LYRICAL TAIL   作:ZEROⅡ

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最強の座

 

 

 

 

 

鉄の森(アイゼンヴァルト)の事件から数日後…ギルドの前では、二人の人物を中心に大きな人だかりが出来ていた。

 

その二人の人物とは、ナツとエルザであり、二人は出発前の約束通りこれから勝負をするのである。

 

 

「ちょ…ちょっと!! 本気なの!? 二人とも!!」

 

 

「あらルーシィ」

 

 

すると、人ごみを掻き分けてルーシィが出てきた。

 

 

「あのナツが冗談で戦うと思う?」

 

 

「本気も本気。本気でやらねば(おとこ)ではない!」

 

 

「エルフマン、エルザさんは女の子だよ?」

 

 

ルーシィの言葉にティアナが呆れ気味に言い、エルフマンの言葉になのはがツッコム。

 

 

「だって…最強チームの二人が激突したら……」

 

 

「最強チーム? 何だそりゃ」

 

 

「あんたとナツとエルザ、それにティアナとなのはさんじゃない! 妖精の尻尾(フェアリーテイル)のトップ5でしょ!」

 

 

「はあ? くだんねぇ! 誰がそんなこと言ったんだよ」

 

 

力説するルーシィを笑いのけるグレイ。その後ろには、張本人であるミラが泣いている姿がある。

 

 

「あ……ミラちゃんだったんだ……」

 

 

「泣かしたっ」

 

 

「サイテー」

 

 

ミラを泣かしたグレイにルーシィとティアナの非難の目が向けられる。

 

 

「確かにナツやグレイの漢気は認めるが……〝最強〟と言われると黙っておけねえな。妖精の尻尾(フェアリーテイル)にはまだまだ強者(つわもの)が大勢いるんだ。オレとか」

 

 

「最強の女はエルザとなのは……それに〝あの二人〟のうち誰かだろうね」

 

 

「最強の男となったら、ミストガンやラクサス…それに認めたくないけどあの腹黒も居るし。あの人も外すわけにはいかないね」

 

 

「それに最強チームとなると、あの人達の方が適任じゃないかな?」

 

 

「あぁ…確かにチームで最強と言ったら〝ヴォルケンリッター〟の連中だな」

 

 

上からエルフマン、レビィ、ユーノ、なのは、グレイの順番で最強候補たちの名前を上げていく。

 

 

「何にせよ、面白い戦いになりそうだな」

 

 

「そうか? オレの予想じゃエルザの圧勝だがな」

 

 

「私としては勝負云々より、アイツを何とかして欲しいんだけど……」

 

 

「え?」

 

 

そう疲れたように言うティアナの視線をルーシィが追って見ると、そこには……

 

 

 

「…………(ズーン)」

 

 

 

三角座りをして、地面にのの字を書いて明らかに落ち込んでいるスバルの姿があった。

 

 

「ど、どうしたの?」

 

 

「この間の事件で一人だけのけ者にされたことに落ち込んでるのよ。スターズのメンバーで居なかったのアイツだけだし」

 

 

その会話を聞いていたのか、スバルはすぐさまティアナに駆け寄る。

 

 

「うわーーん!! ズルイよティアだけなのはさんと仕事したり闇ギルドと戦ったり怪物戦ったりしてーー!! 私も行きたかったよーーっ!!」

 

 

「元はアンタが食べすぎでお腹壊したせいでしょうが!!」

 

 

「あ、あはは……大変ね…」

 

 

まるで駄々っ子のようにポカポカと殴ってくるスバルをうっとおしそうに怒鳴るティアナ。そしてそれを引きつった笑顔で見ているルーシィであった。

 

そうしている間に、ナツとエルザの戦いが始まろうとしていた。

 

 

「こうしておまえと魔法をぶつけ合うのは何年ぶりかな……」

 

 

「あの時はガキだった! 今は違うぞ!! 今日こそおまえに勝つ!!」

 

 

「私も本気でいかせてもらうぞ。久しぶりに自分の力を試したい。すべてをぶつけて来い!」

 

 

