LYRICAL TAIL   作:ZEROⅡ

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本日2話目です。


この話は個人的に好きなシーンがあったので、かなり力を入れて書きました。


感想お待ちしております。


戦車

 

 

 

 

 

大魔闘演武1日目は妖精の尻尾(フェアリーテイル)にとって散々な結果で終わった。

 

 

そしてその夜……ギルドのメンバーたちはクロッカスにある酒場『BAR SUN』にてドンチャン騒ぎをしていた。

 

 

「なっさけなーい、天下の妖精の尻尾(フェアリーテイル)が揃いも揃って何てザマだよ。ヒック」

 

 

「街中の酒場巡りで応援にも来なかった奴がエラそうに」

 

 

「見てたよ!! どこの酒場にも魔水晶映像(ラクリマヴィジョン)が置いてあるんだ」

 

 

「まあ、惨敗記念にパーっとやるか」

 

 

「マスターっ!!」

 

 

「さすがにそんな記念はイヤかな」

 

 

酒に酔ったカナが出場メンバーたちに物申し、マカロフが惨敗記念に盛り上がろうと言うと、レビィとなのはが苦笑を浮かべた。

 

 

「しかし、とんだ1日だったな」

 

 

「せやな~、まさか3チームともあんな結果に終わるとは思わんかったわ」

 

 

「明日からがんばらないとね」

 

 

エルザとはやてとミラジェーンが今日の散々な1日を振り返りながら苦笑を浮かべる。

 

 

「明日はオレが出る!! 絶対に巻き返してやるんだ!!」

 

 

「がんばってねナツ!!」

 

 

するとそれを聞いていたナツが高らかに言い放ち、ハッピーが彼に声援を送る。

 

 

「ほぉう、火竜(サラマンダー)が出るってなら、オレも出ようか」

 

 

「そろそろ修行の成果を見せてやるといい」

 

 

「でしたら、Cチームからは僕が出ます」

 

 

「エリオもこの3ヶ月で強くなりましたからね。甘く見てると痛い目に遭いますよ?」

 

 

そんなナツに対抗するように、Bチームからはガジル…Cチームからはエリオが名乗りを上げたのであった。

 

 

「あれ? ルーちゃんとグレイは?」

 

 

「そういえばシグナムとヴィータもいないね」

 

 

するとレビィとユーノがこの場にルーシィとグレイ、そしてシグナムとヴィータがいない事に気がついた。

 

 

「そりゃ4人とも、あんな負け方をしたんだ」

 

 

「顔出しづれーんだろうな」

 

 

「誰が顔出しづらいって?」

 

 

マカオとワカバがそう言うと、そんな彼らの後ろからシグナムとヴィータの2人がやって来た。

 

 

「何だ、来てたのか」

 

 

「当たりめーだろ。アタシらがあんなんでヘコむかってーの」

 

 

「遅れたのはこの街の武具屋にレヴァンティンの修理を頼んできたからだ」

 

 

「因みにアタシはその付き添いな」

 

 

意外そうな顔をするマカオに対し、呆れたような表情でそう言い放つヴィータとシグナム。どうやら今日の敗戦のショックはまったく引き摺っていないようである。

 

 

そしてその後グレイとルーシィも遅れて酒場にやって来ており、この2人も同じく敗戦のショックを乗り越えたようである。

 

 

「よし!! みんな揃ったな」

 

 

「「「オオーーーッ!!!」」」

 

 

「聞けェガキどもォ!!!」

 

 

すると一通りのメンバーが揃ったのを確認したマカロフが、テーブルの上に乗り出してメンバーたちに向かって高らかに語り始める。

 

 

 

 

「今日の敗戦は明日の勝利への糧!!!! のぼってやろうじゃねえか!!!! ワシらに諦めるという言葉はない!!!! 目指せフィオーレ1!!!!」

 

 

 

「「「オオォォォォォオオ!!!!!」」」

 

 

 

そんなマカロフの言葉にメンバーたちは声を張り上げる応え、宴に更なる盛り上がりを見せる。

 

