LYRICAL TAIL   作:ZEROⅡ

175 / 240
まだ1日目なので、バトルシーンはちょっと控えめです。


シグナムの対戦以外は原作通りなので割愛いたします。ルーシィやミストガン(ジェラール)の戦闘シーンを期待していた読者様、申し訳ありません。


感想お待ちしております。


あ、因みに1時間後にもう1話投稿されますよ。


シグナムvsサイファー

 

 

 

 

大魔闘演武1日目の競技パート〝隠密(ヒドゥン)〟の結果は以下のようになった。

 

 

―隠密結果―

剣咬の虎→10ポイント

大鴉の尻尾→9ポイント

凶鳥の眷属→8ポイント

蛇姫の鱗→7ポイント

青い天馬→6ポイント

人魚の踵→5ポイント

四つ首の猟犬→4ポイント

妖精の尻尾C→2ポイント

妖精の尻尾B→1ポイント

妖精の尻尾A→0ポイント

 

 

そして競技パートの次は、各ギルドが戦うバトルパートへと移行する。

 

 

その第1試合に選ばれたのは……妖精の尻尾(フェアリーテイル)Cのシグナムと、凶鳥の眷属(フッケバイン・ファミリー)のサイファーであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第175話

『シグナムvsサイファー』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『両者共に魔法剣士…これは面白い対戦になりそうですねヤジマさん』

 

 

『魔法だけでなく剣の腕も勝負の分かれ目になるね』

 

 

「両者前へ!!」

 

 

『ここからは闘技場全てがバトルフィールドとなる為、他のみなさんは全員控え室等へ移動してもらいます』

 

 

マトー君に呼ばれ、シグナムとサイファーの2人は闘技場の中心へと立ち、その他のメンバーやギルドは控え室等の観戦場所へと移動していった。

 

 

『制限時間は30分。その間に相手を戦闘不能状態にできたら勝ちです』

 

 

実況席のチャパティの説明を聞きながらも、シグナムとサイファーは互いの姿を視線から外さずに睨み合う。

 

 

『それでは第1試合……開始!!!!』

 

 

試合開始を告げる銅鑼の音が鳴り響くと同時に、シグナムはレヴァンティンを鞘から引き抜き……対するサイファーも手にしている剣を鞘から引き抜いて構える。

 

 

「先の競技では、ウチのヴィータがずいぶんと世話になったな」

 

 

「何だ? 仇討ちでもする気か?」

 

 

「そんなつもりは毛頭ない。あいつもヴォルケンリッターの騎士なら、己の失態は己で取り返すさ。それより私が問いたいのは、何故あそこまで執拗にヴィータだけを狙ったかだ。まさか貴様等……大鴉の尻尾(レイヴンテイル)と何か繋がりがあるのか?」

 

 

「……やれやれ、よくしゃべる騎士様だ」

 

 

シグナムの問い掛けに対し、サイファーは小さく嘆息すると……好戦的な笑みを浮かべながら自身の剣の切っ先をシグナムへと向ける。

 

 

「知りたければ(コレ)で聞き出してみろ」

 

 

「元よりそのつもりだ」

 

 

それに対してシグナムもレヴァンティンを構えると……シグナムとサイファーは互いに剣を構えたまま睨み合って動かない。

 

 

だが次の瞬間……

 

 

 

ガキィィィイイイイイン!!!!!

