LYRICAL TAIL   作:ZEROⅡ

185 / 240
今度は早めに投稿できました。

今回は2話連続投稿です。例のごとく1時間置きに更新されます。

ついに今まで謎だったあの2人が中心のバトル。そして3日目終了です。

感想お待ちしております。


歌姫と魔物

 

 

 

 

 

 

「ゴメン、みんな……」

 

 

「面目ない……」

 

 

「かまへんかまへん、そない気にせんでもええよ」

 

 

場所は妖精の尻尾(フェアリーテイル)Cチーム専用の医務室。そこではタッグバトルで大鴉の尻尾(レイヴンテイル)に敗北してしまったクロノとユーノがシャマルの治療を受けたのちにチームメンバーに謝罪の言葉を述べるが、はやてはそれを気にしてないと笑って許す。

 

 

「それで、2人のケガの具合はどうなんシャマル?」

 

 

「はい、ユーノ君の方はキズもたいした事はなくて、一晩ゆっくり休めば明日には全快すると思います。それで……クロノ君の方は……」

 

 

「どうした? 何かマズイのか?」

 

 

ユーノの容態を説明した後にクロノの容態を説明しようとしたシャマルだが、言いにくそうに口ごもってしまう。そんな彼女に対してリインフォースが疑問符を浮かべながら問い掛けると、気を取り直してクロノの容態を告げた。

 

 

「ケガの方はユーノ君と同じでたいした事はないの。ただ……クロノ君の体内にある魔力の器が、一時的に機能不全に陥っているの」

 

 

「なに?」

 

 

「魔力の器が機能不全って……それじゃあ……」

 

 

「ああ…先ほどから一向に魔力が回復しない上に、魔法の発動もままならない」

 

 

シャマルの診断結果を聞いてシグナムとエリオが驚嘆の声を上げ、クロノが自身の今の体の状態を口にする。

 

 

「おそらくだが、僕がトーマから受けた最後の一撃……アレに相手の魔力を消し去るような効果が備わっていたんだろう」

 

 

クロノが試合でトーマから受けた白銀の砲撃……おそらくそれが原因だというのがクロノとシャマルの見解である。

 

 

「幸い魔力欠乏症には至ってないみたいだけど、回復には少し時間がかかると思うわ」

 

 

「少しって、どんくらい?」

 

 

「そうね……少なくとも、大魔闘演武の最終日くらいには……」

 

 

「って事は、それまでクロノ君はリタイアって事になるんか」

 

 

「……本当にすまない」

 

 

「だから気にせんでもええて」

 

 

大魔闘演武の最終日まで参加する事が不可能になってしまったクロノは再び謝罪し、はやてが苦笑しながら宥める。

 

 

「でもクロノ君が参加不可能となると、私らのチームにはザフィーラが復帰やな」

 

 

「お任せを」

 

 

クロノの代わりに、負傷で一時的に外れていたザフィーラがチームに復帰する事になった。

 

 

「ほんなら、クロノ君とユーノ君の無事も確認できたし、そろそろ戻ろか」

 

 

「そうですね、そろそろ最終試合が始まる頃ですし」

 

 

「あ、私も応援席のマスターたちに2人の無事を知らせてきますね」

 

 

「クロノ君もユーノ君もお大事にな。しっかり休むんやで」

 

 

「わかっている」

 

 

「また後でね」

 

 

そう言うと、はやてたち妖精Cチームのメンバーはシャマルと共に医務室を退室していった。そして医務室には、クロノとユーノだけが残された。

 

 

「……おい、フェレットもどき」

 

 

「何だよ腹黒」

 

 

「さっきはやても言っていたが、僕の代わりにザフィーラがチームに復帰する。お前はこのままチームに残存だ」

 

 

「だから?」

 

 

「──あとは任せたぞ」

 

 

「言われなくても」

 

 

はやてたちが出て行った後の医務室で、そんな会話が繰り広げられていた事は、彼ら以外には知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第185話

『歌姫と魔物』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さあいよいよ本日最後のタッグバトル!!! 果たしてどのような試合になるのか!!?』

 

 

一方その頃……闘技場ではすでに、タッグバトルの最終試合が行われていた。そしてその組み合わせは……

 

 

第5試合

蛇姫の鱗(ラミアスケイル)

ユウカ&トビー

  VS.

