LYRICAL TAIL   作:ZEROⅡ

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月の雫

 

 

 

 

 

S級クエストの島、ガルナ島へやってきたナツ達に依頼された仕事は、なんと「月を破壊してくれ」と言う依頼であった。

 

 

「見れば見るほど不気味な月だね」

 

 

「本当……なんで紫色なんだろう?」

 

 

村長のモカから借りた宿屋の窓から、ハッピーとスバルが月を見上げながら言う。

 

 

「スバル、ハッピー、早く窓閉めなさいよ。村長さんの話聞いてなかったの?」

 

 

「え? え~と……」

 

 

「何だっけ?」

 

 

「月の光を浴びすぎると、あたしたちまで悪魔になっちゃうのよ」

 

 

ルーシィにそう言われ、スバルとハッピーは窓を閉める。

 

 

「それにしてもまいったな」

 

 

「さすがに月を壊せってのはな…」

 

 

「そうだよね~」

 

 

「うん…」

 

 

予想外の依頼に戸惑う一同。

 

 

「「何発殴れば壊れるか検討もつかねえ(つかない)」」

 

 

「壊す気かよ!!!」

 

 

訂正。戸惑うナツとスバル以外の一同。

 

 

「無理なんだよ。月を壊すなんてよぉ」

 

 

「そうね……どんな魔導士でもそれは出来ないと思う」

 

 

「でも、月を壊してって言うのが今回の依頼だよ?」

 

 

「できねえってんじゃ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の名がすたる」

 

 

「できねえモンはできねえんだよ!! 第一どうやって月まで行く気だよ!?」

 

 

「ハッピー」

 

 

「さすがに無理」

 

 

「んじゃあスバル」

 

 

「限界までウィングロードを伸ばせば……なんとか」

 

 

「無理だから!!!」

 

 

スバルの言葉にツッコミを入れるルーシィ。そしてそのまま自分の考えを述べ始める。

 

 

「『月を壊せ』って言うのは、きっと被害者の観点から出てくる発想じゃないかしら? きっと何か他に呪いを解く方法はあるはずよ」

 

 

「だといいんだがな」

 

 

そう言うと、グレイは眠そうに大きな欠伸をする。

 

 

「よし!! だったら明日は島を探検だ!! 今日は寝るぞ!!!」

 

 

「おーーっ!!」

 

 

「あいさー!!」

 

 

ナツとスバルとハッピーは勢いよく寝床に滑り込む。

 

 

「考えるのは明日だ……」

 

 

グレイもパタッと寝床に伏せる。

 

 

「そうね。あたしも眠いし…寝よ」

 

 

そして全員が寝床に伏せ、眠り始める。

 

因みに並びは…

 

 

  ハッピー

グ スル ナ

レ バ| ツ

イ ルシ

   ィ

 

 

となっている。(分かりにくかったらごめんなさい!!)

 

 

「……ってこんな獣と変態の間でどーやって寝ろと!!? そもそもなんで同じ部屋なのよ」

 

 

「んふふ~ティア~」

 

 

すると、突然スバルが寝言を言いながらルーシィに抱きつく。

 

 

「ってちょ、スバル? もしかして寝ぼけて……」

 

 

「ぎゅ~」

 

 

ギュウゥゥゥゥウウ!!

 

 

「痛い痛い痛い!!! 抱き締める力が強すぎるわよぉぉおお!!!!」

 

 

 

その夜、部屋にはルーシィの叫び声が木霊したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十二話

月の雫(ムーンドリップ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして…翌日。

 

 

「早ぇよ」

 

 

「まだめっちゃ朝じゃねえか」

 

 

「眠い~」

 

 

「誰のせいで眠れなかったと思ってるのよ! 出発よ!! 出発!! ネコ!! 起きろ!!」

 

 

「あい」

 

 

結局あのあとあまり眠れなかったルーシィは、まだ眠そうにしているメンバーを叩き起こして早い時間に宿屋を出た。

 

 

