LYRICAL TAIL   作:ZEROⅡ

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遅ればせながら…新年明けましておめでとうございます!!!

今年もリリカルテイルをどうぞよろしくお願いいたします!!!!

新年一発目の更新となりますが、どうか暖かい目で見てやってください。

感想お待ちしております!!!!


ライバル

 

 

 

 

 

「ぐ…うぅ……!!!」

 

 

背後から突然後頭部を思いっきり踏み付けられ、地面へと叩き伏せられたラクサス。そんな彼の目の前には、1人の青年の姿があった。

 

 

「立てっつってんだろ雷小僧……この程度でダウンするようなタマじゃねえだろ」

 

 

今は亡きラクサスの唯一無二のライバル……ティーダ・ランスターの姿が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百二十七話

『ライバル』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だ…誰なんですか? あの人……」

 

 

突然の乱入者であるティーダを見て、エリオが呆然とした様子でそう言葉を口にすると、ナツが信じられないモノを見るような表情で口を開いた。

 

 

「ティ…ティーダ……?」

 

 

そんなナツの呟きのような声が聞こえたのか、ティーダは振り返ってナツの方へと視線を向けると、ニカッと笑みを浮かべた。

 

 

「よう…お前もデカくなったな、ナツ。そっちの小っこいのは新入りか?」

 

 

「……本当に……ティーダなのか……?」

 

 

「んー…厳密には違うんだが、今この場にいるオレという〝人格〟は正真正銘、お前のよく知るティーダ・ランスターだ」

 

 

ティーダが笑顔でそう言い放つと、ナツは感極まった様子で目元に涙を浮かべ……

 

 

「「ティーダーーー!!!!」」

 

 

思いっきり彼に飛び付こうとした。いつの間にかその場に来ていたハッピーも一緒に。

 

 

「うおおおっ!!? 汚ったね!!! 泣きながら飛びついてくんなナツ!!! てかハッピーはいつからそこに居た!!?」

 

 

「もが~」

 

 

「あい~」

 

 

「だーっ!!! 放れろっての!!!」

 

 

そんなナツとハッピーの顔を鷲掴みにして2人を遠ざけようとするティーダだが、それでも2人は諦めずに彼に抱きつこうとしている。

 

 

「あの人は一体……?」

 

 

ナツとハッピーが親しそうに接しているティーダの姿を見て、エリオが1人疑問符を浮かべていると……

 

 

「エリオー!!」

 

 

「あ、リニス」

 

 

そんな彼の元に、人間形態の姿となったリニスが翼を羽ばたかせながら降りてきた。

 

 

「あのアホネコ……いきなりアタシを放り出しやがって……あとでぶっ潰す」

 

 

「リニス……リニスだぁ……!!!」

 

 

そしてそんなリニスの両脇には、ハッピーに対して怒りを燃やしているヴィータと、何故か嬉し涙を流しながら彼女に引っ付いているフェイトが抱えられていた。

 

因みにリニスは人間形態ならば、2人まで運べるようになるようである。

 

 

「えーっと……ヴィータさんが怒ってる理由はわかるけど、何でフェイトさんは嬉しそうに泣いてるの?」

 

 

「さあ?」

 

 

嬉し涙を流しながらリニスに引っ付いているフェイトに対し疑問符を浮かべるエリオとリニスだが、とりあえず今は気にしない事にし、ヴィータだけをそっと地面に降ろした。

 

 

「それより、あの方は? ナツさんとハッピーが親しくしていると言う事は、ギルドの人間なのでしょうか?」

 

 

「わからない……僕も会った事がないから……」

 

 

ティーダに対してエリオとリニスが疑問符を浮かべていると……

 

 

「あの人はティーダ・ランスター……妖精の尻尾(フェアリーテイル)のS級魔導士だった人よ」

 

 

「!! ティアナさん!!」

 

 

「シャルル!!」

 

 

「はやて!! なのは!!!」

 

 