 

騒いで…飲んで…食べて……笑ってのドンチャン騒ぎ。そんな彼らの表情には、今日の敗戦のショックなど微塵も感じられなかった。

 

 

「これ…本当に今日惨敗したギルドかぁ?」

 

 

「やかましい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第176話

戦車(チャリオット)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃……華灯宮メルクリアス。

 

 

「陛下、大魔闘演武1日目、無事に終了いたしました」

 

 

「ウム、良き魔闘であったな」

 

 

そこの王室では……玉座に座るフィオーレ王と、王に対して跪く王国の桜花聖騎士団団長・アルカディオスの姿があった。

 

 

「2日目のバトルパートについて、御要望があれば伺います」

 

 

「そうだのう……スティングやローグが見たいが、楽しみはとっておきたいしのう。そうじゃ! バッカスが見たいのう!! バッカスを組み込んでくれぬか」

 

 

「どのチームと当てましょう?」

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)のあの…変身する奴じゃ!! 名前が思い出せん!! 確か最強チームの……~~~!!」

 

 

「かしこまりました、そのようにいたしましょう」

 

 

「きっと良き試合になるぞ」

 

 

戦わせたい人物の名前が出てこずに思い出そうとする王だが、何となくその人物を察したアルカディオスは了承した。

 

 

「他に御用がなければ、私はこれで」

 

 

「御苦労であった騎士団長。ゆっくり休まれよ」

 

 

王からそんな労いの言葉を受け取りながら、アルカディオスは王室を後にした。

 

 

 

 

 

「休むヒマなどないのですよ陛下、直にあれが完成するとあらば。ククク…」

 

 

 

 

 

そしてアルカディオスはそんな不気味な笑い声を漏らしながら、長い廊下を歩いて行ったのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

場所は戻り……『BAR SUN』にて未だにドンチャン騒ぎをしている妖精の尻尾(フェアリーテイル)

 

 

「次は誰だーーっ!!!! 景気づけにかかってこーい!!!!」

 

 

「いいぞナツー!」

 

 

「弱ェぞマックスー!」

 

 

その中心ではマックスをKOしたナツがテーブルの上で高らかに叫んでいた。因みにその光景を見たウォーレンやビジターたち現代組は「何で3ヶ月でこんな強くなってんだよ」や「オレら立場って……」と言って嘆いていた。

 

 

「おっしゃあ!!! アタシが相手だぁーー!!」

 

 

「頑張れノーヴェーー!!」

 

 

「ハァ……あんまりバタバタしないでよ?」

 

 

そんなナツに対してノーヴェはノリノリでテーブルに乗り出し、スバルはそんな妹に声援を送り、ティアナは呆れた表情でその光景を眺めていた。

 

 

「チッ…オレが相手してやろーかと思ったが、先を越されたか」

 

 

「よせよ……お前とナツじゃ遊びじゃなくなる」

 

 

ノーヴェに先を越されたが、ナツの相手をしようとしていたガジル。だがそんなガジルをラクサスが戒める。

 

 

「オウオウ、ずいぶん丸くなったものだねラクサスゥ」

 

 

「おいガジルやめとけって。またボコボコにされんぞ」

 

 

「そうだよ、やめなよガジル!」

 

 

ラクサスの頭をポンポンっと叩きながら挑発するガジルをアギトとレビィが止める。そんなガジルに対しラクサスは何も言わずに黙っていたが、代わりに近くにいたフリードが激怒した。

 

 

「き…貴様っ!!! ラクサスになんて事を!!! 今我らの誇りが踏み躙られている!!! ラクサス親衛隊・雷神衆ーーー!!! 集合ォーーー!!!!」

 

 

そう言ってフリードは声高らかに雷神衆に集合を呼びかけるが……

 

 

「もうダメ…」

 

 

「ふにゃぁ~…」

 

 

「オオオ……」

 

 

「なっさけないねー」

 

 

フェイト、ビックスロー、エバーグリーンの3人はすでにカナによって飲み潰されていたのであった。

 