「早いですね。辺りが悪魔だらけだと眠れませんでしたか?」

 

 

「そうじゃないの。気にしないで」

 

 

「月を壊す前に島を調査してえ。開けてくれるか?」

 

 

「どうぞ」

 

 

そう言って門を開けてもらい、一同は島の調査へと出発した。

 

 

「何だよぉ!! 昨日あれだけ月を壊すのは無理とか言ってたのによぉ!!」

 

 

「そうだよ!! 昨日と言ってること違うじゃん!!」

 

 

先ほど門番の人に言った言葉のことを、ナツとスバルが問い詰める。

 

 

「無理だよ。村の人の手前、壊すって言ったんだよ」

 

 

「それに実際壊せるとしても壊せねえ。月見ができなくなるだろーが」

 

 

「そっか、期間限定の妖精の尻尾(フェアリーテイル)特製、月見ステーキもなくなっちまうのか!!」

 

 

「えーっ!! それは困るよ!! 私毎年あれを楽しみにしてるのに!!!」

 

 

「オイラ月見塩魚なくなると困るよ」

 

 

と、四人が的外れな会話をしていると……

 

 

「ちょっとあんたたち、何がいるかわからないんだから大声出さないでくれる?…と申しております」

 

 

いつの間にか呼び出したホロロギウムの中に入った状態で、ルーシィが注意した。

 

 

「わーっ! また時計の星霊だ!!」

 

 

「自分で歩けよ」

 

 

「おまえ星霊の使い方、それ……あってるの?」

 

 

「だ…だって相手は〝呪い〟なのよ。実体がないものって怖いじゃない!!…と申しております」

 

 

「さっすがS級クエスト!! やる気出てきたーー!!」

 

 

「オレも燃えてきたぞ!!」

 

 

「呪いなんか凍らせてやる。ビビるこたぁねえ」

 

 

怖気づくルーシィとは裏腹にやる気満々な三人。それを呆れた目で見ているルーシィ。

 

 

「ホンット、アンタらバカね…と申しております」

 

 

「ねえ、オイラも入りたい」

 

 

そうしてしばらく森の中を歩いていると……

 

 

ガサガサ…

 

 

「ん?」

 

 

「何だ?」

 

 

突然草むらが揺れる音が響き、立ち止まる一同。そして現れたのは……

 

 

「ちゅー」

 

 

ネズミだった。ただし超巨大なサイズの……

 

 

「「ネズミ!!?」」

 

 

「でかーーーっ!!!」

 

 

「あんたたち早くやっつけて!! と申しております」

 

 

「あい、と申しております」

 

 

すると、巨大ネズミがぷくっと頬を膨らませる。

 

 

「んにゃろぉ!!」

 

 

「何か吐き出す気だよっ!!」

 

 

「オレのアイスメイク〝(シールド)〟で……」

 

 

グレイを氷の盾を造り出して防ごうとするが……

 

 

「ぷはぁ~~~~っ!!」

 

 

「んがっ!!」

 

 

「もげっ!!」

 

 

「にゅっ!!」

 

 

ネズミが吐き出したのは息であった。しかし、それを浴びた三人は奇声を上げる。そう、ネズミが吐いた息はとてつもなく臭い悪臭であった。

 

 

「ちょっと!! 三人ともどうしたの!?…と申し…んがっ!」

 

 

すると、ホロロギウムまでも奇声を上げて倒れ、星霊界へ帰ってしまった。

 

 

「くさーーっ!! 何だこの匂いはぁ~!!!」

 

 

「…………」

 

 

「ナツ!! 情けねえぞ!!」

 

 

「違うよっ!! ナツは鼻がいいから私達よりダメージが大きいんだよ!!」

 

 

「逃げろーーーっ!!!」

 

 

「ひいいいっ!!!」

 

 

あまりの臭さに逃げ出す一同。そしてそれを追いかけて来るネズミ。

 

 

「ちっ!アイスメイク〝(フロア)〟!!」

 

 

