LYRICAL TAIL   作:ZEROⅡ

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今回は3話連続投稿です。例のごとく1時間置きに更新されます。


今回から正式に章が大魔闘演武編に変わります。


感想お待ちしております。


大魔闘演武編
花咲く都・クロッカス


 

 

 

 

フィオーレ王国首都……花咲く都・クロッカス。

 

 

年に1度の魔導士たちの祭〝大魔闘演武〟が開催される町であり、すでに町は魔導士や観客で溢れ返っていた。

 

 

町の中央にはフィオーレ王国の居城…華灯宮メルクリアス。

 

 

そして西の山には大魔闘演武の会場…ドムス・フラウ。

 

 

そして町中には……ぐてーっと辛そうに倒れているナツたち妖精の尻尾(フェアリーテイル)の姿があったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第171話

『花咲く都・クロッカス』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オ…オイ……まだ調子悪ィぞ……」

 

 

「あの第二魔法源(セカンドオリジン)を目覚めさせるとかいう魔法……本当に大丈夫だったのかしら?」

 

 

「でも魔力は上がってる気がする。まだ体の節々が痛むけど……」

 

 

ウルティアの時のアークでもう1つの魔力の器である第二魔法源(セカンドオリジン)を使えるようになる魔法をかけてもらったナツたちだが、その代償として想像を絶する痛みを伴った。そしてその痛みを乗り越えた今でも、体の調子が戻らずにいた。

 

 

「まったく情けないぞお前たち」

 

 

「何でエルザは平気なの~」

 

 

「きっと元から第二魔法源(セカンドオリジン)があったんだよ」

 

 

「ありうる……エルザさんだしね」

 

 

そんなメンバーの中でただ1人平気な顔をしているエルザに、グレイやティアナたちは軽く戦慄していた。

 

 

「それにしても、こんなデケー街初めて来たな」

 

 

「あい」

 

 

「私とキャロちゃんもです」

 

 

「うん」

 

 

「エドラスの城下より大きいわね」

 

 

初めて訪れるクロッカスの大きな街並みを、物珍しそうに眺めるナツたち。

 

 

「やっと来たかお前たち」

 

 

「マスター」

 

 

そこへ、一足先にクロッカスへと来ていたマカロフが率いる妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーたちがやって来た。

 

 

「参加手続きは済ませてきたぞ。かはははっ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の力見せてくれるわい」

 

 

アルザックたちの娘であるアスカを肩に乗せながら意気揚々とそう言い放つマカロフ。すると……

 

 

「おい! 妖精の尻尾(フェアリーテイル)だって」

「あいつらが?」

「万年最下位の弱小ギルド」

「ぷくく」

 

 

近くの人ごみから、彼らをあざ笑うような声が聞こえてきた。

 

 

「誰だ今笑ったの!!!」

 

 

「やめなさいナツ」

 

 

それを聞いて憤慨するナツを、ティアナが抑える。

 

 

「どーせ今年も最下位だろ?」

「優勝は剣咬の虎(セイバートゥース)で決まりさー」

「「あははははっ!」」

 

 

バカにしたように笑いながらそう言ってくる者たちの言葉を聞いて、ナツは「ぬうう……!!!」と悔しそうに唸る。

 

 

「笑いたい奴には笑わせておけ。よいか? 3千万ジュ…コホン──フィオーレ一のギルドを目指す為、全力を出すんじゃ。このままではワシらの命を救ってくれた初代(メイビス)に顔向けできん!!!!」

 

 

そんなマカロフの言葉に対し……ナツたちは当然と言うように笑ったのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

ここで大魔闘演武に出場する妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーを紹介しておこう。

 

 

大魔闘演武は格ギルドが〝7人〟の代表を選出して競い合うものである。

 

 

先日…合宿から戻ったナツたちは、マカロフが選出した7人に選ばれたのだ。その7人と言うのが……

 

 

