LYRICAL TAIL   作:ZEROⅡ

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3話目です


メスト

 

 

 

 

 

 

ナツたちが一次試験を行っている頃……天狼島周辺海域の上空では……

 

 

「あれが天狼島よ」

 

 

「すげー形の島だな」

 

 

「ですが、島全体から強い魔力を感じますね」

 

 

「本当について来ちまってよかったのかよ」

 

 

シャルル、リリー、リニスのエクシードの3人と、リリーに抱えられているアギトの姿があった。

 

 

「いいんじゃねえの? 見学するだけだしさ」

 

 

「シャルルはウェンディとキャロが心配なんですね?」

 

 

「私はあんなに反対したのに、あのコたち……!!」

 

 

そう叫ぶシャルルを見て、リリーとリニスとアギトは「やれやれ」と言いたげに嘆息したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第140話

『メスト』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一週間前…マグノリアの街。

 

 

「オレはメスト。ミストガンの弟子だった」

 

 

「ミストガンの弟子!?」

 

 

「ミストガンさんに弟子がいたんですか!?」

 

 

自分達の恩人であるミストガンに弟子がいた事に驚愕するウェンディとキャロ。

 

 

「君たちの事はミストガンからよく聞いている」

 

 

そう言いながら、メストは突然天に向かって口を大きく開き始める。

 

 

「あ…あの、何してるんですか?」

 

 

「雪の味を知りたいのだ。気にしないでくれ」

 

 

「ゆ…雪の味?」

 

 

「何なのコイツ」

 

 

そんなメストにキャロは戸惑い、シャルルはジト目で彼を見る。

 

 

「力を貸してくれないか」

 

 

「それが人にものを頼む態度なの!!?」

 

 

空に向かって口を開きながらそう言うメストに、シャルルが憤慨する。

 

 

「すまん、どうもオレは知りたい事があると夢中になってしまうクセがあるのだ」

 

 

そう謝罪しながら雪を口に含む行為をやめ、改めてウェンディとキャロに向き直る。

 

 

「ウェンディ、キャロ、君たちの力があれば、オレはS級の世界を知る事ができる。頼む、力を貸してくれ」

 

 

「え…でも……私なんか……」

 

 

「私も……」

 

 

「ダメに決まってるじゃない!!!!」

 

 

戸惑う2人の代わりに、シャルルがバッサリとメストの申し出を断る。

 

すると、何を思ったのかメストは突然近くの川の中に入って浮かび始めた。

 

 

「知りたい。冬の川の中というものを、オレは知りたい」

 

 

「こんな変態に付き合っちゃ絶対ダメよ!!!」

 

 

「でも…悪い人じゃなさそうよ」

 

 

「それに私もウェンディちゃんも、恩人だったミストガンさんに何も恩返しできなかったし……」

 

 

「エドラスを救ったじゃない!! それで十分よ!!」

 

 

「でもそれは結果論でしょ?」

 

 

「私たちの気持ち的には……」

 

 

「ダメったらダメ!!!」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「……で、結局2人ともミストガンの代わりにメストを手助けするんだって聞かなくなっちゃって」

 

 

「それで一週間も口を聞かんとはね」

 

 

「見かけによらずガンコなのよ」

 

 

「シャルルもですよ」

 

 

「どっちもどっちだ」

 

 

「メストがどんな奴かなんて、私はどうでもいいの。この試験とかいうもの自体がすごくイヤな予感がするのよ」

 

 

「女王シャゴットと同じ、予知能力ですか?」

 

 

「断片的すぎて何とも言えないけどね」

 

 

「オレはそのメストって奴の方が気になるな」

 

 

「やはりリリーも気になりますか」

 

 

「え?」

 

 

「どういう事だよ?」

 

 

王子(ミストガン)の弟子。何か引っかかる」

 

 

そう言うとリリーとリニスは、思案顔になりながら島へと向かって行ったのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「ぶほおっ!!!!」

 

 

「「メストさん!!」」

 

 

