」

 

 

「フン…威勢のいい奴等だ」

 

 

そしてチンクは武器であるスティンガーを構え…シェリアは両手に黒風を纏って構える。対するラクサスも体から雷を放出しながら2人を静かに見据えていたのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「もー…ただでさえ作戦がめっちゃくちゃになって困っとるのに、その上2対1とか勘弁してほしいわぁ」

 

 

その頃、さらにまた別の場所では……困ったように苦笑しながらそう言っているはやて。そんな彼女の目の前には……

 

 

「だったら素直に降参してくれたら嬉しいんだけどな~♪」

 

 

「油断してはいけませんよキリエ。この方から感じる魔力は相当なものです」

 

 

人魚の踵(マーメイドヒール)のアミティエことアミタと、その妹であるキリエのフローリアン姉妹であった。

 

 

「ここは私とキリエのコンビネーションを駆使して、全力で勝ちにいきますよ」

 

 

「わかってるわよお姉ちゃん。手が離せないカグラちゃんの代わりに、ミリちゃんを助けに行かないとね」

 

 

そう言うとアミタとキリエはお互いに色違いの武器……ヴァリアントザッパーを構えたのであった。

 

 

「うーん、仲間を助けに行きたいって気持ちは良ぉわかるよ。けど……ゴメンなぁ」

 

 

それに対してはやては、そう言いながら夜天の書とシュベルトクロイツを構えると……

 

 

 

「私も仲間の為に──ここで負ける訳にはいかへんねや」

 

 

 

凄まじい魔力と威圧感を放ちながら、強くそう言い放ったのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

『次々と組み合わせが決まっていくー!!!』

 

 

『そういえばスティング君はどこにおるのかね』

 

 

『それが……魔水晶映像(ラクリマヴィジョン)のカメラがとらえる事ができません』

 

 

街の至る所で戦いが始まっている中……スティングは映像にも映らない街の隅の裏路地で1人息を潜めていた。

 

 

「汚ねえなお嬢。ククク、まあいいさ、みんな好きにやれば。オレのシナリオは考えうる最高の優勝へ向かっている──見ててくれレクター」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

その頃…闘技場(ドムス・フラウ)の傍らにある岩場では、ジェラールたち魔女の罪(クリムソルシエール)の3人が話し合っていた。

 

 

「未来から来たルーシィの話が全て真実だとしたら……」

 

 

「明日……この国が滅ぶ……」

 

 

「せめて民間人だけでも非難させたらどうかな?」

 

 

「パニックになるわよ」

 

 

「それでも……」

 

 

「待ってくれ」

 

 

「「!」」

 

 

ウルティアとメルディが未来ルーシィから話を聞いて、それからどうするかで話し合っていると、1人何かを考え込んでいたジェラールがストップをかける。

 

 

「全てが真実とは限らない」

 

 

「え?」

 

 

「今回の話……何かがおかしいんだ。何かが……」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

視点は戻って……対立しあうエルザとカグラの2人。

 

 

「決着をつける時がきたようだな」

 

 

「本気で行くぞ」

 

 

「望むところ!!!!」

 

 

そう言い放つと同時に、エルザの刀とカグラの不倶戴天が衝突して金属音が鳴り響く。

 

 

「! うぐ!!」

 

 

だがそのぶつかり合いに押し負けてしまったエルザは後方へと飛ばされてしまうが……すぐに体制を立て直すと、換装で〝天輪の鎧〟を身に纏う。

 

 

「天輪……五芒星の剣(ペンタグラムソード)!!!!」

 

 

そして両手に持った剣で五芒星を描くようにカグラへと斬りかかるが、その太刀筋を見切ったカグラは空へと跳躍してそれを回避する。

 

 

「怨刀・不倶戴天!!! 〝剛〟の型!!!!」

 

 

「!!」

 

 

そのままエルザの頭上から、不倶戴天で強烈な突きを放つカグラ。その攻撃はエルザを捉えたどころか、彼女が立っていた足場をも崩壊させる一撃であった。

 

 

「ぐああああ!!」

 

 

その攻撃を喰らい、さらには足場を崩されてそのまま下へと落ちていくエルザ。

 

 

「〝斬〟の型!!!!」

 

 

「金剛の鎧!!!!」

 

 

不倶戴天を構えて追撃を仕掛けてくるカグラを見て、エルザは超防御力を誇る金剛の鎧でガードしようとする。しかし……

 

 

「ぐはっ!!!」

 

 

カグラの斬撃は、金剛の鎧ですら斬り裂いてエルザにダメージを与えた。

 

 

「金剛の鎧が!!」

 

 

「ウソだろ!? 魔導収束砲(ジュピター)だって防げる鎧だぞ!!!」

 

 

「まだ相手は剣を抜いてもないのに……」

 

 

「強い……」

 

 

その光景を映像越しに見ていたなのは、ヴィータ、スバルは愕然とし、マカロフでさえ驚きを隠せずにそう呟いた。

 

 

「うぐ…う……う…」

 

 

「まだ足りぬか」

 

 

そう呟いたカグラを、エルザはダメージを堪えながらキッと睨み付けると……

 

