LYRICAL TAIL   作:ZEROⅡ

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3話目。まだありますよ。


雷鳴響く

 

 

 

 

 

 

「空……荒れてきたわね」

 

 

「雷……やだね」

 

 

ゴロゴロと雷鳴が鳴り響く荒々しい空を見上げながらそう呟くルーシィとレビィ。その傍らでは、リリーが怯えるように自身の両耳を押さえていた。

 

 

「どうしたのリリー」

 

 

「まさかアンタ、雷が苦手なの?」

 

 

「(ドキッ!!)」

 

 

「かわいいトコあるんだね」

 

 

「ぷっ」

 

 

「う……うるさい!!」

 

 

「さてと」

 

 

エクシード3人がそんな会話をしていると、ナツがゆっくりと腰を上げながら口を開く。

 

 

「ハデスを倒しに行くぞ、ティア、ルーシィ、ハッピー」

 

 

「ええっ」

 

 

「あいさー!!」

 

 

「あ…あたし?」

 

 

ティアナやハッピーはともかく、自分の名前まで呼ばれるとは思わなかったルーシィは目を丸くする。

 

 

「同じチームでしょ!」

 

 

「わかってるけど、フリードやフェイトとかの方が……」

 

 

「オレはここで術式を書かねばならん」

 

 

「私も負傷したみんなが心配だから……」

 

 

「守りはオレたちに任せとけ」

 

 

そう言って守りのチームを自ら引き受ける雷神衆とフェイトの3人。

 

 

「私もナツさんたちと行きます」

 

 

「ちょっとウェンディ」

 

 

「ナツさんのサポートくらいできると思うし」

 

 

「オ…オレも行く。ガジルの仇をとってやらねばな」

 

 

「私はフリードの術式を手伝う為に残る」

 

 

「私もミラ姉とエルフ兄ちゃんの側にいるね」

 

 

「私も行きたいけど……みんなが心配だから残るよ」

 

 

「私も残って、ここでみんなを守ります」

 

 

「アタシとルールーも留守番だ。ガジルの側にいてやりてーしな」

 

 

「うん」

 

 

ウェンディ、シャルル、リリーはナツたちと共に攻めのチームへ……そしてレビィ、リサーナ、スバル、キャロ、アギト、ルーテシアは守りのチームへと分かれた。

 

 

「これで決まりだな」

 

 

「みんなの事は必ず守る」

 

 

「だから心置きなく戦ってきて」

 

 

「ルーちゃん、気をつけてね」

 

 

「ティアも頑張ってね、私たちの分まで」

 

 

「だいぶ魔力が回復してきた」

 

 

「残る敵はたぶんハデスのみ」

 

 

「最後の戦いになりそうですね」

 

 

「必ず勝つわよ」

 

 

「オイラたちだって頑張るぞ!」

 

 

「わかってるわよ」

 

 

「エクシード隊、出撃だ」

 

 

「行くぞ!!!!」

 

 

「「「おう!!!!」」」

 

 

各々がそう言葉を口にし…ナツの号令と共に全員が拳を突き出し合い、彼が率いる攻めのチームはキャンプから飛び出して、グリモアの戦艦へと駆け出していったのであった。

 

 

「ティア! ちょっと待って!」

 

 

「!」

 

 

するとリサーナが、駆け出そうとしていたティアナを呼び止める。

 

 

「これからもずっとナツの側にいてあげて」

 

 

「え?」

 

 

「信頼してる仲間が近くにいる時、ナツはもっと強くなる」

 

 

「……わかってるわよ。何年あいつと一緒にいると思ってるの」

 

 

「あはは、それもそうだね。ティア……ナツをお願いね」

 

 

「もちろんよ」

 

 

そう言うと2人は互いに約束するように頷き合うと、今度こそティアナはキャンプを後にして、先に行ったナツたちを追いかけて行ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第159話

『雷鳴響く』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま ち な さ い !!!」

 

 

「ひいーーー!!! 何コイツー!!!」

 

 

その頃森の中では……恐ろしい形相でカサカサと地面を這うジュビアと、そんな彼女から必死で逃げているゼレフを背負ったメルディの姿があった。

 

