この言葉の意味は本編を読んでいただければ理解していただける事でしょう。
少し原作を改変した部分もあります。
感想お待ちしております。
『協議の結果、
『当然じゃ』
ラクサスとアレクセイの試合で、マスターの大会参加とメンバー全員がかりの攻撃という反則を行った
『さあ!! 気を取り直して第4試合──と言いたい所なのですが……先ほど運営側からの通達がありまして、
『『『えええーーーっ!!!!』』』
ここへきてまさかの
『第3、第4試合と何とも後味の悪い結果となりましたが、続いて第5試合。本日最後の試合です』
その声を聞きながらもチャパティは進行を続け、最後の試合の組み合わせを発表する。
第5試合
ウェンディ・マーベル
VS.
シェリア・ブレンディ
「着替え完了です!!」
「がんばっちゃうよー!」
最後の試合はウェンディとシェリア……2人の少女による戦いであった。
第193話
『小さな拳』
「奴等はまだシェリアの強さを知らんようだな。グレイの驚く顔が目に浮かぶ」
「違うモン浮かんでるぞ」
「おおーん、靴下の敵はラクサスがとってくれたぁ~!」
そう言って目を閉じるリオンの脳裏には驚いたグレイではなく…ジュビアの顔が浮かんでいた。その隣ではそんなリオンにユウカがツッコミ、トビーが嬉し涙を流していた。
「思いっきりやってきなさい」
「お前なら心配はいらんだろう」
「がんばってね、シェリア」
「はい!!」
ジュラ、チンク、ギンガの3人に送り出されて小走りで闘技場へと向かって行くシェリア。
「きゃうっ!」
だが闘技場へ出た瞬間、シェリアは何もない所で転んでしまった。
「あ…あの、大丈夫ですか? あう!」
そしてそんなシェリアを心配して駆け寄ろうとしたウェンディも転んでしまい、観客席が「あはははははは!」と、笑い声に包まれた。
「よ…よろしくお願いします」
「うん、よろしくね」
お互いにそう言いながら、ウェンディとシェリアは恥ずかしそうに笑っていた。
「大丈夫かしら…」
「ウェンディちゃんなら大丈夫だよ!」
応援席で心配そうにそう声を漏らすシャルルと、そんなシャルルにキャロが大丈夫だと言って聞かせる。
「ウェンディ……がんばれっ」
そして妖精Cチームの陣営では、エリオは闘技場に立つウェンディに向かって小さく声援を送ったのであった。
『これは何ともかわいらしい対決となったぞーーーっ!!! オジサンどっちも応援しちゃうピョーン!』
『あんたまたキャラ変わっとるよ』
◆◇◆◇◆◇◆◇
「「「!」」」
同時刻……ウェンディとシェリアの試合が始まろうとしていたその頃…会場の外にいたミストガンに扮したジェラールと、街の外で待機しているウルティアとメルディが何かを感じ取った。
「ウル……この魔力……」
「ええ……ゼレフ?」
「会場の方か!!! ウルティア、メルディは待機!! 動くな!!」
感じ取ったそれはゼレフの魔力であり、それを感じ取ったジェラールはウルティアとメルディに待機を命じたあと、一目散に会場へと走って行ったのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
視点は戻り闘技場では、向き合うウェンディとシェリアの試合が始まろうとしていた。
「シェリアの実力を見て驚くがいい、グレイ」
「ウェンディを甘く見るなよリオン」
離れた控室等でグレイとリオンが互いに睨み合いながらそう言い放つ。
『これは可愛らしい組み合わせになりましたー!!! オジサンもううっれしィー!!!』
『昨日の競技の時も思ったが、あんなコ
『ええ……私は少しだけ知っているのですが、とても勇敢な魔導士ですよ』
興奮しているチャパティを無視して、ウェンディを知らないヤジマの疑問にラハールがそう答える。