 

 

 

突然会場全体に甲高い金属音が響いたかと思うと……気がつけばシグナムとサイファーの剣がぶつかり合い、互いに鍔迫り合いをしていた。そして少し遅れて、剣が衝突した際の衝撃が会場に轟く。

 

 

「「オォォォォオオオオオ!!!!」」

 

 

それを皮切りに、両者の剣が幾度となく激突する。互いに防げる攻撃は防ぎ、かわせる攻撃はかわしながら剣閃を振るう。さらには2人とも剣だけでなく、逆手に持った鞘をも武器にして戦っている。それでも中には防ぎ切れない攻撃がある為、両者の体には切り傷が刻まれていく。

 

 

『こ…これはスゴイ!!! 開始早々両者ともに激しい剣の応酬!!! あまりの速さに太刀筋が見えない!!!!』

 

 

『剣を使う魔導士はウチのギルドにもいるけど……こんな戦い初めて見たわ』

 

 

『2人の剣の腕はもはや達人レベル……ほぼ互角と見ていいね』

 

 

その戦いを見て実況席の3人がそう言葉を口にすると、会場全体が興奮した観客の歓声に包まれる。

 

 

「やっちまえシグナムーー!!!」

 

 

「シグナムー!!! がんばってーー!!!」

 

 

「行けェー!!! シグナム姉ーー!!!」

 

 

そしてその観客の中には、妖精の尻尾(フェアリーテイル)も混じっていた。

 

 

「あのシグナムという剣士…かなりの剣の使い手ですね」

 

 

「そうでしょう。シグナムの剣の腕はエルザをも凌ぎ、間違いなくギルド1です。じゃがそのシグナムと互角に斬り合うフッケバインの剣士も中々……」

 

 

「ですが剣士としての腕が同じという事は、互いに同等の実力を持っていると言う事。一瞬の油断が命取り……勝負が長引く事はないでしょう」

 

 

そんなメイビスとマカロフの会話は、周囲のギルドメンバーと観客の歓声の中に消えていった。

 

 

そして目の前の戦いに興奮を露にしているのは観客だけではない。

 

 

―妖精Aチーム―

 

 

「スゲェェ!!!」

 

 

「剣が目で追えねえ!!」

 

 

「あのシグナムさんと剣で互角に渡り合うなんて……」

 

 

「(凶鳥の眷属(フッケバイン・ファミリー)……やはり警戒しておいた方がいいか?)」

 

 

目を輝かせながら戦いを食い入るように観戦するナツと、戦いのレベルの高さに愕然とするエルフマンと、静かに感嘆するティアナの横で……エルザは密かに凶鳥の眷属(フッケバイン・ファミリー)に対する警戒を強めていた。

 

 

―妖精Cチーム―

 

 

「何やってんだシグナムーー!!! フッケバインの奴なんかさっさと倒しちまえーー!!!」

 

 

「ヴィータさん、どうどう」

 

 

「っておいこらエリオ!! 何アタシの体を軽々と持ち上げてんだ!!! ちょっとデカくなったからってチョーシに乗んなよっ!!!」

 

 

「いえそんなつもりは……」

 

 

「やれやれ」

 

 

エリオに抱えられながらジタバタと暴れながら怒鳴るヴィータに、ただ呆れるしかないザフィーラ。

 

 

「せやけど、あのサイファーって人も中々やね」

 

 

「そうですね。3ヶ月の特訓でシグナムの剣の腕はさらに研きがかかっているにも関わらず、そのシグナムと互角の戦いをしているのですから」

 

 

―凶鳥チーム―

 

 

「とか思ってんだろうな、妖精の奴等。サイ姉はまだ全然本気出してねーってのに」

 

 

「まぁ、この大会中はリアクトを極力使わないように…と言っておいてありますからね」

 

 

「だがそれを差し引いてもあの女剣士の実力は本物だ。事実、サイファーが攻めあぐねている」

 

 

「ハッ…そんだけ強い奴が妖精にはいるって事か。面白ェ」

 

 

アルナージの言葉にフォルティスが答えるように口を開き、ドゥビルが試合を冷静に分析し、ヴェイロンが好戦的な笑みを浮かべながらそう言葉を口にする。

 

 

「ん? おいそういやァ、ヴェーラとウルフはどこ行ったんだ?」

 

 

「ヴェーラなら先ほど席を外すと言ってどこかへ……ウルフなら……」

 

 