ナツ・ドラグニル

ティアナ・ランスター

グレイ・フルバスター

エルザ・スカーレット

ルーシィ・ハートフィリア

ウェンディ・マーベル

キャロ・ル・ルシエ

 

 

以上の7人である。

 

 

上記のナツ~エルザの選出は当然と言えるが……ルーシィとウェンディとキャロが選ばれた事には、本人たちも驚いていた。

 

 

『えー!?』

 

 

『無理ですよ、ラクサスさんやガジルさんもいるでしょ?』

 

 

『なのはさんやフェイトさんたちだっているじゃないですか!』

 

 

『だってまだ帰って来ないんだもん』

 

 

『マスターは個々の力よりチーム力で判断したんだ。選ばれたからには全力でやろう』

 

 

『うん、そだね』

 

 

『わかりました』

 

 

『がんばらなきゃ』

 

 

『ガチで挑むならギルダーツとラクサスとクロノ……なのはやミラジェーンが欲しかったなぁ……と思ったり』

 

 

『『口に出してんぞ!!!!』』

 

 

このようなやり取りが行われたりしたが、何はともあれ参加メンバーは以上の7人に決まったのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「さて…競技は明日からの訳だが……いかんせん内容がわからんのう」

 

 

「競技は毎年変わるんだよ」

 

 

「私たちの出なかった年に射的があったりとかね」

 

 

「オレの出なかった年に競争だぜ」

 

 

「いくつかの競技の総得点で優勝が決まるんだけど」

 

 

「私とユーノで一応過去の記録読んだけど…」

 

 

「毎年の競技には一貫性がないんだ」

 

 

7年後メンバーの体験談やレビィとユーノの調べによると、大魔闘演武の競技は毎年違っていて予測すらできないらしい。

 

 

「ま! でたトコ勝負って訳か、バトルだったらいいな~!!」

 

 

「アンタはそればっかりね」

 

 

「(謎の魔力に謎の競技…か)」

 

 

ナツはやる気満々といったように手のひらに拳を打ち付け、そんなナツにティアナは呆れ、エルザは競技とジェラールたちの言っていた謎の魔力の関係性を考えていた。

 

 

「エルザ、明日までに公式ルールブックを読んでおけい」

 

 

「こ…これを読めと?」

 

 

そう言ってマカロフに渡されたのはかなり分厚いルールブックであり、とても明日までに読みきれるとは思えないページ数であった。

 

 

「それなら大丈夫だよ。みんながここに来る前に、僕が一通り読んでルールを覚えておいたから」

 

 

「さすがユーノ!!」

 

 

しかしすでにルールの内容はユーノが記憶しており、それを聞いたルーシィが猫なで声で感心の声を上げた。

 

 

「重要なルールは大きく分けて3つ……1つ目は各ギルドのマスターは参加できない事」

 

 

「ま…そうじゃろうな」

 

 

「2つ目はギルドの紋章をつけていない者を客人としてさせない事」

 

 

「ま…それも当然だな」

 

 

「3つ目は各競技は競技開始直前まで秘匿とし、各競技のルールもそこで説明される」

 

 

「本当にでたトコ勝負なのね」

 

 

「で、これは最後にあった注意書きなんだけど……『参加者は指定された宿に12時までに帰る事』」

 

 

「12時?」

 

 

「いつの?」

 

 

「今はもうとっくにお昼の12時を過ぎてるから……たぶん夜中の12時でしょ」

 

 

「ガラスの靴を履いたお姫様みてーだな」

 

 

「まだたっぷり時間があるじゃねーか!! 」

 

 

ユーノが説明した最後の注意書きを聞いて首を傾げるメンバーたちだが、今の時間は午後の1時を過ぎたあたりで、指定された時間にはまだまだ余裕があった。

 

 

「せっかくこんなにでけー街来たんだ!! 探検するぞー!!」

 

 

「あいさー!!」

 

 

「あ、待ちなさいよナツ!!」

 

 

なのでナツはハッピーとティアナを連れて街の探索へと駆け出していったのであった。

 