グレイは立ち止まり、ネズミの足元を凍らせる。すると当然、ネズミはつるんっと滑り、盛大にこけてしまった。

 

 

「やった!」

 

 

「ナイス!」

 

 

「あ! 見て! 何か建物がある! 今のうちにあそこに入りましょ」

 

 

そう言ってルーシィは目の前の建物を指差す。だが…

 

 

「「「今のうちにボコるんだ」」」

 

 

ナツとグレイとスバルは先ほどの仕返しに、ネズミをフルボッコにしていたのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

一通りネズミをボコった後、一同は建物の中へと入って行った。

 

 

「うわー、広いね……」

 

 

「ボロボロじゃねぇか」

 

 

「いつの時代のもんだ、こりゃ」

 

 

中へ入ると、崩れた岩が散乱していた。

 

 

「あ、見て。なんか月みたいな紋章があるよ」

 

 

「この島は元々月の島って呼ばれてたって言ってたしな」

 

 

壁には月の紋章がところどころに刻まれている。

 

 

「月の島に月の呪い…月の紋章。この遺跡はなんか怪しいわね」

 

 

「ルーシィ、見てー」

 

 

「アンタは犬か!!!」

 

 

どこからか拾ってきた骨を見せるハッピーにツッコミを入れるルーシィ。

 

 

「それにしてもボロいな……これ、地面とか大丈夫なのか?」

 

 

「ちょっと止めなさいよ!! ボロいんだから」

 

 

ルーシィの静止も聞かず、ナツはその場で強く足踏みをした。すると、べこんっと音を立てて地面が突き抜け、全員が落下した。

 

 

「バカーー!!」

 

 

「なんて根性のねぇ床なんだぁぁ!!!」

 

 

「床に根性もくそもあるかよ!!」

 

 

足元を失ったナツたちは、今いた場所から落下していく。

 

 

「ハッピー!! 何とかならないの!!?」

 

 

ルーシィは空を飛べるハッピーに助けを求めるが……

 

 

「…………」

 

 

そのハッピーは先ほど拾った骨を喉に詰まらせていた。

 

 

「食べられるモンじゃないからーー!! それーーー!!!」

 

 

落下しながらもしっかりとツッコミを入れるルーシィ。

 

 

「任せて!! ウィングロー……」

 

 

そう言ってスバルが声を張り上げて魔法を発動しようとしたその時……

 

 

 

ゴッ!!

 

 

 

「どっ!!?」

 

 

「「「スバルーーー!!!」」」

 

 

「……きゅう」

 

 

スバルの後頭部に瓦礫が直撃し、スバルは目を回して気絶した。

 

 

『あぁぁぁぁぁあああ!!!!』

 

 

結局、全員はそのまま落ちていった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

そしてしばらく落ちていくと、やがて地面に直撃した。

 

 

「オイ…みんな大丈夫か?」

 

 

ナツは全員に無事かどうかを確認する。

 

 

「うぅ…なんとか」

 

 

スバルは後頭部を押さえながらコキコキと首を鳴らす。

 

 

「ハッピーがヤバイ!! 別の原因で」

 

 

「……………」

 

 

ハッピーは未だに骨を喉に詰まらせており、それを見て慌てるルーシィ。

 

 

「テメェ!! 何でいつも後先考えねえで行動しやがる!!!」

 

 

グレイは床を突き抜いたナツに怒鳴る。

 

 

「ねえ…ここ…どこなの?」

 

 

ハッピーの喉に詰まった骨を取りながら問い掛けるルーシィ。

 

 

「さっきの遺跡の地下みてーだな」

 

 

「秘密の洞窟だーーーっ!!」

 

 

「おおっ!! じゃあちょっと探検しようよ!!」

 

 

そう言って奥へと進むナツとスバル。

 

 

「オイ!! これ以上暴れまわるんじゃねえ!!」

 

 

「うおおおっ!! お?」

 

 

「えっ?」

 

 