『大魔闘演武5日目最終試合──試合開始です!!!』
「行きます!!」
「うん」
そして試合開始を告げる銅鑼が鳴り響き……最初に行動を起こしたのはウェンディであった。
「
「お」
強化魔法で自身の攻撃力とスピードを強化するウェンディを、シェリアは興味深そうに目を見張る。
「天竜の翼撃!!!!」
そして強化された状態で腕を振るい、竜巻を発生させて攻撃を仕掛けるウェンディだが……対するシェリアはその攻撃を軽やかな動きで回避する。
「かわした!!」
まるで風の動きが読まれていたかのように難なく回避したシェリアを見て驚愕するウェンディ。そしてすぐにシェリアの反撃が始まった。
「天神の……
「うわっ!!」
シェリアがウェンディに向かって腕を振るった瞬間……黒い風による竜巻がウェンディを襲った。
「ウェンディ!!!」
「黒い…風!?」
「あいつ…」
「もしかして…」
その黒い風を見たシャルルとキャロは驚愕し、セイバーのオルガと天馬のラグナも目を見張っていた。
「すごい!! コレ……よけるんだね! だったら……」
黒い風をなんとか回避したウェンディだが、それを見たシェリアはさらに黒い風を腕に纏ってウェンディの眼前へと迫る。
「天神の舞!!!!」
「うわぁぁぁああああ!!!!」
そのまま黒い風でウェンディを攻撃し、彼女の体を上空へと吹き飛ばす。
「まだまだ!!」
そんなウェンディに追い打ちをかける為に自身も上空へと高く跳躍するシェリア。
だがそれに対してウェンディはすぐさま手に纏った風で体勢を立て直し……
「天竜の鉤爪!!!!」
「うっ!!」
そのまま風を纏った足で、シェリアを地面へと蹴り落としたのであった。
「天竜の…」
「天神の…」
そして地面に着地した2人は、ほぼ同時に大きく息を吸い込んで頬を膨らませる動作を見せる。
「あのガキ、まさか…」
「ウェンディと同じ魔法を!?」
「
「天空の滅神魔法」
その動作を見たガジルとエリオが驚愕したように声を漏らし、メイビスとリオンが次いで口を開いた。
そして……
「咆哮!!!!」
「怒号!!!!」
両者の口から放たれた突風のようなブレスが衝突し、会場中に凄まじい風が吹き荒れる。
「天空の
吹き荒れる風が止むと……そこに立っていたのは無傷のシェリアであり、その目の前にはブレスで押し負けてキズを負ったウェンディが膝をついていた。
『な…なんと!! 可愛らしい見た目に反し、2人とも凄い!! 凄い魔導士だーーっ!!!』
『あんたカツラ…』
先ほどの風でカツラを吹き飛ばされたチャパティだが、本人は気づかずに興奮したような解説を続けていた。
「驚きました…」
「リオンやギンガから聞いてたんだ、
「平気です、戦いですから」
やり過ぎたとウェンディの身を案じるシェリアだが、ウェンディは大丈夫と言ってヨロヨロとだが立ち上がる。
「せっかくだからもっと楽しもっ!! ね♪」
「私…戦いを楽しむって……よくわからないですけど……ギルドの為にがんばります」
「うん!! それでいいと思うよ。私も愛とギルドの為にがんばる!!」
そう言うと同時にシェリアは再び黒い風を放ち、ウェンディを攻撃する。
「あぁぁあ!!」
『同じ〝風の魔法〟を使う者同士!!!! シェリアたんが一枚上手かー!!!』
『ただスくは〝天空魔法〟な』
『シェリア…たん?』
「うう……う……!!」
吹き荒れる黒い風に体を押されながらも、ウェンディは決して倒れる事無く踏み止まる。
そんなウェンディの瞳には……強い決意が灯っていた。
「(みんながここまで繋げてきたんだ……エルフマンさんに『あとは頼む』って言われたんだ……キャロちゃんに『自分の分までがんばって』って言われたんだ。そして何より──私もエリオ君みたいに強くなりたいんだ!!!