 

「ゼレフを渡して!!」

 

 

「さっきまで愛だの何だの言ってたくせに!」

 

 

「アナタとは争いたくないの!」

 

 

「………!!!」

 

 

ジュビアのその言葉に何も返せず、声を詰まらせるメルディ。すると……

 

 

「メルディー!!!」

 

 

「ザンクロウ!!?」

 

 

彼女の行く手に、ナツに敗れたのちに復活したザンクロウが立ち塞がった。

 

 

「ゼレフをどこに連れてくつもりだってよォ!?」

 

 

「こ…これは」

 

 

「やっぱりテメェ、ウルティアさんと一緒に裏切るつもりだったのか! ア?」

 

 

「ちが…」

 

 

「テメェはもう悪魔の心臓(グリモアハート)じゃねえぇ!!!!」

 

 

「うああああ!!!!」

 

 

「あぁっ!!」

 

 

動揺するメルディに対してザンクロウは黒炎を放ち、彼女の後ろにたジュビアもろとも吹き飛ばす。

 

 

「ウヒヒヒヒッ! ゼレフはオレたちのものだってよォ!! ウヒヒヒヒヒ!!」

 

 

そう言って笑いながらメルディが手放したゼレフの体を掴み上げるザンクロウ。そんな彼に対し、メルディは縋るように手を伸ばす。

 

 

「待って…ゼレフはウルティアの未来……私の…未来……」

 

 

「めでてぇ奴だな、いつまでそんな事言ってやがるって」

 

 

「ウルティアは約束した……大魔法世界に行けば…私の街が元通りになるって……」

 

 

「その街を壊したのがウルティアさんだけどな」

 

 

「!!!?」

 

 

そんなメルディに向かってザンクロウが残酷な真実を告げた瞬間……メルディは大きく目を見開いて呆然とする。

 

 

「ウソ…だ」

 

 

「ウハハハハハハハハハッ!!!!」

 

 

涙を流し、否定の言葉を口にするメルディの声を掻き消すように、ザンクロウの高笑いが森に響き渡る。

 

 

だがその時……

 

 

 

「アクノロギア」

 

 

 

気を失っていたゼレフの口から、ポツリとそんな言葉が発せられた。

 

 

「ア?」

 

 

それを聞いたザンクロウは訝しげな表情で自身が掴んでいるゼレフへと視線を向ける。

 

 

すると……そんなザンクロウの視線と目を覚ましたゼレフの視線が交差した。

 

 

「え?」

 

 

ドッ…ゴォォォオオオオオ!!!!

 

 

その瞬間……ゼレフの瞳が妖しく光ると同時に、彼の体から黒い波動が放たれ、凄まじい衝撃が周囲に広がったのであった。

 

 

そして黒い波動が消えると、ザンクロウの体がドサリと音を立てて力なくその場に倒れる。そんなザンクロウの顔に……すでに生気は失われていた。

 

 

「……ごめん…名も知らぬ男……」

 

 

瞳から妖しい光が消えたゼレフは、自分が命を奪ってしまったザンクロウに謝罪の言葉を口にすると、自らの手で彼の目を閉じさせる。

 

 

「また……1つの闇を背負ってしまったのですね」

 

 

「……ユーリ」

 

 

するとそんなゼレフのもとに、悲しげな表情を浮かべたユーリが現れる。そんな彼女の足元には、力無く地面に倒れ伏すジュビアとメルディの姿もあった。

 

 

「気休めにもならないかもしれませんが、彼女たちの命は無事です」

 

 

「そう…よかった」

 

 

どうやらジュビアとメルディは先ほどのゼレフの波動によって命は奪われず、ただ単に気を失っただけのようである。それをユーリから知らされたゼレフは僅かに安堵する。

 

 

「僕はね、この時代において何かをするつもりはない。誰の味方にもならないし、誰の敵にもならない。だけどね──今1つの時代が終わるのならば、僕は再び動き出すかもしれない。その前に壊して欲しかったんだ……ナツ」

 

 

「……行きましょう、ゼレフ」

 

 