すると、奥へと進んだナツとスバルは立ち止まる。

 

 

「ん?」

 

 

「?」

 

 

「どうした?」

 

 

「な…何だ……?」

 

 

「アレって……一体?」

 

 

呆然とするナツとスバルの視線の先を他の三人も追いかける。

 

 

「な……!!!」

 

 

「え……!!?」

 

 

そして絶句する。その先には……

 

 

 

「でけえ怪物が凍りついてる!!!」

 

 

 

先ほどのネズミより遥かに巨大な怪物が氷付けにされているという、異様な光景が広がっていた。その光景に一同が呆気に取られていると……

 

 

「デリオラ…!!!」

 

 

グレイがその怪物の名を叫んだ。

 

 

「「「え?」」」

 

 

「バカな!! デリオラが何でここに!!?」

 

 

「デリ…なんて?」

 

 

「知ってんのか? コイツ」

 

 

ナツとスバルはそう問い掛けるが、グレイは答えない。

 

 

「あり得ねえ!! こんな所にある訳がねえんだ!!! あれは…!! あれはっ!!」

 

 

「ちょっと…!! 落ち着いてグレイ!!」

 

 

「グレイ?」

 

 

珍しく取り乱すグレイを落ち着かせるルーシィ。

 

 

「ねえグレイさん…この怪物は一体……」

 

 

「デリオラ…厄災の悪魔」

 

 

「厄災の悪魔……?」

 

 

「あの時の姿のままだ…どうなってやがる…」

 

 

グレイがそう言うと、どこからか足音が聞こえてくる。

 

 

「しっ、誰か来たわ」

 

 

足音に気が付いたルーシィはみんなに黙るように受け流す。

 

 

「ひとまず隠れよ!」

 

 

「なんで?」

 

 

「いいから!」

 

 

そう言ってハッピーに背を押されるナツ。それに続いて他のメンバーも岩陰に隠れる。そしてしばらくすると……

 

 

「人の声したの、この辺り」

 

 

「おおーん」

 

 

やって来たのは、眉毛が濃い男と犬耳をつけた男の二人組みだった。

 

 

「昼…眠い…」

 

 

「おおーん」

 

 

「おまえ月の雫(ムーンドリップ)浴びてね? 耳とかあるし」

 

 

「浴びてねぇよ!」

 

 

眉毛男の言葉に激怒する犬耳男。

 

 

「飾りだよ!! わかれよ!!!」

 

 

「からかっただけだ、バカ」

 

 

「おおーん」

 

 

そんな会話をしながら辺りをうろつく二人組み。

 

 

月の雫(ムーンドリップ)? 呪いのことかしら?」

 

 

ルーシィが二人組みの会話に出てきた単語に首を傾げていると、また誰かがやって来た。

 

 

「ユウカさん、トビーさん、悲しいことですわ」

 

 

「シェリー」

 

 

「おおーん」

 

 

「アンジェリカが何者かの手によっていたぶられました…」

 

 

「ネズミだよっ!!」

 

 

「ネズミじゃありません…アンジェリカは闇の中を駆ける狩人なのです。そして、愛」

 

 

やって来たのはシェリーと呼ばれるゴスロリの服を着た女性だった。そしてユウカとは眉毛男、トビーとは犬耳男、そしてアンジェリカとは、先ほどのネズミの名前だろう。

 

 

「強烈にイタイ奴が出てきたわね」

 

 

「あいつら、この島のモンじゃねえ…ニオイが違う」

 

 

「うん…それに村の人みたいに呪われてる感じがしないしね」

 

 

ナツとルーシィとスバルは三人組について話し合う。

 

 

「侵入者……か」

 

 

ユウカの言葉にドキッとするメンバー。

 

 

「もうすぐお月様の光が集まるというのに……なんて悲しいことでしょう…零帝様のお耳に入る前に駆逐いたしましょう。そう…お月様が姿を現す前に……」

 

 

「だな」

 

 

「おおーん」

 

 

