LYRICAL TAIL   作:ZEROⅡ

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ティアナの涙

 

 

 

 

 

 

悪魔の宴から一夜明けた翌日の朝。

 

 

「うーん……傷、残っちゃったね」

 

 

グレイの額にパックリ残った傷を覗き込みながらなのはが言う。

 

 

「あ? 別にかまわねーよ」

 

 

「顔だよ?」

 

 

「傷なんてどこに増えようが構わねえんだ。目に見える方はな」

 

 

「にゃはは…カッコイイ♪」

 

 

グレイの台詞になのはは軽く頬を染めながらそう言った。すると、近くで火を食べていたナツが口を開いた。

 

 

「はぁ? 見えない傷ってなに?」

 

 

「うるせーよ。カッコイイ事言ってんだからほっとけよ」

 

 

「今のが?」

 

 

どうやらナツにはグレイの名台詞が理解出来なかったらしい。そんな二人のやり取りをなのはは微笑みながら、ルーシィとスバルが呆れながら見ていた。

 

 

「な…なんと!! 報酬は受け取れない……と?」

 

 

依頼の報酬を受け取れないと言うエルザにモカを始めとした村人達が驚く。

 

 

「ああ……気持ちだけで結構だ。感謝する」

 

 

「ほが…しかし…」

 

 

「昨夜も話したが、今回の件はギルド側で正式に受理された依頼ではない。一部のバカ共が先走って遂行したことだ」

 

 

エルザはそう説明するが、モカは笑顔で返した。

 

 

「ほがぁ…それでも我々が救われた事にはかわりません。これはギルドへの報酬ではなく、友人へのお礼と言う形で受け取ってくれませぬかの?」

 

 

その言葉にエルザは観念したように息を吐く。

 

 

「そう言われると拒みづらいな」

 

 

「700万J!!!」

 

 

「おおお!!!」

 

 

「やったぁ!!!」

 

 

それを聞いたナツ、グレイ、スバルは喜ぶ。

 

 

「しかしこれを受け取ってしまうとギルドの理念に反する。追加報酬の鍵だけありがたく頂くことにしよう」

 

 

「「「いらねーーっ!!!」」」

 

 

「いるいる!!!」

 

 

結局、追加報酬である黄道十二門の鍵だけ受け取ることになった。

 

 

「ではせめて、ハルジオンまで送りますよ」

 

 

「いや…船は用意できている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十八話

『ティアナの涙』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、海岸にやって来た一同が目にしたものは、エルザとなのはは乗ってきた海賊船であった。

 

 

「海賊船!!?」

 

 

「まさか強奪したんですか!?」

 

 

「さすが……」

 

 

「違うよ、借りただけだよ……エルザさんいわく」

 

 

なのはは苦笑しながら言う。

 

 

「イヤよ!! こんなの乗りたくない!!」

 

 

「泳ぐなら付き合うぞ」

 

 

「無理!!」

 

 

嫌がるルーシィだが、結局海賊船に乗って帰ることになったのであった。

 

 

「みなさん!!! ありがとうございます!!!」

 

「また悪魔のフリフリダンスを踊りましょー!」

 

「仕事がんばれよー!」

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)サイコー!」

 

「いつでも遊びに来いよーー!」

 

 

村人達からの声援を受けながら船は出港して行った。そして、それを他の場所から見送っている影があった。

 

 

「行っちまったな」

 

 

「な…泣いてなんかないモンね!!! おおーん!!!」

 

 

「てか……何故泣く…?」

 

 

その影とは、リオンたち…零帝一味であった。

 

 

「いいんですの? せっかくわかりあえた弟弟子さん…すなわち愛」

 

 

「いいんだ」

 

 

そう言うリオンの表情はどこか清々しさを感じさせた。

 

 

「なぁギンガ……」

 

 

「なに?」

 

 

「ギルドって楽しいか?」

 

 

リオンのそんな問い掛けにギンガは……

 

 

 

「ええ…とっても!!」

 

 

 

と、満面の笑顔で答えたのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「帰って来たぞーー!!」

 

 

「「来たぞーー!!」」

 

 

ナツが高らかにそう言うと、スバルがハッピーが続いて言う。そう、彼等は先ほどマグノリアの街に到着したのである。

 

 

「しっかし、あれだけ苦労して報酬は鍵1コか……」

 

 

「せっかくのS級クエストなのにね」

 

 

「しょうがないよ。正式な仕事じゃなかったんだから」

 

 

「そうそう。文句言わないの」

 

 

不満気なグレイとハッピーに対し、嬉しそうな笑顔を浮かべるルーシィ。

 

 

「得したのルーシィだけじゃないか~売ろうよそれ」

 

 

「何てこと言うドラネコかしら!!!」

 