そう言うと、エルザは赤と黒を強調した鎧へと換装し、髪型もツインテールへと変化した。

 

 

「あれは『炎帝の鎧』!! 耐火能力を持った鎧じゃない!!」

 

 

「あれじゃナツの炎の威力が半減させられるよ!!」

 

 

「エルザさん……本気だね」

 

 

その鎧を見てティアナとスバル、そしてなのはが驚愕の言葉を口にする。

 

 

「炎帝の鎧かぁ…そうこなくちゃ。これで心おきなく全力が出せるぞ!!」

 

 

そう言ってナツは両手に炎を纏う。こちらも戦闘準備は万全のようだ。そしてナツとエルザは互いに睨み合い……

 

 

「始めいっ!!!」

 

 

マカロフの号令で動き出した。

 

 

ナツとエルザの戦いは最初こそエルザの圧勝かと思われたが、その予想に反して激しい攻防戦を繰り広げていた。

 

 

「すごい!!」

 

 

「頑張れー! ナツー!! ほらティアも!」

 

 

「べ、別にいいわよ……」

 

 

「な? いい勝負してるだろ?」

 

 

「どこが」

 

 

そして勝負が盛り上がってきたその時……

 

 

 

パアァン!!

 

 

 

と言う音が響き、全員が動きを止める。

 

 

「そこまでだ。全員その場を動くな。私は評議員の使者である」

 

 

現れたのは、評議員の使者と名乗るカエルであった。

 

 

「先日の鉄の森(アイゼンヴァルト)のテロ事件において、器物損壊罪、他11件の罪の容疑で……エルザ・スカーレットを逮捕する」

 

 

「え?」

 

 

「何だとおぉおっ!!!?」

 

 

突然のエルザ逮捕宣告にナツの怒声が響き渡ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十話

『最強の座』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エルザが逮捕されて数時間後、先ほどまで盛り上がっていた空気は既に無く、対照的に沈んだ空気がギルド内に漂っていた。

 

 

「出せっ!! オレをここから出せぇっ!!」

 

 

そんな空気の中、騒ぐ者が一人……いや、一匹。

 

 

「ナツ……うるさいわよ」

 

 

「出せーーーっ!!」

 

 

「出したら暴れるでしょ?」

 

 

「暴れねえよ!! つーか元に戻せよ!!!」

 

 

そこにはトカゲに姿を変えられ、コップの中に閉じ込められているナツの姿があった。

 

 

「ダメよ。出したらアンタ、エルザさんを助けに行こうとするでしょ?」

 

 

「しねえよ!! 誰がエルザなんかっ!!! いいから出せよティアナ!!」

 

 

ティアナの言葉に反論するナツ。

 

 

「今回ばかりは相手が評議員じゃ手の内ようがねえ……」

 

 

「出せーーっ!! オレは一言言ってやるんだーーっ!! 評議員だが何だか知らねえが、間違ってんのはあっちだろ!!!」

 

 

「そうは言うけどねナツ君。たとえ白でも、評議員が黒って言ったら黒になっちゃうんだよ」

 

 

「ウチらの言い分なんか聞くモンか」

 

 

「しっかしなぁ…今まで散々やってきた事が、何で今回に限って」

 

 

「ああ……理解に苦しむね」

 

 

「絶対……絶対何か裏があるんだわ」

 

 

メンバーが口々にそう言うと、突然スバルが勢いよく立ち上がる。

 

 

「それでもやっぱり放っておけないよっ!! 今からでも証言しに行こうよ!!」

 

 

「まあ…待て」

 

 

興奮するスバルをマカロフが止める。するとスバルの代わりにルーシィが口を開く。

 

 

「スバルの言う通りよ!! これは不当逮捕よ!! 判決が出てからじゃ間に合わない!!!」

 

 

「落ち着きなさい二人とも」

 

 

スバルとルーシィをティアナがなだめるように言う。

 

 

「今からではどれだけ急いでも判決には間に合わん」

 

 

「でも!!」

 

 

「出せーー!! オレを出せーー!!」

 

 

「本当に出してもいいのかしら?」

 

 