私は戦いは好きじゃないけど…ギルドの為に戦わなきゃいけない時は……
──私だって本気でやります!!!!)」
するとシェリアの攻撃を耐え切ったウェンディは、そのまま大きく息を吸い込み始める。
「あ!! やっぱり〝空気〟を食べるんだね。じゃあアタシも…いただきまふぅ」
ウェンディが〝空気〟を食して自身の体力と魔力を回復していると見抜いたシェリアは、自身も同じく空気を食べ始める。
『こ…これはウェンディたん、シェリアたん、何をしているのでしょう。気のせいか酸素が少し薄くなった気がします』
傍から見れば2人とも、ただ大きく息を吸っているようにしか見えない為、事情を知らない者たちは困惑する。
「滅竜奥義!!!!」
そして体力と魔力を回復したウェンディが、両手を大きく広げて構える。
「すでに片方を習得してたのかい!?」
「出るぞ!!」
「ええっ!!」
グランディーネから授かった2つの滅竜奥義のうち1つを習得していた事にポーリュシカは驚愕し、ナツとティアナは笑みを浮かべる。
「ウェンディが奥義だと?」
「いつの間に……」
「すごいんだよ」
「勝ったわね」
彼女とは別で修行していたリリーとリニスは驚き、ハッピーとシャルルはウェンディの勝利を確信する。
「何……コレ」
目を見開くシェリアを他所に、2人の周囲を吹き荒れる風が包み込み始める。
「風の結界!!!? 閉じ込められた!!!?」
そして……
「照破・天空穿!!!!」
ウェンディから放たれた閃光の如き風の波動で、シェリアを吹き飛ばしたのであった。
「シェリアーーー!!!」
そしてそれを喰らったシェリアは一瞬でボロボロの姿になり……力なく地面に倒れた。
「(ミルキーウェイはまだ習得できてないし……これが今の私の全力…全魔力。やりすぎちゃったかな……でも……これで……)」
『シェリアダウーーン!!!!』
ダウン宣言を受けて、会場中の誰もがウェンディの勝利で終わったと思い込んだ。
だがその時……
「あぅ~ゴメンね!! ちょっと待って、まだまだこれからだからっ!!」
突然そんな元気な声が聞こえて来たかと思うと……次の瞬間ウェンディの目には信じられない光景が写っていた。
「ふぅー、やっぱすごいねウェンディ!!!!」
そこにはウェンディから受けたキズがなくなり、元気な笑顔で立っているシェリアの姿があったのだった。
「なんだアイツ…」
「ウェンディから受けたキズが、全部消えてる……」
「天空の滅神魔法はウェンディができなかった自己回復ができる。悪いが勝ち目はないと思え」
目を見開いて疑問符を浮かべているナツとティアナに答える様に、不敵な笑みを浮かべたリオンがそんな説明を口にする。
「なんという少女だ」
「どれだけ攻撃しても、あれじゃあすぐに回復されちゃう」
「リオンめ……こんな隠し玉を」
エルザとヴィヴィオは慄いたように呟き、グレイはリオンに対して忌々しげに舌打ちをする。
「思い切りやれと言ったのにな」
「シェリア、まだ全然本気だしてませんね」
「どんだけ強ェんだよ!!!」
「キレるな。まぁ少なくとも、従姉のシェリーよりは格段に強いな」
ラミアの控室等ではジュラ、ギンガ、トビー、チンクがそう言葉を口にする。
「あちゃー…あのウェンディって子、完全に劣勢だねぇ」
「ウェンディ…」
そして観客席では、天狼島でウェンディと一時的にとはいえチームを組んでいたドランバルトが心配そうな表情でアルフと共に試合を見守る。
すると、そんな彼の背中に誰かがドンっとぶつかった。
「失礼」
「いえ」
ぶつかって来た人物の謝罪の言葉を受け取りながら、その場から去っていくその者の背中を見た瞬間……ドランバルトは目を見開く。
「ん? どうしたんだいドランバルト?」
アルフのそんな問い掛けにも答えず、ドランバルトは呆然としたまま静かに口を開く。
「………ミストガン?」
そう……彼がぶつかった人物とは、ミストガンに扮したジェラールだったのである。
そしてジェラールはドランバルトとぶつかった事に気づかずに、最前列へと移動しながら闘技場へと視線を向けている。
