欲望にはチュウジツに!   作:猫毛布

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同日に投稿しているので、ご注意ください(使命
いやー……絶望は強敵でしたね……


あとはエピローグとかをぱぱぱっと書いて終わり! 閉廷!

予約投稿をミスる投稿者のクズ


無名の悪の王様

 夏野穂次――いいや、無名のIS適合率の都合上、長期戦は不得手である。

 攻撃に当ってしまえば、ソコが削れたような幻痛が走るのだから、肉体的にも精神的にも損傷が生じない一夏達を相手取るのならば相手の攻撃に当たらずに、一方的に攻撃出来る位置取りに居るのが理想だ。

 抜いた刀を一度鞘へと戻し、鞘を盾へと変化させて、盾を弓へと変形し逃げながら撃ち続ける。長期戦になるが、無銘ならば継続戦闘を続けることは可能だ。

 ソレが正しい選択だろう。

 

 けれど無名は刀を鞘に戻す事なく、篠ノ之箒と剣戟を繰り広げていた。高速に移動を続け、ソレを追うように箒も移動しながらの攻防戦。単純にソレだけを見れば箒の方がやや優勢と言える。

 それを見ながら、顔を顰め続けていたのは他のメンバーだ。エネルギーの回復に努めている一夏はともかくとしてセシリアと鈴音とラウラはその戦闘を悪手だと知っていた。

 無名は常にセシリアと自分の間に箒を挟むように動いている。鈴音の攻撃が届かない程高速で動いている。ラウラのAICを警戒し続けている。

 そこまでの事をして、無名はようやく劣勢なのだ。剣戟を愉しんでいるのか、変わらずへらへらと笑みを浮かべていもいる。

 

「何故一夏を裏切ったッ」

「裏切ったつもりはねーですよー」

 

 繰り広げられている剣戟の合間に箒が叫ぶ。その問いにへらりと嗤いながらも無名は応える。裏切ってなどいない。無名は裏切ったつもりなど毛頭ない。

 頭に血が昇ったのか攻撃が甘くなり、空いた隙に無名は容易く刀を突き入れる。非固定浮遊武装に突き刺さった刀をそのまま横に薙ぎ払い()()した。

 呆気に取られた箒は一瞬でソレを理解して距離を素早く離した。

 箒との距離が離れた事で無名へと射撃の雨が降る。ソレも容易く、避けて、危険なモノは鞘に防がれていく。

 

「んー、時間があんま無いんですけどねー」

「お前の体質を考えるとそうだろうな」

「……ああ、勘違いしてんスねー」

 

 ラウラの一言に男は動きを停止させて一身に銃弾とエネルギー、更にはミサイルを受け止める。爆炎と煙に包まれながら、無名は煙を振り払い姿を現す。ドロリと彼の額から赤い液体が流れ、露出していた腕からも赤が滲み出ている。

 体質に間違いはない。そもそも無銘と完全に一体化した所で改善出来る体質ではない。男が否定したかったのはソレではない。

 

「攻撃なんて当たっても気にしねーッスよ。目的の為なら、俺なんてどーでもいいッス」

 

 へらりと口元を緩ませた男は額からにじみ出た液体をそのままに髪を掻き上げる。

 唖然とするしかなかった。誰だって、怪我はするのは嫌悪する。けれど、男はそうではない。人間として大切なネジを何処かに置いてきたのか、それとも彼にとって崇高な目的にとってソレは取るに足らない事なのか。

 息を飲み込んで停止してしまった少女達の前に織斑一夏がフワリと移動する。

 

「よぉ、相棒。エネルギーの貯蔵は完璧か?」

「……ああ、親友。お前を止める程度には、な。お前も十分回復しただろ?」

「ハハッ、やっぱり気付かれてたか」

 

 ニヤリと笑う男の左腕――鞘が息吹を上げる。黒の粒子を盛大に吐き出して、十二分に貯蔵がある事を示す。

 二人の視線がかち合う。どうしてか、両者とも死ぬ可能性を孕みながらも、口元には笑みが浮かべられていた。

 

「俺が勝つぞ、()()

「お前が負けるさ、()()

 

 いつもの軽口のような気軽さを出しながら、一夏と無名は構える。――動いたのは同時であった。

 白い極光と無銘刀がぶつかる。

 無銘刀――対戦乙女ISの武装。その称号を冠した者は一人しか居らず、因果の如く同じ特性が白式に顕れている。だからこそ、無銘はその牙を剥き出しにする。

 黒の粒子が刀身から溢れ、白を侵食していく。極光はソレを覆すように更に輝きを増し、一夏はスグさま身を引く。

 

「それが――無銘の単一仕様能力か」

「正確には違うけどな。大体の攻撃に対処出来る無銘が唯一専用の機能を持ってるのがこれッスよ」

 