騒ぐナツにティアナがそう問い掛けると、ナツは急におとなしくなる。

 

 

「はぁ……やっぱりね」

 

 

「どうしたナツ。急に元気がなくなったな」

 

 

その反応を見たティアナは溜め息をつき、マカロフはニッと笑う。そして……

 

 

「かっ」

 

 

「ぎゃっ!!」

 

 

ナツに向かってマカロフが魔法をかけると、なんとナツだと思っていたトカゲはマカオへと姿を変えた。

 

 

「マカオ!!?」

 

 

「えーーーー!!?」

 

 

今までナツだと思っていたトカゲがマカオだったことに驚く一同。

 

 

「ま、マスターはともかく……なんでわかったんだよティアナ?」

 

 

「忘れたの?アイツは私のことを「ティア」って呼ぶのよ」

 

 

「あー……そう言えばそうだったな……」

 

 

やってしまったと言う表情をするマカオ。そして全員に向き直る。

 

 

「す…すまねえ……ナツには借りがあってよぉ。ナツに見せかけるために、自分でトカゲに変身したんだ」

 

 

「じゃあ本物ナツは!?」

 

 

「まさかエルザを追って…」

 

 

「と言うより…絶対にそうだよね」

 

 

「シャレになんねえぞ!! アイツなら評議員すら殴りそうだ!!!」

 

 

ナツがエルザを追って行ったという事実に騒然とするギルド内。

 

 

「全員黙っておれ。静かに判決を待てばよい」

 

 

だがマカロフのその言葉で、ギルド内は静まり返り、全員静かに判決のときを待ったのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

そして…翌日。

 

 

「やっぱりシャバの空気はうめえ! 最高にうめえっ!!! 自由ってすばらしいっ! フリーーダァーーーッム!!!」

 

 

「うるさいわよナツ!!!」

 

 

「うがっ」

 

 

大騒ぎしながら走り回るナツにティアナの鉄拳制裁が下る。

 

 

「結局〝形式だけ〟の逮捕だったなんてね……心配して損しちゃった」

 

 

「あはは……まぁ無事に帰ってきたんだからいいじゃないか」

 

 

うなだれるルーシィにユーノがそう声をかける。

 

そう。昨日のエルザ逮捕は形だけであり、評議会が秩序を守るためにしっかりと取り締まる姿勢を見せておかなければならないのだ。判決は有罪にはされるが罰は受けないので、逮捕されたエルザと裁判に殴りこみに行ったナツは今朝帰ってきたのである。

 

 

「…で、エルザと漢の勝負はどうなったんだよ、ナツ」

 

 

「漢?」

 

 

「そうだ、忘れてた!! エルザー!! この前の続きだーっ!!!」

 

 

「よせ…疲れているんだ」

 

 

エルフマンの一言で勝負のことを思い出したナツはエルザに再戦を挑むが、エルザは静かに食事をしている。

 

 

「行くぞーーーっ!!!」

 

 

だがそんなのはお構いなしにエルザに殴りかかるナツ。

 

 

「やれやれ」

 

 

そんなナツにエルザは溜め息をつきながら……

 

 

 

ゴンッ!!!

 

 

 

ハンマーの一振りをお見舞いした。それを喰らったナツは壁まで吹き飛ばされ、気絶した。

 

 

「しかたない、始めようか」

 

 

「終ーー了ーー!!!」

 

 

勝負が始まる前に、ナツの敗北が決定した。

 

 

「ぎゃはははっ!! だせーぞナツ!!!」

 

 

「あははっ!! 一発KOだね!!」

 

 

「あのバカは本当に……」

 

 

「にゃはは…やっぱりエルザさんは強いね」

 

 

「あ~あ…またお店壊しちゃってぇ」

 

 

その光景に大盛り上がりをするメンバー達。

 

 

「ふぬ…」

 

 

「どうしました?マスター」

 

 

「いや…眠い……奴じゃ」

 

 

マカロフがそう呟いた瞬間、ミラがカクンッと倒れて眠ってしまう。

 

 

「うっ…」

 

 

「これは!!」

 

 

