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インヴェルノの口から放たれた衝撃の事実……それを聞いたユーリ・エーベルヴァインは静かに目の前に立つ2人を睨みつけながら、ゆっくりと口を開く。
「……
「オレらのギルドマスター…ジェイル・スカリエッティは長年お前を追い求めてきたんだ」
「聡明な我らのマスターが、君の事を調べていないとでも思ったのか?」
「……では、
「もちろんだ。ゼレフ書の悪魔の中でも最悪の悪魔。世界を無へと還し…その世界の在るべき姿を忘れさせる忘却を司る王。永遠の命で決して朽ちる事はなく…無限の魔力で際限なくその力を振るい…終わる事のない
「……そこまで知っていながら私を欲するとは、とんだ物好きもいたものです」
「マスタージェイルの悲願を果たすため……」
「オレらと一緒に来てもらうぜ」
そう言ってユーリを捕縛するために1歩前に足を進めるインヴェルノとエスターテ。だがしかし……
「それは出来ない相談です」
ブワァァアッ!!!
「「!!?」」
ユーリがポツリとそう呟いたその瞬間、彼女から凄まじい殺気が放たれ、その背にある赤い霧のような翼から血のように赤く、獣のように鋭い巨大な手が出現した。
「〝
「ハハッ…こいつはとんでもねーや」
ユーリから溢れる殺気とその背に出現したエンドレスの腕を見て、一筋の冷たい汗を流すインヴェルノとエスターテ。
「だがマスターの指令は絶対だ。そちらがその気なら、我々も相応の対応をさせてもらおう」
「テメェ相手なら、本気で暴れても問題なさそうだしなァ」
だがそれに対しインヴェルノは両腕に冷気を…エスターテは両手に熱気を纏いながら、それぞれ交戦態勢を取り、ユーリと相対する。
「………………」
「「………………」」
そして互いに様子を伺うように相手の姿をしっかりと見据え、3人は静かに沈黙し、雨が降り注ぐ音のみがその場を支配する。すると……
「やめておきましょう」
「「!?」」
突然ユーリがエンドレスの腕を魄翼の中へと仕舞い、その構えを解いた。それを見たインヴェルノとエスターテは目を見開く。
「私には元より戦う意思はありません。先ほどの威嚇で引いてくれればと思ったのですが…残念です」
「(……あれほどの殺気がただの威嚇…か。封印されてなお、その力は底知れぬという事か)」
全身で感じた凄まじい殺気はユーリにとってはただの威嚇らしく、それを知ったインヴェルノは内心で静かに戦慄していた。
「ここは私が引きましょう」
すると、ユーリは魄翼を左右に大きく広げ、そのまま自身を包み込むように体を覆い隠す。
「!? エスターテ!! 逃がすな!!!」
「わかってんよ!!!」
それを見たインヴェルノとエスターテはすぐさまユーリへと向かって飛び掛る。
「さよならです」
しかし2人の手がユーリに到達する直前に、彼女を包んでいた魄翼が霧散し、同時にユーリの姿も消えていた。
「くそっ!! 逃げられた!!!」
「探せっ!! この島にいる事はわかっている!!! 今度は見つけ次第に必ず捕まえろ!!!」
「おうよっ!!!」
そう言ってインヴェルノとエスターテは、逃走したユーリを探して、再び二手に分かれて島の捜索を始めたのであった。
第150話
『愛と活力の涙』
一方その頃……グレイの命を狙っている事を口にしたメルディは、それによりジュビアの逆鱗に触れてしまった。
「な…なんだコイツ、13のくせに」
「ジュ、ジュビアちゃん…顔がすごく怖いよ?」
「お……落ち着けジュビア」
恐ろしい形相で佇むジュビアを宥めようとするエルザとなのはだが、ジュビアの表情は変わらない。
「落ち着け? この女がグレイ様を狙っている。理不尽な理由で」
「いや…その…」
「確かにそれは許せないけど……」
「これが、落ち着いて、られマスカ?」
そう言ってユラユラと体を揺らしながらメルディに歩み寄るジュビア。そして……
「ジュビアはこの女を許さない!!!!!」
「!!」
ドンッ!!!!