 刀身から溢れでた粒子を大きく振り払う。

 零落白夜を無効化している訳ではない、むしろ正しく零落白夜は起動していた。起動していたからこそ、無銘の能力が発動してしまう。

 普段よりも()()()消費してしまったエネルギーを確認して一夏は眉を顰める。無効化ではなくて助長させる能力。故に諸刃の剣が自身に牙を剥いてしまう。

 

「厄介だな」

「人体には直ちに影響はないから。俺の虚脱感スゲーけど」

 

 へらりと笑った無名は一歩後ろへ跳ぶ。同時に不可視の鉄槌が上空から振り下ろされた。

 

「なんだ、コレは避けるんじゃない」

「許容できる痛みを凌駕するのはちょっと……」

「超えたらアンタは気絶するぐらいでしょ。死んでも死にそうにないし」

「えぇ……ほら、一夏はどうでもいいけど、もっとさ『穂次を攻撃したら穂次が傷ついちゃうっ! でも攻撃しないと穂次を止めれない! アタシ困っちゃうッ』みたいな思考してもらってイイッスかね」

「アンタをぶっ倒して、そのあと生身でボコボコにすれば問題無しッ!」

「…………ま、どうせ当たらないからいいけどさ。そもそも一対多は無銘の領分だし」

 

 鈴音の開き直り方に戸惑いを隠すこともせずに、どうにか取り繕うように溜め息を吐き出した男は、ふむ、と一人唸った。

 

「それに――一人ぐらい落とした方が一夏もやる気になるよな?」

 

 ニタリと笑んだ無名が一歩を踏み出す。一夏をすり抜けて、その奥にいる鈴音へと迫り無銘刀を突き出す。

 双天牙月を巧みに操り、その鋒を逸らした鈴音。その瞳に映るのは変わらず嗤っている男の顔だった。

 無銘刀の鍔を左手で擦り、量子変換された棒が――柄が左手に握られる。荒々しく吐き出された黒い粒子が鈴音の視界を染め上げる。

 

「んじゃ、ご苦労サン」

「ッ」

 

 容易く振りぬかれた"鬼の爪"。同時に鈴音の身体が横にズレる。何かによって押し出され、そしてその押し出した本人は黒の粒子に包み込まれた。

 水色の髪を揺らしながら落下していく少女。僅かに身体に残る粒子がその軌跡を描いていく。

 

「ッンタねぇ!」

「ありゃ、簪さんだったか……うーん、戦力的に鈴音さんは落としたかったけど、まあ後ろで狙われる可能性は減ったからいっか」

 

 激高した鈴音はスグに血の気が引いていく。誰だ、誰だこの男は。少なくとも知っている男ではない。知っていた男はそんな事を言わない。言ったとしても戦力的、という言葉が胸囲的という言葉になっていた筈だ。

 ようやく、鈴音は怖くなった。へらりと笑いながら、何の感情の起伏もなくソレをやり遂げた男に恐怖した。

 

()()ッ! コレなら外さないでしょ!?」

 

 鈴音に気を取られていた穂次の背後にシャルロットが近寄り、灰色の鱗殻を構える。

 構えたソレを撃とうと、シャルロットは指に力を入れる。男がへらりと笑いながら振り返って、躊躇してしまった。

 

「ん、まだまだ甘いッスよ」

 

 腕を掴みあげて、灰色の鱗殻を逸らした男は情けなく笑いながらもシャルロットへと視線を合わせた。泣きそうになっているシャルロットを見ながら、男の口は嗤いに歪む。

 

「ああ、()()()()()()()()()なんて、とってもイイじゃないかッ……! でも、もう必要じゃないよ」

「シャルロットッ」

「ラウラさんも、甘い」

 

 シャルロットをラウラへと投げ飛ばし、穂次は溜め息を吐き出し、視線を地面へと向ける。

 水色の少女を隣に居た山田先生へと渡した存在が居た。黒い髪が揺れ、桜色のISを纏う存在。

 

「ああ、惜しい。実に惜しい……。予定より早くないッスか? 織斑先生」

「阿呆が……誰が好き好んでお前の予定に合わせねばならん」

 

 織斑千冬がソコには居た。

 苛立ちを隠す事もせずに、刀を抜くこともせずにただ真っ直ぐに織斑千冬は名も無い男を睨んだ。

 

「投降しろ」

「残念ながら。何ならココで一戦します?」

 

 へらりと嗤う男は千冬の提案を容易く斬り捨てて、挑発する。その挑発にピクリと眉を動かした千冬は更に睨みを強くする。

 

「冗談ッスよ。ココで戦って損するのはソッチでしょうに」

「お前程度に勝てないと思っているのか?」

「少なくとも、一夏の頸は刈り取る自信はありますよ」

 

 チリチリと肌を焦がすような空気に支配される。ドチラが動くこともなく、ただ睨み合っているだけだというのに。

 千冬が無名に勝つ事は可能だろう。ソレが一夏達を守りながらとなれば話は変わってしまう。何より、一夏達の命と無名の確保、ドチラが大事かなど天秤を使う意味もない。

 