 

「姉ちゃん、強いじゃねーか」

 

 

「へ?」

 

 

するとそんなカナの所へ、1人の見知らぬ男がやって来る。

 

 

「オレと比べてみねェか」

 

 

「ほぉう? どちら様か知らないけど、酒で私と勝負?」

 

 

束ねた髪を後頭部でまとめたヘアスタイルに目元のしみが特徴の男が酒の入ったグラスを片手にカナに飲み勝負を挑む。当然カナはその勝負を快く承諾する。

 

 

「オイ!! 誰だか知らねーがやめとけ!!」

 

 

「こー見えてこの女、バケモンだぞ!!」

 

 

そのやり取りを見ていたマカオとワカバは男に対して忠告の言葉を口にする。

 

 

しかし……100を超える酒で飲み比べた結果、先に潰れてぶっ倒れたのはカナであった。

 

 

「「ウソだろーーっ!!!?」」

 

 

「わはははははははは!!!」

 

 

飲み比べに勝利し、高笑いを上げる謎の男。そしてそれを見たカナの酒の強さをよく知っている面々は彼女が負けた姿に愕然としていた。

 

 

「コイツァ戦利品にもらっとくぁ」

 

 

「何すんだテメェ!!!」

 

 

「ギルダーツに殺されんぞ!」

 

 

「返せや!!」

 

 

「あまりウチのギルドなめてっと…」

 

 

戦利品と言ってカナの水着のような服を持って帰ろうとした男に対し、憤慨したマカオとワカバが殴りかかるが……

 

 

「ヒック」

 

 

「ごはっ!」

 

 

「ぬがっ!」

 

 

男はフラフラとした動きでマカオとワカバの攻撃をかわし、そのまま2人を床に叩きつけて倒してしまったのであった。

 

 

すると……その騒ぎの一部始終を見ていたエルザとクロノが、驚愕したようにその男の名を呟く。

 

 

「「バッカス?」」

 

 

「ん? よぉう、エルザにクロ坊じゃねぇか。エルザは相変わらずいい女、クロ坊は堅物そうな顔だねぇ。ヒック」

 

 

「くさい」

 

 

「クロ坊じゃなくてクロノだ」

 

 

そう言ってバッカスと呼ばれた男はエルザとクロノの2人へと顔を近づける。

 

 

「久しぶりだな」

 

 

「7年も姿くらませてたんだって?」

 

 

「色々あってな。君は大魔闘演武に参加していないようだが」

 

 

「わははははっ!! 今回は若ェ連中に任せておこうと思ったんだけどよ、ウォークライのザマを見ちゃ黙ってられねぇのが男の魂ってモンよ。リザーブ枠を使ってオレが入る事になった。魂が震えてくらァ」

 

 

バッカスが大魔闘演武に参戦する……それを聞いたエルザとクロノは思わずゴクリと生唾を飲み込んだ。

 

 

「明日以降ぶつかる事があったら、いつかの決着をつけてぇな。魂はいつでも……ワイルドォォォォ?」

 

 

「「…………フォー」」

 

 

「ノリ悪ィよエルザァ、クロ坊ォ!! わははははっ!!!」

 

 

そう言って高笑いを上げながらバッカスは酒場を出て行った。ただ時折、遠くから彼の笑い声と転ぶような音が聞こえていたが。

 

 

そしてバッカスが出て行ったのを見計らって、ティアナがエルザとクロノに問い掛ける。

 

 

「エルザさん、クロノさん、さっきの人は知り合いなんですか?」

 

 

四つ首の猟犬(クワトロケルベロス)のS級にあたる男。私やクロノは奴とは仕事先でぶつかる事が多くてな……その強さはよく知っている」

 

 

「酔いの鷹、酔・劈掛掌のバッカス。何度か戦った事はあるが、僕もエルザを決着をつけることができなかった」

 

 

「エルザやクロノと互角…?」

 

 

「あんな酒臭い男が……」

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)きってのS級魔導士であるエルザやクロノと互角の実力者と聞いて、ルーシィとティアナは驚きを隠せずに戦慄したのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