 

「飛翔・音速の剣(ソニッククロウ)!!!!」

 

 

自身の速度を上げる〝飛翔の鎧〟へと換装し、次の瞬間には両手に持った双剣でカグラに切り刻むような斬撃を浴びせたのであった。だが……

 

 

「うあっ!!!」

 

 

ダメージを負ったのは攻撃を仕掛けたハズのエルザの方であり、逆にカグラの方は切り傷1つ負っていなかった。

 

 

「スカーレットの音速の斬撃を全ていなしただけでなく、逆に斬り裂いただと……!? カグラ・ミカヅチ……奴の剣はスカーレットや私以上かもしれん」

 

 

カグラの剣技を目の当たりにしたシグナムが、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の応援席で拳を強く握り締めながらそう呟いた。

 

 

「うう…ぐ……」

 

 

『これは強いーーーっ!!!! 人魚の踵(マーメイドヒール)カグラ!! あの100体斬りをしたエルザを圧倒ーーー!!!』

 

 

そして地面へと叩き付けられたエルザは倒れながら呻き声を上げ……カグラは地面に降り立つと、そんなエルザを見下ろした。

 

 

「驚いた…これほどの者がいようとは……その強さはジェラールへの怨みゆえ…なのか……」

 

 

エルザがそう言葉を口にした事に対して、カグラは激昂したような顔つきでエルザの体を蹴り飛ばした。

 

 

「うぐ!!」

 

 

そのまま凄まじい勢いで吹き飛ばされ、その先にあった柱へと体を打ち付けるエルザ。だがエルザは体に走る痛みに耐えながらも再び口を開く。

 

 

「貴様がジェラールに……どのような怨みを持って…いようが、かまわ……ん。だが…未来へ向かって歩き出したミリアーナを……巻き込むな!!!!」

 

 

「あいつの意志だ」

 

 

「あぐっ!!」

 

 

そう言って容赦なくエルザに不倶戴天をを叩き付けるカグラ。

 

 

「私の意志も同じ──ジェラールを殺す」

 

 

「う…ぐ……ゲホッゲホッ!! 何が…あったというのだ……」

 

 

「……その男の事はそなたもよく知っているハズだ」

 

 

何故そこまでジェラールを怨むのか……エルザは呻きながらもその理由を問い掛ける。するとそれに対して、カグラは静かに口を開いた。

 

 

 

「ジェラールに殺されたシモンは──私の兄だ」

 

 

 

カグラの口から放たれた〝シモン〟という名前。それを聞いてエルザの脳裏に蘇るのは、ミリアーナと同じくエルザの奴隷時代の仲間であり……楽園の塔でのジェラールとの戦いのさなかで命を落としてしまった男……シモン。

 

 

目の前にいるカグラがそのシモンの妹だという話を聞いて、エルザは大きく目を見開く。

 

 

「私たちは貧しかったが……幸せだった。しかしその幸せは17年前の『子供狩り』で終わりを告げた。逃げ延びた私は何年も…何年も兄を探した。そしてミリアーナに出会い、兄の壮絶な苦しみとその死を知った。

 

 

何年も奴隷として働かされ、ジェラールに殺された。目の前が真っ黒になった…

 

 

そして私は新たに誓ったのだ。兄の仇であるジェラールを殺す時、この刀を抜こうと」

 

 

自身のジェラールに対する怨みと、彼を殺すという決意……それらがカグラの口から語り終えた時、エルザが俯きながら口を開いた。

 

 

「ミリアーナはそこにはいなかった…」

 

 

「!」

 

 

「あの場にいたのは……私とジェラールとナツとティアナとシモン……確かにシモンが死んだのはジェラールのせいかもしれん……だが……殺したのはジェラールじゃない──私だ」

 

 

目尻に涙を浮かべながらそう言い放ったエルザの言葉に、カグラの目が大きく開かれる。

 

 

「そこまでしてジェラールをかばうつもりか」

 

 

「いいや、真実だ。私の弱さが……シモンを殺したのだ」

 

 

エルザの涙ながらの告白を聞いたカグラの顔は怒りに染まり……震える手で不倶戴天の柄にそっと手をかける。

 

 

ジェラールに対する憎しみがエルザへの憎しみへと変わり……怒りと悲しみに打ち震える心臓がドクドクと激しく鼓動し、その憎しみに染まった瞳からは凄まじい殺気と共に…大粒の涙が溢れ出す。

 

 

そして……

 

 

 

「あああああああああああああああっ!!!!!」

 

 

 

カグラはついに不倶戴天の刀身を……鞘から引き抜いたのであった。

 

 

「すまない」

 

 

誰に対して謝罪か……エルザがそう言葉を口にした瞬間……真っ赤な鮮血が舞い散ったのであった。

 

 

その光景を魔水晶映像(ラクリマヴィジョン)で観戦していた会場も騒然としながら映像を凝視する。

 

 

そこに映っていたのは……

 

 

 

 

 

「──私はまだ死ぬ訳にはいかない」

 

 

 

 

 