 

「おい!! 宿の場所はわかっているのか!?」

 

 

「ハニーボーンですよね!? ちゃんと12までには帰ってきますからー!」

 

 

「あい!」

 

 

エルザの声にティアナとハッピーがそう答えながら、3人は街の中へと消えていった。

 

 

「12時…指定された宿……?」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

そして妖精の尻尾(フェアリーテイル)が指定された宿屋……ハニーボーンのエルザたちの部屋。

 

 

「ここが私たちの部屋か」

 

 

誰よりも早く部屋へとやって来たエルザは、さっそく部屋の中に怪しいものがないか探し始めた。

 

 

クローゼットやカーテンの内側を調べ……風呂場で入浴し……ベッドの下やシーツの中を調べ……剣を磨いたり……棚の引き出しや装飾のツボの中まで調べたりしたが、何も出てこなかった。

 

 

「うーん、特に怪しいところはないようだが」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

その頃……ナツやティアナたちと同じく、ルーシィとユーノの2人はクロッカスの観光をしていた。

 

 

「大きくてキレイな街ね~」

 

 

「そうだね。花咲く都の名の通り、花で溢れかえってる」

 

 

クロッカスの観光案内図を片手に、キレイな花で彩られた街並みを見回しながら歩くルーシィとユーノ。

 

 

「この街にはフィオーレ王国の王様が住んでるお城があるんだって!」

 

 

「華灯宮メルクリアスだね。あとで行ってみようか」

 

 

そしてそんな会話をしながら街を歩いていると……

 

 

「きゃっ!?」

 

 

「ルーシィ!?」

 

 

会話に夢中で前を見ていなかったルーシィが、前から歩いてきた人物とぶつかってしまい、その場で尻餅をついてしまった。

 

 

「あら~ごめんなさい、大丈夫?」

 

 

「うん…ごめんなさい、前を見てなくて……」

 

 

「んーん、気にしないで。私もお花に見惚れて前を見てなかったから。立てる?」

 

 

「あ、うん」

 

 

そう言って尻餅をついてしまったルーシィに手を差し伸べたのは、彼女とぶつかった人物であり……長いピンク色の髪に花のついたカチューシャを身に着け、ピンクを基調とした服を着た少女であった。

 

そして少女が差し出した手に借りて起き上がるルーシィ。その際に、少女が掴んだルーシィの手の甲に刻まれたギルドの紋章を見て一瞬目を細めたが……ルーシィもユーノもその事に気づくことはなかった。

 

 

「本当にごめんなさい……」

 

 

「ちゃんと前を見ないとね、ルーシィ」

 

 

「いいのよ、さっきも言った通り前を見てなかったのは私もなんだからお互い様。 私は気にしてないから、あなたも気にしなくていいのよ~♪」

 

 

少女の手を借りて起き上がったルーシィを叱咤するユーノだが、それを少女本人が優しくウィンクをしながらそう言ってくれたため、ユーノもそれ以上言わないようにした。

 

 

「それじゃあまたね(・・・)……カップルさん♪」

 

 

「んなっ!!?」

 

 

「!!?」

 

 

そして少女はルーシィとユーノの横を通り過ぎる際に、茶目っ気たっぷりの笑顔でそう言い放ち……2人が顔を真っ赤にして驚いている間にヒラヒラと手を振りながら人ごみの中へと消えていった。

 

 

「あ…あははは……カ…カップルだって……あたしたちってそういう風に見えるのかなぁ?」

 

 

「さ…さあ……」

 

 

「「あはははは……」」

 

 

少女が立ち去ったあとユーノとルーシィは互いに顔を赤くしたままギクシャクとした笑顔を浮かべ……2人はそのまま再び観光へと戻ったのであった。

 

 

そしてそんな2人が歩いて行った方向とは逆方向……つまり先ほどの少女が歩いて行った先では……

 

 

「キリエーーー!!!」

 

 

「あら? アミタじゃない」

 