するとヴェイロンが周囲を見回しながらそう問い掛け、その問いに対しフォルティスが答えながらそっと指を指し……

 

 

「そこで寝ています」

 

 

「んごあぁぁああ…ずぴぃぃい…ぐがぁぁあ…ぐるるるる…」

 

 

そんな4人の背後から盛大なイビキが聞こえ、一斉にそちらへと視線を移すとそこには……小さな2本の角付きのフードを被った茶髪の少年……フッケバインからの参加メンバーの1人である『ウルフ』が、床に座り込んで壁にもたれ掛かりながら眠っていた。

 

 

「何でコイツ寝てんだよ!!? てかイビキうるせー!!!」

 

 

そんなウルフに対してアルナージが怒鳴るが、まったく起きる気配がない。すると……

 

 

「みんなお待たせ~!! 売店で色々買って来たよ~!!」

 

 

そこへ桜色のセミロングの髪を一つ結いにして右肩からたらしている少女が売店から買って来たモノと思われるポップコーンやホットドックなどの食べ物を大量に抱えてやって来た。

 

 

「お前は祭を満喫してんなぁヴェーラ」

 

 

「アルも食べるでしょ?」

 

 

「食べる」

 

 

「食うのかよ」

 

 

『ヴェーラ』と呼ばれた少女に呆れながらも、彼女から食べ物を受け取るアルナージに軽いツッコミを入れるヴェイロン。当然彼女も、フッケバインからの参加メンバーの1人である。

 

 

「まったく……ヴェーラは勝手な行動は慎んでください。君たちは──」

 

 

「自分の立場くらいわかってるって。でもほら、ハラが減っては何とやらって言うし。ねえアル?」

 

 

「そうだぜフォルティス。これくらい大目に見てやれよ」

 

 

「アル、君は完全に餌付けされてますよね」

 

 

ヴェーラの買って来た食糧を口にしながら彼女を庇うアルナージを、フォルティスは冷ややかな目で見ていた。

 

 

「それに心配しなくても──私もウルフも自分の仕事はちゃーんとやるわよ」

 

 

そう言ってヴェーラは小さく微笑を浮かべ、ポップコーン片手に目の前の試合へと視線を移したのであった。

 

 

それから視点は闘技場へと戻り…未だに激しい剣の応酬を繰り広げているシグナムとサイファー。

 

 

「(こいつ……強いな)」

 

 

「(居るものだな、強者というのは)」

 

 

剣と剣がぶつかり合うたびに、どこか嬉しそうに口角を吊り上げるシグナムとサイファー。どうやらサイファーも強者との戦いに喜びを感じるタイプ…いわゆるバトルマニアの気質があり、シグナムと似た者同士のようである。

 

 

「貴様とは違う出会いをしていれば、よき友となれたかもしれんな」

 

 

「どうだろうな? もしかしたら別の世界でも敵対関係にあるかもしれんぞ」

 

 

「それは残念だ」

 

 

そんな他愛のない短い会話を終えると、シグナムはサイファーの体ごと剣を押し返して後退させ、彼女と距離を取る。

 

 

「レヴァンティン…シュランゲフォルム」

 

 

「(剣の形状が変わった!? 鞭……いや、連結刃か!!)」

 

 

サイファーは突然シグナムのレヴァンティンの形状が剣から連結刃へと変わった事に驚愕しながら、警戒して剣を構え直す。

 

 

「シュランゲバイセン!!!」

 

 

「チィッ」

 

 

そしてシグナムはそのまま連結刃を振るい、その剣尖(けんせん)をサイファーへと目がけて飛ばす。それに対しサイファーは体をそらしてその攻撃を回避する。

 

 

「(中々早いな……だがかわせない速度では──)」

 

 

そう思い至った瞬間……サイファーの眼前には、再び連結刃の剣尖が迫っていた。

 

 

「うおっ!!?」

 

 

間一髪で顔をそらしてそれを回避するサイファーだが、かわし切れなかったのか、頬には一筋の切り傷が刻まれた。

 