凶鳥の眷属(フッケバインファミリー)

ヴェーラ&ウルフ

 

 

このようになっていた。

 

 

 

『しかしヤジマさん、これは少々予想外な展開ですね』

 

 

『ウ~ム』

 

 

『さすがにコレは、予想する方が難しいかと……』

 

 

現在の闘技場の状況を見て、チャパティの言葉にヤジマが唸り、カリムも困ったような苦笑を浮かべている。観客たちの反応もどこか呆然としている様子であった。

 

 

そしてそんな注目を集めている闘技場では……

 

 

「ごがぁぁああ…ずぴぃぃい…ぐがぁぁあ…」

 

 

「ウールーフー!!! いい加減起きなさいって言ってるでしょぉお!!!」

 

 

すでに試合が始まっているにも関わらず、盛大なイビキをかいて爆睡しているウルフに、そんなウルフの胸倉を掴んでガクガクと揺さぶっているヴェーラの姿があった。

 

 

「おい…どうすりゃいいんだこの状況……」

 

 

「おおーん」

 

 

『いやー…眠っているウルフをヴェーラが引き摺って闘技場に現れた時も驚きましたが、まさか試合が始まっても眠ったままとは……』

 

 

『寝不足なのかねぇ』

 

 

『そういう問題ではないかと……』

 

 

あまりの珍事件に対戦相手のユウカとトビーだけでなく、実況席の3人もどういうリアクションすればいいのかと困惑している。

 

 

「あーもう!! もういい!!!」

 

 

すると、一向に目を覚まさないウルフをその場にポイっと無雑作に投げ捨てると、ヴェーラはユウカとトビーに向き直る。

 

 

「私1人で戦う!!! ってか私1人で十分!!!」

 

 

そして何とユウカとトビーに対して1人で戦うと宣言をした。

 

 

「1人で戦う気かよ!!!」

 

 

「キレんなよ。まぁでも、ナメられてんのはムカつくな。後悔すんなよ?」

 

 

そんなヴェーラの宣言に不快感を露にしたトビーとユウカが戦闘態勢を取る。

 

 

「私の旋律の虜にしてあげる」

 

 

挑発的にそう言い放つと、ヴェーラはスゥ…っと小さく息を吸い込む動作を見せる。

 

 

「狂乱の歌」

 

 

するとヴェーラはゆっくりと口を開き……その口からまるで超音波のような耳障りな歌が響き始めた。

 

 

「──♪──♪──♪」

 

 

「ぐっ…!! こ…これは……!!?」

 

 

「おおーん!!! うるせーよ!!!」

 

 

まるで脳に衝撃が直接響くかのような歌声に、ユウカとトビーはたまらず耳を塞ぐ。

 

 

「重圧の歌」

 

 

するとヴェーラは一旦歌を止めて、別の歌を歌い始める。今度の歌は先ほどのようにツンざくような声ではなく、低音が目立つ歌声であった。

 

 

「ぐおっ!!?」

 

 

「おお!!?」

 

 

するとその瞬間……突然ユウカとトビーの体にズシリとした重みが圧し掛かり、思わずその場で膝をついた。

 

 

「~~♪~~~♪」

 

 

「くそっ…どうなってんだ一体……!!!」

 

 

「おおーん」

 

 

ヴェーラの歌声によって身動きを封じられてしまったユウカとトビーは圧し掛かる重圧に耐えながら困惑の表情を浮かべる。

 

 

「あの娘……〝歌〟を操る魔法なのか」

 

 

「トビー!! ユウカ!! 何やってんだい!!! 負けたりしたら回すよーー!!!」

 

 

ラミアの陣営ではジュラが冷静にヴェーラの魔法を分析し、指をクルクルと回しながら叱咤の言葉を言い放つオババ。

 

 

「初代、あの魔法は……」

 

 

「〝歌姫(ローレライ)〟……その歌声は味方には加護を、敵には厄災を与えると言われている太古の魔法(エンシェントスペル)の一種です」

 

 

そして妖精の応援席では、マカロフの問いに答えるように魔法の知識が豊富なメイビスがヴェーラの魔法についてそう語っていた。

 

 

「この……波動!!!」

 

 

「!!」

 

 

すると圧し掛かる重圧に耐えながらもユウカはヴェーラに向かって波動を放ち、それを見たヴェーラは歌を止めて波動を回避した。そしてその瞬間、2人に圧し掛かっていた重圧が消える。

 

 

「重圧が消えた!! 今だっ!!!」

 

 

「おおーーん!!!」

 

 

重圧が消えたのを確認した瞬間、いち早くトビーがヴェーラに向かって一直線に駆け出す。

 

 

「超麻痺爪メガメガクラゲ!!!!」

 

 