「デリオラを見られたからには生かしては帰せません。侵入者には永遠の眠り…つまり〝愛〟を」

 

 

「〝死〟だよっ!! 殺すんだよっ!!」

 

 

そんな会話をしながら三人組はその場から去って行った。それを見計らってナツ達は岩陰から出る。

 

 

「なんだよ。とっ捕まえていろいろ聞き出せばよかったんだ」

 

 

「そうだよ~」

 

 

「まだよ、もう少し様子を見ましょう」

 

 

すると、ずっと黙っていたグレイがゆっくりと口を開く。

 

 

「くそ…アイツ等、デリオラを何のためにこんなところまで持ってきやがった。つーか、どうやってデリオラの封印場所を見つけたんだ……」

 

 

「封印場所?」

 

 

スバルがグレイに聞き返す。

 

 

「こいつは北の大陸の氷山に封印されていた」

 

 

「え?」

 

 

「10年前…イスバン地方を荒らし回った不死身の悪魔……」

 

 

「っ……イス…バン…?」

 

 

すると、グレイの説明の途中でスバルが小さく声を上げる。

 

 

「ん? どうしたスバル?」

 

 

「う…ううん……何でもないよ」

 

 

そう言って首を横に振るスバル。

 

 

「(偶然……だよね?)」

 

 

スバルは心の中でそう思い、自分を納得させた。

 

 

「オレに魔法を教えてくれた師匠、ウルが命をかけて封じた悪魔だ」

 

 

その言葉に、グレイ以外の全員が驚愕で目を見開いた。

 

 

「この島の呪いとどう関係してるのかわからねぇが……これはこんなところにあっちゃならねえモノだ」

 

 

グレイは右手に冷気を集めながら握り締め、怒りを露にする。

 

 

「零帝……何者だ……ウルの名を汚す気ならただじゃおかねぇぞ!!!」

 

 

そう言って、グレイは今までに見たことがないほどの怒りの形相を見せる。

 

 

「もしかして、こいつがこの島の呪いの元凶かも」

 

 

すると、スバルがデリオラを見上げながらそう言った。

 

 

「考えられなくもねぇ。この悪魔はまだ生きてるんだしな」

 

 

「おし。そーゆーことならこの悪魔をぶっ倒してみっか」

 

 

「あんたはなんで力でしか解決策を思いつかないのよ」

 

 

腕をぐるぐると回し準備運動を始めるナツを呆れた様子で見るルーシィ。だがグレイは、そんなナツを睨むと……

 

 

「どぅおっ!!!」

 

 

思いっきりナツを殴った。

 

 

「グレイ!! テメェ…何しやがる!!!」

 

 

「火の魔導士がこれに近付くんじゃねぇ。氷が溶けてデリオラが動き出したら、誰にも止められねぇんだぞ」

 

 

「そんなに簡単に溶けちまうものなのかよ!!!」

 

 

「!……いや…」

 

 

ナツにそう言われてハッとするグレイ。

 

 

「グレイさん、大丈夫ですか?」

 

 

「オイ!! 殴られ損じゃねぇか!! 凶暴な奴だな!!」

 

 

「ナツが言う?」

 

 

腹を立たせているナツをハッピーがなだめる。

 

 

師匠(ウル)はこの悪魔に絶対氷結(アイスドシエル)っつー魔法をかけた。それは溶けることのない氷。いかなる爆炎の魔法をもってしても溶かすことのできない氷だ。溶かせないと知ってて、なぜこれを持ち出した」

 

 

「もしかして知らないのかも」

 

 

「ありえるわね。それで何とかして溶かそうとしてるのかも」

 

 

スバルとルーシィがそう言うと、グレイがすごい形相で二人を睨む。

 

 

「何の為にだよっ!!!」

 

 

「し…知りませんけど……」

 

 

「ぐ、グレイさん…怖いです……」

 

 

そんなグレイに怯える二人。

 

 

「ちっ。くそっ……!! 調子でねえな。誰がなんのためにデリオラをここに……」

 