その頃…ドムス・フラウの医務室。

 

そこでは未だに体調の悪いウェンディとキャロが眠っており、そんな2人の側にはポーリュシカと一足先に回復したシャルルが付き添っていた。

 

 

「アンタ、何を見たっていうんだい?」

 

 

「それが……いつもの事だけど断片的で…」

 

 

そしてポーリュシカは、シャルルが視たという予知夢について問い掛け、シャルルはその夢の事を思い出しながら口を開いた。

 

 

「白い騎士…巨大な魔法陣…」

 

 

「他には?」

 

 

「信じられないような光景」

 

 

「それは何だい?」

 

 

ポーリュシカの問い掛けにシャルルは一瞬言いよどんだあとで、その信じられない光景について語った。

 

 

「崩壊する(メルクリアス)。そしてその中で何かを歌っているルーシィ。そして──」

 

 

シャルルはそこで一旦言葉を止めてから……再び口を開く。

 

 

 

 

 

「崩れ行く城の中で何かを必死で叫んでいる───ティアナ」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

それから一夜明けて、大魔闘演武2日目。

 

 

その2日目の競技パート──〝戦車(チャリオット)〟。

 

 

『この競技は、連結された戦車の上から落ちないようにゴールを目指すというものです』

 

 

『ただス、普通のレースじゃないんだよなァ』

 

 

『COOL! COOL!! COOL!!!』

 

 

そう言って実況席に座るのは、先日とは違う髪形になっているチャパティと解説のヤジマ、そして2日目ゲストの週刊ソーサラー記者のジェイソンである。

 

 

『足元の戦車は常に動いている為、一瞬の気の緩みがミスへと繋がります。クロッカスの観光名所を巡り、ここドムス・フラウに1番に到着するのはどのチームか!? 会場のみなさんには、魔水晶映像(ラクリマヴィジョン)にてレースの様子をお届けします』

 

 

『COOOL!!!』

 

 

チャパティの言うとおり、観客席の前や控え室等にいるチームの目の前には、動く戦車の上を走りながらゴールを目指す参加者たちの姿があった。

 

 

『それにしてもヤジマさん、こんな展開誰が予想できたでしょうか?』

 

 

『ウ~~ム』

 

 

だがしかし……その映像を見て、観客席を含めた妖精の尻尾(フェアリーテイル)の面々は目を丸くして呆然としていた。

 

 

「何でナツを出したァ!?」

 

 

戦車(チャリオット)って競技名で予想できるよねフツー」

 

 

「どうしても出ると聞かないモンでな」

 

 

「どうせ戦車とバトルができるとでも思ったんでしょ、あのバカナツ」

 

 

そう言って妖精Aチームのメンバーたちは呆れながら再び視線を映像へと移す。するとそこには……

 

 

 

『なんと!!! 先頭より遥か後方、妖精の尻尾(フェアリーテイル)A【ナツ】がグロッキー状態です』

 

 

「お…おお…おぷ」

 

 

 

いつもの乗り物酔いが発動し、フラフラとした足取りで戦車の上を進んでいるナツの姿があった。

 

 

それを見た妖精の面々はナツに呆れながら「こりゃダメだ」と、早々に今回の競技を諦める。すると……

 

 

『それだけではありません。そのすぐ近くで妖精の尻尾(フェアリーテイル)B【ガジル】と、妖精の尻尾(フェアリーテイル)C【エリオ】…さらには剣咬の虎(セイバートゥース)の【スティング】までがグロッキー!!』

 

 

「な…なぜオレが……」

 

 

「き…気持ち…ワル……」

 

 

「おおお……」

 

 

「「「えーーーーっ!!!?」」」

 

 

なんと映像に映し出されたのは、ナツと同じくグロッキー状態で戦車を走るガジル、エリオ、スティングの姿であった。

 

 

「乗り物に弱ェのは…火竜(サラマンダー)の……アレだろ」

 

 

「なん…で……僕まで……うぷっ」

 