突然上空から声が聞こえ、その声を方を見てみると、そこにはちょうど戻ってきたティアナとシャルル…そして、なのはとはやての姿があった。

 

 

「あれ!? 何でリニスさんがいるの!!?」

 

 

「? 私は最初から……ああ、なるほど。実は私、人間の姿に変身できるんです」

 

 

「って事は……あなたはさっきのネコのリニスさん!!?」

 

 

「そう言う事です♪」

 

 

「ホンマに使い魔みたいやな」

 

 

などと…リニスに関してひと悶着あったが、エリオはすぐさま話を元に戻した。

 

 

「S級魔導士……それにランスターって、もしかして……」

 

 

「そう、あの人は私の兄さん。6年前に亡くなった……ね」

 

 

その言葉を聞いて、エリオは目を見開いて驚く。

 

 

「亡くなったって……じゃあどうしてそんな人がここに!!?」

 

 

「……闇の欠片か」

 

 

エリオの疑問に答えたのは、ヴィータであった。

 

 

「ええ……今あそこに居る兄さんは、闇の欠片が私の記憶を読み取って造り出した存在……ただし、亡くなる瞬間までの記憶を持ってるから〝人格〟は兄さんそのものよ」

 

 

「つまり……あそこに居るのは限りなく本物に近いニセモノのティーダさんって事ですか?」

 

 

「ざっくり言うとそう言う事ね」

 

 

そこまで説明すると、ティアナは「さてと…」と嘆息気味に言って、未だにティーダに抱きつこうとしているナツとハッピーへと歩み寄り……

 

 

「いつまでやってんのよアンタたちは」

 

 

「おごっ」

 

 

「うぎゅっ」

 

 

2人の首根っこを掴んで、ティーダから引き剥がした。

 

 

「まったく……この兄さんは本物の兄さんじゃないのよ」

 

 

「んな事ニオイでわかってるけどよ、こいつの雰囲気がティーダそのものだったから懐かしくてよ~」

 

 

「あい」

 

 

「……ハァ」

 

 

本物じゃないと気付いた上でティーダに抱き付こうとしていたナツとハッピーの言葉に、ティアナは呆れたように溜息をついた。

 

 

「ハハハッ、ナツとハッピーも相変わらずのようで安心したよ。さてナツ、1つ相談だ」

 

 

「ん?」

 

 

「あの雷小僧の相手……オレに譲ってもらってもいいか?」

 

 

ティーダにその頼み事に対しナツは……

 

 

「おう、いいぞ」

 

 

「えっ!?」

 

 

やけにあっさりとラクサスの相手をティーダに譲り、それを聞いていたエリオは驚いたような声を上げる。

 

 

「んじゃあ少し離れてろ。オレも本気で暴れるからな」

 

 

「おっしゃあ!! そうと決まればティア、ハッピー!!! 特等席の確保だーっ!!!」

 

 

「あいさー!!!」

 

 

「ホント、忙しい奴……」

 

 

そう言ってナツとハッピーは大はしゃぎでティーダから離れて行き、そんな2人に呆れながらもティアナも続いた。

 

そして3人が比較的に観戦しやすい場所へと移動し、そのまま地面に腰を降ろす。するとそこへ、エリオたちもやって来た。

 

 

「ナツさん!!」

 

 

「おうエリオ!! お前らも座って、一緒に見よーぜ!!!」

 

 

「いえそれより、どうしてあんなにあっさりラクサスさんの相手を譲ったんですか? 僕の時は頑なに譲らなかったのに……」

 

 

エリオの疑問に、ナツはニカッと笑いながら答える。

 

 

「ティーダとラクサスが戦うのを見るのは6年ぶりだからな!! これを見逃せる訳ねーだろ!!!!」

 

 

「「「?」」」

 

 

ナツの言葉にエリオだけでなくシャルルとリニスも首を傾げていると、ティアナが補足するように説明する。

 

 

「6年前に兄さんが亡くなるまで、あの2人の戦い……というよりケンカはね、ギルドのちょっとした名物になってたのよ」

 