 

先ほどのピンク髪の少女の前に、長くて赤い髪を後ろで三つ編みにして、頭にはカチューシャをつけた少女が駆け寄ってきた。

 

 

「まったく、フラフラとどこかに行かないでくださいよ。お姉ちゃん探しましたよ」

 

 

「あはは、ゴメンゴメン。この街のお花がとってもキレイで見惚れちゃって~」

 

 

「本当にキリエは花が好きですね」

 

 

「まあ…花とは別にもう1つ面白そうなギルドも見つけちゃったけどね♪」

 

 

「? よくわかりませんが、もう宿に戻らないといけませんよ? ギルドのみんなが待ってますから」

 

 

「えぇ~…もうちょっと観光したいのに~」

 

 

「ダメです!! カグラさんもカンカンですよ?」

 

 

「マジんこで?」

 

 

「マジんこです!!」

 

 

「んー…仕方ないわねぇ。カグラちゃんってば怒ると怖いもの」

 

 

「では、帰りますよキリエ!!」

 

 

「はぁ~い」

 

 

そんな会話をして2人の少女……アミタとキリエは、共に自分たちのギルドの仲間が待つ宿へと帰っていったのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

一方……ナツたちとは違い、1人で街の観光をしているグレイ。日はほとんど傾いていて、街は夕暮れに染まっていた。すると……

 

 

「グレイ様~~♡」

 

 

「ジュビア……何でお前が」

 

 

「ジュビアだけじゃありません。ギルドのみんなが応援に来てますよ」

 

 

海合宿から一旦ギルドに戻った際に別れたハズのジュビアが、グレイのもとへとやって来た。

 

 

「あの…よかったらお食事でも……ふ…ふ…ふ…ふた…ふたり……で……」

 

 

「そういやハラ減ってきたな」

 

 

ジュビアの誘いに対して、グレイは特に深く考えずに了承しようとするが……

 

 

「それならいいレストランがこの街にある」

 

 

「リオン!!!!」

 

 

「はうっ!!!!」

 

 

先日ジュビアに一目惚れしたリオンがいつの間にか2人の間に割って入ってきていた。

 

 

「水族館と一体になっていてな、中々洒落たレストランだ」

 

 

「あれ…? ちょ…これ……」

 

 

「テメェ!!!! ウチのモン勝手に連れてくな!!!!」

 

 

「ちょっとリオン君!!! いきなり失礼でしょ!!!!」

 

 

ジュビアの肩に手を回して彼女を連れ去ろうとするリオンを、グレイが怒鳴り、リオンと一緒に来ていたギンガが叱咤する。

 

 

「大魔闘演武に出るんだってな、グレイ」

 

 

「あ?」

 

 

「ま…優勝するのはオレたち蛇姫の鱗(ラミアスケイル)だがな。去年まではオレやギンガやジュラさんが参加していなかったにも関わらず〝2位〟だった。この意味わかるよな」

 

 

「こっちにはエルザっていうバケモンがいるのを忘れてんじゃねーだろうな」

 

 

そう言ってお互いに顔を突き出して睨み合うグレイとリオン。

 

 

「1つ賭けをしよう。蛇姫の鱗(ラミアスケイル)が優勝した暁には、ジュビアをオレたちのギルドが貰う」

 

 

「ええーっ!!?」

 

 

「なんじゃそりゃー!?」

 

 

リオンのそんな提案に、ギンガとグレイは思わず大声を上げて驚愕する。

 

 

「何言ってるのよリオン君!!! そんな賭け認められないわよ!!!」

 

 

「安心しろギンガ……オレは絶対に負けん。勝ってジュビアを手に入れてみせる」

 

 

「私はむしろそっちの方が安心できない!!!」

 

 

自分の気持ちをまったく理解していないリオンに全力でツッコミを入れるギンガ。

 

 

「オ…オレたちが勝ったら?」

 

 

「ジュビアをお前たちに返そう」

 

 