 

今までナツの弱点であった乗り物酔いに、何故か自分たちが陥っている事に困惑するガジルとエリオ。

 

 

「どうなってる? 何でガジルが」

 

 

「エリオもです。一体どうして……」

 

 

「ナツのキャラ取らないでよね」

 

 

「セイバーの人まで……」

 

 

ガジルやエリオまでもが乗り物酔いをしている光景に、観客席のリリーやリニスたちも疑問符を浮かべている。

 

 

「あーあ…スティングってば、まだ乗り物に弱かったんだね」

 

 

「? おいヴィヴィオ、あいつと知り合いなのか?」

 

 

映像に映るスティングに対してそう言うヴィヴィオに、疑問符を浮かべたグレイが問い掛ける。

 

 

「うん……昔ちょっとね」

 

 

「……………」

 

 

何やら含みのある回答で返されたグレイは、少々複雑な気分になりながらもそれ以上は追求しなかった。

 

 

『さあ、先頭集団の方を見てみましょう。こちらは激しいデッドヒートが繰り広げられています。先頭は大鴉の尻尾(レイヴンテイル)【クロヘビ】』

 

 

戦車の先頭を走っているのは、全身の黒タイツと蛇のような顔つきが特徴の男…クロヘビ。

 

 

『それを追う青い天馬(ブルーペガサス)【一夜】。蛇姫の鱗(ラミアスケイル)【ユウカ】。人魚の踵(マーメイドヒール)【リズリー】。凶鳥の眷属(フッケバイン・ファミリー)【ドゥビル】。やや離れた所に四つ首の猟犬(クワトロケルベロス)リザーブ枠の【バッカス】』

 

 

「メェーン…」

 

 

「アンタらその体型でよくついて来れるな」

 

 

「ポッチャリなめちゃいけないよ」

 

 

「……………」

 

 

「ヒック…まいったな……昨日の酒が抜けねぇやい」

 

 

後方にいるバッカス以外の4人はほぼ同列に並んで走っており、ここから一気に引き離す為に最初に動き出したのはユウカであった。

 

 

「波動ブースト!!!! この衝撃波の中で魔法は使えんぞ!!!」

 

 

ユウカは魔法を打ち消す波動を後方に放ち、スピードアップすると同時に、後方にいる面々の魔法を封じた。

 

 

「甘いな。短距離瞬間移動(ショートジャンプ)

 

 

「!?」

 

 

それに対しドゥビルはユウカの波動に包まれるよりも速く、瞬間移動の魔法により彼より前に躍り出た。

 

 

「ポッチャリなめちゃ…いけないよっ!!!」

 

 

そしてリズリーは波動をかわし、得意の重力変化の魔法で戦車の側面を駆け抜ける。

 

 

「魔法をかき消す波動……ならば俊足の香り(パルファム)、零距離吸引!!!!」

 

 

さらに一夜は香り魔法(パルファムマジック)で生み出した速度強化の香りが入った試験管を、かき消されないように直接鼻に押し込んで吸引した。因みに映像でその絵面を見た観客たちは思いっきりドン引きしていた。

 

 

「とぉーーーう!!!!」

 

 

「!!」

 

 

俊足の香り(パルファム)によって速度アップした一夜は一気に駆け抜けてユウカを追い越す。

 

 

「ほぉう、がんばってるなァ。魂が震えてくらァ。オレも少しだけがんばっちゃおうかなァ」

 

 

するとそんな4人の後方にいたバッカスはそう言うとその場で立ち止まり、まるで四股を踏むようにゆっくりと片足を上げる。そして……

 

 

「よいしょオオォォォォ!!!!」

 

 

バッカスが足を振り下ろしたその瞬間…彼の足は戦車をいとも容易く踏み潰し、さらにその前後にあった戦車すらも引っくり返す。

 

 

『こ…これは!!! バッカスのパワーで戦車が──崩壊!!!!』

 

 

あまりの光景に会場全体が愕然とする。

 

 