 

「ケンカならいつもしてるじゃない」

 

 

「ただのケンカならね。でもあの2人のケンカはそれとは別格なのよ。特に互いの魔法を使ったケンカは見てて面白いからって理由で、街の人にも人気だったわ」

 

 

「どっちが勝つかって、賭けをする人もいたよね」

 

 

「まぁ毎回どっちかが飽きて中断するから、一度も賭けが成立した事はないんだけどね」

 

 

「それって、一度も決着が着かなかったって事ですか?」

 

 

「そう言う事。だから今度こそ見られるかもしれないわね、あの2人の決着を」

 

 

そう説明を終えると、ティアナも期待の籠った表情で、ティーダの方に視線を向けた。

 

 

「つー訳で、お前らも座れよ。これを見逃したら損だぜ」

 

 

「はぁ……」

 

 

「仕方ないわね」

 

 

「では、お言葉に甘えて」

 

 

「えっと……はやてちゃん、いいのかな?」

 

 

「ええやん、そこまでスゴイんやったら見てみたいし、もしかしたら私らの今後の戦い方の参考になるかもしれへんやん。な、ヴィータ」

 

 

「まぁ…はやてがそう言うんならいいけどよ」

 

 

ナツの言葉にエリオたちやなのは達は戸惑いながらも地面に腰を降ろし、そこはちょっとした観客席と化していた。

 

 

ティーダはそんなナツたちを一瞥した後、すぐに視線をラクサスへと戻した。

 

 

「さーて、ギャラリーもノッてきてる事だし、さっさと起きろよラクサス」

 

 

ティーダがそう言うと同時に、ようやく後頭部へのダメージから回復したラクサスがゆっくりと起き上がる。

 

 

「また獲物が一匹……ククク」

 

 

しかしその眼は、依然として狂気に満ちていた。

 

 

「消えろ消えろ消えろォ!!!! オレに歯向かう奴ァ、消え失せるがいい!!!!」

 

 

「……ティアから聞いてはいたが、ここまでとはな。己の狂気に支配され、オレの事が認識できないくらい目が曇りやがったか」

 

 

そんなラクサスの姿を見て、どこか悲しげにそう言葉を口にするティーダ。

 

 

「だったら……まずはテメェの目を覚まさせてやる!!!!」

 

 

右手に握ったロストミラージュを構えながら、ティーダはそう言い放つ。

 

 

「シュートバレット!!!」

 

 

そしてすぐさま銃口をラクサスへと向け、2発の魔法弾を発射するティーダ。しかしその攻撃は、ラクサスに軽々と回避されてしまう。

 

 

「消えろォ!!!!」

 

 

そのままラクサスはティーダに目掛けて雷撃を放つ。しかし……

 

 

「おいおい……何だよこの攻撃は?」

 

 

バチィン!!!

 

 

「!!」

 

 

「静電気かと思ったぜ」

 

 

何とティーダは銃を持っていない左手で、その雷撃を払い落としたのだ。

 

 

「それから……背中には気をつけろよ」

 

 

ズドドォン!!!

 

 

「がはっ!!?」

 

 

ティーダが忠告するようにそう言った瞬間、ラクサスの背中に2発の衝撃が走る。

 

 

「オレの弾丸は避けるだけじゃダメだぜ。まさかそんな事まで忘れた訳じゃねえよなぁ!? ラクサス!!!」

 

 

戸惑うラクサスに対してそう言い放ちながら引き金を引き、今度は5発の魔法弾を発射するティーダ。

 

 

「チッ」

 

 

ビィンッ

 

 

するとラクサスは、自身の体を雷に変えてその場から消え、魔法弾を回避した。

 

そしてそのままティーダの背後へと一瞬で移動し、雷撃を纏った拳を彼に叩き込もうとした。

 

 

「だーかーら、オレの弾丸は避けるだけじゃダメだっつってんだろ」

 

 

ズドドドドド!!!