「元々オレたちのギルドだよ!!!!」

 

 

「男と男の約束だ。忘れるなよグレイ」

 

 

「賭けになってねーだろーが!! ふざけんなっ!!!」

 

 

「負けるのが怖いのか?」

 

 

「なんだと…?」

 

 

自分たちにとってまったくメリットのない賭けに断ろうとしたグレイだが、リオンの挑発的な言葉に眉をひそめる。

 

 

「ああ…ああああ……グレイ様!! ジュビアをとるかリオン様をとるかハッキリしてください!!!!」

 

 

「お前ぜんぜん話見えてねーだろ」

 

 

2人の男の間ですっかりと混乱してしまったジュビアは訳の分からない事を口走っており、そんな彼女に呆れるグレイ。

 

すると……

 

 

「パパ見ーーっけ♪」

 

 

「うおっ!!?」

 

 

「ヴィヴィオちゃん!!?」

 

 

そんなグレイの背後からヴィヴィオが勢いよく飛び付き、彼女の思わぬ登場にグレイとジュビアは驚く。

 

 

「お前、修行から戻って来てたのか!?」

 

 

「うん! ママとノーヴェも戻ってきてるよ。ノーヴェは元ナンバーズのみんなのところに行っちゃって、ママはどっか行っちゃったけど」

 

 

「そうか……つーか暑苦しいから離れろよ」

 

 

「えー…久しぶりのパパ成分をもっと摂取したいのに」

 

 

「どんな成分だそりゃ。あとパパ言うな」

 

 

グレイとヴィヴィオがそんな会話をしていると……その2人の関係を知らないリオンがグレイに問い掛けた。

 

 

「グレイがパパだと? おいグレイ…どう言う事だ?」

 

 

「あ? あー…説明すんのがめんどくせぇな……おいヴィヴィオ、お前もうあっち行ってろ」

 

 

「えーっ!? なんでー!?」

 

 

「お前がいると色々と面倒なんだよ。いいからもうあっち行っとけ」

 

 

「むっ」

 

 

グレイの言い方が癇に障ったのか…ムスッとした表情で片頬を膨らませるヴィヴィオ。するとそんなヴィヴィオの視界に……リオンとジュビアの姿が目に入る。

 

 

「……ふ~ん」

 

 

そしてそれを見た瞬間……頭のいいヴィヴィオは今この場の状況を全て察して、ムスッとした表情から子悪魔のような笑みを浮かべた。

 

 

「はーい、わかったよ。じゃあヴィヴィオは街の観光に行ってくるね」

 

 

「おう」

 

 

そう言ってグレイの背中から離れるヴィヴィオ。それを見て安心したように軽く息を吐くグレイだが……

 

 

 

 

 

「それじゃあまた後でね!! グレイパパと────ジュビアママ♪」

 

 

 

 

 

ヴィヴィオが去り際に笑顔でそう言い放った瞬間……その場の空気がビキィッと音を立てて凍ったのであった。

 

 

そして……

 

 

「どぉおいう事だグレーーーーイ!!!!!」

 

 

「だーーーっ!!!! またクソめんどくせえ事にーーーっ!!!!!」

 

 

「リ…リオン君落ち着いて!!!!」

 

 

「ジュ…ジュビアが……マ…マママママ……!!!!!」

 

 

一気にとんでもない修羅場と化した場を見て、ヴィヴィオは「にゃはは♪」と笑いながらその場を離れていったのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

そして日が落ちて街がすっかり夜に染まった頃……ウェンディとキャロとシャルルの3人は、観光として巨大なお城の前へとやって来ていた。

 

 

「キャロちゃん、シャルル、あれ見て!!」

 

 

「すごい!!」

 

 

「大きなお城だね!!」

 

 

「花灯宮メルクリアスって言うんだって」

 

 

「王様ってどんな人かしらね」

 

 

「おヒゲじゃないかなぁ」

 

 

「おヒゲかもね」

 

 

「おヒゲだよきっと」

 