「おっ先ィーーー!!! 落ちたら負けだぜっ!!!」

 

 

「何だねアレは…」

 

 

「きたねぇ!!」

 

 

「ポッチャリなめちゃ…」

 

 

引っくり返った戦車に巻き込まれて足が止まった一夜たちを一気にごぼう抜きにして走り去っていくバッカス。そんなバッカスを愕然と見送る一夜とユウカとリズリー(重力変化の影響で激痩せ)。

 

 

「チッ」

 

 

その中でただ1人…ドゥビルが短距離瞬間移動(ショートジャンプ)を駆使してバッカスを追いかけるが……

 

 

「わははははははははは!!!!」

 

 

高笑いしながら猛スピードで駆けて行くバッカスにはまるで追い付けなかった。

 

 

そしてバッカスは首位を走っていたクロヘビすらも追い越して行き……

 

 

『ゴール!!! 四つ首の猟犬(クワトロケルベロス)、10P獲得!!!!』

 

 

「震えてくらァ!!!!」

 

 

そのまま1着でゴールしたのであった。

 

 

『続いて2着…大鴉の尻尾(レイヴンテイル)、クロヘビ。3着ドゥビル、4着リズリー、5着ユウカ、6着一夜』

 

 

バッカスに続くように他のメンバーたちも次々とゴールしていく。

 

 

『残るは情けない最下位争いの4人ですが……』

 

 

そう言って映像に映ったのは、乗り物酔いの影響で未だに半分にも達していないナツ・ガジル・エリオ・スティングの4人。

 

 

「おぼ…おぼぼ…」

 

 

「バ…バカな……オレは乗り物など平気…だった…うぷ」

 

 

「僕も…乗り物でこんな事に…なった事……おぶ」

 

 

「じゃあ…うぷ……やっとなれたんだな、本物の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)に。おめでとう、新入りども」

 

 

今まで乗り物には平気だったハズのガジルとエリオに対してそう言い放つスティング。

 

 

「ぬぐ…!!! テメェッ!!!!」

 

 

「おばっ」

 

 

「えばっ」

 

 

「うぼっ」

 

 

「がはっ、力が出ねえ」

 

 

そんなスティングの言葉に憤慨したガジルが体当たりをするが、とても弱々しい上にナツやエリオまでも巻き込んでしまう。それを見た観客たちは「あはははははっ!!!」と笑い声を上げる。

 

 

「ほぉう……これが『盛り上げる』って事か」

 

 

「これは〝素〟だよ。ね! ローグ」

 

 

滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)は乗り物に弱い……らしいな」

 

 

「ローグさんとスティングさんだけではなかったんですね」

 

 

スティングの姿を見て、上からオルガ・ルーファス・ローグ・アインハルトの順でそう言葉を口にする。

 

 

「もしかしてラクサスも?」

 

 

「他の奴等には黙っとけよ」

 

 

「マジかよ」

 

 

「意外なの」

 

 

「もうバレバレだと思うけど」

 

 

妖精Bチームの陣営では、ラクサスの意外な弱点が明らかとなっていた。

 

 

「うおぉぉぉぉおお!!! 前へ──進む!!!!」

 

 

それでもナツはフラフラとした足取りでも、ゴールを目指してただ進む。それに続くようにガジルとエリオも足を進めていく。

 

 

「カッコ悪ィ、力も出せねえのにマジになっちゃってさ」

 

 

「進むぅぅぅぅぅ!!!!」

 

 

小バカにしたようにそう言うスティングの言葉も意に介さず、ナツたちはひたすらに前へと進む。

 

 

「いいよ……くれてやるよこの勝負。オレたちはこの後も勝ち続ける、たかが1点2点いらねーっての」

 

 

「その言葉……後悔しますよ」

 

 

「その1点に泣くなよボウズ」

 

 

勝負を捨てて立ち止まったスティングに対して、笑みを浮かべながらそう言い放つガジルとエリオ。

 

 

「オォォォォォォオ!!!!」

 

 

「ぐぅぅぅうううう!!!!」

 

 