「にゃっ……」

 

 

「くっ」

 

 

「眠っ」

 

 

ミラだけではなく、ギルド内に居た者が一斉に眠り始めてしまう。すると、ギルドに全身を覆い隠すような服装をした男性が現れる。

 

 

「ミストガン」

 

 

男性…ミストガンはゆっくりとリクエストボードに向かい、一通り眺めた後で一枚の依頼書を手に取る。

 

 

「行って来る」

 

 

「これっ!! 眠りの魔法を解かんかっ!!」

 

 

マカロフに依頼書を渡したあと、ミストガンは背を向ける。

 

 

「伍、四、参、弐、壱」

 

 

そう呟きながら、ミストガンがギルドから出て姿を消す。それと同時に眠っていた人たちが今度は一斉に目覚め始める。ナツは眠ったままだが……

 

 

「こ…この感じはミストガンか!?」

 

 

「あんにゃろうぉ!」

 

 

「相変わらず、スゲェ強力な眠りの魔法だ!」

 

 

目覚めた早々に騒然とするメンバーたち。

 

 

「ミストガン?」

 

 

「ふわぁ…妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強の男候補の一人だよ」

 

 

ルーシィの疑問にユーノが欠伸をしながら答えた。それに続いてなのはが口を開く。

 

 

「ミストガンさん、どういうわけか誰にも姿を見られたくないらしいの。だから仕事を取る時はいつもこうやって全員を眠らせちゃうの」

 

 

「何それっ!! 怪しすぎ!!」

 

 

「だからマスター以外、誰もミストガンの顔を知らねぇんだ」

 

 

「いんや…オレは知ってっぞ」

 

 

すると突然、ギルドの2階から声が響き、全員の視線がそちらを向く。

 

 

「ラクサス!」

 

 

「いたのか!」

 

 

「めずらしいなっ!」

 

 

そこには、金髪で耳にはイヤホンを当てているガラの悪そうな男、ラクサスが居た。

 

 

「もう一人の最強候補だ」

 

 

「私…あの人苦手だなぁ……」

 

 

ラクサスの姿を見たなのはは怪訝な顔をする。

 

 

「ミストガンはシャイなんだ。あんまり詮索してやるな」

 

 

「ラクサスー!! オレと勝負しろーーっ!!」

 

 

すると、ようやく目が覚めたナツがラクサスに勝負を挑む。

 

 

「ってアンタ!今エルザさんに負けたばっかりでしょ!!」

 

 

「そうそう。エルザごときに勝てねぇようじゃ、オレには勝てねぇよ」

 

 

「それはどういう意味だ?」

 

 

「え、エルザ…落ち着いて……」

 

 

ラクサスの言葉に反応したエルザをユーノが落ち着かせようとする。

 

 

「オレが最強ってことさ」

 

 

「降りてこい!!コノヤロウ!!!」

 

 

「お前が上がって来い」

 

 

「上等だ!!」

 

 

「待ちなさいナツ!! アンタはまだ……!!」

 

 

ティアナの静止も聞かず、怒り任せに2階に上がろうとするナツ。だが、マカロフが手を巨大化させ、ナツを押しつぶす形でそれを止めた。

 

 

「2階には上がってはならん。まだな」

 

 

「ふぬぅ…」

 

 

「ははっ!! 怒られてやんの」

 

 

そんなナツをバカにするように笑うラクサス。

 

 

 

「その位にしないか、ラクサス」

 

 

 

すると、また一人…2階から黒い衣服を纏った青年が姿を現した。

 

 

「あ?何だ居たのかクロスケ」

 

 

「クロスケじゃない…僕はクロノだ。それより、ナツをからかうのも大概にしておけ」

 

 

「はっ、オレに命令すんじゃねえよ! 妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強の座は誰にも渡さねぇよ。エルザにもミストガンにもクロスケにも、あのオヤジにもな。オレが…最強だ!!!」

 

 

そう言い残して、ラクサスはギルドを出て行った。2階に残ったクロノは、その様子を見て溜め息をついていた。

 

 

「ねえ、ユーノさん。あの人は?」

 