 

 

「ぐおあっ!!!」

 

 

しかしティーダが冷静にそう言い放った瞬間、先程彼が発射した魔法弾が180度方向転換し、そのまま一直線にラクサスへと向かい着弾した。

 

 

「ぐっ!!」

 

 

そしてその攻撃を喰らったラクサスは地面を転がる。

 

 

「まだまだ行くぞ」

 

 

「!!」

 

 

そう言うと、ティーダはラクサスにではなく、空へと向かって再び銃口を向け、そのまま引き金を引いて大き目の魔法弾を放つ。

 

 

「メテオラ」

 

 

そして呟くようにそう言った瞬間、空に向かって放った魔法弾が拡散するようにハジけ、小さくなった大量の魔法弾がまるで流星群のようにラクサスに向かって降り注ぐ。

 

 

「くっ……!!」

 

 

それを見たラクサスは雷を身に纏い、その高い機動力で魔法弾を回避しようとするが……

 

 

「無駄だ……オレの弾丸からは逃げられない」

 

 

ズドドドドドオン!!!!

 

 

「ぐああああああっ!!!」

 

 

ティーダの魔法弾はラクサスがどのように回避しようと、それを追尾するように軌道を変え、そして次々と着弾していった。

 

 

そして、離れた場所でその戦いを観戦していたエリオはポツリと小さく呟く。

 

 

「スゴイ……あのラクサスさんが一方的に……」

 

 

その呟きに同調するように、ヴィータも頷きながら口を開く。

 

 

「それだけじゃねえ……あのティーダって奴が撃ったあの量の弾が全部個別に制御して、寸分違わずまるで吸い込まれるように命中させてやがる。なのは、オメェなら同じような事できるか?」

 

 

「えーっと……10発くらいならできると思うけど……さすがにあの量は無理かな……」

 

 

先程ティーダが放った魔法弾は目測でも軽く50は越えている。それを見ていたなのははヴィータの問い掛けに対して、自信なさ気に答える。

 

 

「ティアナさん、一体あの魔法ってどうなってるん?」

 

 

「どうもこうも、さっきヴィータさんが言った通りよ。兄さんは自分が放つ全ての弾丸一発一発を個別に制御して操る事が出来るのよ」

 

 

「なのはちゃんのアクセルシューターみたいなモンやな」

 

 

「ただ…兄さんは魔力コントロールが絶妙な上に空間把握能力にも長けているから、たとえ相手がどこに逃げようとも一度放った弾丸は確実に当たる。少なくとも、生前の兄さんが標的を外したところを私は一度も見た事がないわ」

 

 

「「「!!!」」」

 

 

はやての問い掛けに答えるティアナの言葉を聞いて、ティーダの実力を知らない面々は目を見開いて驚愕する。

 

するとハッピーが、ティアナの説明を受け継ぐように口を開く。

 

 

「そしてティーダには、その星の数ほどある弾丸を操るその姿からついた通り名があるんだ。その名も──」

 

 

ハッピーはそう言って一呼吸置いたあとで、その名を口にする。

 

 

 

「〝星銃(せいじゅう)〟ティーダ・ランスター」

 

 

 

ハッピーのそんな言葉を聞きながら、一同は再び戦闘へと視線を戻した。

 

 

「ぐっ…がはっ」

 

 

ティーダの魔法弾を何発も喰らったラクサスは膝をついて四つん這いの状態になっていた。

 

 

「堕ちたもんだなラクサス。6年前のお前の方が、もっと手応えがあったぜ」

 

 

そんな彼の姿に対してティーダは見下すような視線を送っていた。

 

 

「攻撃は単調すぎて読み易いし、魔法もガタガタで威力が半分以上殺されてる。オレの知ってるラクサスって男の力は…こんなもんじゃなかった。共に認め合って…高め合って…競い合ってきたテメェの力は、この程度じゃなかっただろ!!!!」

 

 

「お…おのれ……おのれぇええええええ!!!!!」

 

 

ティーダの言葉を聞いたラクサスは、激昂したように吼え、体中から雷を迸らせる。

 