「ぬがぁぁぁぁああ!!!!」

 

 

もはや地べたに手をつけて這いずりながら、雄叫びを上げて前へと進むナツとガジルとエリオ。そんな3人を見ていたスティングは、そんな3人の背中に問い掛けた。

 

 

「ひとつだけ聞かせてくんねーかな? 何で大会に参加したの? アンタら。昔の妖精の尻尾(フェアリーテイル)からは想像できねーんだわ。ギルドの強さとか、世間体的なモノ気にするとか。オレの知ってる妖精の尻尾(フェアリーテイル)はさ、もっと……こうマイペースっつーか、他からどう思われようが気にしねーつーか」

 

 

 

 

 

「仲間の為だ」

 

 

 

 

 

そんなスティングの問い掛けに対し……ナツはハッキリとそう言い放った。

 

 

 

 

 

「7年も…ずっと…オレたちを待っていた…どんなに苦しくても、悲しくても、バカにされても耐えて耐えて…ギルドを守ってきた…仲間の為に、オレたちは見せてやるんだ」

 

 

 

 

 

自分たちがいなかった7年間……残された仲間たちがその間どれほど辛い思いをしてきたかなど、想像するまでもない。

 

 

しかしどれだけ辛くとも…悲しみに暮れようとも…かつての栄光を失おうとも…仲間たちは自分たちの帰るべき(ギルド)を守っていてくれていた。

 

 

どんなに衰退し、建物がボロ小屋のようになろうとも……妖精の尻尾(フェアリーテイル)という(ギルド)をずっと守り続けてくれていたのだ。

 

 

だからこそ彼らは今──ここにいる。

 

 

 

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の歩き続けた証を!!!! だから前に進むんだ!!!!!」

 

 

 

 

 

ナツのそんな想いの篭った言葉に……観客席にいたロメオやマカオたち現代組は溢れる涙を堪える事なく流した。

 

 

そしてナツのその想いに妖精ABCチームの面々や、彼らをよく知る天馬やラミアは微笑み……さらには観客たちの見る目も変わっていった。

 

 

それからもナツとガジルとエリオは仲間の想いを紡ぐ為、汗だくになり這いずりながらも前へと進んでいく。そして……

 

 

『ゴォーーール!!! 妖精の尻尾(フェアリーテイル)C、エリオ7位!!! 4P!!!』

 

 

「何気に1番です」

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)A,ナツ8位!!! 2P!!!』

 

 

「ポイント初ゲット」

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)B、ガジル9位!!! 1P!!!』

 

 

「ギヒ」

 

 

剣咬の虎(セイバートゥース)、スティングはリタイア。0Pです!!!』

 

 

フラフラで体力や気力も限界の中…ナツとガジルとエリオは倒れながらもゴールを果たしたのであった。

 

 

「あいつらの執念……みてーなの」

「ああ…スゲー」

「何なんだあいつら」

妖精の尻尾(フェアリーテイル)……ちょっといいかもな」

「少し感動しちまった」

「オレ…!! 応援しようかな!! 妖精の尻尾(フェアリーテイル)!!!」

 

 

そんなナツたちの姿に感銘を受けた観客たちは、彼らに惜しみのない拍手を送ったのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

そんな中……1人リタイアしたスティングは、会場の廊下を歩いている。

 

 

「仲間の為? くだらねえよ、そういうの」

 

 

吐き捨てるようにそう言って、スティングは廊下を歩いて行ったのであった。

 

 

 

 

 

つづく




―2日目途中経過―
大鴉の尻尾:28ポイント
凶鳥の眷属:26ポイント
蛇姫の鱗:23ポイント
青い天馬:21ポイント
剣咬の虎:20ポイント
四つ首の猟犬:14ポイント
人魚の踵:12ポイント
妖精の尻尾C:6ポイント
妖精の尻尾B:2ポイント
妖精の尻尾A:2ポイント


原作と違ってセイバーはかなり順位を落としましたが、どうぞ気にしない方向で見てくださるとありがたいです(汗)

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