トビーは麻痺効果のある爪を振り回してヴェーラに切りかかる。しかし……

 

 

歌弾(うただま)!!」

 

 

「ぐぽぉ~~ん!!!」

 

 

それに対してヴェーラはトビーの攻撃を回避すると、口からまるで弾丸のような『♪』の形をした衝撃波を放ち、それによってトビーの体を吹き飛ばした。

 

 

「歌弾・大音量!!!!」

 

 

続けて今度はまるで大砲のように巨大な『♪』型の衝撃波を口から放つヴェーラ。

 

 

「ナメるな!! 波動!!!」

 

 

それに対してユウカは両手から発した波動で衝撃波を包み込んでそのまま打ち消した。

 

 

「くっ…重圧の歌」

 

 

「させるか!! 波動ブースト!!!」

 

 

再び相手に重圧を与える歌を歌おうとしたヴェーラだが、それよりも早くユウカの発した波動がヴェーラの体を包み込んだ。

 

 

「あっ……!!」

 

 

「この衝撃波の中ではもう歌の魔法は使えんぞ!!! トビー!!!」

 

 

「おおーん!! 任せろ!!!」

 

 

歌の魔法を封じられ愕然とするヴェーラに、復活したトビーが再び襲い掛かる。

 

 

「しまっ……!!!」

 

 

「超麻痺爪メガメガクラゲ!!!!」

 

 

魔法を封じられた為に成す術を失ったヴェーラに、トビーの麻痺爪が迫る。

 

 

だがその時……

 

 

「いやぁぁっ!!!!」

 

 

そんな悲鳴と共に、ヴェーラは無意識に足元にあったソレを掴み上げて盾のように構えた。

 

 

サクッ…!!!

 

 

「んがっ!!?」

 

 

「あ」

 

 

「「あ」」

 

 

『『『あ』』』

 

 

そして小粋な音と悲鳴と共にトビーの爪が突き刺さったソレを見て、ヴェーラ本人やトビーとユウカ…そして実況席の3人も思わずそんな声を漏らしてしまった。

 

 

何故なら……ヴェーラが盾に使ったソレとは、彼女の足元でずっと爆睡していた……ウルフだったのだから。

 

 

そんなあまりの光景に会場全体がポカーンっとしていると……

 

 

 

「──痛ってぇぇえええええええ!!!!」

 

 

 

雄叫びに似た叫び声と共に……ついにウルフが目を覚ました。

 

 

「なんだ!? 何が起きた!? 何かスッゲェ頭痛ェぞ!!?」

 

 

トビーの爪が刺さった額部分を押さえて喚きながら、まったく状況を理解できていないウルフ。すると、そんなウルフの視界にふとトビーとユウカの姿が映り、その瞬間ウルフはギロリと2人を睨みつけた。

 

 

「テメェらかァ……オレの昼寝の邪魔したのはァァァアア!!!!」

 

 

「「!!?」」

 

 

その瞬間……ウルフの体から膨大な魔力が一気に放出され、それを肌で感じたトビーとユウカは思わず後ずさる。

 

 

「な…何なんだコイツは……」

 

 

「とんでもねえ魔力だ……」

 

 

ウルフの体から放たれる桁違いの魔力に、2人は冷や汗を滴らせる。

 

 

「ラッキー、なんか勝手に勘違いしてキレてくれたわ♪」

 

 

その傍らでは元凶であるヴェーラがこっそりガッツポーズをしていた。

 

 

「覚悟はできてんだろうなァ?」

 

 

すると…ウルフの体から放出された魔力が、ウルフの体を包み込むように纏わり着いて行く。それと同時に、彼の体が異形のモノへと変化していく。

 

 

「これは……接収(テイクオーバー)!!?」

 

 

「おお!!?」

 

 

その光景にユウカとトビーが驚愕している間に、ウルフの変身が完了する。そこに立っていたのは……

 

 

 

「ウオォォォォオオオオオ!!!!」

 

 

 

天まで轟くような雄叫びを上げている、頭に2本のツノを生やした人狼に変身したウルフが立っていた。

 

 

「狼……いや、人狼(ワーウルフ)か!!?」

 

 

「ざんね~ん。これは人狼(ワーウルフ)よりもさらに上位種の狼の魔物……〝魔狼(ディアウルフ)〟よ。そしてウルフの魔法は様々な魔物を取り込む事でその力を発揮する接収(テイクオーバー)の1つ……〝魔物の魂(モンスターソウル)〟」

 

 