そう言葉を口にしながら、その場を歩き去っていくゼレフとユーリ。そんな彼らの様子を……木陰に潜んでいたドランバルトが伺っており、先ほどゼレフが口にした単語に驚愕していた。

 

 

「(さっき奴が口にした言葉…アクノロギア…だと!?)」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

一方その頃……ウルティアとの戦いに勝利したグレイは、その足でグリモアの戦艦へと向かっていた。

 

 

「(くそ……目がかすむ……)」

 

 

しかし先程の戦いで、捨て身の戦法により自分が切り付けた腹部のキズが思ったより深く…出血多量によりその足取りは重かった。

 

 

「(もう…ダメか……)」

 

 

そしてとうとう力尽きて意識を手放しそうになったその時……

 

 

ガシッ!

ガシッ!

 

 

「!?」

 

 

倒れそうになったグレイの体を、エルザとエリオの2人がしっかりと支えたのであった。

 

 

「エルザ…エリオ…リニス…」

 

 

「大丈夫か?」

 

 

「しっかりしてください」

 

 

そう言って自分の体を支えてくれる仲間に対し、グレイはポツリと口を開く。

 

 

「オレは、いつも誰かに助けられてばかりだな」

 

 

「当然じゃないですか」

 

 

「そんなの僕も同じですよ」

 

 

「ああ、私も同じだ」

 

 

「!」

 

 

そう言って別の場所へと視線を向ける3人を見て、グレイもその視線を追った。するとそこには……

 

 

「みんな……」

 

 

「グレイ!!」

 

 

「エルザさん!!」

 

 

「エリオ君!!」

 

 

「リニス!!」

 

 

ナツを筆頭にした仲間たちの姿があった。

 

 

「オレも同じだ」

 

 

そしてそう言って笑顔を浮かべるナツに対し、グレイも釣られて笑みを浮かべたのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「まさか七眷属にナンバーズにシーズン、ブルーノートまでやられるとは。ここは素直にマカロフの兵を褒めておこうか」

 

 

島の東の沖に止められたグリモアの戦艦……その戦艦の甲板には1人静かにたたずむ悪魔の心臓(グリモアハート)のギルドマスター…ハデスの姿があった。

 

 

「やれやれ、この私が兵隊の相手をする事になろうとはな。悪魔と無限と妖精の戯れもこれにて終劇。どれどれ、少し遊んでやろうか」

 

 

そう言って戦艦の甲板から見下ろすハデスの視線の先には……

 

 

 

「三代目妖精の尻尾(フェアリーテイル)

 

 

 

ナツ・グレイ・ティアナ・ルーシィ・エルザ・エリオ・ウェンディの7人に……ハッピー・シャルル・リリー・リニスのエクシード4人の姿があった。

 

 

「来るがよい、マカロフの子らよ」

 

 

ハデスはそう言い放つよ、踵を翻して戦艦の中へと戻って行った。

 

 

「だーーーっ!!! テメェが下りて来い!!!」

 

 

「偉そうに」

 

 

「何様のつもりかしら」

 

 

「奴がマスターを」

 

 

「あの人をこらしめてやれば、この島からみんな出てってくれるよね」

 

 

「もちろんさ!!」

 

 

「全員追い出してやるんだから!!」

 

 

ハデスの態度に憤慨しながらも、戦う決意を固める一同。

 

 

「ハッピーたちに頼みがある」

 

 

「なーに?」

 

 

「この船を探って、動力源みてーのを壊してくれ」

 

 

「そうね、万が一動き出したら戦いどころじゃなくなるわね。ナツが」

 

 

「わかったわ」

 

 

「そういう事なら任せておけ」

 

 

「やってみせます」

 

 

ナツの頼みを快く承諾するエクシードの4人。

 

 

「そろそろ始めようか。行くぞ!!!!」

 

 

「「「おう!!!」」」

 

 

そう言ってグレイが船の甲板へと続く氷の階段を造り出し、その階段を意気揚々と駆け上がっていくナツたち7人。

 

 

「オイラたちも出発!!」

 

 

「船底から侵入しよう」

 

 

「行きましょう」

 

 

そしてハッピーたちも、ナツたちとは別ルートで船へと侵入していった。

 

 