 

「!!? しまった!!!!」

 

 

そこでサイファーは気がつく。彼女と距離を取っていたハズのシグナムがレヴァンティンを連結刃から通常の形態へと戻し、すでに目の前へと接近してきているという事を。

 

 

「紫電一閃!!!!」

 

 

「ぐ…がぁ……!!!」

 

 

そして放たれたシグナムの炎を纏った上段からの一太刀を、剣でガードを試みるサイファーだが、受け止めきれずに後方に大きく吹き飛ばされて壁に激突したのだった。

 

 

『おーーっと!!! シグナムの炎の一閃がサイファーを直撃ーーー!!!』

 

 

『連結刃で相手の制限スてからの渾身(こんスん)の一太刀。これは決まったかねぇ』

 

 

実況席からのチャパティとヤジマのそんな言葉が響き渡り、会場が歓声に包まれる中……シグナムは何やら考え込むように、サイファーが壁に衝突した際に巻き起こった土煙を静かに眺めている。

 

 

「(何だこの感覚は……私の攻撃は確実に決まったハズだ。なのに何故……こんなにも嫌な予感がする?)」

 

 

自分の胸の内に生まれた嫌な予感に表情には出さずに戸惑うシグナム。

 

 

だがその時……

 

 

「どうやら久しぶりに──まともな戦いができそうだ」

 

 

「!!?」

 

 

立ち込める土煙の中から聞こえてきたサイファーの声に、大きく目を見開くシグナム。そして土煙が晴れるとそこには……

 

 

「ケーニッヒ・リアクテッド。これが私の本当の武器だ」

 

 

先ほどまで使っていた剣とはまったく違う二刀一対の黒刃の剣──ケーニッヒ・リアクテッドを構えたサイファーが立っていたのだった。

 

 

 

「魔導殺しのこの双剣……止められるものなら止めてみろ」

 

 

 

―凶鳥チーム―

 

 

「オイオイオイ!!! サイ姉リアクトしちまったぞ!!! 大丈夫なのか!!?」

 

 

「極力使わないようには言っておいたのですが……やはり我慢できませんでしたか」

 

 

「まっ…剣の勝負じゃあっちの女が一枚上手だし、あのまま続けてたらサイファーは勝ち目はなかったからな。別にオレたちのチームは勝ち負けにこだわっちゃいねーが、ただ負けるってのも癪なんだろ」

 

 

「リアクトする事自体に問題はないが……勢い余ってやり過ぎないかが問題だな」

 

 

ケーニッヒ・リアクテッドを構えたサイファーを見てフッケバインの面々は口々にそう言葉を口にする。

 

 

「ふぅん……アレが魔導殺しの武器〝ディバイダー〟かぁ……」

 

 

そんなチームの中で、ただ1人ヴェーラがだけが興味深そうに試合の様子を見据えていたのであった。

 

 

「(武器を持ち替えた途端、魔力の質が変わった)」

 

 

「(毎年感じていたゼレフに似た魔力とは違うが……僅かに邪悪な気配を感じる。凶鳥の眷属(フッケバイン・ファミリー)……何者なんだ?)」

 

 

そして試合の光景を見ていた妖精Aチームのエルザと妖精Bチームのミストガン(ジェラール)はサイファーを見据えながら冷静に分析し、密かにフッケバインを警戒していた。

 

 

それから、視点は再び闘技場の試合へと戻る。

 

 

「(魔導殺しの双剣……まずは様子を見てみるか)」

 

 

シグナムは冷静にケーニッヒ・リアクテッドを構えたサイファーを見据えながら、自身もレヴァンティンを構える。

 

 

「三連空牙!!!」

 

 

そしてまずは様子見としてレヴァンティンを3連続で振るうと共に、前方に魔力で構成された横長の衝撃波を3発ほど飛ばすシグナム。

 

 

「フン」

 

 