 

「簡単だ。さっきの奴ら追えばいい」

 

 

「そうね」

 

 

「そうしようか」

 

 

ナツは先ほど三人が消えて行った方向を指差し、それにルーシィとスバルも頷いた。

 

 

「いや、ここで待つんだ。月が出るまで、待つ」

 

 

だがグレイはここで待つと提案した。

 

 

「月……ってまだお昼過ぎだよ!!?」

 

 

「無理無理!! ヒマ死ぬ!!!」

 

 

「グレイ、どういう事?」

 

 

「島の呪いもデリオラも、すべては〝月〟に関係してると思えてならねえ。奴等も『もうすぐ月の光が集まる』とか言ってたしな」

 

 

「そっか……確かに何が起こるかアイツ等が何をするか……気にはなるわね」

 

 

「じゃあ、待ってみる価値はあるよね」

 

 

そう言ってルーシィとスバルは納得するが、ナツは納得していない。

 

 

「オレは無理だ!! 追いかける!!」

 

 

そう言って息を巻くナツだが……

 

 

「ぐがーー」

 

 

数分後には寝息を立てていた。

 

 

「本当…コイツって本能のままに生きてるのね」

 

 

「そこがナツのいいトコだよ」

 

 

「あい」

 

 

そんなナツに呆れながら、ルーシィは口を開く。

 

 

「ハァーー待つとは言ったものの……ヒマね、やっぱり」

 

 

「だねぇ…」

 

 

「あい」

 

 

すると、ルーシィは何か思いついたように手をポンッと叩く。そして銀色の鍵を取り出す。

 

 

「開け!! 琴座の扉…『リラ』!!!」

 

 

すると現れたのは、背中にハーブを背負った女の子の星霊だった。

 

 

「キャーー!! 超久しぶりぃルーシィー!!! もおっ、たまにしか呼んでくれないんだもーん!!!」

 

 

「だってあんた呼べる日って月に三日くらいじゃない」

 

 

「ええっ!!? そうだっけぇ!?」

 

 

そんな会話をしながら、リラはルーシィの隣に座る。

 

 

「でぇ? 今日は何の詩歌って欲しい?」

 

 

「何でもいいわ。任せる」

 

 

「じゃあてきとーに歌うわねイェーイ」

 

 

「リラはすっごく歌うまいのよ」

 

 

「ミラさんもうまいよ。あと、なのはさんも」

 

 

「なのはさんも歌うの!!?」

 

 

「宴会なんかの時に、たまにね」

 

 

なのはの意外な一面に驚くルーシィ。その間に、リラはハーブを弾いて歌い始める。そしてしばらく歌い続けていると……

 

 

「あれ? グレイさん?」

 

 

「あ? 何だよ」

 

 

「どうして、泣いてるんですか?」

 

 

そう。リラの歌を聴くにつれ、グレイが静かに涙を流していたのだ。

 

 

「確かにリラは人の心情を読む歌が得意だけど…」

 

 

「グレイが泣いた」

 

 

「泣いてねぇよ!!」

 

 

グレイは誤魔化すように怒鳴る。

 

 

「もっと明るい歌にしてよリラ」

 

 

「え~~!? だったらそう言ってぇ」

 

 

「つーかよく考えたら、誰か来たらどーすんだよ。黙ってろ」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

それから数時間後。仮眠などをして一同が時間を潰していると、突然―ゴゴゴゴ…!!―と地鳴りが聞こえた。

 

 

「何の音?」

 

 

「夜か!!!」

 

 

目を擦るルーシィと慌てて体を起こしたナツ。

 

 

「見て! 天井が!!」

 

 

そう言ってスバルは天井を指差す。すると、天井からデリオラに向かって大きな一筋の光が差し込む。

 

 

「紫の光…月の光か!!?」

 

 

「何だこれ!! どうなってんだーーー!!?」

 

 

その光景に驚愕する一同。

 

 

「行くぞ! 光の元を探すんだ!!」

 