 

そんな会話をしながら、フィオーレ国王の居城…メルクリアスを見上げるウェンディたち3人。

 

 

「キヒヒ」

 

 

そんな3人を……小さな悪魔のような姿をした黒い動物が、不気味な笑い声を上げながら見据えていたのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「クロッカスって、あちこちに花が備え付けられてるのね」

 

 

「花咲く都とはよく言ったものだね」

 

 

その頃、クロッカスの街を観光して回っているナツとティアナとハッピーの3人。時間も時間なので、そろそろ宿に戻ろうかと思ったその時……

 

 

「ケンカだー!!」

 

 

「お?」

 

 

突然近くの広場からそんな声が聞こえてきて、それを耳にしたナツが何故か嬉しそうな表情を浮かべる。

 

 

「祭にケンカはつきものか!? どれ!」

 

 

「フィオーレ中のギルドが集まってるんだもんね」

 

 

「あ、こらナツ!! まったく……」

 

 

そう言ってナツはハッピーを連れてケンカが行われている広場へと一目散に駆け出し、そんなナツに呆れながらティアナもあとを追った。

 

 

そしてナツが向かった広場には大勢の野次馬が集まっており、その中心には……

 

 

「まだやるかい?」

 

 

「お話になりませんねーハイ」

 

 

「フローもそーもう」

 

 

このケンカ騒ぎの元凶と思われるスティングとローグ…そして彼らの相棒であるレクターとフロッシュが立っていた。

 

 

「あいつら、剣咬の虎(セイバートゥース)の双竜!」

「スティングとローグだっ!!」

「最強のギルドの一角だぜ!!」

 

 

「セイバートゥースだぁ?」

 

 

そんな野次馬の声を聞きながら人ごみを掻い潜って彼らの前へと現れるナツ。

 

 

「! アンタは…」

 

 

「ナツ・ドラグニル!!」

 

 

「!?」

 

 

ナツの姿を見た途端、驚いたような表情を浮かべるスティングとローグ。

 

 

「ネコ!!?」

 

 

「「!?」」

 

 

「なんですかあのマヌケな顔したネコは」

 

 

「マヌケ」

 

 

「しゃべったああ~~~!」

 

 

「……言っとくけど、私はツッこまないわよ」

 

 

そしてレクターとフロッシュの姿を見て過剰に驚いているハッピーに対し、冷ややかな視線でそう言い放つティアナ。

 

 

「ははっ!! 大魔闘演武に出るって噂…本当だったのか」

 

 

「オレの事知ってんのか?」

 

 

「アクノロギア……(ドラゴン)を倒せなかった滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)でしょ? それって滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の意味あんの?」

 

 

「ア?」

 

 

まるで見下すようにそう言ってくるスティングの言葉に、眉をひそめるナツ。

 

 

「これでも昔はアンタに憧れてたんだぜ。ちなみにコイツはガジルさん」

 

 

「同じ滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)として気になっていただけだ」

 

 

滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)!!? お前ら2人とも?」

 

 

「〝真〟の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)って言ってくんねーかな? オレたちならアクノロギアを倒せるよ?」

 

 

「実物を見た事もないくせに、ずいぶんと大きな口を叩くじゃない」

 

 

自信満々にそう言い放つスティングに対し、ティアナがそう言い返す。

 

 

「見たかどうかは関係ない」

 

 

「要は滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)としての資質の差」

 

 

「私が説明しましょう」

 

 

するとスティングとローグに代わってレクターが、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)について語り始める。

 

 

「ナツ君などは(ドラゴン)から滅竜魔法を授かった、いわゆる〝第一世代〟と言われています」

 

 

その第一世代に当てはまるのは、ナツやウェンディはもちろん…ガジルやエリオもこれに分類される。

 

 

「おたくのラクサス君や六魔将軍(オラシオンセイス)のコブラ君は竜の魔水晶(ラクリマ)を体に埋め込み、滅竜魔法を使う〝第二世代〟」

 