それに対しサイファーは片方の剣の剣先をかざすと同時に魔法陣型の防壁を展開し、シグナムの衝撃波を難なく防いだ。

 

 

「まだだ」

 

 

だがシグナムはレヴァンティンをシュランゲフォルムへと変形させ、連結刃に烈火の炎を纏う。

 

 

「飛竜一閃!!!!」

 

 

さらにそのまま炎を纏った連結刃を振るい、まるで砲撃のような炎の斬撃波を放ったのであった。

 

 

そしてその攻撃はまっすぐとサイファーへと向かって行き……誰もが直撃すると思われたが……

 

 

「無駄だ」

 

 

「なっ!?」

 

 

ケーニッヒ・リアクテッドの片方の剣の一振り……たったそれだけでシグナムの攻撃は霧散してしまった。

 

 

「この剣の前では、魔法など無意味」

 

 

「……なるほど、魔導殺しとはよく言ったものだ。ならばっ!!」

 

 

するとシグナムはレヴァンティンを構えて一直線にサイファーへと向かって駆け出し、そのまま横薙ぎに斬りかかった。しかし……

 

 

「魔法が通じなければ剣で私をねじ伏せるか。いい手だ──と言いたい所だが」

 

 

「!!?」

 

 

そこまで言うとサイファーは……何とシグナムのレヴァンティンによる一太刀を剣ではなく、腕でガードしたのであった。

 

 

「残念だったな。ケーニッヒ・リアクテッドを手にしたその時から、刃物も魔力も私には通らん」

 

 

さらにその瞬間……サイファーの腕で防がれたレヴァンティンの刀身が、ピシピシと音を立てて亀裂が入ってしまった。

 

 

「レヴァンティン……!!?」

 

 

自慢の愛剣がヒビ割れた事に目を見開くシグナム。そんなシグナムに向かって……ゆっくりとケーニッヒ・リアクテッドを掲げるサイファー。

 

 

 

「理解して絶望したか──ならば散れ」

 

 

 

そして……その掲げた刃をまっすぐとシグナムへと振り下ろしたのであった。

 

 

 

 

 

だがその時……

 

 

 

 

 

──ガシッィ!!!

 

 

「なっ!!?」

 

 

今度は剣を振り下ろしたサイファーの方が目を見開いて驚愕する。

 

 

何故なら彼女が振り下ろした剣を──シグナムは彼女の手首を掴む事によって止めたのだから。

 

 

「刃も魔力も通さぬ体か……中々に厄介だ」

 

 

「貴様…ッ!!!」

 

 

サイファーの手首を掴みながら冷静にそう呟くシグナム。それに対しサイファーはすぐさまシグナムの手を振り払おうとするが、よほど強く掴まれているのか、中々振り解けないでいた。

 

 

「だが──まったく斬れないという訳ではあるまい?」

 

 

「!!」

 

 

そしてシグナムがサイファーに対してそう言い放ったその瞬間──ズバンッ!!!! という音と共に、レヴァンティンによる剣閃がサイファーの体を斜め一閃に振り下ろされたのであった。

 

 

「がっ……!!!」

 

 

シグナムの一太刀を喰らい、表情を歪めて呻くサイファー。しかし……

 

 

「……どうやら、こちらの方が耐え切れなかったようだ」

 

 

シグナムがそう呟いた瞬間、彼女の手にしていたレヴァンティンの刀身が完全に砕けて折れてしまった。

 

 

「チッ……」

 

 

舌打ち混じりにシグナムから距離を取るサイファー。そんな彼女の体には先ほどの一太刀の刃は通らなかったらしく、服以外に目だった斬りキズは見当たらない。

 

 

それを確認したシグナムは目を伏せて「フゥ…」と小さく嘆息する。そして……

 

 

 

 

 

「降参だ」

 

 

 

 

 

静かにそう言い放ったのであった。

 

 

「──は?」

 

 