多少の切り傷を負いながらも、カグラの不倶戴天を〝妖刀・紅桜〟で受け止めているエルザの姿があった。

 

 

「シモンに生かされた──ロブおじいちゃんに生かされた──仲間に生かされた」

 

 

エルザはそう語りながら、換装で衣服をサラシと袴の姿へと変える。

 

 

 

 

「この命を諦める事は──旅立って行った者たちへの冒瀆(ぼうとく)

 

 

 

 

そして紅桜の切っ先をカグラへと向け、凛とした強い視線で彼女を見据えながらそう言い放ったのであった。

 

 

そんなエルザに対し、カグラは憎しみの篭った一太刀で彼女に斬りかかる。

 

 

「貴様もジェラールもまとめて殺す!!!! 絶対に殺してやるゥ!!!!」

 

 

「それがお前の活力なら、それもよし」

 

 

エルザはその一太刀を紅桜で受け止め、そのまま体ごと押し返す。

 

 

 

「その想いを踏みにじるつもりはないが──負けるつもりもない!!!!」

 

 

 

そして次の瞬間……エルザの放った渾身の一太刀が──カグラを斬り伏せたのであった。

 

 

『エルザだーーーっ!!!! なんという精神力!!!! 全身ボロボロになりながらも逆転ーーー!!!!』

 

 

『さスがだねェ』

 

 

『す…すごいカボ……』

 

 

追い詰められて絶体絶命な状況を、たった一太刀で逆転したエルザに会場中が歓声を上げる。

 

 

「(剣の騎士である私ですら追いつけぬ一閃……見事だスカーレット。私も負けてはいられないな)」

 

 

そして妖精の尻尾(フェアリーテイル)の応援席でも歓声が上がる中、シグナムは内心でエルザに賞賛の言葉を送りながら微笑を浮かべたのであった。

 

 

「うう…う……」

 

 

『カグラもまだ立ち上がる!!! 決着はついてないぞーーっ!!!』

 

 

倒れ伏していたカグラが呻きながらもゆっくりと立ち上がり始める。

 

 

「私は…私は……」

 

 

ブツブツとそう呟きながら立ち上がったカグラ。するとその時、崩れた柱の破片がカグラの頭上へと向かって落ち始めた。

 

 

「! 危ない!!!!」

 

 

それに気がついたエルザは、なんとカグラの体を押し飛ばして彼女を助けたのであった。

 

 

「え……?」

 

 

「く……う……ぐ……!!」

 

 

敵であるエルザに助けられたという事に呆然とするカグラと…右足が瓦礫の下敷きになってしまい顔を歪めるエルザ。

 

 

「なぜ…」

 

 

「私…は……お前を、知っている」

 

 

カグラの問い掛けに対してそう答えたエルザに、カグラは目を見開く。

 

 

「いや…思い出したという…べきか…名前は知らなかった。シモンの妹……くらい……の記憶しか…なかった」

 

 

「ま…まさか……」

 

 

「そうだ……私もローズマリー村出身だ……シモンや、お前と同じ……な」

 

 

エルザが自分と同郷の人間だと知った瞬間……カグラの脳裏に17年前の出来事が蘇る。

 

 

それは突如ローズマリー村を襲った『子供狩り』の時、シモンとはぐれて泣いていた幼い自分の手を引いて助けてくれた少し年上の少女。その少女は自身の身よりも、幼い自分を隠してくれた。

 

 

その少女は特徴的な緋色の髪を靡かせながら、幼い自分に「生きて」と告げて別れた。そのあとすぐ隠れ場所の外から聞こえてきた声でその少女が捕まってしまった事がわかったが、結果的に幼い自分は救われたのであった。

 

 

「あの時の……」

 

 

その出来事を思い出したカグラは、その時自分を助けてくれた少女がエルザだと分かり……ポロポロと両目から大粒の涙を零したのであった。

 

 

「シモンからはお前の話はよく聞いた…私もずっと気がかりだった。お前の無事を願っていた──今もな」

 

 

そんなエルザの優しい想いを知ったカグラは涙を堪えながら立ち上がり、エルザの右足に圧し掛かっていた瓦礫をどけて彼女を救出した。

 

 

そしてエルザに向かって静かに口を開く。

 

 

「心の整理はまだつかない。しかし……この勝負は私の……負……」

 

 

だがカグラが自身の負けを告げようとしたその瞬間──カグラの不倶戴天を手にしたミネルバが、背後から彼女の脇腹を突き刺したのであった。

 

 

その光景を目の当たりにしたエルザは愕然とし、カグラは静かに地面に倒れる。

 

 

「勝者はエルザ。しかし得点は妾のもの……」

 

 

剣咬の虎:77P→80P

 

 

「言ったであろう、王者の戦いを見せてやると。王者は美味い物しか食わぬ。人魚の頭──羽をもがれた妖精とかな」

 

 

そして無情にも……カグラを倒したというポイントはミネルバへと加算されたのだった。

 

 

「あははははははは!!!」

 

 

「貴様……」

 

 

ミネルバのあまりにも非道な行いに……エルザは怒りの表情でミネルバを睨んだのであった。

 

 

 

 

 

つづく


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