その頃、一次試験の真っ最中であったメストはどうやら気絶していたらしく、ビクンッと体を震わせながら意識を取り戻した。そんなメストの傍には、パートナーであるウェンディとキャロが付き添っている。

 

 

「くう…まさかこいつらがこんなに強かったなんて知らなかった」

 

 

「そりゃあ強いですよ」

 

 

「だが…我が師の跡を継ぐ為、オレは負けられない!!! かかって来い!!! グレイ!! ロキ!! エリオ!!」

 

 

意気揚々と立ち上がりそう言い放つメストだが……そこにグレイたちの姿はなかった。

 

 

「……あれ?」

 

 

「あの…私たち負けちゃったみたいです」

 

 

「知らなかったーー!」

 

 

「メストさんが気を失っている間に、グレイさんたちは先へ進んじゃいました……」

 

 

ウェンディとキャロがそう言うと、メストは落胆したように息を吐く。

 

 

「はぁ~あ、今年もダメだったかぁ…」

 

 

「私が役に立たなかったから……ふえ……」

 

 

「ウェンディちゃんと一緒にがんばろォって決めたのに……うぅ……」

 

 

「いや…いいんだ。それより2人ともケガはなかったかい?」

 

 

泣き出してしまったウェンディとキャロに、メストは優しく笑いかけながらそう聞くと、2人はコクリと頷いたのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

一方…メストのチームを撃破し、先の通路へと進んだグレイチーム。

 

 

「よーし!! 一次試験突破だーー!!」

 

 

「ウェンディとキャロには、少し悪い事しちゃいましたけどね」

 

 

「ナツとなのは、それにはやてやフリード辺りが一次で落選してたら、先は気が楽なのにね。いや…カナも手強いかな」

 

 

「バカ言うな!! S級魔導士になる為に楽な道なんかねーんだよ」

 

 

「わかってるって。メストにしたって、実際僕たちがよく勝てたなって思うよ」

 

 

「そうなんですか? その割にはあまりたいした事なかったような……」

 

 

「エリオの言うとおりだ。アイツあんなに弱かったか? まあウェンディとキャロはおいといて…昔はもっと強かったような」

 

 

「僕たちが強くなってるのさ」

 

 

そんな会話をしながら通路を歩くグレイたち。すると、グレイはある違和感を感じ取った。

 

 

「アレ……思い出せねえ。オレは昔あいつと戦った事があったか?」

 

 

「お! 記憶喪失ネタだね!! そういうのルーシィ喜ぶよ」

 

 

「メストは前回の試験でいいトコまでいったんだったな」

 

 

「確か……そうだったね」

 

 

「今回の試験のS級候補だと聞きましたが……」

 

 

「それはそうなんだが……なあロキ、あいつ……前回のパートナー誰だった?」

 

 

グレイのそんな問い掛けに対し、ロキは答えようとしたが、言葉が出てこなかった。

 

 

「あれ? 誰だっけ?」

 

 

「覚えてないんですか? 去年の話ですよね?」

 

 

「何でだ!? 全然思い出せねえ!!!」

 

 

ギルドに入ったばかりのエリオはともかく、長くギルドにいるハズの2人が覚えていない事に違和感を覚える。

 

 

「メストに関する記憶があやふやな気がする」

 

 

「確かに、彼の事を思い出そうとするとどこかで記憶が途切れる」

 

 

「そんなこと…あるんですか?」

 

 

「「「うーーん」」」

 

 

メストの事で悩みながらも通路を歩いていく3人。するとようやく、通路の出口へとたどり着いた。

 

 

「グレイ!! ロキ!! エリオ!!」

 

 

「「!!」」

 

 

「お」

 

 

そして出口を出たところで待っていたのは……

 

 

「やっぱり一次試験を突破してきたんだね」

 

 

「さすがだよ」

 

 

「とりあえず、おめでとう」

 

 

「私たち〝静〟のルートでラッキーだったね」

 

 

「どこが!! 誰も殴れなかったんだぞ」

 

 

「………………」

 

 

「誰とも戦わずに試験突破というのも味気ないものだな」

 