2本ツノの狼……魔狼(ディアウルフ)の姿へと変貌したウルフの姿を見て愕然とするユウカに対して、そう説明するように言い放つヴェーラ。

 

 

「おおーん。それにしてもウルフって名前カッコイイな」

 

 

「お前どこに食いついてんだよ」

 

 

そんな状況にも関わらず、トビーは何故かウルフの名前を褒める。

 

 

「あ、因みに私もウルフもそれが本名じゃないわよ?」

 

 

「本名じゃねえのかよ!!!!」

 

 

「何でキレるかな」

 

 

ヴェーラとウルフの名前が本名じゃないとわかった瞬間、何故かキレたトビーはメガメガクラゲでウルフへと襲い掛かる。

 

 

「お前ら!!! オレたちが勝ったら本名教えてもら──」

 

 

「やかましいっ!!!!!」

 

 

そう言ってトビーが切りかかったその瞬間……ウルフの振り下ろした拳がトビーを地面に叩きつけ、そのまま意識を刈り取ったのであった。

 

 

「なっ……!!? ウソだろ!!? あのタフなトビーが一撃で……!!?」

 

 

ラミアの中でもかなりのタフさを誇るトビーがたった一撃で沈められたのを見て、驚愕するユウカ。

 

 

「くっ…だがオレの波動なら、奴の変身を打ち消せる!! 波ど──!!?」

 

 

そう言って波動でウルフの変身を強制的に解除させようとしたユウカだが……その瞬間なぜか金縛りにでもあったかのように体が動かなくなった。

 

 

「縛り歌♪」

 

 

その原因は……ウルフの後ろで相手の動きを縛る効果のある歌を歌っているヴェーラの姿があった。

 

 

「さあ、決めるわよウルフ」

 

 

「オオッ!!!」

 

 

「ウルフに攻撃力・スピードを付与(エンチャント)……〝剛腕と俊足の二重奏(デュエット)〟」

 

 

それから続けてヴェーラがまた新たな歌を歌うと、その歌を聴いたウルフの力がさらに強化された。

 

 

「ウオオオオオオッ!!!!」

 

 

ヴェーラの補助魔法を受けたウルフは雄叫びを上げながら風のようなスピードで一直線にユウカへと駆け出していく。

 

 

そして……

 

 

 

魔拳(まけん)・突風!!!!!」

 

 

 

その名の通り……まるで突風のような速さで突き出した拳がユウカに直撃したのであった。

 

 

「ぐあぁぁああああああ!!!!」

 

 

それを喰らったユウカは後ろに真っ直ぐ吹き飛ばされ……壁に激突したのちにそのままガクリと意識を手放したのであった。

 

 

『ダ…ダウーーン!!! 蛇姫の鱗(ラミアスケイル)ダウーーン!!! 勝者!! 凶鳥の眷属(フッケバインファミリー)!!!!』

 

 

「やったわねウルフ!!!」

 

 

「ぐうぅぅ……」

 

 

「寝るの早過ぎよっ!!!」

 

 

チャパティのマイク越しの勝利者宣言が響き渡り、それを聞いたヴェーラがウルフと喜びを分かち合おうとしていたが、当のウルフはすでに爆睡していた。

 

 

「リオンとこの2人をほぼ瞬殺…か」

 

 

「あの2人も決して弱くはないが……フッケバインの2人の実力もかなりのものだった」

 

 

「つーかあの狼野郎、おもしれー奴だよなー」

 

 

「そうね、バカさ加減ではアンタに似てるかもね」

 

 

「それを言ったらあのヴェーラって人はルーシィさんに似てるよね?」

 

 

「え? そう?」

 

 

「そう言われてみれば何となく……」

 

 

その試合を見届けていた妖精Aチームの面々は、そんな会話を繰り広げていた。

 

 

『これにて大魔闘演武3日目終了ー!!!』

 

 

『今日もいい試合だったねえ』

 

 

『お疲れ様でした♪』

 

 

こうして大魔闘演武3日目は幕を閉じ……そして3日目の結果は以下のようになったのであった。

 

 

 

 

 

―3日目結果―

大鴉の尻尾:48ポイント

凶鳥の眷属:37ポイント

剣咬の虎:36ポイント

人魚の踵:31ポイント

蛇姫の鱗:31ポイント

妖精の尻尾B:29ポイント

青い天馬:28ポイント

妖精の尻尾A:27ポイント

妖精の尻尾C:20ポイント

四つ首の猟犬:19ポイント

 

 

 

 

 

つづく




今回登場したウルフのキャラと魔法のモデルは……わかる人には分かります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。