 

「……彼はクロノ・ハラオウン。三人目の最強候補だよ。認めたくないけど……」

 

 

ルーシィの質問にユーノは嫌悪感を現した表情で答える。すると、その会話を聞いていたのか、クロノがユーノに視線を向ける。

 

 

「何だ?僕の実力に文句でもあるのか? フェレットもどき」

 

 

「僕の名前はユーノだって何回言えば分かるんだこの腹黒」

 

 

「はっ、言ってろ…もどき」

 

 

そう言って睨み合うユーノとクロノ。

 

 

「な、何だかユーノさんが黒いんですけど……」

 

 

普段あまり見ないユーノの一面に、ルーシィは戸惑う。

 

 

「あの二人、昔っから犬猿の仲なんだよな」

 

 

「うん…ナツ君とグレイ並みに仲が悪いんだよね」

 

 

グレイとなのはがそう説明している間に、ユーノとクロノのいがみ合いは終了していた。

 

 

「悪いがこれから仕事だ。もどきに構っているヒマはない」

 

 

「さっさと行け腹黒」

 

 

そんな口論をしながら、クロノはギルドを出て、仕事に向かったのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

そんなひと騒動が終わったあと、ルーシィはカウンター席に座ってミラとティアナと会話をしていた。

 

 

「さっきマスターが言ってたでしょ? 2階には上がっちゃいけないってどういう意味ですか?」

 

 

「まだルーシィには早い話なんだけどね。2階のリクエストボードには1階とは比べものにならないくらい難しい仕事が貼ってあるの」

 

 

「S級の冒険(クエスト)がね」

 

 

「S級!!?」

 

 

そんなクエストがあることを知らなかったルーシィは驚愕する。

 

 

「一瞬の判断ミスが死を招くような危険な仕事よ。その分報酬もいいけどね」

 

 

「うわ…」

 

 

「S級の仕事はマスターに認められた魔導士しか受けられないの」

 

 

「今のところ資格があるのは…エルザさん、ラクサス、ミストガン、クロノさんを含めてまだ6人しかいないの。因みに、なのはさんもまだS級に行く資格を持ってないのよね」

 

 

「あの強いなのはさんでも受けられないなんて……」

 

 

「S級なんて目指すものじゃないわよ。本当に命がいくつあっても足りない仕事ばかりなんだから」

 

 

「みたいですね」

 

 

ミラの言葉に引きつった笑いで答えるルーシィ。

 

 

「でも、私は目指すわよ……兄さんの為に」

 

 

「え?」

 

 

「………ごちそうさま」

 

 

ティアナが言った言葉をルーシィが聞き返す前に、ティアナは席を立って出口へと歩いて行ってしまった。

 

 

「今の…どういうことなんですか?お兄さんがどうとか…」

 

 

ルーシィの質問に、ミラは少し迷った素振りを見せた後、ゆっくりと口を開いた。

 

 

「ティアナにはね、お兄さんが居たの。名前はティーダさん……S級にも通用する凄腕の魔導士だったんだけど…亡くなっちゃってね」

 

 

「亡くなった?」

 

 

「うん。仕事先から瀕死の状態で帰ってきて、そのまま……それ以来ティアナはお兄さんの跡を継ぐ為にS級を目指してるの」

 

 

「そうだったんだぁ……」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

その後、ギルドを後にしたルーシィは川沿いを歩いていた。

 

 

「ミストガンもラクサスも聞いたことある名前だったなぁ。やっぱ妖精の尻尾(フェアリーテイル)ってすごいギルドよね。だいたい妖精の尻尾(フェアリーテイル)内の力関係もわかってきたし……明日から仕事がんばろー!!」

 

 

そう言って意気揚々と家の中に入ると……

 

 

「おかえり」

 

 

「おかー」

 

 

「お邪魔してまーす」

 

 

何故か筋トレをしているナツとハッピー、そしてスバルの姿があった。

 

 

「きゃああああっ!!! 汗くさーい!!!」

 

 

「ふんごっ!!」

 

 