「あいつはマスターをも凌駕するほどの魔導士、開戦と同時に全力を出すんだ!!」

 

 

「はい!!!」

 

 

「わかりました!!!」

 

 

「持てる力の全てをぶつけてやる!!!!」

 

 

「後先の事なんて考えてられない!!!!」

 

 

「絶対に勝ってみせる!!!!」

 

 

「やっとあいつを殴れんだ!!!! 燃えてきたぞ!!!!」

 

 

それぞれ最終決戦への意気込みを口にしながら階段を駆け上がっていく。

 

 

「ハデスーーーーー!!!!」

 

 

そして……

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の力をくらいやがれぇ!!!!」

 

 

船に突入すると同時に、ナツがハデスに向かって灼熱の炎を発射した。そしてそれが…開戦の合図となった。

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の…力?」

 

 

ナツが放った炎を片手で難なく払うハデス。だがその炎が消えるとそこには、すでに眼前へと迫っていたグレイとエルザとエリオの姿があった。

 

 

「!」

 

 

「黒羽・月閃!!!!!」

 

 

「雷竜槍・轟断!!!!!」

 

 

氷聖剣(コールドエクスカリバー)!!!!!」

 

 

黒羽の鎧を纏ったエルザの一閃と…エリオのストラーダによる落雷のような一撃…そしてグレイの氷の大剣による凍える一太刀がハデスを襲った。

 

さらにその3人の後方には……双銃と金色の鍵をそれぞれ構えたティアナとルーシィが控えていた。

 

 

「クロスファイアー!!! フルバースト!!!!」

 

 

まずティアナが放った無数の魔力弾が全てハデスに向かって降り注ぐ。

 

 

「開け!! 金牛宮の扉!!! タウロス!!!!」

 

 

「んMO-!」

 

 

そして追い討ちをかけるように、ルーシィが召喚したタウロスが巨大な斧をハデスへと振り下ろす。

 

 

「全員の魔法に攻撃力・防御力・スピードを付加(エンチャント)、アームズ×アーマー×バーニア!!!!」

 

 

さらにウェンディの補助魔法により、全ての能力が強化されたグレイとエルザとエリオの3人が、それぞれの武器を手にハデスへと攻撃を仕掛ける。だがその攻撃は全てハデスに見切られ、かわされてしまう。

 

 

「ちょこまかと……」

 

 

「うっ!!」

 

 

するとハデスは魔力の鎖を出現させ、それでエルザの首を捕らえる。

 

 

「フン」

 

 

「うあっ!」

 

 

「がっ!」

 

 

「ぐっ!」

 

 

そしてそのままエルザの体を振り回し、グレイとエリオへとエルザを叩きつける。

 

 

「!」

 

 

だがその瞬間……空高く跳躍したナツとティアナがハデスへと飛び掛り……

 

 

「火竜の翼撃!!!!!」

 

 

「クロス・スライサー!!!!!」

 

 

「ぐおお!!」

 

 

ナツの炎を纏った両腕による攻撃と、ティアナの刃を纏ったクロスミラージュによる×字の剣閃がハデスを襲った。

 

 

「ぬっ!」

 

 

「んが!」

 

 

すると、ハデスが再び放った魔力の鎖がナツの後頭部を捕らえる。そしてそのままナツの体を振り回し、叩きつけようとするが……その瞬間、エルザの剣が魔力の鎖を切断した。

 

 

「ナツ!!」

 

 

「おう!!!」

 

 

それにより空中に投げ出されたナツに向かって、グレイが駆け出す。そしてグレイが造り出した氷のハンマーに着地すると……

 

 

「行っ…けェ!!!!」

 

 

そのままハデスに向かって思いっきり打ち上げた。

 

 

「天竜の咆哮!!!!」

 

 

「雷竜の放電!!!!」

 

 

「スコーピオン!!!!」

 

 

そんなナツの後方から、ウェンディは竜巻のブレス…エリオは雷撃…ルーシィは召喚したスコーピオンによる砂嵐を放った。

 

 

そして3人の放った竜巻と雷撃と砂嵐は空中で交差して混ざり合い……1つの魔法となった。

 

 