 

「オウ!!」

 

 

そう言ってグレイを先頭に駆け出していく一同。そして月の光を追って階段を上っていき、ついには外へと出てきた。

 

 

「何だアレ?」

 

 

「しっ」

 

 

「人…? たくさんの人だ」

 

 

そこには、覆面をした何人もの人間が月の光を囲んで奇妙な呪文を唱えていた。

 

 

「月!!? 本当に月の光を集めてんのか、こいつ等!!」

 

 

「それをデリオラに当てて……!? どうする気!!?」

 

 

「ベリア語の呪文…月の雫(ムーンドリップ)ね」

 

 

そう言って説明してくれたのは、先ほどの星霊リラだった。

 

 

「アンタ…まだ居たの?」

 

 

「そっか。そういうことなのね…」

 

 

何かを理解したリラは、ゆっくりと話し始めた。

 

 

「こいつらは月の雫(ムーンドリップ)を使ってあの地下の悪魔を復活させる気なのよ!」

 

 

「何!!? バカな…絶対氷結(アイスドシェル)は溶けない氷なんだぞ!!」

 

 

「その氷を溶かす魔法が月の雫(ムーンドリップ)なのよ。一つに集束された月の魔力はいかなる魔法をも解除する力を持ってるの」

 

 

「そんな…」

 

 

「アイツら、デリオラの恐ろしさを知らねぇんだ!」

 

 

「この島の人が呪いだと思ってる現象は月の雫の影響だと思うわ。一つに集まった月の魔力は人体をも汚染する。それほど強力な魔力なのよ」

 

 

「アイツ等ぁ……」

 

 

「待って、誰か来たよ!」

 

 

飛び出して行こうとするナツの服をつかんで止めさせるスバル。

 

 

「くそ…昼起きたせい、眠い」

 

 

「おおーん」

 

 

「結局侵入者も見つからなかったし」

 

 

「本当にいたのかよっ!!」

 

 

「………………」

 

 

そこに現われたのは昼間姿を見せた三人組に加え、ローブで全身を隠した一人の人物。

 

 

「悲しいことですわ、零帝様」

 

 

そして、零帝と名乗る仮面を被った一人の男。合計五人の集団だった。

 

 

「昼に侵入者がいたようなのですが……取り逃がしてしまいました。こんな私には愛は語れませんね」

 

 

「侵入者…」

 

 

聞こえてきた声に敏感に反応を示したグレイ。

 

 

「アイツが零帝か!?」

 

 

「偉そーな奴ね。変な仮面つけちゃって」

 

 

「そっかなぁ。かっこいいぞ」

 

 

「私もそう思う!」

 

 

零帝の仮面を見るスバルとハッピー。グレイは未だ、先ほど聞いた声に呆気に取られている。

 

 

「侵入者の件だが、ここに来て邪魔はされたくないな。この島は外れにある村にしか人はいないはず」

 

 

そう言うと、零帝は三人組に向かって……

 

 

「村を消してこい」

 

 

と命令した。

 

 

「はっ」

 

「了解!!」

 

「おおーん!!」

 

 

そう言って一斉に走り出す三人組。それを見て慌てるナツ達。

 

 

「何!!?」

 

 

「そんな! 村の人たちは関係ないのにっ!! ど、どうしよう!」

 

 

戸惑うルーシィ。だがナツとスバルはすぐに覚悟を決め……

 

 

「どうもこうもないよ!!」

 

 

「もうコソコソするのはごめんだ!!」

 

 

隠れていた場所から姿を見せ、ナツは空に向かって炎を吐き出す。

 

 

「邪魔しに来たのはオレたちだぁ!!!」

 

 

その炎を見て、ナツたちに気付く零帝たち。

 

 

「あの紋章!! 妖精の尻尾(フェアリーテイル)ですわ!!」

 

 

「なるほど…村の奴らがギルドに助けを求めたか」

 

 

「何をしている。とっとと村を消してこい」

 

 

