LYRICAL TAIL   作:ZEROⅡ

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意外と長くなったので、キリのいいところで2話に分けました。1時間後に2話目が投稿されます。

感想お待ちしております。


〝和〟の強さ

 

 

 

 

 

ギルダーツやクロノ、フェイトや雷神衆が駆けつけた事により戦況は一気に妖精の尻尾(フェアリーテイル)側へと向いたと思われた。

 

しかし七眷属の1人であるアズマの魔法…大樹のアークにより、天狼島の中心部にそびえ立ち、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士に命の加護を与える巨大樹……天狼樹が倒されてしまう。

 

それにより天狼島に存在する妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士は与えられていた加護が消え、さらには魔力を奪い続けられるという絶体絶命の状況に陥ってしまった。

 

唯一そのピンチを救えるのは……アズマの意向により魔力を奪われず、彼と対峙しているエルザだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第154話

『〝和〟の強さ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぜこんな事をする」

 

 

「マスターハデスの命令だ。無限の欲望(アンリミテッドデザイア)と共に、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士を1人残らず消せとの事だね」

 

 

「違う。なぜ私だけ動ける状況を作ったのだ」

 

 

「言っただろう、オレは本気になったお前と戦ってみたい。それだけだね」

 

 

「その言葉に偽りがないのなら、貴様が敗北した暁には皆の力を元に戻してもらうぞ」

 

 

「約束しよう。オレも本来こんなやり方は好きではない。勝てたら……の話だがね」

 

 

「仲間の命がかかっている。必ず……勝つ!!!!」

 

 

そう言い放つと同時に、エルザは換装で双剣を両手に握り……強く1歩を踏み出してアズマへと飛び掛る。

 

 

「天輪・繚乱の剣(ブルーメンブラット)!!!!」

 

 

ズドドドドドドド!!!

 

 

「!」

 

 

そして天輪の鎧へと換装し、すれ違い様に無数の剣をアズマへと突き立てるが、それらは全てアズマの操る樹でガードされてしまう。

 

 

葉の剣(フォリウムシーカ)!!!!」

 

 

「くっ」

 

 

反撃としてアズマは無数の木の葉を手裏剣のように放ち、エルザはそれらを両手の剣で弾いて防御する。しかしあまりの数の多さに、顔をしかめるエルザ

 

 

枝の剣(ラームスシーカ)!!!!」

 

 

「かっ!!」

 

 

そこへアズマが放つ無数の木の枝による手裏剣が加わり、ついに防ぎきれずに攻撃を喰らうエルザ。

 

 

ドゴッ!!!

 

 

「あぐっ!!!」

 

 

さらにアズマはエルザの足場の木の一部を操り、拳へと変えてエルザを殴り飛ばす。

 

 

「フン」

 

 

「つっ!!」

 

 

追い討ちと言わんばかりにアズマは爆弾へと変えた木の実を放つが、エルザは間一髪でそれを回避する。

 

 

「換装!! 飛翔の鎧!!!」

 

 

「ぐほぉ!!!」

 

 

そして自身の速度を上げる飛翔の鎧へと換装し、その目にも止まらぬ速さでアズマに接近し、双剣で彼の体を斬り付けた。

 

そこからさらに切り返し、再びアズマへと駆けて行くエルザ。

 

 

「はっ!!」

 

 

「!!!」

 

 

ガキィィィイイイン!!!!

 

 

それに対しアズマは樹を操り自身の体に纏わせて、エルザの剣を弾き返した。

 

 

ガシッ!!!

 

 

「なっ!!?」

 

 

その瞬間、樹の中を伝って現れたアズマに両足を掴まれ、そのまま持ち上げられるエルザ。

 

 

「タワーバースト!!!!」

 

 

「うあああああああああっ!!!!」

 

 

アズマを中心に凄まじい大爆発が巻き起こり、巨大な爆炎と炎の塔がエルザを飲み込み、エルザはそのまま地面に倒れる。

 

 

「(この男…なんて魔力なんだ…本当に強い!! 妖精の鎧も煉獄の鎧も破損中……どうする!?)」

 

 

キズついた体を起こしながら、アズマにどう太刀打ちするかを考え込むエルザ。

 

 

「(そういえば先週、誘惑の鎧というものを買ったな)」

 

 

するとエルザの頭に浮かんだのは、その名の通り相手を誘惑するようなセクシーな鎧のこと。

 

 

「きゃ……却下する!! ルーシィじゃあるまいし」

 

 

「一人言かね」

 

 

そんな1人コントのような事があったが、エルザはすぐに思考を切り替えて真剣に考える。

 

 

「(さて…どうしたものか……こいつの魔力を上回るには、全魔力を相手に集めねばならんな。防具に魔力を使うわけにはいかない)」

 

 

そしてエルザの頭に、1つの答えが導き出された。

 

 

「(すまわち防具は不用。〝剣〟に全魔力を集中させる)」

 

 

「!」

 

 

するとエルザは鎧ではなく、何の魔力もないサラシと袴をその身に纏う。

 