 

ハッピーの毒舌に驚くルーシィ。

 

 

「前にユーノさんも言ってたけど、金色の鍵、黄道十二門の鍵は世界中にたった12個しかないの。めちゃくちゃレアなんだからね」

 

 

「あの牛やメイドが?」

 

 

「あたしがもっと修行したら星霊の方が絶対アンタより強いんだから!!!」

 

 

バカにしたように言うナツにルーシィが負けじと言う。

 

 

「さて…さっそくだがギルドに戻っておまえたちの処分を決定する」

 

 

「うお!!」

 

 

「!!!」

 

 

「うっ!!」

 

 

「忘れかけてた!!」

 

 

エルザから言われたことに、全員肩を落とした。

 

 

「でもね、私もエルザさんも今回の事は海容してもいいと思うの」

 

 

「しかし判断を下すのはマスターだ。私は弁護するつもりはない。それなりの罰は覚悟しておけ」

 

 

すると、ナツとルーシィ以外のメンバーの顔が青くなる。

 

 

「まさかアレをやらされるんじゃ!!?」

 

 

「ちょっと待て!! アレだけはもう二度とやりたくねえ!!!」

 

 

「うわーーーん!!! アレだけはイヤだよーー!!!」

 

 

「アレって何ーー!!?」

 

 

三人が言うアレに不安を覚えるルーシィ。しかしナツの顔には余裕の笑みが浮かんでいた。

 

 

「気にすんな『よくやった』って褒めてくれるさ、じっちゃんなら」

 

 

「すこぶるポジティブね」

 

 

「いや、ナツ君……アレはほぼ確定だと思うよ」

 

 

「ふふ……腕が鳴るな」

 

 

なのはとエルザがそう言うと、余裕だったナツの顔に段々と冷や汗が浮かぶ。

 

 

「いやだぁーーー!!!アレだけはいやだぁーーー!!!」

 

 

「だからアレって何ーーー!!?」

 

 

「さあ行くぞ」

 

 

先ほどと違い、逃げようとするナツの首根っこを掴んで引きずるエルザの後ろを苦笑しているなのはとドンヨリと肩を落としてグレイとスバルとハッピー、そしてアレの意味がわからず恐怖するルーシィが続いたのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「今帰った! マスターは居られるか!?」

 

 

ギルドに帰ると同時にエルザがそう叫ぶと、奥からミラが歩いてきた。

 

 

「お帰りなさい。島はどうだった? 少しは海で泳いだりした?」

 

 

「それどころではない!」

 

 

「ミラさん空気読んで!!」

 

 

ミラの的外れな発言にツッコミを入れるルーシィ。

 

 

「マスターは?」

 

 

「それが…評議会の集まりがあるとかで、昨日から出かけてるの。帰るのは一週間後だって」

 

 

「「「「「ホッ」」」」」

 

 

それを聞いたナツ達は揃えて安堵の息を吐く。

 

 

「とりあえずセーフ!!」

 

 

「よしっ! じーさんが帰ってくるまでアレはねえな!!」

 

 

「よ…よかったぁ~」

 

 

「オイラたちまだ地獄を見ないで済むよー!!」

 

 

「だからアレって何なのよーー!!?」

 

 

「静かにしろっ!!!」

 

 

騒ぐ一同に一喝して黙らせるエルザ。

 

 

「とにかく、マスターが帰ったらすぐに判断を仰ぐ!! 心の準備をしておけ!!」

 

 

「「「「「は…はい!!!」」」」」

 

 

エルザの一喝に背筋を伸ばしながら返事をする五人。すると……

 

 

 

「……帰ったのね……ナツ」

 

 

 

一人の人物がナツに声をかえた。

 

 

「ん? おぉティア!! 今帰ったぜ!!!」

 

 

その声にナツは振り返り、声をかけてきた人物…ティアナにそう笑いかける。その時……

 

 

 

 

 

パァァァアン!!!!

 

 

 

 

 

突然ギルドに乾いた音が響き、ギルド内が静まり返る。それと同時にナツが床に倒れる。

 

 

「痛ってぇ……いきなり何しやがる!!?」

 

 

ナツは叩かれた頬を押さえながら上半身を起こし、ティアナにそう怒鳴るが……

 

 

「………………」

 

 

「うっ……!!」

 

 

怒りの形相で立っているティアナを見て、勢いを無くすナツ。そしてティアナは倒れているナツの上に馬乗りになり、胸倉を掴む。

 

 

「アンタは…何で勝手にS級クエストなんて行くのよ!! あれがどれだけ危険な仕事か知ってるでしょ!!!」

 

 

「か…帰って来たんだからいいだろーが!!!」

 

 

「いい訳ないでしょ!!!」

 

 