 

「将…お前はただ戦いたいだけだろう」

 

 

「コレ…私の試験なんやけどな~」

 

 

一次試験を突破したカナチーム、レビィチーム、はやてチーム、そして本人の姿は無いがナツチームの姿があった。

 

 

「一次試験を突破できたのはこれだけか!?」

 

 

「ナツは…」

 

 

「あっちにいるよ」

 

 

そう言ってハッピーが指差す先には、少し離れた所で岩に座りながら、静かに遠くの方を見つめていた。

 

 

「ナツさん、どうかしたんですか?」

 

 

「色々あったのよ」

 

 

「さて…これで全員そろったかな?」

 

 

するとそこへ、マカロフがやって来た。

 

 

「カナのチームはフリードのチームを〝闘〟で破り、突破」

 

 

「何ーー!!?」

 

 

「ナツのチームはギルダーツの難関をクリアし、突破」

 

 

「嘘だーー!!」

 

 

番狂わせのような結果に、驚愕するグレイ。

 

 

「レビィのチームとはやてのチームは、運よく〝静〟のルートを通り、突破」

 

 

「へへっ」

 

 

「これも日頃の行ないや~♪」

 

 

「運がいいだと!!?」

 

 

「グレイのチームはメストのチームを〝闘〟で破り、突破」

 

 

「なのはとジュビアは落ちちまったのか」

 

 

ここになのはとジュビアの姿が見えない事に対してそう呟くグレイ。すると、それを聞いたマカロフがぐもっと表情を歪めた。

 

 

「残念ながら、なのはのチームはクロノと当たってしまい、善戦するも破れ落選。そしてジュビアのチームは奴と当たってしまった……あの手の抜けない女騎士に」

 

 

「あ~あ」

 

 

エルザと戦い敗れてしまったジュビアチームの事を聞いて、グレイは同情的な声を出す。

 

 

「じゃあ後は、エルフマンのチームね」

 

 

「でも消去法でいくと残るルートは……」

 

 

「ミラジェーン……だね」

 

 

ユーノがそう言うと、その場にいた全員の顔が青くなる。

 

 

「かわいそうに」

 

 

「オレだったら勝てたけどな」

 

 

「ミラジェーンか……サタンソウルを取り戻した奴とは一戦交えたかったが……」

 

 

「だから将、これは主の試験だと……」

 

 

「エルフ君のパートナーになったザフィーラも気の毒やわ~」

 

 

そう言って同情的な言葉を口にする面々。すると……

 

 

「ちょっと待てーい!!」

 

 

「「「!!」」」

 

 

突然木々の奥から響いてくる聞き慣れた声。

 

 

「勝手に落選させられては困る」

 

 

「オレらも姉ちゃん倒してきたぞォ!!」

 

 

「一次試験突破よ!!」

 

 

ボロボロの姿になりながらも一次試験を突破してきたエルフマンのチームの姿があった。

 

 

「何と!!」

 

 

「どうやってあのミラを?」

 

 

「……………」

 

 

ハッピーの問い掛けに、押し黙るエルフマン。

 

 

「それは言えん!! 漢として」

 

 

「スマン、あまり詮索するな」

 

 

「一瞬のスキをついたとだけ言っておくわ」

 

 

「(何をしたのかしらー!?)」

 

 

ルーシィはかなり気になったが、それ以上の追求はしなかった。

 

 

「コホン…ともかく、一次試験突破チームはこの6組とする。そしてこれより、二次試験を開始する」

 

 

マカロフがそう宣言すると、ハッピーはナツに声をかける。

 

 

「ナツ、いつまで落ち込んでんの」

 

 

「いや……ちょっと考え事」

 

 

「ナツが! 何かを! 考えるー!?」

 

 

「ハッピー、気持ちはよくわかるけど、今はそっとしておきなさい」

 

 

そう言って絶叫するハッピーを抱きかかえるティアナ。

 

 

「それにあのバカなら、すぐにいつも通りに戻るわ」

 

 

そう言って薄く笑いながらナツを見守るティアナ。

 