 

「(防具を捨てねば握る事さえできぬ剣……)」

 

 

そしてそんなエルザの手に握られている、一振りの刀。

 

 

「いでよ、妖刀……紅桜!!!!」

 

 

不気味なほどに赤い魔力を帯びた刀を握り締め、エルザはアズマへと向かって駆けて行く。

 

 

「(私の敗北はギルドの敗北、私が最後の砦。負けられない!! ギルドの為に……この一撃に全てを……)」

 

 

「来い!!! 妖精女王(ティターニア)!!!!」

 

 

「オオオオオオオオオッ!!!!」

 

 

アズマが操る樹を斬り裂きながら、ただまっすぐに駆け出していくエルザ。しかし……

 

 

ギュルルルル!!

 

 

「何!?」

 

 

エルザが斬り裂いた樹がアズマの魔法によってさらに枝分かれし、エルザの体に巻きつく。

 

 

「うおおおおお!!!」

 

 

「うぐっ…ぬああああああ!!!」

 

 

そのまま完全に身を拘束され、勢いが止まってしまった。

 

 

「大地に眠りし〝天狼〟の魔力を解放する!!」

 

 

そしてアズマは拘束したエルザに対して、最強の魔法を発動する。

 

 

 

大地の叫び(テラ・クラマーレ)!!!!!」

 

 

 

「うあぁぁああああああああ!!!!」

 

 

今までにないとてつもない大爆発をその身に浴びてしまったエルザは吹き飛ばされて強く地面に叩きつけられ……そのまま意識を手放してしまったのであった。

 

 

妖精女王(ティターニア)、敗れたり」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

一方その頃……評議院にある罪人を閉じ込めている牢獄。その牢獄の1つには……とある青年が幽閉されていた。

 

 

「エルザ…」

 

 

その青年の名はジェラール。

 

ゼレフの亡霊に憑りつかれ、かつて評議院を破壊した大罪人。記憶喪失によってその時の記憶は失われているが、自身の罪を償う為に現在は幽閉されている。

 

 

「………」

 

 

「ん? 何か言いましたか? ジークレイン様」

 

 

ポツリと何かを小さく呟いたジェラールに、見張りをしているカエル顔の看守が問い掛けると、そこへもう1人のカエル顔の看守がやって来る。

 

 

「バカ!! こいつぁジェラールだ! 評議員だったジークレインの正体なんだよ!」

 

 

「昔のクセでつい……」

 

 

「こいつぁオレたちの評議院を破壊した! 信用を地の底にまで落としてくれた大悪党だ!」

 

 

看守がそう怒鳴っている間にも、ジェラールは牢の中でブツブツと何かを呟いている。

 

 

「オ…オイ……何か呪文を唱えてんじゃないのか?」

 

 

「魔封石で出来た牢の中じゃ、あらゆる魔法は使えやしねーよ。試してみるか?」

 

 

「な…何を?」

 

 

そう言うと看守は牢の外から杖を入れ、それをジェラールへと向ける。そして……

 

 

ビギギギギギ!!

 

 

「うぐ! うぐぐ!!」

 

 

なんと牢の中にいるジェラールに向かって魔法を放ったのだ。

 

 

「ホレ見ろ、あのジェラールが何もできん」

 

 

「や…やめろって……ナダル」

 

 

「ううう…ぐうう……!!!」

 

 

看守…ナダルの暴行をもう1人の看守が止めるが、ナダルは構わずジェラールに魔法を放ち続ける。

 

するとその時……

 

 

「何をしているのかしら?」

 

 

「「!!?」」

 

 

後ろから聞こえてきた女性の声に2人はビクリと肩を震わせて、そっとその人物へと視線を向ける。

 

 

「「リ…リンディ様!!?」」

 

 

そこに立っていたのは新生評議員の1人である女性……リンディ・ハラオウンであった。

 

 

「ど…どうしてここに?」

 

 

「牢の警備体制のチェックを兼ねた見回りよ」

 

 

ナダルの問いに対してそう答えると、リンディは「それより…」と言って看守2人を睨む。

 

 

「あなたたちはただの見張り……暴徒の鎮静以外の目的で、罪人に対して魔法を使用する事は許可されてないハズよ」

 

 

「こ…これは…その……!!」

 

 

「えっと…あの……!!」

 

 

ナダルと看守が言いよどんでいると、リンディはギンっと鋭い目で2人を睨んだ。

 

 

「「ひいっ!!!」」

 

 

「言い訳があるなら……聞きましょうか?」

 

 

リンディの目に完全に怯えている2人はブンブンと首を横に振る。

 

 

「ならすぐに出て行きなさい。見張りは他の者にやらせます。あなたたち2人の処分は後日言い渡します。いいですね?」

 

 

「は…はい!! 失礼しましたーー!!!」

 

 

「だからやめろって言ったのに~!!!」

 

 

そう言ってリンディから慌てて逃げるようにその場から走り去っていく2人。それを見送ったリンディは、小さく嘆息しながら牢の中のジェラールに視線を向ける。

 