「ぐはっ!!」

 

 

今度はナツの脳天に拳骨をおとすティアナ。

 

 

「私が……どれだけ不安だったか……」

 

 

「っ……ティア?」

 

 

急に声のトーンが落ちたティアナにナツは首を傾げる。その表情を見ようにも、前髪が影になって表情が見えない。

 

 

「私がどれだけ…心配したか……知らないで……!!」

 

 

ティアナが言葉を紡ぐ度に、ナツの顔に小さな水滴が落ちる。

 

 

「お願いだから……無茶しないでよ……バカナツゥ……!!!」

 

 

「っ!?」

 

 

先ほどまで見えなかったティアナの表情を見た瞬間、ナツは目を見開いた。何故なら、ティアナの両目には大粒の涙が溜まっていたのだから……

 

 

「……悪ぃ…ティア……」

 

 

そんなティアナに謝罪の言葉を口にするナツ。

 

 

そんな二人の様子を呆然と眺めていたルーシィはこっそりと近くにいたスバルに尋ねる。

 

 

「ねえスバル、前から気になってたんだけど…あの二人ってどういう関係なの?」

 

 

ルーシィの問い掛けに、スバルは苦笑気味に答える。

 

 

「うーん、何て言ったらいいのかな? えっと…ティアはね、ナツのことを大切に思ってるんだよ」

 

 

「大切に?」

 

 

「うん……ルーシィはティアがナツのこと好きなのは知ってる?」

 

 

「それはまぁ…見てたらわかるけど……」

 

 

「ティアがナツを大切に思ってる理由はそれなんだよ。ティアはナツの事が好きだから、誰よりもナツに厳しいし、誰よりもナツを大切に思ってるんだ」

 

 

「へぇ~」

 

 

「まぁ、ナツは鈍感だからティアの想いには気付いてないけどね」

 

 

「あらら……」

 

 

「でもね、ティアがナツを大切に思ってるのと同じくらい……ナツもティアのことを大切に思ってるんだ」

 

 

と、スバルとルーシィがそんな会話をしている間に、ナツは馬乗りになっているティアナをどかし、ゆっくりとした足取りで出口へと向かう。そんなナツを見て、ハッピーが声を掛ける。

 

 

「ナツ、どこ行くの?」

 

 

「……悪ぃ…ちょっと頭冷やしてくる……」

 

 

「はぁ? 炎バカのテメェの頭は冷やす必要もねぇくらい年中燃え盛ってんじゃねえかよ」

 

 

「………………」

 

 

「?…おい、ナツ?」

 

 

グレイの嫌味にもまったく反応せず、ナツはそのままギルドを出て行った。

 

 

「んだアイツ……調子狂うぜ……」

 

 

「うん…珍しいね。ナツ君がグレイに突っかからないなんて……」

 

 

「うむ…ティアナに怒られてナツも反省したのだろう」

 

 

「反省!? あのナツが!?」

 

 

いつもと違う様子のナツに戸惑いを隠せない一同。

 

 

「オイラ…ちょっと様子見てくる!」

 

 

そう言ってハッピーは羽を広げて、ナツの後を追ったのだった。

 

 

「……………」

 

 

そして残ったティアナは、目元の涙を拭いながらナツが出て行った出入り口を見据えていたのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

場所は変わり、ナツとハッピーの家の近く…マグノリアの街が見渡せる岩場にナツは腰を降ろしていた。

 

 

「………ハァ…」

 

 

岩場に座り込みながらナツは小さな溜め息をついた。

 

 

「ティアを……泣かせちまった……」

 

 

思い出すのは先ほどのティアナの泣き顔。その光景がナツの頭をよぎる。

 

 

「約束破っちまったなぁ……アイツとの…」

 

 

そう言って空を見上げながら今度は深い溜め息をつくナツ。すると……

 

 

「ナツー! ここにいたんだ!」

 

 

「ハッピー……」

 

 

ナツのもとにハッピーが飛んできた。

 

 

「さっきはどうしたの? みんな心配してたよ」

 

 

「……ちょっとな」

 

 

そう答えたナツの声にはいつもの元気がない。心配になったハッピーはさらに問い掛ける。

 

 

「それってさ、さっき言ってた〝約束〟に関係あるの?」

 

 

「っ…聞いてたのか?」

 

 

「偶然聞こえたんだ。ねえ、約束って何のこと?」

 

 

ハッピーがそう問い掛けると、ナツは顔を俯かせる。

 

 

「………………」

 

 

そしてしばらくの沈黙のあと…ゆっくりと口を開いた。

 

 

 

「6年前……ちょうどお前が生まれた日だ……」

 

 

 

ナツの口から語られる6年前の〝約束〟とは……?

 

 

 

 

 

 

 

つづく


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