 

「跡形もなく消してやるァ!!!!!」

 

 

そしてその雷を自身の口の中へと集束する。

 

 

「雷竜の……」

 

 

「……そういや、お前が滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)だって知ってたのはオレとマスターだけだった。でもな……」

 

 

「咆哮ッ!!!!!」

 

 

そして強大な威力を持つ雷のブレスをティーダへと放った。

 

 

しかし……

 

 

 

「それじゃあダメだってのがまだ分かんねえのかっ!!!!!」

 

 

 

そう言い放つとティーダは、何と左手でブレスを上から押さえ込むようにしてムリヤリ軌道を変えて、地面に叩きつけて消滅させた。

 

 

「ブレスを……上から押さえ込んだ!!?」

 

 

その光景を見ていたエリオが驚愕で叫んでいる間に、ティーダはラクサスに向かって駆け出す。

 

 

「いい加減目を覚ましやがれ……」

 

 

そしてティーダは力強く拳を握り締め……

 

 

「このバカヤロウがーーっ!!!!」

 

 

その拳でラクサスの頬を思いっきり殴り飛ばしたのであった。

 

 

「ごはっ……!!!」

 

 

それを喰らったラクサスは吹き飛ばされ、地面を何度も転がったのちに仰向けに倒れる。

 

 

「ぐっ…つっ……!!!」

 

 

すると、ラクサスは殴られた頬を押さえながらゆっくりと上半身を起き上がらせる。

 

 

「オレは……!!!」

 

 

「よう、目が覚めたかよ? ラクサス」

 

 

「……ティーダ」

 

 

そして自分を見下ろすようにして立っているティーダへと視線を向ける。そんなラクサスの眼は先程のように狂気に染まった眼ではなく、ナツたちのよく知る眼であった。

 

 

「何故お前がここにいる……それに…オレは一体……?」

 

 

「お前ならもう気付いてんじゃねえのか? 自分が自分じゃねえ事くらい」

 

 

「…………」

 

 

ティーダの言葉に対して肯定するように沈黙するラクサス。

 

 

「いわく…オレたちは一時の夢みてーなモンらしい」

 

 

「……お前もか?」

 

 

「ったりめーだろ。じぇねーと死んだ人間がここにいる訳がねえ」

 

 

「……………」

 

 

「そこにいるティアから聞いたぜ、現実のお前がやらかしたバトル・オブ・フェアリーテイルの事。お前、自分がどれだけ罪深い事をしたかわかってんだろうな?」

 

 

「わかってる。オレは……お前のような奴を二度と出さない為にも……もっとギルドを強くしようと……」

 

 

拳を握り締めながらそう言うラクサスを見て、ティーダは小さく溜息を漏らす。

 

 

「ったく……不器用にも程があんだろ。本当にどうしようもねーなテメェは」

 

 

「……ア?」

 

 

そしてティーダのバカにしたような発言に、ラクサスは片眉を上げる。

 

 

「しかもお前、ナツに負けた挙句そのまま破門になったんだってな。プッ……ダサッ」

 

 

「テメェ……!!!」

 

 

さらに挑発的な言葉を浴びせてくるティーダに、ラクサスはこめかみをピクピクと痙攣させる。

 

 

「おまけに6年前に死んだオレに手も足も出ずに負けるとか……惨め過ぎて軽く同情するな」

 

 

ブチンッ!!