 

「ジェラール君、大丈夫かしら?」

 

 

「……………」

 

 

リンディは床に倒れているジェラールにそう声をかけるが、ジェラールは変わらず何かを呟いている。

 

 

「?」

 

 

リンディは疑問符を浮かべながら耳を澄ませ、その言葉を聞き取ろうとする。そして……

 

 

 

「……エルザ……負ける…な…エルザ……」

 

 

 

ジェラールの口から聞こえてきたその言葉に、リンディは驚愕したのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

場所は戻り…天狼島。

 

 

《エルザ……》

 

 

「(ジェラール!!?)」

 

 

突然頭に響いたジェラールの声に、気を失っていたエルザは意識を取り戻した。

 

 

「ぐはっ!! ゲホッゲホッ!!」

 

 

「!?」

 

 

「う……く……」

 

 

「バ…バカな、天狼島の膨大な魔力をぶつけたんだぞ」

 

 

まさかエルザが起き上がるとは思わなかったアズマは、驚愕して目を見張る。

 

 

「(ジェラールの声が……した? そんなハズはない!!! 甘えるな、流されるな、あいつはもういない。思い出に寄り添うな、意識を保て……)」

 

 

自分にそう言い聞かせながら、ゆっくりと立ち上がるエルザ。

 

 

「(私はみんなを守る為に、立ち上がるんだ!!!!)」

 

 

そして再び紅桜を構え…闘志の篭った目でアズマへと斬りかかったのであった。

 

 

そこからエルザの剣とアズマの操る樹が幾度となくぶつかり合い、互いに1歩も譲らない激しい攻防戦が始まった。

 

 

「(恐ろしい……)」

 

 

エルザとの激しい攻防戦の中、内心でそう呟くアズマ。だがその顔には、笑みが浮かんでいた。

 

 

「(恐ろしくて、胸が弾むね)」

 

 

「ぐっ…はぁっ!!」

 

 

そして再び樹でエルザの体を拘束するアズマ。

 

 

「お前の名は生涯……忘れる事はないだろう」

 

 

「くそっ!」

 

 

樹の拘束から逃れようとするエルザの脳裏には……ジェラールとの思い出が浮かんでいた。

 

 

『エルザ・スカーレットって名前にしよう』

 

 

『お前の髪の色だ、これなら絶対に忘れない』

 

 

『お前の髪の色だった』

 

 

ただのエルザだった自分にスカーレットの名を与え……記憶を失っても尚、その名の意味を思い出してくれたジェラール。

 

 

「動け!! 動けぇええええええ!!!!」

 

 

そんな彼との思い出を胸に、より一層力を込めるエルザ。だがそれでも……樹の拘束は解けなかった。

 

 

「これで終わりだァ!!! もう一度、天狼島の魔力を喰らうがいい!!!!」

 

 

そして……

 

 

大地の叫び(テラ・クラマーレ)!!!!!」

 

 

「うああああああああ!!!」

 

 

エルザは再び、天狼島の全魔力を使った大爆発に飲み込まれたのであった。

 

 

「(ここまで……か……)」

 

 

爆発の中でエルザが諦めかけたその時……

 

 

《諦めんのか?》

 

 

そんな声が、エルザの耳に響いた。

 

 

「(ジェ……)」

 

 

そしてその声を聞いて目を開くエルザ。そんな彼女の目に飛び込んできたのは……

 

 

《エルザ》

 

 

ジェラールではなく……ナツの姿であった。

 

 

いや……ナツだけではない。

 

 

「みんな……」

 

 

ティアナ…ルーシィ…カナ…ハッピー…ウェンディ…シャルル…キャロ…現在この天狼島にいる妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士全員の姿があった。

 

 

「(そうか……そういう事か……すまない……私としたことが、肝心な事を忘れていたようだな)」

 

 

幻とはいえ、彼らの姿を見たエルザの目にもう1度闘志が宿る。

 

 

「うおおおおおおおおおお!!!!」

 

 

そして雄叫びを上げながら、爆発の中から姿を現す。

 

 

「な……こ…これは……」

 

 

それを見たアズマは愕然とする。

 

 

何故なら……今のエルザの後ろには、彼女を送り出す仲間の姿が見えたのだから。

 

 

「(私がみんなを守っていたのではない。いつだって守られていたのは私の方だ)」

 

 

「(オレの支配下にあるハズの天狼島の魔力が、エルザを加護した……だと?)」

 

 

剣を構え…アズマに向かっていくエルザと、愕然と立ち尽くすアズマ。

 

 

「(信念…絆……こいつらの本当の強さは〝個〟ではなく〝和〟…なんてギルドだ)

 

 

──見事」

 

 

エルザの強さ…ギルドの強さを認めたアズマは最後にそう言って小さく笑みを浮かべた。

 

 

その直後……エルザの決死の一太刀が……アズマを斬り裂いたのであった。

 

 

 

 

 

つづく


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