 

レクターが上げた2人以外にも、無限の欲望(アンリミテッドデザイア)のインヴェルノも第二世代に当てはまる。

 

 

「そしてスティング君とローグ君はあなたのように本物の(ドラゴン)を親に持ちつつ、竜の魔水晶(ラクリマ)を体に埋めたハイブリットな〝第三世代〟!! 最強の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)!!!」

 

 

「第三世代!? お前たちも777年に(ドラゴン)がいなくなったのか!?」

 

 

「ま……ある意味では……」

 

 

「ハッキリ言ってやる」

 

 

意味深にそう言うスティングとは違い、ローグは包み隠さず驚くべき事を彼らに告げた。

 

 

 

「オレたちに滅竜魔法を教えた(ドラゴン)は自らの手で始末した。真の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)となる為に」

 

 

 

(ドラゴン)を…殺した……!?」

 

 

「人間が……(ドラゴン)を……」

 

 

「親を……殺したのか」

 

 

自分たちの親となる(ドラゴン)を自分たちで殺したというローグの言葉に……ティアナとハッピーは驚愕し……ナツは親を殺したという彼らに憤慨の表情を浮かべたのであった。

 

 

「ま…本戦で戦う事があったら見せてやるさ、本物の(ドラゴン)を倒した力って奴を」

 

 

「行くぞ。旧世代には何の興味もない」

 

 

「時代遅れの滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)はつれてるネコもビンボーくさいですね」

 

 

「フローもそーもう」

 

 

そしてスティングたちは最後にそう言い残して、その場から立ち去っていった。そんな彼らを……ナツとハッピーは「ぬぬぬぬぬ…!!!」と唸りながら、悔しそうな顔で睨みつけていたのであった。

 

 

 

 

 

そんなナツたちの視線を意にも介さず、野次馬を押しのけながら自分たちの宿へと向かって歩みを進めているスティングたち4人。そして目の前の曲がり角を曲がったその時……

 

 

「相変わらずだね……スティング」

 

 

「「「「!?」」」」

 

 

角を曲がった先で、壁にもたれ掛かりながら4人を待っていたのは……なんとヴィヴィオであった。

 

 

「お前……ヴィヴィオ」

 

 

「ヴィヴィオさん?」

 

 

「スティングもレクターも久しぶりだね。最後に会ったのは1年くらい前かな?」

 

 

「知り合いか? スティング」

 

 

「ああ…まぁな。行こうぜ」

 

 

ローグの問い掛けにスティングはどこか歯切れが悪そうに答えながら、彼女の横を通り過ぎようとする。

 

 

「言っとくが、お前がいるギルドだからって手加減はしねえからな」

 

 

「いらないよ。する気もないくせに……それにそんな事してなくても、妖精の尻尾(フェアリーテイル)は負けないから」

 

 

「へっ…最強は剣咬の虎(セイバートゥース)だって事を思い知らせてやるさ。あの時(・・・)の事を後悔しても遅えからな」

 

 

「べーっだ」

 

 

その際にそんな短い会話が繰り広げられたが、2人は何事もなかったかのようにすれ違い……少し遅れてローグたちもスティングを追った。

 

 

「おいスティング、何だったんだあの女は?」

 

 

「お前が気にする程の奴でもねーよ」

 

 

「いやー久しぶりに会いましたが、ヴィヴィオさんもキレイになってましたねーハイ」

 

 

「フローもそーもう」

 

 

そんな会話をしながら去っていくスティングたちの背中を見送りながら……ヴィヴィオは小さく嘆息する。

 

 

「ホント……変わったんだか変わってないんだか……」

 

 

遠くなっていくスティングの背中を見つめながら……小さくそう呟くヴィヴィオ。

 

 

「さてと…私もパパたちの宿に戻ろーっと」

 

 

そして何事もなかったかのようにそう言うと、スティングたちの向かった方とは逆の方向に歩き始めたのであった。

 

 

 

 

 

つづく


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