「…………勝手にしろ、阿呆」

「どーも」

「待てよ()()

「待てねーよ。信仰してる神様のお告げに従って、俺は世界を征服してやるよ。……それと、お二人さん。()()()()()()()()。もう俺に構わなくてもいいッスよ」

 

 へらりと笑った無名はセシリアとシャルロットにソレだけを言い残し、バリアを切断して飛び去った。

 無力感に苛まれている一夏達に対して千冬は溜め息を吐き出してしまう。

 

「ラウラ、アレの行方を追跡しておけ……どうせ逃げられると思うがな」

「わかりました、教官」

「……まあいい。さて、お前達。わかっているとは思うが、この事は緘口令が布かれる。何も口にするな」

「……千冬姉、穂次は本当に」

「……私の落ち度でもある。あまり考えすぎるな」

 

 深く溜め息を吐き出した千冬は頭を振り、頭を切り替えてセシリアとシャルロットへと視線を合わせる。

 

「デュノア、オルコット。お前達は軟禁させてもらう」

「なっ!? なんでだよ、千冬姉!」

「アイツと恋人関係だったのだろう。十二分に情報を持っている可能性がある。わかってくれるな?」

「……わかりました」

「山田先生、お願いします」

 

 二人を山田先生へと受け渡した千冬は改めて一夏達へと視線を向ける。

 

「お前達からも話は聞くが……少し時間を置こう。私も少し疲れた」

 

 疲労の色を見せながら、千冬は大きく息を吐き出して空を見上げた。どうしようもない快晴が千冬の視界を埋め尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 IS学園の制服を纏った男は地下のレストランに立っていた。その後ろに控えていたクロエ・クロニクルは静かに瞼を閉じている。

 

「やっと来たのね、セカンド……いいえ、無名と呼んだ方がいいのかしら?」

「お好きにどーぞ」

 

 上座に座っていたスコールの言葉に男はへらりと笑いながら応えた。

 

「ハッ、オメェも負けたんだってな!」

「ああ、無様にラウラさんから撤退したオータムと違って俺は織斑千冬から華麗なる撤退をしたけどなッ!」

「ぶっ殺す!」

「返り討ちッスよ!」

「やめなさい」

 

 売り言葉に買い言葉と言うべきか、スコールの一言で停止した二人は威嚇なのか唸り声を少しだけ上げた。

 その様子に呆れるように息を吐き出したエムは机をコツコツと指で叩いた。

 

「ほらほらぁ、まどっちが苛ついてるよォ、ムメー君」

「おっとコレは失礼。つーか、篠ノ之博士も居たんスね」

「そりゃぁ歴史に書かれない舞台の裏側なんて、特に私が主導じゃないなんて滅多に見れないからねッ」

「お、おう……まあいいッスけど」

 

 キュルルン、なんて効果音が付きそうなウィンクをされた無名は少しばかりドギマギして、心を落ち着けてから一歩を踏み出す。

 胸から掛けられた小さなチェーンに通された二つのシルバーリングが音を鳴らしながら揺れる。その音を耳にしながら無名はスコールの隣へと足を進める。

 

「それじゃあ、()()()()

「ええ」

 

 立ち上がったスコールが椅子を引き、その椅子に無名が座った。

 上座へと座った男へと視線が集まり、男は変わらずにへらりと笑ってみせた。

 

「コレは喜劇の為の第一歩だ。

 では、諸君。()()の為に()()を始めよう」

 

 無名の一言にスコールと束は笑みを深める。

 まるで悪の王様のように、無名はニタリと笑ってみせた。




>>無名の悪の王様
 スコールの代わりに上座に座った時点でお察し。

>>束「私が主導じゃないなんて滅多にない」
 普段は暗躍してるって事ですかね……。

>>無銘刀
 名前無しの刀。名前なんて必要ねーんだよッ!
 単純に斬れ味の良すぎる刀。IS装甲でもばっさばっさデス。対暮桜……戦乙女用に零落白夜を過剰反応させるエネルギーを放出します。それだけ。

>>「投降しろ」
穂次「確かに投降した方が身のためだろう。何より目の前には世界最強とその部下と弟がいる。俺の負けは明々白々だ……だが断るッ!」
簪「言いたいだけ?」
穂次「ああ!」

>>神様のお告げに従って~
 確か穂次が信仰している神様について書いたような記憶がある。そこから適当に文章拾ってくれば、なんとなく穂次の言ってる事がわかります。

>>チッフ「私の落ち度やな」
 ファッキューチッフ。

>>本編シリアスなのにアトガキはシリアルですね
 そうだよ(迫真
 そもそも本編もシリアルだから多少はね? 牛乳を入れなきゃ。




>>忘れてた事
 エピローグ書けば完結です(恍惚
 エピローグは……いつ書き上がるんですかね(白目 

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