「……………!!!!」
次の瞬間にはジュビアの水による一撃で吹き飛ばされ、言葉もなく水面に叩き付けられるメルディ。
「
「くっ!」
さらに追い討ちをかけるように、螺旋を描くように上昇させた水流で攻撃するジュビア。
「ジュビア……試験で私と戦った時とはまるで別人」
「想い人…グレイへの強い気持ちが力になる……これがジュビアちゃんの本来の力……」
先ほどとは打って変わってメルディを追い詰めているジュビアを見て、愕然とするエルザとなのは。
「エルザさん、なのはさん、ここはジュビアに任せてください」
「「!」」
「早くウェンディさんとキャロさんを見つけて。そしてグレイ様も」
「了解した。なのは、今度は手分けして探すぞ」
「うん。ジュビアちゃん、任せたよ」
ジュビアの言葉を受け入れたエルザとなのはは、それぞれ二手に別れて森の中へと走っていった。
「〝4〟と〝5〟は逃がさない」
そんな2人を逃がすまいと、魔力の剣を放とうとするメルディだが……
「んあっ!」
それはジュビアの水によって阻まれてしまった。
「チッ、マギルティ=レーゼ!!!!」
「
ズガガガガガガガ!!!!
そしてメルディの放った魔力の刃と、ジュビアの放った水流の刃は空中で衝突し、周囲に凄まじい衝撃を巻き起こしたのであった。
◇◆◇◆◇◆◇
「涙がオレの
「何の
「! いや……ただの
雨に打たれながら1人そう呟いているラスティローズのもとに、アズマが現れる。
「アズマ、君にしてはずいぶんボロボロだなぁ」
「フム……
「強者? ダメダメ♪ このギルドには全然いないよ。オレの
「侮ってはいかんね、
「信念を刃に……か。まるでうちのメルディのようだな」
◇◆◇◆◇◆◇
「不思議。同じグレイという人間に対して、一方は憎み、一方は愛する。同じ人物なのに感情によって見え方が違う」
「それが自然。〝個〟たる象徴。人間という事」
「私は運がいい。グレイを殺す事を目的としてきた、そのグレイに対して強い感情を抱く人に会えた」
「どういう意味?」
「お前のグレイへの想いが、グレイを殺す。ジュビア、お前に僅かな天国と大いなる絶望を見せてやろう」
「!?」
そう言うと、メルディはジュビアに向かってゆっくりと手を差し伸べる。
「さあ……思い浮かべろ。愛しき者の姿を……」
メルディにそう言われ、ジュビアの胸がドクンっと鼓動を上げる。
「(グレイ…様)」
そして脳裏にグレイの姿が思い浮かび、頬を朱に染めた。
「それだ。感覚
「きゃああああああああ!」
その瞬間、メルディの魔法によりジュビアに電撃のような衝撃が走る。すると、ジュビアの右手首から魔力の塊のようなモノが飛び出し、それはそのまま森の向こうへと消えていった。
◇◆◇◆◇◆◇
その頃…ゼレフを運ぶウルティアの跡をこっそりと追跡しているグレイ。
「降ってきたな」
「(どこに向かってる? 本体……
木の陰からウルティアを見張りながら追跡するグレイ。
ビキィ!