 

 

その言葉についに……ラクサスがキレた。

 

 

「調子に乗ってんじゃねえぞヘッポコ狙撃手!!! 死人なら死人らしく墓の下で眠ってやがれ!!!!」

 

 

「アア?」

 

 

立ち上がりながらそう怒鳴るラクサスの言葉を聞いて、ティーダの額にもビキッと血管が浮き上がる。

 

 

「んだと雷小僧!!! 6年経ってもその減らず口は変わってねえな!!!」

 

 

「そりゃこっちの台詞だ!!! バカは死んでも治らねえってのは本当みてえだな!!!」

 

 

「バカやって破門されたテメェにバカ呼ばわりされる筋合いはねえんだよジジコン野郎!!!」

 

 

「そうやって訳の分かんねえ言葉作ってる時点でバカの証拠なんだよシスコン野郎!!!」

 

 

「やんのかコラァ!!!!」

 

 

「上等だオラァ!!!!」

 

 

激しい言い合いの末……両者の繰り出した拳がほぼ同時に互いの頬にクリーンヒットした。

 

 

「「ぐっ……!!!」」

 

 

それを受けた2人は互いに仰け反るが、すぐに体制を立て直し……

 

 

「くたばれラクサスゥーーー!!!!」

 

 

「地獄に帰れティーダァーーー!!!!」

 

 

そのまま殴り合いのケンカを始めたのであった。

 

 

「「「……………」」」

 

 

その様子を見ていたナツとハッピーとティアナ以外の面々は、呆気に取られていた。

 

 

「なんか……ずいぶんと見慣れた光景ね」

 

 

「ですね……」

 

 

そんな中、シャルルとリニスが呆れたようにそう言う。

 

 

「あのラクサスって奴……急に雰囲気が変わったな」

 

 

「うん……さっきまでは何だか凄く怖い人だったのに……」

 

 

「アレが本当のラクサスよ」

 

 

ヴィータの言葉になのはが同意するようにそう言うと、ティアナが口を開く。

 

 

「さっきまでのラクサスはちょっと暴走してて、正気じゃなかったんだけど、どうやら兄さんの一撃のお陰で正気に戻ったみたいね」

 

 

「うはーっ!!! おもしろくなってきやがったー!!!」

 

 

「どっちも頑張れー!!!」

 

 

そう言って興奮気味に2人のケンカを観戦するナツと、両者に声援を送るハッピー。その光景はすでにギルドにいる時となんら変わりなかった。

 

 

「シュートバレット!!!!」

 

 

ラクサスと距離を置き、ロストミラージュの銃口から数発の魔法弾を発射するティーダ。

 

 

「テメェの弾丸は回避不可能だったな。だったら……全部消え去れェ!!!!」

 

 

それに対しラクサスは強力な雷撃を放ち、ティーダの魔法弾全てを掻き消した。

 

 

「スパーキンブリッド!!!!」

 

 

さらに続けて、ティーダに向かって雷撃を放つラクサス。

 

 

「チッ」

 

 

ティーダは舌打ちをしながら雷撃を回避する。しかし……

 

 

「逃がすかっ!!!」

 

 

「!!」

 

 

回避した先には、すでにラクサスが回り込んでいた。

 

 

「オラァ!!!」

 

 

「アステロイドベルト!!!!」

 

 

「!!?」

 

 

ラクサスが拳を振るおうとした瞬間、ティーダはロストミラージュの引き金を引き、その瞬間銃口からいくつもの小さな魔法弾が拡散するように放たれた。

 

 

「チィッ!!!」

 

 

ラクサスが舌打ち混じりに魔法弾を薙ぎ払うと、その間にティーダはラクサスから距離を取っていた。

 

 

「拡散弾か……相変わらず小賢しい野郎だ」

 

 

「これがオレの戦闘スタイルだからな。お前みたいなパワーバカとは違うんだよ」

 

 

互いに憎まれ口を叩いてはいるが、その表情はどこか楽しそうであった。

 

 

「雷光弾!!!」

 

 

「シュートバレット!!!」

 

 

そして互いにいくつもの魔法弾を放ち、それを相殺させていくラクサスとティーダ。

 

 

「やるな……だが頭上注意だぜ!!!」

 

 

「!?」

 

 

ティーダのその言葉に、ラクサスは上空へと視線を向ける。するとそこには、ティーダが放ったであろう大きめの魔法弾が滞空していた。

 

 

「メテオラ!!!!」

 

 

そして次の瞬間、滞空していた魔法弾は小さく拡散し、ラクサスに向かっていくつもの魔法弾が流星群のように降り注ぐ。

 

しかしそれに対しラクサスは、ニッと口角を吊り上げた。

 

 

「だったらテメェは足元注意だ」

 

 

「!!?」

 

 

ラクサスがそう言い放った瞬間、ティーダの足元から雷光が漏れ始める。

 

 

「地面からの雷!!? しまっ──」

 

 

ズドドドドドドッ!!!!