「(あのシェリアという少女がゼレフに関係しているとしたら…ウェンディが危険だ!!! 止めるべきか、様子を見るべきか)」
この試合が始まってからずっと感じているゼレフに似た魔力……それがもしシェリアから発しているのだととしたら、現在シェリアと戦っているウェンディが危ないと思ったジェラールは、試合を止めるかどうか考える。
だがそんなジェラールの背後には、ドランバルトとアルフの2人が人ごみの中から彼を見張るように立っていた。
「ねえドランバルト、あのミストガンっていう男がどうかしたのかい?」
「そういえばお前は知らないんだったな。オレは7年前、
事情を知らないアルフにそう説明しながら、ドランバルトは彼女と共にミストガンを見張る。
「(評議員か!! こんな時に…)」
それに気づいたミストガンは、内心で舌打ちをしたのであった。
そして視点は戻って闘技場では……全力を出し切って息を乱しているウェンディと、回復して元気になったシェリアが向かい合っている。
「うう…う……」
「大丈夫? もう降参しとく?」
「はぁ、はぁ、はぁ」
「降参しないの…かな?」
ウェンディに降参を薦めるシェリアだが、ウェンディはそれに応じずにフラフラになりながらも立っている。
「アタシ……戦うのは嫌いじゃないけど、勝敗の見えてる一方的な暴力は愛がないと思うの」
「うく……うぅ……」
「降参してもいいよ。ね?」
「うう……できません」
再び降参を薦めるシェリアの言葉を、ウェンディはキッパリと拒絶する。その言葉に、シェリアだけでなく
「ここで降参して逃げ出したら……もう一生……追いつけないような気が…するんです」
「追いつく? 誰に?」
「私の──大好きな人にです!!!」
真っ直ぐとシェリアを見据えながら、ハッキリとそう言い放つウェンディ。そしてそのきっかけに、ウェンディはポツポツと語り始めた。
「その人は今まで、憧れの人に追いつくんだって言ってずっとがんばっていたんです。どんなに辛くても毎日がんばって…がんばって…憧れだった人に、ライバルだと言ってもらえる程に強くなりました。
そんな彼に…私も追いつきたいんです!! 強くなって、一緒に彼の隣を歩いて行きたいんです!!!!
だから私は逃げません!!! 最後まで戦う覚悟はあります!!!! 情けは無用です!!!!
私が倒れて動けなくなるまで全力で来てください!!!! お願いします!!!!」
強い覚悟を孕んだ瞳でそう言い放つウェンディの言葉を聞いて、シェリアは納得したように笑みを浮かべた。
「うん、そっか!! ウェンディも愛の為に戦ってるんだね!!」
「はい!!」
「じゃあ…今度はアタシが大技を出すよ!!! この一撃で楽にしてあげるからね!!!」
ウェンディの覚悟を汲み取ったシェリアは、それに答えるように自身も大技を出す為に両腕に黒い風を纏い始める。
「滅神奥義!!!!」
するとそれを見たラミアの面々は焦ったように声を張り上げた。
「よせ!!! シェリア!!!」
「それはいかん!!!」
「今のウェンディにその技を使ったら…!!!」
「やめろ!! 相手を殺すつもりか!!?」
すぐにリオンやジュラ、ギンガやチンクが制止の言葉をかけるが、シェリアは止まらない。
「全力の気持ちには全力で答える!!! それが愛!!!」
シェリアの腕を覆う黒い風が…段々と羽のような形へと変化していく。
「………っ!!!」
それを見て思わず気圧されそうになり、表情を強張らせて身構えるウェンディ。
するとその時……
「ウェンディーーーーッ!!!!」
突然会場中に響き渡るような大きな声が、彼女の名前を呼んだ。
「エリオ…君?」
その声がした先を見れば、そこには妖精Cチームの控室等から身を乗り出しながら、ウェンディをまっすぐと見据えているエリオの姿があった。
そしてエリオはウェンディに向かって大きく息を吸い込み……
「負けるな!!!! がんばれッ!!!!」
と…自身が出せる全力の大声で彼女に声援の言葉を送ったのであった。
「──うん!!!!」
それを受け取ったウェンディは大きく頷いてそれに答える。その表情には先ほどの強張りはなくなり、どこか勇気に満ち溢れていた。
そして……
「