合体魔法(ユニゾンレイド)!!!?」

 

 

それを見たハデスが驚愕している間に、体に炎を纏ったナツが3人の合体魔法の力を受け、螺旋回転しながらさらに勢いよくハデスへと向かっていく。

 

そして……

 

 

 

「火竜の劍角!!!!」

 

 

 

炎と雷を纏ったナツの体当たりが……ハデスの胸部に直撃した。

 

 

「ぐおぉぉぉおお!!!!」

 

 

それを受けたハデスは大きく吹き飛ばされ……後方の壁に勢いよく激突したのであった。

 

 

7人の力を合わせて行った怒涛の全力攻撃に、確かな手応えを感じたナツたち。

 

 

しかし……

 

 

「人は己の過ちを〝経験〟などと語る」

 

 

「「「!!?」」」

 

 

立ち込める煙幕の中から響いてくるハデスの静かな声……それを聞いた一同にゾクリと悪寒が走る。

 

 

「しかし本当の過ちには経験など残らぬ。私と相対するという過ちを犯したうぬらに、未来などないのだからのう」

 

 

そして煙幕の向こうから現れたのは……纏っていたマントが吹き飛んだだけで、本体にはまったくダメージを負った様子のないハデスであった。

 

 

「そんな…」

 

 

「ウソだ……」

 

 

「まったく効いてないの…」

 

 

「オイ……こっちは全力出してんだぞ」

 

 

「魔力の質が変わった」

 

 

先ほどの全力攻撃の応酬を持ってしても、ハデスにキズ1つつける事すら叶わなかったと言う事実に愕然とするナツたち。

 

 

「さて、準備運動はこのくらいでよいかな?」

 

 

そう言って圧倒的な魔力と威圧感を放ってくるハデスに、ナツたちはその身を震わせる。そして……

 

 

 

「渇ッ!!!!!!」

 

 

 

ハデスが放ったその場の空気を震わせるほどの大きな一喝。

 

 

それを放った瞬間……パァァンっと音を立てて、ウェンディの体が衣服を残して跡形もなく消滅した。

 

 

「「ウェンディーーー!!!!!」」

 

 

ナツとエリオの叫びが響き、全員が愕然とした表情を浮かべる中……消えたウェンディが纏っていた衣服だけがパサリと地面に落ちる。

 

 

「ウェンディが……」

 

 

「消え…た……」

 

 

「何をしやがった……」

 

 

「ウソだろっ!!!!」

 

 

「そんな…ウェンディ……ウェンディが……」

 

 

目の前でウェンディが消滅したという事実に呆然としながら狼狽する一同。するとその時……

 

 

「『みなさん落ち着いてください』」

 

 

「「「!」」」

 

 

突然天井からそんな声が聞こえてきた。そして一同が聞こえてきた天井へと視線を向けるとそこには……

 

 

「『私は無事です』……と申しております」

 

 

「ホロロギウム!!」

 

 

ルーシィの星霊である時計座のホロロギウムが天井に張り付いていた。

 

 

「って事は…もしかしてウェンディは君の中に?」

 

 

「はい」

 

 

「よかった……」

 

 

「ふう」

 

 

エリオの問いに答えたホロロギウムの言葉で、ウェンディが無事だと知って安堵するナツたち。

 

 

「自動危険察知モードが発動されました」

 

 

「あの……あたしも結構危険がいっぱいだった気がするんですけど」

 

 

「今回は危険のレベルが違いました、申し訳ありません。『ありがとうございます、ホロロギウムさん』と申しております」

 

 

「相変わらずややこしい星霊ね……」

 

 

ルーシィに謝罪しつつ中にいるウェンディの言葉を代弁するホロロギウムに苦笑するティアナ。

 

 

「てか、何で服だけ落ちてんだ?」

 

 

「緊急事態でしたので、ご本人のみをお守りしました」

 

 

「え……って事は、その中にいるウェンディはもしかして……」

 

 

「『キャーーー!!! エリオ君のバカーーー!!!!』と申しております。さ! 早くお召し物を」

 

 

エリオの疑問にそんな反応を示すのを見る限り、つまりはそういう事なのだろう。

 

 