するとそんなグレイの右手首に何やら衝撃が走ったかと思うと、次は体にズキリと痛みが走った。
「な……何だこの痛みは!!!?」
突然体に走った痛みに困惑しているグレイの右手首には、鎖のような模様が浮かび上がっていた。
◇◆◇◆◇◆◇
そしてその模様は、ジュビアの右手首にも浮かび上がっていた。
「
「な…何をしたの!!?」
「ジュビアとグレイの感覚を1つにした。これは対象への強い思いがなければ繋げない」
「ジュ…ジュビアとグレイ様がひ…ひ…1つにー!!!?」
「感覚がね」
そんなメルディの言葉も聞こえないほど、ジュビアは真っ赤になって舞い上がっていた。
「あわ…あわわ、あわあわ……」
『今度は何だ!!? 急に顔がほてってきた……!!!』
その興奮も、しっかりとグレイと共有していた。
「いい気分でしょ? 2人の感覚は完全に共有するの」
「て…天国のよう……も…もだえ死にそう」
「だけど……この魔法は痛みすら共有する!!!」
「ぐっ」
そう言い放つと同時に魔力の刃で、ジュビアの腕を切りつけるメルディ。
◇◆◇◆◇◆◇
「がっ!」
「!?」
「~~~~~!!!!!」
感覚の共有により、ジュビアのダメージを受けて叫びそうになったグレイだが、ウルティアに気づかれそうになり咄嗟に声を押し殺した。
◇◆◇◆◇◆◇
「お前が受けた痛みは、全てグレイも感じている」
「そんな…グレイ様を、キズつける気?」
それを聞いたジュビアは、再び恐ろしい形相でメルディを睨む。
「シェラーー!!!!」
「がはっ!」
そしてジュビアの怒りの一撃を受けるメルディ。
「(バカな…まだ魔力が上がるの!!? こんなに強かったなんて…想いが力になってる。だったら私も見せてあげる、想いの力を!)
するとメルディは、同じ魔法を自身の右手首にかける。
ドゴォォォ!!!
「うあああああああ!」
そしてその瞬間、ジュビアの水流を乗せた拳を喰らい、メルディは大きく吹き飛ばされて岩に強く叩き付けられる。
ズキィィイン!!!
「きゃあぁぁぁあああああ!!!!」
するとそんなメルディのダメージによる激しい痛みが、ジュビアの体を襲った。
「(な…なんでジュビアまで……!!?)」
◇◆◇◆◇◆◇
「ぐっ……!!!!……!!!!……!!!!」
もちろんそのダメージは、グレイにも伝わっていた。
「(ど…どうなってんだ一体……!!?)」
◇◆◇◆◇◆◇
「ハア…ハア…私はウルティアの為なら……この命などいらない。お前を中継する事で、私と標的が繋がった…私とジュビアとグレイの3人の感覚が今繋がっている。これで私たちのどちらかが死んでも、グレイは死ぬ」
そう言って、右手首に浮かんだ模様を見せるメルディ。
「これが絶望の袋小路。グレイの命の行き止まり」
「何て事を…」
メルディの予想外の荒業に、愕然とするジュビア。
「そんな事をしたらあなたまで」
「そうよ、これが私の信念。もう終わり。私たち3人は死ぬしかない」
◇◆◇◆◇◆◇
「(この痛みは何だ!!? それに〝足下が冷たい〟? 誰かの感覚が流れ込んでくる? こいつのせいか!? いつの間にやられたんだ。くそ!! こんな状況じゃ奴を見失っちまう)」
体に走る痛みと感覚、そして腕に現れた模様を見て、内心で毒づきながらもウルティアの追跡を再開するグレイ。
◇◆◇◆◇◆◇
「私とグレイが繋がった今、もはや誰とも戦う必要はない」
「!」
「自分を殺せばいい」
そう言ってメルディは、自身の首元に魔力の刃を添える。
「やめて!!!!」
「私は死など怖れない」
それを見たジュビアはすぐさま止めようと駆け寄るが間に合わない。
「(グレイ様、ごめんなさい)」
ボキィッ!!!