 

ズギャアアアアッ!!!!

 

 

「ぐおおおおっ!!!!」

 

 

「アアアアアっ!!!!」

 

 

ティーダはラクサスによる足元からの雷撃を受け、ラクサスはティーダによる頭上からの魔法弾の雨を受けた。

 

 

「ぐっ…このっ……」

 

 

体制を立て直したティーダはすぐさま銃口をラクサスに向けるが……

 

 

「遅ぇよ!!」

 

 

「なにっ!?」

 

 

ラクサスはすでにティーダへの眼前へと迫ってきていた。そして……

 

 

 

「雷竜の顎門(アギト)!!!!」

 

 

 

「ぐあああっ!!!」

 

 

次の瞬間……ラクサスは雷撃を纏った両腕をティーダへと振り下ろし、彼を地面へと叩きつけた。しかしラクサスの攻撃はまだ終わらない。

 

 

「鳴り響くは召雷の轟き…天より落ちて灰燼と化せ」

 

 

「やべっ」

 

 

「レイジングボルト!!!!」

 

 

ズドォォォオオオン!!!!

 

 

ラクサスの放った強大な落雷がティーダへと落とされる。

 

 

「危っぶね……」

 

 

しかしティーダはそれをギリギリのところでかわしており、そのあとすぐにバック転で後退してラクサスから距離を取る。

 

 

「くそ…さっきまでの暴走状態と比べると強ェな……魔法のキレも昔と段違いだ」

 

 

「当たり前だろ。6年間、オレがただ遊んでたとでも思ってんのか?」

 

 

「ハハ…やっぱ6年の差はデカいな。もし最初っから正気で、魔力も万全の状態のお前と戦ってたらと思うとゾッとするぜ」

 

 

そう言って、乾いた笑い声を上げるティーダ。

 

 

「まぁつっても……負ける気は毛頭ないけどな」

 

 

そしてすぐに闘志の宿った瞳でラクサスを見据え、ロストミラージュを構える。そんなティーダに対し、ラクサスは笑みを浮かべる。

 

 

「それでこそ……唯一オレのライバルと呼ぶに相応しい男だ」

 

 

そう言うと同時に、ラクサスは両手を掲げ、そこに雷を集中させる。

 

 

「もうお互いに魔力は残り少ない……」

 

 

「これが最後の攻撃って訳か……」

 

 

それに対しティーダも、ロストミラージュの銃口に魔力を集束させる。

 

 

「行くぞティーダァ!!!!」

 

 

「来い!!! ラクサス!!!!」

 

 

そして……

 

 

 

「雷竜方天戟!!!!」

 

 

「コズミックブレイザー!!!!」

 

 

 

ラクサスの雷の矛とティーダの砲撃が同時に放たれ……衝突した。

 

 

ドゴォォォオオオオオオオオン!!!!

 

 

「うおおおおっ!!!」

 

 

「うぱーー!!!」

 

 

「うわああああ!!!」

 

 

「「「きゃあああああ!!!」」」

 

 

その瞬間……凄まじい衝撃と突風が響き渡り、その突風で飛ばされそうにナツたちは必死に堪える。

 

 

「どうなったんだ!!!?」

 

 

ナツが戦いの結末を見ようとするが、立ち込める爆煙のせいでまるで見えない。

 

 

そして爆煙が晴れるとそこには……

 

 

「……ケッ……どうやらまた…引き分けみてえだな」

 

 

「……そのようだな」

 

 

両者共に力尽き、仰向けに倒れているラクサスとティーダの姿があった。

 

 

すると……

 