「とにかく助かった、礼を言う」

 

 

「私が守れるのはこの1回限りです。みなさんくれぐれも気をつけてください」

 

 

そう言い残して、ホロロギウムはポンッと音を立てて星霊界へと帰っていった。

 

 

そして同時に……新しい服へと着替えたウェンディが再びナツたちと並び立ったのであった。

 

 

「これがマカロフの子らか。やはり面白い」

 

 

「お前、じっちゃんと知り合いなのか!?」

 

 

そんなナツたちを見てそう呟いたハデスの言葉に反応して、そう問い掛けるナツ。

 

 

「何だ、知らされてないのか? 今のギルドの書庫にすら私の記録は存在せんのかね」

 

 

「!」

 

 

「私はかつて、二代目妖精の尻尾(フェアリーテイル)のマスター…プレヒトと名乗っていた」

 

 

「「「!!?」」」

 

 

「ウソつけ!!!」

 

 

目の前に存在する敵であるハデスが、自分たちのギルドのマスターだった事を聞かされて一同は驚愕し、ナツは真っ向から否定する。

 

 

「私がマカロフを三代目ギルドマスターに指名したのだ」

 

 

「そんなのありえるか!!! ふざけた事言ってんじゃねえぞ!!!!」

 

 

そう叫びながら殴り掛かろうとするナツに対し、ハデスはナツの周囲に黒い魔法陣を展開する。

 

 

ドゴォォオオン!!!

 

 

「ぐぉわっ!!!!」

 

 

「ナツ!!!」

 

 

そして次の瞬間…その魔法陣が爆発を起こし、ナツを吹き飛ばす。

 

 

「フン」

 

 

「うああっ!!」

 

 

「きゃああ!!」

 

 

「ぐああっ!!」

 

 

続けてハデスの放った魔法がさらに爆発を起こし、今度はグレイとウェンディとエリオを吹き飛ばす。

 

 

ジャリン!!

 

 

「ああん」

 

 

「うぐっ」

 

 

「しまっ…」

 

 

そして今度は魔力の鎖を放ち、ティアナとルーシィとエルザの捕らえて3人を1つに纏めて拘束する。

 

 

ドゴォォオ!!!

 

 

「きゃああ!!」

 

 

「うあああ!!」

 

 

「ああああ!!」

 

 

そのまま拘束していた鎖を爆発させ、3人まとめて吹き飛ばす。

 

 

そんなハデスに向かって、立ち上がったナツが再び駆け出すが……

 

 

「パァン」

 

 

「がはっ!!」

 

 

ハデスが指鉄砲のように放った魔法弾が、ナツの肩膝を貫いた。

 

 

「パン、パン、パン」

 

 

「がはっ!!」

 

 

「ぐああっ!!」

 

 

「うああああ!!」

 

 

さらにハデスが続けて放った魔法弾は、グレイの腹部やエリオの足…ウェンディの腕などに直撃していった。

 

 

「フハハハハ!!!! 私は魔法と踊る!!!!」

 

 

そう言ってハデスは魔法を放ち続け……一方的にナツたちを蹂躙していったのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

その頃…ナツたちとは別ルートでグリモアの船の中へと潜入し、船の動力源を探し回っているハッピーたちエクシード4人。

 

 

「オイ!!! この船の防音設備はどうなってんだ!!! 全然雷の音聞こえるぞ!!!」

 

 

「はいはい」

 

 

「大丈夫だよ、落ちたりしないから」

 

 

「まったく、相変わらず雷には臆病なんですから」

 

 

「次!! こっち行ってみよう」

 

 

「おいてくわよリリー」

 

 

「早くしてください」

 

 

「ぬう…」

 

 

そう言って雷に怯えるリリーを連れて、さらに船の探索を続けたのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

一方、海上に浮かぶ評議院の船では……

 

 

「アクノロギア? ゼレフが本当にそう言ったのか?」

 

 

「すまねえ……動く事すらできなかった」

 

 

「そんな事はいい。本当にゼレフがアクノロギアと……」

 

 

船へと戻ってきたドランバルトの報告を聞き、その報告に出てきたアクノロギアという言葉に恐怖するように震え始めるラハール。だが震えているのはラハールだけでなく、船員やドランバルト自身も一緒であった。