そんなウェンディに向かって、シェリアの黒い羽が何層にも重なっている様な形をした風が放たれたのであった。
だがその攻撃は……ウェンディに当たる事無く、彼女の頭上を通り過ぎただけで終わった。
「よけた!?」
「いや、外れた」
ウェンディが避けたのではなく、シェリア自身が攻撃を外したという事に、シェリア自身も愕然としていた。
「シェリアの魔法は自己回復ができるようやけど、それは〝傷〟の回復や。〝体力〟の回復はできひんみたいやね」
「逆にウェンディの魔法は自己回復はできないけど、相手の〝体力〟を回復できる」
「相手の体力を回復させた!?」
「そのせいで、シェリアの魔法に勢いがつきすぎた!」
「
はやて、シャルル、スバル、リオン、グレイが順にそう言葉を口にする。
つまりウェンディは、シェリアの攻撃は放たれようとしたその瞬間……自身の魔法でシェリアの体力を回復させたのだ。その結果…シェリアが放とうとした攻撃と、彼女が実際に放った攻撃にズレが生じ、対象を大きく外れる事となってしまったのであった。
「なんて戦法!? すごい!!」
ウェンディが行った考えもしない戦法に、シェリアは素直に感嘆する。
「天竜の砕牙!!!!」
「うあぁ!!」
すかさずウェンディは風を纏った爪を振りかざし、シェリアの腕を切り裂く。
「すごいよ!! ウェンディ!!」
だがそのキズも、シェリアの魔法ですぐに回復される。
「やーーーーっ!!!」
「とーーーーっ!!!」
それでもウェンディは攻撃を続け、シェリアもそれに答える様に迎え撃ち……両者の攻撃が衝突する。
『これはすごい展開になってきた! 両者1歩も引かず!!! ぶつかり合う小さな拳!!! その執念はギルドの為か!!?』
凄まじい気迫で小さな拳をぶつけ合う2人の少女たちに、次第に観客席の人々はのまれていった。
「(止められん……その拳は小さくとも、その想いは大きすぎて……)」
試合を止めるかどうか悩んでいたジェラールも、ウェンディのその姿を見て、止める事はせずに静かに見守ったのであった。
そして両者が負けじとぶつかり合っている間も、時間は刻一刻と過ぎて行き……
『ここで時間切れ!!!!』
ついに決着がつく事無く、試合終了の時間が訪れたのであった。
『試合終了!!! この勝負、
両者共に譲らずに結果は引き分けとなり、両チームに5Pとずつ加算された。
「すげえ!!」
「いい試合だったわ」
「よくがんばったね、ウェンディ」
「シェリアもすごかったよー!!」
「両者共に見事」
「……だな」
「シェリアもウェンディもよくやった」
「本当…どっちが勝ってもおかしくなかったわ」
「すげーの見ちまったな」
「思わず感動してしまった」
「おおーん」
2人の健闘に、
「魔力だけならシェリアの方がはるかに高いというのに……あの時の少女が……ここまで大きくなったか」
そう呟くジュラは脳裏に7年前の六魔討伐作戦の際の…気弱で臆病だったウェンディの姿が思い浮かべ、現在のウェンディの成長を密かに感心していたのであった。
「「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ」」
試合が終わり、緊張の糸が途切れたウェンディとシェリアは激しく息を乱す。
「痛かった? ゴメンね」
「いえ……そればっかりですね」
そう言って顔を見合わせて笑うウェンディとシェリア。
「楽しかったよ、ウェンディ」
「あ、キズが。わ…私も少しだけ楽しかったです」
シェリアが魔法でウェンディを回復させ、彼女の体からキズが消えていく。それを見ながらウェンディは自分も楽しかったと告げる。
「ね! 友達になろ、ウェンディ!」
「は…はい……私なんかでよければ…」
「違うよっ!! 友達同士の返事!!」
シェリアのその言葉にキョトンとするウェンディだが、そんなウェンディに向かってシェリアは笑顔で手を差し伸べる。
「友達になろっ──ウェンディ」
「うん!!! シェリア!!!!」
そう言ってウェンディはシェリアの差し出された手を取って握手を交わし……2人は友達になったのであった。
『なんと感動的なラスト!!! オジサン的にはこれで大会終了ーーーーっ!!!!』