悲鳴を上げながらナツの腹部にドロップキックを叩き込むルーシィ。

 

 

「筋トレなんか自分家でやりなさいよ!!!」

 

 

「何言ってんだ。オレ達はチームだろ?」

 

 

「はいコレ、ルーシィの分」

 

 

そう言ってルーシィにピンク色の鉄アレイを渡すスバル。

 

 

「ルーシィピンク好きでしょ」

 

 

「それ以前に鉄アレイに興味ないですからっ!!!」

 

 

的外れな発言をするナツ達にツッコミを入れるルーシィ。

 

 

「オレ、決めたんだ」

 

 

「?」

 

 

すると、ナツは筋トレを中断し……

 

 

 

「S級クエスト行くぞ!!! ルーシィ」

 

 

 

そう言うと、ハッピーがS級と記された依頼書を広げて見せる。

 

 

「どーしたのよそれ!!」

 

 

それを見たルーシィの絶叫が響く。

 

 

「ちょっとどういうこと!!? 2階には上がっちゃいけないはずでしょ!!?」

 

 

「勝手に取ってきたんだ。オイラが」

 

 

「ドロボーネコーーー!!」

 

 

「あ、上手いこと言うねルーシィ」

 

 

ルーシィの言葉を聞いたスバルがケラケラと笑っている。

 

 

「笑ってる場合じゃないでしょ!? てゆーか、スバルも行くの!!?」

 

 

「もっちろん! だってそしたら……」

 

 

「そしたら?」

 

 

スバルは一呼吸置いて、再び口を開く。

 

 

 

「この前私を置いていった薄情なティアを見返せるもんね!!!」

 

 

 

「まだ根に持ってたーーーっ!!!」

 

 

意外と根に持つスバルにルーシィが叫ぶ。

 

 

「とりあえず初めてだからな。2階で一番安い仕事にしたんだ。それでも700万Jだぞ」

 

 

「ダメよ!! あたし達にはS級に行く資格はないのよ!」

 

 

「これが成功したらじっちゃんも認めてくれるだろ」

 

 

マフラーを巻きながら笑顔でそう言うナツ。

 

 

「本当にもう、いつもいつもメチャクチャなんだからなぁ。自分のギルドのルールくらい守りなさいよね」

 

 

「そしたらいつまでたっても2階に行けねえんだよ」

 

 

「とにかくあたしは行かない。三人でどうぞ」

 

 

ルーシィはキッパリと断る。

 

 

「〝島を救って欲しい〟って仕事だよ」

 

 

「行ってみようよ!!」

 

 

「島?」

 

 

すると、三人は怖い顔をしながら言った。

 

 

「「「呪われた島、ガルナ島」」」

 

 

「呪……!! 絶対行かないっ!!!」

 

 

それを聞いたルーシィは冷や汗を流しながら拒否する。

 

 

「魚半分あげてもついてこない?」

 

 

「全然嬉しくないし!!!」

 

 

「ちぇーっ!! じゃあ帰ろ」

 

 

「そうしよっか」

 

 

「あい」

 

 

「少しは頭冷やしなさいよねっ!! てゆーかドアから出てって!!!」

 

 

ナツ達は窓から出て行き、ルーシィの家を後にした。

 

 

「ふぅ…」

 

 

それを見送ったルーシィは一息つくが……

 

 

「あれーーっ!? 紙おきっぱなし!!?」

 

 

足元にS級クエストの依頼書が転がっていた。

 

 

「ちょっとぉ!! あたしが盗んだみたいじゃない!! どおしよぉぉ!!!……お?」

 

 

そう言って頭を抱えるルーシィだが、ふと依頼書に書かれている報酬の部分に目が行く。そこには……

 

 

報酬700万J+金の鍵

 

 

と書かれていた。

 

 

「ウッソォ!!? 黄道十二門の鍵がもらえるの!!?」

 

 

それを見たルーシィはしばらく考えたあと……

 

 

「ナツー!! スバルー!! ハッピー!! 待ってぇぇん♪」

 

 

三人の後を追ってS級クエストにへと向かったのであった。

 

 

 

 

 

 

つづく


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