そんなナツの脳裏には……ギルダーツの言葉が反復していた。

 

 

 

『またいつでも勝負してやる。S級になって来い、ナツ』

 

 

 

「……へっ、わかったよギルダーツ」

 

 

するとナツは小さく笑いながらそう呟くと、すくっと勢いよく立ち上がる。

 

 

「グレイ!!! カナ!!! はやて!!! レビィ!!! エルフマン!!! 誰がS級魔導士になるか勝負だ!!!!」

 

 

そして他の5人を指差しながら、宣戦布告を言い放ったのであった。

 

 

「お前にだけは負けねーよ」

 

 

「ふふっ」

 

 

「望むところや!!」

 

 

「私だって」

 

 

「その勝負、漢として受けて立ーーーつ!!!!」

 

 

そんなナツの宣戦布告を受けた他の5人も、力強くそう言い放った。

 

 

「燃えてきたぞーーーっ!!!!」

 

 

「ねっ? いつもの騒がしいバカに戻ったでしょ?」

 

 

「あい。さすがティアナなのです」

 

 

「あたしはぜぇ~ったい、カナをS級にするの!!」

 

 

「その意気だよルーシィ」

 

 

「たとえルーシィでも、僕は手を抜かないよ」

 

 

「僕もグレイさんを必ずS級にしてみせます!!」

 

 

「私たちも手加減はせんぞ」

 

 

「我が主の為なのだからな」

 

 

「ギヒヒ、吠えてろクズが」

 

 

「……私もガンバル」

 

 

「漢たるものォ…ぐほばっ」

 

 

「エルフマン、しっかりしなさ…ぐふんっ」

 

 

「これでは先が思いやられ……ぬぐっ」

 

 

「この3人はねーかな」

 

 

6人だけでなくそのパートナーである面々も、二次試験に向けて闘志を燃やしたのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

一方、落選してしまったメストチームは……

 

 

「「…………(うりゅうりゅ)」」

 

 

「2人ともいつまでそんな顔してるんだ?」

 

 

「「だって……だってぇ……」」

 

 

未だに泣き顔から立ち直らないウェンディとキャロに苦笑を浮かべるメスト。

 

 

「なあウェンディ、キャロ、この島がなぜ妖精の尻尾(フェアリーテイル)の聖地と呼ばれてるか知ってるか?」

 

 

「え……?」

 

 

「確か……初代マスターのメイビスが眠る地だからですよね?」

 

 

「ああ、だがそれだけじゃないんだ。この島は普段、強力な結界によって隠されていて、いかなる魔法をもってしても探し出す事はできないらしい」

 

 

「へえー」

 

 

「そうなんですか」

 

 

「それはただ、メイビスの墓があるからだけではないんだ。妖精の尻尾(フェアリーテイル)についてのある〝重大な秘密〟が、この島に隠されているらしい」

 

 

「重大な秘密?」

 

 

「何ですかそれは?」

 

 

「オレも知らないんだ。どうだろう? 探検してみないか?」

 

 

そんなメストの提案に、ウェンディとキャロは表情を明るくし、その提案を受け入れたのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

その頃……天狼島の海岸には、島に上陸したリリー、シャルル、リニス、アギトの姿があった。

 

 

王子(ミストガン)はこっちの世界で人と接触するのを避けていた。中にはクロノのような親友と呼ぶ人物もいたようだが、おそらくあれは例外だろう」

 

 

「ギルドに寄る時も、わざわざ全員を眠らせて顔がバレないようにしてたらしいわね」

 

 

「それに王子(ミストガン)はアニマを塞ぐ為にアースランド中を歩き回っていたんです。そんな多忙の中で、弟子を取るとは考えられません」

 

 

「何が言いたいんだよ?」

 

 

「う~む、ものすごく突拍子もない推察なのだが」

 

 

そう言ってリリーは一呼吸置いた後で、再び口を開いた。

 

 

 

 

 

「メストという男は……本当にギルドの一員なのか?」

 

 

 

 

 

つづく


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