『これこれ……5日目終了じゃ』
『みなさん、ありがとうございました』
こうして……大魔闘演武5日目の全種目が終わったのであった。
「あっ……」
「ウェンディ!?」
すると、退場しようとしたウェンディが途端に力が抜けたのか、ウェンディの体がゆっくりと後ろに倒れこみ始める。
傍にいたシェリアが助けようと手を伸ばすが間に合わず、そのままウェンディが倒れるかと思われたその時……
「お疲れ様、ウェンディ」
「エ…エリオ君!?」
いつの間にかやって来ていたエリオが、倒れそうになったウェンディの体をポスっと音を立てて受け止めたのであった。
「いい試合だったよウェンディ。すごくかっこよかった」
「あ…うん、ありがとう」
笑いかけながらそう言うエリオの顔を見たウェンディは、お礼を言いながら頬を赤く染めて俯いてしまった。
「さて…とっ」
「へ? きゃっ!?」
次の瞬間、エリオがとった行動にウェンディは思わず小さな悲鳴を上げる。
何故なら、エリオはウェンディの背中と膝の裏に手を回して、そのまま彼女の体を持ち上げたのだ。いわゆる〝お姫様抱っこ〟である。
「エ…エエエエエリオ君!!? これって……!!?」
「もう動けないほど体力を使い果たしちゃったんでしょ? とりあえず医務室まで運んであげるよ」
「ゴメンねウェンディ。私の魔法、キズは治せても体力は回復できないんだ~」
これでもかというほど真っ赤に赤面して慌てふためくウェンディを他所に医務室へと歩き始めるエリオと、それについて行きながらウェンディに謝罪するシェリア。
「君とウェンディは友達になったんだよね? 僕はエリオ。ウェンディ共々よろしく頼むよ」
「アタシはシェリア!! じゃあ、これでエリオもアタシと友達だね♪」
「あとでもう1人紹介するよ。キャロって言うんだけど、その子も僕やウェンディと幼馴染でいい子だからさ」
エリオとシェリアがそんな会話をしながら通路を歩いていると、エリオに抱えられたウェンディが腕をパタパタと振って暴れ始める。
「エリオ君!! 私はもう大丈夫だから下ろして!!!」
「いいからいいから、遠慮しないの」
「シェリア~…」
「愛だね♪」
自分の願いはエリオに聞き入れてもらえず、続けてシェリアに助けを求めるが、よく分からない言葉でスルーされてしまったウェンディは、すでに羞恥で涙目である。
「ところでウェンディ、試合中に言ってた事だけど……」
「えっ?」
シェリアに突然そう問い掛けられ、ウェンディは目を丸くしながら思い出す。自分が試合中に告白まがいな事を口走ってしまっていた事に。
「あ…あわわわわわ……!!!」
いくら無我夢中だったとはいえ、あんな事を言ってしまい……さらには名前は出さなかったとはいえある人物を指して『大好き』とまで言ってしまったウェンディ。しかもその相手が目の前にいるとなってはウェンディの顔はもう爆発寸前なほど真っ赤である。
そしてそれを見たシェリアはウェンディとエリオを見比べたあと、納得したようにニッコリと笑う。
「やっぱりそっか!! 愛だね~」
「シェリア!!!」
シェリアに向かって怒鳴るウェンディだが、真っ赤な顔で怒鳴られてもまったく怖くなかった。むしろ可愛いと思われていた。
「あはは、2人はさっそく仲がいいんだね」
そんな2人の様子を、エリオは優しい笑顔を浮かべながら眺めていたのだった。
どうやらエリオ本人には気づかれていないのだと察したウェンディはホッと安堵する反面、少し残念な気持ちがあると複雑な心境であった。
「愛の為にがんばってね、ウェンディ♪」
「………うん」
ウェンディにしか聞こえない声量でそう言ったシェリアの言葉に対し、ウェンディは恥ずかしそうに微笑みながら頷いたのであった。
そしてそのままウェンディは結局エリオに抱えられたまま、シェリアを含めた3人で医務室へと向かって行ったのであった。
だがその時2人は気づかなかった。
笑いあっているウェンディとシェリアを見守っている際のエリオの頬が──若干の朱に染まっていたのを……
つづく
もうエリオ×ウェンディは自分の中で確固たるものになりつつまります。