「んああああああ!!!」
「がはっ!」
「うっ、うう…フゥー…フゥー」
「自らの足を……!!!」
なんとジュビアは自身の左足を骨が折れるほどの勢いで殴り、その痛みの感覚の共有によってメルディの足を崩し、彼女の自殺を食い止めた。
「マギルティ=センスは〝痛覚〟を共有しても、そのキズまでは共有できない。私を止めるには殺す他ない。ただしこの魔法の特例として〝死〟だけは共有する。リンクしている者同士の命は共有している。それでもまだ抗うつもりか!! 私たち3人はもう死ぬしか道がない!」
「他にもある。3人で生きる道。敵を倒すとしても、
「甘えた事を!!! 私はウルティアの為にグレイを殺すんだーーー!!!」
「させるものか!!!! その前にお前を戦闘不能にしてやるーーー!!!」
再び自らの命を絶とうとするメルディへと向かって、左足を引きずりながらも彼女に駆け寄るジュビア。
「(私は…私は…)」
そんなメルディの脳裏には……幼い頃の記憶が走馬灯のように浮かび上がっていた。
◇◆◇◆◇◆◇
それは……何者かによって滅ぼされてしまった1つの町。その町の唯一の生き残りが、幼い頃のメルディである。
『もう大丈夫よ。泣き止んでちょうだい』
『うあーん! うあーん! うあーん!』
ウルティアにあやされながらも泣き続けるメルディ。
『何だよそのガキは』
『生き残りよ』
『だ…だだ……だったら潰しちまうっス』
『私が面倒を見るわ』
『なーに言ってんだってよ!〝ゼレフの鍵〟が眠る地の民は殲滅っていう命令だってよ?』
『昔の自分を見てるようなの。大丈夫……この子は魔道の深淵に近づけるわ』
『ウーウェ』
そしてザンクロウと華院の反対を押し切り、幼いメルディはウルティアが引き取ったのであった。
場面は変わり数年後……
『ウルは何でいつも寂しそうなの?』
『私をウルと呼ぶなと言ってるでしょ。ウルは私の母、死んだ母の名よ』
『死んだ?』
『いつか話してあげる』
そう言ってどこか遠くを見ているようなウルティアの腕に、ギュッと抱きつくメルディ。
『私のお母さんはウルティアよ』
『こんなに大きな娘はいらないわね』
そう言いながらそんなメルディに優しく微笑むウルティア。
そんなウルティアに対し……メルディは満面の笑顔で応えたのであった。
「(私は……私は……!!)」
◇◆◇◆◇◆◇
そして気がつくと……メルディはジュビアに強く抱き締められていた。
「(え?)」
「うえっ…うえっ…ひっく…ひっ」
「(何…これ…何で…!? 何で泣いてるの!?)」
あまりの事態に困惑するメルディと、彼女を抱き締めたまま泣き続けるジュビア。
するとジュビアはメルディから体を離し、彼女の両肩を持って強く口を開く。
「あなたにも笑顔がある!!!! あなたにも大切な人がいる!!!!」
「(まさか感覚を超えて、感情まで共有してしまった!!? そんな事って…)」
「生きて……ジュビアも生きる」
感覚の共有の影響で、メルディの脳裏に浮かんでいた光景と感情が、ジュビアにも流れ込んでいたのだ。そしてジュビアはまっすぐとメルディと顔を見合わせながら言い放つ。
「愛する人の為に生きてるの。あなたも同じ!!!! 愛があるなら生きなきゃダメ!!!!」
「(愛…生きる……)」
そんなジュビアの涙ながらの言葉を聞いて、愕然としながらジュビアと顔を合わせるメルディ。
「(ダメ…これ以上この女と感情を共有したら)」
頭ではそう思っていても、ジュビアから目を放せないメルディ。
そしてやがて……メルディの目から大粒の涙が溢れ出した。
(愛と活力の涙…この感情が……)
ジュビアの感情を共有したメルディは、ジュビアと共にガクリとその場に膝をつく。それと同時に、魔法が解けて腕の模様も消える。
「お前とは戦えない…」
「グレイ様は逃げも隠れもしないわ」
そして互いに戦意を喪失した2人は……その場に倒れたのであった。
◇◆◇◆◇◆◇
一方グレイの方も、腕に浮かんでいた模様が消えていた。
「(繋がっていたような感覚が消えた。腕の紋章も。涙!? くそっ!! どうなってんだ)」
自分の意思とは裏腹に流れる涙を拭うグレイ。
するとそんな彼の背後には……いつの間にかウルティアが立っていた。
「(しまった!!!)」
「私をつけていたの?」
「く……お前は……」
「もうとっくに気づいてるんでしょ? 私はあなたの師であるウルの娘、ウルティアよ」
それを聞いたグレイは、驚愕で目を見開く。
「(こいつがウルの娘…!!? ジェラールと共に評議院に内通し、
そう考えながらバツの悪そうな笑みを浮かべるグレイ。すると……
「グレイ。ずっとあなたに会いたかったのよ。安心して、私はあなたの味方だから」
そう言って優しい笑みを向けてくるウルティアを見て、グレイは再び目を大きく見開いたのであった。
果たしてウルティアの真意とは……?
つづく