 

パキパキ……

 

 

「「!!」」

 

 

ラクサスとティーダの体が、まるでヒビ割れるように崩れ始め、粒子となり始めていた。

 

 

「どうやら、夢の終焉のようだ」

 

 

「みてえだな」

 

 

粒子となりゆく自身の体を見て、そう悟るラクサスとティーダ。

 

 

「ティーダ……またお前と戦えて……楽しかったぜ」

 

 

「……ああ、オレもだ」

 

 

清々しさを感じさせる表情で、ラクサスとティーダは互いにそう言い合う。

 

 

「なあラクサス……できたら現実のお前に伝えておいてくれるか……決着はあの世で着けようぜってな」

 

 

「……ケッ、そう簡単に死ぬつもりはねえよ」

 

 

ティーダの言葉に笑みを浮かべながらそう答えるラクサス。

 

 

「兄さん!!!」

 

 

「「ティーダァ!!!」」

 

 

すると、そんなティーダに向かって、ナツとティアナとハッピー駆け寄ってくる。

 

 

「……じゃあな。先にいってるぜ」

 

 

「ああ」

 

 

その言葉を最後に……ラクサスは粒子となって消えて行った。

 

そしてそれを見届けたティーダは、ナツとティアナとハッピーに視線を向けた。

 

 

「ナツ…ティア…ハッピー……お前らとはもう少し話がしたかったが、残念だ」

 

 

「ティーダ……」

 

 

「ナツ……これからもちゃんとティアを守ってくれよ」

 

 

「……おうっ!!!」

 

 

ティーダが拳を突き出しながらそう言うと、ナツはそれに応えるように自身の拳をティーダの拳にぶつけた。

 

 

「ハッピーも、この2人に何か進展があったらオレの墓に報告してくれ」

 

 

「あい、任せてよ」

 

 

ハッピーは自身の胸をポンッと叩きながらそう答える。

 

 

「そしてティア……」

 

 

「私には必要ないわ」

 

 

「?」

 

 

「兄さんの最後の言葉は……ちゃんとギルダーツから受け取ったから」

 

 

「……そうか、ギルダーツはちゃんとあの本をお前に渡してくれたか。ならばティア……分かってるとは思うが…〝あの力〟を無闇に使うなよ」

 

 

「……わかってるわ。使いたくても使えないっていうのが現状だけどね」

 

 

「それはいい。そのまま力を使う日が来ない事を願うよ」

 

 

そんな意味深な会話をしていると、ティーダの体の粒子化が進んでいく。

 

 

「これで本当にお別れだ……たとえ片時の夢でも……こうしてお前たちとまた会えた事を嬉しく思う」

 

 

「兄さん……」

 

 

「ティーダ…」

 

 

「ティーダぁ……」

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)のみんなにもよろしく言っておいてくれ……元気でな」

 

 

そしてその言葉を最後に……ティーダは完全に粒子となって消えていったのであった。

 

 

「……さようなら…兄さん」

 

 

「じゃあな……ティーダ」

 

 

「バイバイ……」

 

 

そんなティーダの姿を……ナツとティアナとハッピーは……涙を浮かべながら見送ったのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

ここは……アースランドのとある森の中。

 

 

「!」

 

 

その森の中で、大木に背中を預けて眠っていた1人のフードを被った青年が、バッと目を覚ました。

 

 

「……ずいぶんと懐かしい奴の夢を見たな……」

 

 

そう言って大木にもたれ掛かりながら、すっかりと暗くなった夜空を見上げる青年。そんな青年の視線の先には、ただ1つだけ悠然と輝く小さな星があった。

 

その星を見た青年は「フッ…」と小さく笑みを浮かべ……

 

 

 

「望むところだ。いずれオレが逝くまで、テメェはそこで首洗って待ってやがれ」

 

 

 

と……夜空に輝く星に向かってそう言い放ったのであった。

 

 

 

 

 

その際の星は……ひと際強く輝いていた。

 

 

 

 

 

つづく


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