「お?」

 

 

「え?」

 

 

「そんな!」

 

 

「なんで!?」

 

 

ナツたちが名乗り出たのにも関わらず、零帝はさらに命令をした。

 

 

「邪魔をする者、それを企てた者、すべて敵だ」

 

 

「てめえぇぇっ!!」

 

 

「グレイ!」

 

 

突然零帝に向かって駆け出して行くグレイ。

 

 

「そのくだらねえ儀式とやらをやめやがれぇぇ!!!!」

 

 

グレイの氷が地面を伝い、零帝に向かっていった。

 

 

「フン」

 

 

だがそれは届くことなく、零帝も同じように氷を地面を伝わせ、グレイの氷と相殺させた。

 

 

「リオン…テメェ自分が何やってるのかわかってんのか?」

 

 

「え?」

 

 

グレイは零帝に向かってリオンと言う名を発した。

 

 

「ふふ、久しいな。グレイ」

 

 

そして零帝からもグレイの名が飛び出した。

 

 

「知り合い!!?」

 

 

「ええっ!?」

 

 

まさか敵とグレイが知り合いだとは思わなかったメンバーは驚愕する。

 

 

「何の真似だよ!!! これぁ!!!」

 

 

「村人が送り込んできた魔導士がまさかおまえだったとは。知ってて来たのか? それとも偶然か? まあ、どちらでもいいが…」

 

 

仮面に隠れて表情は見えないが、零帝…リオンの口元は笑っていた。

 

 

「早く行け。ここはオレ一人で十分だ」

 

 

「はっ!」

 

 

「おおーん!」

 

 

今度こそその言葉で駆け出すシェリーたち。

 

 

「行かせない!!」

 

 

そう言って、飛び出したのはリボルバーナックルとマッハキャリバーを装着したスバルだった。

 

 

「でぇりゃぁぁぁあああ!!!」

 

 

スバルはマッハキャリバーの機動性を活かし、すぐにシェリーたちに追いついて拳を振るうが……

 

 

ガシッ!!

 

 

「えっ!?」

 

 

「…………」

 

 

なんとその拳はローブをした人物に捕まれ、防がれてしまった。

 

 

「くっ…はぁぁあああ!!!」

 

 

スバルはすぐに蹴りを放つが、それも軽々と受け止められる。

 

 

「でぇぇええい!!」

 

 

そしてスバルは負けじと格闘技を使い、パンチとキックを連続で放つが、ローブの人物にすべて避けられたり受け止められたりして、決定打が決まらない。

 

 

「ぐっ……」

 

 

そしてスバルが一瞬気を抜いたその時……

 

 

「……ハァッ!!!」

 

 

「なっ!?うああっ!!!」

 

 

突然ローブの人物から鋭い蹴りが放たれ、それを喰らったスバルは吹き飛ばされそうになるが、何とか持ちこたえる。だがスバルは、同時に一つの疑問を感じていた。

 

 

「今のは……私と同じ格闘技……シューティングアーツ……」

 

 

そう、先ほどローブの人物が使った蹴りは、スバルの格闘技と同じだったのだ。

 

 

「シューティングアーツは…母さんが生み出した格闘技……それを使えるってことは……まさか!!」

 

 

スバルは信じられないモノを見る目でローブの人物を見る。そしてそれを察したのか、ローブの人物はゆっくりと被っていたフードを脱ぎ始める。

 

 

「久しぶりね……スバル」

 

 

フードを脱ぎ去り、露になったのは……スバルと同じ藍色の髪をロングにした女性だった。そして、スバルはその女性に見覚えがあった。

 

 

「そんな…どうして……何でこんなことをやってるの!?」

 

 

スバルは明らかに動揺した顔でそう問い掛け。そして名前を叫んだ。

 

 

 

 

 

「ギン姉ぇぇええ!!!!」

 

 

 

 

 

その女性とは……スバルの実の姉…『ギンガ・ナカジマ』であった。

 

 

 

 

つづく


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