そんな思いがけない言葉に、サイファーは目を丸くする。

 

 

「降参だと言ったんだ。剣士の誇りである剣が折れてしまった以上、それは己の死と同義……つまり私の負けだ」

 

 

そう言って刀身の折れたレヴァンティンを鞘へと納めながら自身の敗北を宣言するシグナム。そして剣を鞘に納めると同時に、実況席のチャパティがハッしながらマイク越しの声を張り上げた。

 

 

『し…試合終了ーー!!!! 勝者、凶鳥の眷属(フッケバイン・ファミリー)サイファー!!!!』

 

 

チャパティがそう宣言した瞬間、会場中が歓声に包まれた。

 

 

「なんだよ降参かよー!」

「剣が折れたくれーで諦めてんじゃねーぞ!」

 

 

歓声の中にはシグナムに対するブーイングも混じっていたが、シグナムは特に気にする事無く踵を翻してチームメイトの待つ控え室等へと歩いて行ったのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「……………」

 

 

「おかえりサイ姉!」

 

 

試合終了後……自身のチームがいる控え室等へと戻ってきて、アルナージに明るく迎えられるサイファーだが、その表情はどこか不満気であった。

 

 

「どうした? 勝ったってのにずいぶん浮かねェ顔じゃねーか」

 

 

「……当たり前だ。奴は私の剣を完全に見切っていた。それに結局私は奴に一太刀も浴びせていない……こんな勝ち方で納得出来る訳がないだろ。そして、これを見ろ」

 

 

ヴェイロンの問い掛けに対してそう答えながら、サイファーは着ていた上着を脱いで自身の肩をの部分を見せる。そこには僅かだが……シグナムの最後の一太刀によってつけられた斬りキズが刻まれていた。

 

 

「リアクトして刃も魔力も通さぬ私の体を僅かだが斬り裂いた。そんな奴は初めてだ」

 

 

サイファーは上着を着なおしながらそう言うと、口角をニィッと吊り上げて笑った。

 

 

「中々面白い奴等だ……妖精の尻尾(フェアリーテイル)

 

 

好戦的な笑みを浮かべながらサイファーがそう言い放つと、それを聞いていたフォルティスは「やれやれ」と嘆息しながら口を開いた。

 

 

「熱くなるのは構いませんが……ちゃんと仕事のことも覚えておいてくださいよ?」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「申し訳ありません、主はやて」

 

 

一方自陣のチームがいる控え室等へと戻ってきたシグナムは、チームメイト…主にはやてに対して頭を下げて謝罪していた。

 

 

「気にせんでもええよ。負けてもうたけど、おかげで今の私らの力はこの時代でも通用するってわかったし……なによりシグナムがケガもなく帰ってきてくれて一安心や」

 

 

「主はやて……ありがとうございます」

 

 

そんなシグナムに対し、はやては屈託のない笑顔でそう答える。それを聞いたシグナムは感謝の意味を込めてもう1度深く頭を下げたのであった。

 

 

「しかし…1日目がたった2ポイントか」

 

 

「スタートとしては最悪ですね」

 

 

「悪かったなっ!!!」

 

 

エリオとリインフォースが苦笑を浮かべながらそう言うと、それを聞いていた当事者のヴィータが噛み付いてきた為、2人は「まぁまぁ」と言って彼女を落ち着かせる。

 

 

すると、はやてがそんなメンバーに向かって声高々に言い放つ。

 

 

「なーにまだ1日目や!! たとえスタートダッシュで遅れても、勝負は最後までわからへん!!! 大魔闘演武はまだ始まったばっかりや!!! みんなっ!!! 気合い入れていくよー!!!!」

 

 

「「「オオッ!!!!」」」

 

 

そんなはやての言葉に、妖精Cチームのメンバーも声高らかに応えたのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

第1試合が終了してからも、その後のバトルパートも滞りなく行われた。

 

 