 

 

「て…撤退!!!! 全部隊撤退っ!!!! 天狼島の調査をこれにて打ち切る!!!!」

 

 

そしてラハールは全員にそう指示を出して、大急ぎで撤退準備を始めたのであった。

 

 

「(もうどうしようもないな……これで終わりだ──すまなかった)」

 

 

ドランバルトは天狼島を見据え、島に残る妖精の尻尾(フェアリーテイル)の面々へと謝罪の言葉を送ったのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

ハデスとナツたちの戦いの場……そこにはすでにナツたち7人がハデスの手によって倒され、力無く倒れている姿があった。

 

 

「妖精には尻尾があるのかないのか? 永遠の謎、ゆえに永遠の冒険。ギルドの名の由来はそんな感じであったかな」

 

 

「うう……」

 

 

「しかしうぬらの旅はもうすぐ終わる」

 

 

「むぐっ」

 

 

そう言って倒れているナツの頭を踏みつけるハデス。

 

 

「メイビスの意思が私に託され、私の意志がマカロフに託された。しかしそれこそが間違いであった。マカロフはギルドを変えた」

 

 

「変えて何が悪い!!!!」

 

 

「魔法を陽の光に当てすぎた」

 

 

「それがオレたちの妖精の尻尾(フェアリーテイル)だ!!!! テメェみてぇ死んだまま生きてんじゃねえ!!!! 命かけてんだコノヤロウ!!!! 変わる勇気がねえならそこで止まってやがれ!!!!」

 

 

ナツはボロボロになりながらもハデスに踏みつけられている頭を上げ、力強くそう言い放つ。

 

 

「やかましい小鬼よ」

 

 

ズドンッ!!!

 

 

「がっ!!」

 

 

だがそれに対しハデスは、ナツの片足を魔法弾で容赦なく撃ち抜く。

 

 

「ナツ……」

 

 

「あ…あああ……!!!」

 

 

「恨むならマカロフを恨め」

 

 

そしてハデスはさらに追い討ちをかけるように、ナツの体に何度も何度も魔法弾を撃ち込んでいく。

 

 

「やめ…」

 

 

「ナツ……」

 

 

「マカロフのせいで、うぬは苦しみながら死ぬのだ」

 

 

「よせぇっ!!!!」

 

 

「ナツ…さん……!!!」

 

 

「うえ……ひっ…ひっく……」

 

 

だがそれでもナツの目から闘志は消えず……変わらずハデスを睨みつける。

 

 

「ハァー…ハァー…お前は…じっちゃんの……仇…だ…」

 

 

「もうよい。消えよ」

 

 

そんなナツに向かって、さらに大きめの魔法弾を放とうと、その手に魔力を集束するハデス。

 

 

「やめてぇーーーー!!!!」

 

 

ティアナの口から放たれた悲痛な叫びがその場に響き渡る。

 

 

そしてハデスの手から魔法弾が放たれようとしたその時………

 

 

 

 

 

スドォォォォォォオオオオ!!!!!

 

 

 

 

 

空から轟いた強大な落雷が……ナツとハデスの間に割り込むように落ちてきた。

 

 

「!!!」

 

 

ハデスを含めて誰もが愕然とする中……落ちてきた雷が放つ雷光の中から、1人の青年の声が聞こえてきた。

 

 

 

「こいつがじじいの仇か──ナツ」

 

 

 

そしてその青年の姿を見たナツは……驚愕と安堵の入り混じった声で、その青年の名を呟いた。

 

 

 

「……ラクサス」

 

 

 

その青年の名はラクサス……三代目ギルドマスター・マカロフの孫であり、かつてはギルド最強候補と名高かった男である。

 

 

小僧(・・)?」

 

 

ハデスはそんなラクサスの顔に、若かりし頃のマカロフの顔を重ね、驚愕したようにそう呟く。

 

 

そして……

 

 

「ぬごっ!!!!」

 

 

ラクサスは挨拶代わりとして雷撃を乗せた頭突きを、ハデスに叩き込んだのであった。

 

 

 

 

 

つづく


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