続く第2試合では……妖精の尻尾(フェアリーテイル)Aからルーシィが選ばれ、その対戦相手には大鴉の尻尾(レイヴンテイル)のフレア・コロナが選ばれた。

 

ルーシィは修行の成果である星霊2体同時召喚を駆使して、髪の魔法を操るフレアと互角の戦いを繰り広げる。しかしその試合の途中で、フレアは観客席にいたアスカを気づかれない所で人質にしてルーシィを脅迫。

 

それによって手も足も出す事ができなくなってしまい、一方的に攻撃を受けるルーシィ。だがそんなルーシィの異変に気づいたナツがアスカを救出したのだった。

 

人質がいなくなって心置きなく戦う事が出来るようになったルーシィは、奥の手である最強魔法『ウラノ・メトリア』を発動させようとした。

 

だがしかし……大鴉の尻尾(レイヴンテイル)のオーブラによる外部からの援護によって魔力を打ち消されてしまい、魔法は不発に終わってしまった。もちろんそれは反則行為なのだが、審判を含めてそれに気がつくものなどいなかったのである。

 

そしてそのまま魔力が尽きてしまったルーシィは敗北したのであった。

 

 

 

 

 

第3試合は青い天馬(ブルーペガサス)のレン・アカツキと、人魚の鱗(マーメイドヒール)のアラーニャ・ウェブによる対戦。

 

試合の途中で婚約者であるシェリーの事をイジられて動揺し、劣勢に追いやられたレンだが……シェリーの前でカッコ悪い姿を見せられないと奮闘し、最終的に勝利を収めたのであった。

 

 

 

 

 

第4試合は剣咬の虎(セイバートゥース)のオルガ・ナナギアと四つ首の猟犬(クワトロケルベロス)のウォークライの対戦。

 

試合開始早々にウォークライが得意魔法である〝涙魔法〟を発動させたが、それが真価を発揮するよりも早く、オルガの放った黒い雷が一瞬でウォークライを撃破したのだった。

 

 

 

 

 

最後の第5試合は蛇姫の鱗(ラミアスケイル)からは聖十の称号を持つジュラ・ネェキス……そして妖精の尻尾(フェアリーテイル)Bからはなんと……ミストガンに扮したジェラールが選ばれたのであった。

 

ギルドの人間ではないが、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の為に戦える事に喜びを感じたジェラールはジュラを相手に奮闘した。

 

ミストガンの魔法と自身の天体魔法を駆使しながらジュラと凄まじい戦いを繰り広げるジェラール。そしてジェラールは確実に勝つ為に、天体魔法を越える魔法〝真・天体魔法〟を使おうとした。

 

だがその瞬間……その魔法によってジェラールの正体がバレると危惧したウルティアとメルディの〝感覚連結(リンク)〟による妨害に遭い、1人で苦しみながら敗北すると言う……なんとも情けない結果に終わったのであった。

 

 

そして全ての試合が終了し、試合結果と総合順位は以下のようになった。

 

 

 

 

 

―バトルパート結果―

シグナム(×)vsサイファー(○)

ルーシィ(×)vsフレア(○)

レン(○)vsアラーニャ(×)

オルガ(○)vsウォークライ(×)

ミストガン(×)vsジュラ(○)

 

 

―総合結果―

剣咬の虎:20ポイント

大鴉の尻尾:19ポイント

凶鳥の眷属:18ポイント

蛇姫の鱗:17ポイント

青い天馬:16ポイント

人魚の踵:5ポイント

四つ首の猟犬:4ポイント

妖精の尻尾C:2ポイント

妖精の尻尾B:1ポイント

妖精の尻尾A:0ポイント

 

 

 

 

 

大魔闘演武1日目は、妖精の尻尾(フェアリーテイル)にとっては最悪の出だしであった。

 

 

だがこの時……もっと最悪の事件が動き出していた。

 

 

彼らがそれを知るのは……もう少し未来(さき)の話である。

 

 

 

 

 

つづく


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